覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第34回】

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《前回までのあらすじ》

 無へと向かうエネルギー<トリプルゼロ>に浸食された旧GGGは、全てを破滅へ導く<覇界の眷族>となり、我々人類に牙をむく。
 かろうじてマイク・サウンダース13世やスタリオンを救い出した新生GGG。
 だが、覇界の眷族がハワイのプナ地熱プラントと、ドバイのメガソーラー発電所に出現した。ハワイでガオファイガーが覇界ゴルディーマーグと死闘を繰り広げる一方、ドバイには月龍、日龍、翔竜が向かう。待ち受けていた覇界天竜神に対して、三体の勇者は翔星龍神となって立ち向かう。しかしその頃、軌道上のオービットベースにも異変が起きていた。

number.05 恨-URAMI- 西暦二〇一七年(7・完)

8

「ウラミ……ウラミ……ウラミ……
 恨みがこころを惑わせる………
 恨みがからだを傷つける………
 恨みでいのちが……死滅する…」

 

 その日、某家電量販店営業部員である蒼斧蛍汰は半休をとって、午後からの出社となっていた。午前中にとある個人的な契約をすませる必要があったからだ。無事、契約を終わらせた蛍汰は昼食をとる前にと、メールを打ち始める。そして、打ち終えるともに勢い込んで送信した。

「……あれ、なんだこりゃ?」

 恋人へ送ったメールが、見たこともない正体不明のエラー表示とともに戻ってきたのである。

「おっかしーなー。地球防衛組織のサーバーが簡単に落ちるとも思えないんだけどなー」

 一刻もはやく、直接伝えたいことがある……その思いで、通話できるタイミングを問いかけるメールであった。
 低軌道を周回しているGGGオービットベースは、天候や時間帯によっては地上から見つけることもできる。淡い期待を込めて、蛍汰は空を見る。だが、曇天の向こうに彩火乃紀がいるであろう場所を見つけることはかなわなかった。

 

 蛍汰がメールの不着に悩んでいた頃、火乃紀は無重力空間の暗闇を進んでいた。ダイブスーツ着用時に付けるのは珍しい右太股のサイ・ウォッチの文字盤から放たれる光が、狭い閉鎖空間をわずかに照らしている。ほのかに照らし出された壁面の表示を、火乃紀が読み上げる。

「二十六…二十六……二十六層M区画、ここね」
「火乃紀さん、下がってて」

 真剣な声でそう告げ、壁面に向かって右手を突き出したのは同じくダイブスーツ姿の天海護である。

「はああっ!」

 右手から放たれた念動力の輝きが、ALCパネルの壁面を穿って人間が通過できるサイズの孔を開けた。

「目の前で見せられるとやっぱりすごい能力ね。疲労感はない?」
「これくらいなら全然大丈夫」
「そう、行きましょう、目的地はこの先よ」

 臆することなく、壁面の裏側の暗闇へと続く孔へと身を躍らせる火乃紀。護もその後に続いていった。
 ──覇界の眷族との戦闘が続くさなか、ダイビングチャンバーで待機していた護と火乃紀が持ち場を離れたのは、独自の判断である。今より先立つこと、十五分ほど前。突如、オービットベースの人工重力と通信システムが稼働停止したことに起因する。

「火乃紀さん、何が起きたの? まさかGSライド区画にトラブルが!?」

 室内灯も消えた室内で床面から離れて漂いはじめた護が、深刻な表情で問いかけた。オービットベース全域の電力は勇者ロボのジェネレイターでもあるGSライドによって、供給されている。その制御システムにトラブルが発生したとしたら、この事態もうなずける。
 壁面のコミュニケーターが不通となっていることを確認した火乃紀は、時計の文字盤の輝きを頼りに空気循環口に顔を近づけてみた。ひんやりとした空気が、頬をなでる。

「エアが流れてる……予備動力がダウンしたわけじゃないわ」

 無重力、もしくは低重力下では空気が対流することがないため、人工的に循環させなければ呼吸にすら支障をきたす。もちろん、正常時は重力制御装置が働いているのだが、なんらかのトラブルでそれが停止したとき、予備動力による空気循環が開始されるのだ。

「でも、おかしいな。予備動力が生きてるなら、通信系統は維持されるはず」
「ええ、それに、扉のロックも開放されなければおかしいわ」

 火乃紀はダイビングチャンバーの出入り口の開閉スイッチに触れてみたのだが、反応する様子がない。どうにも不可解な状況である。

「重力制御と通信系統がダウンしてるのに、ECLSS環境制御・生命維持システムは生きている──ってことは……」
「護くんがいま想像している通りよ。誰かが意図的に操作している……」
「誰かって、誰が……!?」
「……確かめるしかないわ」

 そうつぶやくと、火乃紀はロックを解除した扉から、通路に出た。そして、暗がりの奥に向かって身を躍らせる。護もあわてて、その後に続いた。

「気を付けて! 何が起こるか分からない。僕から離れないように……」

 そうして火乃紀と護は今、二十六層M区画にたどりつき、ブロック間の狭い空間に入り込んだところだった。ここを進めば、最短距離で諜報部コマンダールームに到達することができる。胸を痛めたような表情でつぶやく火乃紀。

「……きっとそこに、この異常事態の元凶がいる」

 十年前、旧GGGが三重連太陽系に旅立つ直前、国連評議会がオービットベースの全コントロールを掌握したのだが、獅子王凱がエヴォリュダー能力によるハッキングでこれを奪回したことがある。この事態は、国連に対して大きな教訓を残した。どのような対ハッキングシステムも完全ではあり得ないと──。
 そのため、現在のオービットベースの中枢システムは外部ネットワークから完全に遮断された、閉域網となっている。火乃紀の言葉を受けて、護の表情に理解と驚きの色が浮かんだ。

「……やっぱり、オービットベース内部からの!?」

 火乃紀が無言でうなずく。彼女の表情に浮かんでいるのは、悲しみと決意の色だった。

 

「……行かないで…行かないで……
 からだに穴を…あけられる……
 たくさん…たくさん…血が出るの……
 おおきな穴が…いくつも…いくつも……
 いつくも…いくつも…いつくも…いくつも……」

 

「……考えたくはないが、オービットベース内部に覇界の眷族の内通者がいたということか」
「おいおい、楊の旦那! この停電が奴らの協力者のせいだってのかっ!」

 メインオーダールーム、無重力状態で席にしがみついている阿嘉松長官が、姿勢を乱さぬまま平然としている楊博士に食ってかかった。

「可能性の問題だ。だが、そう考えれば、ひとつ辻褄があう」
「ツジツマ? 難しい言葉だね……誰のワイフ?」

 プリックル参謀のボケなのか、真剣な質問だかわかりにくい問いかけを、楊は無視する。

「覇界天竜神が大出力メーザー攻撃で、このオービットベースを狙ったとしても、こちらにはプロテクトシェードが装備されている」
「確かにそうだが……」

 今更ながらに、阿嘉松も納得した。プロテクトシェードは空間を湾曲して、外部からの攻撃を反射する防御システムだ。たとえメガソーラー発電所の大出力による攻撃でも、貫通することはあり得ない。以前、万里の長城と融合した機界原種ZX-05の攻撃を防いだ事実。その後、原種七体に潜入を許すきっかけとなった、システムに於ける0.02ミリのわずかなエラーピンホールも改善されている。現在、敵側にいる旧GGG隊員たちとて、そのことを知らぬはずがないのだ。

「覇界の眷族が、プロテクトシェードが喪失することを前提の上で、作戦をたてていたとしたら……」
「おいおい、じゃあ今すぐにも地上から狙撃される可能性があるってことか! どうするんだよ!」
「我らの勇者を……翔星龍神を信じるしかあるまい」

 通信システムがダウンしたため、オービットベースにドバイの状況は届かない。この時、女神の対決はすでに決着の時を迎えていたのだが、それを知る術はなかった。

 同じ頃、オービットベース内のメディカルルームでは、暗闇にかすれた小さな声が響いていた。内部バッテリーに切り替わった医療機器マニージマシンで眠り続けている紗孔羅が、うなされるように何かを訴える声だった。

「ウラミ…ウラミ………コ……ロ…サレ………ル……」

 内線すら繋がらない状況で、その声は誰にも届くことはなかった。もし、それがリミピッドチャンネルを介してソムニウムに伝わっていたとしても、何が起きているのかを悟るにはあまりにも不確かな弱い意識でしかなかった。

「やあ、火乃紀くん、遅かったじゃないか」

 区画間の隙間を進んで、諜報部コマンダールームにたどりついた護と火乃紀を出迎えたのは身近な人物だった。

「……カムイさん!」
「やっぱり、あなただったの……」

 驚く護の隣で、火乃紀は複雑な表情を浮かべている。当たってほしくはない予想が当たっていた……そんな顔に他ならない。
 オービットベースのシステムに内部から侵入するならば、諜報部の人間がもっともたやすい。もちろん幾重ものセキュリティが存在するのだが、鷺の宮・ポーヴル・カムイの諜報部次席オペレーターとしての権限ならば、一般隊員よりそのハードルは低くなるはずだ。
 いや、職責以上に火乃紀は危ういものを感じていたのだ──カムイの昨今の言動に。

「最近のカムイさん、どこかおかしかった……でも、なんでこんなことを!」
「こんなことってのは、どんなことだ~い?」

 甘いマスクの下半分がぐにゃりと歪む。もしかしたら、微笑んだのだろうか。だが、目元からそれをうかがうことはできない。顔面の上半分は、巨大なゴーグルに覆われているからだ。オペレーターシートに座ったまま、エレクトーンで大道芸でも披露しているかのように、両手両脚が複数のキーボードや入力デバイスの間をせわしなく動き回り、いまこの瞬間もセキュリティクラックを続けていることがうかがえる。

「カムイさん、信じたくはないけど……本当に覇界の眷族に協力しているんですか!」

 護が右手をカムイの方に突き出した。これまで、護は自分の念動力を普通の人間に向けて使ったことはない。だが、相手がハッカーならば入力デバイスを破壊することで止められるかもしれない。それ以前に、自分の力を怖れてハッキングをやめてくれたら……そんな思いを込めた威嚇の右手であった。
 しかし、その気持ちを読まれているのか、護の力を知っているにもかかわらず、カムイは動じなかった。三日月型に歪んでいた口の両端が、さらにつりあがる。

「ちょっと違うなぁ。協力してるんじゃなくて、僕の方から彼らに提案したのさ……この日時にオービットベースを攻撃すれば、あっさり陥落させられるよ~~って」
「そんな! いったい何のために!?」

 護は愕然とした。ハワイ、ドバイに同時に現れた覇界の眷族の攻撃……それがカムイの手引きによるものだったというのか。この無防備状態が続けば、その狙いはあっさりと果たされてしまうかもしれない。

「さあ、何のためでしょう……当ててごら~~ん」
「……私のせい?」

 火乃紀のその言葉を聞いたカムイの口元から、笑みが消えた。火乃紀は確信する。当たってほしくはない予想が、またも当たっていたのだと。

「あなたの相談に乗らなかった私が憎かったから? だから、私ごとオービットベースを消し去ろうというの?」
「………」
「もしそうなら、私だけを狙えばいい! 身勝手な理由でオービットベースを……人類防衛の砦を道連れにしようだなんて、あなたらしくない!」
「……なにがわかる」

 カムイの口から、絞り出すような声が発せられた。

「君なんかに、僕のなにがわかる! お前のせいだと? 思い上がるな……僕が恨んでいたのは、GGGそのものだ! 兄さんを見捨てて、遠い木星に置き去りにした連中だ!」
「兄さんって……鷺の宮隊員を!?」

 護は思い出した。原種大戦の末期、木星圏における戦闘で多数の行方不明者が出た。カムイの兄である鷺の宮隆もその一人だった。

「そうだ! 兄さんはあの戦いの時、百式司令部多次元艦<スサノオ>に乗り込んでいた。そのスサノオが沈んだとき、宇宙空間に吸い出されてしまった! なのにGGGは兄さんを探し出すことも回収することもせず、地球に帰還したんだ!」
「それは……でも……」

 カムイに向けていた護の右手が、力を失ったように垂れた。たしかにカムイの言葉は一面では正しい。だが宇宙戦闘時、真空空間に流された者を回収することは不可能といってよい。書類上の行方不明者は事実上、死亡者と同義にみなされる……いや、みなさざるを得なかった。しかし、行方不明者に親しき者、家族や恋人にとって、それが納得できなかったとしても、無理からぬ話ではない。護にも、それは痛いほどわかった。

「だから僕は、GGGへの転属を希望したのさ。内部から崩壊させるためにね! それはもうすぐかなうのだ~~! あはははは!」
「……カムイさんのお兄さんを助けられなかったことは…謝ります。でも、お兄さんだって、地球のために戦った仲間ですよね。それなのに……」
「あはははー、でもねぇ、兄さんは生きていたんだよー。僕からのこの提案を受けてくれたのは、覇界の眷属側にいる兄さんなんだからねー」
「……!? 生きていた…って?」

 護が驚くのも無理はない。地球人である以上、宇宙空間に投げ出されて生還できるはずがないのだから。

「ダメよ、護くん! この人の言葉に耳を傾ける必要はないわ!」
「火乃紀さん……!」
「カムイさんの言うことは、論理的に破綻しているわ。もしもお兄さんのことで誰かを恨んでいるとしたら……敵対していた機界原種のはず。逆恨みだとしても、あの時のGGGガッツィ・ギャラクシー・ガードの隊員たちでなくてはおかしいわ!」

 火乃紀の指摘に、カムイは動じる様子はない。少なくとも、露わになっている口元には現れない。

「そう、むしろ今の覇界の眷族こそが憎悪の対象のはず。なのに彼らに協力して私たちガッツィ・グローバル・ガードを攻撃しようだなんて……整合性がとれていない」

 火乃紀の言葉に、護の顔色が変わる。

「じゃあ、なんでカムイさんはこんなことを……」
「瞳孔の様子が確認できないけど、発汗、呼吸から推定される心拍数、いずれも異状が認められる。そして……正常な判断を失わせている脳波形!」

 言うと火乃紀は白衣のポケットから小型アイテムを取り出した。それは阿嘉松長官が首から提げているものと同型であり、合成音声による警告を放っている。

『アルジャーノンだー! 逃げるのだ-! アルジャーノンだー! 逃げるのだ-!』
「あはははー、バレちゃったのかぁ! あははは!」

 気の抜けた<アルジャーノン見張番26号>の警告音に、カムイの陽気な笑い声が重なる。だが、それらが重苦しい空気を吹き飛ばすことはできない。

「これがアルジャーノン!?……あの時のドクター・タナトスと同じ……」

 数か月前、イニョーラ島の根拠地で遭遇したバイオネット最後の総帥のことを、護は思い出す。あの時のドクター・タナトスの行動にも論理的な整合性などはなく、結果として組織そのものの壊滅を招いたのだ。そしてそれは、十年前にアルジャーノンが猛威を振るった時の発症者たちの奇行とも符合している。

「カムイさん、あなたの復讐が正当なものだろうと、アルジャーノンによるものだろうと、どちらでも見逃すことはできません」

 護は意をさだめると、ふたたび右手を突き出した。

「オービットベースにいるみんなを、僕は守ります! はああっ!」

 意識を集中させると同時に、全身が緑色に発光し念動力が放たれる。だが、その直撃を受けたのはカムイではない。一瞬早く、めくれあがった鋼鉄製の床板が楯となったのだ。

「!?」

 同時に、護と火乃紀の背後に二体の人型メカが接近する。

「ガンマシン!?」

 振り向いた護めがけて、ガンシェパーが実弾攻撃を、ガンホークが震動カッターで物理攻撃を仕掛けてくる。とっさに左手で発生させたバリアで実弾を防いだ護は、右手の念動力でカッターを受け止める。轟音と震動が部屋中に響き渡り、身を縮める火乃紀。

「……!」
「よ~し、両手は塞がったね~~」

 カムイのその言葉を合図に、床板をめくりあげていた第三の人型メカが姿を現した。

「…!?……ポルコート!!」

 勇者ロボの中でも最もコンパクトなサイズゆえ、狭い空間に身をひそめることができたのだ。ポルコートは、ガンマシンの相手で身動きできない護の隙をついて、両腕で素早く火乃紀を掴みあげた。

「あああっ!…なにするの!?」
「護くん、火乃紀オペレーター……すまない!」

 ポルコートの口から悲痛な音声が漏れる。

「あはははー、彼がメンテ中だってのは諜報部からあげた報告だからね。信じちゃった? あはははー」

 カムイは両手両脚の動きを止めることなく笑い飛ばす。

「あああ……」

 体をぎりぎりと締め上げられ、火乃紀が苦悶のうめきをもらす。

「ポルコート、やめるんだ!」

 三体の同時攻撃になす術のない護が叫ぶ。

「申し訳ない……行動権限を奪われているんだ…だが…三原則は破れない……」

 ポルコートの声音に、火乃紀は悟った。彼は旧GGGの勇者たちのようにトリプルゼロに浸食されたわけではない。

「だったら、なぜ攻撃を…?」
「あはははー、三原則のプログラムなら期待しても無駄だよ。ガンマシンどもは諜報部所属だからね。人型をした別の生物をどう認識するか、レベルを調整できるんだ。天海護は異星人だ、人間ではない──だから排除したところで三原則には反しないって認識レベルさ」

 かつて、レプリ地球においてソール11遊星主に対して、卯都木命がガンマシンで対抗したことがある。あの時も、認識レベルを調整することで三原則に反することなく、人型の遊星主に攻撃することができたのだ。

「あはは、ポルコートの機体制御コントロールもこちらもある。彩火乃紀には攻撃できないが、捕獲は可能だ。ここに来るとしたら君たちだろうと読んでいた僕の勝ち~~あはははーー!」
「くうううっ!」

 カムイの作戦とガンマシンたちの猛攻に、護が苦痛の叫びをあげた。

(護くん……! ああ、こんな時、あの頃だったらいつも──)

 火乃紀のうちに、誰かに救いを求める思いがよぎった。恋人である男性を思ったのか、兄の遺伝形質を受け継いだソムニウムを思ったのか、自分でもわからない。だが、今この時にどちらも現れてはくれなかった。
 しかし、絶望に引きずり込まれた火乃紀の意識を、力強い声が呼び戻す。

「僕と火乃紀さんだけならなんとかなると思ったんだろうけど……甘いよ、カムイさん」

 窮地に追い込まれながらも、護は闘志を失っていない。ここにいるのは、かつての幼いGGG特別隊員ではない。獅子王凱が不在の間、人類のために戦い続けてきた機動部隊隊長なのだ。

「僕にはできるんだ……すべてのGストーンのアジャストが!」

 護の額にGストーンの紋章が浮かびあがる。そして、全身から放たれた輝きが、ガンマシンやポルコートを包み込んだ。

「……GSライドの出力が!」

 ポルコートの双眸から光が消え、その両腕から力が失われた。ガンシェパーとガンホークも攻撃をやめ、動かなくなった。勇者ロボたちの動力源は、かつてギャレオンがもたらした無限情報サーキット<Gストーン>である。意志の力──勇気をエネルギーに変換するコンバーターでもあるGストーンは、いまだ人類にとって未知のブラックボックスだ。
 Gストーンの申し子である護には、その機能を調整することが可能だった。ある時は出力を上げ、ある時は沈黙した状態から再起動させた。そして成年となった護には、今やってみせたように、機能低下させることもできるのだ。

「ごめんね、ポルコート…ガンシェパー…ガンホーク……」

 無重力のコマンダールームで、力を失ったように浮遊するポルコートと二体のガンマシン。握力が弱まったポルコートの腕から自力で抜け出した火乃紀には、三体の姿が貧血で気を失った生体のようにも見えた。

「あはははー、こいつは驚いた。宇宙人はすごいねー、想定外だったねー、あはははー」

 相変わらず口元を歪めもせず、陽気な声をあげるカムイに向かって、護は無言で念動力を放った。狙い過たず、そのパワーはカムイが装着したゴーグルと、両手両脚が操作していた入力デバイスを破壊する。

「あ、あはははー」

 反動で宙に舞うカムイ。もはやいかなる反撃も、ハッキングも不可能だ。たった一人でオービットベース全体を危機に追い詰めた人物が、ただ笑いながら漂っている。
 その姿を護はじっと見つめていた。そして、つぶやく。

「僕は……地球人の天海護だ」
「………!」

 火乃紀は、護の横顔を見た。彼のつぶやきには、火乃紀がいままで聞いたことのない響きが含まれているように思えたから。いつも優しく、朗らかで快活な青年が、口にしそうもない声音。だが──

「火乃紀さん、急いでシステムの復旧お願いします。ここの端末使えば、できるはずですよね」

 そう言いながら振り返った護の表情は、いつもの彼のものだった。

 

 ──鷺の宮・ポーヴル・カムイがオービットベースにもたらした被害は深刻なものだった。各所で破壊工作がしかけられ、人的被害こそないものの、施設が受けたダメージは大きい。
 いや、天海護と彩火乃紀によって阻止されたからこそ、この程度ですんだのだ。ふたりの活躍がなければ、オービットベースが地上に落下する事態に陥っていたかもしれない。

(アルジャーノンになった奴ぁ、何をしでかすかわからんからな……)

 その深刻さを火乃紀とともに、もっとも骨身に染みて知っている阿嘉松はそう思う。火乃紀によれば、医務室に運ばれたカムイは拘束状態にある。脳神経治療を試みる予定だが、回復の見込みは未知数だ。

「……俺たちの敵は、覇界の眷族だけじゃねえってわけか」
「ああ、その通りだな。事態が落ち着いたら、そちらの対策も強化せねばならん」
「ソレで、ハワイとドバイの状況はドウナッテルノ!」

 プリックル参謀の問いにオペレーターたちが答える。

「翔星龍神は、現在ドバイ上空を航行中のヤマツミに帰還しました! 天竜神は原形をほぼ留めたまま、回収できてます! ゼロ核も二個確保したそうです!」

 GGGブルーの機動部隊オペレーターである華が報告した。ヤマツミとワダツミには、前回の戦闘後に用意された回収用コンテナが搭載されている。ディビジョン艦のGSライドから供給されるGリキッド層でコーティングされたコンテナは、短時間ならトリプルゼロの浸食を防ぐことができる。ゼロ核を浄解するには数少ない浄解能力者が必要不可欠である。現場で浄解することができなかった場合に備えて、開発されたものだ。

「ガオファイガーもワダツミに帰還。ゴルディーマーグの機体は損失したものの、AIブロックとゼロ核は回収に成功」

 同じく、GGGグリーンの機動部隊オペレーターであるアルエットが告げる。

「よくやってくれた、勇者たち。これで二正面作戦をしのぎ、オービットベースへの直接攻撃も防ぐことができたわけだ」

 楊が満足げにうなずく。だが、その隣で阿嘉松が苦虫を噛みつぶしたような顔を浮かべている。

「どうしたね、長官。我らの勇者たちの戦果が気にいらないのかね?」
「気にくわねえというか、納得がいかねえ」
「……というと?」
「上手く行きすぎだ。こっちにはアルジャーノンっていうマイナス要素があったにも関わらず、有能長官様が率いる旧GGGの波状攻撃を防げただぁ? ほんとにあいつら、この程度なのか?」
「それは、たしかに……」

 楊にしては珍しく、虚をつかれた。阿嘉松の言葉には、なんの裏付けもない。ただ、納得しがたいという、彼の予感でしかない。だが、指揮官に求められる資質のひとつが、まさにこうした理論外の感覚ではなかったか。一時とはいえ、GGG長官代理を勤めた楊は、自分は補佐役の方が向いていると考えるに至った。それはまさに、阿嘉松のそうした感覚を評価したからに違いなかった。

「……機動部隊隊長と彩隊員をダイビングチャンバーへ。再度、待機状態に入らせろ」

 阿嘉松の感覚を信じた楊が、華に指令を伝えた。

「はい!」

 少し泣き声ともとれる返事だ。護や火乃紀の疲労を心配する気持ちもあったが、華は下唇を噛みしめ表情には出さない。メインオーダールーム全体に、阿嘉松のひりひりとした感覚が伝わったようだ。

 そして、その予感は現実となる。ゼロロボ大量発生の報が、地上からもたらされたのだ。鳴り響く警報音のなかで、阿嘉松が問う。

「場所はどこだ、山じい!」
「は、はい、え~~と……Gアイランドシティっすわ!」

 ──覇界の眷族による波状攻撃は、ようやく最終段階を迎えようとしていた。

 

「……コ…ロサ…レ…ル……」

 紗孔羅はメディカルルームでぐったりと眠りつづけていた。

「………蛍……汰…さん」

(number.05・完 number.06へつづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


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