覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第18回】

ガオガイガー ベターマン 覇界王 矢立文庫

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number.03 門-JUPITER- 西暦二〇一六年(3)

 覇界王の放つオーラが溢れるなか、虚空に出現した"傷口"から、ソムニウム六体の影が現れ、ディビジョン・トレインの上に降り立った。そして最後に、"傷口"を裏返すように、この<ソキウスの路>を開いたシャーラ本人が苦痛の呻きとともに出現した。その全身には、大きく深い傷口がぽっかりと浮いている。かたわらにいたガジュマルが、気遣うようにシャーラの身体を支えた。

『ありがとう……ガジュマル。すぐ……治るから──』

 十字の光を額に明滅させ発した意思の通りに、シャーラの傷口はみるみるうちに癒えていった。もっともそれには、激しい苦痛をともなうようだ。痛みに耐える苦鳴が、リミピッドチャンネルで周囲のソムニウムに伝わる。

『ンー…たしかにソキウスは便利だな。この宙空まで一瞬で移動できるとは助かる。帰りの実も忘れずに頼むぞ』
『偉そうにするな! 羅漢ッ!』

 シャーラの苦しみを嘲笑するかのような羅漢の意思に、ガジュマルは敵意のこもった憤りの目を向ける。だが、ラミアが片手でそれを制した。

『……いまは我らソムニウム、力を結集すべきとき

 ソムニウム──ヒトを超える超絶なる能力を持つ霊長類。状況に応じて体質をよりベターな姿に変化させ、環境に適応する種族という意味を込めて、<ベターマン>と呼ばれることもある。
 彼らにとっては真空の宇宙空間ですら、行動の妨げとはならないようだ。もとより、リミピッドチャンネルで意思を交感するため、声という空気を伝う音声伝達に頼ることもない。
 シャーラという名のソムニウム少女が耐性を持つ<ソキウスの実>。耐性を有する者の存在も稀少ではあるが、この実が入手できる機会もまた限られている。だが、双方がそろったいま、彼らの行動範囲は飛躍的に拡大していた。
 ソキウスの路──人類の研究者には<STバイパス>と呼ばれている理論上の超距離瞬間移動路──を経て木星圏に到達したソムニウムたちが目撃したのは、すでに四メートルほどに圧縮された木星。それを両掌の間に保持した覇界王。そして、そのオーラに翻弄される勇者ロボ軍団とディビジョン・トレインであった。

『ニンゲン、苦戦してるよう……だね』

 大男ヒイラギの、同情しているかのような意思が揺れた。
 ワダツミ格納庫、及び艦載機が変貌したゼロロボは、ガオガイゴーのハイパーツールで芥子粒にされた。だが、覇界王が放ったオーラにより、ディビジョン・トレインの最後尾──ヤマツミの艦体と格納庫までがおぞましき形態へと変貌し、ゼロロボの群れを生み出していたのである。

『彼らを思いやっている場合ではありませんよ。拙者たちの身も、宇宙空間に長くいては生体活動が衰えます。そろそろ頼みますよ、ユーヤ嬢』

 吟遊詩人のような出で立ちのライの意思が、ドレス姿でたゆたうユーヤに向く。

『案ずるでない。ペクトフォレース……ペルスピクス……』

 次の瞬間、ユーヤの胸門から無色透明の粒子が大量に放出され、ソムニウムたちを包み込んだ。それはたちまち水のように変化し、彼等ひとりひとりの体表に薄い透明の宇宙服のような膜を着せた。ガジュマルが機嫌を取り戻す喜びの意思を伝える。

『助かる……空気がないとオレの本領が発揮できないからな』
『ふうぅ……やっと息ができました。ありがとうチアーズレディ♪』

 イギリス紳士のようなお辞儀でおどけるライ。そして直後、他のソムニウムに対して、ラミアが号令をかける。

『我らのアニムスを……』

 ラミアはそう意思を伝えると、胸元からネブラの実を取り出した。ガジュマル、ライ、ヒイラギ、ユーヤもそれぞれ自分の耐性に基づく実を手に取る。だが、ラミアが実を口元に運ぼうとした瞬間、羅漢がひとつの実を放ってよこした。ラミアが受け取ったものは、見覚えのある合成フォルテの実であった。

『偽りのフォルテ──』
『ンー…偽りと言ってくれるな。先ほど仕上がったばかりの、貴重な実だぞ』
『なぜこれを私に……』
『俺には、これがある』

 羅漢はそこにいる誰もが見覚えのない実を取り出した。ラミアも少々驚愕した。

『それは──』
『オウグだ。俺が作り上げ、そう名づけた』
『………』

 ラミアは感嘆したのだが、それを表に出すことはなかった。フォルテの実を合成しただけでなく、新たな実を創出するとは──驚くべき羅漢の秘術。
 だが、いまは称賛する時ではない。ラミアは無言で、合成フォルテの実を口に運んだ。周囲のソムニウムたちも同様に実を喰らう。そして、変態をはじめた。

 ラミアがベターマン・フォルテに──
 ガジュマルがベターマン・トゥルバに──
 ユーヤは、かつてのソムニウム、セーメが耐性を備えていたルーメの実を喰らったが、その姿は、護が目撃した光る巨大クラゲのような形態へと変化する――

 ヒイラギは、生前のパキラ老が耐性を備えていたポンドゥスの実を喰らった。パキラ老とは異なり、メビウスの輪のように絡み合った不思議な形のオブジェへと変化する。ユーヤがクラゲのようなルーメの姿に変わったように、それがヒイラギ固有のベターマン・ポンドゥスの姿であった──

 ライは、合掌造りの複雑な木造建築を人形形態に組み替えたような姿、ベターマン・アーリマンに──

 そして、羅漢もまた青鬼のような大ツノを生やした新たなるベターマン・オウグに──

 シャーラ以外の変身体ベターマン六体が、暴れ来るゼロロボの群れを迎え討つ。

 

10

 ブランチオーダールームで、薄れゆく意識を最後に取り戻したのは、彩火乃紀だった。だが、彼女が見たものは、常のように目の前の事態に慌ただしく対処している同僚たちの姿ではない。大半の者が、みな呆気にとられたようにメインモニターを注視している。その視線を追った火乃紀は息を呑んだ。

「……ベターマン!」

 十年前、アルジャーノンをめぐる事件の際、幾度も見た光景だった。外見はヒトと変わらないベターマンたちは、木の実のようなものを喰らうことで巨大形態に変貌するのだ。

「おおっ! ありゃあ……ベターマンフォルテか? 見たことねえのもぞろぞろいやがる……」

 火乃紀のつぶやきに応えたのは、同じく幾度もベターマンに遭遇している阿嘉松だ。その度に命を救われてきたのだが、何故か親近感のようなものは持てずにいる。彼らはただおのが目的で行動しているにすぎず、決して共闘できるような存在ではないと、本能的に感じとっていたからかもしれない。
 それでも、いまモニターに映し出されている光景には目を奪われた。仮にも地球種である生命体が真空空間で、未知の機動兵器群を駆逐しているのだ。
 フォルテの剛腕が、ルーメの光輝が、トゥルバの圧縮酸素弾が、ポンドゥスの重力攻撃が──ゼロロボを打ち砕いていく。この時、オウグのみは後方で悠然とかまえていたのだが、ブランチオーダールームにそこまで気づける者はいなかった。

「──機動部隊はどうなってるッ!」

 我に返った阿嘉松が問いかける。覇界王のオーラは爆発的に放出され、大量のゼロロボを再発生させたが、その後は収束している。放出の減退は一時的かもしれないが、ガオガイゴーと勇者ロボたちはその隙をついて、木星へ向かっていたのだ。期せずして、ベターマン軍団が彼らの後方をゼロロボたちから護ってくれた形になっている。

「あと十一分で到達します!」

 ガオガイゴーと勇者ロボたちの現在位置を確認した華が答えた。

「木星のブラックホール化までの残り時間は!?」
「──あ、ええ…っと……約二十二分です!」

 続く楊の問いに、火乃紀があわてて答える。火乃紀はそのまま、メインモニターの隅にカウントダウンを表示させた。この数字がゼロになり、木星がブラックホールと化した時、何が起こるのか、誰にもわからない。だが、それが地球人類にとって望ましい異変であるとは、とても思えなかった。

「長官、さっきのはどう見ても、データで見たザ・パワーの波動だったヨ」
「ああ、ザ・パワーは覇界王の出現に、沈黙していたわけじゃなかったのかもしれねえな」

 アーチン参謀の不安げな問いに、阿嘉松がそう答えた。楊もその意見に同意する。

「現状では、覇界王はすでにザ・パワーを手中に収めたとみるべきだろうな。木星決戦の折、Zマスターがそうしたように」

 それは原種大戦の終盤、木星で行われた決戦時の出来事だ。ひとたびはGGGの勇者ロボ軍団がザ・パワーの力を借りて、原種たちを撃破した。だがその後、原種もまたザ・パワーによってゾンダークリスタル状態から再生、機界31原種融合体<Zマスター>となったのだ。

「覇界王が……つーか、トリプルゼロがザ・パワーを利用しているとしたら、いずれは制御しきれずに滅びちまうんじゃねえのか?」

 阿嘉松は軽口のような口調で指摘した。機界生命体のマスタープログラムであるZマスターはザ・パワーを使い続けたが、体内に侵入したキングジェイダーがその力を暴走させたため、滅びの力によって自滅したのだ。

「その可能性は充分に考えられる。もっとも、その前に我々が撃破される可能性や、木星のブラックホール化による異常事態が訪れる可能性の方が、はるかに高いと思うがね」

 楊は楽観論を否定した。たしかに敵が自滅するにせよ、地球人類が滅んだ後では意味がない。

「ああ、もっともだ。だが、どうしたらいいんだ。木星をブラックホールに変えちまうようなバケモンを相手に、あとたった二十分でなにができる──?」

 GGG現長官は頭を抱えたくなった。昔から一国一城の主を気取り、常に独立独歩でやってきたのが、阿嘉松滋という男だ。誰かに判断を委ねることを良しとせずに生きてきた人物が、この時ばかりは誰かにすがりたくなった。

 その時であった──

『マダ……希望ハアルゾ……シゲル……』

 ふたたび、紗孔羅の声が艦内通信機から聞こえてきた。

「え? 俺をシゲルと呼ぶたぁ……」

 リミピッドチャンネルで受信した意思を告げてくる声。だが、この時の口調には、人なる者の温かみが感じられた。豊かな感情の持ち主が、思いやりをもって語りかけてくる。

『持ッテキタ手土産……ソレヲ届ケテヤッテクレ……アノ子ノモトヘ……勝利ノ鍵ヲ──』
「“あの子”だぁ? いったい誰のこと──」

 そう言いかけて、阿嘉松は気づいた。自分を"滋"と呼ぶひとりの人物の存在に。いまは亡き叔父、獅子王麗雄。いや、麗雄叔父は完全に死んだわけではない。この木星圏で精神生命体となったのではなかったか──

「アルエット! XF-111は!」
「仕上がってます! いつでも稼働できます」
「よっしゃッ、ウッシー! 第7デッキの機体をミラーカタパルトにセットしろ!」
「りょ、了解ィィィッ!」

 僥倖ぎょうこうというしかなかった。アルエットの個人的な思い入れからメンテナンスを行った、古く懐かしい機体。それが今この時、勝利の鍵たりえるとは──

 

11

「スラスター制御……修復完了!」

 ボイスコマンドを駆使して、ガオガイゴーの内部回路を繋ぎかえ、正常な飛行状態を保つ作業を終えたセリブヘッドの戒道。

「光に……された……!?」

 ガトリングドライバーを木端微塵にされたショックをいまだ引きずる、ウームヘッドの護。

「護くん……いったいどうすればいいの!?」

 ガオガイゴーの後方から、かろうじて追尾してきた翔竜の怯えた声が届く。

「とりあえず、覇界王に接近しすぎないで! みんなGストーンを備えてるから、たぶんゼロロボにはならないけど、光にされたらおしまいだ!」
了解ヤー!
「わかりましたわ!」

 翔竜と数珠つなぎになる形で同行した月龍と日龍も、護の指示に応えて、背部にマウントされた兵装の展開に備えた。
 磁力線を放ちはじめた翔竜に、ワイヤー付き手錠のような形体をしたロケットワッパーで掴まっているビッグポルコートも、4000マグナムでそれに加わる。覇界王の巨体に対して微塵もダメージを与えられるはずもない。だが、せめてガオガイゴーの援護射撃にはなりえると、わずかな希望を捨てずにいるのだ。いや、すでに覇界王は巨体とは言いがたい。ガオガイゴーより頭ひとつ大きいだけの存在になっている。その差がなくなった時、木星はブラックホールと化す。

 勇者ロボたちの奮戦の様子を見て、またも嘲笑の意思を放った者がいる。

「ンー…ヒトに作られしモノにしてはよくやっているようだが、あれでは覇界王に滅ぼされるだけだな」

 ゼロロボの群れを駆逐したベターマン軍団。その後方にあって、戦いを座して見ていただけのベターマン・オウグである。

『我らも往くぞ』
『ンー?…そうだな』

 フォルテの中にあるラミアの意思に、半ば面倒くさそうにオウグの羅漢が応える。

『羅漢よ……お前の真力、発揮するがよい。そのために我らはともに来たはずだ』
『わかった、わかった、そろそろいいだろう。ラミア、それに有象無象の者ども! 貴様らを私の手足としてくれる!』
『──今こそ、我らソムニウム、合体のとき!』
『ペクトフォレース・サンクトゥス!』

 オウグの中央部にある胸門から虹色の粒子が放たれた。その輝きは、他の五体のベターマンの変身体に浴びせかけられ、彼らをパズルのように分解していく。

『アワサレ!』

 ラミアと羅漢の意思が重なった。意思に続いて、彼らの身体が融合していく。

 フォルテの腕と胴体に、腰となり全身を包み込むルーメ──
 両脚となったポンドゥスがそれらを支える──
 細く細かいパーツを組み合わせ、長い尻尾となるアーリマン──
 トゥルバが巨大な翼と化して肩に──
 さらにその隙間に入り込む生身のシャーラ──
 そして、巨大なツノを誇る頭部となったオウグを最後に、七体のベターマンたちによる三十メートル級の巨人が完成した!

『オオオオオオッ!』

 鬼の形相で合体ベターマンが吠える。
 その光景は、ブランチオーダールームのメインモニターにも映し出されていた。

「ベターマンが!……合体した!?」

 火乃紀の驚愕の声に、阿嘉松がニヤリと笑う。

「こいつは驚いたぜ、奴らもファイナルフュージョンしやがるとはな。差し詰め<ベターメン>ってところか」

 さすがにそのネーミングセンスに、アルエットは噴き出しそうになった。

「ぷっ……長官、それより、アレは急がなくていいんですか?」
「おっと、ウッシー、ミラーカタパルトの準備は!?」
「まだ……あと七分三十秒ほどかかります……!」
「間に合わねえ……のか」

 阿嘉松は部下たちに聞こえないように舌打ちした。メインモニターの片隅に表示されている残り時間は、あと六分強だ。あの機体を送り込むことで何が起きるのかはわからない。わからないのだが、覇界王がやろうとしていることには一歩遅れる。だが、整備班とて遊んでいるわけではない。聞こえるように舌打ちしても、怒鳴っても、必要な時間が短縮されることはないのだ。自身もメカニックである阿嘉松は、そのことをよく承知していた。

「来るぞ、覇界王のオーラだ!」
「まかせて……ウォールリング・プラス!」

 戒道からの警告を受けて、護はガオガイゴーにウォールリングを装着させた。

「みんなっ!ガオガイゴーの後ろについて! プロテクトウォールッ!」

 勇者ロボ軍団を背後にかばいつつ、ガオガイゴーはバリアーシステムを展開して耐えた。

「くううっ……幾巳、残り時間は!?」
「あと百五十秒だ──」
「圧力が強すぎて、近づくことさえ出来ない……何か、何かできることはないの!?」

 宇宙空間を揺るがす覇界王の咆吼に耐えながら、護は悲痛な声をあげた。迫り来る木星ブラックホール化の瞬間。だが、それを阻むどころか、接近することすらかなわないのだ。

「せめて、こちらもザ・パワーを使えたら──」
「ダメだよ、幾巳! あれは滅びの力だって僕たちは知ってるじゃないか!」
「だが、このままじゃ……」
「凱兄ちゃんやソルダートJ……GGGのみんなを迎えにいくため、次元ゲートを開く研究に使うなら仕方ないけど……でも、あれに頼って戦ってはいけないんだ──!」
「わかってる…護……でも──」

 護の言葉に、戒道はうなずいた。だが現実問題として、いま打つ手は見当たらない。ふたりが焦燥感とともに覇界王をにらみつけた時、ソレはガオガイゴーのかたわらを通り過ぎていった。

「なんだ、あれは……」
「まさか……ベターマンなのか!?」

 護と戒道が目撃したことのあるベターマン変身体はそう多くない。だが、眼前に躍り出た存在は、目撃したことのあるベターマン・ネブラのペクトフォレースの胸門に酷似した印をその体表に刻んでいた。そして、三十メートル近い全身のディテールは、明らかにメカニカルなものではなく、護が目撃したクラゲ体のような透明の物質を身にまとった異形の生物としての特徴を備えていた。

『護、幾巳! そのベターメンを援護しろ!』
「ベターメン?」

 通信機から聞こえてきた阿嘉松の声に、護は戸惑った。

『ベターマンどもが合体した姿だ……呼び方はどうでもいい! 奴らは覇界王とやりあうつもりのようだ。なんでもいいから手伝ってやれ!』
「了解です!」

 護の脳裏に先日のことが蘇る。ドクター・タナトスの身柄を確保したラミアから放たれてきた意思。

(来たるべき対決のために……)

 護は悟った──今がその時なのだ!

「月龍、日龍、翔竜、ビッグポルコート!ガオガイゴーについてきて!」

 合体ベターマンは覇界王に迫りつつ、ひとつの個体のなかで意思を交感していた。

『暁の霊気──』

 覇界王が放つオレンジ色のオーラを、ラミアはそう呼んだ。実体を持たぬと推測される覇界王だが、そのオーラは強烈な圧力を有している。無機物ではないソムニウムが、ゼロロボに変貌するような影響を受けるものなのか不明だが、彼らにとっても脅威であることは明白である。

『──おのおの方、来ましたぞ』

 ライの意思が緊迫する。いままさに覇界王は──そう呼んで正しければ──敵意を合体ベターマンに向けていた。だが、その強烈なオーラの咆吼が直撃する寸前に、彼らの前に傘が開いた。

「プロテクト・プロテクター!」

 展開したのは、月龍が有線操作した六基のユニットだ。このバリアーシステムは空間湾曲によって、対象物を反射する。オーラの圧力に屈するまでのわずかな時間であろうと、微力ながらも合体ベターマンを護ることが可能だった。

「ブロウクン・ブレイカー!」

 続いて、日龍の飛ばした六基の有線ユニットが、オーラの圧力壁にブロウクンマグナムばりに穴を穿ち、押し戻されつつも彼らの行く手に道を切り開いていく。

『機械仕掛けのモノどもか、ンー…なかなかやるじゃないか』
『暁の霊気とやらが、こっちに威力を集中してきたぞ』

 ガジュマルが、苦しげにトゥルバの推進力をフル稼働させる。プロテクト・プロテクターのユニットも堪えきれずに砕け散った。

『まだ耐えうる……だが…長くは持たぬ……』

 ルーメの光でオーラを相殺しながら、ユーヤが透明な流体装甲で全身を守る。ブロウクン・ブレイカーのユニットも砕かれ、前方は覇界王のオーラ一色に染まる。

『!!』

 力むラミア。フォルテの強靭な両拳が連続殴打を繰り出し、力技で集中砲火となったオーラの圧力を弾いていく。だが、最後の瞬間は刻一刻と迫る。

「幾巳……もう時間がっ!」
「間に合わない…のか……!」

 カウントはあと数秒まで迫っていた。合体ベターマンからやや離れた後方を飛行していたガオガイゴーの護と戒道も、焦りの色を隠せない。

『ライ……』
『待ってました』

 ラミアの合図に反応したライが、尻尾となっているアーリマンのパーツを展開させ、幾重にも連なったクレーンアームのように後方へ伸ばした。それは、ガオガイゴーまで届き、その機体を掴み引き寄せた。

「え!?」
「何を!?」

 護も戒道も息を呑んだ。ガオガイゴーはそのまま、合体ベターマンの前方まで一気に連れてこられてしまったのだ。

「わああああっ!」

 プロテクトウォールを展開しているとはいえ、ガオガイゴーは合体ベターマンの盾となる位置で、オーラの衝撃をもろに受けることになった。

『シャーラ……』
『……はい』

 ラミアの意思を受け、シャーラがソキウスの実を喰らう。

『あああああああああっ!』

 悲痛な叫びと共に、合体ベターマンの姿は瞬時にその場から消え失せた。

「まさか!?」

 さらに後方で、衝撃に吹き飛ばされかけていた翔竜が反応する。

「狙ってやったのか!?」

 ビッグポルコートの望遠レンズは、オーラの圧力をガオガイゴーに集中させている覇界王の逆側に、ソキウスの路なる空間の傷穴から飛び出した合体ベターマンを視認した。

『ンー今だ! ポンドゥスの超重力をかましてやれ!』

 羅漢の意思にラミアも呼応する。

『ヒイラギ……』

 ラミアの呼びかけに脚部のポンドゥスとなっているヒイラギも応える。

『うん……ボクにまかせて』

 圧縮された木星の高重力のなか、圧力の薄い好位置に現れた合体ベターマンは、重力場をまとった超重量の強烈な飛び蹴りを覇界王に叩き込んだ。

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』

 一つの躰の中に同居する七体が衝撃に耐える。

 その瞬間──カウント表示はゼロとなった!!

「どうした、なぜブラックホール化しねぇんだ!」

 メインモニターの隅に表示されたカウントダウンがゼロを通過したにも関わらず、映し出される光景に、顕著な変化はなかった。感心したように楊が眼鏡の位置を正す。

「重力で時間経過を低下させた……ということか」
「ああん? どういうことだぁ!?」

 阿嘉松の問いに楊が説明する。

「考えてみたまえ。もともと十四万キロあった木星の直径が、覇界王によってたった六年間で十メートルまで圧縮されたのだ。最後の数メートルなど、一瞬で押しつぶしてしまいそうなものではないかね」
「そういえば──」
「圧縮された木星はブラックホール化寸前の高重力場となり、一般相対性理論の予言通り、周囲の時間経過を低下させたのだ。そこにさらに重力攻撃が加われば──」
「時間経過がさらに遅れるってわけか!」

 両手を打ち鳴らした阿嘉松に、牛山次男が報告する。

「お待たせしました! ミラーカタパルト、展開終了! XF-111、射出できます!」
「よっしゃあああああッ、とっとと撃ち出せェェェッ!」

 阿嘉松の罵声とともに、ミラーコーティングされた機体が射出された。

『刻は来た──』

 ラミアがそう意思を飛ばした瞬間。重力場を加増する限界を察したかのように、合体ベターマンはその場から離脱、覇界王のオーラの奔流を回避した。
 同時に、銀色に輝く機体が虚空を駆け抜けていった。

「ああっ、あれは──」

 護が驚きの声をあげる。それが見知った機体であったからではない。彼自身は、その機体を直接目にしたことはないのだ。だが、ソール11遊星主との戦いの後、地球に帰還してから読みふけった資料を記憶していた。
 自分がいない間の地球で活躍した機体。懐かしく慕わしい人のために開発されたソレは、その人がいない今、誰にも操縦されることなく、格納庫の片隅で眠りについていた。その幻影の翼とは──

「プロトタイプ・ファントムガオー!」

 直径三メートル弱となった木星が、白銀の弾丸に撃ちぬかれたかに見えた瞬間、その物理的特性がシフトした。
 その全質量がシュヴァルツシルト半径内に圧縮されたことにより、反射光ですらも脱出速度に達することができず、暗黒の球状空間と化したのである。同時に覇界王と呼ばれていた三十メートルほどのオーラもかき消える。
 だが、それはトリプルゼロと伝えられた存在が、六年をかけて達成した事象──ではない。六年をかけて開始・・した事象である。
 いまこの瞬間、"門"は開かれたのだ。この宇宙に終焉をもたらす存在──トリプルゼロが、やってくるための"門"が。
 大地のすべてを洗い流す大海嘯のように、宇宙を無に帰すエネルギーがあふれ出た。トリプルゼロの波濤が、太陽系を一気に埋め尽くそうとしていた。
 だが、これが"終わりの始まり"であるのなら、ラミアの"刻はきた―"という言葉の意味は──

 圧倒的なまでの終焉が押し寄せるなか、それを阻もうとする声が、我々の誰もが懐かしく、我々の誰もが忘れる事のない、我々の誰もが待ち望んでいた、あの声が響いた。

 

「──勇気をっ! この勇気のときが来るのを信じていたぜっ!!!」

 

 それはかつてのGGG機動部隊隊長、地球を幾度も救った勇者の声だった。

 

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回2月1日(水)更新予定


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