【第03回】2020年版~“アンチ天才”のボトムズ流仕事術
いつまでも仕事ができるコツは、ひとつだけ
2020年版~“アンチ天才”のボトムズ流仕事術
渡辺由美子
――筆文字のお話もありましたが、高橋監督のお名前は実にさまざまなところでお見かけします。
NHKアニメ『クラシカロイド』では、予告台本も書いていらっしゃいましたね。ベートーヴェン役・杉田智和さんによる、『ボトムズ』を思わせる熱いナレーションも話題になりました。
高橋 『クラシカロイド』は第一シリーズは全部、予告台本を書きましたね。スタッフに頼まれると考えもせずに「ああ書くよ」って。まあ吉川(惣司)さんとかには「ああいうの、恥知らずによく書くよねぇー」って言われたりするんだけども(笑)。
来た仕事は「断らない」
――フットワークの軽さに驚きます。2016年には講師をされている大阪芸術大学で、「ラノベと映像」という講演もされたそうですね。ライトノベルについて、どんなことをお話しされたのですか。
高橋 したかなあ? ……思い出した! 文芸学部に呼ばれたんだ。
若い人を呼ぶイベントなので、古典文学よりもラノベだろうということになったんですが、「この学部でそういうことを語れるのは、良輔さんしかいないんだから、やってよ」と頼まれたんです。話した内容は覚えてないけれども、一応、アニメーションとラノベの関係性は勉強して、後は出たとこ勝負だとやりましたね。
――連載『アンチ天才の仕事術』の「食いっぱぐれない方法はひとつだけ」の回でもありましたが、「来た仕事を断らない」姿勢が一貫していますね。
高橋 だって、頼んでいる人は僕よりはラノベを知らないし、現実に困っているわけだから。
いろんな仕事が来ます。海外イベントに呼ばれることもあれば、何かの催しや企画で一筆書いてほしいというような細かいものもたくさんあります。そういう仕事も断らない。
――海外イベントも多いですね。
高橋 なぜ呼ばれるかという分析ははっきりしてて、いちばん売れている人は忙しいから行けないんですよ。その次に、売れない人は呼ばれない。そして、この業界の人はシャイなので、2千人ぐらいの前で喋るとか、初対面の外国人10人とコミュニケーションを取るとか、そうしたことに苦手意識を持つ人も多いです。
みんな、1回や2回は行くんですけど、「また行きたい」「また連れて行きたい」というのは、半分以下に減る。
僕の場合、「あの人ぜんぜん嫌がらないし、声をかけたら絶対来るよ」って思われているし、僕も行って楽しいしっていうね。
――連載時にうかがった「来た電話には丁寧に対応する」というところから、あまり変わっていらっしゃらない?
高橋 ぜんぜん変わらないです。海外のイベントも、内容が充実しているものばかりではなくて、最初に偉い人が話した後は、何もないようなイベントもあります。
――でも断らないんですね?
高橋 断らないですっ!(笑)
そういう状況で「行って楽しかった」と思えるのはたぶん僕ぐらいだなって。終わればその後に、さあ観光が残ってる。街に出ていって、自分で探した所で飲み食いするっていうのが楽しいですよね。
やっぱりどこかで、そういう仕事は「映像の実制作と違って楽だなあ」と思ってて、楽な仕事でもって食わしてもらっているんだから、あらゆるサービスはしようと。

編集Y 謙虚なんだか図々しいのかよく分からないですね(笑)。
高橋 半分ぐらいサービス業だと思っていますので。富野さんだってサービス業をやってますよ。「富野だ!」っていうことをいつもちゃんとおさえていますから。インタビューに来た人の前で一度は怒ってみせるとか。あれはちゃんと「富野である」ということを見せるっていうサービスですよ。
――そうなんですか!
高橋 だからね、僕は同じ芸風ではダメですから。
長く好きな仕事ができるコツはひとつだけ
編集Y ……実は私、部署で最年長になっちゃって。50代半ばになると、記憶力は落ちるし、口は回らなくなるし、自分の持っていたカードがいつの間にか消えていくような気持ちになってくるんですけど、高橋監督はいかがでしょう。この先、また新たなカードが刺さるとか、それとも持っているカードの使い方が上手くなるのか。
高橋 カードが抜けていくことに関してはやっぱり諦めと、それから、これは僕だけの問題じゃなくて今までの人類の歴史ずっとそうなんだから、もう抵抗しない。
それで、そのくせ、決して優しくなくてですね、同じ年だったり、ちょっと下ぐらいが、もう歩き疲れたとか、「階段上がるの大変だから、ちょっとエレベーター乗りましょう」っていうと、「へっへっへっへっ~(笑)」って登っちゃう。同じ年でも俺の方が体力あるぞって。得意がるところは素直に得意がっちゃう。
編集Y なるほどなるほど。
高橋 そして、できないところはしょうがないから、できる人に頼っちゃう。昔から僕がやることには穴があるんですよね。若い人が埋める穴なんていっぱいあります。それこそ僕は、「ミリタリー路線だ」と言われてるんですけど、僕は、ミリタリーのことはあまり分からないんですよ。でもそこは、ミリタリーを知っている人がなぜか来てくれるんです。それはまあ、そういうものなんですよね。
――幾つになっても、仕事として求められるというのも、高橋監督の魅力だと思うのですが。
高橋 そうですね。ありがたいことに。大学の先生をしていても、僕は幸いにしてまだアニメの仕事があるので、あっちが少なくなれば、こっちが増えるというふうになりますね。
――私自身も、長く仕事で求められるかどうかというのは、とても気になっています。
高橋 これは最近、若い人からよく聞かれるんです。「その年になってまだ仕事ができる」「好きなことができてうらやましいですよ」とか。「どうしたらそうなれるか」っていう質問も当然あるじゃないですか。
――なんて答えていらっしゃるんですか!?
高橋 そうすると、身も蓋もなく言えば、運だからしょうがない(笑)。やっぱり運があるか無いかってことがあると思うんですよ。
で、もう1つは、やり続ける、持続するということ。
チャンスって必ず来るんですよね。それがチャンスかどうかは、渦中にいるとなかなか分からないんですけど。
『ダグラム』も、僕が37歳の時ですからね。その時に、初めて自分がこれでいいと思えた仕事ができたんです。アニメでオリジナル作品が作れる時代が来て、機会に巡り会えたのは運ですけど、その運に巡り会えるまでは持続することが必要ですよね。
さっきの、連載の時にお話しした「来た電話に丁寧に応対する」。その電話は、なるべく「電話して損した」とは思わせない。来たものは断らないで、とりあえず何でもやってみるっていうことですよね。
――来た仕事を断らない。シンプルでいて難しいですね。
高橋 うん。ひとつだけ、ダメな仕事ってあるんですよ。持ってくる人がダメで、仕事の裏側にあるものがダメで、仕立てがダメでっていう、どうしようもない仕事は確かにあります。どうやって見抜いたらいいか分からないんですけど、やっぱりそれも紛れ込んでくるから、それは結果として諦めるしか無い。支払いも来なかったりなんかしますから。

――でも、それも断らないんですか?
高橋 断れないものもありますからね。断っているものもあります。だけど、そんなこんなの中にも、わずかでも「お前さんだから」っていう仕事はあるんですよね。それを嗅ぎ分けて、それを一所懸命やれば、自分の道は続いていくと思うんです。
嫉妬心は早めにねじ伏せる
高橋 それと、仕事をやり続けられるかとは別に、最近よく言うのは、「嫉妬心」はつらいから早めにねじ伏せろよということですね。
たしかに嫉妬心はエネルギーにもなるんだけど、嫉妬心でつぶれる人が居るんですよね。だってつらいですよ、ヤキモチ焼きって。
僕は早めに諦めがついたのは、やっぱり手塚治虫さんが居たから。手塚さんにヤキモチ焼いても仕方ないじゃないですか。ねえ? 手塚さんが富士山だとすると、その下に百名山が居るわけです。百名山が普通で言う「天才」。僕は、その百名山にも入ってないんですよ。
そうすると、百名山にヤキモチを焼く、ということになるじゃないですか。
手塚さんにヤキモチ焼くんならば、なんか堂々たるものがあるけど、百名山にヤキモチを焼いてウズウズしてるんだったら、ヤキモチ焼かない方が楽。
同じなんだから、手塚さんから見れば。っていうね。
編集Y ワハハハハ、なるほど(笑)。
高橋 そのくせ手塚さんは、「立ち位置は平等だから」って僕らに言うわけですよ(笑)。
当時、虫プロにいた時代も、手塚さんはやり方とかは教えてくれないですからね。こうしてこうしてこうやりなさい」なんて。
それでいて、「あなたも作り手なんですよ!」って僕らを叱咤するんです。
「こんな神様みたいな人に、同じ作り手なんだって言われても困っちゃうな……」と思いつつ、「ああ、この人はそういう精神なんだ」と気づきました。
天才のような才能は自分にはないんだから、作り手としてのエネルギーが無かったら、それはもうダメでしょう、という。自分に才能があるか無いか、本当のところは分からないですよ。でも、ずっと仕事をやり続けているうちに、「まだこの業界に居るんだということは、エネルギーがあることにしよう」と思っているわけです。
――そうなんですね。まずは、嫉妬心をなくすのは大変そうですね……。
高橋 嫉妬心って無くならないんですけど、僕の経験でいくと、コントロールはできますよ。ところが嫉妬心を野放しにすると、もう全然消えなくなるくらい高まっていってしまう。
だから初手のところで「しない!」って決めたら、それはもう、しない!
――それでは、最後にこの「ボトムズ流仕事術」が『矢立文庫』に収録されることについて、メッセージをお願いします。
高橋 僕は、出版物に憧れてた世代ですから、自分が昔書いたものでも、どうしようもないものでも、それが活字になったらすごく嬉しいんですよ。
人から「ブログをやればいいじゃない」とか言われるんだけど、それは嫌なんです。
それは単純に言って、僕がアニメーションでも何でも、注文が来て応じるという仕事をやってきたから。
それが僕の立ち位置だろうと。
発信できる場があって、注文が来て、数はわからないけど誰かが見ている。「あ、また来ちゃった! じゃあ書かなきゃな」というそのスタンスがいいし、ありがたいですね。
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