【第02回】2020年版~“アンチ天才”のボトムズ流仕事術

“楽(ラク)”を極めて自分の有利を探そう

2020年版~“アンチ天才”のボトムズ流仕事術
渡辺由美子

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――先ほども話題に上りましたが、コラム『高橋良輔の言っちゃなんだけど』で、「“良輔商店”に徹してきた」というお話がありました。
 「多きに付かない」、「ハヤリを追わない」、「色合いを変えない」というお話が興味深かったのですが、こちらについてもう少しおうかがいしても良いですか。

高橋 これね、本当のことを言うと、全部、自分にとって楽(ラク)な方を選んでいるっていうことなんです。

――そうなんですか?

高橋 色合いを変えないというのは、ひとつは変えられないということがありますね。昔は路線もまだ固まっていなかった時期もあって、『太陽の牙ダグラム』を作った後、次はギャグものをやろうと思って、パイロット版を作ったんですよね。

 あそこでもし、サンライズの創業者達が「違う路線でもいいよ」と言っていたら、変えていたのかもしれない。だけど、「いやいや、もう1本同じようなシリアス路線でやってくれよ」って言ったから、『装甲騎兵ボトムズ』ができたし、同じ路線を2本作ったら、2本目の方がその色合いが濃くなったので、たぶん彼らは、「やっぱりこっちの方が好きなんじゃない?」と判断して、そのまま続いちゃったところがありますね。

――色合いを変えないのは、周りの方が持つ監督への期待でもありそうです。
 「ハヤリを追わない」というのは?

高橋 ハヤリを追うっていうのは、それだけでも努力が要りますからね。
 娯楽としてハヤリを追っている人はつらくない。だけど、作り手の場合、自分がハヤリに合わせられる人間かどうかがありますから。流行るものは大変ですよ。ハヤリを追えば、動いている時代と自分との距離感も見えてくるし、「これは追いつかないな」とか思っちゃう。そんなつらい思いをするくらいだったらば、追わない。

人がいない場所で、最初に始める


――流行りものを追うと、競争をし続けなければならない。でも監督は、流行りものは追わなくても、新しいことはお好きですよね?

高橋 新しいというよりは、「最初にやる」ことがいいんです。
 なんでも自分が最初にやれば、楽じゃないですか。

――最初にやるほうがラクなんですか…!? 大変な気もしますが。

高橋 同じことをやっている人が、少ないほうがいい。他の人と同じ事をしていると「こっちの方が上手い」とか「あっちの方が下手」とか比較されたりするから。

高橋良輔,ボトムズ,サンライズ,矢立文庫
高橋良輔監督

 

高橋 ……真面目に考えると、アニメ業界に身を置く時に、僕にとって良かった点は「第一走者である」ことですね。僕がアニメ業界に入ったのは、1963年に初のTVアニメーション『(鉄腕)アトム』があって、そのちょうど1年後。ということは、まだ第一走者の内なんです。
 そうすると、言えるのは第一走者は楽な部分だ。そこは自分の有利であると。

 でも、第一走者の中では、10メートル、20メートル先を走っている人がいる。じゃあ、自分が第一走者の中に身を置いたときにどうするか。競うと結構大変ですからね、「競わないところはどこかな~?」と探すんです。

――競わない部分を探すのは、「ラク」に繋がっているんですね。

突き詰めなくてもいいじゃないか


編集Y
 ところで監督は、いわゆる「男の趣味」というのは何かお持ちではないですか? カメラが好きとか。

高橋 いや、カメラとか、車なんかも魅力的だとは思うんですけど、すぐ分かるんです。「あ、俺、これを突き詰めたほうにいかないな」って。趣味はあまり深くないですね。日常的に、何が一番楽なのかというと、寝っ転がって本を読んでいるのがいちばん楽。本も重めの長編小説とかよりは、エッセイとか読んだり。でも、活字は風呂に入っても持っていきます。

 たとえば包丁とかも好きになるんです。雑誌の包丁特集とかも買うんですよ。小さい頃は工作が好きで、木を削ったりするのが好きだったから。

編集Y じゃあ、包丁は、叩いて研いでってやるんですか?

高橋 そこまではやらない。すでにある鉄を研ぐだけですね。
 で、(机の下から取り出して)このぶどうの蔓のカゴも、特注品なんですよ。

――おしゃれですね!

高橋 竹製とかパピルスとか大きな買い物カゴで食材を買って、料理をするのもいいなあって。それでカゴまでは買ったんだけど、食材選びまでは面倒くさくなっちゃった。
 せめて料理をと思い、男なら肉だ、肉もちょっと研究してみよう。山の家にはちゃんとレンガで組んだバーベキュー用の窯もあるんですよ。
 ……ダメですね! 燻製キットを2回ぐらい買って、挫折した。

 で、もっと楽にウンチクを語れるものはないかと探したら、サラダにかけるドレッシングがあって、研究してみようと本を3冊買ったけど、オリーブオイルを買ってきたところで挫折。

編集Y 惜しい(笑)。

高橋 本を読むといろんなやり方があるわけですよ。でもね、簡単に言うと、ドレッシングならオリーブオイルで塩をかけるだけでも十分美味しいんですよね。これ以上、別に突き詰めなくてもいいかって。

編集Y 男のマニアって、ほんの小さな差分にもの凄いエネルギーを突っ込んで、0.01%上がった下がったと血道を上げるところが醍醐味だったり。あれは男の宿痾かと思っていましたけど、高橋監督はそういったところからは、ずいぶんフリーでいらっしゃる感じですね。

高橋 だからそういうものに憧れるわけですよ。
 「これかな?」「面倒くさいんだ……」「……やっぱりダメだった(がっかり)」っていう。

「ラク」に勝てるところはどこか?


――高橋監督の特技と言えば、「題字」などの筆文字が有名です。
 『コードギアス 復活のルルーシュ』でも、お酒のラベルの文字を書かれていらっしゃるとうかがいました。いつ頃からお書きになられていたのでしょうか?(http://www.geass.jp/R-geass/screening.php

高橋 字はね、本当に恥知らずで。「筆文字で何か書いてくださいよ」って頼まれるから書いているんですよ。
 いちばん最初に頼まれたのは、僕がプロデューサーをしていた『勇者王ガオガイガー』の「弾丸X」ですね。それまで書いたことはなかったんですけど、スタッフが、みんな乱暴な字が書けないから、あなたならって。その後に、「あれを書いたなら、こっちの作品でも書いてくださいよ」みたいに言われて。そういう流れですね。
 『SAMURAI 7』のオープニングとかエンディングのクレジットの字も、僕が書いたんです。そういう時には、しょうがないなと腹をくくって書くんですけど。

 第一、僕は字が下手だから、とにかく自分の字が気になってしょうがない。原稿用紙で手書きの時代は、人に出す原稿も書いたことがなかったです。ワープロが出てきてようやく書き始めました。ワープロは、僕にはすごく良かったですね。

――ご自身の字が「下手」だと思われているのに、題字を引き受けるようになったんですか?

高橋 人間って、やっていると何か勉強するものなんですよ。書とか、その関係の本を読むと、書の一般常識が入ってくるわけです。そういうのを知ると、上手かろうが下手かろうが役に立つんですね。
 漢字っていうのは、入りがどうとか、横に引くのと止めるのと、それから右払いと左払い、はね。それを組み合わせて出来ている。それが全部入ってるのが「永」の字で、あれを習うとそこそこ上手くなると言われているんですけど。

――じゃあ、「永」の字を繰り返し練習されて……。

高橋 練習はそこそこ(笑)――じゃなくて、自前の筆を用意しました。
 はねとか払いを綺麗にやるには、筆の先が細くないといけない。ちゃんとした筆の方が有利なの。でも、有利なのは上手い人だけが有利なのであって。
 じゃあ、と僕は太いハケを持っていくんですね。はねも払いもわからないから、下手が見えないんです ()

――それはすごい!(笑)

高橋 自分でも、半分は否定してるんですよ。書道をやったこともなんにもないのに、と。ちゃんとした筆で書くと下手がバレるっていうの知ってるんです。
 でも、「やらなきゃいけないんだったら、しょうがないな」って、いろいろ試してみて「ああ、これがいちばんバレないな」とハケになった。

 で、ある先生に言わせると、僕が好きなワープロなんかはムチャクチャ否定されているわけですよ。「あれには魂が無い!」みたいな。(一同笑い)
 でも、そんなことはないんですよ。僕はワープロから原稿を書き始めたんだから、ワープロが出来たから原稿書けるようになったんで、それはそれあれはあれで。

――何と言いますか、それはそれ、これはこれで、好きなところをチョイスされている感がすごいですね。

高橋 そうですね。他人の言うことって、全部そのまま受けられないですよ。だからその中でなるべく自分に有利なところを取り入れる。そうすると、自分のための一番有利な筆記用具を持つっていうことが大事で、僕は万年筆なんかも好きで常用しています。

高橋良輔,ボトムズ,サンライズ,矢立文庫
高橋良輔監督愛用の万年筆

編集Y ワープロであり、ハケであり万年筆であるわけですね。

――突き詰めないとおっしゃりながら、本質を研究して、いかにラクにできるようになるかと、やり方を考えていらっしゃる。監督にとって「発見」のウェイトは大きそうですね。

高橋 発見は結構大きいでしょうね。

編集Y なるほど、戦略目的が「楽」というわけですね。

高橋 この間も、中国の南京に行って、金箔の工芸館を見学して、貴賓室みたいなところで「一筆書いてください」と頼まれました。その部屋が、中国の名書がブワーッと並んでいるんですよ。

――こちらの『高橋良輔監督旅行記「飛行機雲に誘われて」』に写真が載っていますが、なんとも緊張するシチュエーションですね……!

高橋 事前に、漫画やアニメのイベントなので「何か書くか、描く」とは聞いていたんだけど、まさかこの部屋で字を書くなんて、さすがに俺もちょっとなあとは思ったんですけど……書きました。

 ちょっとした書まがいのものを書いてそれと合わせるように自分の正面の似顔絵を幾つか描いたんですけど、みんなにウケたのは、ひとつだけ後ろ向きにして後頭部に、金箔を持ってきてもらって、ポンポンポンっと乗せていったんです。

編集Y ハハハハ(笑)。

高橋 でもその書のことが、ネットを通して駆け巡ったら、海外のお酒メーカーから、お酒のラベルを作ってくれと依頼が来たんです。

――そうなんですか!

高橋 だから面白いですよ。国内で知り合いに頼まれてほいほいと書いていたら、海外でビジネスになっちゃうんですから。ハヤリを追っていたわけでもないのに、また時代と出会っているのかもしれないな、と感じますね。

(つづく)


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