覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第10回】


number.01 決-KESSEN- 西暦二〇一六年(4・完)

 アルエットを含む人々をコンテナに収容して、翔竜が飛翔していく。上空で待機しているヤマツミに合流できれば、作戦は成功だ。
 だが、護と戒道は収容所の屋上でガイゴーに乗って周辺警戒にあたりながら、納得しがたい気分を味わっていた。

「静か……すぎるよね」
「ああ、浄解された幹部の話では、ここはドクター・タナトス──バイオネット総帥の根拠地だったはずだ」

 GGGが入念な準備をたてて突入したのが馬鹿馬鹿しく思えてくるほどに、警備は手薄だった。

「罠がしかけられていた様子もないし、総帥たちが逃げ出したにしても、捕まえてた人たちを置いていく理由がないよね……」
「まったくだ。どうもバイオネットのやることに、一貫性が感じられない」

 それは阿嘉松や楊も感じているところだった。ポンティアナック市のGサーキュレーションベースが襲われた際、当初、バイオネットの狙いはGストーンではないかと思われていた。軌道上のウォール衛星にGリキッドを供給するためのGストーン目的なら、大量の疑似ゾンダーロボを投入する価値もあるからだ。
 だが、浄解された幹部の言葉によれば、彼らに与えられていた任務はGサーキュレーションベースの破壊そのものだったらしい。強電磁場によって不自由を被っているのは、バイオネットも同様のはずだ。

「わからないなぁ、あいつらの考えてること……」

 護がそうつぶやいたとき、木星からのオーラが揺らめく空で、発光信号が明滅した。翔竜とコンテナの収容が終わったというヤマツミからのサインだ。

「よし、離脱しよう──」

 ガイゴーを飛翔させようと、戒道がウルテクエンジンを始動させたときだった。突如、収容所の建物が崩壊した。いや、建物の陰から接近した何者かが、コンクリートの壁と床を突き破りつつ、腕を伸ばしてきたのだ!
 黒い豪腕に左腕をつかまれたガイゴーは、大人に振り回される子供のように弄ばれた。

「うわああっ!」

 激しい回転がくわえられ、ガイゴーの左腕は肘部からねじ切れた! 吹き飛んだ機体が大地に叩きつけられる。

「くうう……」
「大丈夫、幾巳!?」
「ああ、バージョンアップされたリンカージェルは、ショックアブソーバーとしても優秀だな……」

 セリブヘッドもウームヘッドも、外殻とコクピット部の間にリンカージェルという液状化した古細菌が充填されていた。それはヘッドダイバーのデュアルインパルスを伝達するだけでなく、衝撃を吸収する役目も担っている。
 相棒の無事を確認しながらも、護は損傷チェックを行っていた。

「左腕がなくなったけど、他の駆動系に影響はない。いけるよ!」

 だが、正体のわからぬ敵は、この程度で見逃してくれるつもりはないようだった。倒れ伏すガイゴーを踏みつぶすかのように、飛びかかってくる。離脱する間もなく巨大な脚に踏みにじられ、ガイゴーの胴体部が軋みをあげた。

「くっ、このままじゃ……」
「!? あいつの姿、あれは──」

 天空から降り注ぐ、不吉な色の木星からのオーラ。それに照らし出された敵の姿を、戒道と護はようやく目にした。
 黒い全身──その胸には金色の猛獣。荒々しい獰猛な翼、手脚の先端には金色の爪、猛禽の頸部のように見える尾部。

「まさか……あれはジェネシック!?」

 その姿は、木星に重なる覇界王と呼ばれる光によく似ていた。ガイゴーはウルテクエンジンをフル稼働させて、敵手の足下から逃れる。

「なんで、なんでジェネシックがこんなところに……」
「落ち着け、護! あれはジェネシックじゃない!」

 呆然としかけた護を、戒道が叱咤する。

「あれは疑似ゾンダーロボだ!」

 戒道の言う通りだった。ジェネシックかと思えた敵の額には、疑似ゾンダーメタルが埋め込まれている。

「ゾォォンダァァッ!」

 咆吼をあげて迫り来る疑似ゾンダー。その攻撃をかわしつつ、戒道が指摘する。

「ゾンダーロボは素体となった者の深層意識に影響される……そうだったな」
「ああ……そうか! あいつの素体は、覇界王のオーラにストレスを感じて……!」
「そういうことだ、あいつはジェネシックとも獅子王凱とも関係ない、惑わされるな!」

 答えがわかってしまえば、それは脅威ではない。むしろ、一瞬といえどジェネシックの帰還を疑ってしまった自分に、護は腹がたった。

「あんな奴なんかに……」

 その時、ガイゴーの頭上に、三つの影が煌めいた。ガイゴーに殴りかかろうとした疑似ゾンダーに、影たちが次々とかすめて、よろめかせていく。

「ガオーマシン!」

 疑似ゾンダーロボの出現を観測して、即座にガオーマシンの発進を指令したのは阿嘉松である。そして、ヤマツミを低空へ進入させ、ガイゴーとの間に光学回線をコネクトさせる。

「ガイゴーからファイナルフュージョン要請シグナルです!」

 初野華の報告に、阿嘉松は右拳を振り上げた。

「あの野郎……覇界王みてえなツラも気にくわねえが、俺の凱号を傷つけてくれやがったな! やっちまえ、幾巳、護! ファイナルフュージョン承認っ!」
「了解です……ファイナルフュージョン・プログラムドラァァイブ!」

 華の握りあわされた両拳が、保護プラスティックを叩き割り、ドライブキーを押し込む。
 光学転送されてきたFFプログラムを確認した戒道は、ガイゴーを飛翔させた。

「ファイナルフュージョンッ!」

 電磁竜巻のなかで合体していくガイゴーと三機のガオーマシン! ガイゴーの左腕が失われたことでパーフェクトロックの固定具合が低下したものの、その他合体後の機能に支障はない。

「ガオッガイッゴーッ!!」

 完成した勇者王は、ジェネシックを思わせる疑似ゾンダーロボの正面に着地した。
 その光景はあたかもガオガイガーとEI-15や、ガオファイガーとレプリジン・ガオガイガーの対決を想起させた。
 しかし、戒道と護のなかに、かつての獅子王凱のような戸惑いはない。ただ、<グローバルウォール>への妨害を続けるバイオネットへの怒りがあるだけだ。

「ゾォォンダァッ!」

 疑似ゾンダーロボが、全身をアメーバのような不定形に変形させつつ、襲いかかってくる。それはジェネシック・ガオガイガーの戦い方を模したものではない。天空に煌めくオーラをコピーした、おぞましき存在にふさわしい戦い方だ。
 そして、そのパワーはこれまでの疑似ゾンダーロボとは比べものにならない、強大なものだった。ガオガイゴーは敵の剛腕で全身を強打され、よろめいた。それでも、倒れることはない。こんな奴に──ジェネシックに姿だけ似た奴などに、膝を屈してたまるものか! 青年たちの思いは同じだった。

「このぉぉぉっ!」

 疑似ゾンダーロボの連打の隙をついて、ガオガイゴーが殴り返す。その一打によって、敵はあっさりとよろめき、尻餅をついた。本物の勇者王ならば、そんなことにはならないはずだ!
 ガオガイゴーは疑似ゾンダーロボの前に立ちはだかったまま、両腕を広げた。

「護……一気に決めるぞ」
「もちろん……!」
「ユー・ハブ・レフトコントロール!」
「アイ・ハブ・レフトコントロール!」

 操縦権を半身ずつ分け合ったふたりの青年は、全身を発光させつつ同時に叫んだ。

「ヘル・アンド・ヘブンッ!」

 ガオガイゴーの両腕から、ふたつのエネルギーが迸る。だがそれは、かつての勇者王たちのような攻撃と防御のエネルギーではない。右腕からJジュエル、左腕からGストーンのパワーを放っているのだ。

「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ!」

 JとGの力は握りあわされた両拳からひとつになってガオガイゴーを包み込み、その全身を銀色に染め上げた。そして、放たれた電磁竜巻が疑似ゾンダーロボを拘束する。
 この必殺技を使う時、リンカージェルに護られているとはいえ、激しい衝撃が戒道幾巳と天海護を襲う。かつての勇者王がいかに素晴らしき勇気を以って、この凄まじい力を発揮していたか、思い知らされる。だが、自分たちも勇者王を継ぐ以上、屈するわけにはいかない!
 眼前には身動きがとれないままの疑似ゾンダーロボ。ガオガイゴーは両拳を突き出したまま、突進。そして、敵胴体部に両拳をねじりこむ!

「はあああっ!」

 胴体中央の構造物とともに、疑似ゾンダーコアがえぐり出され、覇界王を模した不愉快な姿は爆散。炎の中へとその姿を消していった……。

 

「クーラティオー・テネリタース・セクティオー・サルース・コクトゥーラ!」

 ガオガイゴーの手のひらの上で、えぐり出されたコアが天海護によって浄解されていく。鈍い色の機界生命体は、やがて白い肌を持つ老年の男性へと変貌していった。

 ──だが、いつもと違う。
 浄解の呪文を唱えながら、護は言いしれぬ違和感を感じていた。普段ならば、マイナス思念を昇華された素体は、涙を流しながら人間に戻っていく。だが──

「あひゃ、あひゃひゃひゃ、あひゃひゃぁっ!」
「お前は……ドクター・タナトス!?」

 護は資料によって、その人物の名を知っていた。浄解されながらも、哄笑している奇怪な老人。前世紀からバイオネット総帥副官として、数々の悪事に手を染め、その後も総帥として<グローバルウォール>計画を妨害し続けてきた科学者。ドクター・タナトスこそが、疑似ゾンダーロボの素体だったのだ。
 何らかの意図があって自らを疑似ゾンダー化したのか、事故によって疑似ゾンダーメタルと融合してしまったのか、それはわからない。いずれにせよ彼の行動は、通常の浄解された後のパターンとは異なっていた。

「あひゃひゃひゃ、君が二十六番目の被験者かねっ! あひゃひゃひゃ!」
「浄解したはずなのに……なぜ?!」

 飛びかかってきたタナトスの手には危険な凶器が宿っていた。鋼鉄さえも斬り裂きそうな鋭い爪。機械とは違い、生体実験で発生させたためか、浄解されても威力が失われず、瞬時に人命を奪うことが可能な死神の鎌のようだった。護はギリギリでその攻撃をかわした。ギリギリ──そう、一瞬の差で避けるのがやっとだった。とても老人が繰り出したとは思えない、鋭い一撃。
 セリブヘッドで事の成り行きを見守っていた戒道も、思わず身を乗り出した。

「逃げろ、護! そいつは何か変だ!」
「で、でも──」

 護が逃亡と反撃との間で迷った刹那、タナトスは超人的な速度で間合いを詰めてきた。

「どちらにしても二十六年目の悲願はここで──あひゃっ!?」

 突きだした爪が護の喉元に突き刺さりかけた時、その老人の全身は硬直した。護は見た。宙から舞い降りてきた人物が、その胸の裂け目から黄色き光の粒子を放つ瞬間を。

『ペクトフォレース・フラウム──』

 たちまち、タナトスの身体は麻痺し、その場に倒れ込む。粒子を放った人物は、その傍らに立った。否──その者は、いわゆる“ヒト”ではなかった。

「あなたは──」

 見覚えがあった。覇界王のオーラに照らし出されたその姿に。そして、記憶していた。佇むその者の名を。

「ソムニウムの──ラミア!」

 六年ぶりである。インビジブル・バーストの直前、覚醒人凱号がメキシコ湾に沈んだ際現れた"ベターマン"。
 この場にポルコートがいたら、「臭いの正体はこいつだったのか!」と叫んだことだろう。
 黒い衣服のように見えるいでたちも、銀髪に赤と緑の前髪も、記憶のなかの姿そのままだった。ソムニウムには加齢という現象が生じないのだろうか。

「あいつが……!?」

 戒道幾巳にとっては、初めて見る姿だ。幾度も話に聞かされていた、ヒトならざる霊長類。いや、地球人類種という定義からしたら、自分も天海護もそこからは外れているのだが……。

「なぜ、ここに──」

 戒道のその問いに、ラミアは答えようとしなかった。もともと、彼の目的はドクター・タナトスであったらしい。六年前とは異なり、護の方へは意識を向けず、胸腺から放出される黄色く光る免疫粒子を徐々に止めていく。

「……」

麻痺、硬直している老人の身体を、ラミアは軽々と小脇に抱えた。

「待って! そいつをどうするつもりなの!?」

 ラミアの額に十字の光が煌めいた。戒道の問いかけを無視したものの、護には反応したらしい。

『来たるべき対決のために……』

 リミピッドチャンネルで伝わってきた意思。それを言葉に置き換えれば、そのようになる。

「対決? まさか──」

 ふたたび戒道が問いかける。だが、数秒前と同じく、ラミアは彼を無視した。

 さらにガンホークや、ガンシェパー、遠くからヤマツミが近づきつつある駆動音がかすかに聞こえる。視認は出来ないが、別方向から静かにポルコートも接近。包囲は万全である。
 ラミアは、それを予測していたように、落ち着いた様子でふところから取り出した果実のような、もしくは木の実のようにも見える、その物体を貪り出す。

 その直後、ラミアの周囲から猛烈な暴風が巻き起こった。暴風のなかで、人体に酷似していたシルエットが変貌していく。翼ある異形の存在──<ネブラ>と記録されている形態に。
 ラミアが離脱しようとしていることを悟った戒道は、操縦桿代わりとなっているリンカージェルのカプセルを握りこんだ。だが、ガイゴーは動かない。護が機外にいる以上、デュアルインパルスが発生しないのだ。

「くっ……!」

 そして暴風が去り、一瞬にしてベターマン・ネブラは飛翔していた。夜空へ向かって。いや、木星に重なっている覇界王の方へと。
 もちろん、実際には木星も覇界王も遥か彼方であるため、そこに向かっているわけではない。だが、その姿は来たるべき対決の相手が何者であるのか、如実に語っているように護には思えた。

(ソムニウム……ベターマンは、覇界王と……戦おうとしているのか?)

 護は寒気を感じて、自分の身体を両手で抱えた。セリブヘッドから出てきた戒道が隣に立つ。

「大丈夫か……?」

 ドクター・タナトスに傷を負わされたわけでも、ベターマン・ラミアに危害を受けたわけでもない。相棒はいま、この震えに気づいて、心配しているようだ。

「ああ、なんともないよ」

 護は答えた。そう、なんともない。この震えの原因は、寒さでも恐怖でもないのだから。ベターマンと覇界王、その戦いに自分も加わることになる──なぜか、そう確信して沸いてきた武者震いなのだ。
 これまでずっと、天海護はなにかを護るためだけに戦ってきた。養父がつけた名の通り。なのに何故か感じた、初めての予感だった──

 

 同時刻。国際的犯罪結社バイオネットが、誰の予想をも裏切る形で終焉を迎えつつあった頃。
 ニューヨーク、タートル・ベイの国際連合本部ビルでは、深夜にも関わらず事務総長がある報告を受けていた。

「そうか、ようやくカウントダウンが始まったか……」
「はい、事務総長。あと一二〇時間で<グローバルウォール>計画が発動することになりました」
「めでたい! これで人類は救われる……」

 喜色満面で両手を打ち鳴らした中年男性の名は、ハート・クローバー。ロゼ・アプロヴァールの後を継いだ国連事務総長である。
 その執務室で、進行中の計画について秘書官が詳細な説明を行っている。壁面の巨大な模式図には、CGによる模式図が表示されていた。
 グローバルウォール──それは勇者王ガオファイガーのプロテクトウォールを、全地球規模で展開しようという計画である。
 敵の攻撃を、左腕に備わった防御エネルギーによるプロテクトシェードで、空間を湾曲させて反射する装備。そこにウォールリングを追加することで、強化したのがプロテクトウォールだ。
 現在、地球の衛星軌道上にはGGGオービットベースがあり、そこには防衛用にプロテクトシェードが備わっている。つまり、全地球規模のウォールリングを展開して、球状の防御フィールドを展開するのだ。このウォールリングを発生させるのが軌道上六基のウォール衛星であり、そこにエネルギーとしてGリキッドを供給するのが、赤道上六か所のGサーキュレーションベースというわけである。
 これらによって湾曲空間が地球を包み込み、強電磁場を完全に遮断する。かつ、太陽光は遮らずに透過させる完璧なシステムが、CGで描かれていた。

「世界中のコンピュータが誤作動を起こすことがなくなり、無線通信機器も使えるようになる!」

 極秘情報で通信機器の仕入れをはじめた蒼斧蛍汰の勤務先も、ささやかな利益を出すだろう。

「ええ、事務総長。そうなれば……」
「モチロンだよ、チェリーくん! いよいよ<プロジェクトZ>が再開できるというわけだ!」

 微妙なあだ名で呼ばれながら、女性秘書官は妖艶な微笑みを浮かべた。

「……とても素晴らしいことですわ」

 その女性はかつて、宇宙開発公団に勤務していた。彼女の本名は──磯貝桜。

(number.01・完 number.02へ続く)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回12月7日(水)更新予定


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