覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第14回】


number.02 鍵-RAKAN- 西暦二〇一六年(4)

12

 世界中に点在するソムニウムの居住地<セプルクルム>。ヒトに知られることのない、その不可知領域は、ただ一体のソムニウムに専有されている事もある。もっとも、それは不思議なことではない。個体数が少ない彼らの多くは孤高を好み、他者との共存を生存の絶対条件としていないからだ。
 だが、ボリビア中央西部に存在する広大な大地と山々に囲まれたセプルクルムは、一体のソムニウムの男が多数の同居者とともに暮らしていた。
 鋭い牙を持つ大型の虎のような獣。異様に巨大な体躯を持つ蛇。象の鼻のように突き出た部位の先に顎門を持つ肉食獣。すべて、このセプルクルムの外には現存しない絶滅した種ばかりだ。
 だが、獣たちはそのソムニウムに友愛の情を抱いているわけではない。それぞれの目に浮かんでいるのは、敵意や怖れだった。

『…来る…もうすぐ……来る……』

 ただ一体だけ、ソムニウムに敵意も怖れも抱いていない同居者が告げた。いや、それは同居者と呼んでよいものだろうか。予知のような意思を告げたのは、額にあたる部分に十字の輝きを浮かべた、薄く揺らめく陽炎のような存在である。

『……ひとつ…ふたつ…みっつ…よっつ……』

 リミピッドチャンネルを受信したソムニウムが、面を上げる。彼の視界に入ったのは、広漠たる結晶塩の平らな地平。その彼方、不可知領域の辺縁部に竜巻が起きている。
 ヒトならば踏み越えること能わないその境界を、竜巻は悠々と乗り越えてきた。自然現象だから、というわけではない。竜巻の中心には異形の生命が存在する。嵐の龍を思わせる身の丈六メートルほどの生命体が、躰の節々から空気の流れを発し、まとっていた竜巻を振り払うと、ソムニウムの男の前に着地した。現れた姿は、男の記憶のうちにあった。

『ンー…トゥルバか……ボダイジュは滅びたと聞いていたが、継ぐ者がいたようだな』

 嵐の龍ベターマン・トゥルバの背から、三体の影が飛び降りる。ラミア、ライ、シャーラだ。トゥルバは役目を終えたとばかりに、全身を瞬時に石化し、繊維質の塵となって崩れ落ちた。その中から現れたガジュマルが地に膝をつく。幼虫から羽化したばかりの蝉のように彩度が抜け白色化したガジュマルの身体を、シャーラが駆け寄り支えた。

『問題ない……繭にならずとも……俺にはまだまだ力が溢れている』

 ソムニウムはアニムスの実によって変態した後、生命力を著しく消耗する。その状態から回復するため、彼らは<眠りの繭>のなかで休むのだ。無防備な眠りの姿をさらすことを嫌い、孤高を好むが、他の個体と行動をともにする場合、その状態を互いに護りあう関係であることも多い。
 だが、このときのガジュマルの赤い瞳には、固い意志が込められていた。この後に起こるであろうことを、眠りによって見逃してなるものかという意思。
 その視線を背に感じつつ、ラミアは進み出た。このセプルクルムを領域テリトリーとするソムニウムの男に向かって。

『……羅漢らかん

 痩身に民族衣装のような出で立ち。手には六尺棒のような鋼鉄製の武具を持ち、弁髪を風にさらしたソムニウムの男──羅漢は、ラミアの意思に反応しなかった。おのが周囲に集まっている数十頭の同居獣たち、そして揺らめく陽炎のような存在を眺めている。その陽炎はラミアの姿に反応した。

『ラ…ミ…ア……』

 心なしか、陽炎の意識が震えているようだ。

『これはこれは、羅漢殿は珍しい獣たちを蒐集しているとは聞いていたが、ヒトならざる心影まで侍らせているとは……』

 軽く驚きおどけるライとは異なり、ラミアは目の前の光景に動じていない。

『羅漢……パキラ老より後を託された者として、このラミアが迎えに来た』
『ンー…各地でアニムスの花粉が、蜜蜂たる我らソムニウムを呼んでいる。かつてないほどの収穫期だ。だが、実りの後には冬が来る。苗床なる大地が荒れる。いや……滅びるやもしれぬ。そうなればアニムスも育たぬ。ソムニウムも滅ぶ。ンー…だが、この羅漢のセプルクルムは問題ない。永遠のオアシスだ』

 流暢に説明し終えた羅漢は、少々めんどくさそうにニヒルな顔をあげた。人間の尺度を当てはめることが正しいとは限らないが、その容貌は意外と若い。

『羅漢、わかっているはずだ……この地もやがて滅ぶ』
『ラミアよ、私はいにしえのソムニウムである君らとは違うのだ』
『刻が近づいている。<パトリア>の刻が……』
『<パトリア>だと? ンー…そうか、そのためのソキウスか』

 頭脳明晰な表情ながらも、少々血気に逸っているような羅漢は、落ち着いたラミアの後方に立つシャーラに視線を移す。

『千年ぶりか?ンー…いや二千年ぶりだったかな?ソキウスの耐性をもつ者がソムニウムに生を持ったのは……』
『……』

 シャーラは心を閉ざしているが、羅漢のかたわらに浮かぶ陽炎は、シャーラの内なる動揺すらリミピッドチャンネルで受信しているように揺らめいている。

『…シャーラ……シャーラ』
『おやおや、その心影は拙者たちの中までも読めるのかな? 羅漢殿のアシスタントとして通訳でもしているかのようですね』

 ライがおどけると同時に、ガジュマルが陽炎を睨む。

『なんだソイツは……!』

 その眼光で、怯えるように揺らめきを縮める陽炎は、小声で意識の波を発する。

『……ガジュ…マル…ガジュマル』

 その様子を見た羅漢が、面倒くさそうに注意を投げる。

『ンー…気にするな、有象無象のソムニウムども。それは、リミピッドチャンネルの膨大な海で漂流していた何かの意識体。特に害もなく、よく喋り面白いので、ここで飼っている』

 そんなやりとりも意に介さず、ラミアは羅漢に向いたまま、額に十字光を明滅させる。

『羅漢、我らは個であるが、しゅでもある』
『<覇界王>だな。種として対決するにあたって、私の力を貸してほしいということだろう?』

 ラミアの背後にいる三人の表情がそれぞれ変化した。意外に思う者、ならば何故招請に応じないと憤る者、無表情ながらもわずかに口元を歪めた者。いずれにせよ、三人とも覇界王という存在に対して、それぞれ思うところがあることは明らかだ。今ここには来ていないソムニウム、ヒイラギやユーヤも、同じく特別な感情をもっているかもしれない。

『…ハ…カイ…オウ…』

 そして、陽炎も何かを感じて揺らめいた。

『羅漢、覇界王は命あるすべてのモノを光に変える……我らソムニウム……力を結集すべし』
『ンー…保守的な君らしい見解だな。だが、<パトリア>の刻が真実としても、私はおのが力だけで、覇界王を滅する。いにしえのソムニウムなどと協力する気はない』

 羅漢の意思は、巌のように堅かった。決して虚勢ではなく、それが成せると考えている。そして、その答えはラミアが予想したものであった。

『やはり応じぬようだな……ならば、ここで……雌雄を決す』
『勝者のみが意思を貫ける……ンー…儀礼としてはいにしえだが、わかりやすくていい』

 シャーラをかばうように後退するガジュマル。続くライ。揺らめきながら離れていく陽炎。残され対峙するラミアと羅漢。
 次の瞬間、死闘が始まった。

 

13

『ペクトフォレース・ルブルム……!』

 ラミアの胸門から赤色の光の粒子が放たれる。だが、それを簡単に浴びるような羅漢ではない。粒子は虚しく大地を穿ち、鋭い脚力で羅漢は一気に敵手の背後に回り込む。

『──!』

 羅漢の素早い棒さばきがラミアの背に繰り出される。胴体中央を貫くかに見えたその一撃も虚しく宙を突き、ラミアは長い髪を跳躍のばねに活用し上空へ舞った。

『ペクトフォレース・ウイリデ!』

 続けて放たれる緑の粒子。が、旋風を振るい起こす羅漢の棒術があっさりとそれをはじき散らす。

『ペクトフォレース・フラウム!』

 今度は黄色の粒子が放出された。だが、羅漢は避けようともせずにそれを浴びる。

『ンー…いにしえゆえの無駄撃ちか?……ルブルムを放った時は本気と感じたが、ウイリデにフラウムとは……。耐性を備えた私のようなソムニウムに効かぬことは知っているはず』

 細胞に自滅を促すルブルムに対して、ウイリデは電気信号を司り、フラウムは身体機能を麻痺させるだけの粒子でしかない。羅漢の指摘にも眉ひとつ動かさず、ラミアは着地、対峙する。

『……研究者たるゆえか、すべてを見通しているようだな、羅漢』
『ラミアよ……私の力も見せてやろう。ペクトフォレース・サンクトゥス!』

 虹色に輝く粒子が、羅漢の胸門から放たれる。だが、それはラミアを狙ったものではない。先ほどまで羅漢が従えていた、周囲の絶滅種の猛獣たちに向けられたものだ。頑強な獣たちが苦悶に吠える。粒子を浴びせられた肉体が、ドロドロと崩れかける。いや、どちらかと言えば、パズルのように構造的に分解されていく。

『はああっ!』

 羅漢は武具を投げ捨て、絶滅種たちの群れへ飛び込んだ。そして、蹴りや突きを放っていく。それは攻撃ではない。羅漢の腕や脚に、猛獣たちの分解された身体が装着融合していく。

『ほほう、サンクトゥスか……本当に発現できる者が存在していたのですね~』

 ライが感心したように心中でつぶやいた。

『あんなペクトフォレースの使い方は見たことがないが……』
『私も…初めて…七色の結着細胞……』

 ガジュマルとシャーラの意思に、ライも同意する。

『君たちはまだ幼齢だからね……とはいえ、拙者もこの目で見るのは初めてなんだけど』

 サンクトゥス──羅漢のペクトフォレースが発揮する能力とは、生体融合による合体だった。猛獣たちの巨体が羅漢の身体となり、その牙や顎門は原型を留めたまま、羅漢の四肢を構成した。

 羅漢は新たなる肉体を誇示するように、肥大した手脚を振り回した。強引に操られた猛獣たちが、苦悶の声をあげる。操られる側の苦痛に配慮することなどなく、獣王と化した羅漢は倍化した身体をラミアの前に進める。圧倒的なパワーの獣化した手足が、避け跳びまわるラミアに連続攻撃をしかけた。

『私は個であって獣王でもある。当分は疲れを知らぬぞ。ラミアよ、貴様は程なく疲れ動きが鈍る。そして勝敗は決する。勝つのは私だ。』
『……まだだ』

 ラミアは距離を取るように横っ飛びし、ふところからアニムスの実を取り出した。それはGGG隊員・菊帆エイルの生命を糧として生った実──フォルテ。
 限られた条件の下でしか発生しない稀少な実を、ラミアは貪り喰う。その全身が吹きだした炎に包まれ、巨大化していく。

『ンー…そうだ、それでいい。フォルテの実物、私も見たかった』

 劫火の中、七メートルを超える頑強な巨人、ベターマン・フォルテが完成した。
 離れた場所で他のソムニウム三体も固唾を呑んで見守る。同じく遠くで、小さな陽炎も揺らめく。

『……フォルテ…フォルテ……』

 炎を振り払い、臨戦態勢になった巨人に向かって、間髪入れずに獣王羅漢が突進する。

『見せてみよ! フォルテの力!』

 一気に距離を詰めた獣王羅漢が、右腕で殴りかかる。いや、それは殴打ではない。細胞融合されたアンドリューサルクスの巨大な頭部を繰り出したのだ。四千万年前の太古に生息、史上最大の陸棲肉食獣と称される獣の顎門が、フォルテの上半身を噛み砕く。
 否、寸前でフォルテの剛腕が、鋭い牙を押さえ込んでいる。
 だが、獣王羅漢は持久戦に持ち込むつもりはなかった。その背に巨大な翼が発生する。背部にアルゲンタビス・マグニフィセンスを融合させていたのだ。本来なら翼長は最大八メートルほどだが、不可知空間で肥大化したのであろうか、倍加している。
 その巨体が、フォルテから離れ軽々と宙を舞った。頭上からの急襲に備えてフォルテは身構える。
 獣王羅漢の下半身は、プラティベロドン数体で構成されている。象の亜種ならではの頑強な身体が、強烈な蹴りを放った!

『グオオオオッ』

 が、しかし、防戦一方と思われたフォルテの眼光は、正確に獣王の全身を走査していた。そして強烈な蹴りが到達するより速く、頭部に備えたスライディングサーベルを滑走させ、獣王の巨大な脚を貫く。

『決まった!』

 ライが両手を広げおどける。

『クランブルポイントを……一突きか』

 ガジュマルはこぶしを軽く握った。

『……物質崩壊点』

 シャーラも息をのむ。そして、陽炎も反応した。

『サイコ・グローリー……』

 スライディングサーベルが突き刺さった個所を起点に、爆発するかのごとき勢いで、羅漢と融合していた獣たちが、獣王の呪縛から解き放たれた。

『ンー…崩壊ではなく分解に導いたか』

 元の姿に戻った猛獣たちが分離していく、その中心にいる羅漢には冷静に笑みを浮かべる余裕があった。

『……羅漢よ、真力を見せるがいい』
『ンー……?』
『その程度で覇界王に抗しえると考えているわけではあるまい』

 ラミアの放つ意思は挑発ではない。淡々と事実のみを指摘している。

『いいだろう──貴様が稀少なフォルテを使ったのなら、私もそれに応えるべきだな』

 融合が解け、元の姿に戻った羅漢は、リミピッドチャンネルの奥に掛けていた鍵を開け、閉ざしていた秘密を解放した。そして、その手には、ひとつのアニムスの実が握られていた。

『―――!!』

 ラミア、そして周囲のソムニウムたち全員が驚愕した。
 それは先ほどラミアが喰らったものと同一のモノ──フォルテの実に他ならなかった。

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回2017年1月4日(水)更新予定


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