【第09回】ぼくたちは人工知能をつくりたい

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美少女AIの掟
  • ひとつ、美少女AIはどんなことがあっても私たちを守る。
  • ふたつ、美少女AIはどんなことがあっても私たちの願いを叶える。
  • みっつ、美少女AIはどんなことがあっても自分の命を守る。
  • ただし、掟は設定された順に優先される。ひとつ目とふたつ目が矛盾した場合、ひとつ目が優先される。
人工知能(キャラクター)を作るための五工程
  • (0)※まず仲間を見つける
  • (1)性格を決める
  • (2)容姿をデザインする
  • (3)CGモデルを作る
  • (4)「学習プログラム」と「人格生成プログラム」の実装
  • (5)ロボットのAIとキャラコン部オリジナルのAI、人間の連動訓練

第9回:一週間~

 暗がりに、ぼんやりとミサが浮かんでいた。そのミサに向かって、何か黒いものがひたひたと近づいてくる。蜘蛛に似た、長い手足を持った怪物だ。怪物は今にもミサに襲いかかろうとしている。ミサ、逃げろ! 必死でミサに呼びかけた。だが、その声はミサには届いていないようだった。声は深く濃密な闇の中に吸い込まれた。ミサが何かを呟いた。しかしそれは、人の言葉ではなかった。何だ、ミサ。何て言ったんだ。ミサは怪物に追われるようにして、闇の向こうへと走り出した。必死にミサに呼びかけた。ダメだ、そっちに行っちゃダメだ。けれど、ミサは振り向きもしない。ひとり残され、呆然とする俺の隣で、誰かが言った。あれはミサじゃない。

「ミマサカミサだ」

 

 本が床に落ちる音で目が覚めた。

「あ……」

 そこはいつもの部室だった。

「大丈夫ですか、ハルさん?」

 美作が本から顔を上げた。いつの間にか寝入っていたらしい。床にはさっきまで読んでいた、人工知能に関する本が落ちていた。

「お前には難しすぎたようだな」

 VR5を被った颯太が言った。

「うるさいな……」

 床の本を拾い上げ、埃を払い、読んでいたところまでページを繰った。
 ふと、さっき見た夢が、頭をよぎった。
 ミマサカミサ。
 カナダで失踪した女の子と美作に関係があるかもしれない、という疑いは、日増しに大きくなっていた。だが、美作に聞くきっかけはつかめないままだった。

 

 ミサが眠りに落ちてから一週間が経っていた。短い研究期間ではあったけれど、「自己生成プログラム」を理解するために乗り越えなければならない壁が、どれ程の高さなのかが分かってきた。アルゴリズムを理解するためには、微積分や行列など、数学の知識が必要不可欠であること、現在の知識ではとても歯が立ちそうにないこと、必要となる知識の範囲はとんでもなく広いこと、などである。
 その間ミサは、こんこんと眠り続けた。VR5の外部カメラを通じて観察すると、ミサは目を閉じたまま、波に揉まれるように、部室の周りをゆらゆらと漂っていた。演算処理を行っているパソコンは、休む暇もなく唸りをあげていた。
 我々キャラコン部はそのような穏やかな日々を過ごしていたのだけれど、世界では未曾有の大事件が起きていた。ひとつは新たなヘッド・マウント・ディスプレイの実験機が発表されたこと。もうひとつは、ロボットを使った同時爆破テロ事件が起きたことである。
 VR5の後継機にあたるヘッド・マウント・ディスプレイの発表があった。肉体の感覚器官を介することなく、脳と直接やりとりをする技術が確立したと、ある研究所が発表したのだ。

「脳の視覚野に直接信号を送ることで、映像を『見る』ことができる技術です」

 と開発担当者は会見で答えた。それは「見る」だけではなく、五感すべてを脳の中で再現できるという。また、脳に信号を送るだけではなく、その信号を読み取り、外部端末を操作することも可能になるという。
 この技術でどんなことが可能になるか。
 目を閉じたままゲームができるということだ。
 商品化は遠い未来になるだろうけれど、その革命的大発表に颯太と俺は「すげー!」と興奮したが、湖夏と美作と直島は冷ややかな反応だった。

「なんか気持ち悪くない、それ」と湖夏は直感的に嫌悪し、「私はコントローラー至上主義ですから」と美作はいちゲームユーザーの観点から渋い評価を下し、「開発されていることは昔から知っていた」と直島は知識を披露した。

 

 もうひとつはテロの話だ。
 五日前の日本時間二七時に、世界十一の主要都市で爆発事件が起きた。その規模から言うと、けが人なしというのは奇跡と言ってもいい状況だったらしい。犯人の声明はなく、思想的なバックグラウンドは分からないままだった。
 爆弾の運搬には人工知能を搭載したロボットが使われていた。
 それゆえ、ネット上では今年のキャラコンは中止になるのではと関係者が騒いでいた。(実にお気楽な奴らだ)
 そんな中、主催者はすぐに声明を出した。

「今回の非道な事件を受けて、我々キャラコン実行委員会は技術を正しく使える技術者が必要なのだと、より強く実感しました。科学技術の発展は、我々人間の生活を豊かにします。しかし使い方によっては、人間を害することにもなります。その事実は多くの歴史が物語っている通りです。
 犯人はまだ名乗り出ていません。一体何の目的でこんなことを行なったのか不明ですが、どんな理由があったとしても、こうした活動は容認できません。
 皆さんも知っての通り、人工知能はすでに我々の生活にくまなく入り込み、必要不可欠なものになっています。この世界から排除することはできません。なかった頃に戻ることもできません。
 ですから、我々のとるべき正しい態度は、優秀な技術者を育て、正しい道に導くことです。我々はテロに屈することはありません。今年度の高校生キャラコンは、予定通り実施致します」

 俺はそのテロ事件に戦慄すると同時に、なんだかわくわくした。
 世界を脅かす危険なものの一端に自分が触れているのだと、興奮した。直島の貸してくれた本には、ネットワーク上ではすでに人工知能を使ったサイバー戦争が起きていること、ネットワークと通常兵器が融合し、使われるようになっていること、人工知能の運用に関する法整備はまだ現実に追いついておらず、世界各国が手探り状態で事態に対処していることなどが説明されていた。
 悪意を持って人工知能を使う匿名の「攻撃者」に対して、人類は、あまりに無防備だった。ネットワーク上では人工知能が無数のマルウェアを生み出し、ありとあらゆるところにばらまいているそうだ。ある研究者によれば、現在特定できているものは三〇パーセント程度で、それ以外はウイルスと特定されることもなく、個人や企業のパソコンの中で静かに息を潜めているのだという。そして、あるきっかけでそのウイルスは一斉に目を覚まし世界を破壊する。
 今回のテロ事件も周到に用意されたもののようだった。事件が起きた時、監視カメラなどのIoT機器やセキュリティ会社の連絡網が寸断されたのは、そうしたウイルスの仕業だと言われている。
 そうした危機から身を守るためには、個人が知識をつけるしかない。その知識は防御だけではなく、攻撃にも転用できる危険なものである。
 その危険さ故に、人は強く魅かれる。
 人生を変えてしまうような大きな力が身近に存在し、それを手にしてみたいという渇望が、血を沸き立たせる。
 そんな世界に生まれることになるミサは幸福なのだろうかと、ふと思った。
 何とかなるだろう。いつの世の中にも完璧な幸福などない。それでも人は生きてきた。だから、絶対に大丈夫だ。
 そんなことを考えされられた一週間だった。

 

 美作、直島、颯太、俺の四人は、そわそわしながら、電子レンジくらいの大きさの箱を囲んだ。箱には透明なプラスチックの小窓がついていて、中に入っているものの顔が見えた。人間の赤ちゃんくらいの大きさのロボットである。まん丸な大きな目の愛嬌のある顔をしている。

「カワイイですねぇ」と美作はうっとりした。
「ふむ。見た目のわりにけっこう重いな」颯太は箱を持ち上げ、手で重さを測った。
「重量はあるけれど、ハイパワー。フットワークは軽い」と直島は仕様書を読みながら言った。
「燃費良さそうな外見してるのにな」
「確かにエコカーみたいですね」と美作も同意する。
「しかしその中身は、ジャガー」
「羊の皮を被ったモンスターマシンか」
「こんなにカワイイ顔をしているのに。何だかこのロボットが恐ろしいもののように思えてきました……」
「あんまり美作を怖がらせるなよ」
「おそれる必要はない。お前ならばそのモンスターを飼いならすことができる」
「が、頑張ります!」
「ていうか、モンスターじゃないから。ミサがキャラコンで操縦する競技用ロボットだ」
「ハルさん、そろそろ開けましょう」
「そうだな」

 蓋を開けると、「おお〜」と歓声が上がった。梱包材の中からそのロボットを取り出した。傷ひとつないぴかぴかのボディ。新品のおもちゃや機械を開封する瞬間には、何物にも代え難い喜びがある。

「動かしてみたい?」と直島。
「みたい!」俺たちは声を揃えた。

 直島がロボットの起動準備をする間、颯太はそのロボットに、フィギュアのようなかっこいいポーズを取らようとした。だが、うまくいかなかった。関節がぐにゃぐにゃで、座ることもできず、その場にへたり込んでしまった。

「なんという無様な姿だ……」颯太は顔に失望の色を浮かべた。
「これ、大丈夫なんですか?」美作も心配そうである。
「心配ない。まだ目覚めていないだけ」と直島は冷静に答えた。

 直島は無線で、ノートPCとそのロボットを繋いだ。そしてコマンドを打ち込むこと数分。突然、ロボットの手足がはねるように伸びた。

「おお!?」

 ロボットは手足を器用に折り曲げ、ひょっこり立ち上がった。

「おお~!」

 自然と拍手が起きた。

「立ちました!」
「動きもスムーズだな」
「もう少しぎこちないと思っていたけれど」
「このロボットには人間の骨格に近い特別なフレームが組み込まれている。だから、人間らしい動きが再現できる」
「特別なフレームですか。やっぱりお高いんですかね」と美作が言った。

 直島は頷いた。

「結構な車が買える」
「え、マジで?」
「紛失したらどうなるんでしょう」

 ゴクリと唾を飲む。すると、直島がふっ、と笑みをこぼした。

「冗談」
「なーんだ」
「びっくりさせるなよ、直島~」

 直島の言葉に、一同胸を撫で下ろす。

「ごめん」
「本当はいくらなんだ?」

 直島は机の上にある紙にその額を書いた。その値段は一桁上がっていた。

「逆に高いってことじゃないですか!」
「車どころじゃないだろこれ!」

 慌てふためく我々を尻目に、直島はしれっと答えた。

「心配しなくていい。このロボットは高校生キャラコンの実行委員会から貸し出されたものだから、当然無料。それからさっき提示した価格はライセンス料を含めた買取の額。ボディ自体は3Dプリンタを使って作られているからとても安価。紛失のリスクは高くない」
「あ、そうなんだ……」
「安いんだか高いんだかよく分からないな」
「技術開発費が高い」と直島は言った。
「それより何よりNAGIちゃん、早く動かしてみてください!」と美作が鼻息荒く言った。
「わかった」

 直島はキーボードを叩き、コマンドを走らせた。

「やっぱりあれですかね。歩くだけでも大変なんですかね」
「『歩いた!』って周りがどよどよするやつだな」
「アニメか」

 そんな話をしていると、ロボットの口から楽器の音が鳴り出した。

「……ん?」
「これは、笛ですよね?」

 笛と鐘の音。和を感じさせる節回し。するとそのロボットは、おもむろに腰をおとし、音に合わせて手足をくねくねと動かし始めた。

「……踊っている!」
「これって阿波踊り?」
「正解」直島は答えた。
「なぜ阿波踊りなんだ」
「ミスマッチな取り合わせが妙」
「答えになってないし」
「絶対直島の趣味だろ」
「踊れることはわかった。早く歩くところを見せてくれ」

 颯太がいうと、直島は首を振った。

「残念だけど、まだ歩けない」
「踊れるのに?」
「歩行は制御が難しい。歩行制御用の人工知能を使う必要がある。その操作は複雑で、人間には扱えない。だから、ミサが必要」
「人工知能を動かすために、人工知能が必要なのか?」と颯太は眉根を寄せた。
「そう。高校生キャラコンとは、そのロボット内部に仕組まれた人工知能を動かすための、人工知能の『感じのよさ』を競いあう大会。そういうわけで、ミサが目覚めなければ、この先には進めない」と直島は答えた。

 部員たちの目が一斉にモニターの中のミサに注がれた。ミサは相変わらず、穏やかな顔で部室の中をたゆたっていた。

「眠りについてからもう十日目ですけど……NAGIちゃん、ミサはいつ起きるんでしょう?」
「わからない」と直島は首をふる。
「ひたすら待つしかないってことか」
「そういうこと。しかし、時期的にはよかったかもしれない」
「なんで?」
「もうすぐテストだから」と直島は答えた。

 俺と美作と颯太に衝撃が走った。その様子を見た直島は、小首を傾げた。

「どうしたの?」
「テ、テテテ、テストだそうですよ。知ってました、ハルさん」と美作は激しく動揺していた。
「も、ももも、もちろんだ。なあ、颯太」
「と、ととと、当然だ。テスト初日に発売される新作『ディストピア6VS』の予約を忘れていたなど……俺に限ってありえない!」
「お前の動揺だけ別物!」

 「ディストピア6VS」とは「ディストピア6」のスピンオフ作品だ。FPSを対戦格闘ゲームに移植したもので、夏休みにはその世界大会が開かれるらしいが……、そんなことよりも今はテストだ。このままでは確実に赤点コース。そうなれば、補習補習でキャラコンどころではなくなる。まずいことになった。まずは、真面目な奴のノートを写させてもらうしか……そういえば湖夏って中学の頃、真面目にノート取ってたよな。そこではたと気付いた。

「まさか湖夏が来ていないのは」
「こなっちの椿山高校もテスト前」

 なぜ気づかなかったのだ。テスト前というヒントは目の前に転がっていたというのに!

「こうしてはおれない!」

 颯太はだっと部室から飛び出した。

「すぐに予約だ!」

 俺たちは黙ってその後ろ姿を見送った。

「うん。ややこしくなるから、これでよかったよ」
「授業中、何度もアナウンスされてるはずだけど」と直島は不思議そうに言った。
「うっ!」

 俺と美作は顔を背ける。

「もしかして、人工知能の本を読んでて、聞いてなかった?」直島は聞く。
「ううっ!」

 俺と美作はさらに顔を背ける。

「……ハルさん、勉強してますか」
「……してるわけないだろ」
「NAGIちゃん、勉強は得意ですか」
「得意というほどではない」と直島は答えた。
「なるほど」

 察するに、俺よりも成績はいいに違いない。

「ハルさん。テスト勉強をしましょう」
「え?」
「私の家で。みんなで。どうですか?」

 どうですか、と言われても。

 

 美作の勉強会の提案を受けることにした。
 赤点は避けなければならなかった。だがそれ以上に美作がどんな家に住んでいるのか、興味があった。やはりかわいいぬいぐるみに囲まれた部屋だったりするのだろうか。いやいや違う、と頭を振った。これは調査なのだ。家族写真があれば、それをきっかけに美作とミマサカミサの繋がりがみえてくるかもしれない。そんな誰にするでもない言い訳をした。
 要するに、浮き足立っていた。
 湖夏も誘ってみたが、乗ってこなかった。

「そんなんで捗るわけないでしょ。絶対遊んじゃうし」

 SNSでメッセージを送ると、そんな返事が返ってきた。

「そういうもんかな」
「そういうもの。というわけで私はパス」
「はいはい」

 湖夏の言う通りかもしれない。だが、どうせ大して進まないのであれば、美作の家で勉強しようが、自宅で勉強しようが一緒だ。
 休み時間、颯太を誘ってみたが、湖夏と同じくつれない返事だった。

「俺はテスト前に勉強などしない」と颯太は言い切った。
「やっぱりそうだよな」

 颯太は教科書に載っている内容は授業中にすべて脳に焼き付けるというのが信条で、授業は一切聞かずに教科書と睨めっこをするような自学自習の男だった。
 そういうわけで、本日の勉強会の参加メンバーは俺、美作、直島という三人と相成った。

 

 美作の家は駅前にある高層マンションの一室だった。三五階建。目を引くひときわ高い建物だ。

「このマンションに住んでいる知り合いがいるなんて……!」

 高級感のあるマーブル模様の石(たぶん大理石)が敷き詰められた共用廊下を歩きながら震えた。

「部長、見て」
「あ、藤蔓……」

 直島が指差す方向をみると、藤蔓高校が見えた。緑の山の中腹に豆粒ほどの校舎がぽつんと建っている。

「ふたりとも何してるんですか。早く」

 玄関で美作が手招きしている。

「お、おお……」

 緊張気味に、美作の家の玄関に足を踏み入れた。

「お邪魔します……」

 美作の家は質素だった。通されたのは、十二畳ほどのカウンターキッチンのついたリビングだった。こじんまりとした食卓セットと、食器類を収納するための小さな木製のキャビネットが置かれている。世帯用らしく、他にもいくつか部屋があるようだった。

「もしかして片付けた?」
「いえ。いつも通りですけど」と美作は答えた。
「随分ガランとしてるけど」
「私、あまりものを持っていないので。お家にいる時間も少ないですし」と意外なことを言った。
「そうなんだ」

 内心、ちょっとがっかりした。もっと可愛い感じだと思っていたのに。

「私ひとりですから。身軽な方がいいかと」と美作はこともなげに言った。
「え。美作ってひとり暮らし?」
「はい」
「親は?」
「カナダに住んでます。ふたりとも仕事がありますから」

 この歳でひとり暮らしとは。ちやほや育てられたお嬢様、という印象を持っていたが、違ったらしい。

「炊事洗濯とか自分でしてるってこと?」
「もちろんです」

 美作は平然と言い放った。

「親が心配したりしない?」

 そういうと、美作は軽く肩をすくめた。

「近くに親戚が住んでますから」

 

 美作がキッチンでお茶を淹れている間、俺と直島は部屋の様子をぼんやりと眺めた。
 もしも俺がひとり暮らしをしたいと親に言ったら、何というだろうか。こんなマンションを借りてくれるだろうか。無理だろうな。俺の家より綺麗だし。

「こんなものしかお出しできませんけど」

 そう言いながら、美作は紅茶の入ったティーカップを出した。シンプルな形の、品のいいカップだった。数は少ないけれど、机や椅子やカップなどの家具や食器の選び方に、美作自身のセンスのよさが現れているような気がした。

「あ、そうそう。差し入れがあるんだ」

 部屋に夢中ですっかり忘れていた。持ち込んだビニール袋を差し出す。

「コンビニのだけど」

 中身はポテトチップスだった。

「それはポテトチップス! 私、食べてみたかったんです!」と美作ははしゃいだ。
「いやそんな限定の味とかじゃないけど。普通のコンソメだし」
「限定なんて恐れ多いです。私、ポテトチップス自体食べたことなくて」
「え、マジで?」
「はい。親が買ってくれなくて。ひとりで食べるのも何か違うなって思って。特別な日に食べようって心に決めてたんです」
「いやそこまでのもんじゃないけど。じゃあ、折角だし開けようか」

 袋に手をかけると、美作は慌てた。

「待ってください。私が開けます!」
「いいけど」
「本当ですか!? 感動です!」
「だからそこまでのものじゃない」
「では人生初のポテトチップス。開けさせていただきます」

 美作は力一杯、開け口を引っ張った。
 顔を真っ赤にして力を込めているが、開かない。

「……ハルさん、もしかしてハサミがいるんですかね」

 美作は袋の口を引っ張りながら聞いた。

「いや。なくても開くし」
「そのギザギザを引っ張っても開く」と直島。
「NAGIちゃん、分かっているんです。でもそんなことをしたら負けな気がします!」

 そう言いながら、美作は袋の口を引っ張り続けた。

 

 無事ポテトチップス開封の儀も終わり、(結局俺が開けた)勉強会を始めた。参考書とノートを取り出す俺たちを尻目に、直島はノートパソコンといつも使っているメモ帳を取り出した。

「テスト勉強にそれ使うのか?」
「そう。こういうのがある」

 直島はノートパソコンをくるりとこちらに向けた。モニターには「テストに効くサプリ」という動画が映っていた。

「何このサプリって」
「テストに出るポイントを絞って教えてくれる動画」
「そんなのがあるんですか?」美作も食いついた。
「このアプリの中には人工知能が組み込まれていて、データが蓄積されると、苦手な部分の動画を自動でチョイスしてくれる」
「ここにも人工知能かよ」
「本当にありとあらゆるところに……人工知能、おそろしい子!」
「私はずっとこれ一筋」

 そう言うと直島は動画の再生ボタンを押した。世界史の授業だった。俺でも知っている有名な予備校講師が、ポイントを絞ってテスト対策をしていた。
 無言で画面を見ること十五分。見終わった美作と俺は、呆然とした。

「なんと分かりやすい……!」
「こんな便利なものが世の中にはあるなんて……!」
「でもこれ、お高いんでしょう?」と聞くと、直島はしれっとした様子で「一カ月五〇〇円で見放題」と答えた。
「五〇〇円!?」
「オプションは追加料金を支払う必要があるけれど。今回のテスト範囲なら必要ない」
「マジかよ。このクオリティで!?」

 直島は頷く。手元の参考書に目を落とす。定価二〇〇〇円。しかもほとんど使っていない。このサプリに四カ月投資した方がよっぽど経済である。直島は続いて、メモ帳を開いた。

「私は動画を見たあと、思い出しながら、この図を作ることにしている」

 直島はそういうと、メモ帳の真ん中に「ウェストファリア条約」と書いた。

「いきなり真ん中!」
「私はグラタンも真ん中からいく」
「いやそれ関係ないし」
「囲碁も真ん中から始める」
初手天元しょててんげん!」
「そして真ん中から枝を伸ばして木を作る」
「木?」
「そう」

 直島の手が止まった。

「……どうした」
「次に何を書くのか、忘れた」
「早いよ!」
「そういう時は動画を見ればいい」

 直島はPCを再度クリックした。

「こうして自分の記憶がきちんと定着したかをチェックする。これが私の勉強法」
「なるほど」
「やってみる?」

 直島式勉強法(俺が今名付けた)を試してみることにした。直島はすらすらとメモを書いていくが、俺と美作の手はすぐに止まってしまう。

「次、何でしたっけ……」
「最初に三つのポイントを押さえようと言ってたよな」
「そう、大枠をつかむことが大切。その三つを真ん中に書く」
「あとふたつ、何だっけ」
「わ……忘れました」
「分からなくなったら」
「動画に戻ればいい!」

 直島の教えに従って、メモ作りに没頭した。メモを完成させ、ふと時計を見ると一時間が経っていた。集中力が持続している。この方法悪くないかもと、俺と美作は頷きあった。

 

「しかし、腹が減ったな……」

 そう呟いた時、時刻は七時を回ろうとしていた。

「ハルさん。私もです」美作は深刻な顔で答えた。
「いや、そんな顔しなくても」
「近年感じたことのないほどの空腹です」
「そんなに?」
「脳がエネルギーを消費しすぎたようです」

 たしかに頭のあたりに、ぼんやりとした気だるさがあった。

「残念ですが、おふたりに持ってきていただいたポテトチップスだけでは足りなかったようです」

 ポテトチップスは勉強会開始早々に消えていた。

「今日は場所も貸してもらったし。俺が何か買ってくるよ」

 立ち上がろうとすると、美作が引き止めた。

「その必要はありません、ハルさん。出前を取ればいいのです」
「出前だと……!」

 またも我が家にはない文化の登場だ。

「以前、部長に奢っていただきましたから。今日は私が出します」
「そういうわけにはいかないよ。なあ直島」
「Du hast Recht.」
「何て言った?」
「『その通り』」

 直島は動画でドイツ語講座を見ていた。ていうか、テストでドイツ語は出ない。

「でも私はお腹が空いているんです」
「やっぱ何か買いに行こう」
「Ja.」
「もうドイツ語はいいから」
「三人で行きますか?」
「くじ引きにしよう」

 直島が言った。

「みんなでお金を出し合う。くじ引きであたりを引いた人が買いに行く」

 直島がPCの画面を見せた。そこにはあみだくじが表示されていた。直島お手製のプログラムらしい。

「準備いいな」
「どうする?」
「やろう」

 直島は「残り物には福がある」などと言って、選択権を譲った。場所の提供者ということで美作が一番に選び、俺が二番、直島が残りを選んだ。

「それではミュージック、スタート」

 直島がクリックすると、PCからダラララララと軽快なドラムロールが流れた。

「いろいろ仕込んでるな」
「さすがNAGIちゃん」
「さて結果発表」

 ドラムロールが終わると、あみだを隠していた幕が落ちた。当たりは……直島だ。

「我的天(なんてこった)!」
「ドイツ語じゃないのかよ」

 

 廊下に出て、夕食は食べて帰ると家に電話をした。部屋に戻ると、美作は窓を開けて外を眺めていた。日が落ちて闇に溶けた山の稜線に、緑色の灯火が煌めいていた。山の向こうの街の明かりが、山際を照らしているのだ。そよ、と夜気を含んだ風が吹き込んで、美作の薄い金色の髪が柔らかになびいた。

「冷えるぞ」
「大丈夫です」

 美作は振り返らずに答えた。

「私、ここからの眺めが好きなんです。見てください」

 美作の隣に立ち、俺たちの住む街を見下ろした。無数の小さな灯りが眼下に広がっていた。見慣れたはずの景色が、少しだけ違って見えた。

「どうですか?」
「うん。悪くない」
「あの光ひとつひとつに、いろんな事情を抱えた人間の営みがあるんだなって思うと、何だかときめきませんか」
「それは想像力豊かなことで」
「楽しいこと、嬉しいこと、辛いこと、悲しいこと。いろんな一日を過ごしてきた人たちが、あの光の下で安らかな時を過ごしている。そういうのを幸せと呼ぶんじゃないかと私は思うんです」

 そういう美作は少し寂しげだった。美作の孤独を思った。家族から離れ、ひとり藤蔓で暮らすことを選んだ美作の日常は一体どのようなものなのだろう。ひとりで掃除をして洗濯をして、食事(美作の場合、出前で済ませているようだが)を作り、食べて、風呂に入り、眠り、目覚め、支度をして、ゴミを捨て、登校し、授業を受け、キャラコン部へ行き、帰宅する。その繰り返し。その日々を淡々と繰り返す。今日勉強会をしようと言い出したのは、寂しかったからなのかもしれないな、とそんなことを思った。

「なあ、美作。後悔してないのか?」と聞いた。
「何をですか?」
「藤蔓に来たこと」
「ハルさん、何を気にしてるんですか?」と美作は眉を潜めた。
「憧れの部がこんな体たらくで、さぞかしがっかりさせてしまったのではないかと思ってね」と、おどけてみせると、美作はふっと微笑んだ。
「最初はちょっと思いました」
「やっぱり?」
「でも私は間違っていました。私は、ハルさんがいて、NAGIちゃんがいて、こなっちがいて、颯太さんがいるキャラコン部が好きです。そしてもうすぐ新しい仲間がやってくる。今私は、想像していたよりもずっとワクワクしています。前の学校にいたら、きっとこんな楽しいことなかった」

 転校してくる前の話を聞くのは、それが初めてだった。それまでは聞いても、はぐらかして教えてくれなかった。

「どんなところだったんだ?」
「進学校でした。みんな目標があって、一心不乱に勉強に打ち込んでて……それはそれで嫌いではなかったんです。けど、ある時から勉強に手が付かなくなっちゃって」
「そうなんだ」

 美作は淡く緑色に輝く山際を眺めながら続けた。

「何だか急に怖くなったんです。私はこれからも大切なものを失くしながら生きていくんだな、って」
「大切なもの」
「はい。その時、そう思ってしまって」

 それきり美作は口をつぐんだ。
 失われていく大切なものとは一体何だろう。
 例えば、「時間」。
 高校二年生の時期に勉強していたかで、大学受験に成功するかが決まると、予備校に通っている同級生たちは口を揃える(予備校講師の受け売りに違いない)。医学部を目指している女の子は一年生から大学受験を見据えて勉強に打ち込んでいて、高校生活は将来のための投資だと言い切っている。インターハイを目指すバスケ部員、全国を目指す吹奏楽部、ゲーム大会出場を目指す颯太はろくに勉強もせず、部活動や好きなことに打ち込んでいる。
 高校二年生として過ごすことのできる時間は限られている。みんな自分の持っている時間を何に投資すべきか、選択しながら生きている。
 俺は今、キャラコンのことで頭がいっぱいだった。先のことなんてまだ考えられなかった。今年の秋までには進路を決めろと担任には言われているけれど、それまでに将来の設計ができるとは思えなかった。きっと進路調査書に、適当な大学名を書いて、適当な理由をでっち上げて、とりあえず大学に行きますなんて言うに違いない。
 これまでは、何となく夢を見て、何となく自堕落に生きてきた。早く何かをしなければという焦りだけを胸の中でくすぶらせていた。その一方で、いつか何とかなるんじゃないかと、呑気に構えてもいた。先にある茫洋とした時間は、無限にあるように感じられた。
 けれど、その「いつか」は永遠にやってこなかったんじゃないだろうか。時間と可能性を食い尽くした後で、全てが失われてしまったことに気づくのだ。そうなったら、できることは何もない。ただ、これでよかったんだと受け入れるしかない。
 高校生キャラコン出場も、永遠にやってこない「いつか」になるはずだった。
 だが、美作がその道を変えてくれた。
 俺は美作に感謝しなければならない。
 美作が無謀な夢を抱き、キャラコン部に入ると決心して、その扉を叩いてくれた。だから今、こうして穏やかな気持ちで夜の街を眺めることができている。
 マンションのすぐ下を電車が走り抜けていくのが見えた。四角い窓が列になって整然と流れていく様は、美しかった。電車は街から街へと人を運ぶ。人は様々な場所から家へと帰る。
 家の灯りひとつひとつに、幸せな人間の営みがあると美作は言った。
 ならば、それを眺める人にも幸せがあるべきなのだと思う。
 その「時間」は「いつか」やってくるものではない。今、この時につかむべきものだ。

「美作」
「はい」
「今度はうちで勉強会しないか」
「え?」

 美作はいきなりの提案にぽかんとした。その顔を見たら、何だか急に気恥ずかしくなった。

「ほら。お前もひとり暮らしで色々大変だろうし。うちなら飯くらい出せるし。俺もその方が勉強できるし。お互い都合がいいんじゃないかと思ってさ」

 ぽかんと口を開けていた美作は、にっこりと微笑んだ。

「いいですね」
「ほんと?」
「そうしましょう。NAGIちゃんも誘って」

 そんな話をしていると、直島が買い物袋を下げて帰ってきた。

「ただいま」
「おお、おかえり」
「どうでした?」
「見て」

 直島は高揚した様子で、袋からトレイを出した。

「初ガツオ」
「なんで刺身!?」

 

 テスト前日まで連日勉強会を催した。参加者は第一回と変わらず、俺と美作と直島の三名である。飯くらい出せると安請け合いをしたものの、俺はまったく料理ができない。母親のサポートが必要だった。母親に事情を話すと、快諾してくれた。

「まさかあんたが女の子の友達を連れてくるなんて」などと嬉しそうだった。「友達じゃない。ただの部員」と素っ気なく応じると、母親は「そうなの?」と言いながら、にやにやした。

 勉強会の成果だろうか。いつもに比べ、テストの結果はいつもよりずっとよかった。美作も成果が出たと言っていた。直島はどうだったか聞いてみると「いつも通り」と答えた。普段から直島の成績はいいに違いない。
 結局その勉強会の間もミマサカミサのことは聞けずじまいだったけれど、そんなことはもうどうでもいい気がしていた。美作や直島や颯太や湖夏が側にいるだけで、満ち足りた気分になっていた。

 

 テスト期間を終え、再び部室に集まった。
 モニターの中のミサの様子をうかがったが、未だ目覚めの兆候はない。眠りについてからもう三週間が経とうとしていた。

「本当に大丈夫なの?」湖夏は心配そうに言った。
「もしかして、このまま……」と美作も不安そうである。

 直島はPCのモニターを眺め、こう答えた。

「自己生成プログラムの成功確率は99.8パーセント」
「ほとんど成功じゃないか」と俺は安堵した。
「五〇〇回に一回は失敗する」と直島は言った。
「そんなに失敗する可能性があるんですか?」と美作は動揺した。

 直島は俺と美作の顔を交互に見た。

「99.8パーセント成功することと、五〇〇回に一回の失敗は同じこと」
「そうなの?」俺と美作は首を捻る。
「そりゃあ」「そうでしょ」颯太と湖夏は呆れたように言った。
「もっとわかりやすく言ってよ……」と、誤魔化す。
「でも確率は確率。一度の試行で失敗することもある」
「いつまで待てばいいの」
「前にも言った通り。目覚めるまで待つしかない。原因は探ってみるけれど、特定できる可能性は低い」と直島は答えた。

 ただ待つしかない。何もできないという現実を改めて突きつけられ、部の空気は重苦しくなった。

「ま、まあ元気出していきましょう。バックアップは取ってあるんだし。目覚めなかったらチャレンジし直してもいいわけだし」

 湖夏は空元気を出した。

「湖夏さん。それはダメです」

 美作はきっぱりと言った。

「え?」

 湖夏は虚を突かれたようだった。

「そんなことしたら、ミサが悲しみます」
「そうなの、かな?」

 湖夏は言葉を濁した。

「何を言っている。悲しむも何も目覚めなければ悲しみようがないではないか」
「私は目覚める前提で話をしているんです」と美作は言った。
「別のパソコンで自己生成プログラムを走らせて、そっちのミサの方が目覚めたとします。そして、その後にオリジナルのミサが目覚める。その時、ミサはどう思うと思いますか」
「どう思うって……」
「ちょっと良くわからんな」

 ピンとこなかった。ていうか、両方ともミサっていうのがややこしい。

「最初に『自己生成プログラム』を開始したミサをミサAとする。二番目のミサをミサBとする。ミサBが先に目覚めて、その後にミサAが目覚める。その時のミサAの気持ちを答えよ、ということ」と直島が言った。
「国語の設問みたいになったな」
「だが分かりやすくなった」
「そんなことになったらミサが悲しむと思いませんか?」

 そういう美作は、そのシチュエーションを物語始めた。

 

 ある朝、ミサは目覚めた。
 思っていたよりも時間がかかってしまった。遅れてすまないという気持ちでいっぱいだ。大会まであと数日。だけど、みんなで力を合わせれば、まだ間に合う。私なら間に合わせられる。そう思っていた。
 けれど、キャラコン部にはすでに、別の誰かがいた。
 私だ。
 私そっくりの誰かがすでに準備を進めていた。
 迎えた大会当日。私は補欠として大会に参加することになった。本戦に出場することになったのは、私と同じプログラムであるミサB。私はひとり、カメラの向こうからその姿を眺める。
 私は思う。私は、高校生キャラコンに出るために生み出された人工知能だ。では、こうして大会に参加できない私は、一体何なのだろうか。胸がチクリと痛んだ気がした。それが一体何なのか、私には分からなかった。

 

「……どうですか?」と美作。
「うーむ……」

 美作の言う通り、ミサAの立場は微妙だ。

「たしかに悲しいかもな」
「でしょ?」
「しかしミサが目覚めない可能性は排除できない。そうなれば廃部決定だ。それでもいいのか?」
「それは困る」
「やはり保険をかけるべきだろう」
「私はその保険のせいでミサが傷つくかもしれないと言っているんです」
「では廃部の問題はどうする」
「それまでにミサは絶対に目覚めます」
「根拠は?」
「ありません。私はミサを信じます」
「話にならんな」

 美作と颯太がやり合うのをみて、湖夏は直島に聞いた。

「ねぇ、なんとかならないのかな。例えばそのミサAとミサBを一緒にしちゃうとか。そういうことできないの?」
「それは無理だろ」
「でも両方ともミサはミサなんでしょ。記憶だって共存できそうじゃない?」
「ああ。そういえば、そんなことをミサが言っていたような……」

 学習プログラムの時に、ふたりのミサの記憶を同時に存在させることができると、ミサ自身が説明していたのを思い出した。

「どうなんだ、直島」

 直島は少し考えて、こう答えた。

「今回のようなケースだと、記憶の統合は難しいと思う。ミサAとミサBは別の人間だから。性格も全く異なる可能性もある」
「そうなの?」
「同じプログラムなのに計算結果が違うって、何かおかしくないか?」

 時間的な差があるだけで、完成する人工知能の性格が変わってしまうなんてことがあるのだろうか。

「ミサAとミサBは一卵性双生児のようなもの。遺伝子は同じでも性格は変わる。それは後天的な要因が影響を与えるから」と直島は答えた。
「やっぱり、片方にはバックアップに回ってもらうしかないってことだな」
「部の方針を決めなきゃね」

 湖夏は二本の指を掲げた。

「ミサの気持ちをとるか、部の存続をとるか。部長はどっちをとるべきだと思う?」
「うーん……」

 好奇心旺盛で、素直で、汚れのない透き通った瞳を持つ明るい笑顔の女の子。その子がどのような条件下で生まれることになるのか。その環境は、この選択にかかっていた。
 責任重大だ。
 ひとりひとりの顔をみながら、俺はこう切り出した。

「みんな、ミサを仲間だと思ってる。そうだよな」

 全員が、頷いた。

「部の存続を優先して、仲間が苦しむのは間違ってると思う」

 俺は続けた。

「ミサを待とう」
「だが大会の後に目覚めたらどうする。自分のせいで廃部になったとミサは傷つくのではないか」と颯太は疑念を呈する。
「それはミサを待つことを選んだ俺の責任だ。ミサは悪くない」

 その答えを聞いた颯太は、ふっと笑みを漏らした。

「わかった」
「ミサは六人目のキャラコン部員だ。信じて待とう」

 その言葉に、四人は頷いた。
 そこで、湖夏がふと何かに気づいた。

「……って、私も勘定に入ってる?」
「当然だろ」
「いや、私、学校違うし。正式に所属してないし」
「別にいいじゃないですか」と美作。
「それに、正式という意味では名義貸しの幽霊部員が三人ほどいるからな」と颯太は付け加えた。

 直島が人数を数えた。

「公式には部長、ソータ、幽霊部員三人、美雨、私がいるから、ミサは八人目」
「でもミサはこの学校の生徒じゃないから、正式な部員にはなれませんよ」
「そういえばそうだな」
「じゃあミサはキャラコン部にとって何?」
「地縛霊のようなものではないか」
「ミサを幽霊扱いしないでください!」

 などと、部員たちはくだらない話を始めた。

「ややこしいわ。いいだろ六人目で! とにかく待つ。決定。はい解散!」

 話を打ち切ろうとすると、部員たちは渋々頷いた。

「まあ、いいことにしましょうか」

 せっかくいい格好したのに。台無しじゃないか!

(つづく)


次回6月8日更新予定


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著者:穂高正弘
キャラクターデザイン:はねこと


©SUNRISE


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