【第01回】2020年版~“アンチ天才”のボトムズ流仕事術

『ボトムズ』流、時代との出会い方

2020年版~“アンチ天才”のボトムズ流仕事術
渡辺由美子

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――この度、日経ビジネスオンラインの連載『“アンチ天才”のボトムズ流仕事術』が、『矢立文庫』に収録されることになりました。
 連載から11年が経ちましたが、現在の高橋監督のお仕事や近況についておうかがいできればと思います。お仕事や時代の変化など、何かお感じになることはありますか。

高橋 時代はどんどん変わっているのを肌で感じますね。前に「アンチ天才」のインタビューを受けた時が2007年で、『FLAG』の頃だと思うんですけど、その後幾つか仕事をしてきて、今、また、サンライズ作品ではないんですけど、戦場カメラマン物のオリジナルを作り始めているんです。

――そうなんですか。『FLAG』が戦場カメラマンもので、アニメにはあまりない路線だったのでインパクトが大きかったのですが、今回はどんな作品になりそうですか。

高橋 前の『FLAG』でやり残してしまったものをやりたいです。前回の主人公は女性でしたが、今回は男性カメラマンで、彼の取材先は戦いが展開しているところです。アクションも入ってきますよ。作品全体のテイストは『FLAG』と変わらないんですけど、テーマや登場人物たちの想いというのは、また違うものになると思います。

時代の変化と専門店の強み

高橋良輔監督
高橋良輔監督

高橋 オリジナル26本の予定で、今、シナリオを3人で分担して書き始めていますが、7話ぐらいまで上がっています。

――オリジナルで26本ですか。今のアニメでオリジナルなら1クール13話くらいが多いですから、大がかりですね。

高橋 そうですね。発注してきたのは海外のクライアントです。時代が変わったなと思うのは、日本の会社の発注じゃなくて、海外なんですよね。去年にも、中国のパイロット映像を作ったりしましたから、仕事の入り口が変わってきたなと思います。
 海外から発注してくれる会社の経営者の多くは、僕の作品を観ている世代なんですね。
 今度の作品のプロデューサーも、最初に会った時はライターで、サンライズにインタビュアーとして来ていました。その人が次に来た時には、「アニメーションを作りたいので、企画を立ててくれませんか」と。

――海外からの依頼というのも新しい時代を感じます。監督のファンの方が依頼に来られたわけですね。

高橋 そうですね。僕にとって良いことは、僕の守備範囲は凄く狭いんですけど……その守備範囲にあんまり人が入って来ないことですね(笑)。「これだったら、高橋監督に」とピックアップしてもらえる。
 ここは、僕がいつもコラム(『高橋良輔の言っちゃなんだけど』)で書いているように、“良輔商店”の専門店の強みだろうなと。

編集Y なるほど! 「この味を出したいんだったら、どうしてもこの人が必要だよな」ということですね。

――確かに、ミリタリーをモチーフに社会を描く作品というのは、高橋監督のお名前が真っ先に浮かびます。

高橋 僕はやっぱり、みんなにそっち方向だと思ってもらっているようだから。ありがたいですよね。

同じような感性の人から頼まれる

――「アンチ天才の仕事術」の考え方でもうひとつ言えば、アニメ監督でバリッバリ第一線の年寄りって何人か居ると思うんですけど、僕はバリッバリじゃないですからね。例えば宮崎(駿)さんに仕事を頼むっていったらば大変でしょう?

編集Y ああ、それはお会いするところから簡単ではなさそうな。

高橋 僕らの身近なところでは、『ガンダム』の富野(由悠季)さんに仕事を頼むっていったら、たぶん大変だと思うんですよね。
 ……ところが僕はね、向こうが「仕事頼みます」って言いやすい(笑)。
 頼みやすいというのもいいことがあって、ひとつはすごくヒットしなくても良い、もうひとつは自分の好きなことができるんですよね。

――ヒットしなくても良い? そうなんですか?

高橋 相手もそんなにヒットを期待してない、というのがあるから。宮崎さんは外れたら困るでしょう、周りも。本人もそういう縛りがあると思うんですよね。
 自分から見ても、今回の仕事はちょっとリスキーですもん。この題材でアニメファンに大ヒットするかというと……。で、僕は外れても平気な方なんです。そういう位置にいますから。
 やっぱり世の中には、リスクを背負うか背負わないかがあって。たとえば相手の方も、これが新人の人の作品であれば、リスクを背負いにくいと思うんです。
 でも、僕が作るものなら、リスクがあるのは承知しつつ、あえて背負ってくれるんですね。
 だからこそ僕も「こういうことをやりたいんだけど」と、自分が好きなものを入れたいと持ちかけることができるんです。

――相手の方が、高橋監督の作風が好きだから、ですね。監督の場合、同じ好みを持つファンが世界中に点在していそうです。

高橋 海外にも、僕と同じような感性や好みを持つ人が、ちょこちょこっと居るのかもしれません。「あの人なら分かってくれる!」っていうような、かすかなネットワークがたまに出てくるという感じですね。

――最近では、虚淵玄さんが原案のwebアニメ『OBSOLETE』(オブソリート)にも、「企画・プロデュース」として関わっていらっしゃいますね。

高橋 クレジットには出ているんですけど、それほどのことはしていないんです。あれはもともと「こういうものをやりたい!」というエネルギーを持つ人達が居まして、僕が作ってきた『ボトムズ』のような作品に合うので、高橋監督にちょっと点火してもらいたい、肩を押してもらいたい、と。僕はそういう役割だったと思います。

編集Y 『OBSOLETE』監督の白土晴一さんが、インタビューで、子供の頃に『ボトムズ』のクメン編を観て、あれをずっとやりたいと思ってたとおっしゃっていました。同じ路線をやりたいと思う若いスタッフが現われるというのは、キャリアを重ねてきた方ならではの出会い方ではないかと。

高橋 確かに僕のオリジナル作品は、だいたい先行の路線がなくて、「こういう方法論でどうだろう」という気持ちで作っています。それで僕の作品を観た若い人が「この方法論だったら、自分が同じ事をやったらもっと違うものが作れる」ということであれば、それがひとつの技術的な何かになるかもしれないし、場合によっては「ジャンル」になるかもしれない。そういう望みはありますよね。

時代と出会う期待はしない

――時代や仕事環境が変化している今、監督の仕事のスタンスに何か変化はありましたでしょうか?

高橋 僕はあんまり自分から何か変わろうという意識は無いんです。たぶん変わろうと思っても、そんなに変われないし。
 やっぱり時代と上手く会えた時だけ、その作り手は結構幸せになれる。
 『太陽の牙ダグラム』『装甲騎兵ボトムズ』の時に、一回、僕、時代と出会っていると思うんです。
 それは富野さんが『機動戦士ガンダム』で、TVの中にオリジナルアニメーションの道を作ってくれたから。当時、「サンライズの中で富野以外にオリジナルを作れる作り手はいるか?」といった時に、僕に白羽の矢が立った。それはひとつの幸せで、「ありがたいなあ」って思うことです。
 確かにその5~6年、10年近くって、幸せでしたからねえ。
 でもそれで、もう一度時代と出会う……と言っても、時代と出会う努力なんかしてないですから。

――そうなんですね!? 海外からのオファーや、若いスタッフさんが作る同じ路線の作品も現われて、もう一度、時代が来る予感や期待などはお感じにならない……?

高橋 それはその時、勝手に時代がクロスしたんであって。
 結構なんでも、返ってくることをそんなに期待してないってところありません? アニメーションを作っていても、こういうものを作ったから何かが返ってくるということを、あんまり期待しない。期待をすると大変なんですよね。自分が作りっぱなしということで、「いいや」って思うわけです。
 積極的にこうすれば時代と出会えるなんてことは、僕の中には無いんですけど、まあ、拒否はしないっていうところですね(笑)。

高橋良輔監督
高橋良輔監督

見てくれているひとりのために

高橋 ……でも今、始まった新しいシリーズで何がつらいかと言ったら、これがサンライズでやってたらそんなにつらくないんですけど、仕事を持ってきてくれた人が、ひたすら僕の顔を見ているわけですよ。
 要するに、僕の作品のマニアであり、ファンであり、はじめて自分でアニメーションをプロデュースできた人であるっていう。

――期待で目をキラキラさせていらっしゃるわけですね。

高橋 この人を裏切れないよなあって。
 人気が出ないとかいうのは、いいわけですよ。でももし上がったものが「なんだこんなものか、こんなものを爺さんに頼んじゃったんだ……(がっかり)」っていうのは、ちょっとかわいそうだなと。そこはね、今、一所懸命やってますよ。

――じゃあ、その方のためにフィルムを作っているところも?

高橋 今はもう、その人のためですね。
 僕はわりかた、目の前にいる個人のために作るというのは少ないほうなんです。
 『ボトムズ』にはいました。もう亡くなってしまったけれど、サンライズに居た山浦栄二さん。山浦さんがある程度納得してくれれば、もういいやって思いました。
 山浦さんは山浦さんで、「良ちゃん、ちゃんとプラモを売ってよ!」みたいなことは言うんだけど、でも、これ本当にそんなことを言ってるのかなあ……? と思わせるところがありました。
 僕が何かを作っていることを見ている人がひとり、わりかたちゃんと見てる人が居ることが大事だと思う。たぶん山浦さんは、僕の日常までちゃんと見てたんじゃないかな? って、勝手に思ってるんですよ。

(つづく)


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