覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第27回】
number.04 兆-KIZASI- 西暦二〇一七年(6・完)
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南オーストラリア州から北部準州へと高速飛行するファントムガオー。その西方から三つの白銀の弾丸が迫ってくる。それはワダツミからミラーカタパルトで射出された三機のガオーマシンだ。獅子王凱を乗せたファントムガオーは速度を同調させつつ、変形する。
「フュージョン……ガオファー!」
ガオファーは背部にステルスガオーⅢをマウントし、両腕部には左右に分離したドリルガオーⅡをセットした。そしてライナーガオーⅡがあたかも補助ブースターのようにステルスガオーⅢの上面部に接続される。
『全機ドッキング完了……凱、加速可能よ』
「助かったぜ、アルエット!」
ガオファーは両腕を前方に向け、ドリルガオーⅡのドリルを高速回転させた。これにより空気抵抗が大幅に低減される。さらにステルスガオーⅢの翼端ウルテクエンジンを展開、ライナーガオーⅡのスラスターも最大噴射させ、一段と加速する。この形態ならば、ファイナルフュージョンするよりも速いと判断したアルエットが、ドッキングプログラムを数分で用意したのだ。
「くっ、間に合ってくれ──!」
激烈なGをものともせず、ガオファーはさらに機体を加速させる。ウルル近郊で今まさにソリタリーウェーブを浴びせられようとしている、ガオガイゴーのもとに駆けつけるべく。
──が、しかし、時間の壁はあまりにも残酷に立ち塞がっていた。
その頃、ザ・ガン沿線の各所ではGGGブルー機動部隊の各機がZR-04群と交戦状態にあった。
ポートオーガスタの北方では、大陸縦断鉄道十六号が変貌したゼロロボを月龍が足止めしている。
「プロテクト・プロテクター!」
レールから外れて、荒野を爆走するゼロロボの前に立ちはだかった月龍は、両肩のマント状装甲の下から六基の遠隔ユニットを展開させる。有線制御されたユニット群は本来の使用法とは異なるものの、輪軸下部に潜り込み、左前方のリム部を浮き上がらせた。バランスを崩したゼロロボがたまらずに横転する。四倍以上に肥大化した重量は、それ自体が巨大な負荷となって、ゼロロボの巨体にダメージを与えたようだ。動力部がひしゃげて、大地に擱坐する。
「ZR-04の進行停止を確認──」
それを油断と呼ぶのは酷であっただろう。沈黙を確認しようと近づいた月龍に向かって、巨大な腕が伸びてくる。
「!」
一瞬前には存在していなかった巨腕が、月龍の機体をわしづかみにした。かつてのゾンダーロボと同じように、ゼロロボもまたメタモルフォーゼで形態を変化させる。大地に伏した残骸と見えても、活動停止したとは限らない。
「くっ、私としたことが──」
誇り高いドイツ軍人として教育された超AIが、おのれの油断を恥じる。だが、自分の胴体ほどもある太い指に全身を締め上げられ、月龍は身動きがとれなくなった。関節が軋み、全身の装甲が悲鳴をあげる。
「くうううっ!」
月龍は全身を身もだえさせたが、ZR-04は動じることもなく、じりじりと巨大な拳を握りしめていく。
状況はダーウィン南方で戦う日龍にとっても、南オーストラリア州で三体を相手取る翔竜とビッグポルコートにも同様だった。これまで戦ってきたバイオネットのロボとは異なる、トリプルゼロに由来する超エネルギーの敵に苦戦を強いられていた。
そしてウルル近郊──
覇界マイク・サウンダース十三世が発生させたソリタリーウェーブと、ベターマン・ネブラが放ったサイコヴォイスは空中でぶつかりあい、互いに相殺しあっていった。だが、トリプルゼロによって高出力化したエネルギーソリトンを、完全に打ち消すには至らず、余剰エネルギーがネブラの全身に降り注ぐ。それを消去しているのは、ネブラがまとった半透明の皮膜──ベターマン・ルーメである。
もともとマイク・サウンダースシリーズの開発者である獅子王雷牙は、かつて南米の奥地においてネブラの戦闘を目撃したことがある。そこから着想を得て、ソリタリーウェーブライザーは開発されたのだが、単なる模倣ではないところに雷牙博士の天才性がある。ソリタリーウェーブは非線形方程式に従う孤立波であり、空気振動による衝撃波で完全な対称形を発生させることは困難だった。
そのため、三重連太陽系でマイクが抗戦した遊星主ペルクリオとは異なり、ネブラは減衰しきれなかった余剰エネルギーをまともに浴びることになったのである。
『ユーヤ……』
『案ずるな、私の再生能力はまだもつ……』
ディスクXは、目標となる対象物──ガオガイゴーのみを破壊するようセッティングされていたため、余剰エネルギーがいかに膨大でも、ベターマンの全身を瞬時に消滅させるには至らない。ユーヤが変身したベターマン・ルーメはネブラの保護膜となって、消滅する端から再生を繰り返すことで耐え続けた。だが、敵は覇界の眷族。無限に等しいエネルギーたるトリプルゼロを欠片とはいえ、まとっている。攻防が続けば、先に力尽きるのがいずれであるかは明白だ。そして、その限界時間は今まさに目前に迫りつつあった。
ネブラの背後でゼロロボ群によって大地に組み敷かれながらも、そのことはヘッドダイバーたちも承知していた。
「護、力を貸してくれ──ユー・ハブ・レフトコントロール!」
「わかった──アイ・ハブ・レフトコントロール!」
護がガオガイゴーの左半身の操縦権を受け取ると、ふたりは声をあわせた。
「ヘル・アンド・ヘブンッ!」
ボイスコマンドとともに、ガオガイゴーの右腕からJジュエルの力が、左腕からGストーンの力が迸る。
「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ!」
そしてエネルギーの奔流はひとつに縒り合わされ、ガオガイゴーの全身を銀色に染め上げた。赤の星の力と緑の星の力──それらはひとつになることで、ふたつの星の指導者たちが想定していなかったパワーを発揮する。
戒道と護の狙いも、まさにそれだった。それまでに数倍となるパワーにあふれたガオガイゴーは、全身にのしかかるゼロロボの群れを膂力にまかせて振り払った! 右腕を押さえ込んでいた輸送ヘリが変貌したゼロロボと、下半身を組み伏せていた車輌から変貌したゼロロボが、空中で激しく激突する。
そして、まさにその瞬間──
『ラミア、限界だ──』
リミピッドチャンネルでルーメの意思を感じ取ったネブラが、素早く上空へと飛翔する。相殺されることのなくなったソリタリーウェーブが虚空を貫く。しかし、その時すでに自由の身となったガオガイゴーは側転から立ち上がり、覇界マイクに向かって飛びかかっていた。
「さすがだっぜ!」
覇界マイクは自分に向かってくる銀色の勇者王に向かって、ソリタリーウェーブを浴びせようとする。トリプルゼロに強化されているディスクXには、物質としての限界など存在しないかのようだ。だが、覇界マイクの胸部ディスクトレイのなかで、ディスクXの盤面は突然逆回転し始め、ソリタリーウェーブが内部に向かって乱射される状態に陥った。
「ホワッツ―!?」
過度な負荷がかかり、ディスクXはおろか、覇界マイクにも亀裂が走る。すぐにトリプルゼロの再生力で修復されるが、亀裂はそれを上回る速度ですぐまた入る。
「ノォ! ノォ!」
うろたえるマイクの足元、スタジオ7の機体からジグザグに伸びた、幾つもの複雑な棒の集合体のようなアームが、覇界マイク背部のわずかな隙間に入り込んで、操り人形のように操作していたのだ。
『壊すことが不可能でも、回路の一部くらいなら操ることは可能でしたね』
スタジオ7のスリットの溝に隠れて多くのアームを駆使していたのは、ソムニウム・ライが変身した姿、ベターマン・アーリマンだった。
──次の瞬間、ディスクXは割れ砕けた。
「オウノーッ!! けど、まだアンコールが残ってるっぜ!」
ツインネックのギラギラーンVVが振り回されると、繊細なアーリマンのアームは破壊され、たちどころにその機能を失う。
『おっと、拙者の役目はここまでのようですね』
リミピッドチャンネルで意思を伝達したライは、何処が本体なのか分からない細かい無数の棒を、一斉に散りゆく花びらのように四散させ、アーリマンの姿を撤退させた。
だが、覇界マイクは、そんなものには目もくれず、狙い定めていた方向に向き直る。胸のトレイを開き、粉砕されたディスクXを宙に放り捨て、スタジオ7から新たなディスクを取り出した。
「イエイッ、ディスクF、セットオンッ! カモン・ロックンロールッ!!」
ギラギラーンVVの激しいプレイとともに、膝のハンドマイク型のパーツを、背後から伸ばした腕で口元へ運ぶ。
「ドカドカーン! ツインヴォーカル!」
臀部にもうひとつ組み込まれている拡声回路に、予備のハンドマイクを運び、熱いヴォーカルをシャウトする。それもブームロボとコスモロボによるひとりデュエットだ。対象の固有振動数を限定しない全周波数帯ソリタリーウェーブとグラビティ・ショックウェーブの連続攻撃が、至近距離に迫ったガオガイゴーに迫る。ディスクFから生み出されたそれは、ゴルディオンハンマーを振り下ろす巨大なガオファイガーの姿となった。重厚なる破壊神を模した光の塊が、怒涛の勢いで襲い掛かってきた。だが──
「そのディスクも僕たちは知っている!」
ガオガイゴーはステルスガオーⅡの翼端ウルテクエンジンを展開、ガイゴーの背部ウイングに内蔵されたウルテクエンジンと連動させて、覇界マイクの眼前で直上へ急加速した。
「ホワイ!?」
覇界マイクの追尾センサーからガオガイゴーが消えた。そして、既に放った光の塊たる孤立波と重力衝撃波はそのまま直進、ディバイディングフィールドの中央に置き去りにされていた七体のゼロロボに襲いかかった。
「マイ・ブラザーズッ!!」
ディスクFによる攻撃をまともに浴びたゼロロボ群は、光の塊もろとも光子となって消滅していく。さしものトリプルゼロも、一切この地に残留することはないだろう。
「うわああああっ!」
たとえ覇界の眷族と化していても、兄弟を思う心に偽りはない。悲痛が込められた叫びが轟いても、心を痛める余裕は今の戒道と護にはない。急速上昇に続く急降下で強烈なGに耐えながら、ガオガイゴーは覇界マイクの懐に飛び込んでいった。勢いに乗じて戒道が叫ぶ。
「悪いが……核を抜きとらせてもらう!」
覇界マイクのディスクFは使い切りタイプだ。トリプルゼロにより再生できたとしても時間がかかるはずである。銀色に輝くガオガイゴーは、その隙を逃さず、固く握り合わせた両拳を覇界マイクの胴体部にねじ込もうとした。覇界の眷族と化した勇者ロボを救うため、超AIとGSライドを機体から抜き去る──それが最優先とシミュレーションで決定していたのだ。
「させないっぜ!!!」
追尾の追いついた覇界マイクが、ギラギラーンVVを投げ捨てた両腕で、ガオガイゴーの両拳を受け止める。激しい慣性制御により機体がきしむ。戒道と護の全身もきしむ。
「マイク……!」
護は呆然とした。本来のマイクなら、ガオガイゴーのヘルアンドヘブンに耐えきることなど、到底できなかっただろう。覇界の眷族と化したことによって、これほどに強化されているとは──!
「まだだ、まだあきらめない……!」
戒道はすかさず、ガオガイゴーの両肩からガイゴーの腕部を繰り出した。銀色の輝きに包まれたこの腕をねじ込んで、マイクの核をえぐり出す──いや、救い出す!
そこには覇界マイクを助け出すという決意だけでなく、さらなる想いも込められていたのかもしれない。十年前、このウルルの近くで一年を過ごした記憶が、戒道には存在する。大切な人々と、大切な場所と、大切な思い出。それらを戦禍に巻きこむまいとする強い想いが、必死にこの寡黙な青年を駆りたてていた。
だが、トリプルゼロに浸食された意思は、そんな想いにも匹敵するというのだろうか。
「……マイクだってあきらめないっぜ!」
ハンドマイク型の二本のドカドカーンを投げ捨てた、もう二本の腕──コスモロボの腕部が、瞬時にガイゴーの両腕をからめとった。奇しくも四本の腕と四本の腕がからみあい、覇界マイクとガオガイゴーはスタジオ7の上で互いを組み伏せようとぶつかりあう。両者の機体は、ギシギシと激しい音をたてて、ひしめき、押しあい、対峙を続ける。
「マイク! もう……もうやめようよ!」
護の声には涙がにじんでいる。
「マ……マモル……」
そして、覇界マイクの声にも、それまでには感じられなかった悲しみが混ざっていた。
やがて、二体はもつれあうようにディバイディングフィールドの大地に叩きつけられた。巻きこまれたスタジオ7も衝撃でひしゃげつつ、墜落する。
「うわあああっ!」
「戒道!?」
『戒道くん!』
セリブヘッドから通信機越しに聞こえた悲鳴に、ウームヘッドの護とワダツミのオペレーターシートの華が同時にその名を呼ぶ。
「まずいっ、リンカージェルが劣化して性能が落ちたかっ!」
阿嘉松が長官席から立ち上がって、頭を抱えた。ショックアブソーバーの機能をも併せ持ったリンカージェルはガイゴーの活動とともに劣化していく。元々、大気中の物質を抽出しエネルギーをも合成するガイゴー胸部のTMシステムは、セリブヘッドへの荷重の方が強く、宇宙空間ならまだしも、地上において長く活動するには過度な脳神経への負担を必要としていた。激しい戦闘の連続に蓄積されたダメージが、ついにヘッドダイバーである戒道の脳神経の限界を超え、浄解モードを維持できなくなったのだろう。
「大丈夫……身体はまだ動く……でも、あと頼めるか……護」
「──もちろん! まかせて幾巳!」
「頼もしいな……ユー・ハブ・コントロール……」
「アイ・ハブ・コントロール!」
戒道は残る右半身の操縦権も護に渡した。ファイナルフュージョンした機体が上下反転することはないため、護のいるウームヘッド側からメインで機体を動かすのは至難の業だ。そして、サブとなった戒道も気を失うわけにはいかない。ふたりのデュアルインパルスで稼働するガオガイゴーは、一方の意識が途絶えれば、ただちに機能停止するのだ。戒道は遠くなる意識を必死につなぎとめつつ、相棒にすべてを託した。
(こうなってみると、苦痛もありがたいな。全身の痛みが激しすぎて気絶しないですむ……)
だが、操縦権を護に渡したものの、ガオガイゴーは組み伏せられた状態から動けずにいた。覇界マイクが全力を込めて、四本の腕で締め上げていたからである。
「マイク……もうやめてよ!」
「ソーリー、マイフレンズ……宇宙の摂理のために……ここで……」
覇界マイクの狙いは明かだ。通信機からオペレーターたちの切迫した叫び声が響く。
『天海機動隊長急いでくださいはやく移動してくださいディバイディングフィールドが消滅しますあと三分しかありません!』
『護くん、逃げてっ!!』
いつの間にかディバイディングフィールドの直径は、展開時の三分の一にまで縮小していた。覇界マイクはフィールドの消滅にガオガイゴーを巻きこもうとしているのだ。自らを巻き添えにしてまで。
「くっ、そんなことさせるわけにはいかない……マイクもスタジオ7のなかにいるかもしれない人も……巻きこむわけには──!」
覇界の眷族と化したマイクのパワーに押さえ込まれつつも、護はあきらめてはいなかった。わずかな可能性を探し求め、全員で助かる道を探す。
『光なる者……』
ディバイディングフィールド全体を見下ろす高台で、既にヒトの姿に戻ったラミアが、色素の抜けた身体を横たえるように戦況を眺めていた。傍らにやはりヒト型のユーヤが立ち尽くす。
『私ならまだ動ける』
そこへライが、竹とんぼのようにクルクル回したアーリマンのパーツの一部に掴まって、ゆっくりと降りてきた。
『いえいえ、ユーヤさんは帰りの足にさせてもらえませんかね? 拙者らはしばらく眠らないと回復できませんので』
緊張感のない意思がリミピッドチャンネルで伝達される。
『元凶なりし者……来る』
ラミアは何かを感じていた。
その時──ガオガイゴー内部に通信機から、新たな声が轟いた。
『ファイナルフュージョン承認ッ!!』
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GGGグリーン──ガッツィ・ギャラクシー・ガードの長官代理は、ガオファーのコクピットで強烈なGに耐えつつ、自らのFF要請シグナルに承認をくだした。
ワダツミのブランチオーダールームでそれを確認したアルエットが、細い身体で華麗に回転する。
「ウィ! ファイナルフュージョン、プログラム・ドライブ!」
バレリーナのような回転運動が拳に伝わり、保護プラスティックが叩き割られた。そして、起動されたFFプログラムはガオファーへと転送される。
「よっしゃぁっ、ファイナルフュージョンッ!!」
一塊の高速飛行形態となっていたガオファーとガオーマシン群はファントムチューブ内で形態を組み替え、一体のファイティングメカノイドへと合体した。
「ガオッファイッガーッ!!」
『急いで凱、ディバイディングフィールド消滅まで七十四秒!』
「まかせろっ!」
消滅したファントムチューブから飛び出したガオファイガーは、急減速しながらも亜音速でディバイディングフィールド内に飛び込んだ。空間内部はだいぶ圧縮されている。
『フィールド完全消滅まであと六十一秒ですはやく!』
『護くん、ガオファイガー直上通過まで五秒! 三、二──』
ガオファイガーの接近は、華のオペレートによって正確に伝えられていた。
「凱兄ちゃん!」
「おうっ!」
ガオガイゴーが全力を振り絞り、からみつく覇界マイクの機体を頭上に押し上げた。その瞬間、ガオファイガーがその頭頂部に最接近した。
「うおっ!」
驚きの声をあげた覇界マイクだが、ガオファイガーはガオガイゴーの救援に飛び込んできたのではない。覇界マイクを消滅するフィールドから連れ出すため、上空を通過したのだ。くろがねの巨神の剛腕が覇界マイクをがっしりと抱え、そのままフィールド外へと飛び去った。ガオガイゴーをその場に残して。
『フィールド消滅まであと三十秒──』
縮みゆくフィールド内に取り残されたガオガイゴーだったが、ただちに離脱したりはしない。まだ役目が残っているためだ。同じく取り残されたスタジオ7に取り付き、抱え上げて飛翔する。
『三、二、一……ゼロ!』
完全に閉じきったディバイディングフィールドが消滅したのは、ガオガイゴーの爪先からわずか数メートルの直下。
ゼロロボ群がすべて光子に変換されていたため、分子間圧縮による爆発も発生していない。ガオファイガーとガオガイゴーは、ウルルを臨む荒野に覇界マイクとスタジオ7を降ろし、並び立った。
「護……凱……マイクたちを、助ける……ために……」
覇界マイクの声が戸惑いに揺れる。もはや勇者王たちに抗う気力をなくしたかのように。
「行くぞ、護──」
「うん、凱兄ちゃん──ヘル・アンド・ヘブンッ!」
ガオファイガーとガオガイゴーが、並んで両掌を広げる。だが、セリブヘッドで意識を保つだけで精一杯の戒道は力を振るう余裕がない。護と凱にすべてを託すしかなかった。二体の勇者王はともに全身を緑に染め上げて、覇界マイクとスタジオ7に向かっていく。
ギラギラーンVVやドカドカーン、それに各ディスクも失った覇界マイクは、もはや抵抗しようとはしなかった。
──向かい合って立つガオファイガーとガオガイゴーは、ともに胸の前に両掌を差し出していた。そこに乗っているのは、マイク・サウンダース十三世のAIボックスとGSライド、そしてスタジオ7から抜き取ったオレンジ色の繭のような物体。
「これがゼロ核……」
護と凱は掌の上に並び立ち、それらを見つめていた。
「ああ、この中にGGGグリーンの誰かがいるかもしれない。自分の生命を賭けてまで、トリプルゼロに従ったってことか……」
「そんなのって悲しいよ……」
護と凱は互いの目を見て、そしてうなずきあう。
「僕たちの力をあわせればきっと……」
「ああ、一緒にやるぞ、護」
二人は、ともに唱えはじめる。
「クーラティオー! テネリタース・セクティオー・サルース・コクトゥーラ──」
ふたりのうちから、穏やかな緑の波動が発生する。その波は重なり合い、増幅され、ひとりではなし得ない力となって、AIボックスとゼロ核を包み込んでいった……。
「マモル……ガイ……アリガトウダモンネ……マイク、ウレシインダモンネ……」
AIボックス表面のランプが明滅し、懐かしい声が語りかけてくる。その隣ではオレンジ色の繭が解きほぐされるようにほどけていき、意識のないスタリオン・ホワイトの姿が現れた。彼は、マイクの超AIの人格モデルとなった、マイクにもっとも近しい人物である。
「スタリーさん……」
護はかがみこんで、スタリオンの胸に耳を当ててみた。弱々しくも安定した鼓動が聞こえる。
「よかった……」
凱もエヴォリュダーの能力を発揮して、手をかざし体内検索をする。
「……ああ、トリプルゼロはもう感じない。大丈夫だ」
少しだけ罪悪感を覚えながら、凱はうなずいた。もしかしたら卯都木命と再会できるのではないかという期待──それがかなわなかったことに、内心で落ち込んでいる自分がいたからだ。
ガオガイゴーのセリブヘッドでは、全身の痛みに耐えながら、戒道がその光景を見守っていた。身体はつらそうだが、その顔には満足そうな表情が浮かんでいる。彼にとってその痛みは、大切な何かを守り抜いた誇りをともなうものだったのだ。
そして、少し離れた高台で一部始終を見守っていた三体のソムニウムの人影も、いつの間にやら、いずこかへと消えていた。
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GGGブルーの機動部隊は各地で奮戦、ZR-04を殲滅することに成功していた。だが、その勝利の影には協力者たちの存在があったらしい。
「ベターマンたちが……?」
「そうなんすわ。あのネブラと同じく、巨大化した変身体が現れて手伝ってくれたみたいなんすわ」
ワダツミに帰還した凱に、山じいは整理した情報を伝えた。それによると、巨大な腕につぶされそうになっていた月龍を救ったのは、ベターマン・トゥルバと呼ばれる個体だったらしい。月龍に搭載されているカメラにも記録映像が残っている。サイコカームなる真空を生み出す能力でゼロロボを破壊し、木星圏でもその能力を発揮したベターマン・ソキウスの次元ゲートによって、トリプルゼロによる再生前にすべての破片を宇宙空間に廃棄する全容が映し出されていた。
同じように日龍のカメラには、ベターマン・ポンドゥスが、重力で薄く潰したゼロロボの残骸を逆転重力で四散させ、再生不能にする映像が。
翔竜とビッグポルコートを助けた、緑色のベターマン・フォルテは、サイコグローリーによってゼロロボを物質として存在できないレベルまで粉々に打ち砕いた。
眠ったままの紗孔羅が口にした言葉で、それらの名称は判明したものの、彼らの目的まではわからない。
「ま、ベターマンも地球のお仲間、宇宙から来る敵に対しては我々と一致団結ってことなんじゃないすかね~~」
と、山じいは気楽に語っている。もちろん、凱はそんな気分になれるはずもなかった。
(あのラミアというソムニウムは、俺のことを“元凶なりし者”と呼んだ。どういう意味だ? いったい俺が、なんの元凶だというんだ……)
無論、答えられる者はいない。そして、凱のうちからはどうしても予感が消えなかった。
(あいつらソムニウムは、人類の味方をしてくれたんだろうか? 奴らは覇界の眷族を斃すために、俺たちを利用しているのかもしれない。だとしたら、今日の共闘は、明日の対決の予兆のような気がしてならない──)
浄解されたマイクのAIボックスは、回収された機体とともにアメリカGGGへ送られた。ダブル浄解の波動によるものか、残留トリプルゼロは検出されていない。しかし、事態が収拾されるまでは凍結保管の措置となった。
スタリオン・ホワイトは衰弱が著しく、アリススプリングスという街の総合病院に収容された。覇界の眷族と化していた間の事情が聞ければ、今後の対策に役立つであろうことは疑いない。だが、それにはしばらく体力の回復を待たねばならないようだ。
そして、同じ病院に戒道も一時入院することになった。脳神経はほぼ回復してきたが、不安定な浄解モードの際に全身の打撲に加えて肋骨を折っていたため、骨がくっつくまでは軌道上のオービットベースへ上がらない方がよいと診察されたのである。もっとも、もともと強靱な身体構造である上、鍛えられている。長期の入院とはならないだろう。
だが、この入院は戒道にとって、予想外のご褒美となったようだ。
「テンシ……テンシ大丈夫!?」
そう叫びながら病室に駆け込んできたのは、花束を抱えて、健康そうに日焼けした栗色の髪の女性だった。
「ケガしたって聞いて、ビックリして飛んできちゃったよ」
個室のベッド上で上半身を起こしていた戒道の袖口にしがみついて、大きな瞳に大きな涙を浮かべている。
ベッドサイドの椅子に座っていた護と華が、目を丸くしている。
「僕の名前は戒道幾巳だ……いつもそう言ってるだろう」
「わかってるけど……テンシの方が言いやすいんだもん」
苦笑しながら訂正する戒道の前で、目を赤くした女性が唇をとがらせる。直後、戒道を思いっきりハグした。
「おい、やめろ、みんな見てる」
「え?」
そこでようやく彼女は、室内に初対面の人物たちがいることに気づいたようだ。
戒道から離れ、真っ赤になって、頭を下げる。
「あ、あの、私……ユカ・コアーラです! テンシ……じゃなくて、戒道……さんとは仲良くしてもらってます。お二人は天海護さんと奥さんの華さんですよね? いつも聞いてます、一番のトモダチだって……」
元気よくまくしたてる女性の勢いに気圧されつつも、護と華も自己紹介した。もっとも、その必要はないくらい、ふたりのことはたくさん聞かされているらしい。
しばらく話し込んだ後で、華が花束を受け取りつつ、立ち上がった。
「ユカさん、私、花瓶にいけてきますね」
「あ、僕も手伝うよ」
護は華と一緒に通路に出た。花をいけるくらい、手伝う必要などないのだが、戒道とユカをふたりきりにさせてあげようと思ったのだ。給湯室に向かった華を見送りつつ、通路の奥を見た護は、見覚えのある姿に気がついた。
壁にもたれて、GGGスマホをのぞきこんでいる少女。差し迫った用がある様子には見えない。暇をもてあましているかのようだ。
護は彼女のかたわらに歩いて行き、声をかけた。
「……ありがとう」
その声に顔をあげたアルエットは、怪訝な顔になる。
「ありがとうって何が?」
「ユカさんを連れてきてくれたの……君でしょ」
「………」
アルエットは無言で、GGGスマホの方に視線を戻した。護はためらいつつも、問いかけてみる。
「……よかったの?」
今度は「何が?」とは問い返さない。質問の意図を理解した口調で、つぶやく。
「怪我人には、会いたい人に会わせてあげるのが特効薬でしょ。私は戒道さんにはやく治ってほしいだけ」
「そうだね……」
護はうなずいた。
(君、優しいんだね……)という言葉は、口に出そうとして、ためらわれた。なんとなく、アルエットは自分のことをそんな風に評価してもらいたいわけではないだろう──そう思ってしまったのだ。
西暦二〇一七年初頭、覇界の眷族との戦いはまだ始まったばかりだった。
(number.05へつづく)
著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ
次回7月24日(月)更新予定
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