覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第11回】


number.02 鍵-RAKAN- 西暦二〇一六年(1)

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 フランス、ブーシュ=デュ=ローヌ県の県庁所在地であるマルセイユ。瀟洒な港湾都市の外れ、倉庫街の一角に銃声が響いた。
 それは対特殊犯罪組織シャッセールの捜査官たちによる発砲音である。そして、この一斉射撃が国際的犯罪結社バイオネットの壊滅を告げる弔砲ともなった。
 GGGが入手した世界各地のバイオネット支部に関する情報は正確なものだった。これにより、ヴェロケニア共和国の本部は制圧され、総帥ドクター・タナトスは行方不明だが、各国支部も国際警察や治安部隊によって解体され、幹部やエージェントは逮捕された。
 これにより、前世紀から暗躍を続けてきた悪の一大組織は潰え去った。だが、末期の彼らが何故、全人類を護る<グローバルウォール>計画を妨害しようとしたのか、その動機は謎のままに終わった……。

「──というのが、公の発表なんだなぁ」

 衛星軌道上、GGGオービットベースの防諜会議室において、阿嘉松長官が苦虫を噛みつぶしたような表情で言った。実際のところ、真実を隠した発表というものは良薬かもしれないが、苦い。顔に出てしまうのも無理はない。

「長官の気分もわかるが、真実を公表するわけにはいくまい。ドクター・タナトスの身柄が、ベターマン・ラミアに連れ去られたなどと」

 こちらは内心を表に出すことなく、楊スーパーバイザーが応えた。彼が言うように、ベターマンがらみの事件は機密指定されることが多い。いまさら、動じる必要があるとは、楊は考えていなかった。
 ベターマンの存在は生物学者などには知られていたが、それが実際に歴史上、どのような事件に関わってきたか──その情報の多くは秘匿されている。
 不可知領域に隠れ住むという、人類を超える霊長類の存在を、認められない者がいたのだろうか。国連においては成立初期より、ベターマンについては専門機関を設置、情報をその内部で統制してきた。二〇〇六年にはそれにまつわる情報を隠蔽するため、下部機関の本部に爆撃を加えたことさえあったほどだ。

「ベターマンの目的は……やっぱり?」
「ああ、アルジャーノンだ」

 アーチン参謀の問いに、阿嘉松がうなずく。室内にいた全員の間に、重い沈黙が横たわった。この時、防諜会議室に集まったのは、GGG首脳部を構成する三人と、野崎通、犬吠崎実、平田昭子の通称"三博士"である。
 宇宙基地といえど、平田が開発した人工重力が働いているため、室内の様子は地上施設と変わらない。会議用テーブルの上には人数分のコーヒーが置かれ、長いミーティングが続いている。議題はバイオネット壊滅に関することであったのだが、ベターマンの方へと移っていった。

「アルジャーノン──原因不明の奇病とされている、例の現象か。長官も参謀も深い縁があったのだったな」

 その現象と深い縁を持たぬ楊が、率直に問う。普通の人間であったなら、遠慮というワンクッションを置くところだ。かつて、アーチンの実弟カクタス・プリックルが、阿嘉松との調査作業中にアルジャーノンで死亡したのだから。だが、緊急事態においてそのような遠慮など、必要ないどころか、害悪だと楊は考えている。

「ああ、アルジャーノンはヒトという生命種そのものが、自らの抗体を活性化させる現象だ」

 ベターマン──ソムニウムは、人類と共棲する種属であり、ヒトを滅びの運命から護り続けてきた。人類種もそのメカニズムを活用するため、存亡の危機にあたって、ソムニウムを活性化させる。それが、アルジャーノン発生について立てられた仮説だ。

「オウ、カクタスがベターマンの餌になっていたなんて……」

 アーチンは頭を抱えた。長い間、弟の死は事故死によるものだと聞かされていたのだ。

「正確には、あいつ本人が食われたわけじゃねえ。ベターマンは、人の遺体に咲く<アニムスの花>の実を喰らうのさ。アルジャーノンで死んだ人間に咲く花は、奴らの能力をさらに引き出す実を結ぶ……」

 阿嘉松は冷め切ったコーヒーを飲み干してから、説明を続けた。

「カクタスは、ダイブインスペクションという実験に参加した。そいつは、人類全体を脅かすカンケルという脅威を生み出した。だから、実験の参加者たちは本人の意思によらずして、アルジャーノンを引き起こしていたんだ……」

 阿嘉松の言葉を聞き終え、GGG全般におけるオペレーションプログラムを開発してきた犬吠崎博士がうなった。

「カンケルという癌細胞を駆逐する抗体……ベターマンを活性化させるためのメカニズム、か。光学異性体ゆえに、消化吸収できる食料がきわめて少ない彼らにとって、人類種がそのような現象を発生するのは、共棲のための巧みな自然プログラムといったところか」

 オービットベースや、各宇宙ステーションの高可動システムを担当してきた野崎博士もうなずく。

「陽子と電子……あるいは中性子のような存在かもしれないが、人類が生きるこの世界のバランスを保つために彼らは必要不可欠のようだな。実際のデータでも、カンケルがベターマンに斃された時期と、アルジャーノンの終息は一致している」

 阿嘉松は無意識のうちに、首から提げたペンダントに触れていた。いや、それは装飾品などではなく、アカマツ工業製の発明品<アルジャーノン見張番26号>だ。半径五メートル以内の、アルジャーノン発症者が放つ脳波形を感知し、警告してくれるアイテムである。もっとも発明して以来、実際に発症者に遭遇したことはなく、事実上ただのお守りと化していた……。

「だからこそ俺は恐ろしいんだよ。またアルジャーノンが起こったんじゃないかと思うとな……」

 最近になって、脳を有害な毒電波から守るらしい最新型の<バリアー君デンパレス2世>も付けはじめた阿嘉松は、その額を抱える。

「重力世界では物質と物質は惹かれあいます。ベターマンが現れたのも、おそらく……。たしかに、バイオネット総帥がそのアルジャーノンとやらを発症していたと考えると、いろいろと辻褄があいます」

 不安そうな阿嘉松に向かって、平田博士が指摘したのは、近年のバイオネットの非合理的な活動についてだ。

 もともとバイオネットの特徴といえば、先進科学を独自に入手、それによる新兵器を各国やテロ組織に売却することで利益をあげてきた点だ。ジュピターX、フツヌシ、フェイクGSライド、疑似ゾンダーメタル……いずれも地球外テクノロジーを取り入れたものであり、それらに対抗するには既存の軍や警察では難しく、GGGが当たるしかなかった。
 はっきりしているのは、人類社会が正常に機能していない限り、バイオネットは存続しえないということだ。戦争やテロリズムにリソースをさく"余裕"がなければ、バイオネットの顧客とはなれない。
 この数年間、インビジブル・バーストによって人類は、存続にすべての力を注ぐしかなく、互いに相争う余裕などなかった。ヴェロケニア共和国の復興財源を巧みに横領することで活動してきたらしいが、<グローバルウォール>計画の妨害は、バイオネットにとっても自分の首を絞める行為でしかない。
 また疑似ゾンダーロボの素体に、組織の情報を多く知る幹部を起用したのも致命的な失敗と言える。事実上、浄解された幹部から得た情報によって、バイオネットは壊滅したのだから。

「すべては、総帥がアルジャーノンであったが故か……」

 阿嘉松にとっては納得できる話だった。以前、アルジャーノンが発生した十年前、トップがアルジャーノンを発症したため、非合理的な活動に走った組織を、いくつか目の当たりにしてきたのだから。

「まあいい、後始末は国連本部に任せるとするさ。護と幾巳には、ベターマンの件について口止めをしとかなくちゃならんが……とにかくこれで、グローバルウォールの発動準備は整った。俺たちはその後のための準備をするだけさ」
「……ああ、いよいよだ。<プロジェクトZ>再開の日が来る」

 プロジェクトZ計画主幹である楊がうなずいた。六年前、誰にも思いよらぬ形で中断させられてしまった、勇者たちを迎えに行くプロジェクト。それがいよいよ再開できるのだ。鉄仮面で知られる楊ですら、心が躍る。

(だがひとつだけ、確認しておかなくちゃならんな……)

 高揚感のなかでも、楊には引っかかることがあった。それは、ドクター・タナトスを素体とした、覇界王に酷似した疑似ゾンダーロボを見て、天海護が発した言葉──"ジェネシック"。ガオガイゴーのウームヘッドのボイスレコーダーに、その言葉が記録されていた。

(ジェネシック……三重連太陽系で蘇ったというガオガイガーの起源の機体……)

 地球に帰還した後、星の子供たちは三重連太陽系で起こったことのすべてを、詳細に語った。だが、それらについて映像記録は存在しない。そのため、ジェネシック・ガオガイガーの姿を知るものは護と戒道、ふたりだけだ。
 ジェネシックと発した護の言葉の意味。それにどう対処するか、楊は判断に悩んでいた。阿嘉松たちと情報を共有すべきか、気づかなかったふりをするべきか。それとも──

 

「初めまして……なのかな、アルエットくん」

 笑顔で右手を差し出したのは、GGGの前スーパーバイザーである高之橋両輔博士だ。

「いいえ、お久しぶり……ですわ、プロフェッサー」

 寂しそうな表情をかすかに浮かべつつ、握手に応じたアルエットの言葉に、高之橋ははっとした。彼女は失われたはずの記憶を取り戻している──

「もう、みんないなくなってしまったのですね……」

 十年前、アルエットはGGGの協力者として活動したことがあった。だが、オービットベースにアルエットと面識のある人物は、誰もいなかった。獅子王凱、卯都木命、ルネ・カーディフ・獅子王、スワン・ホワイト……みな、三重連太陽系から帰還していない。
 御殿山科学センター所長という立場に復職していた高之橋は、アルエットが保護されたと聞いて、あわててオービットベースに上がってきた。これがアルエットにとって、最初の"十年ぶりの再会"だったのだ。

「それにしても驚きました、彼女が博士の知り合いだったなんて……」

 素直な感想をもらしたのは、アルエットを談話室まで案内してきた天海護である。

「うん、僕も九十八パーセント再会することはないと思ってたんだけどねぇ」

 高之橋がそう漏らしたのも、無理はない。
 かつて、アルエットは胎児の時に遺伝子操作を受けて、超天才児として誕生した。そして五歳の時に高之橋と協力して、ガオファイガーのファイナルフュージョン・プログラムを開発したのだ。だが、バイオネットとの戦闘に巻きこまれて、頭を負傷したことで入院。退院した時にはそれまでの記憶と、天才性を失っていたのである。

「……あれから十年、か。フランスGGGが君の身辺を警護しているはずだったんだけどなぁ」
「仕方ありませんわ。十年間、狙われなかったんですもの。警備の規模が縮小されるのも無理はないし、そもそも私が掠われたのは偶然でしたから」

 アルエットの言う通りだった。バイオネットは民間人を無差別に誘拐していた。疑似ゾンダーロボの素体とするためだ。そこにアルエットが巻きこまれたのは、バイオネットにとっても想定外だったらしい。
 当初はストレスの多い者を選んで素体としていたが、最近では誘拐された人々にわざとストレスを与えて、疑似ゾンダーメタルを埋め込むことすらあったらしい。
 そうした行為が、皮肉にもアルエットの記憶と天才性を取り戻す結果となったのだ。事情を聞いて駆けつけた高之橋が、再会を喜ぶ気になれなかったのも無理はない。

「できることなら一生、バイオネットにもGGGにも関わらずに暮らしてほしかったねぇ……」

 高之橋の偽らざる本音である。

「仕方ありませんわ。もう関わってしまいましたもの」

 そう言って、アルエットは微笑んだ。

(なんだろう、この子の表情……僕より五歳も年下なのに、もっとずっと上……ううん、おばあさんの笑いみたいな……)

 ふたりの会話を、少し離れたところで聞いていた護はそう感じた。立ち聞きするつもりではなく、案内してきた後、中座するつもりでタイミングを逃してしまっただけなので、余計に居心地が悪い。
 そんな護の視線に気づいていないのか、気にしていないのか。アルエットは高之橋をじっと見つめて、切り出した。

「プロフェッサー、お願いがあります」
「うん? なんだろうね? もしかして……」
「私、GGG隊員になりたいんです。推薦をいただけないでしょうか」
「……九十八パーセント、そんなことを言い出すだろうと思ったよ」

 アルエットが保護されたと聞いた当初、高之橋は彼女が母親と暮らしていたフランスへ向かおうと考えた。いずこかの病院で検査を受けた後、当然、帰郷するだろうと思っていたからだ。ところが、帰還するヤマツミに強引に乗り込み、オービットベースへ上がったという。それを聞いて、予感はしていたのだ。

「いいだろう、推薦状書かせてもらうよ。まあ、君の実績と能力があれば、そんなものなくても、九十八パーセント問題ないと思うけどね」
「ありがとうございます……!」

 そう言って、アルエットは無邪気に微笑んだ。

(今の顔は普通の女の子だ……)

 彼女がどのような人柄で、どんな目的でGGGに入りたがったのか、護にはわからない。だが、いくつもの笑顔がどれも偽りではなく、本物であることを、なんとなく護は感じとっていた。

 

「ウォール衛星、第一から第六まで異状を認めず。Gリキッドの供給状況、サブモニター二番に出します」

 オペレーターの報告を聞いて、阿嘉松長官が吠える。

「ようし、カウント開始ダーッ!」
「了解……六十、五十九、五十八──」

 普段なら初野華が座っている機動部隊オペレーター席についているのは、この日、入隊を認められたばかりのアルエットだ。マニュアルを読み込む時間が充分にあったとは思えないが、そのオペレーティングによどみは微塵もない。むしろ、地球規模の膨大なシステムプログラムの全容を完璧に把握している無駄のない、両手の指捌きである。まるで二台のピアノを同時に弾いているかのような華麗な動きに、火乃紀や他の隊員たちも圧倒されていた。
 メインオーダールームの壁際で、華は小声でつぶやいた。

「ふえええん、どうしよう、私なんかよりずっと上手いかも……」
「うーん、けっこうやるよね。でも華ちゃんが休むための交代要員も必要なんだから、アルエットにも経験を積んでもらわないとね」

 隣に立っていた護の小声のフォローで、華は少しだけ落ち着いたようだ。

「うん……」

 とだけつぶやいて、窓外に広がっている光景に視線を戻す。
 まだ、地球の姿に変化はなかった。常のように美しい青い姿を見せている。

「三、二……システム起動!」
「ようし、ウォールリング・プラスッ!」

 阿嘉松の号令とともに変化が起きた。地球の静止衛星軌道上に存在する六個のウォール衛星が、ガオファイガーと同じ非実体型ウォールリングを展開したのだ。高度約三万六〇〇〇キロの軌道上に、光り輝くリングが出現する。それはオービットベースの軌道よりも高高度にあるため、視界の半分ほどが光の帯に包まれたような状態になった。

「ウォールリング、想定出力に三コンマ六パーセント足りません。第二衛星のゲイン調整で対応します。Gリキッド供給安定まで十秒ください」

 早口でそう報告しつつ、アルエットはすぐに問題への対処を終えた。すべてのモニターがグリーン表示に変わっていく様子を見て、華がまたつぶやく。

「ふえええ……」

 護が新しいフォローの言葉を思いつく間もなく、阿嘉松が深呼吸した。次の展開を予想して、メインオーダールームにいる全員が、両手で耳を塞ぐ。

「プロテクトウォール、展開イイイイイイィィィッ!!」

 誤作動防止のオペレーション操作のため、ひとり耳を塞げなかった牛山次男は、半ばやけくそに大声で返す。

「了解ッ! プロテクトウォール、展開イイイイイイイイイッ!!!」

 兄からの有線シグナルを受け、機関部の弟・牛山末男が更なる大声で応え、力強く起動レバーを引く。

「プロテクトウォールッッ、展開イイイイイイイイイイイイッッッ!!!!!」

 GGGオービットベースに備わっていたプロテクトシェードが一気に展開された。その空間湾曲バリアーシステムは、ウォールリングによって増幅され、球状に地球全体を次々と包み込んでいく。それはあたかも、光の宝箱に、青く美しい宝石が収められたかのような光景だった。

「おおお……」

 阿嘉松や次男の大声に鼓膜を破壊されることなく、両耳から手を離した隊員たちが、感嘆の声をあげる。そして、入電を告げるコールサインが鳴った。

「──国連本部のハート事務総長から入電、無線通信です!」

 火乃紀がそう告げると、回線をつないだ。メインモニターに、金髪で恰幅のいい白人が現れる。

『計画は大成功じゃないか、阿嘉松長官!』
「おうよ、GGGのやることに失敗があってたまるカアアアアァッ!」

 阿嘉松も喜色満面で応えた。プロテクトウォールに包まれた地球圏。オービットベースと地上との間で無線通信が成立したということは、木星からの強電磁場を遮断することに成功したという証だ。
 六年前、平和な世界を脅かした災厄に、人類はついに勝利を収めたのである!

『ウィー・アー・ザ・ウィナーズ!』

 モニターのなかでハート事務総長はそう叫んで、拍手をはじめた。阿嘉松をはじめとするGGG隊員たちもそれに同調し、喜びを口にする。

(よかった、これでやっと……)

 普段はクールな戒道も、この日ばかりは涙を浮かべて嬉しそうにしている。
 誰もかもが喜んでいた。
 ──しかし、ただひとりだけ、喜びが半分。不安が半分、という顔つきの人物がいる。楊龍里だ。

(やれやれ……六年もかかってしまったか。この停滞が、なにか致命的な結果に結びつかなければいのだが……)

 六年前、プロジェクトZを放棄して救助活動に奔走した八木沼や高之橋の判断は全世界から絶賛されたし、楊自身も間違いだと思っているわけではない。
 だが、心の奥底で考えている。誰にも話したことはないが、思わずにはいられない。

(あの時、ミズハで指揮を執っていたのが私だったら、どうしていただろう。我々人類はどんな犠牲を払ってでも、あそこでプロジェクトZを開始しておくべきだったのではないだろうか……)

 歓喜に沸き返るメインオーダールームの一角で、楊がそんな思いを抱いていることに、気づいている者はいなかった。

 ──Gアイランドシティの一角、牛山次男邸。その居間では息子を左腕でだっこしたあやめが、小躍りしていた。右手に握られた古いスマホの画面には、プロレスの中継が映し出されている。

「ああっ、またスマホでプロレス観られるなんて! GGGのみんな、旦那、やってくれたんだね! ありがとうっ、愛してるよーっ!」

 ──神奈川県、某家電量販店の店頭。特設台では放送再開したテレビ番組が液晶モニターに映し出され、通話機能を使えるようになったスマホを求めて、人々が列を作っていた。
 商売繁盛の様子を見ながら、店長が功労者である営業部員を褒め称えている。

「いやー、蒼斧くん、お手柄だよ! 君が全国から在庫を集めてくれておいたおかげで、大もうけだ!」
「ほんとすか! じゃあ臨時ボーナスとか!」
「もちろん! 昇給もつけちゃおう!」
「うおっっしゃーーーーーーー!」

 蛍汰はガッツポーズをとった。
 そして、それは蒼斧蛍汰ただひとりの喜びではない。世界中で、たくさんの人がその喜びを共有している。六年前の大惨事がようやく終わったのだから。
 だが、それが災いの終わりではなく、"猶予期間"の終わりであったことを、人々は程なく知ることになる……。

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回12月14日(水)更新予定


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