覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第25回】

覇界王~ガオガイガー対ベターマン~

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number.04 兆-KIZASI- 二〇一七年(4)

 

9(承前)

「元凶なりし者──!?」

 獅子王凱は叫んだ。

『命を超える者よ、滅ぼさねばならない──その元凶なりし命……』

 血の色の──昏く赤い瞳の持ち主たるラミアは、額の十字光でそう答えた。

「俺が、おまえたちソムニウムにとっての元凶……だと言うのか!」

 返答の意思に代わって、ラミアの胸門から緑色に光る無数の粒子が放たれる。

『ペクトフォレース……ウィリデ』

 至近距離から放たれた粒子を、エヴォリュダーの超反射速度が回避する。空中で右と左に跳躍する凱とラミア。粒子は虚空に散り、発電施設の設備に降りかかった。

「俺は、三重連太陽系で声を聴いた。それは、ラミア……お前の声だった。俺にとって、その声は、地球のみんなの願いを届けるための、勇気を取り戻す声に聴こえた。それなのに……お前たちにとって、俺は敵だというのか!?」

 凱の問いかけに、ラミアの意思が瞬時に応える。

「命を超えた元凶なりし者よ、この地に戻ってはならなかった……その先にあるものは――ヒトなる者、全ての希望なき滅び」
「なんだとっ!? …この俺が……人類を滅ぼす!?」

 次の瞬間、凱の背後から轟音が迫ってきた。視覚で確認するよりも疾く、身体が動く。至近距離にあった鉄塔を蹴って、跳弾のように飛ぶ凱。彼が一瞬前にいた空間を、石炭籠を運搬するクレーンが通過していった。

「!」

 だが、危機は去っていない。第二、第三のクレーンが凱の頭上から降ってくる。決して、偶然ではない。制御室のうちに入り込んだラミアが、先ほどと同じ緑色の粒子を放ち続けている。その光の明滅は、クレーンの動きに同調していた。

(ラミアの能力か……あの光の粒子を使って!?)

 ウィリデと呼ばれるペクトフォレースは微弱な電荷を帯びている。ラミアはそれにより、生物の神経電位や機械の制御信号に介入する術に長けていた。
 次々と迫り来るクレーンの届かない物陰に退避する凱。しかし、その動きすらもラミアによって計算され、追い込まれたものだった。煤塵を含んだ高温の排煙が、凱の全身に浴びせられる。煙突の向きと排煙するタイミング、すべてが完璧に制御されていた。

「くっ……!」

 全身を灼かれ、崩れ落ちていく凱のシルエット。ラミアの双眸が、その姿をにらみつける。そして、煤煙の向こうで起きている真実を見極めた。

『残像──』

 そう認識したラミアの眼前に、クレーンが突っ込んできた。その先端は制御室を完全に押しつぶすようにねじ込まれる。だが、すでにラミアはそこにいない。怪鳥のように身をひるがえし、宙へ跳んでいた。そこに数瞬前とは攻守を代えたように、クレーンが次々と襲いかかる。
 その動きを制御しているのは、脱硝装置の上に立つ凱だ。排煙に呑み込まれそうになった瞬間、IDアーマーを脱ぎ捨てて身軽になり、ここに降り立ったのである。ラミアが目撃したのは、アーマーが灼かれる光景にすぎなかった。さらに凱は、エヴォリュダーによるハッキング能力で逆襲に転じていた。

「今度はこっちの番だ!」

 発電所施設の制御権を奪いとった凱は、自分に襲いかかってきた力で反撃する。ペクトフォレース・ウィリデによる電気的な信号操作よりも滑らかな動きで、宙を舞うクレーン。大質量物体が連続で襲いかかってくる攻撃に、ラミアは表情ひとつ変えるでもなく、回避し続ける。ヒトと同様に見えても、ソムニウムの生物としての潜在能力は桁違いだ。だが、ラミアにも逆撃するまでの余裕はなく、回避するだけで手一杯に見える。
 凱は施設内を一望できる高所から設備を操りつつあったが、その連撃は必殺の気迫に満たされてはない。ラミアを天敵とする直感とは裏腹に、決定的なまでの殺意や敵意までは抱けずにいたからだ。

(滋さんの話だと、ソムニウムはかつて地球人類の危機を救ったという。俺が太陽系に戻った時も、覇界王ジェネシックの侵攻に対してともに戦い、協力することで退けた。人類の味方であるソムニウムが、俺が人類を脅かすと言う。覇界の浸食を免れた俺が……なぜ? 地球が覇界の眷族の脅威にさらされている今、ここで決着をつけることは正しいことなのか──?)

 迷いがありつつも、凱の攻撃は的確にラミアを追い詰めていく。発電施設の堅牢な壁を背にするラミア。逃げ場を失ったソムニウムに二本のクレーンが直撃した!
 だが──

「なんだ、あれは……!」

 凱は我が目を疑った。クレーンに押しつぶされたかに見えたラミアの身体が、薄い膜のようなものによって守られている。クラゲのような半透明の、しかし強靱な生命体がラミアの前に壁となって浮遊していた。

『ユーヤ……』

 リミピッドチャンネルが、同胞の名を呼ぶ。その生命体は、ベターマン・ユーヤがルーメと呼ばれるアニムスの実を喰らうことで、変身した姿だった。かつてラミアと行動をともにしていたセーメという名のソムニウムは、同じルーメの実で光り輝く生命体となった。アニムスの実は、耐性を有する個体差によって、それぞれ異なる形態へと変身をうながす性質を持っていた。

『ラミア、ときが近づいている』
『……次なる災厄が先か』
『皆、既にそれぞれの地に赴いた』
『我らも往こう──決戦の地へ』

 言葉のやりとりとは異なり、リミピッドチャンネルに長けた者同士は一瞬で多くの意思を交感する。
 海棲生物のごとき巨大な姿のベターマン・ルーメは、ラミアをのせて上空へと飛翔していった。

「待てっ──!」

 一瞬で逃れていったベターマンたちを追うように、凱は頭上へ手を伸ばす。だが、そのまま追撃しようとはしなかった。敵手の逃亡とともに、途絶していた通信が回復したからだ。
 エヴォリュダーの身体には、いくつかの超常能力が備わっている。そのひとつ、身体をアンテナ代わりにして、電波網から必要と思われる通信音声を検索変換し、傍受できる能力で、凱は聞いた──GGGブルーにおいて、GGGグリーンへの協力任務を担当しているアルエット・ポミエからの通信を。

『──凱、応えて! 戒道さんと天海くんが大変なの! 凱、お願い、返事をして──!』

 

10

 獅子王凱がベターマン・ラミアと対峙していた頃──
 天海護と戒道幾巳がダイブするアクセプトモードの覚醒人凱号は、ノーザンテリトリー上空を飛行中だった。

「ファントムガオーが通信途絶した!?」

 常に冷静な戒道を驚かせたのは、ワダツミでオペレーションを担う初野華からの通信だった。

『そうなの……いきなり応答がなくなったって、アルエットちゃんが──』

 そう言い掛けたところに、同じくオペレーションを担当するアルエットが割って入る。

『最後に確認されたのはマウントガンビア近郊です。凱号の現在位置からなら、四十分で到達可能』
「四十分か……」

 護のその声に、一瞬、戒道は何かを感じた。

「……どうする、護。捜索に行くか?」

 GGGブルーにおいては護が機動部隊隊長であり、戒道の上官である。だが、その関係以上に護を信頼している戒道は、その証として判断を仰いだ。
 護はたとえ迷ったとしても、それを表には出さずに応える。

「いや、このままZ0シミラーが濃厚なポイントに向かう。マウントガンビアには翔竜とビッグポルコートを向かわせて。月龍と日龍は担当区域の哨戒を続行」
『了解!』

 護の指示に従い、華が機動部隊各機に指令を伝達する。モニターに映るその表情に、不安の色を見てとった護が声をかける。

「大丈夫だよ、華ちゃん。凱兄ちゃんは強いんだ。僕らは心配するよりも、自分の任務を果たさなくちゃ」

 その穏やかな、しかし深い信頼に裏付けられた言葉を聞いて、華ははっとした。

(そうだ……私だって、凱さんにはいっぱい助けられてきたのに……)

 幼い頃の初野華は、不運を絵に描いたような少女だった。行く先々でゾンダーロボに遭遇し、生命の危険を感じたことが一度や二度ではない。そんな時、いつも獅子王凱をはじめとするGGGが現れて、守ってくれた。成長した華がGGG隊員を志したのは、単に恋人である天海護の側にいたいという気持ちだけではない。幼い頃に自分を救ってくれた大人たちのようになりたい──そんな想いがあったからだ。

(だから今は──私たちが守らなきゃならないんだ、みんなを……!)

 深く息を吸って、吐く。そうして気持ちを切り替えた華は、(自分なりに)きりりとした表情で応えた。

「うん、そうだよね。今は急いでZ0シミラーの発生源を見つけなくちゃ!」

 

 ノーザンテリトリーの州都ダーウィンの南方、五十キロ地点。ミラーカタパルトから射出され、内蔵ウルテクエンジンで高度を保ち哨戒飛行中だった日龍は、視界の端に違和感を覚えた。空中で急制動をかけ、自分の直感を刺激したものを見据える。
 それは南進する鉄道車両だった。

(データ検索──オーストラリア大陸縦断鉄道・通称<ザ・ガン>十四号ね。でも、あの車輌の何が……?)

 ザ・ガンという通称は“銃”に由来するわけではない。古き時代、水の乏しい荒野を進んだアフガン産ラクダを指す言葉だ。現代のラクダは三十両、八〇〇メートル弱の編成で荒れ地を縦断していく。しかし、その姿は明らかにデータに記録されているものとは異なっていた。全長が四倍近く、三キロメートルほどに肥大化していたのだ。

「い、いったいどういうことですの!?」

 日龍が驚いた瞬間、双子の姉妹がワダツミに送った通信が聞こえてきた。

『こちら月龍、変事を確認。大陸縦断鉄道十六号がZ0シミラーを発生させながら、北進中!』

 その通信を聞いた日龍は、眼下の列車が肥大化した原因にようやく思い至った。

「そういうことですのね……あれは、ゼロロボ!」

 

 月龍や日龍が送信してきた情報が、ワダツミのブランチオーダールーム、メインスクリーンに映し出され、楊が即座に眼鏡をきりっと光らせる。

「なるほど、大陸縦断鉄道がまるまるトリプルゼロに汚染されたため、Z0シミラーが広範囲から観測されたというわけか。月龍と日龍にはその目的地を確認させるべきだろう」
「おい、楊の旦那! 落ち着き払ってる場合じゃねえぞ! 奴らいったい何をたくらんでやがるんだッ!」

 阿嘉松の怒声にも近い問いかけを浴びせられても、楊は身じろぎもせず、メインスクリーンを見据えたまま、静かに語り出す。

「覇界の眷族の最終的な目標は、静寂なる宇宙の実現──すなわち、知的生命体の活動を終息させることだ。つまり、地球人類の殲滅と見て、間違いないだろうな」
「問題はその方法デショ! 地球そのものをブロウクンするのか、人間だけキルする何かがアルノカ……それを考えると、ボク眠れなくなりソウヨ。まだ後厄も抜けてナイしね」

 重々しい声に似合わない軽薄な口調で、だが的確なポイントを指摘するプリックル参謀。楊は腕を組んで、思考の過程を開陳する。

「かつて、ゾンダリアンはゾンダーメタルを精製するために高エネルギーを求めた。だが、覇界の眷族はこちらの宇宙に漏れ出したトリプルゼロとともにある以上、エネルギーに困ることはない……」
「じゃあ、無尽蔵のエネルギーでゼロロボを生み出し続けるってことか!」

 阿嘉松はうなり声をあげた。旧GGGの隊員や勇者ロボが浸食されている上、そんな悪夢が現実となったなら、ゾンダーや原種以上の脅威となることは間違いない。

「奴らが求めるとしたら、ゼロロボの材料か? たとえば巨大な無機物──」
『巨大な無機物だって!?』

 楊の独白に反応したのは、接続されたままの通信回線の向こうにいる戒道幾巳だ。覚醒人凱号が天海護に操縦されているいま、彼はサブダイバーとしてブランチオーダールームとの通信を担当している。

『幾巳、なにか心当たりがあるの?』
『……ある。護、操縦権をくれ』
『わかった! ユーハブコントロール!』

 相棒はなにか確信を持っている。そう理解した護は、詳細を聞き返すことなく、ボイスコマンドを発声した。

『アイハブコントロール!』

 戒道がそれに応え、覚醒人凱号はアクションモードであるガイゴーへと変形する。

『オーダールーム……ガイゴーはこれから、“ウルル”へ向かう』
「ウルルだと?」

 その言葉を聞いて、阿嘉松ははっとした。

「そういうことか。よし、月龍と日龍も向かわせる。頼んだぞ、幾巳、護!」

 戒道はうなずくと、いったん通信を終えた。ガイゴーがウルテクエンジン全開で飛翔していく様子が、望遠映像でメインスクリーンに映し出される。

「ウルル──地上で二番目に大きな一枚岩か。たしかにゼロロボの材料としちゃぁ、うってつけだぜ」

 阿嘉松は冷や汗を浮かべつつ、つぶやいた。エアーズロックという名でも知られるその岩は、全周十キロメートル近い巨大な岩石である。その大質量がそのままゼロロボに転用されれば、この上ない脅威となるだろう。
 その恐るべき予測を共有した者たちは、祈るような心持ちで、ガイゴーの映像を見つめるのだった。

 

11

 ザ・ガンの停車駅で最短距離にあるアリススプリングから、ウルルまでは四五〇キロほど離れている。その距離を高速で渡りきったガイゴーは、恐るべき光景を目撃することになった。
 ザ・ガンの列車が次々と軌条から離脱して、ウルルに向かっている。無論、その車輌は通常の状態にはない。

「護、あの車体……普通じゃないぞ!」
「うん、何かと融合して巨大化している。まるでゾンダーロボだ」
「どこかに、列車をゼロロボ化させている覇界の眷族がいるはずだ、そいつを探そう」

 戒道の言葉を聞いて、護の胸はちくりと痛んだ。覇界の眷族──それはトリプルゼロに浸食された旧GGGの隊員や勇者ロボだ。懐かしく慕わしい仲間が、またも敵になるというのだろうか。ギャレオンを斃さなければならなかった、木星圏での出来事が胸を締め付ける。

「……護、心配するな」
「え?」
「かつて僕たちは、ゾンダリアンにも本来の姿を取り戻させたことがある。だから──今度もきっとできる」

 静かな、だが迷いのない声。その通りだった。もう十二年も前、戒道はピッツァとペンチノンを、護はポロネズを浄解することができたのだ。ゾンダリアンでいた期間が長く、浸蝕度合いも深かったポロネズを救うことはできなかったが、絶望するにはまだ早い。
 護と同じように、Jやトモロと戦うことになるかもしれない不安を感じている戒道の言葉。それだけに、護の心の奥底にズシンと響く。

「そうだね……うん、そうだ。誰がどんな形で現れても、僕たちのやることは変わらない!」
『あー、戒道くん、護くん、聞こえてますか? どうぞ』

 ふたりの会話に通信で割り込んできたのは、諜報部オペレーターである山じいだ。相変わらず、「どうぞ」で締める口癖は変わっていない。

「戒道だ、受信は良好。どうぞはいらない」
『あー、そっすか。じゃあ、用件のみで──』

 心なしか、通信機から聞こえる山じいの声は寂しげだった。

『オーストラリアGGGからの報告が入ったっすわ。現地時間で本日未明、謎の物体に鉄道基地が襲撃され、ザ・ガンの車輌が奪われた模様。いまウルルに向かってるのはそいつらっすわ、総数は全部で十一本』
「確認する、未明に盗まれたってことは乗客乗員はいないのか?」

 その問いに答えたのは、研究部オペレーターであるタマラだ。

『はい乗っていませんサテライトサーチでも生体反応を認めず全車両無人です思いっきりやっちゃってくださいー』
「やる……破壊するということでいいのか?」
『ああ、かまわねぇからやっちまえ! 現時刻よりゼロロボ化した鉄道車両群を、全部ひっくるめてZRゼロ04ゼロフォーと認定呼称する! 殲滅作戦開始だぁっ!』

 阿嘉松の号令とともに、月龍と日龍は、それぞれが追尾していたZR-04に攻撃を開始していた。ファントムガオーの捜索に当たっていた翔竜とビッグポルコートも近隣の線路上を疾走する目標に向かう。
 だが、ZR-04群の過半はすでに大陸縦断鉄道の軌条から離脱、ウルルに向かって荒野を驀進している。それらの位置関係を表示した地図を見ながら、楊が指示した。

「おそらく一両でもウルルに突入したら、融合して巨大ゼロロボが発生する。なんとしても未然に阻止するんだ」
「おっしゃ、ファイナルフュージョン承認ンンンッ!!」
「了解です……!」

 阿嘉松の承認を受けて、華が固く握り合わせた両拳を振り下ろす。

「プ、プログラムドラァァイブ!」

 コンソールに叩きつけられた両拳が保護プラスティックを叩き割り、その下部にあったドライブキーを始動させた。
 作戦開始と同時に射出されていた三機のガオーマシンは、すでにガイゴーの周囲を旋回している。

「ファイナルフュージョンッ!」

 戒道のボイスコマンドにともない、ガイゴーの腰部からEMトルネードが放たれる。発生した電磁竜巻のなかで、ガイゴーは三体のガオーマシンと合体していった。

「ガオッガイッゴーッ!!」

 勇者王の完成をモニター内に見て取った阿嘉松がすかさず次の指令を出す。

「ディバイディングドライバー、キットナンバーゼロスリー! 射出ッ!」
「了解……」

 華のコンソール横に、射出パッドが起動する。

「ディバイディングドライバー! キットナンバー! ゼ、ゼロスリー! イミッッッショオオォォン!」

 射出パッドが勢いよく両手で叩かれ、ワダツミのミラーカタパルトは二パーツに分かれたDDキットを射出する。空中でドッキング、ミラーコーティングを分解剥離して完成したディバイディングドライバーは軸線をあわせたガオガイゴーの左腕に寸分のずれもなく装着された。

「ディバイディングドライバーッ!」

 すでに空間湾曲半径が設定されたディバイディングドライバーを、ガオガイゴーがウルルの前方十キロの荒野に打ち付ける。ドライバーヘッドから発生したアレスティングフィールドとディバイディングフィールドは、相互に干渉した結果、直径五キロのフィールドを出現させた。
 そのわずか数秒後──フィールド外縁部に到達した六輛のZR-04はすべて、湾曲空間の内部へ落ち込んでいった。

「うわっはぁ! うまくいったね!」
「護、安心するのはまだ早いぞ!」
「わかってるって、幾巳! ここから一体も出すわけにはいかない!」

 護の言葉に、真剣な顔でうなずく戒道。実のところ、彼には真剣にならざるを得ない事情が存在する。
 ──いまから十一年前のことだ。外宇宙から帰還したジェイアークが、木星圏でソール11遊星主に襲われた。その時、単身逃れた戒道幾巳は記憶を失って、このウルルの近くに落ちたのだ。身分も使命も帰るべき場所すらもわからなくなった戒道の面倒をみてくれたのは、親切な少女と彼女が暮らす農園の人々だった。以来、戒道はこの地を第二の故郷として、幾度となく訪れるようになっていたのだ。

(こんなところで覇界の眷族が暴れたら、あの人たちの生活が……。絶対に壊させたりしない──!)

 そう決意した戒道は、横転してもがいているZR-04の一体に近づいた。

「ブロウクンファントム!」

 背部ウルテクエンジンポッドに装備されていたファントムリングをまとい、鋼鉄の右腕が高速回転しながら撃ち出される。列車形態から、脚のような部位を発生させて立ち上がろうとしていたZR-04、その胴体部がブロウクンファントムの直撃を受け、分断された。

「うおおおおっ!」

 再生する暇も与えず、ふところに飛び込んだガオガイゴーは、ソリッド衝撃波を放つドリルニーで残った部位を完全に打ち砕いた。

「的確だな、幾巳!」

 護の言葉に応じる余裕もなく、戒道がガオガイゴーを振り向かせる。そこにはいるのは、巨獣の群れ。いや、残る五体のZR-04が四本脚を発生させ、多脚歩行形態となってガオガイゴーを半包囲しているのだ。
 いや、そこにいるのは、ZR-04群だけではなかった──

 

「アーカイブにデータなし……ガオガイガーの新型機体と推測される。宇宙の摂理を優先すべし……宇宙の摂理に反する存在…排除すべし…排除すべし……」
「この声──」
「まさか……」

 戒道と護は、上方警戒モニターの方を見上げる。そこに映し出されているのは、ZR-04群を従えているとおぼしき覇界の眷族の姿だ。
 オレンジ色のオーラをまとった円盤型の飛行機体を操縦している、やはりオレンジ色の光に包まれた、ずんぐりとした形のロボのボディ。明らかにそれは、木星圏で遭遇した覇界王ジェネシックと同種の変貌をとげた状態の、飛行ユニット・バリバリーンに乗り込んだコスモロボである。

「マイクッ!」

 護の悲痛な叫びにも反応することなく、覇界の眷族は次なる行動を開始した。

「宇宙の摂理を守るため……マイク…マイク…が…ん…ばっ…ちゃう…も…ん…ね」

 解析波形を表示していた顔面モニターが、シンプルで無機質な丸い二つの光に切り替わる。

「システムチェーンジッ!」

 表示はト音記号を模したイメージへと変化し、バリバリーンから分離して宙に舞うロボの機体は、瞬く間に変形していく。かつて、アメリカGGGで“デスウェポン”のコードネームをもって開発された、全ての物質を破壊する驚愕の秘密兵器。覇界の眷族は、その真の姿ともいうべきブームロボ形態へと変貌を遂げた──。

 

「マイク・サウンダース十三世!!」

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回6月5日(月)更新予定


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