覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第1回】


number.00:A 終-FINAL- 西暦二〇〇七年/紀元前一五〇億年

マイナス2

「さあて、おっぱじめっかぁ!」

 ひとつの目的を果たしたところで、威勢良く火麻激が叫んだ。

「声がデカいのは結構だが、少しは状況の深刻さをわかっているのかね」
「ふん、どんなに深刻だろうとガッツでなんとかするんじゃねぇのかぁ!?」

 長官と参謀の会話はGGG隊員たちにとって、異常事態のさなかでも、日常の穏やかさを思い起こさせるものだった。
 大河幸太郎は全員の宇宙服につながる、全周波数帯の通信マイクに語り始めた。

「諸君! 我々はこれから、生還を目的とした戦いを開始する。困難が予想されるが、これだけは忘れないでほしい。我々は、ガッツィ・ギャラクシー・ガード隊員である! GGG憲章第五条百二十五項!」

 大河の言葉を聞いていた全員が、続く文章を暗唱した。

「GGG隊員は、いかに困難な状況に陥ろうとも、決して諦めてはならない!」

 ──三重連太陽系は、崩壊しつつあった。いや、この星系を含む宇宙そのものがもともと衰亡に向かいつつあった。
 万物流転。すべての生命に寿命があるように、宇宙という存在もまた永遠ではない。三重連太陽系の一部の者たちは従容としてそれを受け入れようとした。だが、また別の者たちは延命を試みた。次元ゲートを開き、遥か未来に誕生する若々しい宇宙からダークマターを穫り入れようとしたのである。
 しかし、それは新たな宇宙の収縮を意味している。古き宇宙と新たな宇宙──存続を許されるのは、いずれか一方のみ。
 こうして宇宙と宇宙が──それぞれの宇宙に属する者同士が、互いの存亡をかけて激しく戦った。そして、新たな宇宙に生まれた者たちが勝者となった。それは、恐怖を乗りこえる心のエネルギー"勇気"を持つ者が、持たぬ者に対して得た勝利であったかもしれない。
 だが、彼ら勇気ある者たちは、滅び行く宇宙に取り残された。次元ゲートが閉じた今、生まれ故郷の宇宙に帰還する術はない。
 半壊した超弩級戦艦ジェイアークと、その甲板に固定された脱出艇ムラクモ。そして大破した勇者ロボたち。それが彼らに残された物質戦力のすべてだ。
 しかし、可能性がわずかであろうと、彼らは決してあきらめたりしない。彼らは宇宙防衛勇者隊ガッツィ・ギャラクシー・ガードの隊員なのだから。

『──まだだ。ガジェット・ツールには、まだ未知の機能が残ってる』

 ジェネシック・ガオガイガーにフュージョンしたままの獅子王凱が告げた。彼が融合しているジェネシック・ギャレオンは内部にブラックボックスを持っている。そこには三重連太陽系に由来する技術や情報が膨大に保存されていた。かつて、GGGはそこから得たデータをもとに敵の存在を知り、対抗する準備を整えたのである。だが、傷つき欠損したブラックボックスから引き出せる情報は、限定的なものに成らざるを得なかった。
 現在のギャレオンはGクリスタルにおいて、完全な状態に修復されたジェネシックバージョン。そして、ブラックボックスにアクセスできるエヴォリュダーがフュージョンしている。凱は数多の情報のなかから、現状を打開できる途を探し続け、たったひとつの可能性を見いだしたのだ。
 凱から転送されてきたデータはクシナダのメインスクリーンに映し出され、獅子王雷牙がそれを読み解いた。

「ふむぅ……ギャレオリア・ロードか。どうやらジェネシックには、自ら次元ゲートを開く機能があるようじゃのう」

 言葉の内容に対して、雷牙の口調は重々しい。神妙な面持ちで大河が切り出す。

「雷牙博士、どうやらその機能、簡単に使えるというわけではなさそうですな」
「うむ……まず第一に使うための出力が足りん。第二に次元ゲートが開く先を、僕ちゃんたちの宇宙に固定する方法がわからん……」

 いずれも絶望に値する要素だった。だが、大河は安堵の表情を浮かべた。

「では……正解でしたな。護くんと戒道くんを、確実な方法で先に帰らせたのは」

 これに先立つこと数十分前、彼らはふたりの子供たちをESミサイルに乗せて撃ちだしたのだ。それは閉じかけている次元ゲートに針を通すような行為で、身長の低い彼らを送り返すことしかできなかったが、成功率は極めて高い。これから自分たちが賭けようとしているわずかな可能性への挑戦に、子供たちをつきあわせずにすんで良かった──そういう意味が込められた安堵である。

「んで、そのギャレオリア・ロードとやらの成功率はどのくらいなんだ?」
「現状ではまあ、ゼロじゃろうな」

 火麻の問いに、雷牙は率直に答えた。

『人が悪いな、雷牙叔父さん。現状では……ってことは、ゼロでなくなる方法があるんだろう?』

 クシナダ艦橋で行われている会話は、通信機を通じて凱にも送られている。発信された通信波を直接聞いた凱は、同じ方法で自分の声を返した。

「そうじゃな、出来ることはいろいろあるよ。出力の確保、オペレーション方法の検討……まあ、一時間の作業で一パーセントずつ可能性を上げることはできるかのぉ」
『ということは百時間後には確実なものになる……』
「というわけにはいかないんだな、これが」

 剽軽な声をあげて、雷牙は両手をひらひら振ってみせた。息子や娘たちに嫌われる所以でもあるが、深刻な事態にふざけて見せる軽薄さは、彼の悪癖のひとつだ。

「酸素残量が十時間分しかないんだなぁ、これが」

 もともとクシナダは大型とはいえ、脱出艇に過ぎない。ツクヨミ、ヒルメ、タケハヤのディビジョン・フリート三艦のクルーすべてを収容した状態では、循環機能が限界を越えるのも無理はない。

「要するに、最大でも成功率十パーセントしか望めないということか」
「つまり、あれだな……後はガッツで補うってヤツだ」

 大河と火麻がこれもまた、馴染み深い言葉をかわした。彼らGGGは常に情報を収集し、分析し、対抗策を準備してきた。決して、運頼みで地球防衛を担ってきたわけではない。それでも過酷な戦いのなか、低い成功率に委ねなければならない状況は存在した。そんな時、状況をひっくり返すための最後の一押し──心の奥の力がそうなり得ることを、彼らは信じている。


マイナス1

「全機GSライドの接続を完了!」
「ジュエルジェネレイターからの出力転送、一次試験の結果、問題を認めず!」

 ソール11遊星主との死闘で傷つき、ゴルディオンクラッシャーの発動でさらにダメージを受けたジェネシック・ガオガイガー。その単機の出力では、ギャレオリア・ロードを使用することは難しいと思われた。
 その名の通り、このガジェットツールがギャレオリア彗星にも匹敵する次元ゲートを開くものであるならば、百五十億年の時を越えることになる。ジェネシックが完全な状態でない以上、なにかしらの補機が必要であると、雷牙は判断したのだ。
 それはもちろん、勇者ロボたちに備わったGSライドでしかあり得ない。もともと、三重連太陽系の緑の星で生み出された生命の宝石──Gストーンは、勇気をエネルギーに変換するコンバーターだ。それが生命や心を持たぬと思われた超AIとともに組み込まれ、巨大な力を発揮し得たのはいかなる天の配剤であっただろう。

(人間と人間以外のものを区別するのは、身体じゃなくて心だ!)

 かつて、獅子王凱は従妹であるルネにそう語った。その言葉が真実だということを、Gストーンは証明した。GSライドから発生する巨大なエネルギーによって。
 勇者ロボたちから出力されたエネルギーが、ジェネシック・ガオガイガーに流れ込んでいく。そして、エネルギーはそれだけではない。
 赤の星で創り出されたJジュエルは、もがき足掻く生命の力をエネルギーに変換する。そして、それはGストーンとともにあることで、さらなる力を発揮するのだ。Gストーンが放つ緑の輝きと、Jジュエルから迸る赤の輝きは縒り合わされ、銀色の光となってジェネシックを包み込んだ。

「これは、GとJがあわさった力──」
「俺はとっくに知ってたけどよッ!」

 凱のつぶやきに、巨大な顔面が応えた。それはゴルディオンハンマーから移植された、ゴルディオンクラッシャーの超AIブロックだ。身体とも言うべき本体を失った彼は、ジェイアークの甲板に頭部だけとなって横たわっている。だが、かつてキングジェイダーの掌中にあって、シルバリオンハンマーとなった記憶はいまでも鮮明に覚えていた。

「やるがいい、凱。貴様と私の決着をつける場は、このような滅び行く宇宙ではない」

 クシナダ艦橋に座り込んだままの、ソルダートJも呼びかける。ゾンダリアンであった時代から変わらぬ、凱との決着へのこだわり。それは幾多の共闘を経ても、変わることはない。獅子王凱もまた、ジェネシックの内部で──ギャレオンの内側でうなずいた。
 地球に帰って、果たさねばならない数々の約束。それらと同じように、この戦士との誓いも果たさなければならない。

「わかってるさ……さあ、はじめるぜ、みんな!」

 凱の言葉に、みながうなずく。GストーンとJジュエルで結ばれた勇者たちと戦士たち。そして、GGGの隊員たち。その誰もが、帰るべき宇宙に果たすべき約束を残してきている。家族や友人、仲間たちとの再会という誓いだ。全宇宙を救うという使命のもとに旅立ってきたものの、ここで果てても良いと考える者は誰もいない。

「ガジェットツール……ギャレオリア・ロード!」

 みなの想いを乗せて、凱が叫んだ。ジェネシック・ガオガイガーの尾部が分解され、両腕部に装着されていく。そして、それは巨大なシリンダー状のツールとなって、唸りをあげた。

(これが私たちの道を切り開く……勝利の鍵なのね)

 生命維持装置となるマニージマシンに固定されたままの命が、リミピッドチャンネルで凱に語りかける。かつて、ギャレオンのブラックボックスからもたらされた情報をもとに、GGG技術部はジェネシックの様々な機能をハイパーツールとして再現した。しかし、彼らの努力と献身にもかかわらず、再現できなかったガジェットツールがある。それが、このギャレオリア・ロードだ。太古、三重連太陽系の機界昇華にともない、新たな次元の宇宙へラティオを逃がすために使われた超技術。かろうじて解析できた一部の情報は、次元を切り開くツール<ディメンジョン・プライヤー>として活かされたが、大部分は制御困難な未知なる領域である。その空前絶後のミラクルツールが切り開く、時間と空間を貫通する次元ゲートが、いまふたたび開かれようとしている。

「うおおおおおっ!」

 ジェイアークの舳先にワイヤーで固定されたジェネシック・ガオガイガーが、ギャレオリア・ロードを接続した両腕を振り上げる。激戦の連続で尽き果てかけた気力を振り絞る凱。だが、彼は一人ではない。
 ジェイアークの甲板に横たわる勇者たちが、機体は動かせずとも勇気を振り絞っていた。氷竜と炎竜が、ボルフォッグとピギーちゃんが、ゴルディーとマイクが、風龍と雷龍が、光竜と闇竜が、そしてソルダートJとルネが──それぞれの心奥の力を送り込む。GGG隊員の懸命の作業で接続された彼らのGSライドとジュエルジェネレイターからのエネルギーが、ジェネシックの全身に溢れかえった。

「俺は一人じゃない……俺たちはひとつだっ!!」

 ギャレオリア・ロードに集約されていく膨大なエネルギー。

(凱、やっちゃえ!)
「おうっ! ギャレオリア・ロード……貫けえぇぇぇっ!」

 ジェネシックの全身が光り輝く。それはGストーンの力を引き出した緑でも、ハイパーモードの黄金でもない。GストーンとJジュエルのエネルギーを縒り合わせた白銀の輝き。おそらく三重連太陽系の開発者たちですら想定していなかった光が、ジェネシック・ガオガイガーとギャレオリア・ロードから迸った。
 その閃光は一筋の道となって、ジェイアークの前方空間を貫いていく。あたかも次元を貫く通路であるかのように──

「トモロ0117、最大戦速で前進してくれたまえ!」
「前方空間の計測にまだ時間を要する──」
「この出力をいつまで維持できるかわからない。いまは確実さよりも迅速さを優先すべきと判断する!」

 慎重論を唱えたジェイアークのメインコンピューターを、大河が叱咤する。熟慮を重ねた数マイクロ秒の後、トモロが答える。

「──了解した。ジェイアークはこれよりギャレオリア・ゲートに突入する」

 白き超弩級戦艦は艦体後部のインパルスドライブをフル稼働させ、前方の輝く空間へ突入した。甲板上のクシナダ船内では、GGG隊員たちがあらゆる計測機器を駆使して、空間の特性を把握しようとしている。もはや動くこともできない勇者ロボたちとルネ、ソルダートJはGストーンとJジュエルのエネルギーをジェネシック・ガオガイガーに送り続けている。その膨大なパワーの奔流のなかで、凱はギャレオリア・ロードを制御し続けている。この道が青の星へ──懐かしき人々のもとへ続いていると信じて。

「待ってろよ、護……みんな! 俺たちも必ず、帰ってみせる!」


 ──そこは輝きに満ちた世界だった。勇者たちが辿りついた世界が、いかなる時間と空間に属するものであるのか、知り得る者はいない。
 神話はここに、終焉を迎えた。

 ──そして、遥か遠く、星と時の彼方。
 未知なる世界に辿り着いた勇者たちにこれから訪れるであろう運命を予見している者がいた。
 地球と呼ばれる水の惑星──その表面の大部分をしめる母なる海の中を飛翔する姿、アクア。その額に相当する部位に、十字の光が明滅している。リミピッドチャンネルの莫大な情報の海から、"何か"を読みとっているのだ。

『ハ…カイ……オウ……』


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回10月5日(水)更新予定


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