覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第24回】

覇界王~ガオガイガー対ベターマン~

← 前作品ページ次 →


number.04 兆-KIZASI- 二〇一七年(3)

 

7

「交代交代のお時間ですー」

 衛星軌道上のGGGオービットベース、メインオーダールームにタマラ、アルエット、山じい、牛山次男がやってきた。それまで当直だった彩火乃紀、初野華、カムイ、牛山末男と交代するためである。それぞれ、自分の端末からIDカードを引き抜いて、交代者に席をゆずっていく。日常業務であって、特別に意識することなどない瞬間なのだが、兄には弟の微妙な所作が気になったようだ。

「おら、たらたらやってんじゃねえぞ、末男!」

 立ち上がった瞬間、尻をはたかれて、背筋を伸ばす。

「は、はい! すんませんッ、牛山先輩ッ!」

 たとえ兄弟であっても、先輩と後輩だ。メインオーダールームでは、きちんと敬語を使うのが常である。だが、次男の方は家族の一員として、気にかけたらしい。他のオペレーターたちに聞こえないよう、小声でつぶやく。

「……三男のことなら考えるな」

 末男が使っていた整備部オペレーター席には、一瞥しただけでわかる検索履歴が残っていた。勤務中とはいえ、機動部隊の発進時や帰還後に比べれば、やることは少ない。先日、阿嘉松長官から教えられた一件について、調べてしまったのだろう。その気持ちは次男にもよくわかる。
 国連の下部組織NEOから、<覚醒人V2>を強奪した謎の襲撃者たち。その二人組と行動をともにしていたのが牛山三男であったという事実は、次男と末男を動揺させた。すぐにメールやSNSで連絡をとろうとしたのだが、返信はない。もっとも、大学院に進んだ三男はフィールドワークで世界中を飛び回っている。滞在先で活動費工面のバイトをすることも多く、下手をしたら、グローバルウォール計画の成功で電波通信が復活したことを知りえない土地にいる可能性もあった。だとしたら、最新の通信機器を持たぬまま、連絡が途絶えがちになるのも不自然ではない。

「わかってるけどさぁ……」

 末男は納得できない顔でいながらも、反論しなかった。NEOからの問い合わせに対して、阿嘉松が知らぬ存ぜぬで押し通したため、監視映像に映っていた三男が容疑者とされる事態にはなっていない。だが、それで安心できるような状況でもなく、思い悩む日々が続いていたのだった。そんな末の弟に対して、兄の方は落ち着いた動作で引き継ぎをこなしていく。その後ろ姿を見て末男は思うのだ。

(いつか一男兄ちゃんを追い越したいと思うけど、その前に次男兄ちゃんに追いつかなきゃな……)

 

 一方、整備部オペレーター席の隣では、アルエットが華から当直を引き継いでいた。

「お疲れ様です、初野先輩。新作のパフェ、お先に試しちゃったけど──」

 言いかけて、アルエットはつづきの言葉を呑み込んだ。普段ならすぐに飛び乗ってくる話題のはずなのに、この日の華は心ここにあらずといった具合で、立ち去っていったのだ。
 しかも、デスクには閲覧していた画面を消し忘れている。

(珍しいものね……)

 アルエットは画面を消去しようとして、そこに表示されている内容に気づいた。

(これは……命さんの──?)

 それはオービットベースのデータバンクに保存されている、GGG隊員の医療データであった。それもいまから十一年前、木星決戦直後の卯都木命隊員の診療記録だった。

 メインオーダールームから出てきた牛山末男と初野華が下層へ向かうエレベーターに乗り込むと、上層行きで一緒になったのは彩火乃紀と鷺の宮・ポーヴル・カムイである。ドアが閉まり、ケージが動き出すと、その長身の男性は口を開いた。

「……やれやれ、地球に戻ったらすぐトリプルゼロの調査に追われるかと思ったけど、現状に至るまでその存在は認められず……静かなものだね」
「あら、GGGが暇なのは良いことだと思うけど……カムイさん、働きたりないの?」
「とんでもない。給料泥棒と言われるのが理想だよ」
「平和主義者でよかったわ」

 火乃紀にとって、メインオーダールームでもっともウマがあう同僚がカムイだった。普段から軽口を叩き合う仲ではあったのだが、この日のカムイの目にはどこかいつもと違う光が宿っていた。なにか思い詰めたような、真剣な光──

「……なあ、火乃紀くん。この後、食事でもどうかな」
「え?」
「ちょっと相談したいことが……」

 そこまでを言いかけて、会話は中断された。オービットベース全施設に向けて発せられた警報が、エレベーター内にも鳴り響いたのである。それはかつて、ゾンダーや原種が出現した時に発せられた、第一級防衛体制発令の警報だった。

 

GGGスリージーブルー機動部隊、出動ダァァッ!!」
「GGGグリーン機動部隊出動!」

 ディビジョンⅩ・機動完遂要塞艦<ワダツミ>に組み込まれたブランチオーダールームで、長官アカマツ長官代理ガイのふたりが叫んだ。木星圏での戦闘でディビジョン各艦が負ったダメージは、カーペンターズによってすでに修復済みである。
 トリプルゼロに浸食された者たち──覇界の眷族の出現に備えて、GGGは即応体制にあった。ワームホールから太陽系にやってきたそれらが、地球に向かった可能性が極めて高いためである。
 そしてこの日、オーストラリア大陸ノーザンテリトリーにおいて、広範囲の地域から特定の波形が観測され、GGGは防衛警報を発令した。長官たちの指令のもと、オービットベースから分離発進したワダツミは南半球へ到達、ヴァン・アレン帯を突破して、地上の観測施設からの情報を受け取った。

Z0ゼットゼロシミラー、ダーウィンからアデレードへ至る広範囲の帯状地域にて検出されてるようっすわ!」

 ZOシミラー、それは現地で確認された波形を意味している。木星圏においてゼロロボとして認定された、覇界の眷族から発せられたものであり、かつてゾンダーロボから観測された素粒子Z0に近似の性質を持っているため、そう呼ばれるようになっていた。かつては腰痛が悪化するといって、地上への降下を嫌っていた山じいも、筋力トレーニングを続けてきた甲斐あってか、この日は不平をもらすことなく、緊張した声でオペレートを続けている。
 この時のブランチオーダールームには交代したばかりのオペレーターたちがつめていたが、ただひとり初野華だけは休息から戻ってきている。

『大丈夫、華ちゃん……疲れてるんじゃない?』

 ミラーカタパルトで待機中の覚醒人凱号、そのウームヘッドにダイブする天海護が小声で通信を送ってきた。明らかに公私混同の言葉ではあったが、周囲の者たちは聞こえないふりをした。機動部隊が新編成となったことで、戦闘時には華とアルエット、ふたりがオペレーションすることになる。明らかに超過勤務である華にとって、護の気遣いこそが特効薬であることは疑いないからだ。

「大丈夫だよ、護くん。その言葉で……元気出た」

 そう言って微笑むと、華は小さくガッツポーズをとった。決して力こぶができたりはしない細腕だが、この腕にガオガイゴーの起動が委ねられているのだ。

『割り込んですまない……護、初野、任務が終わったら、ふたりとも時間くれないか』

 護の通信ウインドウの隣に、セリブヘッドの戒道が表示された。

「大丈夫だけど……どうしたの?」
『近くに会いたい人たちがいるんだ。君たちも紹介するよ』

 近くというからには、このオーストラリアに住んでいる人のことに違いない。護も華も、戒道から以前聞いた話を思い出した。

『うわっはー! それって幾巳が昔お世話になった農場の人たちでしょ。絶対行くよ! ね、華ちゃん!』
「う、うん……」

 うなずくと、華は横目で隣席を見た。もうひとりの機動部隊オペレーターであるアルエットは、獅子王凱のファントムガオーと発進前管制の通信をこなしている。

(よかった、聞こえてない……)

 いま話題に出た農場には、戒道幾巳が十年以上も親しくしている女性がいると聞いたことがある。彼に想いを寄せているアルエットの前でしてよい話題なのか、華は迷ったのだった。

「──対地高度10000全方位コースクリアですいつでも可能ですOKです」

 いささか緊張感のない淡々とした口調で、タマラが告げる。それにより、私的会話が許される時間も終了した。

「いよぉぉし! 機動部隊全機、索敵任務開始ィィッ!!」

 阿嘉松の号令に従い、各ミラーカタパルトが起動する。

『天海護、ならびに戒道幾巳、覚醒人凱号、発進します!』
『獅子王凱、ファントムガオー、いくぜ!』
「ドッチも射出ーー」
「了解!」「了解!」

 プリックル参謀の掛け声に、華とアルエットはそれぞれの発進オペレートに集中する。

「ミラーカタパルト、ブルー!」「ミラーカタパルト、グリーン!」
「「イミッション!!」」

 華とアルエットが同時に射出パッドを叩くと、各機動部隊隊長たちの機体が北と南に勢いよく射出される。広範囲にわたって観測されたZ0シミラーの源を特定する索敵を開始するのだ。彼らに続いて月龍、日龍、ビッグポルコート、翔竜も射出されていく。全機の発進が一段落したところで、アルエットは誰にも聞こえぬよう、ぽつりとつぶやいた。

「……そんなこと、気にかけたりしないわ」

 

 獅子王凱が搭乗するファントムガオーは、ノーザンテリトリーを抜け、南オーストラリア州上空を飛翔していた。凱にとっては十年ぶりの地球の空であったが、主観時間で言えば数週間ぶりでしかない。しかも、その間の多くは複製されたレプリジン地球で過ごしていたため、それほど地球から離れていたという実感は沸かなかった。
 だが、眼下に見える市街地には見覚えのない光景もあった。インビジブル・バーストによる被害の跡である。すでに六年以上も前の災害であったが、人類のリソースの大半は強電磁場下での日常を維持することに注がれており、復興を果たせぬまま放置された地域も少なくはなかったのだ。

「護たちは、こんな過酷な状況で戦い続けていたんだな……」

 廃棄された発電所の跡地を目にして、凱はつぶやく。他ならぬ彼らもオレンジサイトにおいて、地球の破滅を防ぐために戦ってはいた。だが、生々しい被害の痕跡は、自分たちとの戦いとは異なる次元での痛みを感じさせるものだったのだ。
 そんな時──

『命を超える者よ──』

 凱の脳裏に語りかけてくる声があった。いや、音に拠らないそれは声ではない。意思だ。ヒトの脳にダイレクトに意思を届けてくるその能力を、凱はすでに知っていた。

「リミピッドチャンネル……」

 そして、凱はその意思の主をも知悉していた。やがて会わねばならない──そう感じていた相手。
 その時、極度な気圧の変化により生じたエアポケットに呑まれ、機体が大きく揺らいだ。

「!!」

 高性能のファントムガオーですら、姿勢制御が追いつかないほどの場の歪み。機体は一気に地表へ降下し、各部に損傷はないものの、通信が途絶し不時着を余儀なくされた。

 ──そこはオーストラリアでは大量に産出される石炭による火力発電所だった。国民の意思によって原子力発電を拒否したこの国では、いま現在でも珍しい建造物ではない。だが、インビジブル・バーストの際に制御システムが深刻な被害を受け、修復されないままに放置されていた。
 上空のエアポケットとは打って変わって地表は穏やかだが、通信はいまだ途絶したままである。機体から降りた凱は、施設内に屹立する鉄塔の一本を見上げた。その頂上に人影がある。いや、ヒトに酷似していても、それは人間ではない。古くからベターマンと呼ばれている霊長類──彼ら自身は、おのが種属を“ソムニウム”と呼ぶ。その一個体──ラミア。
 ラミアの尖塔と並び立つもう一本の尖塔の上に、凱はその身を躍らせた。ラミアがヒトに良く似た別の種属であるのと同様に、凱もまた純粋な人間とは言いがたい。生機融合体エヴォリュダーの身体能力は、数十メートルの高処へ己が身体を軽々と運んだ。

「俺に語りかけてきたのは──お前か」

 強い風が吹き荒れる鉄塔の上で、凱は静かにつぶやいた。こちらの意思もまた、目の前のソムニウムなら受信できる。ならば、音声のように強風に遮られることなく通じるはず、と知っていたからだ。
 百メートルほどの間隔を経て、並び立つ二本の鉄塔。その頂上と頂上にあって、ソムニウムとエヴォリュダーは対峙していた。凱が思ったように、意思疎通に不自由はないようだ。
 赤と緑の前髪がゆらめき、ソムニウムの額に十字の輝きが明滅する。

『我が名は──ソムニウム……ラミア』
「俺はエヴォリュダー・ガイ……いや、知っているはずだな」

 ラミアの両眼はサングラスに遮られて見えない。いや、サングラスのように見えるが、それは彼の身体の一部だ。人体に例えるなら爪のような組織で、ラミアの双眸を保護している。その見えない瞳が、凱の言葉を肯定するかのごとく輝いたように思えた。

「あの時、三重連太陽系で戦う俺たちに、地球の人々の想いを届けてくれた……何故、俺を助けた?」
『あの戦いには、ふたつの宇宙の存亡がかかっていた。私はただ、我らが宇宙の存続に助勢したのみ』
「なるほどな……つまり、あの時のことを借りに思う必要はないってことか」

 自分が発する挑発的な言葉は、内心から来る苛立ちによるものと、凱は自己分析していた。たしかにラミアというソムニウムの発する意思も、最初に受け取った時から凱を挑発するかのような響きを帯びていた。
 だが、それでもあの時、地球から届けられた想い──勇気の力は、ソール11遊星主に打ち勝つ原動力となってくれた。そして、つい先日の木星圏での死闘。凱や護とともに、ソムニウムたちは肩を並べて、覇界王ジェネシックと戦ったのだ。
 なのに何故、ラミアの存在は、こちらの感情に火をつけるかの如く、凱の意識をチリチリと焦がしていくのか。戦闘へ駆りたてるかのように、燃え上がらせていくのか。

「では、いま俺をここへ呼び寄せた理由はなんだ?」
『知っているはずだ、エヴォリュダー・ガイ。我らは相争う宿命にあることを』

 ラミアのその意思は、凱の胸のうちにすとんと収まった。

(そうだ、俺は知っていた。三重連太陽系で最初に聞いた時から……この意思の主と、俺はいずれ戦うことになると──)

 いまにも始まりそうな覇界の眷族との戦い。それは凱にとって避け得ぬものだ。愛しい人や大切な仲間たちを取り戻すための試練であり、知的生命体の営為を滅ぼそうという宇宙の摂理への抗いでもある。すべてに優先されるべき、大きな戦い。
 だが、その戦いの直前でさえ、いま目の前にいる存在もまた、回避できない類の戦うべき相手だと、凱のうちのなにかが告げている。強いて言うならば──

(俺とこいつは天敵同士ということか……)

 凱の納得を、戦闘開始の合図と受け取ったのだろうか。ラミアは前触れもなく跳躍した。黒いジャケットに見える体組織が、怪鳥の翼のように翻る。そして、胸に開いた特殊な器官となる胸門から、赤い光の粒子を放つ。

「ペクトフォレース……ルブルム」

 死滅を促すその免疫細胞は、瞬く間に凱を取り囲み、息の根を止める!
 いや、取り囲まれたように見えた凱の姿は、その残像でしかなかった。ラミアの跳躍を感じた瞬間、凱の実体は数十メートルの下方へ身を躍らせていた。だが、それは逃亡ではない。

「イークイップッ!」

 凱のボイスコマンドに反応して、駐機していたファントムガオー操縦席脇のカタパルトから、特大キャリーバッグの四倍サイズはあるトランクが爆裂射出される。即座に開いたその内部からは、圧縮空気でIDアーマーと呼ばれる装甲服のパーツが飛び出し、誘導システムによって、凱の全身に次々と装着されていった。
 その間、鉄塔の突端を蹴ったラミアもまた、猛禽のごとき勢いで地表に向かっていた。表情は非情に冷静で、右手には赤く輝く聖剣のような形に固めたルブルムの粒子。IDアーマーを装着中の凱に向かって、迷うことなく突進する。それはあたかも、ソルダートJの使う、赤く輝く双剣ラディアント・リッパーのように、鋭く正確に空気を切り裂き、目標を捉えた。
 しかし、凱は避けない。IDアーマーに装備されたツールを素早く引き抜き、ラミアの一撃が届くよりわずかに速く右手にかまえ、迎撃に転じた。

「ウィルナイフッ!」

 剣とナイフが交差する。激しく弾け散る赤と緑の火花。交錯する敵意。互いを捉えたのは、攻撃の意思。相手を両断して勝利しようとする想いと決意が激突しあった!
 それぞれの動きを封じている腕を次の一手に転ずるには、その先の百手にも及ぶ攻防への覚悟と、足場や風など周囲の環境も考慮した正確な先読みが必要不可欠である。迂闊に動いては不利になることを熟知している両者は、微動だにせず対峙を続け、意志だけをぶつけ合った。

「俺はこれから、覇界の眷族と戦わなければならない。その俺を……お前は止めようというのか、ラミアッ!」

 激しい情動を向ける凱に対して、ラミアは額の十字光で静かに告げる。

『暁の霊気はこの世界を滅びへと導く。すべては滅せられる。ヒトも……エヴォリュダーも……』
「俺は!…俺たちは!……滅びたりしない! この命ある限り、戦って、戦い抜いて、絶対に覇界の力に勝利する!」

 凱が力を込めたウィルナイフの切っ先は、赤き聖剣を押し込み、その一部がラミアのサングラス状の体組織にぶつかる。

『………』
「俺たちは負けない!」

 勢いに押され、ひび割れたそれは一気に両断された。だが、それでもラミアは深海の底のように冷静だった。

『……すべてが滅ぼされるその前に、我らはお前の存在を滅せねばならぬ──』

 現れたラミアの真っ赤な双眸が、至近距離から宿敵をにらむ。

『元凶なりし者よ──!』

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回5月22日(月)更新予定


← 前作品ページ次 →


関連作品

カテゴリ