覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第23回】

覇界王~ガオガイガー対ベターマン~

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number.04 兆-KIZASI- 二〇一七年(2)

 

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 明けて二〇一七年一月──
 低加速推進による一か月余りの航行を経て、ディビジョン・トレインはGGGオービットベースへ帰還した。それでも原種大戦時、木星決戦からの帰還に通常航行で三か月を要したことを思えば、レプトントラベラーの恩恵は非常に大きいと言える。
 ミズハの艦橋で、蒼い地球を背景にしたオービットベースを目にした獅子王凱のうちに、熱いものがこみ上げる。ディビジョンⅡ・万能力作驚愕艦<カナヤゴ>のみがドッキングしている宇宙ステーションの光景は、かつて凱たちが旅立った時の姿そのままだった。

みこと……本当だったら、一緒に帰ってくるはずだったのにな……)

 今はいない隣にいるべきはずの恋人に向かって、胸中で語りかける。だが、もうそのことを悔やんだり悲しんだりはしていない。これから、取り戻すための戦いがはじまるのだから──

 

 地球への帰還途上、トリプルゼロ──覇界の眷族は目立った動きを見せなかった。その目的が、知的生命体の活動を終息させることである以上、地球が見逃されるはずはない。無論、ディビジョン・トレインそのものも狙われるだろう。そうした予測のもと、オービットベースとディビジョン・トレインの間で緊密な情報交換が行われ、厳戒体制が敷かれていた。だが予想に反して、覇界の眷族は動きを見せなかった。そうしているうちに、凱たちはついに帰還を遂げたのである。

「ディビジョン・トレイン、分離開始!」
「ウルテクエンジン、最小出力にて微速前進──」
「ドッキング制御、オービットベースへ移行します!」

 半壊したディビジョン・トレインは、ミズハ、ワダツミ、ヤマツミの三艦に分離変形して、オービットベースへドッキングしていく。接舷完了後、ブランチオーダールームはミズハ艦内から母基地内部へと専用軌条レールによって移動した。司令部は本来の定位置であるメインオーダールーム部へは組み込まれず、阿嘉松長官以下の首脳部を乗せたまま、ビッグオーダールームに運ばれる。そして、一同の眼前に巨大な空間が開けた直後、大合唱が響いた。

「お帰り! 勇者・凱!」

 戸惑う凱の眼前に、数百人の笑顔があった。本来なら、勇者ロボたちが作戦会議を行うための巨大空間に、大勢のGGG隊員たちが駆けつけていたのである。もちろん、保守点検を行うスタッフや、常時持ち場を離れられない隊員もいるのだが、可能な限りのGGG隊員がそこに集まっていた。

「みんな……」

 オービットベースの常駐スタッフには、凱たちが旅立つ前から勤務している者も少なくない。彼らこそ、まさにこの場から旅立ちを見送った顔ぶれである。同じ高さのフロアに殺到してくる昔なじみたちによって、凱はもみくちゃにされた。

「おいおい、そんなに大勢でのっかるなよ、いててっやめろ、髪の毛ひっぱるなって」
「うわっはー! 凱兄ちゃん! みんなも待ってたんだよ!」

 心のどこかに、いまだ未帰還の仲間たちを思う気持ちがあったのだろう──凱の表情には常に憂いがあった。だが、いまこの瞬間だけは、心の底から再会を喜んでいるように見える。天海護には、それが嬉しかった。
 護の近くに行こうとする、奥ゆかしくも嬉しそうな華。やや離れた場所で薄く笑み見ている戒道。その背後から声を掛けようと近づくアルエット。みんな、湧いてきたGGG隊員たちに取り囲まれ、にこやかな声で矢継ぎ早に話しかけられる。
 少し遅れて、月龍、日龍、翔竜、ポルコートらが、メンテ用の特製ベンチシートに固定された状態でレール移動してきた。

乾杯サンテ!」

 ポルコートが手にした特殊配合オイルのロボジュースボトルをかかげる。

「やっぱりビッグオーダールームが一番ですね」

 帰宅した歓びを噛みしめる翔竜。

「早くお化粧直ししてほしいものですわ」
「また再コーティングでも要請するつもりか?」
「ええ、私の光り輝く装甲には、全身エステが欠かせないもの!」

 美容に関心の深い日龍が、そちら方面に興味が薄い月龍に胸を張る。
 巨大なビッグオーダールームのそこかしこに、クリスマスと正月の飾り付けを流用したオーナメントが施されており、あたかもパーティ会場のように華やかである。
 さすがの阿嘉松も呆れたような声をあげる。

「おい、参謀よ。こりゃやり過ぎじゃねえか」
「ノーノー、おめでたいことにやりすぎはないネ! みんな凱との再会、楽しみにしてたんダヨ!」

 高速艇<フライD5>での先行帰還を指揮したプリックル参謀は、“勇者の帰還”を一層ドラマチックに語ってまわっていたらしい。出迎えた一行の熱狂は、阿嘉松らの予想以上に盛り上がっていた。負傷者たちにも重体の者はいなかったため、みな後続帰還組とともにこの場に集まっている。火乃紀はタマラやカムイの姿を見つけて、駆け寄った。

「タマラ、お疲れ!」
「ナガタビごくろうさまおつかれさまですーヒノキさん」
「カムイさんも脱臼した肩、調子よさそうね」
「ああ、現場での応急処置が適切だったおかげでね」

 タマラの隣で、カムイは右肩を軽く上げてみせた。フライD5に搭乗する時は三角巾を使っていたが、もうそれも外れている。覇界王との決戦のなかで彼に処置を施したのは火乃紀だった。

「脱臼は癖になりやすいから、リハビリをサボっちゃダメですよ!」
「はいはい、ドクターの仰せのままに」

 カムイと火乃紀の軽口に、普段はあまり表情を変えないタマラもわずかに微笑む。

「おおい! タマラぁ、紗孔羅の様子はどうだぁ?」
「長官ダイジョウブです眠ったままですがダイジョウブです紗孔羅さんの容態は安定しているのでダイジョウブです」

 割って入ってくる阿嘉松にテキパキと頼もしく応えるタマラ。阿嘉松の顔もだいぶほころび、和やかな空気が全員に伝わっていった。
 ところが、そんな空気を最初に醸し出した人物が、自らの叫びで台無しにする。

「アアアーッ、忘れてたヨ! 凱に会うためにVIPがやってきてたんダッタ!」
「え? 俺に? 重要人物が……?」
「イエース、長官室で待ってもらってるからハリアップ急いで!」

 

 プリックル参謀によって強引に人の輪の中心から引きずり出された凱は、長官室へ連れて行かれた。

「ふふん、留守中に俺の部屋を勝手に使ってたVIPとやらに、文句言わんとな!」

 と、鼻息荒い阿嘉松長官。凱と離れがたい気持ちでついてきた護。ふたりが同行者である。先頭に立っていた阿嘉松は、自分の部屋に挨拶などいるものか……という勢いで、長官室の扉を開けた。

「なんだい……ノックもなしに失礼だねぇ」

 叫びでも大声でもない、だが深い威厳を感じさせる老婆の声。お偉いさんに怒鳴られようと知ったことか、という気分でいた阿嘉松も、思わず姿勢を正した。

「は、はい、すんませんッ!」

 阿嘉松に続いて入室してきた護と凱も、その人物とは面識があった。

「ああ、あなたは……!」
「アプロヴァール事務総長!」

 凱はその人物の肩書きを間違えた。彼が地球圏に戻ってくるまでの間に、ロゼ・アプロヴァールは、国連事務総長の職を退いていたのである。

 

 長官室には立派な応接セットがあり、元事務総長の対面に凱、阿嘉松、プリックルが座った。運ばれてきた人数分のコーヒーを受け取った護が、それぞれの前に置いていく。

「ありがとう、護。お前さんもお座り」

 GGG初代長官や現長官を萎縮させるほどの威厳の持ち主が、幼さを残した青年に微笑みかける。もうかなりの高齢であるはずだが、その口調は、はきはきとしっかりしている。

(こんな優しいお婆さんなのに、なんでみんなオドオドしてるんだろう……)

 彼女の隣に座りながら、護は不思議に感じていた。実のところ、息子にとっては怖い存在でも、孫に対してはこの上もなく甘い──そんな心理なのかもしれないが、明らかに護や戒道に向ける表情は、大河や阿嘉松へのそれとは異なるのだった。

「それでアプロヴァール先代事務総長……」
「いやだねぇ凱、そんな長ったらしい呼び方やめとくれ。あんただって舌かみたくはないだろう。よかったら、ロゼと呼んでおくれ」
「わかりました、ロゼさん」
「うわっはー、その呼び方すっごく素敵だね!」

 隣で聞いていた阿嘉松やプリックルはその呼び方に微妙な表情をしてみせたのだが、凱や護は自然に受け入れたらしい。そんな軽い挨拶を終えたところで、“ロゼさん”は深々と頭を下げた。

「獅子王凱……ほんとうにすまなかった」
「ロゼさん、顔を上げてください。いったい何故……」
「十年前、私たち国連評議会はお前さんたちに汚名を着せてしまった。原種大戦で地球を救った勇者たちに、叛逆者という汚名を……」

 ロゼが語ったのは事実だった。当時、八木沼長官時代のGGGが、宇宙存亡の危険性に対して、三重連太陽系への出動を具申していた。だが、戒道幾巳の証言以外に確たる根拠はなく、その選択は防衛組織としての分を逸脱するとの声が評議会の大勢を占めた。その結果、初代長官である大河の指揮のもと、GGGは独自の判断で発進したのである。
 GGGの行動は叛乱とみなされ、彼らは地球圏からの追放処分を受けた。それが完全に撤回されたのは、護と戒道が帰還してからさらに二年以上を経てのことである。GGG発進後、実際に全宇宙規模の危機が訪れ、それが終息したという事実があってさえ、汚名がそそがれるにはそれだけの時間を要したのだ。

「俺たちは汚名を着せられたなんて、思ってません。あの時、“追放処分”という形で、評議会は俺たちに行動の自由を与えてくれた……大河長官も俺たちもみんな、それを知っています」

 凱が言う通りだった。当時の事務総長であるロゼの黙認がなければ、ゴルディオンクラッシャーの発動キイが大河幸太郎とスワン・ホワイトの手に委ねられることはなかっただろう。だが──

「………」

 ロゼは胸のうちにこみ上げてくるものに、言葉を詰まらせた。凱の言葉はあまりにも善人すぎる、そう感じたのだ。
 たしかに、そういう形式でしか、GGGを自由に行動させることはできなかった。だが、それは主に反対派を黙らせるための方便であり、不当な仕打ちであったことに変わりはない。自分の任期が終わる前に処分を撤回できたとはいえ、当のGGGが帰還をなしえていない以上、ただの自己満足にすぎないのではないだろうか──そういう思いがぬぐい去れずにいたのだ。
 だが、ロゼは涙をこぼさなかった。泣いてみせたところで、楽になるのは自分だけだ。だったら、自分は自分にふさわしい役どころを演じるべきと、気持ちを落ちつかせた。

「おやそうかい、そう言ってもらえて助かったよ」

 顔をあげたロゼのふてぶてしい表情を見て、阿嘉松が大仰に驚き、小声で愚痴る。

「なんだ、しおらしいとこもあるのかと思ったら、まったく落ち込んでなんかいねえじゃねえか…この婆さん」
「きこえてるよ、しげぼん!」

 阿嘉松の援護射撃に感謝しつつ、ロゼは怒鳴り飛ばした。

「ひっっっ……さーせん…」

 もっとも、それがロゼの意を汲んだ援護などではなく、ナチュラルな感想であった可能性も否定できないのだが……。

「……さてと、もうひとつの用件もすませとこうかい」
「オウ、もしかして、あの件ダネ!」
「俺たちの意見が通ったのか!」

 プリックルと阿嘉松が嬉しそうに顔を見合わせた。

「ああ、ハートの小僧はごちゃごちゃ言ってたけどね、秘書の女の子がやんわりと釘刺してくれたのさ。ああいうしっかりしたブレーンがついてるなら、あの子も安心だね」

 ロゼの言葉を聞いて、その秘書──磯貝桜のことに思い至ったのは護である。現職の事務総長であるハート・クローバーは威厳のある人物に見えたが、ロゼ・アプロヴァールとやり手のキャリアウーマンへと躍進した磯貝桜に、左右からやりこめられている姿を想像すると、ちょっとおかしくなった。

(あの二人の挟み撃ちって、強力そうだもんなぁ……)

 こほんと咳払いして、ロゼは凱の方に向き直る。

「さてと、その用件というのは他でもない。凱、お前さんの今後の立場についてだ」
「立場……ですか? 俺なら、護の下で機動部隊隊員として……」
「ノンノンノン! 凱にヒラ隊員なんて似合わないネ!」

 プリックルの軽薄な口調を聞いて、護は噴き出しそうになった。

(似合わないっていうなら、参謀さんもその口調、似合わないと思うなぁ……)

 そう思いつつも、表情を引き締めてロゼの方を見る。笑い話ではない大切な話であることはたしかなのだから。

「これは先代事務総長ではなく、現評議会からのメッセンジャーとしての言葉として受け取っておくれ。獅子王凱……あんたをガッツィ・ギャラクシー・ガード機動部隊隊長、兼・長官代理に指名する」
「ええっ!?」
「俺が……長官代理?」

 事情を知らなかった護と凱のみが驚く。

「ガッツィ・ギャラクシー・ガードはガッツィ・グローバル・ガードに組織改編されたんじゃあ……」

 阿嘉松が頭をかきながら説明する。

「ああ、その方がわかりやすいから、いままでそう思い込まれても、訂正せずに来たんだが……実は、ガッツィ・ギャラクシー・ガードとガッツィ・グローバル・ガードは別組織なんだ」
「私は組織改編でいいんじゃないかと思ったんだけどね……滋ぼんが、“帰ってくる奴らの居場所を残しとけ”って言って、ゆずらなかったのさ」

 ロゼはそう言って、ガッツィ・ギャラクシー・ガードの現状を説明した。ガッツィ・グローバル・ガードが設立された時点で、地球に残留した隊員はすべてそちらに移籍、装備・施設も移管された。だが、三重連太陽系に向かった隊員は全員、現職のまま残留。長官も八木沼がそのまま残り、活動こそないが組織の維持を続けてきた……。

「定年なのかと思ってたけど、八木沼さんがガッツィ・グローバル・ガードに参加しなかったのは、そんな理由があったからなんですね」
「俺たちのために…八木沼長官が……」
「けど、凱……あんたの証言で、ガッツィ・ギャラクシー・ガード隊員たちの生存が確認できた。八木沼範行のりぴーの強い要望で、長官職は幸太郎坊やに返還されることになったよ」

 護も凱も、その言葉に深い感慨を覚えた。三重連太陽系では誰も疑問にすら感じなかったが、あの時の大河幸太郎はGGG長官ではなかった。『ガオファイガー・プロジェクト』を成功させた後、『ザ・パワー利用計画』を阻止するため、彼はGGGから離任したままだったのだ。
 それから約十年──ようやく公的に、大河のGGG長官復帰が認められたのだ。

「シカーシ、本人が今すぐ職務を遂行できる状態じゃないのは確かだからネ。凱に代理をやってもらおうってワケ!」
「ま、今んところはガッツィ・ギャラクシー・ガード長官代理兼機動部隊隊長兼たったひとりの隊員ってことになるがな! まあ機体の整備やオペレートその他事務手続きに至るまで、ガッツィ・グローバル・ガードが業務委託されてやるから、安心しろ! わっはっは!」
「そりゃ心強い……!」

 阿嘉松の笑い声につられて、凱も笑い出しそうな表情で応えた。

「ロゼさん、国連評議会に伝えてください。俺は、ガッツィ・ギャラクシー・ガード長官代理を引き受けます。大河長官が戻ってくるまでの間!」
「うわっはぁっやったあぁっ! よろしくお願いします、獅子王長官代理!」
「こっちこそ! 天海機動部隊隊長!」

 互いに差し出した手を握り合ったふたりの機動部隊隊長の姿を見て、ロゼは満足そうに何度もうなずいた。

(ああ、ようやくやり残していた仕事を片付けられた気分だねぇ……)

 ところが、そのかたわらで難しい表情を浮かべている阿嘉松に、プリックルが怪訝な顔をのぞかせる。

「ん? どしたの、ガッツィ・グローバル・ガードの方の長官サン」
「……それだよ。凱の立場についちゃ異論はないが、どうもいちいちガッツィ・グローバル・ガード機動部隊隊長とか、ガッツィ・ギャラクシー・ガード機動部隊隊長とか使い分けなきゃならんのは、舌かみそうでなぁ」
「ダッテしょうがないよ。どっちも略したらGGGだからネ。余計わからなくなっちゃうヨ!」

 そこまでを聞いて、阿嘉松はニヤリと笑った。どうやら、苦虫をかみつぶしたような難しい顔は、演出だったようだ。

「そこでだ! ふたつのGGGを区別する愛称を考えてみた。エムブレムの色からとって、グローバルさんチーム青組とギャラクシーどんチーム緑組だ! どうだ、わかりやすいだろう! わっはっは!」
「………」

 さっきのように大笑いに同調する者もなく、重い沈黙が訪れる。

「お、お、なんだ、この空気は?」
「……やれやれ、滋ぼん、あんたのネーミングセンスは相変わらずだねぇ。若い子たちが反応に困っているよ」
「ボクはもう若くないケド、やっと厄年が明けてホッとしてたのに、今のネーミングで、まだ後厄が残ってるの思い出しちゃったくらい困ってるヨ!」
「じゃ、じゃあ他に、なんかいい愛称があるってのか!」

 逆ギレしたかのような阿嘉松の剣幕に、苦笑いしながらロゼがつぶやく。

「奇をてらったところで得るものがあるわけでなし。ここはGGGスリージーブルーとGGGスリージーグリーンってことでどうだい?」
「僕たちがGGGブルー……」
「俺たちがGGGグリーン……」

 護も凱も口の端に乗せてみて、それが自然に感じることを確認した。阿嘉松でさえも、ぶつぶつ独り言で愚痴をつぶやいてはいるが、反論してはこない。
 こうしてロゼ・アプロヴァール元事務総長は、本人も納得いく形で、最後の職務をまっとうしてオービットベースを後にしたのだった。

 

 GGGブルーとGGGグリーン、ふたつのGGGが協力体制をとっていくことと、獅子王凱が後者のたったひとりの長官代理兼隊員となることは、GGGブルーの全隊員に公表された。もっとも、それを人類社会全体に周知するか否かは、まだ結論が出ていない。
 獅子王凱の帰還は全人類にとって朗報だが、それが公表されれば当然、他の隊員はどうなったのか? という話題になる。
 トリプルゼロの脅威も、GGGグリーンの隊員たちが浸食されて行方不明になった事実も、取り扱いに慎重さが求められる情報だ。なかでも、隊員の近親者には少なからぬ衝撃を与えるであろうことは疑いない。
 そういう意味で、その衝撃的な情報に直面せざるを得ず、かつ機密を守らねばならなくなったのは、牛山次男つぐお末男すえおの兄弟である。ふたりとも、四人兄弟の長兄である牛山一男GGGグリーン隊員に憧れて、GGGブルーに入隊したのだから。
 長官室に呼び出したふたりに対して、阿嘉松は一般の隊員に対するよりも詳細な情報を説明した後、念を押した。

「……というわけで、お前さんたちには酷な話だが、この件は当面、機密事項とさせてもらう。わかったな」
「は、はい……」

 真っ青な顔でうなずいた弟の背を、兄が張り飛ばす。

「背筋を伸ばせ、末男! 俺たちが立派にGGG隊員やってる姿を、あんちゃんに見せてやるんだろ!」
「あ、ああ、そうだった。ごめん、次男兄ちゃん! しっかりしなきゃな!」

 勇ましい顔つきで直立する兄弟の姿を好ましげに見つめていた阿嘉松は、もうひとつの話題を切り出した。

「……お前さんたち、この機体は知ってるか?」

 阿嘉松はふたりの隊員の方へ、モニターを向けた。そこに映し出されているのは、ニューロノイドとカテゴライズされる機体の資料である。

「ニューロノイド……覚醒人シリーズっぽいな」

 次男の言葉に続いて、末男もモニターを見ながらつぶやいた。

「けど、凱号とも1号とも違う……」

 牛山次男と末男はともにGGG整備部に所属する隊員であり、メカマニアとして知られている。くしくも次男は、覚醒人1号にダイブした蒼斧蛍汰と彩火乃紀の、末男は凱号にダイブする天海護と戒道幾巳の同級生だという縁があり、関心も深い。

「さすがにお前さんたちなら、素性がわかるようだな。こいつは<覚醒人V2ブイツー>──開発系譜でいやぁ、1号とZ号の間に位置する機体だ」

 覚醒人Z号は、凱号を設計する母体となったニューロノイドであり、阿嘉松がGGGのために開発した機体だった。護と戒道が最初にダイブしたニューロノイドであり、ふたりがGGG機動部隊に参加するきっかけともなっている。

「1号より後で、Z号より前の覚醒人……そんな機体が存在したのか」
「でもそれ、GGGでは運用してないっすよね」
「ああ、こいつは別組織からオーダーされた機体だったからな。NEOって知ってるか?」
「ネオ……?」
「知らないっす」

 兄弟はふたりとも首を振った。

「まあ、あんまり表だった活動はしちゃいないから、無理もないか」

 阿嘉松は手短に、その組織の概要を語った。GGGと同じく、国連の下部組織である次世代環境機関──その頭文字をとって<NEOネオ>。本来は、変化する地球環境を研究する機関であったのだが、環境改造ではなく、人体を環境の方に適応させる実験に手を出した過去もある。そこから発生した様々な問題についてまでは、阿嘉松は語らなかった。

「……でまあ、もともとニューロノイドそのものが、このNEOの下部組織との共同開発だったってこともあってな。その後継機はNEO本体から開発を依頼されてたってわけよ。面白くないのは、納品した後、いっさい触らせてもらえなくなったってことだ」
「ええっ? そりゃひでえ!」

 末男が反射的に叫んだ。

「メンテも…っすか?」

 次男も冷静に疑問を投げかけた。
 もともと、マシンというものは一度に完成するものではない。試作機の段階から、トライ&エラーを繰り返して、精度を高め完成していくものだ。開発者にとって、未完成の機体を取り上げられるというのは、決して愉快なものではない。牛山末男もひとりのメカニックとして、その気持ちをよく理解していた。

「せめて、データ共有くらいはして欲しいっすね」

 その一方で、兄の次男は慎重そうに口を開く。

「……覚醒人V2とそれを納品させたNEOのことは承知しました。んで、その資料を俺たち兄弟に見せた理由はなんです?」

 兄の言葉に、末男もようやくその疑問に気づいた。阿嘉松ほどの人物が、自分たちにアドバイスを求めたいわけでもなかろう。

「実はな……俺たちが地球に戻ってくる直前のことなんだが、このV2が何者かに強奪された。それも、犯人はNEO本部にあったこいつにダイブして逃亡したんだ……」
「操縦してですか!? ってことはデュアルカインドの……二人組?」

 牛山次男が引きつったような顔になった。ニューロノイドを起動できるのは、デュアルカインドという能力者だけであることは、彼も知っている。現在、存在が確認されているデュアルカインドは五人。そのうち彩火乃紀、天海護、戒道幾巳、紗孔羅の四人は阿嘉松や牛山兄弟とともに木星に向かっていたアリバイがある。彼らが帰還するまでの間、地球にいたのは、次男の旧友である蒼斧蛍汰だけだった。

「ああ、ちなみに蛍汰は無関係だ。事件当日のアリバイもしっかりとれてる」

 蛍汰は高校時代、阿嘉松の会社でアルバイトしていた縁もある。阿嘉松本人が、真っ先に確認して安堵した事実だった。

「それにデュアルカインドはふたりそろわないと、ヘッドダイバーとしてニューロノイドを起動できないんですよね……」
「じゃあ、確認されてないデュアルカインドたちが犯人ってことっすね」

 兄弟の指摘に、阿嘉松がうなずく。

「そういうことだ。実は、V2が強奪される時の監視カメラの映像が届いていてな。お前さんたちには、それを観てもらいたい」

 阿嘉松が、モニター上で動画を再生しはじめた。次男も末男も、もはやどうして自分たちに……などとは問いかけない。この後に観ることになるものを、予想しているかのように。

 

 ──暗い格納庫に収容されている<覚醒人V2>。暗視カメラの映像をかなり拡大加工したものだからだろう。画質は粗く、ひどく見づらい映像だ。
 そんな中で人影がふたつ、V2に近づいていく。カメラの位置を心得ているのか、頭部は写らないように巧みに移動していく。

「こいつらが犯人っすか……」
「ああ、そういうことだ」
「少々小柄な二人組……でも顔はわかりませんね」
「同感だ。NEOも必死に調べたみてえだが、こいつらを特定するには至っていない。──少し飛ばすぞ」

 阿嘉松はそう言うと、動画を倍速で再生した。二人組が手際よく覚醒人V2のウームヘッドとセリブヘッドにダイブして、機体を立ち上げる様子が映し出されている。
 だが、ここでV2は妙な動きを見せた。

「……? 足元に誰かいる?」

 末男が指摘した通りだった。侵入者は三人組──もうひとり存在したのだ。だが、三人目は明らかに先のふたりとは異なっている。
 体型からして青年男性で小太り、身のこなしも洗練されておらず、着ているのもごく一般的な普段着のように見える。

「末男、こいつ、もしかして……」
「ああ、次男兄ちゃん……間違いようがねえ……」

 モニターのなかで、覚醒人V2はその腕で足元にやってきた三人目を拾い上げた。その人物は悲鳴をあげながら、ニューロノイドにしがみついている。聞き覚えのある声だ。
 そして、V2がローラーダッシュで格納庫から飛び出していく瞬間、その人物の姿がカメラのすぐそばを横切った。

「さてと、もう言いたいことはわかったと思う。この瞬間をキャプチャーして、補正した画像を見てもらおう」

 阿嘉松はそう言うと、一枚の静止画をモニターに表示させた。そこに写っているのは、牛山次男にも、牛山末男にも、よく似た姿だ。だが、彼らの長兄である牛山一男ではない。三人の兄弟と大きく異なる点。それは眼鏡をかけていることである。

三男みつお……」
「三男兄ちゃん……」

 ふたりが口をそろえてつぶやいたのは、牛山四兄弟で唯ひとり、GGGに入隊しなかった兄弟の名であった。

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回5月8日(月)更新予定
※更新日時にご注意ください。


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