【第12回】“アンチ天才”のボトムズ流仕事術

今いる会社の辞め時、見切り時

今⽇から始める「敗者復活」~“アンチ天才”のボトムズ流仕事術・2
2008年9⽉3⽇(水) 渡辺由美⼦

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―― 先ほど、安定した会社を“発作的に”辞めてしまったとおっしゃっていた監督ですが、今も会社を早くに辞めてしまう⼈が多いですよね。……ライターになるまでに3回も会社を辞めた⼈間が⾔うのも何ですが(苦笑)。

担当編集・Y 今の若い⼈は、「成⻑の実感」と「ロールモデル」がないとすぐに会社を⾒切る、と⾔われます。どうなんでしょうね。そんなにすぐに働きがいとか⽬標が⼿に⼊るわけはない、と⾔っても「待てば⼿に⼊る保証があるの?」とか切り返されるのかな。

―― でも、今いる会社で幸せが感じられなかったら……例えば、よくある⾔葉で⾔えば、「収⼊」とか「やりがい」とか「より上の役職に就く」とか、⾃分が望む⾯で満⾜できなかったら、転職もやっぱり考えに⼊れて良いんじゃないでしょうか?

⾼橋 そういうときこそ「判断」が必要だと思うんですよ。「反応」ではなくて。

 例えば、会社に⼊ったばかりの新⼈で、上司に怒られてすぐに辞めちゃう⼈がいるでしょう。

―― はい。

⾼橋 会社を辞めるのもそうですが、何かについて選択肢から選んで決断に⾄るまでには、「反応」と「判断」があると思うんですよ。「反応」というのは、脊髄反射に近い感覚的なものですね。例えば、会社に⼊りました、ばんと怒られてぱっと辞めちゃう。そういうのは反応でしょう。

 反応したらダメだ、というんじゃないですよ。⼈間というのは反応しちゃう⽣き物で、また反応しないとだめなんだけど、反応“だけ”だとだめなような気がするんですよ。「判断」がないと。

―― 「反応」と「判断」の違いは何でしょう。

⾼橋 会社でガツンと怒られたとして、ああ怖い、腹が⽴つ、悔しい、と思って、もう⾏くのが嫌になっちゃって何⽇かしたら辞表を郵送するというのは、「反応」しちゃったというだけであって。

 ⼀⽅で、「ああそうか、この会社ではこういうことをすると、ああいう怒り⽅をされるんだな、それについては、俺は嫌だな」というのは「判断」だと思うんです。

―― 以前おっしゃっていた「我慢することは、考えること」ですね。つまり「判断」というのは、⾃分が何か会社に対して嫌な思いを感じたら、その感情という「反応」がわき起こった理由を考えてみる、ということですか。

⾼橋 そうですね。⾃分の中で嫌だと思った理由と、会社側が⾃分を怒ったロジックの両⽅ですね。

「会社にとって、⾃分はどう⾒えているのか」


⾼橋 「判断」というのは、「⾃分にとってこの会社はどうなのか」、「⼊った会社にとって⾃分はどうなのか」……⾃分から⾒た会社、会社から⾒た⾃分という両⽅から⾒ることで、初めてできると思うんですよ。

―― ああ、「会社にとって⾃分はどうなのか」までは、考えがあまり及ばなかったです(苦笑)。

⾼橋 判断する期間も、会社にいた時間の⻑さ、たとえば三⽇、三⽉、三年でそれぞれにあると思うんですよ。たとえ三⽇でも、⽪膚感覚でできる判断もあるんですよ。さっきの「ああいう怒り⽅をされるのは俺は嫌だな」というのも「判断」で。でもたかが三⽇の判断ですけどね。

 会社に三⽉いれば、⾃分の環境がもう少し分かってきますよね。三年も居れば、会社に居続けるか辞めるか、⼤概の結論は出ると思います。それはもう、「⾃分にとって会社はどうなのか」だけでなく、「会社にとって⾃分はどうなのか」ということもはっきり分かってくる。

―― 「⾃分にとって会社はどうなのか」というのは、どんな基準で⾒れば良いでしょうか。

⾼橋 これは、⾃分から⾒た会社の評価、⾃分がその会社に合うかどうかですけど。例えば、⾃分で⾚だと思っていることを、会社側も⾚だと⾔ったときは、双⽅の価値観が⼀致するわけです。

 でも会社が⾚ではないと⾔った時、その評価に⾃分を慣らせるのならいいけど、慣らせなかったら、三年経ったら辞めた⽅がいいですよね。そこは⾃分の棲む⽔じゃないということで。

 三⽇と三⽉は、ほとんどその会社を分かるためであって、「会社にとって⾃分はどうなのか」が分かるところまでは⾏かないですよね。

Y ⾔い換えると、「会社にとっての⾃分」がきちんと⾒えるまでは居た⽅がいい、ということになりますね。

―― 三年も居れば、「会社から⾒た⾃分の評価」が分かると。それがわかるとどんなメリットがありますか。

⾼橋 ⾃分がその会社に居ることが、将来的にプラスになるかどうかが分かります。会社が⾃分をあまり評価していないにもかかわらず、その打開策もないのに会社に居続けるというのは、時間を無駄にするばっかりですからね。会社が「お前は兵隊さん」と⾔ってるのに、俺は尉官にもなりたいし、佐官にもなりたいよなんて思ってる⼈は、それはぶつぶつと不満がわいてくると思う。

 だから、会社にとっての⾃分の評価が正しいと容認できるならいてもいいけれども、合わないなら辞めた⽅がいいですね。

―― 実はもしかしたら、「合わないと思っても“我慢”して、同じところで頑張り続けるのが⼤事」といったお話になるのかな、と思っていました。でも監督は、会社での⾃分の評価が納得できない場合は辞める選択肢もあるとおっしゃる。

⾼橋 僕の⾔う「我慢」というのは、⾃分の頭で考えて判断をすることですからね。やみくもに苦痛に耐えることとは違うんですよ。

―― そうなると、転職して新しい会社に⼊って、そこでも評価が納得できなかったら、⾃分に⾼い評価を与えてくれる会社をいつまでも探し続ける、そんな危険性もありますよね。

⾼橋 それはやっぱり、会社が勝⼿に決めている「100点の呪縛」を受けていて、無意識のうちに(会社の評価基準を⾃分の)ゴールにしているんですよ。会社は当然⾃分が望むようには評価してくれないから、⾃分への評価にいつまでも納得できなくて、転職をただ繰り返すことになるんですよ。

Y いつまで経っても尉官にも佐官にもなれず、「負け感」にとらわれてしまう、敗者スパイラルに陥りそうですね。

高橋良輔,ボトムズ,サンライズ,矢立文庫
高橋良輔氏(写真:大槻純一)

⾼橋 でね、そういう⼈はたいていの場合、⾃分の⼒量に対する評価が⾼すぎるんですよ。僕なんかも、⾃分がふてくされていた時期が⻑かったんだけど(苦笑)。

 会社から評価してもらえないと感じると、どうせやっても意味がないと思って仕事をやらなくなる。すると、ますます評価をしてもらえないから、ますますふてくされる。「こなしているだけの仕事なんかやる必要がないんだ」って。そう⾔ってサボる。サボっているから、当然悪い評判も出ます。それでますますくすぶるわけです(「まわりが“天才だらけ”の中で、どう⽣き延びる︖」参照)。

―― ネットなどでも、「給料も上がらないし、⾯⽩いことが何⼀つできない。会社は⾃分に対して何もしてくれない。だから、働くだけ損」という声をよく聞きます。「会社が何もしてくれない」と感じるのは、結局は「会社は⾃分の⼒量をちゃんと⾼く評価してくれない」ということなんですか。

⾃⼰評価をどう適正にもっていくか?


Y うわー。そういう⼈はいっぱいいそう。俺もう諦めてるけど。

―― Yさん、それは誰だって、⾃分の評価が⾼くあって欲しいと思いますよ。問題は、会社から⾒た評価が低かったときにどうするかですよ。

⾼橋 だから、⾃分の⼒量を冷静に計ることが必要だと思うんです。⾼すぎず、低すぎず、冷静に。

 ⾃分が何に向いているか、何が不得意なのか。その場所において、⾃分は何をやるか、会社は⾃分にどんな能⼒を求めているかということをシンプルに考えた⽅がいいですね。アニメーションを作るのであれば、⾃分の適性はどこにあるか。プロデューサーなのか、ディレクターなのか、絵描きなのか。そうすれば、⾃分に合う会社がわかってくる。

サンライズ・塚⽥ 僕も経験があります。学⽣時代にサンライズに来て仕事をし始めたときは、僕は絵が描きたかったんですね。だけど、同期のみんながすごく上⼿かったんですよ。同期にアドバイスされたんですよ、「1⽇100枚描けば上⼿くなるよ」って。でも僕には1⽇に100枚描くことができなかった。

 すごいのは、みんな、描いている最中が苦じゃないんですよ。しかも1枚の絵を仕上げるために何が必要か考えながら描いている。あれはもう絶対に⾃分はかなわないと思いました。それで絵は早々にあきらめて、企画の仕事に⾏ったんです。

―― 逆に⾔えば、塚⽥さんにとっては企画の仕事が「棲む⽔」だったんですね。会社が求める能⼒が、⾃分が楽しいと思えることにより近ければ、実⼒をつけようと努⼒ができますね。

⾼橋 そして、⾃分の能⼒と、属する組織との関係というのは、よく⾒れば分かるはずなんですよね。⾒たくなくても、よく⾒れば絶対⾒えるはずですよ。

Y それは「敗者復活戦」へのしっかりした⾜がかりになりそうです。

―― で、組織との関係の中には、当然「その組織内での⾃分への評価」も⼊るわけですよね。…知りたいような⾒たくないような。次回はそのお話をお聞きします。

(次回に続く)


※本連載は、2008年に公開されたインタビューのリバイバル掲載になります。 


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