【第05回】ぼくたちは人工知能をつくりたい

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美少女AIの掟
  • ひとつ、美少女AIはどんなことがあっても私たちを守る。
  • ふたつ、美少女AIはどんなことがあっても私たちの願いを叶える。
  • みっつ、美少女AIはどんなことがあっても自分の命を守る。
  • ただし、掟は設定された順に優先される。ひとつ目とふたつ目が矛盾した場合、ひとつ目が優先される。
人工知能(キャラクター)を作るための五工程
  • (0)※まず仲間を見つける
  • (1)性格を決める
  • (2)容姿をデザインする
  • (3)CGモデルを作る
  • (4)「学習プログラム」と「人格生成プログラム」の実装
  • (5)ロボットのAIとキャラコン部オリジナルのAI、人間の連動訓練

第5回:幼なじみ~

 日曜日。駅前のファーストフード店は学生や家族連れで賑わっていた。注文を済ませた後、ふたり分のトレーがぎりぎり載るくらいの小さな机で俺たちは顔をつきあわせた。そこは大きな窓ガラスに面していて、あたたかな五月の陽光が射し込んでいた。
 向かいに座っているのは幼なじみの古賀湖夏こがこなつ。地味な俺とは対照的に、派手な外見である。金色に近く染めた髪に、マスカラに縁取られた丸い瞳。爪はくすんだ青色に染めている。ダスティ・カラーというらしい。「それって、ホコリっぽい色ってこと?」と聞くと、コイツ死んだ方がいいのにという冷たい視線が返ってきた。もっと適切な言葉を選ぶべきだった。
 湖夏は時々思い出したように俺を呼び出す。俺は俺で休日には大した予定も入っていないので、こうして湖夏の誘いに乗って街に出てくる。
 最近のキャラコン部の話をすると「大変ねえ」と湖夏は同情した。

「やる気のない部なんてうちの学校にもいっぱいあるし。わざわざ廃部にすることなんかないのにね」
「一緒にするなよ」
「何一緒にするなって。急に真面目に活動し始めたからって調子にのって」と湖夏は冷やかす。
「そういうわけじゃないけど」
「で。その直島って子もキャラコン部に入るの?」
「たぶんね」

 直島から美少女AIプロトタイプを受け取った次の日から、その改良を始めた。俺と美作と、ときどき颯太が無茶なオーダーをして、直島がそれを実装するという、完全に直島だよりの作業である。
 ちなみに初日に議論したのは、ツンデレはありかなしかだった。美作は自分の美少女がツンデレであることが不満であり、颯太はツンデレ以外あり得ないと主張し、俺はどっちでもいいという中立の立場だった。颯太は今のバナナはそもそもツンデレなどではない。ツンデレというものは関係が深まることによって次第に性格を変えていくことであり、記号的な性格の二面性はツンデレではない云々……という、もはや美少女AIと関係あるんだかないんだか分からない主張をし始め、美作は美作でそれは過去における定義であって、現状に合わせると云々……という空中戦を展開した。俺は陸を這い回るイモムシのように、ぼんやりとふたりの戦いを眺めているしかなかった。話し合いは行われたが、お互いが主張を曲げないため、結論は出ないままだった。直島はその議論を聞きながらコードを書いていた。どこからインスピレーションを受けるのか分からなかったけれど、そのとりとめのない話を聞くと作業がはかどるのだという。

「ねえハル。ハルは自分でAIが作れなくてもいいわけ?」

 と湖夏は疑問を口にした。

「いいってことはないけど」と俺は口ごもる。
「でも、まずは結果を出さなきゃ」
「あんたさ、それって状況に流されてるだけじゃないの?」

 と湖夏は言った。

「どういうことだよ」
「ハルさ、小学生の頃からキャラコン部に入りたいって言ってたじゃない。念願かなって部長にまでなったのに、今までなーんにもしなかった。なのに美少女ふたりが入ったら急にやる気出しちゃってさ。結局そのふたりにいい格好したいだけなんじゃないの?」
「違う。第一、美少女ってのは関係ない。タイミングだタイミング。やる気ある部員が入って来たってだけ。それよりさ、話したいことって何」

 俺は話題を変えることにした。

「ああ、そうそう。彼氏の話なんだけどさ」

 湖夏はぷりぷりと怒り出した。

「またそれかよ……」
「またって何よ」湖夏はむっとする。
「それって何人目の彼氏?」
「……三?」
「俺が知ってるだけで四人はいる」
「あれ、そうだっけ」と言って、鼻の頭をかく。
「まったく……」

 湖夏は毎回毎回、彼氏に関するグチを言う。湖夏の住む世界では色恋沙汰が中心で世界が回っていた。誰かとつきあったり、別れたり、悩みを相談していた友達と付き合ったり、別れた男と友達が付き合ったり、その男が別の友達と浮気したり、元サヤに納まったり、納まらなかったりした。なんなのその爛れた世界。と、俺は呆れもしたけれど、その話は他人の秘密を覗き見するような気分で案外楽しく聞けた。
 湖夏はひとしきり男の愚痴を言うと、キャラコン部の境遇についての話に戻した。せっかく話を逸らしたのに、と俺は心の中で呻いた。

「まあでも、ハルにもついにチャンス到来ってことだね」
「チャンス?」
「うん。その金髪美少女が好きなんでしょ?」
「そんなことないけど」
「いやあるでしょ」
「ないない」俺はかぶりを振る。
「じゃあ黒髪クールの方?」
「ないない」俺はかぶりを振る。
「じゃあ両方か」
「何その地獄」
「なんかそう考えたら面白そう! いっぺん見てみたいな、キャラコン部」

 そう言って、湖夏は目を輝かせた。

「やめておけ。お前の思うような色恋要素は全然ないから」

 そんな話をしていたら、日が陰ったのだろうか、湖夏の顔に影がさした。

「ひっ!」

 湖夏は小さな悲鳴をあげた。

「どうした?」

 湖夏の視線を追った。そこには窓ガラスに張り付いた、金髪の小柄な美少女がいた。鼻から抜ける呼気のせいで、鼻の下が白く曇っている。

「美作……お前何やってんの?」

 

 湖夏と美作を伴って、近所の公園に向かった。サッカー場と野球場を兼ねた大きなグラウンドのある市営の公園だ。ユニフォームを着た大勢の小学生がキャッチボールやバッティング練習をしていた。俺たちはがらがらの外野席からその様子を眺めることにした。

「お前、何やってたの?」
「いや、その……すみませんでした。びっくりしてしまって」

 美作はひどく恐縮していた。

「あの……ハルさん、古賀さん。ひとつ聞いていいですか」

 美作はもじもじとした。

「なに」
「え……と、ハルさんと湖夏さんは付き合ってるんですか?」
「はぁ!?」

 俺と湖夏は同時に叫んだ。

「どうしてそうなるわけ?」

 湖夏が真っ赤になって立ち上がる。

「どうしてって。デートしてたから」
「誤解だ。俺と湖夏はただの幼なじみだ」

 俺は努めて冷静に答える。

「そうそう。私たちはそういうんじゃないから」
「そうなんですか?」
「うん」

 俺と湖夏は同時に頷いた。

「よかった~」

 美作は胸をなで下ろした。

「何、よかったって」

 湖夏が怪訝な顔をする。

「もしかしたら、ふたりの邪魔をしちゃったんじゃないかって心配してたんですよ」
「ふぅん? それだけ?」
「はい。それだけです」

 そう言って美作は、いつもの天真爛漫な笑みを浮かべた。

「よかったよ、誤解が解けて」俺がいうと、「そうね」と、湖夏はそっけなく同意した。余計な憶測のせいであらぬ噂が広まったらたまったものではない。
「あの、古賀さん」と美作が切り出した。
「なに」
「ひとつお願いしたいことがあるんですけど……」
「何だよ、お願いって」

 俺は口を挟む。美作がろくでもないことを言い出しそうな気配を感じたからだ。

「古賀さん、私たちのモデルになってくれませんか」と美作はかまわず続けた。
「モデル?」
「はい。私たちの作っているAIのモデルです」
「おいおいおい。急に何言い出してんだよ」
「NAGIちゃんが言ってたじゃないですか。CGモデルのイメージソースが必要だって」

 美作は直島とすっかり仲良くなっていて、今ではNAGIちゃん、美雨と呼びあう仲になっていた。まあ、それはいいとして……我々キャラコン部は次なる壁にぶち当たっていた。
 それは、人工知能を作るための第二工程、「美少女AIの姿カタチをどうするか」ということだった。
 CGモデルを作るためには、あらゆる方向からみて破綻のない詳細な図面が必要になる。前、後ろ、横、斜め前、斜め前上、斜め前下……実作業に移る前に、様々なアングルからどう見えるのかを定めておく必要があるのだ。
 PCとCG作成ソフトを直島から借り受けることで、設備の問題はクリアした。最新のCG作成ソフトは直感的な操作が可能で、素人の俺たちでも簡単に扱うことができた。直島の説明によれば、そのソフトウェアの中にも人工知能が組み込まれており、こちらの要求を推測し、サポートしてくれているのだという。
 しかし、肝心のデザイン画が未だ完成していなかった。そもそも、俺たちは絵が描けない。一体どうすればいいのかと頭を抱えていると、直島は知り合いのモデラーに相談してくれた。
 そのモデラーは「マケットという塑像そぞうを作ればいい」とアドバイスをくれた。様々なアングルを網羅した破綻のない図面を引くのは難しい。粘土細工ならば全てのアングルを網羅できるだろう、というわけだ。目からウロコを落とした俺たちは、それぞれに最高にかわいいと思う塑像を作ってみることにした。
 だが、結果は散々だった。
 俺たちの作った粘土細工は見てくれの悪いバケモノでしかなかった。大学の芸術学科に塑像という専攻があるくらいだ。人体を粘土で作るためには、高い技術が必要とされる。改めて自分たちの見積もりの甘さを呪いながら、再び直島の知り合いのモデラーに電話してもらった。今度は「誰かにモデルになってもらえばいい」というアドバイスをいただいた。なぜそんなことに気づかなかったのだろう。俺たちは再び目からウロコを落とした。
 ここで新たな問題が持ち上がった。誰をモデルにすればいいのだろう。女優か。アイドルか。そもそも、俺たちが作りたいのは、現実に存在しない究極の美少女だ。呼べるはずがない。でもそんなことを言っていたら永遠に完成しない……昨日の議論では結論が出ないままだった。
 どうやら美作はそのモデルを、湖夏に頼もうということらしい。

「美作、俺たちが作ろうとしているのは究極の美少女AIだぞ。そのモデルが湖夏って」
「悪かったわね」湖夏はむっとする。
「いや、そういうことじゃなくて」
「そういうことじゃないってどういうこと?」

 面倒なことになりそうな気配だ。何とかこの話を丸く収めなければならない。

「なんか気持ち悪くない? 自分がCGになってしゃべってるところとか」
「そんなの分かるわけないじゃない。自分のCGなんて見たことないし」
「想像してみろよ。自分と同じ顔の人間が、モニターの中で思ってもみないことを口走ったりするんだぜ」
「例えば?」
「……下ネタとか」

 そう言った俺に向けられるふたりの視線は、氷のように冷たかった。

「ハルさん、最低ですね」
「最低ね」
「すみません……」
「まあ、それはいいとして。もしも私そっくりのCGがいたとしても、別に気にならないけど」
「そうなの?」
「似てるって言ったって、せいぜい私によく似てるって、くらいでしょ。CGってどこか嘘っぽいところがあるしね」

 確かに、映画に出てくるCGキャラクターを見ても、寸分違わず同じというレベルにまでは至っていない。綻びはかなり小さいものの、人間のCGにはどこかに「これは本物ではない」という違和感が残る。建物や自然物と違い、人間が人間であるかを見極める基準は、かなり高く設定されているのかもしれない。

「じゃあ決まりですね!」
「早いよ美作。湖夏はいいって言ったわけじゃ……」
「私はいいわよ」

 湖夏は即断即決した。

「美作さん。引き受けてあげる」と湖夏は答えた。
「やった! よろしくお願いしますね、古賀さん!」
「湖夏でいいよ」
「じゃあ私も美雨でお願いします!」

 そうしてふたりは手を握り合った。

「というわけだから。ハル、キャラコン部にお邪魔するから」

 そう言うと、湖夏はにっこりと笑った。

「あっ!」
「どうしたんですか、ハルさん」
「読めたぞ湖夏」
「何が?」

 湖夏はわざとらしく白を切った。狙いが読めた。湖夏はキャラコン部の人間関係を知りたいだけなのだ。

 

 モデルを使ってマケットを作るためには、広い部屋を用意する必要があった。俺は生徒会長に掛け合って美術準備室を借りた。渋られるかと思っていたが、予想に反して凌霄花のぞみは快諾かいだくした。「積極的な部活動には協力するのが生徒会の責務だ」とかなんとか。ともかく環境は整った。あとは作品を仕上げるだけだ。
 その部屋の真ん中には今、幼なじみである古賀湖夏が座っている。なんだか奇妙な絵面だ。そのまわり、東西南北をぐるり囲み、粘土をこねる俺たちはもっと奇妙な存在であった。そして俺が作り上げようとしているマケットは、さらに輪をかけて奇妙なものになろうとしていた。

「さて諸君。そろそろ作業は終わっただろうか」

 さっさとマケットを作り終えた颯太は、余裕の笑みを浮かべていった。

「まだだよ」
「私もです」美作は必死の形相でマケットと格闘している。
「……」直島は無言で頷く。
「やれやれ、のろまな亀だな。君たちは」
「なんでそこまで言われなきゃならないんだよ」
「あのー、すみませんけど。何か飲み物とかもらえません?」

 かれこれ同じ姿勢で三時間も座りっぱなしの湖夏は、ちょっと疲れた様子である。

「よかろう。何かリクエストはあるかな?」
「ミルクティーとか」
「よろしい。茶葉から手配しよう。アッサムでいいかな?」と颯太は気取る。
「購買でいいだろ」
「冗談だ」

 颯太は部室を出ていった。俺はその隙に、颯太のマケットを覗き見ることにした。俺と颯太の位置関係は湖夏を挟んで西と東。ちょうど対になっていたから、制作途中を盗み見ることができなかったのだ。
 その前に北側に位置する直島の脇をすり抜ける。直島の作ったマケットは、正四面体が上下に重なった形をしていた。高エネルギーのビーム砲をぶっぱなしそうな形だ。コレってかわいいの? ていうか、湖夏にモデルになってもらった意味ないんだけど!
 颯太のマケットはきちんとまとまっていた。颯太が珍しくキャラコン部の活動に乗り気だったのは、久々に粘土細工をしてみたかったからなのだろう。颯太は中学生の頃、フィギュアの原型師に憧れたことがあった。三カ月で飽きてしまったが、その間、夢中でフィギュア作りに取り組んでいただけあって、基礎が生かされた均整のとれた造形だった。ただし、頭についた猫耳を除いて。これいるのか? 髪の下にも耳がついてる。耳が四つある。これってどういう仕組みなんだ。俺は耳を引きちぎりたい衝動を抑えながら、時計まわりに歩き、南側にいる美作の作品を見てみることにした。
 美作は一心不乱に粘土の形を整えていた。その像は、なんていうか……アニメのキャラみたいだった。目と口が大きく、鼻が小さい。俺がまじまじと見ていると、「み、見ないでください!」と美作は照れた。お前はもっとよく見たほうがいいよ、モチーフを!
 心の中で寸評を終え、自席に戻って自分のマケットと向き合った。凡庸としか言い様がない出来だ。内心あれこれと文句をつけたけれど、とても他人の作品を批判できるような腕ではない。
 湖夏は大あくびをして、一言、「退屈」と言った。

「いつまでこうしてればいいの」

 湖夏は眠そうな顔で言った。

「モデルがしゃべるなよ」
「ねえ、あんたの作ったの、見せてよ」
「やだよ」
「なんで」
「まだ途中だから」
「別にいいじゃない。見せてよ」
「……分かったよ」

 手元のマケットをくるりと回して、湖夏に見せた。湖夏はまじまじとその像を見た。

「ふぅん」
「どう?」

 湖夏は少し考えて、こう答えた。

「教科書に載ってそう」
「どういう意味だよ」
「あんたの作りたいのってそういうのなわけ?」
「……」 

 湖夏の指摘は正しい。何かが違う。作りながらそう感じていた。この像は究極の美少女などではない。湖夏に似せようとして似なかった像でしかなかった。

「違う」

 そう呟いて、自分のマケットをたたきつぶした。

「は!? あんた何やってんのよ!」

 湖夏は叫んだ。

「違う……俺の作りたいものは、全然こういうことじゃないんだ……!」
「なに急に芸術家みたいなこといいだしてんの? 私の三時間が無駄になったじゃない!」

 すると、美作も立ち上がった。

「ハルさん、さすがです!」

 そして同じく、自分の作り上げたアニメキャラをたたきつぶした。

「美雨! なんであんたまで!?」
「私も何か違うなって感じてたんですけど、ここまできたらもったいないなって思っていたんです。ハルさんに勇気もらっちゃいまいした!」
「あんたらバカなの!?」

 そこに飲み物を買いに出ていた颯太が戻ってきた。

「お前たち、何を騒いでいるんだ」
「ちょうどいいところに。聞いてよ。このふたりがせっかく作った自分の像、壊しちゃったの」
「なぜ」
「知らないわよ」
「俺の求める美少女は、こういうことじゃないんだ……」
「そう、違うんです……」

 俺と美作は頭を抱えていた。

「確かに私はハルの像はつまんないって思ったよ。でも、美雨のは何かいい感じだったのに」
「本当ですか?」

 美作はパッと顔を明るくした。

「うん。なのに壊しちゃって。もったいない」

 湖夏は、美作のマケットには何か感じるものがあったらしい。

「でもあれでは満足できません。もっともっとかわいくできるはずなんです」
「なるほどな。その挑戦、受けて立とう」

 そういうと、颯太も自分のマケットを机にたたきつけた。

「はあぁぁぁ?」

 湖夏は素っ頓狂な声をあげた。

「お前たちの理想は遙か高みにあるというのだろう? その意気やよし!」
「よくないわよ。何なのあんたたち!」
「……」

 それを見ていた直島もマケットを机にたたきつけた。

「なんであんたまで!?」
「……なんとなく」
「なんとなくってどういうことよ……もう付き合ってらんない。私は帰る」
「何を言っているんだ」

 颯太は湖夏にパックのミルクティーを投げた。湖夏は慌ててキャッチする。

「危な……投げないでよ!」
「君にも協力してもらわなければマケットは完成しないのだ。見ろ、これを」

 颯太は美術準備室に事前に運び込んでおいた像を指差した。それはモデルなしで作った像だった。子供が見たら泣き叫びそうな化物じみた姿をしている。

「あ……それって最初のやつだったんだ」

 湖夏の顔に、哀れみの情が浮かんだ。

「私からもお願いします! 湖夏さんがいないと完成しないんです!」

 美作も頭を下げた。

「私も。お願いします」

 直島も頭を下げた。お前は、湖夏必要か? 俺は心の中でツッコミを入れた。湖夏はじろりと俺を見て「あんたはどうなのよ」と聞いた。

「俺からもお願いするよ。正直、お前がモデルになってくれてずいぶん捗った」
「あ、そ」

 そういうと、湖夏は肩をこきりと鳴らした。

「じゃあ、もう少しだけ付き合ってあげる。でも、ちゃんと時間決めてよね。モデルをするのって、案外キツいんだから」
「ありがとうございます!」

 美作は喜びの声をあげた。

「あと、もう一杯お茶、出してよね」と湖夏はツンとして言った。

 その後さらに一時間ほどマケットに向き合ったが、下校時刻になってしまった。完成までまだまだ時間がかかりそうだったので、翌日も湖夏にきてもらう約束をして、その日は解散することにした。
 俺たちが校舎を出る頃には、白く丸い月が、東の空にぽっかりと浮かんでいた。駅前で美作たちと別れ、電灯がぽつぽつと灯る田舎道を湖夏と並んで歩いた。こんな風に湖夏と並んで学校から帰るのは、小学生以来かもしれない。

「いやぁ~楽しかった。部活もなかなかいいもんだね。私も入ろうかなキャラコン部」
「お前学校違うだろうが」
「別にいいでしょ。私ひとり増えたところで誰も困らないじゃない」
「そうだけど」
「美雨も直島さんも、いい人そうだったねぇ」
「お前、モデル引き受けたのってあのふたりに会うためだったんだろ」
「ふふふ……よくぞ気がつきました」
「いや最初から気がついてるから」
「ズバリ、ハル。あなた、美雨に気があるね」

 そう言って、湖夏は俺の眼前に指を突きつけた。

「だから違うって昨日も言っただろ」
「そんなこと言って。恋愛探偵の目は誤魔化せませんよ?」
「いつから探偵になった。ていうか何だ恋愛探偵って」
「あまりにも暇だったから、キャラコン部の人間関係を推理していたの。ハルが急にやる気出すなんて、これは絶対女の影響だと思ったわけ。しかも部員には石膏像みたいな半端ないイケメンまでいるじゃない。これはうかうかしてはいられない。早くものにしないと、アイツに取られちゃう。ハルがそう心配するのも無理はない」
「なにが無理はないだ。勝手に決めるな」

 しかし湖夏は無視して続ける。

「残った疑問は、ハルがどっちを狙うかだった。ちょっと幼い感じの金髪美少女と、クールビューティ。大人っぽい見た目が好みのハルなら直島さんかと最初は疑った」
「なに勝手に俺の好みを決めてんだ」

 そんなこと一度も言った覚えはない。

「でも、そこで私はぴーんときた。美雨は純粋で明るいし、裏表もないし、あの子がいるだけで周りがパッと明るくなっちゃうし。あれは反則だわ。男子も女子も、誰でもメロメロになっちゃう。あんな子を放っておける男なんているはずない。そう考えたら、どうにも怪しい。絶対何かあるとしか思えない。疑念が確信に変わったわ」
「それただの直感だろう」
「恋愛探偵は直感を信じるのよ。で、本当のところはどうなの?」

 なんて適当な探偵だ。結局自白に頼るつもりらしい。

「まあ確かに美作はすごくかわいいと思うよ。でも付き合うなら俺じゃない感はあるだろ」
「俺じゃない感とかどうでもいい。私はハルの気持ちを聞いてるの」

 湖夏は顔を近づけ、詰め寄った。

「いやそんなんじゃないから」
「じゃあ何なの。何で急に真面目に活動なんか始めたわけ?」
「湖夏はさっき、ノート見たよな」
「美雨の書いたノート?」
「そう」

 モデルをしてもらう前に、どんなものを作りたいかイメージを共有するため、ノートに目を通してもらっていた。

「俺さ、あのノートを見て、やらなきゃいけないって思ったんだ」

 俺は、眼前の夜空にぽっかりと浮かぶまん丸な月を見ながら続けた。

「もちろん、廃部の危機ってのはひとつのきっかけだったけど、それだけじゃないんだ。もし本気でキャラコンに出たいんだったら、俺にはできることがあった。でも、俺は何となく流されて、大会にも出られなくていいかって、心のどこかで諦めてた。でも、美作は違うんだよ。できるか、できないかじゃない。とにかくやるんだ、って思ってるんだよ。そんな奴がキャラコン部に来てくれたんだ。だったらもう、やるしかないだろう」

 湖夏はぽかんとした顔で俺の話を聞くと、ぽつりと呟いた。

「珍しい」
「何が」
「ハルがそんなこと言うの」
「そんなことないと思うけど」
「ハルってさ、中学生になってからかな……いっつもどこか冷めてる感じだったじゃない」
「そうだったか?」
「なんかひとつのことに入り込めないっていうか、何かにのめり込むのが恥ずかしいって思ってる感じでさ」
「ひどい言われようだな」
「否定してるわけじゃないよ。そう見えたってだけの話。でも、そうじゃなかったんだね」
「俺は心の熱い男ですから」とおどけると、湖夏は「バカ」と言った。

 

 明くる日も粘土をこね続けた。出だしは好調だった。確かな手応えがあり、昨日よりもずっといいものができあがると皆、確信しているのが表情からも伺えた。何しろマケットを作るのはこれで三度目なのだ。習うより慣れろ、である。
 だが、作業を進めるにつれてその確信はゆらいでいった。完成が近くなると、自分の思い描いていた理想とはかけ離れた塑像を前に、愕然とするしかなかった。
 手を止めて、腕組みし、自分のマケットを眺め、この先どうすべきか悩んだ。

「あんたの作りたいのって、そういうのなわけ?」

 湖夏の声が、頭の中に響いた。
 自分のマケットと向き合った。そこには根本的な何かが欠けていた。例えば耳の形がおかしいとか、口をもう少し小さくするとか、具体的に言えればいいのだけれど、その問題点をうまく言語化することができず、ひどくもどかしい。マケットは何となく湖夏に似ていた。だが、それではダメだ。湖夏に近づけることが目的ではない。湖夏の姿をベースにして、理想の美少女にまで昇華しなければならないのだ。
 あれ、これって昨日も同じこと考えてなかったっけ?
 行き詰まり、頭を抱えていると、「うわあああっ!」と、美作が奇声をあげて、自身のマケットを机に叩きつけた。

「どうした美作」
「違う……違うんです。私の求めているものはこんなものではないんです!」

 苦悩する美作の手は、わなわなと震えていた。

「落ちつけよ、みまさ……」

 そう言いかけると、背後で大きな音がした。颯太が自分のマケットを机に叩きつけたところだった。

「俺としたことが……」

 颯太は手で顔を覆い、呻いた。

「颯太、お前もか」
「見てくれ、これを」

 俺と美作は、机に叩きつけられたマケットを見た。顔の半分が破壊されていたが、残っている部分を見る限り、昨日よりもはるかに洗練されているように見えた。

「十分いい感じに見えるけど」
「お前の目は節穴か。よく見ろ」

 颯太はマケットの頭についている猫耳を指した。

「こいつに似合うのは猫耳じゃない。エルフ耳だった……」
「そこかよ」

 そのツッコミと同時に、背後で大きな音がした。振り向くと、直島が自分の塑像を机に叩きつけたところであった。

「お前は何が気に入らなかったんだ?」

 直島の破壊したそれは、人体構造を全く無視した結晶や宝石にも似た構造体だった。

「流れで」
「流れで、じゃないよ。おかしいだろ。最高にかわいいってのはどこいった」
「流れというのは言葉のあやだ。直島はこのマケットに不満があるから自分の作品を破壊した。違うか?」
「その通り」直島は頷く。
「直線で構成されたこのマケットのどこに不満があるわけ?」
「比率」

 どうやらその結晶は微妙なバランスで構成された危うい美をたたえていたらしい……って、このかわいさを分かる奴はこの世にいるんだろうか。そもそも、マケットを作る意味があるのか。いきなりCGでいいんじゃないだろうか。そんなことを考えていたら、颯太がこんなことを言い出した。

「俺たちのマケットに一切の妥協はない。お前はどうなのだ、ハル」
「え」
「一点の曇りもなく、自分の作ったマケットが最高と、胸を張って言えるのか」

 と問うた。

「まあ、最高とは言えないけど……」

 そう口を濁すと、

「ではお前も破壊すべきだ」

 颯太は俺のマケットにつかみかかった。

「やめろ!」

 颯太を羽交い締めにする。

「俺が代わりにやってやる!」
「お前はただ壊したいだけだろ!」
「その通りだ!」
「その通りじゃねーよ!」
「まったく……進歩しないわね、あなたたち」

 教室の真ん中でモデルをしていた湖夏が呆れたようにため息をついた。

「いい加減にしてよ。何回同じことを繰り返せば気がすむわけ?」
「どうしてもうまくいかないんです。ふがいないです」

 そう言って、美作はうなだれた。

「なにもそこまで凹まなくても。昨日も言ったけど、美雨のはいい感じだと思うよ?」
「そうでしょうか……」

 湖夏の慰めの甲斐もなく、美作はぐずぐずする。すっかり自信を失ってしまったらしい。

「俺の求めているのはイデアそのもの。俺の理想を具現化できるのは、神の手を持つものだけだ。ああ、俺は太陽を目指すイカロス。天に輝く日の光を目指せば、地上に墜ちる定めよ!」

 そう言って、颯太は天に向かって手を伸ばした。

「いちいち大げさなんだよ」
「とはいえ、自己ハードルの高さがクオリティを決定するのは事実」

 直島はぽつりと呟く。

「いくら高くたって、完成しなきゃ意味がないでしょうが」

 そう言って湖夏はため息をつく。
 至極もっともである。

「湖夏、悪いな。俺たちにもう少し技術があれば……」
「技術ねぇ」

 湖夏は不満な顔で、ちらりと俺のマケットに目を向けた。

「ハルの、ちょっと見せて」
「いいけど」

 湖夏は伸びをして体のこりをほぐすと、俺のマケットの前に座った。

「やっぱり図工の教科書みたい」と湖夏。
「しょうがないだろ。まだ技術が追いついていないんだ」
「昨日から技術技術言ってるけど、ハルの場合、そういうことじゃないと思うよ」
「どういう意味だよ」
「外ヶ浜さんと美雨と直島さんのには、それぞれ表現したいことがあった。けどあんたのは、なんかこう曖昧なんだよね~。霞がかかってるというか、ぼんやりしてるっていうか、ぱっとしないっていうか」とざまな感想を述べた。

「なんでそこまで言われなくちゃならないんだよ」
「別に悪口言ってるわけじゃないの。ハル自身の迷いがここに現れてるような気がするんだけど」
「むう……」

 そう言われるとそんな気がしてきた。俺の目指している美少女AIってどんなものだっけ……。

「もし私の言葉で揺らいだんなら、やっぱり曖昧なんだよ」と湖夏は俺の心を見透かしたように言った。
「ハルさんはどんな姿を目指していたんですか?」

 と美作は問う。

「それは……あれだよ。うまく言えないけど……」と口ごもる。
「ハル自身が分かっていなければ、それを表現することなどできないぞ」

 と颯太は突き放す。

「う……うるさいな……」

 そんなやりとりをしている間に、直島がマケットの前に立ち、どこから持ってきたのか、洗濯板を胸のあたりにとりつけた。

「なんで洗濯板?」

 その意味が即座に分からなかったが、美作と颯太は感嘆の息を漏らした。

「なるほど。そうきましたか」
「貧乳か……悪くない」
「いやただの洗濯板だけど。なんでお前ら通じ合ってんだ?」
「あーでも分かるわ」と湖夏は言った。
「お前もわかっちゃった?」
「いや、洗濯板がどうかってことじゃなくて。このマケットには芯になるものがないんだよ。何しろたったそれだけで全体の印象がガラッと変わっちゃうんだから」
「うぐ……」

 なかなか痛いところを突いてくる。

「ねぇ、ハル。あんたが思うことは色々あると思うんだけれど。私、我慢できない。このマケットに手を入れさせてくれない?」

 湖夏はうずうずとして言った。

「いいけど……」

 その答えを聞く前から、湖夏はすでに手を動かし始めていた。中途半端なマケットが、湖夏の創作意欲に火をつけたらしい。片手で粘土をこねながら、足りない部分に盛りつけ、器用にこてで形を整えていく。

「輪郭はもうすこし丸くするね」

 そう言いながら、湖夏はマケットの耳から顎のラインにかけて、こてを滑らせる。

「目はどうしたい?」と湖夏は聞いた。
「そうだなぁ……う~ん」
「もう少し……気持ち大きくした方がいいのではないかと思う」と直島が答え、俺の顔をちらりと見た。
「そうだな。俺もそう思う」
「大きいだけでは足りないだろう。いとしさと切なさと心強さも必要だ」
「いや、意味わからないから」
「ハル、ではお前はどうすればいいと思うのだ」
「そうだな……もう少し強い意志が感じられるといい、というか」
「意志のある表情の中に時折かいま見せる弱さ……無意識のうちに出てしまう綻びこそが、美少女には相応しいということだな」と颯太は言った。
「いやそこまで言ってない」
「だがそっちの方がいいだろう」
「まあね」
「意志の強さは欲しいですね。どんな願いも叶えてくれる。そんな子になるわけですから」美作も深く頷いた。
「ふぅん。なるほど」

 俺たちの話を聞いていた湖夏は、マケットの目元に手を入れ始めた。左手で捏ねていた粘土を塑像の瞼に押しつけ、こてでならしながら、全面的な改修工事に取りかかる。

「湖夏」
「なに」
「お前、マケットうまいな」

 湖夏が粘土をこね始めてからわずかな時間で、ぼんやりとした粘土細工は魂を宿したように、生き生きとした姿に変わっていた。技術的なことは分からないけれど、素人目に見ても明らかに良くなっている。

「それはあれだよ……美大生の影響かな」

 湖夏は手を動かしながら言う。

「そんなのと付き合ってたっけ?」

 俺が言うと、湖夏はちょっとおどおどした。

「そ、そうよ? 彼、彫刻専攻だったからさ。ほら、趣味って似てくるじゃない?」
「そういうもんか?」俺は美作を見た。
「何で私を見るんですか」と美作は慌てる。
「読書が好きな人間とつきあうために、本を読む。絵が好きな人間と付き合うために絵画展に行く。山が好きな人間と付き合うために、山ガールになる。趣味を糸口にして男を籠絡するのは王道の手口だ」と颯太は頷く。
「手口とか言うな。しかもそれゲームの知識」
「ゲームは現実の人間の習性をベースに作られている。付き合うと趣味は似るということはひとつの真実。もちろん、例外はたくさんあるけれど」などと、今日は直島も言葉数が多い。どうやら湖夏の巧みな技に魅せられ、気持ちが高ぶっているようだ。
「お前、昔から何やっても勘がいいって思ってたけど。まさかこんなことまでできるなんて思わなかったな」
「え、ハル、そんなこと思ってたの?」
「うん」

 湖夏は小学校の頃から何事においても勘が良かった。水泳も鉄棒も野球もサッカーもバスケも、始めるとあっという間に上達した。大してボールに触ったことがないという極めて低いレベルからスタートしても、あれあれよという間にクラブに入っている子たちを追い越し、学年で一番の技を披露したりした。ただし、極めて飽きっぽいので長続きはしなかった。
 優れた観察眼とそれをものにする鋭い感性を持っているんだろうなとは思っていたけれど、それはスポーツに限ったものではなかったらしい。
 湖夏は淀みなく手を動かし続け、間もなくその動きがピタリと止まった。

「できた」

 湖夏は呟くように言った。
 俺たちは完成した塑像を見てはっとした。美作も颯太も直島も、その像の中に自分が込められなかった最高にカワイイと思う要素を見出したようだった。

「どう?」
「すごいな。ていうか……お前、なんで俺の趣味わかるの?」
「それは幼なじみだからです」

 と湖夏は胸を張った。

「ハルさんだけじゃありません。私のツボもバッチリおさえてますよ」
「それは美雨の作ったのを見てるからね」

 美作の作った像を見ただけで、美作自身が表現したいポイントを見抜く観察眼も驚きだが、それを実際に表現できるというのは、もはや魔術的ですらある。

「完璧だな」
「カワイイ」

 美作、直島、颯太は口々に湖夏を褒めた。

「ありがと」

 湖夏はちょっとはにかみ、机の上にこてを置いた。

「はい、じゃあ終了」
「お疲れ様でした~!」

 俺たちは湖夏に頭を下げた。

「私おなかすいちゃった。どっかご飯食べにいかない?」

 湖夏は伸びをしながら言った。

「行きましょう!」美作が立ち上がった。「湖夏さん、何か食べたいものはありますか?」
「そうねえ……」
「肉?」直島がぽつりと言った。

 湖夏の眼がキラリと光った。

「いいね」
「私、ハンバーグのおいしいお店知ってます!」と美作。
「でも私、今日お金ないよ?」

 と湖夏は肩をすくめる。

「心配いりません。今日はおごりです。部長の!」
「なんで俺!?」
「マケットが完成したお祝いです」
「いや、おごりの理由になってないぞ」
「悪いね、ハル」湖夏はイタズラっぽく笑う。
「ちょっと待て。俺はおごるとは言ってない」
「ゴチになります」
「直島、なんでお前まで」
「ハル。部員全員にハンバーグを食べていただけるんだ。むしろ感謝しろ」
「おごらせていただいて、ありがとうございますって? おかしいだろ!」

 美作は手をあげた。

「それじゃご案内します。私についてきてください!」
「は~い」

 湖夏と直島は、美作を先頭に移動を始めた。

「は~いじゃないよ、お前ら!」

 鞄を引っつかみ、その後を追いかけた。

「お腹空きすぎ」
「我慢できません。走りましょう!」
「OK」

 夕暮れに染まった廊下を、三人の少女がぱたぱたとかけていく。

「おいおい走るのかよ……颯太、行くぞ!」
「イヤだね。ハル、場所はあとで教えろ」

 颯太はのんびりと歩いている。勝手な奴だ。

「先行くぞ」
「ああ」

 三人を追いながら、美術準備室のある校舎を抜け、体育館の前に出た。バレーボールのはねる音と、運動部員たちの号令が響いている。
 あ、と思った。
 その瞬間、トランペットの音が晴れ渡った夕暮れの空に高らかに響いた。剣道場の竹刀の音。白球を叩く金属バットの快音。軽音楽部の激しいドラムのリズム。夕方の学校は、様々な音に満ちていた。

「ハルさん、早く!」

 向こうで美作が俺の名前を呼んでいる。
 キャラコン部も学校に満ちる音のひとつになっていた。

 

 姉から実家に電話がかかってきた。母に近況報告をしたあと、姉は俺を呼び出した。珍しく相談なんかを持ちかけた弟のことを、姉は案じていたらしい。遥は一度目標を定めると、矢のようにまっすぐに突き進む単純な性格をしている。だが、常に周りに気を配る優しさがある。そこが姉の良いところだ。
 美作、直島、湖夏の三人がメンバーに加わり、その活動が軌道に乗りつつあると報告すると、一緒に喜んでくれた。

「良かったじゃない」
「うん。だけどさ、部長としては心中複雑だよ」
「なんで」
「美作、直島、湖夏、みんなすごいんだ。あいつらを見てると俺は何もできないなって思っちゃうよ」
「うわ贅沢な悩み」

 美作には美少女AIを作りたいという溢れるほどの熱意とアイデアが、直島には美少女AIを作り上げるプログラミングの知識が、湖夏にはアイデアを具体的な形にできる造形の技術がある。

「俺にできることを探さないとなって思ってる」
「ま、それがわかっただけでもいいんじゃない?」

 それよりもさ、と姉は話題を変える。

「あんたの話を聞いてて、美作美雨ってどっかで聞いたことあるなーって、なんか引っかかってたんだけど、その理由が今わかったわ」
「え? 美作のこと知ってるの?」
「んーん。ただの勘違い。カナダの失踪事件。一年前くらいかな。十四歳の女の子が失踪したってやつあったでしょう」
「知らない」

 そんな事件あったのか?

「あったの。その子と名前が似てたのよ」
「なんて名前」
「ミマサカミサ」
「ああ、確かに似てるね」

 電話をしながら、スマートフォンでミマサカミサを検索してみた。
 英語のニュースサイトに、美作にそっくりな少女の写真が掲載されていた

(つづく)


次回5月11日更新予定


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著者:穂高正弘
キャラクターデザイン:はねこと


©SUNRISE


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