【第17回】“アンチ天才”のボトムズ流仕事術【最終回】

【最終回】一兵卒として生きて悔いなし

今⽇から始める「敗者復活」~“アンチ天才”のボトムズ流仕事術・2
2008年10⽉22⽇(水) 渡辺由美⼦

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―― 監督の新作「ペールゼン・ファイルズ」、戦場のリアリティあふれるハードな物語ですね。「装甲騎兵ボトムズ」の少し前に相当するお話で、謎の理由で集められた主⼈公のキリコ以下、5⼈の⾒ず知らずの兵⼠が特殊部隊として編成され、戦場に放り込まれるという。

 物語序盤からすごいのは、この5⼈が同じミッションをこなすチームなのに、全く「仲間」ではないことです。キリコ以外のメンバーは、協⼒し合うどころか、⾃分が助かるために他のメンバーを平気で犠牲にしようとしたりする。

 そんな⼈間ばかりが集められた部隊で、⽣還の可能性が極めて低い危険な任務を命じられるわけですが……「ペールゼン」ではどうしてこのような状況を作られたのですか。

⽋陥が⽣き残りのカギだった


⾼橋 いや、僕は、過酷な戦場を作ろうと思ったわけではないんですけれども、戦場は過酷なんでしょう、きっとね。僕たちがそう思っても思わなくても、戦場というものはきっと過酷なんだろうと。

 「ペールゼン・ファイルズ」では、「ATが戦場にいる⾵景」と、「キリコのような特殊な属性を持った⼈間を他にも出してみる」ということをやりたかったんですね。戦場では当然⽣き残り合戦みたいなことがありますから、キリコと同じような兵⼠を4⼈出したら、キリコも勝⼿な奴なんだから、きっと他もみんな勝⼿な奴らなんだろうと。

―― 監督がおっしゃる「勝⼿な奴ら」というのは、どんな勝⼿さなんでしょうか。

⾼橋 ⼀⼈⼀⼈⽋陥が多いんですね。そして物語では、その彼らの⽋陥が逆に、その⼈間を戦場で⽣き永らえさせてきたんだ、と。

 じゃあ、その⽋陥の多い⼈間たちがどういうふうに1つの部隊としてまとまっていって、最後はどうなるのかということを⾒せる話にしようかというのを、脚本の吉川惣司さんと相談したんですね。

―― 「⽋陥」と⾔えば、確かにキリコは特殊な⽣い⽴ちもあり、⼈間としてはちょっと⽋落したところがあって、他⼈とのコミュニケーションを⾃分からはほとんど取らないキャラクターでしたね。TVシリーズでも、「仲間か、何やら照れくさい」というセリフにたどり着くまでに相当かかっていましたし。

 それが、「⽋陥が、逆にその⼈間を戦場で⽣き永らえさせてきた」と。⽋陥が多い⼈間が⽣き残るんですか。

⾼橋 そうですね、この話の中ではそうですね。

―― そこがすごく⾯⽩いですよね。完璧な⼈間が⽣き残るんじゃなくて、⽋陥が多い⼈間が⽣き残るのだと。

⾼橋 物語の結論としてどうなるかは置いておいてね。

 でも僕らが戦争映画で⾒てきた戦争というのは、⽣き残る兵⼠ってみんな⽋陥が多いんですよ。だからそういうことが僕の中にはイメージとして残っているんじゃないでしょうかね。

⽣まれちゃったら⽣きなきゃしょうがない、と思えない悲劇


―― 今の世の中では、どちらかというと、「⽋陥の少ない⼈間だけが⽣き残る」というふうに⾒えるんです。⾃分の弱点を相⼿に⾒せていく(「8:弱点という“呼び⽔”をうまく使おうよ」)というお話がありましたが、社会不安が増しているこの世の中では、やはり⽋点は少ない⽅が、⾟い思いをすることが少なく、うまく⽣きられるのだろうなという。戦場の兵⼠が「⽋陥が多いからこそ⽣き残る」というのは、どんな理由からなんでしょう。

⾼橋 実を⾔うと、「ペールゼン」では、キリコたちが「⽣きようと意識して、⾏動している」ふうには描いてないんですよね。

高橋良輔,ボトムズ,サンライズ,矢立文庫
高橋良輔氏(写真:大槻純一、以下同)

⾼橋 ⽣きようと意識すること⾃体が不⾃然な感じがするんですよ。そんなのは意識しないものだと思っているわけですよ、⼈間、⽣まれてしまえば。

 ところが、今の時代はそういうことを意識させ過ぎるんじゃないかなと。よりよく⽣きろとか、個性的に⽣きろとか、賢い⼈⽣を選ぶべきだとか。本来はそんなのじゃなくて、⽣まれちゃったら⽣きなきゃしょうがないんですもん。

 だから「⽋陥を持っているから⽣き残れる」というよりは、⽣きなきゃしょうがない、と。彼らにとってみると、⽣きる意味とかいうのは、そんなに突き詰めて考えてないと思うんですよ。⾃然と、⽣き延びることをとっさの瞬間に選択していっているんだと思うんですね。それは彼らの責任じゃなくて、⽣き延びるということは、もう命を与えられたところから当たり前のことですからね。

―― そういう原始的な衝動のようなものが、今の私たちはないですね。⽣きる権利がまず社会や国から保障されているところから始まっていて、焦点は、その先をいかに⽣きるか、ということに合っている。でもそれを意識し過ぎると、「⾃分はこの部分が⼈より劣っているから、頑張っても仕⽅がない」と思ってしまうという。

池波正太郎も、ジャン・ギャバンも


⾼橋 そうなのかもしれないんだけどね。池波正太郎という作家がね、しょせん⼈間というのは、座って、⾷べて、寝てというだけの存在だと。⽣きるというのはそれ以上でもそれ以下でもないんだと。彼が好きなジャン・ギャバンというフランスの名優も、やっぱり同じことを⾔っているんだね。しょせん、今⽇⾷べたものがおいしいとか、明⽇はいい天気だとかということが、⽣きていることなんだと。それは僕は何となく共感できるんですよね。

―― 監督は、なぜ⽋陥の多い⼈間が⽣きのびようとする物語を描きたいと思ったのですか。

⾼橋 そうですね、ごく普通に物語を作る⽅法論から⾔っても、優等⽣を⾯⽩く⾒せるというのはかえって難しいですよね。あと、どうしてでしょうね。やっぱり⾃分が⽋陥が多いからかな(笑)。まあ、僕はやっぱり⽋陥が多いと思いますよ。

 それに僕は司令官の⼼情というのはあまり分からないですからね。⼀兵⼠のレベルになると、だいたい⾃分の⽇常ですから、ちょっと⾃分を卑劣にすればあんなヤツになるかな、エゴイスティックにすればコイツかな、という感じで⼈物を作っていけるわけですから。

天才と呼ばれないことすら、⽴脚点になる


―― 共感をするのは、司令官ではなく。

⾼橋 そうですね。⾃分で今まで描いてきたものというのは、何か向こう側に漠然とした組織や権⼒者がいて、それに対峙している1個の⼈間がいる、という配置が多いですよね。形だけで⾔えば、そういう構図だけで作っているようなものですから。

―― そういえば、監督の作る作品には、主⼈公が指揮官というお話はないですよね。普通に、若きエリート指揮官みたいな主⼈公がいてもいいはずなのに、なぜか主⼈公は必ず⼀兵卒みたいな。

⾼橋 それこそ皆さんがおっしゃる「負け感」じゃないですか。勝者として、この世に出てきてないからじゃないですか。もう要するに⼀兵卒として出てきて⼀兵卒としてフリーになったという思いと、それはどこかシンクロしていると思いますよ。この業界でエリートということじゃないなと。

 この業界でエリートというのは別に学歴じゃないけれども、やっぱりいるんですよ。もう最初からずっとアニメーション⼀筋で、「最初からこの⼈は天才」という⼈がいるんですよね。

 それではないですからね、僕なんかは。だいたいその天才から批判を受けますから。安彦(良和)ちゃんであったり、富野(由悠季)さんであったりというね。彼らと同世代として⽣きてきた中で、僕は⼀回も、才能があるとか、天才って⾔われたことがないですから。

―― 「ペールゼン」でも、キリコは⼀兵⼠として、幹部からしたら捨て駒のように最前線に送られるわけですが、⽣死のギリギリのところで戦いながらも、「仲間」とは⾔えないような部隊のメンバーを助けるんですね。出会い頭に⾃分を襲ってきた少年も、⾜⼿まといにしかならない弱い男も。

 今の⽇本の状況にも通じるところがあるかもしれませんけど、「⼈を助けると、⾃分の損になる」という考えだってありますよね。なのに、キリコは弱い⼈間でも⾒捨てずに助けるんです。あれはすごく不思議というか、⾯⽩いところだなと思ったんです。

編集Y それは、どういう形にせよ味⽅の戦⼒を削られると相対的にこっちが不利になるから救っているだけ。なのかなと俺は思ったんだけど。あ、いい話が台無し? でも、普通に会社の仕事でも、周りの仲間を助けていると⾃分の⽣存確率が上がるという、そんな理解で間違えてないと思うんだけどな。

⾼橋 意識しないでキリコは⽬の前の⼈は助けるんですけどね。助ける理由をいろいろ説明しないところがね。だってさ、「お前がこうやってこう助けないと、こうならないだろう?」みたいにキリコが⾔ったら、やっぱりキリコじゃないですよ。それにやっぱり主⼈公だから(笑)。

シンプルな強さは、すがるものの少なさから来る


―― 監督には、理想の男像というか、理想の⼈物像というのはあるのでしょうか。

⾼橋 理想の⼈物像は、それは強いのがいいんですよね。強いというのは別に腕⼒が強いということじゃないんですけど……難しいのは、「万能の強さ」というのはないじゃないですか。

―― 万能の強さはない、ですか。

⾼橋 だからたぶん、職⼈で、やたら腕がいいということが認められている男って強いと思うんですよ。だって何の組織にもぺこぺこしなくていいし、⾃分の作るものには⾃信があるし。そこまでに⾄るには苦労もあったろうけど、向上⼼という余⽩がありながらも、⾃分の腕には⾃信を持っている。すると、それだけで⽣きられるじゃないですか。そういうシンプルな強さにあこがれますよね。

 あまり複雑な強さを持っている⼈というのは、すごいなとは思うけれども、なりたいとは思わないですよね。だって⼤変でしょう。プーチンさんみたくなってもね(笑)。

―― 監督が思う強さというのは、その⼀⽅で⽋けているものがたくさんあってもかまわない、全⽅位的な強さではないということですか。

⾼橋 これだ、というものが⼀つあれば、後はいらないんじゃないですか。⽋陥が多い⽅が強くいられるということだってあると思います。⼀兵卒はね、すがるものが少ない分、しぶといんですよ!(笑)。

高橋良輔,ボトムズ,サンライズ,矢立文庫

(おわり)


※本連載は、2008年に公開されたインタビューのリバイバル掲載になります。 


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