覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第36回】

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《前回までのあらすじ》

 覇界の眷族による波状攻撃は最終段階へ移行し、人類の敵として旧GGGの指揮を執る大河幸太郎の作戦により、ゼロロボの軍勢がGアイランドシティへ侵攻を開始した。
 蒼斧蛍汰が火乃紀と暮らすためにサプライズで購入した家と、独立して会社を立ち上げるための倉庫は、無情にもゼロロボの攻撃により瓦礫の山と化す。
 同じ頃、覚醒人凱号で出撃した天海護と彩火乃紀は、Gアイランドシティ近くの岸壁に上陸し、ホログラフィックカモフラージュを解除した覇界ビッグボルフォッグと対峙していた。

number.06 縁-ENISI- 西暦二〇一七年(2)

3

「ビッグボルフォッグ…」

 覚醒人凱号アクセプトモードの上部ウームヘッドで、天海護はつぶやいた。

「……お久しぶりです、護隊員」

 前方に立ち塞がる懐かしい姿が、懐かしい声で応じる。

「……いえ、護隊員とお呼びするのは適切ではありませんね、護機動隊長」

 覇界ビッグボルフォッグは律儀に訂正した。もっともそれは、現GGGブルーの内部情報なら把握しているという、アピールの意味も込められているかもしれない。
 ゼロロボの襲撃によって、炎上しているGアイランドシティ。その沿岸部で覇界ビッグボルフォッグは、覚醒人凱号にダイブしている天海護に語りかけ続ける。

「三重連太陽系であなたと戒道少年を送り出してから、わずかな時間しか経過していないように感じます。ですが、この地球では十年近く歳月が流れていた……不思議な気分です」
「子供の頃、僕はビッグボルフォッグに護ってもらえた。だから、僕は生き残れた。そして生き抜いていく力を得られたんだ」
「機体越しではなく、成長した今の護機動隊長の姿を、直接見ることがかなうのなら……」
「うん、僕も見てもらいたい……」

 互いにつらそうな声音が交錯した。いま覇界ビッグボルフォッグと天海護は対立する立場にある。二人のデュアルカインドによる搭乗で動く覚醒人凱号。そのウームヘッドから外に出るのは、致命的な隙を作る行為に他ならない。出来るわけがない。

(なんで、ボルフォッグと僕がこんな関係に……)

 護の脳裏に、懐かしい日々が蘇る。いつも自分を護ってくれた頼もしい存在に、隙を見せられない現在の状況が、とても悲しい。そして、その想いは、覇界ビッグボルフォッグも共有しているのだろうか? それとも、自分を機体外へおびき出すための演技なのだろうか?
 だが、護はそんな想いを抱えつつも、冷静に現実に対処していた。覇界ビッグボルフォッグに悟られないよう、言葉に出すのではなく指先によるコントロールボールのタップと、フットペダルの操作によって、ミズハにガオーマシン投入を要請する。
 そして、下部セリブヘッドにいる火乃紀にもそれを伝えた。

(二十六秒後にガオーマシン到着……同時にモードチェンジ?……わかった、護くん!)

 モニターに表示された火乃紀からの返信を目の端で確認しつつ、護は呼びかけ続ける。

「ビッグボルフォッグ……僕たちと一緒に、地球のために戦うことはできないの?」
「……できません。宇宙の摂理とひとつになった私たちは、愛すべき人類が深い罪を犯すことに耐えられないのです」
「だから……滅ぼすの?」
「滅び……それによって宇宙は救われます……」

 苦渋を感じさせつつも、覇界ビッグボルフォッグの言葉に迷いはなかった。護は胸のうちに痛みを感じつつも、ボイスコマンドを発声する。

「ユーハブコントロール!」

 あらかじめタイミングを知らされていた火乃紀が、間髪入れずに応じた。

「アイハブコントロール!」

 ウルテクエンジンを破壊された凱号は、高く飛ぶことができない。そのため、脚力による後方への跳躍のみでガイゴーへの変形を開始する。同時に、接近中の三機のガオーマシンが、低空へと進入してきた。覇界ビッグボルフォッグからはまだ十分に距離があり、妨害されるには至らない。

「ガイゴーッ!」

 覚醒人凱号はニューロメカノイド<ガイゴー>へと変形し、その操縦権は護から火乃紀へと委譲された。火乃紀はすかさずファイナルフュージョン要請シグナルを発信する。

「ガイゴーより、ファイナルフュージョン要請シグナル、受信しました!」

 衛星軌道上のGGGオービットベース。アルジャーノンを発症した鷺の宮・ポーヴル・カムイが仕掛けた破壊活動による痛手からの復旧もそこそこに、メインオーダールームはフル稼働を続けている。ハワイのガオファイガー、ドバイの翔星龍神に応急修理を施しつつ、Gアイランドシティへの移送の手配を進める。そんな大混乱の中でも、華のか細い声を阿嘉松長官は聞き逃さない。

「いよぉぉぉっし! ファイナルフュージョン承認ッッッ!」
「了解です! プ、プログラムドラァァァイブッ!」

 長官の承認を受けて、華は頭上で両拳を固く握りあわせ、ドライブキーに向かって振り下ろした。
 インビジブルバーストによる強電磁場が消失した今、オービットベースから転送されるファイナルフュージョン・プログラムは障害もなく、地上へ到達する。受信を確認した火乃紀は、精一杯の声量でボイスコマンドを発した。

「ファイナルフュージョンッ!!」

 ガイゴーは腹部から前方に向けてEMトルネードを発生させる。それを視認した瞬間、覇界ビッグボルフォッグは内蔵装備を使用した。

「ミラーコーティング!」

 瞬時にして、機体全身にミラー粒子を蒸着させた覇界ビッグボルフォッグは、ガイゴーのEMトルネードが巻き起こす電磁竜巻に突進した。ミラーコーティングされた左腕のムラサメソードが、電磁竜巻の表面を一閃する。強大な磁束密度による防壁が、まるで熱せされたナイフを前にしたバターのように、やすやすと斬り裂かれた。

「……いまです!」

 前方に出現した電磁竜巻の間隙に、覇界ビッグボルフォッグは機体を反転するようにして、右腕を突きだした。
 その時、ガイゴーはファイナルフュージョン・プログラムに従い、両脚部にドリルガオーⅡを装着した直後だった。続いて胴体部の空洞に進入しようとしていたライナーガオーⅡは、覇界ビッグボルフォッグの右腕に弾き飛ばされた!
 いや、それは右腕ではない。覇界ビッグボルフォッグ本体から分離した右腕だったが、今は半分ロボに変形した覇界ガンドーベルだ。本体から突出した二輪のホイールを千切り飛ばしながらも、覇界ガンドーベルはガイゴー内部の空間にねじり込んでいった!

「あああああっ!」

 異物との激しい接触に、ガイゴーの全身は激しく揺さぶられた。リンカージェルによるショックアブソーバでも緩和できない、拒絶感に近い衝撃が火乃紀を襲う。

「こんな対抗手段があったなんて……」

 護の眼前では、中断されたファイナルフュージョン・プログラムがおびただしいエラー表示を明滅させていた。

「プログラム中断、テイク2は実行しないで!」

 火乃紀の鋭い指示に、通信音声の華が従う。

『わ、わかりました!』

 通常、なんらかの異状でファイナルフュージョンが中断された場合、プログラムがリスタート、合体のテイク2が実行される。
 だが、現在はガイゴーの空洞部に覇界ガンドーベルがぎっちりと詰まっている。テイク2によって、ライナーガオーⅡが再突入すれば、激突して内部爆発を起こす恐れがあった。火乃紀による指示の意味を理解した華は、即座にファイナルフュージョン・プログラムを完全停止した。
 ガイゴーからのEMトルネードの放出が途絶え、電磁竜巻が消失。ステルスガオーⅡとライナーガオーⅡはFFモードから巡航モードに切り替わり、上空を旋回する。だが──

「しまった、ドリルガオーが!」

 ウームヘッドでサブパイロットとして、機体コンディションをモニターしていた護は、覇界の眷族の狙いを悟った。既に合体しているドリルガオーⅡは、飛行不能状態であるガイゴーの両脚部を拘束したまま、重しとなってしまったのである。
 バランスを崩したガイゴーは、内部に覇界ガンドーベルが詰まったまま、Gアイランドシティの大地へうつ伏せに落下した。

「早く、この異物を排除しないと──」

 火乃紀が事態に対処しようと考えた時、大地に伏したガイゴーをさらなる衝撃が襲った。隻腕の覇界ビッグボルフォッグが、馬乗りになるようにガイゴーを抑えつけたのだ。

「……護機動隊長、ここまでです」

 ガイゴーのメインパイロットである火乃紀を無視して、覇界ビッグボルフォッグは護に語りかけた。現状のガイゴーの両腕は変形途中にあるため、動かす事ができない。

「なにをする気なんだ、ビッグボルフォッグ……」
「あなたが宇宙の平和をおびやかさぬよう、この機体を行動不能にします」

 言うと、覇界ビッグボルフォッグは左腕を振り上げた。ムラサメソードが高速回転する。火乃紀は直感した。その刃は自分に向けられているのだと。そして、内部からは覇界ガンドーベルの4000マグナムが、無防備な火乃紀に向けて発射されようとしていた。

「や、やめて……」
「やめろぉぉっ!」

 火乃紀と護が同時に叫ぶ。その言葉が届いているにもかかわらず、覇界の光をまとった弾丸が放たれ、そして覇界の光を放ちながら高速回転する刃が振り下ろされた──ガイゴーの頭部セリブヘッド目がけて、外からはムラサメソード、中からは4000マグナムが、同時に……!

(……蛍………ちゃん……)

 火乃紀の脳裏に一瞬、二度と会えないかもしれない恋人の姿が浮かんだ。

 

 Gアイランドシティの住宅街に破壊の跡を残して、ゼロロボは通り過ぎていった。それがいかなる目的によるものであったにしろ、蒼斧蛍汰という一個人に対する悪意があったわけではないだろう。
 だが、たしかに蛍汰は多くのものを失った。いつかは時という薬による、癒やしが与えられるのかもしれない。しかし、この瞬間の蛍汰は人生の大半を失ったように思えたのだ。
 瓦礫の山の前で、蛍汰は膝から崩れ落ちた。涙が止まらず、ボロボロと地面にこぼれ落ちる。

「作ってあげたかったんだ…居場所を……こ、こんなになっちまって……火乃紀の帰ってくるところが、なくなっちまったじゃねえかよぉ……」

 だが、さほど時間はたたず、涙は枯れた。
 胸のうちからメラメラと燃え上がる何かが、蒸発させたのだ。その何かにあえて名前をつけるなら?──蒼斧蛍汰と長年のつきあいである親友・牛山次男であれば、「ありゃ逆ギレモード」だな……とでも評しただろうか。
 生涯の一大決心を台無しにされた蛍汰の怒りは正当なものであり、逆ギレと呼ぶのは酷かもしれない。だが、窮地に追い込まれた時、蛍汰のうちに燃え上がるそれは、正当の範疇を逸脱する燃焼力を発揮するのだ。そこに名前をつけるのなら、やはり逆ギレがふさわしかった。
 かつて高校生の頃、アカマツ工業でのアルバイト時代。アルジャーノンの調査業務に赴いた蛍汰が、迫りくる数々の危機を乗り越えられたのは、この逆ギレによる爆発力があったからだ。
 積み重ねられた怒りと悲しみとストレスの分、逆ギレはこれまでになく燃え上がった!

「てめぇこのヤロー! 戻ってきて勝負しやがれッ! お前なんざ一瞬でスクラップにして、廃品業者にキロ単価百円で売り飛ばしたるッ!!!」

 防火バケツと長尺ホウキで武装した戦士が、去って行くゼロロボの後ろ姿に向かって、罵声を浴びせる。しかし、宇宙の摂理に導かれた存在が、力なき一般市民の声に反応することはなかった。
 だが──
 逆ギレの声に反応する存在が、この場にいた。

『ケータ、相変わらず面白いね──』

 頭の中に響く声に、蛍汰は辺りを見回す。

「い、いいいい、今のはリミチャン!?」

 蛍汰がその言葉──リミピッドチャンネル、略してリミチャン──を使うのは久しぶりだった。アルジャーノンの調査にあたっていた頃、場に存在する意識の波を駆使する存在に幾度も遭遇した。
 ある者は敵であり、ある者は味方……とは言いがたいものの、力を貸してくれた。いずれにせよ、頭の中に響くその意志を受信するのは、生死の危機にある時ばかりだった。
 そして、蛍汰はその意志の主に覚えがあった。

「ま、まさか……え?……ウソだろ? えっと……トカゲ少女??? チャンディー……!?」
『ケータ、覚えててくれたんだね』

 幼い少女のような意志が、脳裏に漂う。

「生きてたのかよ?……チャンディー」

 蛍汰がその主を求めて、辺りを見回したとき、巨大な影が頭上から降ってきた。
 全高二十メートルの鉄の塊。それが蛍汰の眼前に地響きをたてて、着地する。すでに腰なら抜かし尽くしたと思えていた蛍汰も、背骨の関節が全て脱臼するくらい度肝を抜かれた。

「うわっとと! なんだなんだ? 瓦礫か? ビルか? 鉄道か!?」

 文句を言いかけて、蛍汰は気づいた。

(なんかちょっと見覚えがあるぞ、こいつは……)

 それもそのはず、全高は三倍ほどになっているものの、そのスタイリングはかつて蛍汰がダイブしていた機体に似ている。

「か、覚醒人なのか……こいつ!」

 アカマツ工業でのバイト時代に搭乗した、ニューロノイド<覚醒人1号>──その姿によく似た機体だった。いや、むしろ後に開発された<覚醒人Z号>により近い。
 覚醒人Z号はアカマツ工業とGGGが共同開発したニューロメカノイドだ。もともと蒼斧蛍汰と彩火乃紀がヘッドダイバーを勤める予定だったが、八年前、とあるアクシデントで天海護と戒道幾巳によって起動された経緯がある。その後、Z号を改修することで完成したのが、いままさにGアイランドシティで戦っている<覚醒人凱号>だ。ミリタリーオタクであり、実際に1号やZ号に触れていた蛍汰には、目の前の機体が覚醒人の同系機であることはすぐにわかった。

「動いてここまで来たってことは、乗ってるのは……? まさかチャンディー?」
『うん、そうだよ!』

 リミピッドチャンネルが応えると同時に、その機体の下部セリブヘッドハッチが開いた。そこから飛び降りてくる小柄な姿。服装や髪形に変化はあるものの、身長や体型、顔立ちは蛍汰の記憶にある十一年前のあの時と、まったく変わらない。

「ほんとにチャンディーだったのか! ぜんっぜん変わってないなぁ!」

 思わず駆け寄った蛍汰を、チャンディーは顔を近づけて大きな瞳を凝らして見つめた。

『ケータはだいぶ変わったね。テロメアが短くなってる』

 染色体の末端小粒を視認判別できるとは思いがたいが、チャンディーは蛍汰の加齢という時の流れを、そういう形で表現した。

「テロメア……そんな難しいこと言えるようになったのか。子供のままみたいに見えるけど、中身は成長してるんだな」
『ケータ、この機械人形、あんたにあげようと思って持ってきたんだ……ケイがそうしろって言うからさ』
「え? 俺にくれるの? このデカいの? で、ケイ……って……?」

 色々と説明されるが、いずれも蛍汰にとって理解しにくい内容だった。リミピッドチャンネルが伝えるのは、言葉ではない。意識だ。だから<ケイ>という単語が、ヒトを意味していることまではわかった。蛍汰はその名に導かれたように、頭上を見上げる。
 ──そこにケイが、いた。
 ビルの四、五階にも相当する高さの、覚醒人の肩の上に、少年が座っている。十歳くらいだろうか、ととのった容姿で髪に花飾りをつけた美しい少年だった。覚醒人の頭部にあたるウームヘッドハッチが開いており、そこから出てきたらしい。考えてみれば、当然だ。ニューロノイドを起動させるには、二人のデュアルカインドが必要なのだから。
 それにしても秀麗な少年である。その容姿に、蛍汰は記憶巣の奥底をくすぐられた。どこかで会ったような気もするのだが……

(気のせい、だよな。こんなビショーネン、前に会ったことがあるなら忘れるはずがない……)

 デジャヴにも似たその感覚をとりあえず忘れようと考え、蛍汰は高所にいるケイに呼びかける。

「おーい、君がケイ? なんでこの覚醒人を俺にお届けしてくれるわけ?」
「………」

 ケイは答えない。呼びかけに気づいていないわけではなかった。スミレ色の瞳がわずかに動いて、蛍汰をはっきりと見る。

「……蛍汰さん、すみません。僕が説明します」

 ようやくまともな会話が通じる、三人目が現れた。チャンディーが乗っていたセリブヘッド、そのシートの後ろからよろよろと這い出てくる、小太りのメガネをかけた男。

「おおお、お前……み…つ……お? 三男か!? なんでこんなとこに!」

 牛山三男みつおは、蛍汰の高校時代からの友人である牛山次男のすぐ下の弟だ。四兄弟のなかでただ一人、GGGに入隊せず、フィールドワークで海外を飛び回っていると聞いていた。

「僕……デュアルカインドじゃないんで、チャンディーのシートの後ろにしがみついてました」
「いや、それは説明されなくても何となくわかるけどよ……」
「で、ですよね! じゃあ何から説明すればいいんだろう……」

 三男は頭を抱えつつも、急いで伝えなければならないことをまくしたてた。

「随分前になるんですけど、海外で僕が死にそうになったところをチャンディーとケイに助けられまして。ああ、チャンディーは以前、釧路に存在したBPLという研究所で合成されたクローンらしいんです……」
「ああ、それも知ってる」

 かつて、蛍汰もまた、チャンディーに命を救われたことが幾度もあった。彼女は遺伝子工学の権威が産み出した、"Dタイプハンター"と呼ばれる強化クローンである。一種の生体兵器だが、生みの親が死亡。その研究機関が壊滅した後、生体維持が不可能とされていたにも関わらず、共生バクテリアによる養分の補完で生き続けてきた。独自の判断で好意を持った相手を守り、死ぬことが必要と感じた相手を屠ってきた。蛍汰が気に入られたのは大いなる幸運だったが、三男もまたそれに預かることになったらしい。

「なら話が早いです。ケイもチャンディーが助けたらしいんですけど……赤ちゃんの時からずっとチャンディーと暮らしてきたみたいで」
「要するに、狼に育てられた少年みたいな?」

 何らかの理由で、親元を離れ、動物に育てられた子供の話は、世界中にいくらでもある。言葉を覚える年齢になる前、そのような環境に置かれ得た場合、人語を習得する機会は失われる。
 赤ん坊の時からチャンディーに育てられたのなら、ケイもまたそういう境遇だったのだろう。相手の意識を読み取り、自分の意識を送り込んでくる、音声いらずのチャンディー相手に、言語を習得する必要はない。

「まあ、そんなわけで、僕もいまだにケイが何を考えてるのか、よくわからないんですけど……」

 わからないからと言って、それはケイに自分の意志がないというわけではない。この美しい少年は彼なりの目的意識があって行動しているらしく、リミピッドチャンネルを持たない三男とは、チャンディーを通訳がわりに意思疎通しながら接してきたらしい。

「その代わり、色々と厄介ごとを手伝わされたんですけどね。僕……国際指名手配とかになっちゃったかなぁ……」

 いまGGGにいる牛山次男や末男とは異なり、三男は気弱で繊細な草食系男子の代表的性格だ。おどおどとした喋り声、メガネの奥の瞳も涙で潤んでいる。もっとも、国連下部の施設に潜入して、ニューロノイドを強奪するなどという犯罪の片棒を担がせられれば、誰であろうと多少の不安感にかられるであろう。

「理由はよくわからないんですが、このニューロノイドを持ち出して、今日この日にこの場所に届けなければならない……ケイがそう言ってたんです」

 実際は、ケイの意志をチャンディーが三男にリミピッドチャンネルで伝えてきたので、もっと複雑な内容だったらしい。らしいが、理解できたのはこの程度なのだろう。

「あの……そういうわけなんですけど、これ、なんかの役に立ちますかね?」

 おどおどと訊ねる三男の肩に片手を置いて、蛍汰はニヤリと笑った。

「ああ、役に立つどころか、こいつが今の俺にいっちゃん必要なもんだ!」

 蛍汰は頭にかぶっていたバケツと、手に持っていたホウキを投げ捨てた。

「いいんだよな、チャンディー……これ、もらっちゃっても?」
『いいよ、あげる。ケータが好きなようにしていいよ』

 確認を得た蛍汰は、三男やチャンディーが乗っていたセリブヘッドにズンズンと乗り込んでいく。

「乗るんですか? 蛍汰さん、これ、操縦者が二人いないと動かせないんですよ」
「ああ、それも良く知ってる」

 蛍汰は構わずドンドン乗り込む。三男が心配そうに覚醒人の肩の上のケイを見上げる。だが、ケイはウームヘッドのハッチを外から閉じ、するすると機体を伝い降りてきて、チャンディーの隣に並び立った。

「え? いや、蛍汰さん一人じゃ……!」
「いいんだよ、三男! 少し離れて──」

 と、言いかけて、蛍汰は足元に転がっているものを見てぎょっとした。それは、丸まったアルマジロのような球体だった。

「こいつ、まさか……!」
「あああっ、そうそう、それ持って行きます。……でいいんだよね、チャンディー」
『うん、持ってきて』

 チャンディーの気さくな意志を受け、三男はパシリのように慌てて蛍汰の足元に駆け寄り、直径五十センチほどの球体を持ち上げた。

「それ…たしか………プレト…だよな?」

 蛍汰もよく覚えている、チャンディーと共生している甲殻形成バクテリアである。普段は松ぼっくりのような表皮のマツカサトカゲに似た姿をしているが、丸まった状態は初めてである。

「なんか、休眠状態みたいで…存在を忘れてました」

 プレトを抱えて、三男はいそいそと外に出て行った。

「すげえな…みんな、ちゃんと生きていやがる。俺も…ぶっとく生き抜いてやるぜ」

 そう言うと、蛍汰はセリブヘッドのハッチを閉じた。同時にリンカージェル内のコントロールボールを両手で握りしめる。次の瞬間、覚醒人のセリブヘッド内の各種モニターが点灯し、機体が唸りをあげはじめた。懐かしい感触に表情も高揚する。

「うほぉっ!」
「あれ? 普通に起動してる!? ……ニューロノイドは脳内にデュアルインパルスを持つ、異なるヘッドダイバーの組み合わせが必要不可欠なはずなのに!」

 あわてふためく牛山三男。機内のマニュアルを読み込んで、彼もニューロノイドの基本概念は知っているらしい。

「俺の脳ミソは特別製でさ、こういうことができるんだよ!」

 たった一人でニューロノイドを起動させた蛍汰。その正面のモニターには、懐かしいアカマツ工業のロゴと一緒に、機体名が表示されている。

「覚醒人──V2ブイツー。1号の後継機で、Z号のアニキにあたるヴァージョン、つまり二号機ってわけか。よっしゃ! ビクトリー二連勝! 頼むぜ!」

 様々なコンディション表示の彼方に、Gアイランドシティの実景も表示されている。蛍汰のささやかな夢と希望を踏みにじっていったゼロロボの後ろ姿もあった。

「ウエイク!」

 十一年前に使っていたボイスコマンドに反応し、ゆっくりとV2の巨体が起き上がる。三男たちは早々にその場から離れた。

「ニトロ!」

 覚醒人1号はそのコマンドでローラーダッシュしたのだが、V2は脚部に装備されたクロウラーを高速回転させ、道なき道を突き進んだ。無限軌道が蛍汰の家の残骸を乗り越えて、機体を前進させていく。やがて、その速度はアップし、弾丸戦車ともいうべき地響きを轟かせながら突撃を開始した。
 V2のアクセプトモードは、下部セリブヘッドの形状が覚醒人1号同様のドーム型で、凱号同様に上部ウームヘッドもドーム型である。胸部に張りだしたTMシステムこそ1号や凱号と大差はないが、肩から伸びたソーラーパネル状のパーツが目新しい。脚部がキャタピラ走行できるよう増強され、背部の尻尾に似たバランサーの左右に、グリアノイドの両翼も標準装備。その先端ユニットには、ウルテクエンジンが搭載されていることもうかがえる。
 かすかな胸の痛みを感じながら、蛍汰は前方に見える憎き後ろ姿に叫んだ。

「オラオラオラオラオラァッ! 三十年ローンの恨み、思い知らせてやるぜぇぇぇっ! すすめ!すすめえぇぇっ!! 覚醒人V2――!!」

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


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