機動戦士ガンダム Twilight AXIS【第16回】

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第八章「遺産」2

「野郎……っ!」

 クァンタンは目の前のR・ジャジャに背を向け、突進してくる正体不明のMAを迎え撃つ。
 そのまま体当たりするように突っ込んできた赤い巨体を、大きく旋回して避ける。

「!? こいつ……」

 MAは何故か撃ってこようとしない。
 その巨体を振り回すようにして、クァンタンの駆るトリスタンを追撃する。

「何の真似だ!」

 回避するクァンタンだったが、すれ違いざま、MAの背部に伸びたスタビライザーが尾のようにしなり、トリスタンのアームドベース――クレヴェナールのコンテナを掠めた。

「ぐっ!」

 大質量同士の接触により生じた激しい衝撃が、コックピットのクァンタンを襲う。

× × ×

 眼前のガンダムタイプへの決死の吶喊とっかんを繰り返しながら、アルレットは必死でアハヴァ・アジールのコンソールに指を走らせていた。
 製作途中で放り出されたままだったアハヴァ・アジールは、ほとんどの武装が未装備の状態であった。
 なんとかメガ粒子砲を稼働状態に持っていくことはできたが、ろくに調整もせぬまま高熱のビームを発射した砲身は、かなりのダメージを負ってしまっている。
 エネルギーもフルチャージというわけにはいかず、あと何発撃てるかもわからない。
 ドッグファイトに持ち込むより他はなかったのだ。
 しかし、それはこの機体の本来の戦い方ではない。
 さらにアルレットはパイロットとしては素人同然だ。
 しかも、敵であるガンダムは以前にアクシズ内部で見た時と違い、全身が武器の塊のような武装ユニットに覆われている。
 こんな状態でどこまで戦えるのか……。
 ノーマルスーツの下、アルレットの額を冷たい汗が流れ落ちていった。

× × ×

 襲いかかってくる赤いMAをいなしながら、クァンタン・フェルモは冷静に戦況を分析していた。
 この機体……どうやら未完成品のようだ。
 これだけの巨体で、マニピュレーターらしきものも持たないこの機体が、まさか格闘戦用ということはあるまい。
 本来はこのクレヴェナール同様、豊富な武装で拠点を強襲し、一気に制圧することを目的としたMAなのだろう。
 だが、その武装のほとんどは使用不能のようだ。
 乗っているパイロットの操縦技術も甚だ心許ない。
 機体の高出力をまったく制御できていない。

「その程度の腕で、そんな暴れ馬が乗りこなせるかよ!」

 もはや、あわてて逃げ回る必要はない。
 次に奴が突進してきた時が最後だ――。
 モニターを灼くスラスターの光に照準を合わせながら、クァンタンはつまらなさげに呟いた。

「お前も、俺を楽しませちゃくれないのか……」

 トリガーにかかった指が小さく動く。
 クレヴェナールのコンテナのハッチが開き、無数のミサイルが尾を引いて眼前の敵MAへと襲いかかった。

× × ×

「――っ!」

 アルレットには、降り注ぐミサイルの雨を避ける腕はなかった。
 無数のミサイルがアハヴァ・アジールの巨体を直撃し、その装甲を傷つけていく。

「ああああああああああああっ!」

 衝撃に激しく揺さぶられるコックピットの中で、アルレットはただ悲鳴を上げることしかできなかった。

× × ×

 モニターの中、爆炎に包まれる赤いMAを見つめながら、クァンタン・フェルモは独りごちた。

「――こんなもんか」

 コンソールを操作し、全天周囲モニターの端に映る二機のMSを拡大する。
 一機はバイアラン・イゾルデ。
 弟であるヴァルターの機体だ。
 その外見上の大きな特徴である肩部スラスター・ユニットの片方を失い、無残な姿をさらしている。
 あいつも俺ほどではないが腕は確かだ。
 その弟が、ここまで追い込まれるとは。
 やはり、俺を楽しませてくれるのは……こいつのようだ。
 凶暴な笑みを浮かべながら、クァンタンはもう一機のMSへとその鋭い眼を向ける。
 白と紫のカラーに彩られた、細身の騎士然とした姿……確か、R・ジャジャといったか。
 第一次ネオ・ジオン戦争の頃に使われたアクシズのMSだ。
 前に戦った時はこの機体ではなかったが、間違いない。
 パイロットは――あいつだ。
 ほんの数分間程度の邂逅ではあったが、あの攻防は久しぶりにクァンタンの心をたぎらせてくれた。
 彼は確信していた。
 このパイロットこそ、自分と戦うに値する相手だと。
 初めてMSに乗り、引き金を引いたその日から、彼はそんな相手を求め続けてきたのだから。

× × ×

 クァンタン・フェルモとヴァルター・フェルモの兄弟は、地球のとある貧しい地域で生まれた。
 幼少期に一年戦争で両親を亡くし孤児となった二人は、グリプス戦役の折、ニュータイプの素養を見込まれ連邦の研究機関へと入れられた。
 ティターンズのパイロットになれば良い暮らしができると奮起し、訓練に励んでいた二人だったが、やがてグリプス戦役は終結、ティターンズは瓦解してしまう。
 行き場を失った彼らが辿り着いたのは、傭兵という生き方だった。
 彼らの雇い主は兵器開発企業であったり、国家間の機密を売買する情報屋であったりと様々だった。
 そういった手合いが持ち込む表沙汰にはできないイリーガルな依頼を、彼らは淡々とこなした。
 そこには充実感も高揚感もなく、大金を手にしても彼らの心に残るのは空虚だけだった。
 そんな二人を拾ったのが、当時ジャンク屋から軍需産業に手を伸ばそうと画策していたブッホ・コンツェルンだ。
 創業者であるシャルンホルストの息子マイッツァーは、ブッホが本格的なMS開発へ乗り出すためのベースとなる機体や技術を手に入れるには、時には非合法な手段を使う必要があると考えていた。
 そのために作られたのが、特殊部隊バーナムである。
 その主要メンバーとして、すでに裏社会で腕利きのMS乗りとして名を知られていたクァンタンとヴァルターに白羽の矢が立ったのは、ある意味必然といえた。
 こうして二人は、ロナ家の下で働くことになったのだ。
 ロナ家は元は平民の出でありながら、その財力で貴族の地位を手に入れたという経緯がある。
 その事実は、孤児であった彼らに希望を与えた。
 パイロットして名を上げれば、何の後ろ盾もない彼らにも富と栄光を手に入れることできるのだ。
 クァンタンとヴァルターの二人にとって、「強さ」はこの世界の全てを象徴する言葉であった。

× × ×

 クァンタンはあらためて眼前の白い機体をめつける。
 サイコフレームに関する情報を手に入れるという任務は失敗に終わった。
 だが、こいつだけは俺が倒す。
 俺達二人の戦歴に、敗北の二文字を刻むことは許されない。
 赤いデカブツの方はもう死に体だ。
 あとでゆっくりと始末してやろう――。
 ゆっくりとR・ジャジャへと振り返ったトリスタンのツインアイが、獣のように鋭い光を放った――。

× × ×

「……くそっ」

 R・ジャジャのコックピットで、ダントンは唇を噛んでいた。
 満身創痍の機体を必死に立て直す。
 モニターの向こうに、被弾してボロボロになったアハヴァ・アジールの姿がある。

「アルレット……おまえ……」

 起動したのかよ、そいつを。
 パイロットでもないくせに。
 俺を――助けるために。
 その事実が、ダントンの胸に突き刺さった。
 何だよそりゃ。
 お前は俺の娘だろうが。
 戦場になんて出てくるんじゃねえ。
 お前は俺の後ろで、いつもみたいに楽しそうに妙な機械いじくって笑ってりゃいいんだよ。
 なのに……そんなボロボロになりやがって。

「本当に……生意気な娘だ」

 苛立たしげにスロットルを押し込む。
 それに応えるように、R・ジャジャがゆっくりと顔を起こす。
 生意気な小娘だが、あいつの笑顔には何度も救われてきた。
 俺がMSを、人殺しの道具ではなく純粋にマシンとして好きでいられたのは、いつもあいつが隣で笑ってくれていたおかげだ。
 シャアは俺に、あいつを守れと言った。
 それはあいつが優秀なエンジニアだったから――
 ただそれだけの理由でしかないのかもしれない。
 だが、あいつを守ることで、俺も俺でいられた。
 あいつが俺に守られていたように、俺もあいつに守られていたんだ。
 だったら――!
 R・ジャジャのモノアイが眩しい光を放ち、メイン・スラスターが激しく唸りを上げた。

「何っ!?」

 不意に動き出したR・ジャジャに、クァンタンの対応が遅れる。

「下がってろ、アルレット!」

 白い騎士はサーベルを抜き放ち、眼前の敵へと躍りかかっていった。

「おまえは……俺が守る」

――第九章へ続く――


ストーリー構成・挿絵:Ark Performance
著者:中村浩二郎


次回12月8日更新予定


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