【第04回】“アンチ天才”のボトムズ流仕事術

考えるヤツは、ムダにキレない

“アンチ天才”のボトムズ流仕事術
2007年9月20日(木) 渡辺由美⼦

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―― ⾃分は「数字」「競争」だけで勝ち残ることで幸せになれないタイプだ、と気づいたとしますよね。イチバンというより、味で勝負してみたい、と。ところがそういう考え⽅が、所属する組織に合わなかったとする。これはもう会社に居づらいな、となったら…。

⾼橋 まず、組織の中で「⾃分の⽴ち位置」を考えるって、ものすごく必要なことだと思うんですよ。そうすると、⼊った会社をすぐに辞めたいとは思わなくなるんですね。 

―― そうなんですか?

高橋良輔,ボトムズ,サンライズ,矢立文庫
「現場監督」 ⾼橋良輔⽒ (写真:⼤槻 純⼀、以下同)

⾼橋 会社の中に、「それが正しい」という1つのルール、権⼒があって、⾃分の考え⽅に合わないことをがっと⾔われる、押しつけられるといったときがありますよね。そんなときにすぐに「やりたくありません︕」と⾔ってぱっと会社を辞めてしまうとか、社会通念で⾔うところの反論以上の反撃をするというのは、ちょっと損してると思うんだよね。

―― そうかもしれませんが、やはり上から強烈な押しつけがあると、ついカッとなって、過激なアクションを起こしてしまうことはあるのではないかと。

⾼橋 カッとなるのは、我慢をしないから。あのね、「我慢するというのは、考えること」だと思うんです。これはつまり、我慢が利かないということは、その⼈が考える努⼒を放棄している、ということなんですよね。

―― 「我慢」と「考えること」が同じなんですか? むしろ、⾃分で考えることを放棄して、ひたすら耐え続けるのが我慢というイメージがありますが。

⾼橋 ヤクザ映画ってありますよね。あそこに出てくる⾼倉健さんと、チンピラの違いってなんだと思いますか。

―― うーん……。格好良さ、とか…。

「我慢することは、考えること」とは

⾼橋 (笑)。

 健さんが

「死んでもらいます」

 と⾔うときには、ものすごく我慢した後なんですよ。

 ところがチンピラは、すぐに「なめんじゃねえ、バカヤロウ」とつっかかる。あれがキレるということです。そこには考えがない。

 我慢というのは耐え続けることそのものじゃなくて、その間ずっと「本当にこれで良いのか」と考え続けることなんですね。

―― なるほど。健さんは我慢をしている間、状況に耐えているだけではなくて「検証」をしているんですね。

⾼橋 だから、あなたはチンピラですか、健さんですか、という。

 よくキレるというのは、考えた結果キレているんじゃないですね。考える⼒がなくなれば、我慢が利かなくなる。考えた結果、我慢する必要がないというところに⾄れば、何らかの⾏動が必要ですけれども、そうじゃなくて、脊髄反射しちゃうのでは考えていないですね。

―― 健さんとチンピラを、⾃分に置き換えてみると……。

⾼橋 会社というのは、辞めるか辞めないかの⼆択しかないわけではないと思うんですよ。

 ⾃分が置かれている状況を、どの「幅」の中で許容するか。そういう思考をした⽅がいいと思うんだよね。⼈間関係だって、この⼈とのつき合いはどこまでの幅なら楽しいか、どこまで近づけばうざったくなるかを考えるでしょう。会社も同じ。

―― 許容できる幅……ですか。

⾼橋 ⾃我だけを通すのも、会社の⾔い分を全部受け⼊れるのもどっちも違うんじゃないか、そう思うわけです。

 本当は⾃分の中にだって、0か100か、⽩⿊だけでは計れないグレーゾーンがいっぱいあるんですよ。

 グレーゾーンがある、ということが、頭の中で明確に意識されていないから、⽇常⽣活でも⽩⿊はっきりつけたい、という気持ちになっちゃう。考えることが苦痛な体質になっちゃうと、難しいですけどね。それでも、ちょっと考えることが必要だと思うんですね、⾃分の頭で。

 会社でこの⼈が⾃分に何を⾔っているか、これだけ⾔う後ろには何があるか、と考えると、少なくとも、それが我慢の本質ではないかもしれないけれども、そこにクッションが⼊ると思うんですね。

 クッションの幅がない、考える余地がない、ということが、我慢が利かないということだと思うんです。

 グレーな世界の中で、⾊が薄いには薄い理由があるし、濃過ぎるには濃過ぎる理由があるから、その理由を考えれば、少なくとも辞めるか辞めないかの⼆択にはならない。

―― 会社の⾔っていることを、⾃分はどこまでの幅までなら許容できるかを、細かく考えていくと。

⾃分の⽴ち位置を、3つほど⽤意しよう

高橋良輔,ボトムズ,インタビュー,サンライズ,矢立文庫
⾼橋良輔⽒

高橋 あと、僕は、個⼈の⽴ち位置というのは3つぐらいあってもいいんじゃないかなと思っているんですよ。

 「⾃分と会社」だけじゃなくて。ダブルスタンダードと⾔うと⾔葉が悪いけど、「⾃分の個⼈的な価値観」と「会社的な価値観」と「社会とのつながりの中での価値観」というのと。

―― 「⾃分と会社」だけを考えると、会社が変わらない限り不満が残るから、⽴ち位置を複数持とう、ということですか。……例えば監督は、現在、サンライズの中でどんな⽴場でいらっしゃるのでしょうか。

高橋 あんまり明確に決めていないんだけど、僕はサンライズの企画部員で、企画の嘱託みたいなところがありますね。何となく組織を離れないで⾏ったり来たりしながら、外の会社でも仕事をするけど、中でも仕事をするという。

―― 会社を⾏き来しながらフリー、という⽴場になるのでしょうか。普通の会社員の⼈から⾒ると不思議な⽴ち位置ですよね。

 ただ、「⽴ち位置を獲得するには、実績がいるんじゃないか︖」という反論も出そうですね。許容の幅を持つという前提があるとしても、会社の中で、⾃分のやりたいことができないという環境にある⼈は、かなり多いと思うんです。

高橋 そうですよね。アニメーションも同じなんですよ。クリエイティブな仕事と⾔っても、⼩説や漫画とかと違って集団作業ですから。組織の中でやりたいことを通す難しさは、普通の会社と同じですよ。

―― ああ、アニメの仕事でも、やりたいことがすぐにできるわけではないんですね。

高橋 でも、活路はあるんです。

 実は、「ボトムズ」の新作(ペールゼン・ファイルズ)も、最初は難航していたんですよ。

―― えっ、そうなんですか︖ 有名な作品だから、何の問題もなく企画が通ったのかと思っていました。

高橋 じゃあ、「ボトムズ」の現場にいるインタラクティブの塚⽥君も呼びましょう。

(次回に続く)


※本連載は、2007年に公開されたインタビューのリバイバル掲載になります。 


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