覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第19回】

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number.03 門-JUPITER- 西暦二〇一六年(4・完)

12

 太陽系第五惑星・木星。その分子間距離が圧縮されたことによるブラックホール化現象は、いずこかへとつながる“門”を生み出した。
 開かれた“門”からは、圧倒的なエネルギーがあふれ出す。<暁の霊気>とベターマン・ラミアが名づけたオレンジ色のオーラは、地球人類が<ザ・パワー>と呼称した未知なるエネルギーと類似していながらも、その総量において桁違いの存在だった。いや、“門”からあふれ出るそれはいまもなお、幾何級数的に増大し続けていると言ってよい。

 “終焉を超えた誓いオウス・オーバー・オメガ”──トリプルゼロと伝えられたエネルギーは、全宇宙を終焉──あるいは黎明へ回帰させようと拡散していく。そして、今より少し前、“門”からあふれる暴風のなか、オレンジに輝く別の何かが高速でその場から飛び去ったことに気づける者はいなかった。
 だが、いま現在トリプルゼロに抗う声は、この場にいるすべての者に届いていた。

「──勇気をっ! この勇気のときが来るのを信じていたぜっ!!!」

「──凱兄ちゃん!?」

 ガオガイゴーのウームヘッドで、天海護は愕然とした。決して間違えようのない声。この九年間、一日たりとも忘れることのなかった声。かつてのガッツィ・ギャラクシー・ガード機動部隊隊長・獅子王凱の声を耳にしたのだ。
 いつかきっと迎えに行く──そう固い決意を抱いていながらも、まだしばらく時間がかかる、と覚悟していた。ひょっとしたら遠い未来になるかもしれない、と恐れてもいた。それがいまこの瞬間にかなうとは、想像もしていなかったのだ。
 涙に滲んだ視界のなかで、プロトタイプ・ファントムガオーが舞う。

 <XF-111・ファントムガオー(プロトタイプ)>──二〇〇六年に開発されたガオファイガーのコアマシンである。一度はバイオネットの鰐淵シュウに強奪されたが、奪回後に凱がガオファイガーへのファイナルフュージョンを初成功させた機体。
 この事件を契機にセキュリティプロテクトを強化、機体全長と全備質量をわずかに軽減させることで、<F-111・ファントムガオー>はロールアウトした。その機体は凱とともに三重連太陽系に旅立ち、パルパレーパ・プラスの前にたおれた。
 そして、予備パーツとしてGGGオービットベースの片隅に保管されていたプロトタイプ・ファントムガオーが十年近い時を経て、開発者のひとりであるアルエットの目にとまったのだ。

「フュージョン……」

 トリプルゼロの暴風吹き荒れるなか、凱の掛け声がこだまする。オーラの中で機影が確認できなくなっていたプロトタイプ・ファントムガオーは、凱とフュージョンし、変形を遂げた姿となって飛び出した。

「ガオファーーー!」

(凱……)

 目頭の熱さをこらえつつ、アルエットはブランチオーダールームの予備シートに座った。手早く機動部隊オペレーションの予備システムを立ち上げる。だが、凱に通信で話しかけようとはしなかった。

(それよりも前に遂行することがある。再会の言葉は、なすべきことを果たした後で──)

 アルエットはそう思いながら、システムと向き合った。

『見慣れない機体だな……ファントムガオーを送ってくれた君たちは、GGGなのか?』

 通信機から、GGGの専用周波数帯で凱の声が響いてくる。その声を聴いて、これが何かの罠かもしれないという可能性は、護の脳裏から吹き飛んだ。たとえ凱の声色を模倣することができたとしても、そこから滲み出るこの力強さを、優しさを、勇気を、何者とて真似ることなどできようはずもない。

「そうだよ、凱兄ちゃん! 僕たちはガッツィ・グローバル・ガード! 凱兄ちゃんたちを……ガッツィ・ギャラクシー・ガードを迎えに行くために、ここまで来たんだっ!!」
『護? その声は護なのか!?』
「もちろんだよ! 僕は地球人・・・の天海護! 戒道もいるよ!」
『そうか! 戒道くんも! でも護、 その落ち着いた声、ずいぶんと大人びたな──』

 やだなぁ、凱兄ちゃん。僕はこれでももう二十歳はたちだよ──そう言いかけて、護はいまがそんなことを言っている時ではないと気づいた。だが、それは凱の方も同様だったらしい。

『いや、今はそれどころじゃないな。聞いてくれ、ガッツィ・グローバル・ガード! いまこの空間にあふれ出しているのは、トリプルゼロ──宇宙を開闢かいびゃくさせ、終焉しゅうえんに導く未知のエネルギーだ!』

 そこまでを聴いて、ミズハのブランチオーダールームが回線に割り込んできた。

『久しいな、獅子王凱』
『その声──楊龍里博士?』
『いまはGGGスーパーバイザーを勤めている。獅子王凱、情報交換したいことは堆積山の如くあるが、まずは君の判断を聞かせてもらおう。いまこの場に居合わせている我々が、即座にやるべきことはなんだ?』

 通信を聴いていた護も戒道も、息を呑み、そして納得した。彼らには目の前に起きている事象を把握する術はない。だが、凱は何かを知っているはずだ。ならば、彼の判断を仰ぐのがたしかに最善である。

『楊博士、俺が通ってきたのは時空の抜け道<ワームホール>です。そして、トリプルゼロもそこから溢れている。全宇宙の終焉を防ぐため、まず開かれた“門”を閉じないと!』
『ワームホールの閉塞か……その方法は?』
『それは、わかりません……ファントムガオーのおかげで、なんとかこちら側に抜けることができましたが、現在こちらには何の装備もなく、無力です。トリプルゼロは俺たちの機体を奪って、その膨大なエネルギーを牽引けんいんしています。その力で“門”を開いた状態に持続させていますが、トリプルゼロの流れを一時的にでも止めれば“門”を閉じることができるはず!』
『現状ではその方法は不明というわけか。了解した、こちらも解析と検討を開始する』

 そこまでを告げた楊に代わって、阿嘉松が割り込んできた。

『久しぶりだな、凱! ガッツィ・グローバル・ガード長官はこの俺、阿嘉松滋だ!』
『滋さん!?』

 旧知の声を聴いて、凱も驚いている様子だった。阿嘉松滋は獅子王凱の従兄であり、幼い頃に幾度か会ったことがある。

『いまお前さんに必要なものを、追加で送り出してやる。受け取れッ!』

 その言葉に続いて、ディビジョン・トレインのミラーカタパルトが作動した。ガオガイゴーの予備パーツでもある三機のガオーマシンを射出したのだ。

「うわっはー!」

 護は歓喜した。ガオファーの周囲に、ミラーコーティングを剥がし本体を現したステルスガオーⅢ、ライナーガオーⅡ、ドリルガオーⅡが飛び交う。ガイゴーにはリングジェネレイターが存在しないため、ステルスガオーⅡが優先運用されてきたが、いずれもガイゴーの予備機である。
 だが、三機とも本来はこのために用意されたマシンだ。エヴォリュダー・ガイと──ガオファーと──ファイナルフュージョンするために!

「ちょ、長官、えっと……プロトタイプ・ガオファーからファイナルフュージョン要請シグナルです!」

 コードとして登録されてはいても、実際に扱ったことのないシグナルを受信して、初野華は少し取り乱した。ガオガイゴーや勇者ロボたちのオペレートも続けながらなのだから、無理もない。

「初野先輩はガオガイゴーに専念して。阿嘉松長官、こちらのオペレートは私にまかせてください」
「あっ、うん、お願い! アルエットちゃん!」

 すでに華の隣の予備シートでシステムを立ち上げているアルエットの姿を見て、阿嘉松は即断する。

「いよおおっし、アルエット! ファイナルフュージョン承認ッッ!」
「ウィ!」

 アルエットがプリマドンナのように高くジャンプし、全身の体重を右拳にのせた。

「ファイナルフュージョン、プログラム・ドライブ──」

 そのまま一気に保護プラスティックを叩き割り、FFプログラムを起動させる。

 

「よっしゃあっ、ファイナルフュージョン!!」

 “門”から発せられるオレンジ色のオーラの嵐の中、ガオファーはファントムチューブを展開、ガオーマシン群がその内部に突入する。さらにプログラムリングが虚空に投影され、四機の機体はひとつの巨体へと合体していった。システムを再設計したアルエットのオペレーションにより、以前よりも速度、安定性がともに向上している。

「ガオッ! ファイッ!! ガーーーーーーーー!!!」

 かつて叛逆者の汚名を着せられ、地球圏から追放された勇者王が、いまここに帰還したのだ──

 

13

 ガオファイガーの復活に沸き立つブランチオーダールーム。一同がそのバックアップを開始するなか、研究部オペレーター席の火乃紀には、考えていることがあった。阿嘉松に理由を説明し、離席の許可を求める。

「……わかった、承認する。というより、俺の方からも頼みてえ、任せるぞ!」
「はい!」

 火乃紀は緊張の面持ちで席を立った。

「……タマラ、あとお願いね」
「了解シマシタ火乃紀サン」

 タマラにオペレーションを任せ、火乃紀はブランチオーダールームを後にした。

「あれが、ガオファイガー……」

翔竜は、長く連結したディビジョン・トレインの外装部から、ビッグポルコートと共に状況を見守っていた。

「獅子王凱機動部隊隊長、すっごく頼もしいですね!」
「おや? 少年、君の現・隊長は頼もしくないような言い方だね?」
「ええっ!? あ、いえ、僕そんなつもりじゃ……護くんだって頼りにしてます!」

 そう言いながら、翔竜はビッグポルコートの背後に向けて磁力線を放った。諜報ロボの背中を狙って襲い掛かってきた新たなゼロロボが、磁力線に囚われて硬直する。

「おっと、やるじゃないか少年!」

 固まったままのゼロロボを、ビッグポルコートが振り向きざまに左腕のマサムネソードで斬り裂く。

「いつまでも助けられてばかりじゃありませんよ、ポルコート・・・・・さん!」
「……AIのアルゴリズム整理はいつまで経っても終わらないようだがね」

「幾巳、あれは………」
「ああ、何かが出現する」
「やはり……止められなかった……」

 ガオガイゴーとガオファイガーが、肩を並べて門を見据える。ガオガイガーとよく似ていながらも細部が異なるガオガイゴーのことを、凱は訊ねようとはしない。それが護と戒道が操るものであるならば、頼もしい仲間だ。いまはそれだけの理解でいい。目の前に、かつてない脅威が出現しようとしているのだから。

(グウウオオオオオオ……)

 膨大なエネルギーの噴出が続くなか、それ・・はワームホールをかいくぐり、次元の彼方からみずから開いた門を押し通る──その名は、覇界王。
 ガオファイガーやガオガイゴーとさほど変わらないサイズでありながら、圧倒的な存在感を放つ姿が、ブラックホールの彼方からいまこの宇宙に降臨する。
 暁色のオーラを全身にまとい、長い髪を振り乱し、胸には獅子の顔貌、四肢には鋭い爪、猛禽の尾部を持ったその姿は、六年間、地球の空に浮かんでいた禍々しき幻影に等しい。そして、先刻まで木星を圧縮していた力場とも同じ姿であった。

「凱兄ちゃん、あれは……ジェネシックなの?」
「ああ、トリプルゼロに取り込まれた姿だ。俺は寸前にギャレオンにフュージョンアウトされ、逃がしてもらえた……」
「ギャレオンが!?」
「Gストーンを持つモノでさえ、少しでも出力が低下すれば取り込まれてしまう……だから俺は止めなきゃならない……あんな姿になったギャレオンを! ジェネシックマシンを! そして……」

 凱の決意が伝わってきた。護にとって戒道がそうであるように、ギャレオンやジェネシックマシンは凱にとって苦しい戦いをともに乗りこえてきた、かけがえのない相棒なのだ。

「ひとつだけ教えてくれ……Jやトモロは──」

 戒道が口を開いた。一瞬、凱は口ごもった。そして、彼自身にとっても苦しい真実を語り出す。

「すまない……ジェイアークとGGGのみんなは、ジェネシックと同じように取り込まれてしまった。そして俺より少し前に、この宇宙へ放出された──」
「……そうか、なら安心した」
「幾巳……!?」

 言葉の意図がわからず、護が驚く。

「別に僕は頭がおかしくなったわけじゃない。こっちの宇宙のどこかにいることがわかったなら、心置きなく“門”を閉じられるということだ」
「あ、そうか………でも、みんなトリプルゼロに取り込まれて<覇界王>に……」
「たとえJやトモロが<覇界王>にされてしまったとしても、関係ない。彼らはきっと、自分を取り戻す──いや、取り戻させてみせる」

 戒道は静かに決意を語った。かつてソルダートJ-002もトモロ0117も、機界31原種によってゾンダリアンへと変貌させられた。だが、おのが意思の力と戒道の浄解によって、元の姿と使命を取り戻したのだ。たとえ同じ悲劇が繰り返されようと、また取り戻せばよい──!

「覇界…王か……。このままだとジェネシックがこの宇宙を滅ぼす手助けをさせられてしまう……」
「凱兄ちゃん……」

 凱の言葉に苦渋がにじんでいた。だが、意思の力でそれを振り払う。

「君たちがいう<覇界王>を斃して、門を閉じる。そして、絶対にジェネシックを取り戻す! たのむ! ふたりも手伝ってくれ!」
「了解!」
「わかった!」
「よしっ!……いくぞぉぉぉっ!!」

 覇界王ジェネシックに向かって、加速するガオファイガー。その後に続くガオガイゴー。その機体の背部にはともにGGGマークがある。だが、その輝きは同一のものではない。予備機であったステルスガオーⅢのマーキングは、ガッツィ・ギャラクシー・ガード時代のものから変更されていなかった。
 緑のGGGマークと、青のGGGマーク。緑の星のGストーンを受け継ぎ、青の星のテクノロジーで生み出された──星々の想いを背負った二体の勇者王が、いまともにオーラの嵐の中を駆ける。

 ガオファイガーとガオガイゴーが覇界王ジェネシックに向かう一方、月龍や日龍はディビジョン・トレインの防衛に奔走していた。覇界王が放つオーラは、その眷族──ゼロロボを次々と発生させる。周辺に漂っていた残骸が、ふたたびゼロロボに再生され襲いかかってきたのである。

「ペンシルランチャー!」
「お喰らいなさい!」

 ミズハから持ち出した携行ツールで、月龍と日龍が交戦する。氷竜や炎竜たちも使っていたこの重機は、弾頭を換装することで様々な機能を発揮できる。牛山末男たち整備班員の手早い作業で、この時は硬化弾頭が装填されていた。
 月龍の発射するA液が炸裂すると、続いて日龍がB液の弾頭を喰らわせる。瞬時に混ざり合った混合液はゼロロボの動きを完全に止めるほどに硬化する。息のあった二体の射撃で、ゼロロボの群れは次々と硬化剤に捕らわれていく。

「倒しても倒しても再生するなら、動けなくしてしまえば良いだけのことですわ!」
「日龍、無駄口が多くてよ!」
「あら、おしゃべりしていても月龍には負けませんわ」

 双子勇者は競い合うようにゼロロボを狩っていく。そこにビッグポルコートと翔竜も加わり、ディビジョン・トレインの安全はひとまず確保された。そして、被害が及んでいないエリアに残されていた、二つの大型ツールトランクに辿り着く。

「これは使えるんじゃないのか!……少年! 今からミラーカタパルトまで特急便のミッションだ!」

 ビッグポルコートが、スピードを誇る翔竜に任務を託す。

「了解しました! ポ……あっ…と、ビッグポルコートさん!!」

 それぞれの決意にあふれるGGGの面々だが、この場にはそれとは異なる想いを抱く者たちがいる。やや離れた空間に退避している、合体ベターマンを構成する七体のソムニウムたち。彼らは今現在、動く気配はなかった。

『元凶なりし者──』
『ンー…では、そろそろ決するぞ、ラミアよ。パトリアのときを迎えるために』

 七体の目的はハッキリしていた。だが、ラミアの中には迷いがあった。他のソムニウムも、リミピッドチャンネルでその迷いの元となる意思を受信していた。

「お願い、紗孔羅……聞こえる!? 聞こえたら私の声を届けて、ベターマンたちに!」

 ブランチオーダールームからメディックルームにやってきた火乃紀が、いまだ眠り続ける紗孔羅に必死に語りかけていた。
 獅子王麗雄やベターマンのリミピッドチャンネル──場に漂う意思を受信できたのだから、かつてソムニウムの盗聴器のように扱われていた紗孔羅が、耳にした言葉を彼らに向けて発信することもできるはず、と考えての行動であった。

「ラミア……私がいまでも貴方たちにとっての希望なら、願いを聞いて! 貴方たちの目的がなんであろうと……今だけは覇界王を斃すためにその力を……!」

 ラミアはかつて、彩一族から生み出されたウィウェレの実を喰らい、その強い命の影響を少なからず受けていた。

『…羅漢、やはり……我らは斃さねばならぬ』
『ンー……元凶なりし者よりも……暁の霊気……覇界王を先に……?』
『パトリアのときを迎える前に……我らの希望は守らねばならぬ』
『それは他の有象無象どもも同じ見解か?』

 言葉は発しないが、七体のソムニウムは、それぞれが別のベクトルの意思を抱いているようだった。

『ンー……ラミアよ、躰が一つとなっている今、頭脳はこの私だ。お前の意思だけでは動けぬ』
『………』

 ラミアは押し黙った。

 

14

 ミズハのブランチオーダールームで、阿嘉松と楊、アーチンはシミュレーションモニターをにらみつけていた。

「……どうやら間違いないようだな。あの<覇界王>自身がワームホールを維持するシステムそのものだ」

 いまもブラックホールの彼方から、トリプルゼロを溢れさせているワームホール。<覇界王>はその通路を通ってきただけでなく、通路そのものを維持する重力場変動を発生させている。
 木星に旅立つ直前、磯貝桜や天海勇の尽力によって、インビジブル・バーストの原因を探るための観測機器が大幅に増強されていた。それらが<覇界王>とワームホールの因果関係を特定したのである。

「つまり<覇界王>を斃せば、“門”を閉じられるわけダネ!」
「よしっ! 俺たちガッツィ・グローバル・ガードがいまの地球を護っているって姿を、凱に見せてやるんだッ!」

 阿嘉松が吠えた。たとえ有限会社であろうと、大企業にも負けねえ──そういきり立っていた頃と、同じ表情だった。
 一方で、初野華とアルエットは、整備部とやりとりしつつ、ミラーカタパルトの準備を整えていた。

「ああ、アルエットちゃん。これ私の予備セーフティデバイス、使って」
「メルシー、初野先輩。端末のアップデートはこちらですませます」

 ブランチオーダールームの設備に精通している華と、必要なソフト更新を瞬時にやってのけるアルエット。ふたりのコンビも、この危急の折に勇者王たちを支える最高のバックアップとなるべく、気持ちを研ぎ澄ましていた。

(オオオオオオオオオオッ!)

 門を背にした覇界王ジェネシックが吠える。ガイガー内部に凱が不在でありながら、合体も解けず、動いている。それはあたかもトリプルゼロというエネルギーが、独自の意志や知力を持って動いているように見えた。そして、右拳を回転させながら撃ち出す。ブロウクンマグナムを使用した攻撃だ。
 それをふたつの拳が迎え撃つ。ガオファイガーとガオガイゴーのブロウクンファントム。ザ・パワーを超えたエネルギーの覇界王には圧倒的に劣るものの、けして負けてはいない。地球人類の英知──ファントムリングが加わっているからだ。二発のブロウクンファントムは、オレンジのオーラをまとったブロウクンマグナムに一歩も引かず、虚空で右と左に弾け合った。
 覇界王ジェネシックは、戻ってきた拳を悠然と受け止める。だが、その時には眼前に四本のドリルがあった。

「遅いぜ!」
「遅いな!」
「遅いよ!」

 凱と戒道と護の言葉が重なる。ガオファイガーとガオガイゴーは、ブロウクンファントムの帰還を待ちはしなかった。弾け飛んだ拳の未来位置を予測して前進、受け取った勢いもそのままに覇界王ジェネシックのふところに飛び込んだのだ。

「ドリルニーッ!」

 ガオファイガーの両膝とガオガイゴーの両膝が、覇界王ジェネシックの頭部に同時に叩きつけられる。

(グウウウウウオオッ!)

 オーラによるバリアーシステムを展開しているその頑強な頭部を打ち砕くことはかなわなかったが、怯ませることには成功した。
 だが、次の瞬間、覇界王ジェネシックは全身から禍々しいオーラを放った。開闢にして終焉へと導くエネルギーが、ガオファイガーとガオガイゴーを包み込む。

「くううっ──!」
「僕たちまで……覇界王に取り込む気!?」

 戒道と護は、衝撃に揺さぶられ慄然とした。

「魂を手放すな! 怖れに囚われず、自分が信じる勇気に従え!」

 獅子王凱の力強く、優しい、勇気あふれる声が、青年たちを叱咤する。

「うん! そうだね、凱兄ちゃん!……負けるもんか!」
「ああ……僕たちは、覇界王にはならない!」

 差し出された凱の、ガオファイガーの右手を―― 護と戒道の、ガオガイゴーの両手がしっかりとつかむ。二体の勇者王はともに、覇界王が発する強烈なオーラをかろうじて振り払い、離脱した。だが、そのオーラすらも揺動に過ぎなかったのか、新たに大量発生したゼロロボの群れが、体勢のおぼつかない勇者王たちに迫りくる!

「く……追いつかない! ガオファイガーの出力では……」
「ガオガイゴーは…もう……リンカージェルの活動限界が近い……このままじゃ……」

 オーラの衝撃の中、凱も戒道も対応が遅れる。

(ゴルディオンクラッシャーがあれば……)

 護の脳裏に、その思いが横切った。ソール11遊星主との戦いで勝利の鍵となった最強最大のハイパーツール。だが、ディビジョン艦三隻を合体させたそれは、あの戦いで失われたのだ。
 ガオファイガーとガオガイゴーが攻撃をもろに喰らいそうになったそのとき──ゼロロボの群れは無色の泡の直撃を受け、次々と爆発し殲滅された。
 水のような液体の泡膜で包まれた圧縮空気弾を放った合体ベターマンが、勇者王たちの隣に並び立つ。

「ソムニウム!」

 護の声に反応した凱は、過去の記憶をたぐり寄せる。

「ソムニウム……?」

 ソール11遊星主との激戦のさなか、地球の人々の想いを運んできた意思。だが、その意思はけして応援するわけではなく、むしろ挑発的だった──ベターマン・ラミア!

(こいつは、あの時の……)

『我らの希望……そしてヒトの希望を……今は守る』

 ラミアの意思が凱や護、戒道にも響く。

『翼がもげようと、オレは下がらない!』

 負けん気の強いガジュマルの激しい意思も轟く。

『ンー、それでよい!有象無象の多数決などに従う気はないが、覇界王と雌雄を決するのは望むところ』

 羅漢の意思も同調する。

『グオオオオオオオオオオオオオッ!』

 合体ベターマンは、覇界王ジェネシックに突進し、フォルテの巨腕でギャレオンの横っ面に連打を浴びせる。だが、その機体表面には、バリアーシステムとなったジェネシックアーマーが張り巡らされていた。フォルテの拳といえど、その強固な外殻を貫くことはできない。覇界王ジェネシックもされるがままではおらず、両腕の爪を合体ベターマンの猛攻に割り込ませた。

『くっ──!』

 ゴルディオンネイルが、合体ベターマンの両拳を光に変換せんと金色の粒子を放つ。次々と消されていくルーメの流体装甲は、光を操るその能力で、内からあふれるように再生されると同時に、金色の粒子そのものを相殺し無力化していく。

『案ずるな……だが、長くは持たぬ……』

 無限ともいえる覇界王のエネルギーは止まる事を知らず、すぐにルーメの相殺力を圧倒し、再生時間を破壊時間が上回っていくだろう。激しいオーラの嵐の中、勇者王二体もギリギリの状態から体勢を立て直し、覇界王ジェネシックに向かっていく。

「ふたりとも! 勇気の力を……信じろ!」

 凱の熱意がこだまする。

「絶対に負けるもんか! 僕だって……Gストーンの勇者だよ!」

 護も叫ぶ。

「Jジュエルの輝きあるかぎり……もがき足掻く!」

 戒道も気を抜かない。
 覇界王ジェネシック対ガオファイガー、ガオガイゴー、合体ベターマン。
 だが、三対一といえど、覇界王の牙城は容易に崩れそうになかった。

 

15

「ワームホールからのエネルギー流出、いまだ止まりません!」

 カムイの報告が、ブランチオーダールームに響く。

(怖くない、怖くない……)

 心中でそうつぶやく華。だが、それは子供の頃の、ただ護ってもらう存在だった頃の祈りではない。

(信じてる、私、信じてる。みんなの勝利を……!)

 愛しい人とともに戦う女性としての想いだった。

「翔竜とビッグポルコートから入電、ミラーカタパルトの準備完了!」
「おおしっ、ただちに射出だァッ!」

 牛山次男の報告を受けて、阿嘉松が指令する。

「了解です!」

 華はキッと表情を引き締めて、身体をひねり思いっきり振りかぶった。同時にアルエットも、バレリーナのようにクルクルと華麗に宙を舞う。

「イミッション!!!!」

 華とアルエットが、二つのミラーカタパルトからの射出パッドを同時に殴打した。

「受け取れ!勇者王どもぉぉっ!!!」

『ほらほら覇界王殿、こっちですよ~~』

 ライが合体ベターマンの尾部を展開し、肩越しに揺らしてみせる。覇界王ジェネシックからの攻撃の矛先がそちらに集中した瞬間──
 右と左からガオガイゴーとガオファイガーのハイパーツールが急襲する!

「ディメンジョンプライヤーッ!」
「ゴルディオンモーターッ!」

 GGGがミラーカタパルトから射出した二つのツールは、合体ベターマンが覇界王ジェネシックと激闘を繰り広げている間に、勇者王たちへ届いていたのだ。
 それは、火乃紀の願いに応えたかのごとく果たされた、種属という垣根を越えた共闘であった。
 ガオガイゴーがツールコネクトしたディメンジョンプライヤーは、覇界王ジェネシックの機体表面付近の空間をはぎ取っていく。たとえジェネシックアーマーに護られていようと、そのバリアーシステムが空間ごと捻じり取られては、機体そのものの表面が露出することになる。
 ガオファイガーはそこに新たなハイパーツールを押し当てた。いや、それは新装備ではない。かつて、ゴルディオンハンマーの制御用に開発されていながら、マーグハンドの完成によって封印されていた幻のツール。十年前、ゾヌーダロボが体内に取り込んだことで、必殺のゴルディオンハンマーさえも無力化させた、重力衝撃波破りの真の切り札<ゴルディオンモーター>である。
 ゴルディオンネイルの黄金の粒子にも動じることのない、その二つのツールは覇界王ジェネシックを遂に窮地に追い込んだ。追い込んだように見えた──が!

『オオオオオオオオオオオッ!』

 必殺技を封じられてもなお、無限ともいえるオーラが止まらない覇界王の衝撃に、ゴルディオンモーターは物質としての限界を超え、砕けていく。

『くそおおっ!』

 プライヤーズも活動限界を超え、分離し、弾き飛ばされた。

「ああっ! プライヤーズ!」
「ダメなのか……」

 しかし、二体の勇者王がつくった隙をソムニウムは見逃さなかった。オーラの暴風吹き荒れる中、合体ベターマンが覇界王ジェネシックのふところに飛び込む。

『黄金の粒子による攻撃手段を失った今ならば──』

 合体ベターマンの両眼が至近距離からクランブルポイントを解析する。

『滅ぶべし、覇界王――』

 ラミアの意思に、羅漢も呼応する。

『ンー! ぶちかませ!』

 遠く離れた地球――ウユニ湖付近のセプルクルムに置き去りにされていた、名もなき陽炎がリミピッドチャンネルの波の中を瞬間移動する。
 それは、木星圏を超高速で飛び回り、ミズハのメディックルームで眠る紗孔羅の意識として舞い戻り、言葉を発声させた。

「サイコ・グローリー!!」

 傍らで火乃紀も反応する。

「!!………ベターマンが、応えてくれた!?」

 合体ベターマンの頭部、フォルテのスライディングサーベルと融合したオウグの巨大な二本のツノが、凄まじい勢いで回転射出され、覇界王ジェネシックのギャレオン両眼部を激しく強く貫いた。たちまち、ジェネシックの機体から火山噴火のように抜けていくオーラの流れ。エネルギー物質としてジェネシックと同化を続ける事が困難になり、分離分解していくような現象が起きた。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 だが、それでもまだ無限のオーラは放出を続け、消えてなくなりはしない。
 勢いに弾かれる合体ベターマンと入れ替わるように、二体の勇者王が前進する。

『!!』

 激しく明滅するギャレオンの瞳に、凱は何かを感じていた。

『戒道くん、護──力を貸してくれ』
「もちろんだ!」
「どうすればいいの?──」
『俺たちのヘル・アンド・ヘブンを同時に覇界王に打ち込む──』
「凱兄ちゃん! それは……」
『ギャレオンの意思だ』

 この宇宙を終焉に導こうとするトリプルゼロにこのまま、身を委ねるつもりはない。ギャレオンのその意思は、言葉によらずして凱に伝わった。

『できるか?』
「迷いはない!」
「やるよ!」
『よしっ! 行くぞっ! ヘル!! アンド!!! ヘブンッ!!!!!』

 両手を広げるガオファイガー。即座に意を決したガオガイゴーの戒道も、後に続く。

「ヘル!!」

 半身を司る護もすぐに反応する。

「アンド・ヘブン!!」

 三人の声が重なる──

「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ!」

 ガオファイガーの両掌から攻撃と防御のエネルギーが、ガオガイゴーの両掌からJとGの力が放たれる。もはや、活動限界ギリギリの両機はおのが両拳を固く握りあわせ、覇界王ジェネシックに向けて突進した!
 そして激突の瞬間、縒り合わされた力を一点に集約する。凱が、護が、戒道が叫ぶ。

「ウィーーーーータッッッ!!」

 合体ベターマンのサイコ・グローリーによって、もはや攻撃に転ずる余力を持ち合わせていなかった覇界王ジェネシックが、オーラのカーテンで防壁を展開する。だが、ダブル・ヘル・アンド・ヘブンがその壁を瞬時に粉砕。突き出された二組の両拳は、ギャレオンへ直撃した!

(耐えてくれ……ギャレオン! 今、救い出す!)

 “仲間を犠牲にしての勝利なんて、本当の勝利じゃない!!”
 かつて凱はそう口にしたことがある。その言葉の通り、凱はギャレオンを犠牲にするつもりはなかった。護の実父であり、かつて凱を導いてくれたカインの人格コピー、そして地球人類に様々な情報と技術をもたらしてくれたブラックボックス──

(たとえ機体を破壊したとしても、……それだけは、えぐり出してみせる!)

 その思いで、凱はガオファイガーの両拳をギャレオンにねじりこんだ。勇者王たちの勇気のエネルギーが覇界王ジェネシックの全身に伝わっていく。

(ガグギャアアアアオオウッッッ!!)

 断末魔の悲鳴が虚空に轟いた。

「ギャレオン!」

 ガオファイガーの拳がブラックボックスを探し求めたとき──
 異様な感触が、触れた。

「ジェネシックボルト!?」

 ──ギャレオンの口蓋のなかで放たれたジェネシックボルトが零距離で炸裂し、ジェネシックオーラをまき散らした。その爆圧はガオファイガーとガオガイゴーを後方へ吹き飛ばす。

「うわああああっ!」

 機体内部で炸裂したジェネシックボルトと、ガオファイガーとガオガイゴーのヘル・アンド・ヘブン──そのエネルギーの爆発は覇界王ジェネシックの全身を駆け巡り、灼熱のエネルギーとなって炸裂した。
 凱も戒道も護も、その瞬間に理解した。それは、おのが爆発四散に巻きこむまいとする、ギャレオンの意思だったのだ。

「ギャレオンッ、ギャレオオオオンッ!!」

 鋼鉄の獅子は、護の呼びかけにももはや応えない。そして、爆発しながら、その機体は後方へ飛ばされていく。そして、合体ベターマンが、すでにその背後に回り込んでいた。全身がひび割れ、形状維持も困難となった状態のままで――

『シャーラ……!』
『はい──』

 すでに限界を迎えつつあったシャーラが、ラミアの呼びかけに応えてソキウスの実を口にする。
 合体ベターマンの巨体上半身に刻まれた深い傷口──それはその躰からもはみ出した超大型の<ソキウスの路>。その孔に覇界王ジェネシックの頭部から右半身は収まったが、巨大なガジェットフェザーのせいで完全には抜けて行かない。

『マカ……セテ……』

 両脚を司るヒイラギのポンドゥスが、最後の力を振り絞り、空中ブランコを振るように超重力蹴りをお見舞いすると、覇界王ジェネシックはついにSTバイパスの彼方へ落下していった。

「―――――――――――!」

 この時、ソキウスの路は“門”の彼方へ向くように結ばれていた。断末魔の咆吼を呑み込むかのように傷口が塞がっていく。
 そして──

「重力場異常、終息したようだな……」
「ブラックホールは木星の公転軌道で安定。異常電磁場もトリプルゼロも反応を認めず」

 カムイの報告を受けて、ようやく楊が表情をほころばせる。

「ワームホールの閉塞に成功したか」
「ああ……」

 阿嘉松も自席に深く座り込み、吐息をもらした。この宇宙に大量に流れ込んだトリプルゼロが、どのような事象をもたらすのか、想像すらできない。
 だが、目の前で<覇界王>が終焉をもたらす事態は避けられた。いまはそれで充分だった──

 ソキウスの傷が癒えたものの、骨が砕けるような異音とともに、合体ベターマンの体躯は活動を完全に停止した。
 その躰は瞬時に石化し、どことも宛てのない空間へと流されていく。

『シャーラ! シャーラ! 大丈夫か!?』

 一つの躰の中で、ガジュマルの意思が響く。

『…すこし…眠る……』

 最大限の生体活力を使い果たしたシャーラの意思は途絶えた。

『おやおや、シャーラ嬢がその様子じゃ、しばらくセプルクルムにも帰れませんね』

 ライの意思がおどける。

『案ずるな……このまま宙を漂い還ることもできる』

 静かにゆっくりユーヤが応える。

『ボクが回復したら、重力で加速すればイイヨ』

 少々、のんびりした口調のヒイラギが意思を示す。

『ンー、有象無象どもが……まあ、だが、なかなか面白かったぞ』

 羅漢は相変わらず、傲慢である。

『次なる災厄に備えよ……パトリアのときは近い……』

 ラミアだけは一切油断していなかった。彼の意思は<元凶なる者>をじっと見つめているようだった。

 同じく、全出力を使い切り動けなくなった二体の勇者王もまた、宙空をただ漂うしかなかった。護は疲労で薄れようとする意識の中で、まだ言えずにいた言葉を、ようやく口にした。

「凱兄ちゃん……お帰りなさい」
『ああ、ありがとう。護、戒道くん、俺がこの宇宙にいない間、ふたりが地球を護っていてくれたんだな……』
「僕はただ……Jや…トモロに会いたくて……手伝っただけだ」
「……幾巳…凱兄ちゃん…一緒に戦ってくれて…ありがとう」

 全身に痛みを伴いながらも、やっとひねり出した戒道の言葉に、護が疲れた声で力なく、それでも目一杯明るく応えた。
 周囲の宇宙は静かだった。

「でも…ジェネシックは救えなかったね……ギャレオンも……」

 護のその声に、もう元気の色はなかった。

『救ったよ……』

 凱がつぶやく。

「……」

 護は少し顔をあげ、次の言葉を待った。

『この世界を壊す存在になることからは──』

 その声は少し寂しげだった。だが、凱のうちにはある予感があった。これがギャレオンとの永遠の別れになるはずがない、と──

『護くん、護くん……戒道くん……!』
『凱、生きてるかぁ?ハラハラさせやがって!』
『戒道さん、無事なんですね! 良かった……本当に良かった!』

 初野華、阿嘉松滋、アルエットの声が通信機から響いた。
 護はその声で元気を取り戻し、前方モニターを見る。そこにはゼロロボに浸食されて虫食いだらけのディビジョン・トレイン、激戦の傷跡を刻んだ月龍、日龍、ビッグポルコート、そしてプライヤーズを回収した翔竜が、護たちを迎えようとする姿があった。
 その後、通信機から聞こえてくるのは、感極まった華の泣き声だけになる。

「幾巳…僕たち、覇界王に……」

 護の中に実感が湧いてきていた。

「ああ、勝ったんだ、護……あとはこの宇宙のどこかにいるJたちを捜すだけ……」

 戒道の瞳も希望に潤んでいた。

「みんなを取り戻さなきゃね。JもトモロもGGGのみんなも……みこと姉ちゃんも! でもここまで……九年もかかっちゃったけどね」
「ふ…そうだな……ずいぶんかかってしまったな」

 ウームヘッドとセリブヘッドで、護と戒道がうなずきあう。だが、その言葉は凱にだけ、驚きを与えたようだ。

「九年……!? 護も戒道くんもさっきの華ちゃんも、声が大人っぽくなったと思ってたが……こっちではそんなに経ってたのか!」

 どうやら、凱のいた宇宙とは時間経過にズレがあったようだ。護のうちに、凱に話したいこと、訊きたいことが山のように浮かんでくる。そしてそれは、凱の方も同じだろう。出会った頃の──幼い子供の頃の気分に戻ったような気持ちで、護は語りかけた。

「凱兄ちゃん、ディビジョン・トレインで地球に帰るまでの間、いっぱい話そうよ! この九年間のこと……いっぱい!いっぱい!……いっぱい話そう!!」

 

 我々は信じ続けた。
 時空の彼方から勇者が還ってくることを―

 我々は忘れなかった。
 いついかなる時でも、勇気ある者の姿を―
 絶対に忘れなかった。

 そして、勇者王は還ってきた―
 信じ続けた我々のもとへ。

 勇者王は戦かった―
 我々とともに。

 ひとつの脅威は去った―
 だが、
 新たなる脅威が迫りつつあるこの宇宙で
 勇者たちとともに
 勇気ある誓いとともに
 勇気を信じて戦うことを―

 我々は

 絶対に

 忘れることは
 ない―

 

(第一部・完 number.00:Cへつづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回3月6日(月)更新予定
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