覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第37回】

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《前回までのあらすじ》

 覇界の眷族による波状攻撃は最終段階へ移行し、人類の敵として旧GGGの指揮を執る大河幸太郎の作戦により、ゼロロボの軍勢がGアイランドシティへ侵攻を開始した。
 覚醒人凱号で出撃した天海護と彩火乃紀はファイナルフュージョンを敢行するが、その弱点を知り尽くしている覇界ビッグボルフォッグに合体を封じられる。
 同じ頃、蒼斧蛍汰が火乃紀と暮らすためにサプライズで購入した家と、独立して会社を立ち上げるための倉庫は、無情にもゼロロボの攻撃により瓦礫の山と化していた。だが、新たな力<覚醒人V2>を得た蛍汰は逆ギレモードでゼロロボに反撃を開始する。

number.06 縁-ENISI- 西暦二〇一七年(3)

5

(ボルフォッグが火乃紀さんを狙っている……!)

 そう直感した護は、制止の叫びをあげながら、上空を旋回するステルスガオーⅡとライナーガオーⅡへの指令を打ち込んだ。ガイゴーのセリブヘッドに振り下ろされるムラサメソードの前に飛び込んでくる漆黒の機体。刃と翼がぶつかりあい、激しい激突音を響かせる。

「ぬおおおおッ!」

 覇界の眷族として強化されたパワーをもってしても、機体が軽量なことには変わりない。ステルスガオーⅡに弾き飛ばされる形で、覇界ビッグボルフォッグはガイゴーの上から退いた。
 同時にガイゴーの肩の開口部に向かって、ライナーガオーⅡが突入してくる。合体時の右肩からではない。それでは右開口部に半ば埋まっているガンドーベルと激突するだけだと判断した護が、あえて反対の左肩側から進入させたのだ。4000マグナムの銃弾を内部から放ったガンドーベルだったが、その発射直前に青き奮進機と衝突し、ガイゴーの外へ押し出された!
 激しい衝突で大地に叩きつけられようとしていた覇界ビッグボルフォッグは、軽やかな身のこなしで反転、大地を蹴ってオレンジの光を纏いながら宙を舞う。そして、分身していた覇界ガンドーベルを光に捲きこみ右肩に再装着した。

「……お見事です、護機動隊長」
「ほめられても嬉しくないよ、ボルフォッグ……」

 覇界ビッグボルフォッグの賞賛に、護は悲痛な声音で応えた。たった今の攻撃は、決して威嚇などではない。デュアルカインドの一方である火乃紀の生命を奪うことで、確実にガイゴーを行動不能に追い込もうとしたのだ。その行動の裏にはもしかしたら、護を傷つけたくないという心理が存在するのかもしれない。だが、護にはとてもそれを喜ばしいと思うことはできなかった。
 いま目の前にいるのは、宇宙の摂理に従う覇界の眷族である。もはや、三原則も枷とはならない。護は深い悲しみを感じつつも、言葉を続ける。

「だけど僕は知ってる……いまのボルフォッグはトリプルゼロのせいでおかしくなっているだけだって。だから……僕が助けてみせる!」
「………」

 護の言葉に、覇界ビッグボルフォッグは答えない。気配とともに姿を消す。ホログラフィックカモフラージュを使用したのである。奇襲に失敗したいま、これで撤退するともとれる行動だが──

「ありがとう、護くん。もう大丈夫……」

 セリブヘッドの火乃紀が、冷や汗混じりの声でウームヘッドの護に語りかける。眼前に迫った命の危機、その恐怖は生々しい。それでも、Gアイランドシティを守りたいという想いに曇りはなかった。

「うん、何かあったら僕が必ずサポートします!」

 護の言葉に励まされながら、火乃紀はオービットベースに呼びかける。

「華ちゃん、ファイナルフュージョンのテイク2を!」
『了解です……!』

 通信の向こうで迅速に、そして必死にキーボードを打ち直す華の声が響く。

『ファイナルフュージョン・プログラムドライブ!』

 そして、テイク1で既に無数の亀裂が入り押しやすくなったカバーの上から、それでも力いっぱい両拳でスイッチを叩いた。

『テイク2!』

 FFプログラムが再送信されてきた。すでにガイゴーにはドリルガオーⅡとライナーガオーⅡが合体している。残るはステルスガオーⅡのみ。最後のシークエンスからファイナルフュージョンが再試行されている間、護は機体のセンサーと全身の感覚を総動員して、周囲の気配を探っていた。

(ボルフォッグがこのまま退却するとは思えない……見えないけど、きっと近くにいる。そして何かを狙っている……)

 護のその確信にもかかわらず、ファイナルフュージョンが再度妨害されることはなかった。もちろん、予想しうる攻撃への対処は幾通りも考えてある。それでも気を抜く余裕はない。
 そして完成する、くろがねの巨神――。
 ライナーガオーⅡとガンドーベルの衝突にも勝る圧力が、セリブヘッドの火乃紀にのしかかる。デュアルカインドとはいえ、彼女はエヴォリュダーでもなく、浄解モードに変わる能力も持たない、肉体的には普通の人間だ。旧型ガオガイガーに比べ、リンカージェルによるショック緩和が強化されてはいるが、セリブヘッドのヘッドダイバーは、経験した者にしか理解できない強烈な衝撃に襲われるのだ。それは、フルパワーで戦い続けた戒道がリタイアしたことからも明白である。それでも火乃紀は、悲鳴を上げる全身の痛みに耐えながらも、精一杯の雄叫びを轟かせた。

「ガオッガイッゴーーッ!!」

 Gアイランドシティに暮らす人々は、ゼロロボの攻撃によって交通手段を寸断され、避難することもできなくなっている。だが、あるいは窓の外に、またあるいはテレビ画面の中に、馴染み深い勇者王の姿を見て、安堵した。
 十年以上前の原種大戦時、そしてこの数年間のインビジブル・バースト後の混乱期、人々を護ってくれたのはガオガイガーとガオガイゴー──同じ頭部を持つ勇者王たちだったのだ。
 それまで、Gアイランドシティの地下交通システムや連絡橋などを破壊して、地区を孤立させていたZR-07ゼロゼロセブンたちが一斉にガオガイゴーの方を向く。この展開に備えていたのか、彼らは一糸乱れぬ動きで集まり、勇者王を包囲した。

「気をつけて、火乃紀さん。一体でもトリプルゼロの力を備えた侮れない敵なのに、これだけの数が集まると一瞬たりとも油断はできない」
「そうね……護くん、サポートお願いするわ!」

 火乃紀はそう答えると、ガオガイゴーの右腕を前方にかまえた。前方には十体ほどのZR-07がいる。素体となったニューロノイド<ブロッサム>と全高はさほど変わらず、十メートルほどしかない。

「ファントムリング・プラス!」

 片翼から分離したファントムリングを右腕に装着したガオガイゴーは、ZR-07群に向けて、光の輪をまとった拳を撃ち出した! 

「ブロウクンッ! ファントムッ!」

 一体のZR-07がブロウクンファントムに粉砕される。すぐにオレンジの光を纏い再生するが、それを待つことなく、他の機体が一斉に突進してくる。

「ドリルニーッ!」

 近接格闘装備の膝蹴りを、横合いから迫る一体に叩きつける。ガオファイガーと同じくブレード付きドリルの激突攻撃は、字義通りにZR-07の胴体に風穴を明け粉砕した。

「ウォールリング・プラス!」

 逆側の片翼から分離したウォールリングが、左腕の周囲で回転する。

「プロテクトッ!ウォール!」

 なおも迫るゼロロボたちを、ガオガイゴーの左腕から発せられる広範囲の反撥壁んぱつへきが弾き飛ばした。そして、彼奴らが体勢を立て直す前に、右腕が次なる攻撃を加え、完膚なきまでに粉砕していく。

「さすがです! 火乃紀さん! スピードもこっちの方が勝ってます」

 護の声に励まされ、火乃紀も軽快に汗を飛ばす。

「ありがとう、護くん! 全部倒す! 全部砕く!」

 どれほどの数で押し寄せようと、勇者王の牙城が揺らぐことはないように思えた。
 しかし、その光景を見て、タイミングを図っている者がいた。覇界ビッグボルフォッグである。

(今です……猿頭寺オペレーター、あなたの策を使わせていただきます)

 覇界ビッグボルフォッグはおのが背部に呼びかけた。そこにはビークルマシン形態時の運転席がある。その内部には、銀色の繭──ゼロ核が収められていた。

(ああ、ボルフォッグ。悲しいけどやろう……宇宙の摂理のために)

 ゼロ核は発声器官を持たず、答える声はない。だが、もしもリミピッドチャンネルがあったなら、そのような意志が発せられていただろう。
 声に寄らずして、猿頭寺の意志を察したボルフォッグは、ガオガイゴーの内部に埋め込まれているものを作動させた。

「え!?……なに?」

 ガオガイゴーの全身が硬直し、大地に倒れ伏す。セリブヘッドの火乃紀にも、リンカージェルで軽減されたとはいえその衝撃が伝わり、硬直したコントロールボールが、感電によって痙攣を促すように両腕を拘束した。脱出すらも許されない完全凍結の状態に。

「護くん、何が起きているの……!?」
「あちこちシステムエラーを起こしてる! これは……ウイルスだ!」

 

 ガオガイゴーに発生した異変は、オービットベースのメインオーダールームでも感知されていた。華の前にある、機体コンディションを示すモニターが無数の警告表示で埋め尽くされた。

「ダメです……機体の制御が、取りもどせません!」
「ええいっ、楊の旦那! どうにかならねえのか……ソフトのトラブルは俺じゃどうにもならねえ!」

 根っからのハード屋であり、ガオガイゴーの開発者の一人でもある阿嘉松長官が、スーパーバイザーに声をかける。

「落ち着きたまえ、長官。これも予期されていた事態だ」

 楊はいつものごとく、落ち着き払った声で応じた。その言葉の通り、GGGブルーのスタッフは、旧GGGによるウイルス攻撃も予想していたのだ。

「おそらく、先ほどガイゴー内部に侵入したガンドーベルから送り込まれたのだと思います」

 華をサポートしていたアルエットが、解析結果を報告する。覇界ボルフォッグによる内と外からの攻撃は、第一段階に過ぎなかった。本命は物理的な回路接触による、ウイルス攻撃だったのだ。他ならぬアルエットの手で、ガオファイガー時代に徹底的な電子的防御が施され、ガオガイゴーにもそれは引き継がれている。だが、このように毒爆弾を直接埋め込まれるような手段をとられては、防壁も意味がない。
 ガオファイガーならば、凱のエヴォリュアル能力で無効化できるが、火乃紀と護にそれを求めるのは不可能だ。

「心配はいらん。すでにセカンドが対応を開始している」

 

 GGGオービットベースにおいて、メインオーダールームの補佐を担当するセカンドオーダールーム。その中心人物は三博士と呼ばれる科学者たちである。以前はスタリオン・ホワイトもその一人であり、彼が三重連太陽系に向かった後、人員を補充する案もあった。だが、あまりにも異才を放つ三博士の列に加わることのできる人材は、ついに見つからなかった。
 そして今、予想されていた覇界の眷族によるウイルス攻撃に反撃を開始した人物こそ、三博士の一人──犬吠崎実である。

「猿頭寺よ……十年以上の時を経て、またお前と戦うことになるとはな」

 リモートモニターでガオガイゴーのOSをモニタリングしながら、犬吠崎は猛烈な勢いでカウンターハッキングを続ける。
 覇界の眷族にあって、このウイルス攻撃を行った猿頭寺耕助と犬吠崎は、GGG設立以前からのライバルだった。
 だがGGGベイタワー基地のコンピュータシステム開発主任の座をめぐって、犬吠崎は猿頭寺に敗れた。一度はその恨みが災いして、ゾンダーロボ<EI-15>の素体とされてしまったのが、犬吠崎の忌むべき過去である。
 EI-15は犬吠崎のハッキング能力で、当時のGGGに大ダメージを与えた。そしてガオガイガーのファイナルフュージョンを妨害したのだが、身を挺してこれに立ち向かったのが、ビッグボルフォッグだ。十二年の時を経て、立場が入れ替わり、覇界ビッグボルフォッグがファイナルフュージョンを破り、猿頭寺のウイルス攻撃に犬吠崎が対抗するとは、いかなる運命の変転であろうか。

「俺はお前に借りがある……今こそ、返させてもらうぞ、猿頭寺」

 ゾンダーロボと化して後、天海護に浄解されたことにより、犬吠崎から猿頭寺への妬みや恨みは消え去った。しかし、ライバル意識までもが消失したわけではない。GGGに加わってからの犬吠崎は、学ぶべき先輩として猿頭寺の背を追い続けたのだ。
 そうして自分は様々なことを学んだと、犬吠崎自身も自負している。今こそその借りを……そして、恩を返すべき時だ。

「おい、肩に力が入りすぎているぞ」
「私たちの支援もあります……忘れないでください」

 隣の席から、野崎通博士と平田昭子博士が声をかける。二人とも、ゾンダーロボの素体を経験したGGGスタッフであり、犬吠崎とのつきあいもそれ以来だ。互いの能力も気心もよく知った、頼もしい同僚たち。彼らに心中で感謝しながら、犬吠崎は自分の戦いを続けた。

 

 両脚部のクロウラーが瓦礫を踏みしめ、覚醒人V2は突き進む。逆ギレモードの蛍汰は、接近していく視界のなかでみるみるうちに大きく捉えられるゼロロボの後ろ姿をロックオンして、叫んだ。

「この野郎! サラリーマンの悲哀と憎しみを思い知れッ!」

 ゼロロボの至近距離まで達したアクセプトモードのV2が、カニバサミ状の右腕──シザーハンドをかまえる。

「まずこいつはぶち壊された倉庫の分!」

 ゼロロボのかたわらを追い越しざまに、シザーハンドを回転させながら正拳突きを食らわせる。調査用のアクセプトモードではあるが、覚醒人V2の腕は解体作業にも特化した起重機のような形状であるため、物理的な破砕も得意としていた。そして前方に躍り出たところで、クロウラーの信地旋回で反転し、第二撃を繰り出そうと、左のシザーハンドをかまえた。

「オラオラッ! 続いて、三十年ローンの家の分……んん!?」

 ──かまえたところで、蛍汰は目を丸くした。最初の一撃で、憎き仇の上半身は粉砕され、下半身のみがその場に立ち尽くしている。数秒の短い間を置いて、活動を停止した下半身はスパークした内部ユニットの爆発により、前のめりに倒れながら木端微塵にふっとんだ。
 復讐はかなった。だが、蛍汰の脳裏には虚しい思いがよぎる。

「テメー! まだ家の分と火乃紀にプロポーズしそこねた分と今日の販促会議に遅刻した分が残ってるんだぞッ。こんなはやくおっ死んでるんじゃね~~~~ッ!!……というか復讐の後に残るものなし……ってことかよ」

 恨み言を一気に言い終えた蛍汰は、荒い息をつく。行き場を失った怒りは、簡単に収まりそうにない。
 そんな時、眼前のモニターに呼び出しサインが明滅していることに気づいた。

「ん? これって、どっかから通信が入ってるのか……?」

 蛍汰は記憶を探り、覚醒人1号やZ号と同じ端末で受信操作を行う。

『くおらあああっ、応答せんか蛍汰! V2に乗ってるのはお前だろ!!』
「ひっ、サーセン!!」

 突然現れた阿嘉松の怒りの形相。そして罵声。思わず謝ってしまってから、蛍汰はモニター内の人物に気づいた。

「……って阿嘉松社長? じゃなくて所長? じゃなくて長官か!」

 蒼斧蛍汰にとっての阿嘉松滋は、高校生時代のバイト先である有限会社の社長である。その後、浪人生時代にはGGGマリンレフュージ基地所長であり、付き合いはあったが、GGG長官に就任してからはとんと疎遠になり会話した記憶がない。インビジブル・バースト後の混乱期、GGG長官職は激務を極めており、普通のサラリーマンとなった蛍汰とは接点がなくなるのも当然だ。だが、蛍汰も阿嘉松も数年のブランクを感じさせない気安さで、言葉を交わし続ける。

『おうよ! まったく手間かけさせやがって……いきなりGアイランドにV2の機動反応を測的した時は、何事かと思ったぜ』
「測的ってこれまた古い海軍的な表現っすね。どんだけジイサンなんすか。あ、覚醒人V2、これもらったんです。チャンディーと……」
『牛山家の三男坊にか?』
「へえ、よくご存知で──」
『覚醒人の両ヘッド内部のことなら、こっちからでもある程度はモニタリングできるからな。そいつらがいなくなった後、一人でデュアルインパルスを発生させるおかしなヤツの反応が出たから、波形パターンを照合して、お前さんだってわかったわけだ!』
「インビジブル・バーストが吹き荒れてた頃なら絶対見つからなかったのに……。阿嘉松のダンナには敵いませんぜ。いやぁ、勝手に使ってすんません。すぐ降りますから、レンタル料とかカンベンしてください」

 へこへことモニターに向かって、頭を下げる蛍汰。その様子が、さらに阿嘉松に火をつけたようだ。

『馬鹿野郎ッ! すぐ降りるとかふぬけた事言ってんじゃねえ! 火乃紀と俺の牙王凱号が大ピンチなんだ、ここで男を見せねえでどうするッ!』
「ひ、火乃紀が? どういうことっすかッ!」

 通信モニターにかじりつく。蛍汰の"男の戦い"はまだ始まったばかりだった。

 

 Gアイランドの人工の大地に倒れ伏したシステム凍結状態のガオガイゴー。その周囲を取り囲んだZR-07群は無反動砲ガトリングガンで攻撃してくる。だが、超波レーザーコーティングによるG装甲にそれらは通じない。繰り返される衝撃のなか、護と火乃紀は違和感を覚えずにはいられなかった。

「こんな攻撃を繰り返しても、ガオガイゴーを倒せるはずがないのに……」
「ええ、ブロッサムが素体となっているなら、シナプス弾撃も使えるはず。もっと有効な攻撃ができるはずよ」
「それを仕掛けてこないってことは……」

 ガオガイゴーを撃破する他に、なにか目的があるのだろうか……護がそう思い至ったとき、新たな衝撃が機体を揺さぶった。天を向いたガオガイゴーの腹部に、覇界ビッグボルフォッグが降り立ったのである。ホログラフィックカモフラージュを解除して、紫色の覇界の眷族が告げる。

「猿頭寺オペレーターのウイルスで、充分に足止めをできました。そろそろ終わりにしましょう」
「足止め……!? ボルフォッグ、君たちの目的は──」
「たとえ勇者王の装甲といえど、トリプルゼロで強化された私の攻撃ならば打ち砕けるはずです。護機動隊長……人類がいずれ滅びるとしても、あなたには最期の瞬間まで生き残ってほしかった……」

 覇界ビッグボルフォッグが、ガオガイゴーの腹を蹴って、宙に跳ぶ。

「……超分身殺法!」

 空中でミラーコーティングに身を包んだシルエットが、三つの銀色の影に分離する。その動きは、動けないガオガイゴーを三方から打ち砕こうとする攻撃に感じられた。

「やめてよ、ビッグボルフォッグ!」

 護がそう叫んだ瞬間──
 銀色の影たちに、別の三つの銀色の影が、横合いから突っ込んできた。

「くううううっ!」

 空中で激しくぶつかりあうミラーコーティングされた銀色の影たち。ボルフォッグにポルコート、ガンドーベルにガンシェパー、ガングルーにガンホーク!
 Gアイランドの空に、諜報ロボたちのシルエットが高機動で錯綜する。やがて弾き飛ばされた三つの影が、ミラー粒子を剥離させながら地面に叩きつけられた。

「ポルコート!」

 護がその名を呼ぶ。撃墜されたのは、ポルコートとそのガンマシンだった。もともとボルフォッグよりも一回り小柄な上、トリプルゼロによるパワー差は圧倒的だ。

「くっ、ガオガイゴーをやらせるわけにいかないのでね……」

 ポルコートは体勢を立て直そうと半身を起こす。

「待って! その機体で覇界の眷族に正面から挑むのは危険よ!」

 火乃紀の指摘は正しい。ポルコートはもっとも小柄な勇者ロボであり、もともと諜報に特化した設計ゆえに、力押しの戦いには向いていない。だが、それでも彼には負けられない理由がある。

「ミス火乃紀に護くん、無理でもやらなければならないことがある。僕は君たちに大変なことをしてしまったのだから……」

 ポルコートは軋む機体で、立ち上がった。ほんの少し前、鷺の宮・ポーヴル・カムイに操られたとはいえ、火乃紀と護に絶命をもいとわない攻撃をしてしまったのだ。我が身を捨ててでも二人を護らなければ、ポルコートの超AIに組み込まれた"英国紳士の誇り"は自分を許してくれそうにない。その熱意とともに、オービットベースに残されたミズハのカーゴブロックで、大気圏突入してきたのだ。
 そのブラウンの機体に、紫の機体が接近してくる。

「ポルコート捜査官……彼我の戦力計算もできないほど、あなたが熱暴走しているとは意外ですね」

 かろうじて立ちあがったポルコートの前に、覇界ボルフォッグが降り立つ。

「戦力計算だけで戦うかどうかを決める……そんな冷え切った存在だったかな、君は」

 ポルコートは皮肉な声で返した。かつてボルフォッグとポルコートが任務をともにする機会は、それほど多くなかった。だが、二人の超AIの人格モデル──犬神霧雄とエリック・フォーラー──は、諜報戦の中で互いを好敵手とも親友とも讃え合う関係だったのだ。
 その記憶が引き継がれているはずはない。ないはずだが、覇界ボルフォッグのうちで何かが刺激されたようだ。

「いいでしょう……ガオガイゴーを倒す前に、あなたを排除します。三身一体!」

 覇界ボルフォッグがガンマシンとともに宙に舞う。それが自分への挑戦状であることを、ポルコートも一瞬で悟った。

「三身一体!」
「止まれ、ポルコート! 相手は覇界の眷族なんだ! 無理しちゃダメだ!」

 機動隊長である護の命令にも、ポルコートは耳を貸そうとしない。
 二組の諜報ロボたちは覇界ビッグボルフォッグとビッグポルコートに合体、同時に必殺技を放った。

「大回転魔弾!」
「大回転魔輪!」

 ミラーコーティングされた覇界ビッグボルフォッグが、独楽のような姿で回転、ミラー粒子を高速で撃ち出した。ビッグポルコートもこれに対抗、銀色の独楽となり、ミラー粒子で形成された戦輪を撃ち出す。
 本来ならば同系統の技でもあり、正面からぶつかりあえば相殺は可能だったはずだ。だが、トリプルゼロによる強化は圧倒的な差をつけている。
 銀色の飛礫が、銀色の戦輪を打ち砕く。全身のミラー粒子をすべて放ちつくし、無防備になったビッグポルコートの機体に、豊富なミラー粒子を放出し続けるビッグボルフォッグの大回転魔弾が容赦なく浴びせられた。

「うわああああっ!」

 無数の飛礫が、防御する術を失ったビッグポルコートに降り注ぐ。GGGブルーでもっともベテランの勇者ロボは、双眸のカメラアイから光を失い、ガックリと崩れ落ちた。

「ポルコートッ!」

 叫ぶ護に、かすれ声で断末魔のような返事が届く。

「ポルコートではない……護くん………今の僕は…ビッグポルコー…ト………」
「……!!」
「オービットベース、ウイルス駆除は!? まだですか!」

 声が詰まる護。間髪入れず火乃紀が通信機に問い合わせる。

『すまない、あと八十秒だけ持ちこたえてくれ……』

 犬吠崎のやや悲愴ともとれる低い声が応える。火乃紀はそれ以上急かそうとはしない。畑は違えど、技術者がその秒数を必要としている以上、時間短縮することは駆除成功率を逆に下げてしまう危険性を理解しているからだ。

「八十秒……それだけあれば充分です」

 もはや廃品のように横たわるビッグポルコートの傍らに降り立ち、覇界ビッグボルフォッグが身構える。

「ボルフォッグ、僕たちにとどめを刺そうというの……?」
「護機動隊長…それが……かつてともに戦った、私たちの……」

 言葉の途中で、覇界ビッグボルフォッグは足下を見た。すでに大破したと思われたビッグポルコートが必死に右腕を伸ばし、覇界ビッグボルフォッグの脚をつかんでいる。

「やら…せない……」
「その執念、敬服します。ですが、もう貴方にかまっている時間はありません」

 現状のビッグポルコートには、これ以上の妨害はできない。視線を外した覇界ビッグボルフォッグは、4000マグナムをいまだ動けずにいるガオガイゴーに向けた。

「お別れです、護機動隊長……」

 火乃紀の脳裏に、いつも命にかかわる危機が迫った時に現れるソムニウムのことが浮かんだ。カムイに襲われた時と同様に、紗孔羅のリミピッドチャンネルによる実況が途絶えているのか、今のベターマンはおそらく火乃紀を助けには来ない。ラミアは現れない。彼女はそう感じていた。だが、その直感の向こうには、頼りがいのない、しかし頼りにしたい、そんな別の存在の顔が浮かび上がりつつあった。火乃紀は、心の中でその名を綴ろうとした。

(ケ……)

『お別れとかなんとか、勝手に決めてんじゃねええええッ!』

 火乃紀の心の声より先に、逆ギレモードの罵声が通信に割り込んでくる。それは火乃紀が今まさに心の中で綴ろうと想った名前の主であった。いつも側にいてほしいと望んでいた存在の声。望んだとき、頼りにならずとも駆けつけてくれた存在の声!

「ケーちゃん!」

 脚部クロウラーで爆走してくる覚醒人V2。そのセリブヘッドで蛍汰が叫ぶ。

『待たせたな、火乃紀! うりゃああっ、システムチェーンジ!』

 ボイスコマンドでV2はアクセプトモードから、アクティブモードに変形した。機体が上下反転、シザーハンドが脚の爪となって。大地を踏みしめる。さらに後背部に折りたたまれていた部位がセリブヘッドに防護ヘルメットのようにかぶさり、巨大な頭部を形成している。その姿はあたかも白亜紀に君臨した暴龍のようだ。

「うおりゃあああ!!」

 ティラノサウルスの顎門にも似た、鋼のセリブヘッド。その内部から蛍汰が叫ぶ。

「火乃紀へのプロポーズを邪魔した恨み、思いしれえええっ!!」

 蛍汰の声は通信回線に響き渡った。護にもオービットベースにも筒抜けの状態で。未だ動けぬガオガイゴーのセリブヘッドで、火乃紀の頬は桜色に染まった。

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


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