覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第15回】


number.02 鍵-RAKAN- 西暦二〇一六年(5・完)

14

『こりゃ驚いた……どこでそのフォルテの実を!?』

 ラミアと羅漢の攻防を見守っていたライが、顔色を変えた。無理もない。条件を満たしたヒトの生命でしか育たないフォルテの実を得るため、ソキウスの路を経てオービットベースまで赴いたのが、ライ当人だ。
 しかし、ラミアは見抜いていた。自分が喰らった実とは異なるその光沢に。

『羅漢よ──お前は探究の道を選んだソムニウム。その成果が偽りのフォルテか』
『ンー…よく見抜いたな。だが、偽りとはいえ、これはたしかにヒトの生命を糧としたアニムスの花より実りしモノ』

 羅漢は、膨大な回想を一気にリミピッドチャンネルに流した。おのがペクトフォレース・サンクトゥスにより、ヒトの生命螺旋に分解と融合を繰り返す合成術に暮れる日々を。かつてカンケル発生の情報を遺伝子に刻み込み、フォルテの実の苗床となった人々と同じ条件を、羅漢は精緻なる業で再現したのだ。

『だとすると……どんな実でも作れるということか!?』

 ガジュマルが驚嘆する。しかし、羅漢は少々残念そうに応えた。

『ンー…これがなかなかに難儀な業でな。数百数千の施術にも関わらず、実ったのはこれひとつだ。ンー…だが、いずれは量産も可能になるであろう』

 伝達しながらも、羅漢は合成フォルテの実を口元に運んだ。

『さあ、ラミア! 貴様が望んだ我が真力、見せてやろう』

 鈍い色に光る実を羅漢が貪り喰う。その全身は、ラミアと同じように瞬く間に炎に包まれ、数倍に膨れあがった!

『なんと……フォルテの耐性まで有するとは、羅漢殿はとんでもなく手ごわいですなぁ……』

 ライは、自らの焦りを落ち着かせようとでも思ったのか、背負っていた弦楽器を胸に抱え込み、あたかも琵琶法師がロックミュージシャンに転身したかのごとく、ベンベンベンと激しい速弾きの演奏を始めた。ガジュマルやシャーラは、少々迷惑そうな様子だったが、目の前の光景に、その弦音がむしろ場を盛り上げるバック・グラウンド・ミュージックにさえ感じているようだった。
 巨人の前に立つ巨人。ラミアの赤白きフォルテに対し、緑白色に近い羅漢のフォルテは、待つことなく、その巨大な拳を繰り出してくる。拳には拳で返す赤フォルテ。
 硬く重く鋭い激突音が辺りに響き渡る。ぶつかり合った拳と拳。だが、どちらも押されず、その力が拮抗していることが伺える。間髪入れずに赤フォルテが繰り出した強烈な蹴りも、同じく緑フォルテの蹴りが受け止め、どちらも動じない。

『ほほう、合成術を用いたとはいえ、本物にも劣ってはいないということですか』

 離れた場所で悠々と楽器を弾きつつ、感心した様子で見つめるライ。
 胸と胸とが割れ砕けん勢いで二体が組み合うと、周囲に激震と轟音が鳴り響く。しかし、それでも両者はどちらも退かず、たじろがない。

『力が互角なら、決め手となるのは……』

 真剣な眼差しのガジュマル。その横で、押し黙るシャーラ。

『……』

 二体のフォルテの眼光が、瞬時に相手のクランブルポイントを走査する。
 揺らめく陽炎が次の一手を再度叫ぶ。

『サイコグローリー!!』

 二体は同時に頭部のスライディングサーベルを放った。サーベルとサーベルがそれぞれの切っ先に衝突し、激しく甲高い亀裂音を響かせる。一瞬の静寂の直後、サーベル同士が互いを割り、砕き、破壊し、そして砂と化し、粉砕し、粉々にしていく。瞬く間に頭部から全身に向かって亀裂が走り、激しく、強く、重々しい轟音とともに、一気に両者の全身が爆散し、四散し、砕け散った。
 だが、見守る傍観者たちには分かっていた。まだ戦いが終わっていないことを。粉塵にまみれる辺り一帯の視界が薄れてきた頃、その中心には、フォルテの躰を失った核、ラミアと羅漢が数メートルの距離をおいて対峙していた。お互い、身体の色素を大量に失い、白く退色しているが、その眼光は両者ともに真っ赤な輝きに満ちていた。

『ペクトフォレース……』

 両者の額が同時に十字光点を結ぶと、お互いの胸門が同時に開く。

『ルブルム』
『サンクトゥス』

 ラミアの赤い粒子と、羅漢の虹色の粒子が同時に放たれる。

『死滅を促すルブルムとて、私には効かぬぞ』

 羅漢の粒子がその全身を取り巻き、ラミアの粒子の侵攻を阻む。そして、そのまま虹色の勢力は拡大し、赤色の勢力はラミアの周囲半径一メートルほどまで押される。

『ラミア、お前はもうそこから動けない』
『……だが、お前も動けはしない』

 表情も変えずに羅漢を見つめるラミア。

『ンー?愚かな…。私は準備していたのだ。最後の一手のために』

 羅漢の背後から、サンクトゥスの粒子に引きずられた二体の巨獣が、肉体を分解されながら迫る。一体はヒトの胴体なら簡単に押し潰し圧死させられる大蛇ティタノボア。もう一体は、サーベルタイガーとも呼ばれる鋭く巨大な牙を備えた巨獣スミロドン。それぞれが羅漢の腕に融合し、パワーショベルのような巨大な自在パーツとなる。

『この両腕でお前にとどめをさせる。ルブルムで両腕の獣が滅んでも、その前にお前が滅ぶ。そして私は両腕から分離する。ンー…どうだラミア、打つ手もなかろう?』

 ラミアが応える間も与えず、巨大な両腕で力強く襲いかかる羅漢。

『……!』

 シャーラは悲痛な意識の波を放った。ライとガジュマルもそれぞれに息を呑んで、戦いを見守る。だが、ラミアに助勢しようとする者はいない。ソムニウムの暗黙の掟。数を頼んで勝利したとしても、羅漢は納得しない。どれほど絶望的であろうと、ラミアは自力で戦わねばならないのだ。
 雌雄は決した。決したと羅漢は確信し、ラミアに末期の言葉を添えた。

『ラミアよ……亡きパキラの遺志は私が継ごう』
『私を滅してから、宣するがいい』
『!?……』

 羅漢は動けなかった。両腕が麻痺し、ラミアに放った巨大な必殺の一撃が、寸前で止まっている。
 距離をおいて見つめるソムニウムたちも目を見張る。

『羅漢は……どうして動かない!?』
『……最初に放ったウイリデとフラウムね』

 ガジュマルとシャーラの念話に、ライが揚々と補足に入る。

『そうそう、羅漢殿にはじかれ拡散したウイリデは、その後に放たれたフラウムと合わさり、周辺のケダモノどもを侵食していた。ウイリデが電気信号でフラウムのタイマーをセットして、その生体内で運動神経を麻痺させる爆弾が覚醒する時を待っていたってことだな』

 ラミアのペクトフォレースによる効果は、羅漢には通じない。だが、融合した獣たちにとっては有効だった。遠巻きに点在していた他の獣たちも、同時刻に身体が麻痺し、動けなくなっていた。

『羅漢……これで決したな』
『ラミア、貴様……』

 リミピッドチャンネルであっても充分に、羅漢の心の動揺を感じさせる。その瞳には、感嘆と称賛の光すら浮かんでいた。
 やがて、周囲を舞っていた赤と虹色の粒子も消え、ラミアはゆっくりと羅漢に歩み寄った。

『ペクトフォレース・アルブム……』

 ラミアの胸門から白い光の粒子が放たれる。免疫系を操るそれは、羅漢を包み込み、獣化した躰の部分を癒した。

『ン、ンン…ンー……』

 その両腕から二体の猛獣が分離し、左右方向に逃げていく。ソムニウムたちにはもう関わりたくないとでもいった勢いで。
 ライが楽器を弾き終え、静寂が戻った。互いに繊維質の残骸のなかに佇むラミアと羅漢。ふたりのソムニウムは、互いをにらみ合った。無言の対峙を、やや離れた位置から揺らめく陽炎が見つめている。この意識体もまた二体の決着を見守っていたのだ。

『…ラ…ミア……羅…漢…』
『私が如何におのれを強化しようと、融合する獣が脆弱化すれば、それが弱点となる。戦いの前にそれを見抜き、私の最後の一手の更に先を読んでいたとは……』

 羅漢の表情は、探究の徒のものであった。傲慢な研究者とでも評すれば、もっとも適切だろうか。

『……』

 黙って見つめるラミア。しかし、その意志は的確に羅漢に通じていた。

『気に入ったぞ! いにしえゆえに長けた戦術!』

 納得の表情に続いて、羅漢は破顔した。その表情を見ても尚、ラミアは冷静である。

『……覇界王を斃すため、ともに戦え──羅漢』
『おうよ! ラミア、お前の言う<パトリア>の宴に乗ってやろう!』

 そして、戦いを見守っていたシャーラ、ガジュマル、ライの方を見る。

『そっちの有象無象どもも、これまで集めた獣よりは使えそうだな。ンー…いいだろう、覇界王を滅するまで、私が使ってやる!』
『やれやれ、どちらが勝ったのかわかりませんな』

 ライが肩をすくめて苦笑を浮かべた。

『なかなか面白い戦いだった。だが、俺なら……』

 ガジュマルは、虚勢を張りそうになったが、途中で自分をなだめるように押し黙った。

『最後の鍵を…手に入れた……』

 静かに見つめるシャーラ。そして、意識体である半透明の陽炎もまた、少し長い薄桃色の髪を小さく揺らめかせながら、シャーラのコトバを復唱した。

『最後の…鍵を…手に…入れた……』

 

15

「最後ノ鍵ヲ…手ニ入レタ……」

 マニージマシンに安置された紗孔羅の唇が、言葉を紡ぎ出した。それは珍しいことではない。人々の間に伝わる<覇界王>の名も、最初に口にしたのは紗孔羅だったのだ。
 だが、いまの声は何かが違う。どこか嬉しそうな響きを含んでいた──彩火乃紀にはそう思えた。
 プロジェクトZ再発動まで五十時間──
 GGGオービットベースではほぼすべての準備を完了させ、プロジェクトに参加する隊員たちの多くは待機状態に入っていた。
 そんな中、生体医工学者である火乃紀は、紗孔羅の定期検診と加療器具であるマニージマシンのメンテを同時に行っていた。紗孔羅の実父である阿嘉松がGGG長官として赴任した六年前、未だ昏睡状態にある彼女もオービットベースに連れて来られた。同時期にGGGに入隊した火乃紀はそれ以来、検診とメンテを引き受けていたのだ。

「紗孔羅、なにか楽しい夢でも見てるのかな……」

 火乃紀は微笑んで、眠り続ける紗孔羅の薄桃色の髪の毛を整えた。誰に見られるわけでなくても、乱れたままでいるのは気の毒だ。
 軽やかなメロディとともに、マニージマシンに接続していた端末がチェック終了を告げる。紗孔羅にもマニージマシンにも、何も異状はなかった。

「ねえ、紗孔羅……私たち、もうすぐ木星に行くんだよ」

 たとえ意識は戻らなくとも、この十年間、折に触れ紗孔羅は言葉を紡ぎ出してきた。それは彼女の意思ではなく、リミピッドチャンネルが伝えてきたものなのだろう。公的には、それがGGGにとって有益であると判断したが故の同行である。だが、同時に阿嘉松の個人的な希望もあった。木星の超エネルギー<ザ・パワー>に触れることで、紗孔羅の意識が戻るのではないかという期待だ。
 実際には、紗孔羅の心――意識体は、陽炎のような姿となってボリビア中央西部の不可知領域にある。そんな真実を阿嘉松や火乃紀は、知るよしもなかった。

 その頃、機動部隊次席オペレーターであるアルエットもまた、待機時間を利用して任務外の作業にいそしんでいた。彼女は自ら申し出て、覚醒人凱号のソフトウェアに改良を加えたのである。
 ハンガーに駐機している凱号に、ダミーモードでソフトを走らせる様子をみて、開発者でもある阿嘉松は感嘆した。

「こいつは驚いた。FFプログラムのシーケンスが五.七二秒も短縮された上に、安定性がありえねえほど向上してやがる」
「ドクター麗雄とドクター雷牙のプログラムをベースに、アレンジさせてもらっただけよ」
「そうは言うが、あの爺さんたちのプログラム、個性が強すぎて普通はリバースエンジニアリングすらできないんだぞ。まあ、ハード屋の俺には荷が重かったってのもあるんだが……」

 もともとアルエットは十年前、ガオファイガーのFFプログラムを完成させた実績もある。凱号のそれを効率化させるのも容易いことだった。

「これで少しでも、プロジェクトZの成功率が上がるのなら……ね」

 アルエットは寂しそうに微笑んだ。彼女にとって、オービットベースは浦島太郎の故郷の村のようなものだ。十年間失われていた記憶を取り戻してみたら、見知った顔のほとんどはいなくなっていた。プロジェクトZに参加したのは最後発であっても、勇者たちを迎えに行きたいという気持ちは他の隊員たちに劣るものではない。

「あとは……」

 アルエットはハンガーの一角に収容されている、古い懐かしい機体の方を見た。

「あの子もなんとかしてあげたいわね」
「おいおい、あいつは……メンテしたところで──」

 阿嘉松は続く言葉を呑み込んだ。アルエットの眼に、固い決意の光が浮かんでいたからだ。

「プロジェクト再発動までに、メンテは終わらせてみせます。許可をいただけませんか、長官」

 許可を与える代わりに、阿嘉松はニヤリと笑った。

「……ソフトはお前さん、ハードは俺、分担ということなら承認してやる」

 同時刻、非直の阿嘉松に代わって、メインオーダールームにいた楊スーパーバイザーは、とある通信を受信していた。

「プロジェクトZに修正を加えるだと? こんな間際になって……国連評議会は何を考えている!」

 楊は自席のモニターに、添付されてきた資料を表示させた。それによると、プロジェクトのファーストフェイズである木星探査は予定通り実行される。だが、その次の段階が修正されていた。
 ザ・パワーのサンプルを採取して、勇者たちを迎えに行く次元ゲートの研究は続行。ただし、地球復興のエネルギー源として活用することは凍結。代わりに異常電磁場発生のメカニズムを検証するプロジェクトを新規に発足──
 楊にとっては、望ましい修正であった。もともと彼の本意は勇者たちの救出であって、エネルギー開発は建前でしかなかったのだから。

「そうか、そういうことか……」

 急いで阿嘉松長官やアーチン参謀を専用シグナルで呼び出しながら、楊はニヤリと笑みを浮かべた。このような事態を整えた者、その正体に彼は心当たりがあったのだ。

 ──楊が想像したとおり、その状況の変化はニューヨークの国際連合本部ビル、ハート・クローバー事務総長執務室から起こったものである。

「いやぁ、苦労した苦労した。でもチェリー、これで君の進言通りになったというわけだね!」
「はい、事務総長。懸命なご判断、尊敬申し上げます」

 チェリーと呼ばれた磯貝桜は、深々と頭を下げた。この日、早朝のエネルギー開発会議において、ついに彼女が望んだとおりのプロジェクトZ修正案が議決されたのだ。日本の宇宙開発公団にも協力を求めて作成した、膨大な資料が功を奏したのである。

「どうかね、チェリー。今日までの苦労を慰労するため、ふたりで祝杯をあげに行きたいと思うのだが……」
「ありがとうございます、事務総長。ですが、修正案に付帯する予算組みを、今夜のうちに作成しておきたいと思います」
「そうか……残業申し訳ないが、よろしく頼むよ」
「承知いたしました」

 正当な理由さえあれば、無理強いまではしてこないハート事務総長は、つきあいやすい相手だった。この上司が自分に好意を抱いていることを、磯貝桜は知っている。だが、そこにつけこむつもりはなかった。正確な資料と適切なプランニング、それさえあれば彼はこちらの主張を受け入れてくれる。それだけで充分だ。
 桜には決意があった。

(十年前、大河総裁がGGG長官職よりも優先した、核開発をも遥かに超える甚大な危険を伴う<ザ・パワー利用計画>の阻止……その思いの一部を、私も引き継いでみせる……)

 当時、大河幸太郎の熱意をもっとも近くで聞かされ、計画阻止に尽力する彼を補佐したのが、この磯貝桜なのだ。大河たちの不在に乗じて、計画を進めようとする者たちを見過ごすことはできなかった。
 ハート事務総長が帰宅した後、残業を進めながら、桜は窓外の星を見上げた。そして、星の海に未だ取り残されている者たちへ向かって語りかける。

(総裁、勇者のみんなが戻ってくるまで、私はこの現場で戦います……)

 それぞれの場所に、それぞれの戦いがある。人々の想いを乗せて、いまだ還らぬ勇者たちを迎えに行く計画──<プロジェクトZ>の再発動は、目前に迫っていた。

(number.02・完 number.03へ続く)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回1月11日(水)更新予定


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