覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第32回】

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《前回までのあらすじ》

 無へと向かうエネルギー<トリプルゼロ>に浸食された旧GGGは、全てを破滅へ導く<覇界の眷族>となり、GGGグリーン&ブルーをおびき出す。
 ハワイのプナ地熱プラントで覇界ゴルディーマーグと死闘を繰り広げるガオファイガー。一方、ドバイのメガソーラー発電所に向かった月龍、日龍、翔竜を待ち受けるのは覇界光竜と覇界闇竜。その強烈な破壊力による攻撃に、翔竜が犠牲となった!

number.05 恨-URAMI- 西暦二〇一七年(5)

5(承前)

 数千枚のヘリオスタット反射鏡群が、一糸乱れぬ稼働によって形成した巨大凹面鏡。それによって反射された光は、メガソーラー発電所上空を飛ぶ翔竜がいる位置を焦点として凝集する。
 叫び声をあげる間もなく、小柄な勇者ロボの機体は高熱に焼かれ、次の瞬間、爆散した。
 ZR─06の頂上にいた覇界光竜と覇界闇竜がその光景から目を背ける。

「ごめんね……」
「あなたの犠牲は無駄にしません。きっと宇宙の摂理を……」

 悲痛を隠しきれない声で姉妹がつぶやく。トリプルゼロによる浸食で倫理観を上書きされてしまったとはいえ、その性格まで変貌したわけではないのだ。

「──後進を犠牲にしてまで!」
「宇宙の摂理とやらがお大事なの!?」

 下方から迫り来る声に、覇界光竜と覇界闇竜は地上の方を見る。彼女たちの視界に入ったのは、ミラー粒子を剥離させながら飛来する、自分たちによく似た二体の姿だ。
 翔竜が反射光に焼かれた姿は、ヤマツミの艦外カメラにも捉えられていた。艦内回線でそれを知った二体の動揺冷めぬまま、GGGブルーのクルーは、ミラーカタパルトから即座に彼女たちを銀色の弾丸の如く射出したのである。
 射出の勢いに自らの質量を乗せて、銀と金の姉妹が白と黒の姉妹に殴りかかる。

「あああっ!」

 痛打を浴びた覇界闇竜が、集光タワーの頂上から弾き飛ばされた。だが、その機体は即座に、覇界光竜が伸ばしたメーザーアームに拾い上げられる。

「気をつけて、闇竜!」
「ありがとう、光竜」

 空中で体勢を立て直し、タワーから飛び出した枝状の構造物の上に着地した月龍と日龍は見た。同じ打撃を受けた覇界闇竜だけが吹っ飛ばされ、覇界光竜のみがその場に踏みとどまった理由を。

「あれは……」
「集光タワーと接続されていますの!?」

 ――覇界光竜の機体には、数本の大容量ケーブルが接続されていた。それは彼女を縛り付ける鎖のようにも見える。かつての<フツヌシ事件>を知る者がこの場にいれば、フツヌシから取り外されたGSライドの代わりに光竜がジェネレイターとして組み込まれた光景を思い出したかもしれない。その時は光竜のGSライドからエネルギーを取り出していたのだが、今回は違う。

 

「そうか……メガソーラー発電所で発生した大電力を使って、オービットベースを狙うつもりだ!」

 そう叫んだのは、覇界光竜の様子が映し出されたメインスクリーンを見る楊博士である。チャフ雲の上に出たことで、月龍と日龍が目撃した光景はオービットベースにまで中継されるようになっていた。

「光竜のメーザー砲でか!? おいおい、ビークルロボの装備がそんな大出力に耐えられるってのかぁ?」

 阿嘉松の問いに、楊は冷静に答える。

「捨て身の戦法ともいえる。いまの光竜と闇竜は、覇界の眷族だ。トリプルゼロによって強化された機体でなら、その身を滅ぼしても十分に攻撃は可能なのだろう」
「ええい、そういうことか! タマラ、生体反応は観測できたか?」
「はい長官いま検出しました光竜の右脚部と闇竜の左脚部にそれぞれ一人ずつ確認できましたー」

 メインスクリーンに映る覇界光竜と覇界闇竜の姿に、マーキングが重なる。GGGブルーの隊員たちにとっては一目瞭然、そこはビークルマシン形態時には運転席となる部位だ。

「月龍、日龍……戦術目的の第一位はゼロコアの確保。第二位はオービットベースへの攻撃阻止。第三位は光竜、闇竜の超AI確保だ!」
『了解!』

 楊の指示に月龍と日龍が応じる。うなずきつつ、楊は心中で考えていた。

(同型のビークルロボ二体と二体……トリプルゼロに浸食された分だけ、敵が有利。あとは荒療治がどこまで効果を発揮するか、だな)

 

 オービットベースからの指令を受けて、月龍と日龍は集光タワーの頂上部へ躍り出た。タワーからの大電力を受けて射撃姿勢にある覇界光竜を守る楯となるように、覇界闇竜が立ちはだかる。

「光竜……彼女たちは私にまかせて、あなたはオービットベースを!」
「わかった!」

 覇界光竜は背部にマウントしたメーザー砲を天へ向けた。即座に撃たないのは、次射へのエネルギーチャージのためか。

「シェルブールの雨!」

 覇界闇竜のフレキシブル・アームドコンテナから、小型ミサイル群が発揮される。

「いまの私たちには通じない! プロテクト・プロテクター!」

 覇界闇竜が放ったミサイルはすべて、月龍の肩部マント状ユニットの奥より発生する六つの空間湾曲シェードが阻む。空中に連続する爆発の圧力も、ユニットが楯となって通さない。

「翔竜の仇……赦さなくてよ! ブロウクン・ブレイカー!」

 月龍の楯の影から、日龍の矛が飛び出す。高速回転する六基の高速回転ユニットは、乱打となって覇界闇竜に浴びせかけられた。
 覇界闇竜は腰部にマウントしていたミラーシールドで防ごうとする。だが、飛んできた月龍の有線ユニットがそれを弾き飛ばし、息の合った連携で日龍のユニットが攻撃! 覇界闇竜はタワー頂上に叩きつけられた。

「あああっ!」
「闇竜!」

 覇界光竜が必死に手を伸ばす。だが、ケーブルで自由を奪われている彼女の手は、姉妹のところへ届かない。

「たとえ貴官らがトリプルゼロの力を手に入れていようと──」
「私たちの怒りと連係の前には無力ですわ!」

 日龍が気高く宣言するかのように叫ぶ。旧GGGの勇者ロボたちは、たしかに人類存亡をかけた壮絶な戦いを勝ち抜いてきた。だが、強敵との戦いがなかったとはいえ、巨大な災厄に脅かされた人類を支えるため、GGGブルーもまた苦難に抗い続けてきたのだ。その期間はけっして短くはない。月龍と日龍の実戦練度は、先輩たちに劣るものではなかった。

「でも、私たちにだってやらねばならないことがあるのです……!」

 覇界闇竜は反撃をあきらめ、防御に徹した。オービットベースを攻撃するまで、覇界光竜を守れればよい──たとえ自分が倒れようと、それで宇宙の存続に寄与できる……という決意であろう。
 だが、次第に傷ついていく姉妹の姿を見て、覇界光竜が叫んだ。

「もういいよ、闇竜! 来て……一緒に決めよう!」
「光竜……わかりました!」

 一瞬の躊躇の後、覇界闇竜はおのが半身のもとへ飛び込んだ。月龍と日龍は後を追おうとして立ち止まり、互いの目を見る。そして、うなずきあった。

 

「月龍と日龍、シンパレート一〇〇! シンメトリカルドッキング可能です!」

 機動部隊オペレーターシートに表示された画面を見て、初野華が叫んだ。メインオーダールームが沸き立つ。
 双子勇者の超AI同調率を示すシンパレートが一〇〇パーセントに達したことは、これまでも幾度かあった。だが、常にその数値が出せたわけではなく、GGGブルー首脳部は原因を特定できずに頭を抱えていたのである。原種や遊星主との戦いに投入されてきた過去の竜シリーズと異なり、月龍と日龍は単独任務で救助活動にあたることが多かった。そのため、ライバル意識が過度に発達してしまったのではないかという推測もされてきたのだが──

(私の予測が当たったということか……)

 楊は深くうなずくと、阿嘉松長官の方を振り返った。

「長官、シンメトリカルドッキングの承認を!」
「お、おう、そうだったなッ! シンメトリカルドッキング承認んんんっ!!」

 阿嘉松がメインスクリーンに映る月龍と日龍を指さしつつ、叫ぶ。

 

 覇界闇竜が覇界光竜のもとに飛び込み、月龍と日龍が息をあわせて宙に飛ぶ。そして二組の姉妹が同時に叫んだ。

「シンメトリカル!! ドッキング!!」

 竜シリーズと呼ばれるビークルロボたちは、それぞれに兄弟姉妹に相当するパートナーを持っている。二体の機体と超AIをひとつに統合し、竜神と呼ばれる合体ビークルロボになることが可能だった。そのために必要な条件が、シンパレートが一〇〇パーセントに達することなのだ。
 ケーブルに接続されたままの覇界光竜が右半身となり、覇界闇竜が左半身となって白と黒の竜神が完成する。

「天・竜・神!!」

 その眼前で月龍が右半身、日龍が左半身となって、銀と金の竜神が誕生する。

「星・龍・神!!」

 二体の竜神は、集光タワー頂上部で向かい合った。決して広くはない空間。手を伸ばせば、すぐに届く距離。だが、天竜神にも星龍神にもやるべきことがある。捨て身の対決はできなかった。

「はじめまして、星龍神……そしてこれがお別れね、残念だけど」
「そうはさせませんわ、天竜神…そしてご挨拶しておきます。はじめまして」
「こちらは身動きできない。そちらは、あの可愛い弟の仇をとるつもりかしら?」
「ええ、その通りですわ!」

 ビークルロボ時の背部ユニット二体分を豪奢なマントのように背に広げ、星龍神が高らかに宣言する。

「翔竜の仇である覇界の眷族を討ち取り、私たちの先輩である貴女を取り戻す……だから、お別れとはなりませんわ。天竜神……お覚悟を!」

 星龍神はその言葉とともにつかみかかった。攻防ユニットは使わない。まずは戦術目的の第一位を実行しなくてはならないからだ。ビークルマシン形態での運転席は、合体ビークルロボにおいて両肩となる。そこからふたつのゼロコアを抜き取ろうというのだ。
 だが、その行動は覇界天竜神に読まれていた。伸ばした二本の腕、その手首が捕まれる。

「残念ね、星龍神。オービットベース殲滅だけを考えればいい私の方が、自由の身みたい」
「………」

 星龍神は答えない。無言で両腕に力を込める。だが、覇界の眷族となった覇界天竜神との力の差は明白だった。じりじりと押し返しながらも、覇界天竜神には余裕すらある。

「お気の毒様。戦術目的が多い戦い……さぞ不自由でしょうね」
「不自由……? 撃龍神先輩の記録でも閲覧したのですか?」
「ええ、そうよ。かつて楊博士からたくさんの戦術目的を与えられたお兄様は、自分で順位を書き換えたそうよ。あなたもそうしたら?」
「天竜神、いま貴女の戦術目的の第一位はなんなのです?」

 答えが数秒、遅れた。それが迷いであったのか、他のなにかであったのか、明らかにする術はない。だが、覇界天竜神はかすかに苦しい響きをにじませて、言葉をつむぐ。

「戦術目的の……第一位は…もちろん、宇宙の摂理……それが勇者としての私の……」
「違います!」

 叫びながら星龍神は、両肘から先を分離して飛び退いた。ビークルロボ時には携行装備となる前腕部は、容易に切り離すことが可能だ。

「勇者として、戦術目的の第一位は常に人命尊重! 宇宙の摂理など、トリプルゼロに強制的に上書きされたもの!」

 握りつぶされそうになっていた両腕を分離したことで自由になった星龍神は、背部攻防ユニットを有線コントロールで展開する。

「天竜神、貴女ならわかるはず……!」

 握りしめていた星龍神の両腕が、集光タワー頂上部に転がる。覇界天竜神が呆然と立ち尽くしたのは、なにかが超AIに負荷をかけたのだろうか。それは星龍神の言葉か、それとも覇界天竜神のうちに残されていた記憶か。
 いずれにせよ一瞬の隙を逃さず、マント右半分の攻撃ユニットが高速回転しつつ、覇界天竜神の両肩にめりこんだ。狙い過たず、ユニットはビークル形態時の運転席となる両肩から、ふたつのゼロコアを押し出し空中に弾き飛ばす。そしてマント左半分の防御ユニットがそれを捕獲。直後、星龍神は素早く両腕を回収、ジョイントするとその腕にゼロコアを受け取った。
 その瞬間、星龍神の超AIは達成感よりも戸惑いを感じる。

「天竜神、貴女はやはり……!」

 覇界の眷族が、あっさりとゼロコアを回収させた。自分のなし得たことというよりも、覇界天竜神がそれを許してくれたように、星龍神には思えたのだ。
 だが、その思いを裏切るかのように、覇界天竜神が突進する。

「違う、違う……私は宇宙の摂理のために!」

 背部バーニアをトリプルゼロの出力を以ってフル噴射した合体ビークルロボ。その全質量を乗せたショルダータックルの威力は絶大だった。ゼロコアを回収した無防備な体勢で、不意をつかれた星龍神の機体は、地上一〇〇〇メートル近いタワーの頂上から、空中に押し出された。

「!! ……各ユニット再起動までに十数秒を要します! 落下を防げませんわ!」

 

 ドバイにおける姉妹勇者たちの戦いは、ヤマツミからオービットベースにも転送されていた。

「マズイよ! 飛行できない星龍神が、あの不安定な体勢で地面に叩きつけられたら!」
「長官……いまこそ封印を解こう!」

 プリックル参謀と楊博士の視線を受けて、阿嘉松長官が即断する。

「いよぉぉぉし! トリニティドッキング承認んんッッ!!」

 阿嘉松の絶叫に、耳が痛む思いを感じながら、初野華はオペレートを開始する。ドバイの空に溶け込み気配を消していた勇者へ、新たな合体プログラムのアンロックを送信したのだ。

 

 高度一〇〇〇メートルから落下しながらも、星龍神は、両腕につかんでいたふたつのゼロコアを両肩の運転席に収容した。このまま地上に叩きつけられるなら、耐衝撃シートがある場所の方がよいと判断したのだ。その時、星龍神のかたわらで、空気が揺らいだ。いや、蜃気楼の向こうに何者かがいる。

「……ホログラフィックカモフラージュ!?」
「違います、遠隔プロジェクションビームユニット<ウツセミ>を増設してもらったんです」

 虚空から幼い声が応える。その直後、空中投映されていた虚像を解除して、翔竜が姿を現した。

「翔竜……無事だったの!?」
「ごめんなさい、姉様方……あ、星龍神となった今は単数形の姉様でいいんでしょうか?」

 落下する星龍神に相対速度をあわせた状態で飛行しながら、翔竜が困惑した声を出す。

『お前ら、そのままじゃ地上に激突するぞぉっ! 承認したんだから、さっさと合体しろォッ!!』

 阿嘉松長官の声が響く。

「そうでした!」

 翔竜があわてたように応え、星龍神が我に返る。今はなすべきことを見失ってはならない。大地への激突が迫るなか、星龍神は叫んだ。

「……トリニティドッキング!」

 そのボイスコマンドによって、翔竜の超AIはスレーブモードに入った。もともと、<GBR─05>は超竜神の追加ユニットとして開発されていた機体である。グリアノイドというカテゴリーが定義されたことでそこに含まれた翔竜は、ドッキングプログラムが走ると同時に、自分の制御権を委譲するのだ。
 ビークルマシン形態に近い姿へ変形した翔竜が、星龍神の背にドッキングする。三機分のGSライドが同調して、星龍神の背部に宿った翼に力を与えた。いや、その勇者の名は星龍神ではない。その名は──

「翔・星・龍・神 ―――!!」

 合体ビークルロボがグリアノイドとドッキングして誕生した新たなる勇者、翔星龍神がドバイの空にその姿を現した。かつてはSPパックや、クライマー1といった補助装備が存在した竜神シリーズだが、星龍神側の出力を翔竜側の飛行出力へ最大限に活用しただけではなく、連携独立AIによる高速アクロバット飛行の制御までも実現した三体合体は、最高峰の技術の結晶と呼ぶべき高性能を誇る。
 かつて、超竜神の強化プランとして設計された姿──翔超竜神。ゴルディオンハンマーの開発を急ぐために封印されたそのプランが、十数年の時を経て、ここに再臨したのだ。

 

「まんまと騙されましたわ」

 ひとつに統合された三つのAI。その苦言の矛先はヤマツミのクルーに向けられているようだ。

『翔竜は私の指示に従っただけだ。恨むなら、私を恨んでもらおう』

 女神の怒りを鎮めるかのように、楊博士の冷静な通信が割り込んできた。もともと、作戦開始前にウツセミを組み込んで、撃墜されるように偽装する演技を指示したのは、楊だったのだ。

『これまで、月龍と日龍のシンパレートが一致したのは、常に翔竜が危機に陥った時だった。ならば、その状況を再現すれば、覇界の眷族に対抗しうる力が目覚めるかもしれないと考えたのだ』
「ひどいことを平気でなさるのですね、楊博士。……私たちをなんだと──」
『勇者だと思っているよ。だから、いまなすべきことを見失ったりはしないはずだ』

 楊がぬけぬけと言ってのけた。実のところ、メインオーダールームにいるすべての者が、そのずうずうしさに一瞬、あっけにとられたのだが、星龍神にはそこまで伝わらない。

「ふう……わかっていますわ。今、なすべきこと!」

 伝わらずとも、その魂は紛れもなく勇者であった。

 

 高度一〇〇メートルに浮遊し見上げる翔星龍神を、一〇〇〇メートルの集光タワー上から覇界天竜神が見下ろす。それは新たなる仲間の誕生を祝福する視線ではない。

「翔星龍神……どうしても私の邪魔をしようというのね。なら、戦術目的を変更する」

 覇界天竜神はそうつぶやくと、背部フレキシブル・アームドコンテナから、無数のミサイルを発射した。
 タワーに寄り添うように上昇飛行する翔星龍神。そこにミサイル群が接近する。

「ステキな先輩……その程度で私が止められるとでも思いまして?」

 だが、アクロバット飛行で避けたりはしない。ミサイル群が着弾するかに見えた瞬間、翔星龍神の背部ウイングから磁力線が放たれた。それは翔竜に備わっていた固有装備である。
 ミサイルはシーカー波を放ってアクティブ・ホーミングを行っていたのだが、それが磁力線で乱された。標的を誤認させられたミサイルは、次々と地上へ向かい着弾していく。進路を変えずに飛翔する星龍神は、まったくの無傷である。
 ミサイルの爆発により、メガソーラー発電所敷地内のヘリオスタット反射鏡群が破壊され、爆風がその破片を宙に吹き飛ばす。

「可愛い後輩……止められるとは思っていないから、こうするのよ」

 そう言うと覇界天竜神は、集光タワーと接続されていたケーブルを外して、宙に舞った。

 

「おい、あいつ、給電ケーブルを外したぞ!」

 メインオーダールームで、阿嘉松の言葉に楊が推測で答える。

「オービットベースへの攻撃を断念、翔星龍神を撃破することに戦術目標を変えたのか……」
「だとすると……来るぞ、あの攻撃が!」

 

「天竜神……光と闇の舞!」

 まさに楊の言葉に続けたかのようなタイミングで、宙に舞った覇界天竜神が必殺の技を放った。背部パワーアーム・メーザーから放たれた光の槍が、空中の翔星龍神を襲う。

「!」

 翔星龍神は三機分のGSライドの出力による高機動で、これを見事に回避した。
 だが──
 無数のヘリオスタット反射鏡の欠片が、メーザーを反射する。もちろん、熱線攻撃の直撃に耐えられるはずもなく、欠片ひとつひとつは一瞬で蒸発してしまう。それでも蒸発の度にわずかながら射線が曲がっていき、無数の欠片は結果としてメーザーを折り返したのだった──翔星龍神のもとへ!

「ああっ!」

 ミサイル攻撃はこのための伏線だったのだ。もともと衛星軌道上のオービットベースを狙うための大電力によるメーザー攻撃である。トリプルゼロに強化されたこともあり、以前の天竜神のそれより威力が格段に増している。避ける間もなく、輝きのなかで消え去っていく、合体ビークルロボのシルエット。

「ああああっ……!」

 翔星龍神の断末魔がこだまする。

「今度こそ、お別れよ……」

 おのが姿によく似た現し身の喪失を悼むかのように、覇界天竜神がうつむく。
 その時──虚空に少女の苦鳴が響いた。ドバイの空に、人の傷口が出現した。いや、傷口のように見える異形は、門である。シャーラという名のソムニウムが産み出した、超空間径路──ソキウスの路の出口だ。

 

『ンー、ヒトの作りし機械人形どもが何やらやらかしているようだな』

 ソキウスの路を経て、集光タワーの頂上部に現れたのは羅漢、ガジュマル、そしてユーヤ。三体のソムニウムの意志が、リミピッドチャンネルを経て交錯する。

『ちっ、覇界の眷族め……好き放題やってくれる』
『急げガジュマル、猶予はないぞ』

 タワーに取りつく少年のようなガジュマルと、ドレスを着た貴婦人のようなユーヤ。

『わかっている』

 ガジュマルは喰らいついた。懐から取り出した物体、アニムスの実──ソムニウムの身体を変貌させる異形の果実に。すぐにユーヤも続く。

 

「ベターマン! こっちにも現れやがった!」

 ヤマツミから送られてきた映像に、阿嘉松はうめいた。メインスクリーンの映像には、二体のベターマンがトゥルバ、ルーメと呼ばれる形態に変身していく姿が映し出されている。いずれも以前、木星で観測された形態だ。
 別のモニターに映し出されているハワイでの戦い──ワダツミからの中継映像にも、駆けつけたベターマンの姿がある。

「あいつら、人類を助けてくれるっていうのか? いや、敵の敵は味方ってことか……」

 木星での戦いにおいて、覇界王を斃すために共闘した<ベターメン>を思い出しつつ、阿嘉松はつぶやく。

「ならそれでいい……こっちもお前さんたちを利用するだけのことだ」

 

『ンー…それでは凡愚なる者に力を与えてやるとしよう』

 傲慢な意志をリミピッドチャンネルに乗せ、さらに傲慢な表情で羅漢が微笑む。

『ペクトフォレース・サンクトゥム!』

 羅漢の胸門から、虹色の粒子が放たれた。それはベターマン・トゥルバとベターマン・ルーメに浴びせられ、彼らの身体をパズルのように分解していく。そして複雑に組み合わさった二体は、合体ベターマンとなって集光タワーの頂上部に降り立った。
 目の前で行われた異形の儀式に、覇界天竜神が怯えた声を出す。

「やだ、キモイ!」

 覇界の眷族と化しても、その感性はかつてのそれを残しているのだろうか。トゥルバ・ルーメは体格でいえば、覇界天竜神の半分もない。だが、エリマキトカゲにも似た巨獣トゥルバが、光のクラゲのようなルーメと融合したその姿は、光のドレスを纏った恐竜顔の女神といった容貌。たしかに生理的嫌悪感を抱かせるに十分なものがある。

「キモイ? ……可愛らしい乙女のようなことを言うのですね、先輩!」

 覇界天竜神の背後に、もう一体の巨体が出現する。光と闇の舞──かつて、東京に恐怖と絶望をもたらしたEI─01の攻撃を解析して編み出された必殺技──を浴びて、焼き尽くされたかに見えた翔星龍神である。

「やっぱり……さっきと同じようにプロジェクションビームで!」
「ご明察」

 つい先ほど、翔竜が使用したユニット<ウツセミ>……それはまだ翔星龍神の背部に装備されたままだった。月龍と日龍をあざむくための装備が、今度は覇界天竜神に幻を見せたのである。
 覇界天竜神の前方にトゥルバ+ルーメの合体ベターマン。後方に翔星龍神。女神と女神の戦いは、恐竜の女神の参戦もあいまって、いま終局を迎えようとしていた。

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回2月更新予定


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