覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第21回】

覇界王~ガオガイガー対ベターマン~

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number.00:C 卵-ORANGESITE- ????年(2・完)

 

 トリプルゼロ──後に全宇宙そのものとなるエネルギーの塊。次元の破れ目からそれが一気に噴出バーストすれば、宇宙は開闢から終焉への時を一気に駆け抜けることになる。
 その次元の破れ目が通じているのが、地球から至近距離といってよい木星圏であることは、人類にとって大いなる不幸であった。だが、同時にその瞬間、トリプルゼロが満ちた宇宙の卵──オレンジサイトにガッツィ・ギャラクシー・ガードとジェイアークが居合わせたことは大いなる幸運でもあった。
 ビッグバンの前兆となるトリプルゼロ膨張の圧力が、開放を求めて次元の破れ目に集中する。ジェイアークと勇者ロボ軍団は自らを楯として、その破れ目を背負い、立ちはだかった。

「くっ、ものすげぇエネルギーの圧力だぜぇ!」

 本来のボディを取り戻したゴルディーマーグが、嬉々として叫ぶ。ゴルディオンクラッシャーの制御AIとしての任務に不満があったわけではないが、やはり振り回せる手足が存在する方が心地よいのだろう。他の勇者ロボたちとともにジェイアークの甲板上に屹立した彼は、前方から迫り来るトリプルゼロの圧力を全身で受け止めていた。

「ここで屈するわけにはいきません!」
「みんなサイコーの勇者だっぜ!」

 ゴルディーだけではない。GGGの勇者ロボたちとジェイアークが、ザ・パワー級の復元力をまとったそのボディを防壁として次元の破れ目を塞いでいる。それを支えているのは、超AIと人間たちの勇気だ。想いの力がGストーンとJジュエルによってエネルギーに変換され、トリプルゼロの圧力に抗している。その争いは完全に拮抗し、微動だにしないように見える。
 だが──

 

(ダメだ……これを永遠に続けることはできない──)

 ジェネシック・ガオガイガーにファイナルフュージョンしたまま、獅子王凱はやがて来るであろう未来を予測していた。彼自身の勇気はまだ挫けてはいない。仲間たちも同様だろう。だが、この戦いが永劫に続くとしたら、いつかは力尽きる時がくる。

(エネルギーの圧力が拮抗しているうちに、なにか次の手を打たなければ──)

 凱のうちに、ひとつの考えが浮かんだ。しかし、それを実行するには、覚悟しなければならないことがある。凱は言葉を発することをためらった。ひとたび口にしてしまえば、このオレンジサイトでは全員に共有されてしまう。後戻りはできなくなるのだ。

『──いいのよ、凱。ためらわなくて』
ミコト………」

 マニージマシンから離れて、クシナダの艦橋でオペレーター席についていた命が通信を送ってきた。

『みんなも……凱と気持ちは同じなんだから!』

 命の言葉に、大河が続く。

『その通りだ、凱! 今この瞬間、我らがこの場に居合わせた宿命を無駄にしてはならない!』

 続いて、クシナダに収容されているGGG隊員たちも口々に同意する。彼らの言葉に背を押されて、凱は決断した。

「わかった……みんな! ギャレオリア・ロードをプライヤーズのように使って、次元の破れ目を塞いでみる!」

 GGG隊員や勇者ロボたちも即座にうなずく。

「ガジェットツールッ!! ギャレオリアローーードッ!!」

 ジェイアークの艦首近くに立っていたジェネシック・ガオガイガーは、尾部のパーツを両腕に変型合体させたツールをフル稼働へ導く。次元ゲートを切り開くためのそのツールを使い、逆に次元の破れ目を閉じてしまおうというのだ。

『本当にそんなことができんのかよ!』

 火麻の叫び声に続いて、雷牙の答えが通信波に乗り凱に届く。

『理論上は可能だよ。ギャレオリア・ロードには次元ゲートを開く機能がある。空間の歪曲収差を反転させれば、次元の歪みを閉じることもまた可能というわけなんだな』
「──問題はギャレオリア・ロードを使う場所だろう、雷牙おじさん」
『そうなんだよなぁ……』

 雷牙の声に意気消沈の響きが混ざる。

『本来なら、僕ちゃんたちが次元の歪みを抜けて太陽系に戻った後、木星側から塞ぎたいところなんだが、それだとトリプルゼロも一緒に通過してしまう……』
「それじゃダメだ、俺たちがオレンジサイト側から塞がないと!」

 凱は断言した。命の後押しに勇気をもらったその声には、もはや一片の迷いもなかった。それはすなわち、地球へ帰還する最後の望みさえ捨て去ることを意味している。だが、かつて次元の歪みから漏れ出たトリプルゼロのわずかな欠片<ザ・パワー>でさえ、超エネルギーとして原種大戦に大きな影響を及ぼしたのだ。その事態を遥かに上回るであろう災厄を、地球にもたらすわけにはいかない。

(凱……雷牙兄ちゃん……大河長官……こんな事態になって……みんな、すまない……)

 ふたたび麗雄の意識が語りかけてくる。

『こりゃ麗雄、もうお前の詫びは聞き飽きた! 僕ちゃんたちの勇気、お前と絆ちゃんにはそこで見届けてもらうぞい!』

 腹をくくった雷牙が、ことさら陽気な口調で笑い飛ばした。実のところ、他の皆には説明していない事情も存在する。

(このオレンジサイトは、宇宙が開闢する前の世界……不安定な時空の歪みが、何年後の宇宙につながっているかは、わずかな歪曲率の変化でどんどんズレていく──)

 地球人類が最初にザ・パワーを確認したのは、一九九〇年代に無人探査船<ジュピロス・ワン>が持ち帰ったエネルギー物質としてである。つまり、歪みはそれ以前の時代につながっていたのだ。だが、先刻から溢れ出るわずかなトリプルゼロを、増大したGストーンやJジュエルのエネルギーにより抑え続けたことで、刻一刻と歪曲率が変化している。それは、つながった先の時間がズレることを意味していた。彼らGGGが旅立った時代より過去になったのか、未来になったのか、測定する術は存在しない。

(いずれにせよ、元の時代に辿り着ける可能性は極めて少ないはずだ……)

 もっとも、その絶望感が、オレンジサイトに留まる作戦を雷牙に選ばせたわけではない。

(地球に残してきた二十七人の子供たちのためにも、父親として僕ちゃんにできること頑張っちゃうぞ。申し訳ないとは思うけど、一人だけ付き合ってくれるから寂しくないしな~~)

 その想いがルネ本人に伝わってしまわないよう、口に出すことは我慢した。

 

「メガッ! フューーージョン!!」

 トリプルゼロを懸命に抑える勇者ロボたちの元へ、自力航行するクシナダから離れた白き方舟ジェイアークが、変形しながら接近する。その姿はジェネシックの三倍以上もの身の丈に達した。

「キングッ!! ジェイッ!! ダーーーーーーッ!!!!!」

 次元の破れ目へ向けてギャレオリア・ロードをかまえたジェネシックに背を向ける配置で、赤の星のジャイアントメカノイドがそびえ立った。

「トリプルゼロの流れは私が抑える! 凱……急げ!」
「すまん、J!」

 赤の星の戦士たるソルダートJにとって、青の星のために身を張る理由は存在しない。だが、彼にはたったひとつ、守らねばならないものがあったのだ。

「ジュエルジェネレーター出力最大!」
「了解。往こう、J。アルマのいる青の星のために」
「そうだな、トモロ。アルマは青の星の子供として生きることを捨て、我らとともに命を賭して戦った、赤の星の記憶を唯一継ぐ者。アルマが帰った宇宙を、壊すわけにはいかない!」

 そう言い切ったソルダートJの横顔を、ルネは至近距離から見上げた。

「やれやれ……もうアンタひとりでも動かせるとは思うけどさ……」

 半壊していたJの頭部装甲も修復されて、もうその瞳を見ることはかなわない。だが、ルネにはわかっていた。Jの瞳に闘志の輝きが満ちていることを。生み出された時から戦いを宿命づけられていた戦士にとって、戦う理由が明確になった時こそ、その闘志はひときわ燃え上がるのだ。

「J、トモロ、私の力も使いな!」

 ソルダートJの左腕に、ルネが自分の右腕を重ねる。

「ふ……貴様も戦士。もとよりそのつもりだ……ルネ」
「だと思ったよ」

 お互いの不敵な笑顔を確かめ合うJとルネ。そのJジュエルとGストーンが重なり合い、共鳴する。赤と緑の光は溶け合い、銀色の輝きとなってキングジェイダーの巨体を煌びやかに染め上げた。

「頼んだぞ! J! ルネ!」

 頼もしい仲間たちの存在を背中に感じながら、凱は次元の破れ目に向かった。

(この先に木星が……俺たちの太陽系が──)

 一瞬、くるおしいほどの懐かしさが凱の胸のうちにあふれた。目の前に見える、歪曲空間。このまま真っ直ぐ突っ込めば、太陽系に帰還することがかなうはずである。だが、その感情に身を委ねるつもりは微塵もない。

(護たちを……地球を……すべての宇宙を救うために!)

 ジェネシックが両腕に装着したガジェットツールを発動させる。

「うおおおおっ!! ギャレオリア・ロードッ!!」

 シリンダー状のツールが、前方の空間を湾曲させていく。三重連太陽系の宇宙で行ったように、次元ゲートを開こうというのではない。強力なアレスティングフィールドによって、破れ目を綴じ合わせていく行為だ。その様子が光学的に視覚に捉えられるわけではない。だが、エヴォリュダーの超感覚は、ジェネシックのセンサーが捕捉した状況を把握する。擬似的な視界のなかで、次元の歪みはみるみるうちに閉塞されていった。

 しかし──
 その行為は思いもよらぬ妨害を受けることになる。

「みんな……なにを!?」

 ジェネシックの四肢に、勇者ロボ軍団がしがみついていた。氷竜と炎竜が、撃龍神が、ボルフォッグとガンマシンが、ゴルディーマーグとマイクが、光竜と闇竜が──ギャレオリア・ロードを使わせまいと、ジェネシックを拘束する。彼らの全身は、暁にも似たオレンジ色の輝きに包まれていた。
 ジェネシックの頭部にボルフォッグがしがみつく。振り払おうとするが、ゴルディーに背部から押さえつけられている。

「くっ、どうしたんだ、ボルフォッグ! ゴルディー!?」

 そう叫んだ凱は、間近に見た。ボルフォッグの両眼を模した光学センサーから、輝きが失われている。それは他の勇者ロボたちも同様だ。

「クシナダ、聞こえるか! 機動部隊の超AIはどうなっている……モニタリングできるか!」

 その問いに応じる者はいない。先ほどまで、頻繁に飛び交っていた通信波がいまは完全に沈黙していた。

(ああ、なんということ……)
(凱、彼らはみな浸食されてしまったようだ、トリプルゼロに!)

 絆と麗雄の意識が語りかけてくる。

「浸食!? 操られてるってことなのか──」
(厳密な意味でいえば、そうではない……)

 麗雄は、自分の思考を一気に送り込んできた。言葉という伝達手段に頼るよりも早く、凱は事態を理解する。
 トリプルゼロは純粋なエネルギー、そこに意思は存在しない。だが、エネルギーには力学が働く。圧縮されたエネルギーが膨張する力学。秩序から無秩序へと移行していく力学。膨大な熱量も拡散され、冷え切っていく力学。それらはすべて、トリプルゼロというエネルギーによって宇宙が開闢し、また終焉を迎えていくサイクルを担っている。
 宇宙の誕生と死は何者かの意思によるものではなく、ごくシンプルな力学がもたらす過程と結果に過ぎないのだ。
 だが、その摂理に逆らう存在がある。

「それが──俺たち知的生命体の活動と機械文明」

 凱がたどりついた結論を、麗雄が肯定する。

(その通りだ、凱……。そして、Zマスターもまた、トリプルゼロに少なからず影響を受けていたに違いない)

 かつて、機界31原種はギャレオリア彗星と名づけられた次元ゲートによって、古き宇宙から新しい宇宙へやってきた。その過程で、やはりオレンジサイトを経由した可能性は否定できない。木星決戦で対峙した心臓原種の主張は、まさに凱が理解した宇宙の摂理を具現化したものに他ならなかった。

「破滅への導きが……宇宙の正しい法則ってことか?」

 凱の声は返答のない虚空に響く。

「俺たちの存在が間違ってるから……自然の力が滅びに向かうのか?」

 やはりその答えはどこからも返ってこない。

「みんな思い出してくれ──俺たちは木星でのあの時、Zマスターを否定した。そして勝利したはずだ!」

 凱の言葉に応える者は誰もいない。麗雄と絆の意識のみが、オレンジサイトで繰り広げられる死闘を見守っている。
 そしてついに、均衡は破れた──

 いのちの結晶たるGストーンによりエネルギーへと変換した、勇者たちの想い。彼らが宇宙の摂理に浸食されたいま、トリプルゼロの噴出バーストを阻むことは不可能だった。ギャレオリア・ロードで閉塞に成功しかけていた次元の破れ目から、膨大なエネルギーが外の世界へと流出していく。

「まだだ! 命あるならば、まだあきらめるな!」

 太陽系へと噴出するエネルギーの流れ。それを、身をもって防がんとする者がいる。白銀に輝く巨体──キングジェイダーである。

「もがきなっ! 生きてるかぎり、気を抜くんじゃないよっ!」
「J! ルネ!」

 しかし、その強靭なボディも、強烈なオレンジ色の濁流に揉まれ、かろうじて動いている状態だった。

「くぅっ、どうやらJジュエルとGストーンが相乗りしてるせいか、アタシたちは他の連中より耐性があったみたいだね。まあ、勇気の強さじゃ負ける気はしないけどね」
「凱! 急げ! いまのうちに次元の破れ目を塞ぐのだ!」

 凱は迷わなかった。ジェネシックの全力をもって、四肢にしがみつく仲間たちを振りほどく。躊躇している余裕はない。眼前でトリプルゼロを阻み続けているキングジェイダーの全身も、オレンジ色の輝きに呑みこまれつつある。時間はない。全てが無に帰す前に、やりとげねばならない。

「ハイパァァァモードッ!」

 ジェネシックの後頭部にはサイボーグ凱にも技術転用された、エネルギーアキュメーターがある。当時の凱の生命を繋ぎとめたサイボーグ・ボディの構造は、ジェネシックのデータをもとに設計されたのだ。髪の毛状のエネルギーアキュメーターを束ね、一気に直列パワーに移行する。瞬間最大出力を向上させるこのモードチェンジは、ジェネシックにおいても単独での実行が可能だった。
 金色の輝きに包まれたジェネシックが、ふたたび次元の破れ目にギャレオリア・ロードをねじ込んだ。

「うおおおおおおっ!」

 地球に帰れず、仲間たちを失い、自分も浸食されるであろう──それらの想いのすべてが、凱の脳裏から吹き飛んだ。
 いまはただ、力を振り絞る。ギャレオリア・ロードにすべてを込めて!
 薄れ行く意識のなか、凱は感じていた。おのが肉体の延長であるジェネシックの全身に、トリプルゼロが浸食してくる異様な感触を──
 そして、走馬灯のように回想される、三重連太陽系に送られてきた謎の声――

(……エヴォリュダーよ……)

 凱の記憶の奥底で、名も知らぬソムニウム<ラミア>が送ってきたその声が、木霊のように鳴り響いていた――

(……今こそ……命を超えるのだ………)

 

 西暦二〇一〇年八月、地球は未曾有の大災害<インビジブル・バースト>に直面した。木星近傍から放たれた強電磁場の源が、次元の破れ目から放出されたわずかなトリプルゼロと呼ばれる超エネルギーであったことを、この時の人類は知るよしもない。
 人類がふたたびトリプルゼロの脅威に直面するのは、それから六年後のことである。その六年間は、猶予期間であったのかもしれない。オレンジサイトと呼ばれる時空の果てで、勇者たちが死闘の末に獲得したわずかな、そして貴重な時間であった。

(凱、目覚めなさい……)
(目覚めるんだ、僕たちの息子よ……)

「父さん、母さん──」

 自分が幼子に戻ったような錯覚に、獅子王凱はとらわれていた。そう感じるのも無理はない。無力な子供だった頃のように、凱は両親に包まれていたのだ。
 そこはオレンジサイトではなかった。とはいえ、完全に次元の破れ目から脱したわけでもない狭間の世界。存在と虚無のどちらともいえない場に漂うエヴォリュダーの肉体。その身体を包み込むように、精神生命体である麗雄と絆の意思が漂う。

「!……ふたりとも、俺を守っていてくれたのか」

 呆然とつぶやく凱の声に、両親が答える。

(いや、お前を救ったのは……ギャレオンだよ)
(そう、トリプルゼロに浸食される寸前に、ギャレオンが逃してくれたのです)
「フュージョンアウトで……そうだったのか。じゃあ、ギャレオンは……」

 長い間、ともに戦い続けてきたパートナーでもある機械仕掛けの獅子。その姿を探し求めた凱は、異様な存在に気がついた。
 猛獣の顔貌を胴体にいだき、鋭い爪の四肢に、長い総髪をたたえた巨人の姿。だが、オレンジ色のオーラに包まれたそれは、もはや凱の知る勇者王ではなかった。

(凱、あれはもはやジェネシック・ガオガイガーではない)
「トリプルゼロに浸食されちまったのか……!」
(ジェネシックオーラには、トリプルゼロを起源としたテクノロジーが使われていたのだろう。浸食されたジェネシックは、それがゆえに、もっとも効率よく、もっとも強大に、もっとも多くの能力を具現化する、トリプルゼロにもっとも適したインターフェースとなったのだ。他の追随を許さない最上位の存在。宇宙の摂理を体現するために行動する<覇界の眷族>──まさにその<王>として……)

「王──」

 その言葉を口にしたとき、凱の全身に戦慄が走った。
 あれこそ、次元空間を破壊する革命を起こす王──
 あれこそ、命あるすべてのモノを光に変える王──
 そう、あれこそが、これから獅子王凱が立ち向かうべき王──

 覇界の王 降臨 ―――――

「──ギャレオンが、ジェネシックが、そんなものに……」

 視界にそびえる巨大な覇界王は、凱の存在を気にもとめていないようだ。
 次元の先に存在する大切な何かを、両の掌で護っているかのように、胸の前であわせている。

(凱──トリプルゼロはもう一度、通路を開こうとしている……)
(あなたに塞がれた次元の破れ目、そのほんのわずかなほつれ・・・からワームホールを開こうとしているのです……)

「ワームホールを……そんなことが実現されたら……」

 知的生命体と機械文明の殲滅、そして宇宙そのものを無に帰すことこそが宇宙の摂理であるならば、ありとあらゆる物質をすべて光に変えてしまうのが、宇宙の力学。凱の意識に、その理解が浮かびあがってきた。

「どうやってそれを防いだらいいんだ、父さん……」

 まだ勇気は砕けてはいない。だが、仲間たちもジェネシックも失われた自分に、なにができるというのか──

ときがくる、すぐそこに……)
「刻が──何の刻がくるんだ、父さん──」
(お前が信じてきた誓いの刻だよ……)
「俺が信じてきた──」

 父の言葉は、凱の心を奮い立たせた。ソール11遊星主との戦いで、一度は信じてきたものを信じられなくなり、凱は敗北した。そこから本当の勇気ある戦いがはじまったのだ。もう二度と、負けたりはしない。

「──刻が来る」
(だいじょうぶです、凱。あなたにはまだ仲間がいます)
「仲間が?……でも、母さん。みんなは、もう……」
(──思い出してごらんなさい……彼らもきっと、力を貸してくれます)
(彼らも凱と……その勇気とともに戦ってくれる──)
「勇気と……ともに……」
(勇気を強く信じることを忘れないで──)
(勇気こそが侵食を撥ね退ける唯一の力──)

 父と母の意識に、凱は何かに気付いたように大きくうなずいた。

「俺は信じる……勇気とともに……その刻を」

 

 ──西暦二〇一六年。
 かくして、ついに覇界王は門を開いた。
 木星を圧縮したブラックホール──その特異点をワームホールとして、オレンジサイトとつながる次元ゲートを発生させたのだ。
 そしてその瞬間を、その刻を、狭間から解放された凱は見逃さなかった。一筋の輝きが接近する光景を。懐かしい機体──幻影の翼<ファントムガオー>を、仲間たちが送ってくれたのだ。
 獅子王凱は声を張り上げ歓喜した。

「勇気をっ! この勇気のときが来るのを信じていたぜっ!!!」

 

(number.00:C・完 number.04へつづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


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