覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第22回】
number.04 兆-KIZASI- 二〇一七年(1)
1
「護……ほんとうに護、なのか──」
獅子王凱は、思わず──といった口調でつぶやいた。
各所を大きく破損させたディビジョン・トレインの前方部、ミズハのカーゴルームを臨時の着艦デッキに仕立てた区画の一角においてである。フュージョンアウトする設備が整っていないため、二体の勇者王は並んで片膝をついた状態で駐機している。与圧が完了するとともに、GGG隊員たちが駆けつけてきた。彼らの前でガオファイガーから降りてきた凱は、隣のガオガイゴーから降りてきた青年たち──そのひとりを見て、呆気にとられたのだ。
「ガッツィ・グローバル・ガード機動部隊隊長・天海護です。ガッツィ・ギャラクシー・ガード機動部隊隊長・獅子王凱さん! 太陽系へのご帰還を歓迎します!」
護は姿勢を正して、凱に告げた。そして──
「うわっはー、ちゃんと言えた!……最初の挨拶くらいは、しっかりしたかったんだ」
幼い頃の面影を残した瞳に、涙が浮かぶ。そんな様子を見て、凱のうちにあった戸惑いは吹き飛んだ。
「まったく、機動部隊隊長がベソかいてちゃ、みっともないぜ……」
「そんなこと言うなら、凱兄ちゃんだって!」
「おっと……」
思わず、凱は右拳で自分の目頭をぬぐった。そこには熱い涙滴が拭き取られている。
「……お帰りなさい、凱兄ちゃん!」
「ああ、ただいま! 護!」
ふたりは涙のにじんだ笑顔で、互いの両肩に手を置き合った。最初、凱は護の身体を抱き上げようとしたのだが、目の前にいるのは記憶のなかにある幼い少年ではない。凱本人とほぼ同年代の二十歳の青年なのだ。
実のところ、三重連太陽系でESミサイルによってふたりの子供たちを送り出したのは、凱の主観時間でほんの数日前のことでしかない。それ以前に、十一歳の護と行動をともにしたのもわずかな時間でしかなく、凱の記憶のうちにある彼の姿は、いまでも原種大戦時の九歳のままだった。
護の側にとっても、流れた時間の分、歳を重ねた“凱兄ちゃん”と再会することになるだろう……という思い込みがあったため、戸惑いは少なくない。
「凱兄ちゃん……ぜんぜん変わってないんだね」
「護は変わりすぎだろ、まったく!」
なんだかぎこちなさげに喜び合うふたりを、GGG隊員たちも駆け寄り、取り囲んだ。凱にとっては見慣れない顔も多いのだが、彼らの側では勇者を知らぬ者などいない。旧GGGが旅立った後に入隊した者も、その大半が凱たちの活躍に憧れて、地球防衛を志したのだ。古い仲間も新しい仲間も、みな感極まった表情で、ふたりの機動部隊隊長をもみくちゃにする。
そんな輪のなかで、壁際を見た凱と目が合ったのは、戒道幾巳だ。彼とて、地球から三重連太陽系までの旅を経て、凱たちとの間に絆を築いている。だが、凱と護の再会に割り込むまいと考えたのだろうか。離れたところで、無言で頭を下げた。その姿を見て、凱は思う。この青年にも以前と変わらぬ部分があり、また成長した部分があり、護と同じように時は流れたのだ、と。
そして、戒道の隣ではブロンドヘアーの少女がボロボロと涙をこぼしていた。
「君は──」
少女に目を留めた凱の肩を、阿嘉松が軽く叩く。
「声かけてやってくれ。さっきの戦い、あいつが一番の功労者だ」
常ならば声は大きく、肩を叩く力も必要以上に大きい、それが現在のGGG長官だ。だが、この時は声も力も優しいものだった。
「あいつがプロトタイプ・ファントムガオーを準備しておいたんだ。お前さんのためにな──」
「アルエット……」
自分の名を呼ばれた少女は、びくっと肩を震わせてから、面を上げた。その大きな瞳にはいっぱいの涙があふれている。自然と人の波が分かれ、凱は彼女の前に歩み寄った。
「おっきくなったな……」
「もう、それは子供への挨拶! ダームには……キレイになったな、でしょ」
こぼれる涙をぬぐおうともせず、アルエットは微笑んだ。
「そ、そういうものか……」
「そういうものなんだ……」
期せずして、凱とその後ろで会話を聞いていた護が、そっくりな感想をもらす。顔を見合わせたふたりは同時に吹き出した。
(護くん、よかったね……)
恋人が心の底から喜んでいる光景を遠目に見て、初野華も静かに涙を拭い、幸せな気持ちに浸っていた。凱と護の笑いは周囲のGGG隊員たちにも伝播していき、殺風景なカーゴルームが最高のパーティ会場であるかのような空気に包まれる。
獅子王凱──彼が旅立った場所はここではない。だが、たしかにここは、彼が戻るべき所だった。
2
木星圏での活動をひとまず終えたディビジョン・トレインは、無人探査プローブ群を設置して、地球へ帰還することになった。覇界王の活動がひとまず終息したことで強電磁場が消滅、観測データを送信することが可能になったからだ。
宙龍のようにトリプルゼロに浸食されたプローブがゼロロボ化して、欺瞞情報を送ってくる可能性は否定できない。だが、複数のプローブに互いを監視させることで、早期対処が可能であろうと楊博士が判断したのである。
しかし、艦体各所を破損したディビジョン・トレインは、往路のような高加速で帰還することはできない。艦体構造物が加速に耐えられるか不明であったからだ。
そのため、先の戦闘で負傷した隊員たちは、小型高速艇フライD5をミラーカタパルトで射出、先行して帰還させることになった。
「頼んだぞ、参謀」
「オウ、まかせてネ! 僕がいれば地球まで安心安全ヨ!」
阿嘉松から帰還組の指揮を任されたプリックル参謀は、フライD5の座席に向かいながら胸をはって応えた。
「お先に失礼します。諜報部のオペレーターシートが空席になってしまい、申し訳ありません」
すまなそうに居残り組へ頭を下げたのは、諜報部次席オペレーターのカムイである。ディビジョン・トレインがトリプルゼロのオーラ放射を受けた際、シートから放り出されて右肩を強打、脱臼していたのである。
「責任があるとしたら腰痛で木星行きを回避した首席の山じいさんの方ですカムイさんは気にする必要ありませんと私は思いますです」
ずる休みした最上級生を非難する下級生のような口調は、タマラのものだ。彼女は薬学のエキスパートであり、医療スタッフのサポートをするため、フライD5に乗り込むことになった。彼女を欠いたとしても、ディビジョン・トレインには研究部首席オペレーターである火乃紀が残るため、オペレートに支障はない。
その火乃紀は、フライD5内の狭い個室でマニージマシンの最終調整に追われていた。
「オッケー、あとは全自動で面倒みてくれるから安心して」
言葉を投げかけられた相手は、マニージマシンに身体を預けたまま返事をすることもない。一時はリミピッドチャンネルから捻り出すように肉声を発していたが、今は静かに眠り続けている。成長が止まった少女の姿のままの、その白く透きとおるような頬を、火乃紀はやさしく撫でた。
「紗孔羅……私も一緒に行きたいけど、残ってオペレーションしなきゃいけないから……。もし、地球に帰って蛍ちゃんに会ったら、私も後から帰るから心配しないで、って言っておいてね」
反応のない少女に別れを告げ、火乃紀は部屋を後にする。
「あとはタマラが面倒みてくれるから…じゃあね……」
最後に振り返り、もう一言。
「ベターマンに…伝言してくれて………ありがと」
紗孔羅の意識がどこにあるのか、今は誰にも分からなかった。
ミラーカタパルトから射出されるフライD5を、メンテナンスのためディビジョン・トレイン内の格納庫ハンガーに固定されている月龍、日龍、翔竜らが見送る。
「ご無事で!」
と、手を振る翔竜は、はっと気付いたように隣に向き直る。
「あっ、サイズ的には一緒に乗って行っても良かったんじゃないですか? ビッグポルコートさん」
「そうだな、少年。今はガンマシンとは分離しているからね。だから、ただのポルコートだ」
「おっと……そうでした!」
たしかに今のポルコートは、三身一体のガンシェパーとガンホークから分離された状態でメンテナンスを受けていた。ロボジュースを飲みながらくつろいでいた月龍と日龍も、翔竜とポルコートの会話に少し微笑んでいるようだった。
「みんな、気をつけてね……」
高加速射出されていくフライD5を、ひと気のない展望室から静かに見送る天海護。そのかたわらには、その機に搭乗することも検討していた初野華がいる。彼女はガオガイゴーのオペレートの際、はりきりすぎて両手首に軽いねんざを負ってしまったのだ。
「ほんとに……華ちゃんも先に戻らなくて良かったの?」
「うん……だって、護くんと離ればなれになるの……イヤだったんだもん」
そう応えると、華は護の肩に自分の頭を乗せた。護もごく自然な所作で大切な人の肩を抱く。ふたりの他に誰もいない展望室。このくらいのことは、もう顔を赤らめたりすることもなく、自然にできるようになった。
だが、よい雰囲気であるが故に、護はそれ以上の追求をすることを忘れた。なぜ、初野華がフライD5に搭乗することをやめたのか──その理由をもっときちんと聞いておくべきだった、天海護は数か月後にそのことで激しく心を揺さぶられることになる。
3
いずれにせよ、約一か月に伸びた帰還の道程は、ディビジョン・トレインの乗員の大半にとって、退屈な時間とはならなかった。獅子王凱の口から、三重連太陽系で起きた出来事の真実を聞くことができたのだから。
だが、それは楽しい話題ばかり──ということにはならなかった。
「そうか……じゃあやっぱり、親父やルネはトリプルゼロに取り込まれちまったってことか……」
「ええ…おそらく……すみません、滋さん」
ミズハの会議室で、知る限りの事情を語り終えた凱が、従兄である阿嘉松滋に向かって頭を下げた。凱にとって叔父と従妹である雷牙とルネは、阿嘉松にとって実父と異母妹にあたる。
「いや、そんな顔すんじゃねよ。お前さんだって、大切な人がとっ捕まってるようなもんだろ。つれえのはお互い様だ」
それは凱の心理的負担を取り除こうという阿嘉松の気遣いだったのだが、気楽さをもたらすような言葉ではなかった。その言葉の通り、凱にとってはもっとも大切な存在である卯都木命もまた、行方不明のままなのだから。
この時、会議室にいるのは凱と阿嘉松の他に、機動部隊を率いる天海護と戒道幾巳、スーパーバイザーの楊龍里の五人。アーチン・プリックル参謀は先行帰還組の指揮をとって、地球へ向かったため、現状におけるGGG首脳部はこれで全員である。
凱の言葉で旧GGGがたどった経緯を知った一同のなかで、最初に疑問を口にしたのは戒道である。
「ひとつだけ確認したい事がある。オレンジサイトで遭遇したという凱さんのご両親、精神生命体と言われている麗雄博士と絆夫人。彼らはトリプルゼロにより変質していなかったのだろうか」
凱にとって身近な関係にある護や阿嘉松が、口にしにくかった疑問だ。
「身内としての直感にすぎないが、父さんも母さんも俺の記憶にあるふたりと何も変わらなかった。おそらくトリプルゼロに取り込まれてはいないだろう。現に、ふたりのアドバイスで、俺はここに戻ってくることができて、ワームホールを閉じることができたんだ」
「……私もその見解に同意だな」
「楊博士……」
凱は意外そうな顔で、楊を見た。実のところ、凱が彼と対面したのは原種大戦以来のことになる。その時の楊はかなり傲岸な態度で凱に接しており、あまり好意的といえる印象は持てずにいたのだ。
「そう怪訝そうな顔をしないでくれ。私とて君の言葉の前半……肉親が故の直感というものを信じたいのだよ。後半の指摘も論理的に正しい」
楊は穏やかな笑みを浮かべて、そう言った。
「そして……トリプルゼロが与える影響について、私の推測とも一致する」
「推測……なにか、わかったことがあるんですか?」
護の問いに、楊はうなずき、説明をはじめた。
「ああ、宙龍のログ解析で私はある結論に到達したのだ」
かつてのジュピロス・ファイヴ制御コンピューター<ユピトス>と同様に、宙龍は“自由な知性”を獲得したのであって、トリプルゼロに直接支配されたわけではない。それが到達した結論であることを、楊は朗々と語った。
「彼らは人間が与えた三原則という枷から解放され、新たに獲得した“本能”に従ったのだよ。それが宙龍の場合、“宇宙の摂理に従わねばならない”というトリプルゼロの力学に準じた行動だったのだろう」
「宇宙の摂理だぁ? いったいどういう意味だ」
「それこそが、問題の核心なのだよ」
阿嘉松の問いに、本来の学者然とした口調で楊が説明をはじめる。
「つまり、宇宙というものはオレンジサイトに渦巻いていたエネルギーが膨張することで開闢し、膨張が限界に達したところで終焉に向かっていく。そのサイクルは力学に従ったものでしかなく、神の意志だの超越的存在だのが関与しているわけではない」
「たしかに……その認識は、俺が父さんから受け取った意識と同じです」
(獅子王麗雄博士……肉体を失ってなお、偉大な探求者であり続けるか……)
楊は小さな声でつぶやいた。原種大戦時に凱と対面した時、その隣には麗雄もまた居合わせたのだ。当時は世界十大頭脳と呼ばれる高名な科学者に対して複雑な思いがあり、挑発的な態度をとってしまった。だが、GGGスーパーバイザーとして、当時の麗雄と同じ立場にたった今ならば、その功績を素直に認められる。
(ギャレオンのブラックボックスから情報を得て、わずか二年で地球の防衛体制を整えたのだから、その頭脳はなんと偉大なことか……)
そして精神生命体となった今でも、獅子王麗雄は宇宙の摂理を解き明かし、地球人類を救うためにその叡智を活かし続けているのだ。
「獅子王麗雄博士から受け取ったという認識の通り、我々知的生命体の営みは宇宙の摂理に反するものなのだろう。現にソール11遊星主の三重連太陽系再生を目論んだ行為は、宇宙そのものの反発を招いたと言って良い」
「まあ、俺たち地球人からしたら、たまらん行為だったが、奴らは奴らで必死に生きるためだったんだろうしなぁ」
自分の有限会社を活かすためだったら、なんだってやってみせる──そんな気概に燃えていた若い頃を思い出して、阿嘉松が同意する。
「じゃあ、物質である体を持ったガッツィ・ギャラクシー・ガードのみんなは……」
護が悲しそうな顔で、楊に問いかける。楊はあえて感情を押し殺し、冷静に推測を告げる。
「宙龍が人間の与えた枷から解き放たれたように、おそらく彼らは意識を失い、宇宙の摂理を具現化する本能に従っている──ということだろう」
「つまり、宇宙はゼロへ還らなければならない──ということか」
戒道が口にしたのは、宙龍が遺した言葉である。それは宇宙を消滅させるという意味ではない。ゼロとは、宇宙という閉鎖形におけるエネルギー収支のバランスがとれている状態だ。知的生命体の活動はそのバランスを崩そうとする。宇宙の摂理を具現化する本能──それは創造的な営為を否定することに他ならない。
「Jやトモロがそんなものに……宇宙の摂理とやらに唯々諾々と従うのは、彼らの生き方じゃない」
戒道は続ける。
「トリプルゼロの力学とやらが存在するとして、それに対してもがき足掻くことこそが、戦士としての彼らの生き方だ」
地球とはなんの縁もない戦士たちが、GGGとともにトリプルゼロに抗った理由──それが、他ならぬ自分のためであることが、戒道自身にはわかっている。ならば、同じJジュエルで結ばれた仲間として、自分がやるべきことはひとつだ。
(Jもトモロも、地球のために…僕のために…命を懸けてくれた……だから僕は絶対に、彼らを取り戻してみせる……!)
「GGGのみんなは、俺とは別にワームホールを通過したようだが……」
「ああ、その様子は記録されている。誰もその瞬間に、気づく余裕はなかったが」
凱の証言に従って、覇界王との戦闘中の記録を検証した楊は、謎のエネルギー体が地球へ向かう軌道で飛翔していた事実をつきとめていた。
「目的は、宇宙をゼロに還すこと──知的生命体の営みを終息させるってわけか。あいつらにそんなことさせるわけにゃいかねえな」
「ええ、僕たちの手で助け出しましょう……!」
それぞれの決意を語る阿嘉松と護。
「ありがとう……滋さん、護。ガッツィ・グローバル・ガードの力を貸してくれ」
だが、その言葉を聞いた護は、戸惑いの表情を浮かべた。そして、意を決したように切り出す。
「あの……凱兄ちゃんにお願いしたいことがあるんだ。ううん、そうじゃない……みんなにも聞いてほしいことが──」
「護の頼みだったら、なんだって聞くけど……どうしたんだ?」
「凱兄ちゃんに、ガッツィ・グローバル・ガードの機動部隊隊長になってほしいんだ」
護の表情から、それがこの場での思いつきでないことは明らかだった。凱の帰還からすでに一週間あまり。その間、考え抜いてくだした結論である。
だが、一も二もなく引き受けてくれるであろうと思っていた凱の表情は、護が予想したそれとは異なっていた。なにか気むずかしそうな顔、いや──
(あれ、凱兄ちゃん、怒ってる……?)
表情にふさわしい固い口調で、凱は即答した。
「護……悪い。なんだって聞くと言ったが、その頼みは聞けない」
「ええっ、なんで!? GGGの機動部隊隊長は、凱兄ちゃんが一番ふさわしいのに!」
「別に俺はふさわしいとか、ふさわしくないとか、そういう理由で戦ってきたわけじゃない。EI-01が現れたあの頃の地球で、Gストーンの力を与えられた者が俺だけだったからだ」
護は胸をつかれたような気分になった。
(そうだ……もともと凱兄ちゃんは宇宙飛行士を目指してた人だった。それが最初のフライトで事故にあって、サイボーグになって──)
ゾンダーと戦う力がある──だから戦う。獅子王凱は自分の運命から逃げたことはなかった。だが、その運命は選び取ったものではなく、凱が望まずして得たものだったのだ。
そして、その境遇は護にとっても同じだった。緑の星の力を受け継ぐ者としての生き方から逃げるつもりはなかったが、それは護が望んで得たものではない。
凱の気持ちは護にとっても他人事ではなく、理解できる。
「護……でも今は俺だけじゃなく、お前がいる。よく考えてみろ、俺が隊長として戦ってきた時間よりも、お前が隊長として地球を護っていた時間の方が長いんだぞ」
この一週間、凱と護は互いのことをたっぷりと語り合っていた。とはいっても、ふたりの一別以来、凱が過ごした時間は数日でしかない。護の九年間の方がずっと、語るべき内容を多くふくんでいる。
苦難に満ちたGGG再建計画、バイオネットとの抗争、そしてインビジブル・バーストからの復興──それらの波乱のなか、天海護は機動部隊隊長として最前線に立ち続けたのだ。その期間はすでに、凱がゾンダーや原種、遊星主と戦っていた時間よりも長い。
「凱さんの言う通りだ、護。ふさわしいというのなら、君だって同じくらいGGG機動部隊隊長にふさわしい。僕が誰よりも知っている」
副隊長が静かに断言した。その言葉を肯定するように、長官とスーパーバイザーもうなずいている。
「幾巳……みんな……」
護は一同の顔を見渡した。そして、静かに深呼吸してから、新たな決意を口にする。
「……わかりました。僕、これからも機動部隊隊長として頑張ります。地球を護って、ガッツィ・ギャラクシー・ガードのみんなを助け出すまで!」
「どうやら結論は出たようだな!」
阿嘉松が大きな手で、護の背を張り飛ばす。
「うっわっっ…はぁああっっ」
「まあ、誰がなんと言おうとも、長官の俺が承認しなきゃ人事も通らねえんだがなっ! があっはっはっはっ!」
あまりの痛みに咳き込んでいる護の隣で、阿嘉松が豪快に笑い飛ばした。
一方、その頃──
ディビジョン・トレインよりも後方の惑星間空間に、異形の物体が漂っていた。
それは覇界王ジェネシックとの戦いにおいて、活動限界を超えた合体ベターマンである。その巨体はいまにも砂となって崩れそうな繊維石化状態に変質していた。ヒトに似た姿に戻った七体のソムニウム達は、その内部でそれぞれに繭を形成し、能力回復のための眠りについている。唯一、成人女性体ユーヤだけが、流体物質を胸のペクトフォレースから放出し続け、あたかも石の方舟のように惑星間航行を制御していた。
「…ラミア…ラミア……」
突如、リミピッドチャンネルを介して、エマージェンシーコールのような意思をユーヤが発した。
「……………ユーヤ……来たのか?」
繭の中で薄く目覚めたラミアの意思が応える。
「来た……暁の霊気……」
ユーヤの呼びかけに応えるのが精いっぱいのラミアの意思。そしてその身体は、未だ動ける状態になかった。
「…まだだ……だが…我らは滅ぼさねばならぬ………この次元が…我らが……滅ぼされる前に………」
ラミアは冷静だった。それは、彼らにとって、暁の霊気なるトリプルゼロよりも他に、さらに憂える存在があるかのような意味合いを帯びていた。やがて、ゆっくりと真っ赤な眼を見開いたラミアは、額に十字光を強く輝かせた。
「……元凶なりし者!!」
(つづく)
著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ
次回4月17日(月)更新予定