覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第12回】
number.02 鍵-RAKAN- 西暦二〇一六年(2)
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地球の人々の頭上、蒼穹の向こうにクリスタルの輝きがある。数日前まで、異様な存在感をもって“覇界王”と呼ばれていた木星のオーラは、いまや小さな星屑のひとつでしかない。夜空ならともかく、晴天のもとでは肉眼で見つけることすら難しくなっていた。
すべては<グローバルウォール>計画の成果だ。勇者王のバリアーシステムを全地球規模で展開したこの防壁によって、木星からもたらされた強電磁場は遮断された。しかし、太陽光などの恵みを遮ることはなく、世界はクリスタルの空に優しく護られた状態で安定したのである。
木星からの異常電磁場が遮断されたことで、もっとも恩恵を受けたのはオービットベースに勤務するGGG隊員たちだったかもしれない。
インビジブル・バースト以来、衛星軌道上と地上との電波通信が不可能になったことで、個人的な通信が制限されていたからだ。メール程度の情報量であれば、圧縮レーザー通信でやりとりできていたが、リアルタイムの通話までは許されない。休暇の際に地上に降りるまで、彼らは家族や友人との通話さえできなかったのだ。
その日、<グローバルウォール>計画を成功させたGGG隊員たちは勤務時間外に、六年ぶりになる地上との通話を楽しんでいた。
『そうなのよ、数納ったら、アタシがあげたチャンス、全部ムダにしちゃってさぁ!』
機動部隊オペレーターである初野華の交信相手は、小中学校の同級生である狐森レイコだ。さらにモニター内には鈴木わかば、手里たまよの姿もあった。高校卒業後にGGGに入隊した華や牛山末男とは異なり、三人は女子大へと進学していた。子供の頃は普通の女の子だったわかばとたまよも、メイクや着こなしが洗練されて、キラキラした女子大生となっている。いつもノーメイクでGGG隊員服を着ている華にとっては、とても眩しい姿だった。
『……ちょっと聞いてるの、初野さん!』
「あ、ごめん、なんだっけ?」
『だからぁ、数納のやつがうるさいから、合コンセッティングしてやったのよ。なのにあいつ、家柄ジマンばっかでさぁ。もうサイッテー!』
あとひとり、少年GGG隊で一緒だった数納鷹泰も普通の大学生になっていた。
「数納くん、あれでも苦労してるんじゃないかな。親戚にエラい人が多いから、いつも比較されて……」
『まあ、悪い奴じゃないけどね。……ところで初野さん、あなたたちはどうなの?』
「え? ど、どうって……」
『天海くんとは仲良くやってるの?』
「うん、仲良しだよ、もちろん……」
頬を少し染めながら、華が答える。だが、望んだ答えではなかったらしい。モニターの中のレイコは軽く額を抑えている。気のせいでなければ、両隣のわかばとたまよも苦笑いしているようだ。
『そうじゃなくって! 少しは大人のレンアイしてるのかって聞いてるのよ! ああ、そうか……あんたたち、結婚十年目だもんね。もうそういう段階じゃないのかぁ。ケンタイキ? だったら、さっさと籍も入れて、名実一致しちゃえばぁ!』
レイコが早口でまくしたてた。もちろん、困り果てた華が頬を染めて「そんなぁ~~」などとうつむいてしまうのを期待して、だ。ところが実際の反応は違っていた。
「………」
なにやら、深刻そうな表情でうつむいている。予想外の態度に、レイコは慌て出した。
「なに? このリアクション……もしかして天海くんとうまくいってないとか?」
わかばとたまよに小声で救いを求めるレイコ。とはいえ、ふたりにとってもどうしたら良いかわからない。わかばは天を仰ぎ、たまよはムリムリといった具合に手を振った。援護を受けられないと悟ったレイコは、意を決して切り出した。
『あの、初野さん……どうしたのかしら……?』
「………」
たっぷり三十秒ほどの間を置いて、華は顔を上げた。その大きな瞳は涙でうるんでいる。
「うん、なんでもない。ちょっと目に埃が入っちゃって……」
「ああら、そうなの! たいへんねぇ、宇宙空間ってけっこう埃っぽいのねぇ、おほほほほ!」
あまりにも無理のある言い訳である。だが、涙の裏側に存在するであろう事情に脚を踏み込む勇気は、長いつきあいの狐森レイコも持ち合わせていなかった……。
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通信回線の管理要員が意外に思うほど、戒道幾巳の占有時間は長かった。もっとも、それは戒道が休暇の度に地球に降りるようなことがなかったが故の、勘違いでしかない。
彼がもっとも会いたいと思っている養母は長期入院中であり、自由に対面することがかなわない。それに続く人々は交通の便が悪い地域に住んでいるため、思うように会いに行けない。それらの事情が、行動を制限していただけだ。
宇宙開発公団出身の日本人GGG隊員ならば、Gアイランドシティとの間で頻繁に運行されているシャトル便を使うことができる。そういう恵まれた状況の隊員たちとは、事情が違っただけだ。
<グローバルウォール>の成功によって、オービットベースと地上間の通信が可能となり、もっとも喜んだ隊員は戒道幾巳だったかもしれない。
この日も、自室と病院との直接回線で養母と日常のことを語り合った。
『GGGの人たちに、ご迷惑かけてないかい?』
「ああ、大丈夫。みんないい人たちばかりだし……」
戒道は苦笑を顔に出さないようにしつつ、答えた。なにしろ、久しぶりに会ったり通信したりするたびに言われていることなのだ。
『ならいいんだけどねぇ。幾巳はお礼とかお詫びとかあんまり口にしないから、誤解されやすいしねぇ』
「……最近はそうでもないよ」
しみじみと、つぶやく。微々たる変化かもしれないが、もう何年も人間関係を積み重ねているのだ。自分だって、少しは変われたと思う。
「母さん、はやく良くなってオービットベースまで見学にくるといいよ。そうしたら、普段の僕をじっくり見られるからさ」
目標があれば、治療もより進むのではないか、との思いだ。
『お邪魔じゃないなら、そうしたいねぇ。宇宙はちょっと怖いけどねぇ……』
戒道の思いが通じたのか、モニターの向こうで嬉しそうに何度もうなずいている養母の顔には、いつもより少し、目の光に生気が灯ったような気がする。
看護師に制限時間を告げられて、通話を終える瞬間まで養母はずっと笑顔だった。
「また連絡するから、母さん……」
そう言い終えて通信を終えると、戒道は予約していたもう一件の交信をはじめた。相手先はオーストラリアのとある農場である。十年ほど前、彼はそこで一年あまりの時間を過ごしたのだ。
少年の頃に戻った気持ちで、戒道は農場主の娘や農夫たちと会話を弾ませた。
──そうしてささやかな楽しい時間を終えた戒道がのどの渇きを覚えて、通路に出ると、意外な人物が待っていた。
「……すまんな、待ち伏せなどして」
楊龍里スーパーバイザーである。戒道はいぶかしそうに目を細めた。
「任務だったら、メインオーダールームに呼び出すか、ダイビングチャンバーに来ればいい……通信で話す手もある。他の人間に悟られずに話したいということか?」
「察しのいいところは少年の頃から、変わらないな。話が早くて助かる。私の執務室までご足労願いたい」
通信回線は、管理要員や諜報部に対して、情報を秘匿することができない。だが、首脳部の執務室であれば、本人の権限で完全な防諜対策をとることができる。楊がわざわざ招きに現れた意図を、戒道は理解することができた。
6
戒道幾巳が楊龍里から密談を持ちかけられていたその日、GGGオービットベースではささやかだが、ある意味で深刻な問題が発生していた。
「辛いっ! 舌が痛いっ! 激痛で三半規管が麻痺するっ! なんなのよ、これっ!」
「ベタ甘ですクソ甘ですオニ甘ですハチミツ二十六さじ級の甘さです!」
隊員食堂<オービット亭>のテーブルで食事をとっていた彩火乃紀は火でも噴きそうな表情で水を飲み干し、向かいにいたタマラは顔をしかめてミルクとシュガーを足す前のコーヒーを口にふくんだ。こんな時でも、息継ぎしないタマラ独特のしゃべり方は変わらない。
火乃紀が食べていたのはネギトロ丼。タマラはカレーライス。いずれもオービット亭では定番メニューであり、よく馴染んだ味である。ところがネギは刻み青唐辛子であり、カレールーはカラメルたっぷりチョコレートによる偽装物件だった。
「あああ、あなたたちまで! ごめんなさい~~!」
大あわてで走り寄ってきたのは“食堂のおばちゃん”である菊帆エイル隊員だ。大柄の中年女性だが、きびきびした働きで常に食堂をきっちり管理している。その働きぶりはガッツィ・ジオイド・ガード時代から隊員たちの日常を支えており、信頼も厚い。
その菊帆隊員が涙を流さんばかりにして、ペコペコと頭を下げている。火乃紀は遥かに年長である大先輩の態度に慌てた。
「あの、そんなに頭下げないでください。ワサビの代わりに生の青唐辛子ってのも、ワイルドでけっこうオツでしたから……」
「いいえ火乃紀さんアナタの態度はオツという感想が出てくるようなものではありませんでした真っ赤な顔で必死に水を──」
「わかったから、気持ちを切り替えて、タマラ!」
「火乃紀さんワタシ口の中シュガシュガ濃縮キャラメル工場ミキサー26回転──」
「冷静に、冷静に……タマラ、神経を理性の脳内物質で落ち着かせて……」
「ほんとにごめんなさいね……<食材合成くん26皿>はさっきも阿嘉松長官が自らメンテしてくれたんだけど、また起きるなんて──」
「また? どういうことです?」
「あ、それは……」
最初渋っていた菊帆だが、火乃紀にじっと見据えられて、観念したかのように事情を語り始めた。
オービット亭は、アカマツ工業製作の大型マシン<食材合成くん26皿>を採用した食堂である。これは宇宙空間という閉鎖環境において最良の循環システムであり、基地内で発生した不要有機物を食材に再生することができる。詳しい仕組みは、隊員たちの精神衛生を考慮して非公開とされていたが、食材の味にも鮮度にも問題が発生したことはない。そこに菊帆隊員の調理技術が加わって、いつでも極上の食事をとれるということが、GGG隊員の士気の高さに貢献してきたのである。
ところが数日前から、そのオービット亭の料理に異常が起きたという。
「見た目は普段と変わらないのに、味だけ妙な食材が出てきちゃうのよ。トマトと区別がつかないハバネロのケチャップとか、とろろ芋に良く似たホイップ濃厚生クリームとか……」
「ええっ? 同じ唐辛子ならハバネロよりジョロキアやキャロライナ・リーパーの方が辛みを強く感じるはずだけど……」
「火乃紀さんツッこむ所そこじゃないと思いますまあ甘く見ておきますけど」
ふたりが食べたものの他にも、プリンの茶碗蒸しや、ピーナッツバターの味噌汁などが登場したらしい。
「阿嘉松長官が、<食材合成くん26皿>のプログラムエラーだろうってメンテしてくれて、もう問題なくなったと思っていたんだけどねぇ……」
「それ、菊帆さんのせいじゃないですよ。不運な事故……ううん、メンテした長官が悪い! だから、落ち込まないでください」
落ち込んだ表情の菊帆を見て、火乃紀は慰めようとした。だが間髪入れず、タマラが冷ややかな表情で言い切った。
「いいえ事故ではありませんこれは間違いなく犯罪です意図的な悪意です」
「ええっ、タマラ、なにか根拠があって言ってるの?」
「はい予測できますですがわからないのは犯人の動機ですここまで食堂を混乱させることにいったいどんな得があるのか」
菊帆も憤りの表情を浮かべた。
「いったい犯人は誰なんだい? タマラちゃん、お願いだよ! 犯人を見つけておくれ!」
「良いのでしょうか研究部オペレーター次席のワタシが主席の火乃紀さんを二十六倍ほど上回る才覚を発揮してしまうことになりますが」
「もちろんだよ! 捕まえてくれたら、デザートチケット一束あげるからさ!」
「二十六回分のデザートチケットですね!」
その言葉に、タマラの瞳が勝負師のようにギラリと輝いた──ように、火乃紀には見えた。
「ちょっと待って、私も犯人捜しに協力する……いえ、競争する! 生体医工学の名にかけて!」
「心強いねぇ! 火乃紀ちゃんまで! 夕食の下ごしらえまでは調理も休憩だから、今すぐじゃなくても構わないからね」
すがるような菊帆の視線に、火乃紀は大きくうなずいた。
「まかせて……デザートのため、ううん、菊帆さんのために頑張る!」
「わかりました火乃紀さんがそう言うのなら競争ですタイムリミットは夕食の下ごしらえが始まるまでですよーいドンです」
「あと三時間ってところだねぇ」
「ではその二十六分二十六秒前までに」
「わかったわ。タマラ、どっちが勝っても恨みっこなしよ!」
──こうして、ささやかだが、ある意味で深刻な問題を解決するまでの競争が始まった。
7
オペレーション当直のタマラと別れた火乃紀は、その場の勢いで競争することになってしまい、少々後悔していた。この時、メインオーダールームには山じいが詰めており、非直で次席の鷺の宮・ポーヴル・カムイが談話室で休憩している姿が目に入った。
周囲に誰もいないことを確認した火乃紀は、菊帆から聞いた事情をカムイに相談してみることにした。
「──と、いうことなんだけど……」
「そうかぁ、こないだ僕が飲んでしまったコーラ味のコーヒーはそういうことだったのかぁ」
「カムイさんも被害にあってたのね……」
「あはは、ショーユ味のコーラじゃなくて良かったけどね。わかった、協力するよ」
火乃紀から事情を聞いたカムイは、協力を快諾し考察を始めた。
「まず考えられるのは、<食材合成くん26皿>へのハッキングだね」
「そうか……遠隔操作なら、誰にも見とがめられずにプログラムを変えられるってわけね」
「僕なら諜報部権限で記録を閲覧できる。データに痕跡がないか調べてみよう」
談話室にも、基地内ネットに通じている端末が存在する。カムイは火乃紀に背を向け、操作をはじめた。
室内にカムイのキータイプとマウス操作の音のみが響く。沈黙をもてあましたのか、火乃紀は高身長の広い背中に向かって語りかけた。
「……そういえば、カムイさんは地上と通信したの?」
「ああ、両親と妹、昔の同級生……たっぷり使わせてもらったよ。天国にもつながるなら、兄とも話せたんだけどね」
「そう……」
火乃紀はしみじみとつぶやいた。カムイの兄もGGG諜報部隊員であり、Zマスターとの木星決戦で殉職している。家族をすべて失った火乃紀には、彼の気持ちが理解できた。
「で、火乃紀くんは? ちゃんと通信したのかい?」
「ううん、私には家族が……」
「地上には彼氏がいるんだろう。もう長いつきあいの」
「………」
もちろん交信を試みてはいた。だが、仕事中であったのだろう。蒼斧蛍汰のスマホは不在メッセージを返すだけで、声を聴くことはかなわなかったのだ。互いに社会人である以上、それぞれのシフトがかみ合わねば会話は難しい。オービットベースがグリニッジ標準時で運営されている以上、仕方のないことだ。
(仕方ないけど……せっかく通信できるようになったんだから、マメに着信履歴くらいチェックして折り返してよ!)
そう心のうちで憤っていた。
実のところ、蛍汰も着信に気づいてはいた。気づいてはいたのだが、彼の方から衛星軌道上のオービットベースに折り返すと通信費が馬鹿にならない。一般人として貯金に余念のない蛍汰が尻込みしてしまった事情までは、宇宙という非一般的な職場で働く火乃紀の方にも思いやる余裕はなかった。
火乃紀の無言を、触れられたくないというサインと理解したのだろう。カムイはその話題を続けようとはせず、検索結果の画面を火乃紀に見せた。
「さ、これが<食材合成くん26皿>の設定画面の履歴だよ」
「うわ、グチャグチャ……」
生成される食材の見た目と味、それらは通常、一致するように設定されている。ところが、ここ数日はそれがランダムに──いや、むしろ食べた者にショックを与えんがための組み合わせになっていた。
「ところが、阿嘉松長官のメンテ直前には正常に設定され直して、終わった後、またデタラメに戻されてたようだよ」
「ちょっと待って、カムイさん。長官が気づかなかったってことは……」
「うん、設定変更の履歴が削除されてたようだね。削除の痕跡までは消せなかったみたいだけど」
カムイはさらりと言ってのけた。主にハードウェアの専門家である阿嘉松より、データ解析に長けているのは諜報部員として当然だが、この短時間でそこまで見つけるとは。火乃紀は、自分が正しい相手に相談したことを実感していた。
「もしかして、カムイさん。設定をグチャグチャにした人の正体、もうわかってるんじゃ?」
「そうだね……消去法で考えていけば、こうなると思うよ」
カムイは端末のモニター上に、オービットベースに駐留する全GGG隊員の名簿を呼び出した。
「その人物は、意図すれば人体に有害な料理を提供することも可能だった」
「……!」
一瞬、戦慄する火乃紀。淡々と名簿にひとつひとつ条件を挙げて、フィルタリングしていくカムイ。
「事態はけっこう深刻かもしれないな」
ほんの数回の作業の結果、そこに表示されている隊員の名はひとつに絞り込まれた。
「そんな……そんなことって……」
その名を見た火乃紀は、驚きのあまりに絶句した。
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楊龍里は自ら、執務室の防諜機能が正常に作動していることを再確認した。そして、戒道幾巳が座っているソファーの向かいに腰掛ける。
「すまなかったな。万が一にも盗聴などされたくなかったのでな」
「そういうことを一番しそうな人間は、僕の目の前にいる。心配しすぎじゃないか」
「ふ、その通りだな……」
皮肉にも聞こえかねない戒道の言葉にも動じず、楊は笑みを浮かべた。
「……さて、長話は無意味だ。単刀直入に聞こう。覇界王とジェネシックの類似性について、知っていることを教えてほしい」
内心で動揺していたとしても、戒道はそれを表情に出したりはしなかった。
「……そうか、あの時の護の言葉か」
“あの時”とは、バイオネット最後の総帥ドクター・タナトスを素体とする疑似ゾンダーロボと戦闘した際のことだ。その疑似ゾンダーは覇界王──木星に重なって見えるオーラの姿によく似ていた。そして“言葉”とは、覇界王を模したゾンダーを見て、護がもらした名前──すなわち、ジェネシック。
「うかつだった。ヤマツミに帰還する前に、データを消しておくべきだった……」
「つまり、その事実を我々に知られたくなかった……ということだな」
「確認するまでもないだろう。僕ならまだしも、あの護が六年間も秘密にしてきたんだ」
嘘のつけない性格である天海護が隠し続けてきた……その意味は、楊にも理解できた。
「なるほど……ではやはり、覇界王はジェネシック・ガオガイガーに酷似しているのだな。そして、それは君たちふたりにとって不利益をもたらすと思われた……」
「………」
戒道は警戒心を隠そうともせず、無言を貫いた。
「……先にこちらが本心を話すとしようか。戒道くん、私はこう考えている。“ガッツィ・ギャラクシー・ガードは六年前、災害救助よりもプロジェクトZを優先すべきだった”と」
「なっ……!」
ポーカーフェイスで知られている戒道幾巳も、この時は驚きの表情を隠せなかった。
「何を言ってるんだ……GGGが救助活動したからこそ、犠牲者は数千万人ですんだんだ。あの時、地球を見捨てたら被害は何倍にも、下手したら何十倍にもなっていたかもしれない」
「その通りだ、異議はない。さっきの言葉も正確に言えば、“優先すべきだったかもしれない”と言うべきだろうな」
鉄面皮で言ってのける楊の表情に反比例するように、戒道の表情は次々と変化する。驚き、迷い、そしてあきらめ。
「──つまり、こう言いたいわけか。“私は共犯者だ”と」
「その通りだ。覇界王がジェネシックと似ている──その理由についてはいくら思考を巡らそうと、推測以上のことはできない。だが、勇者たちを連れ戻すことについて、慎重論が浮上することは間違いない」
「最悪の推測として、ジェネシックが地球に災厄をもたらした可能性もあるわけだからな」
「獅子王凱の人となりを知る者なら、真っ先に除外する推測だろうが……まあ、それはいい。どちらにしても私は、これ以上、プロジェクトZが遅延することを望んでいない」
戒道は楊の言葉の意味を噛みしめた。そして、決断する。
「……わかった。僕の知っている限りのことを話そう」
「どうやら共犯者として認めてもらえたようだな」
「勘違いしないでくれ。僕は罪を犯したつもりはない」
「これは失礼した。いずれにせよ、プロジェクトZはあと百六十二時間で始動する。それ以上、スケジュールを遅延させるつもりはない。その決意は信じてほしい」
「わかった……」
こうして戒道幾巳は六年間秘密にしてきた、天海護とベターマン・ラミアの邂逅について、語り始めた……。
(つづく)
著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ
次回12月21日(水)更新予定