覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第38回】

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《前回までのあらすじ》

 覇界の眷族による波状攻撃は最終段階へ移行し、人類の敵として旧GGGの指揮を執る大河幸太郎の作戦により、ゼロロボの軍勢がGアイランドシティへ侵攻を開始した。
 覚醒人凱号で出撃した天海護と彩火乃紀はファイナルフュージョンを敢行するが、その弱点を知り尽くしている覇界ビッグボルフォッグに合体を封じられる。
 同じ頃、蒼斧蛍汰が火乃紀と暮らすためにサプライズで購入した家と、独立して会社を立ち上げるための倉庫は、無情にもゼロロボの攻撃により瓦礫の山と化していた。だが、新たな力<覚醒人V2>を得た蛍汰は逆ギレモードでゼロロボに反撃を開始する。

number.06 縁-ENISI- 西暦二〇一七年(4・完)

7(承前)

 GGGオービットベース十八層B区画に存在する集中治療室。その中央に、一人の男が立っている。いや、一人でも男でもない。その者は人間に酷似しているが、別種の生物だからだ。一体のソムニウム──名はラミア。
 その姿を見かけて、誰何しようとした医療スタッフをペクトフォレースで眠らせると、ラミアはある治療カプセルの前に進んだ。
 その内部で加療中なのは、鷺の宮・ポーヴル・カムイである。だが、もはや治療の意味がないことは明らかだ。その顔面には、大輪の艶やかな花が咲いているのだから。ヒトの生命を養分として咲く、アニムスの花。
 ラミアが右手を伸ばすと、花弁がほぐれるように開き、異形の実が現れた。カムイの生命そのものを凝縮して結実したフォルテの実。ラミアは無言で、その実をアニムスの花からむしり取ると、懐にしまい込んだ。

『フォルテ……やはり元凶なりし者の脅威が高まっている……』
『ンー…この羅漢にならフォルテも合成できるが、時間も手間も必要だ。天然物が収穫できるなら悪いことではない』

 ラミアの意志に、リミピッドチャンネルで応えた二体目のソムニウムは、羅漢である。そのかたわらには、人の傷口にも似た空間の裂け目がある。それは彼等が<ソキウスの路>と呼ぶ超距離瞬間移動路の出入口だ。ラミアと羅漢はこれを通過して、この宇宙基地の内部に出現した。二体とも、各種センサーに対抗する手段などとっておらず、数分後には警備部隊員が殺到してくるだろう。だが、彼らにとって目的を果たすための時間は、数十秒もあれば充分だった。フォルテの実を手にしたラミアはソキウスの門へと向かい、羅漢もそれに続いていく。

『ンー…いよいよ行くか』

 普段ならば、傲慢な笑みを絶やさないソムニウムが、緊張の色を浮かべている。ラミアはその意志に応えつつ、空間の裂け目へと身を躍らせた。

『……ああ、我らの希望も守られた……覇界王が待っている』

 

「オラオラオラァッ」

 ティラノサウルスの頭部にも似たセリブヘッド内で蛍汰が叫ぶ。
 ZR-07ゼロゼロセブン──ブロッサムが変貌したゼロロボの群れは、左肩部のガトリングガンで攻撃してくる。だが、俊敏な動きで飛び回る覚醒人V2を捉えることはできない。

「当たらなければ痛くねえって、懐かしアニメでも言ってたろうが!」

 ガイゴーと同じく、覚醒人V2の背にもウルテクエンジンを搭載した翼がある。その高機動を活かして、蛍汰はゼロロボの攻撃をアクロバット飛行で避けまくる。そして、地面やゼロロボの頭部を蹴り上げ、脚の裏に備わったレセプターを起動させる。

「ブレイクシンセサイズッ!」

 V2胸部のTMシステムが発光する様子をゼロロボの背後で確認した、覇界ビッグボルフォッグがつぶやく。

「データ解析……ニューロノイド……形式登録不明……パーツ形状から旧型と推定……通常のシナプス弾撃であれば、覇界の眷族の再生能力を上回ることは不可──」

 その言葉を最後まで言わせず、空中のV2は両腕をかまえた。

「食らいやがれっ! シナプス弾撃ぃぃっ!」

 黄金色の液体が、ゼロロボたちに降りかかる。それは強酸性物質のアルデヒド溶液だ。TM装甲で守られたブロッサムの機体表面をも泡立つように溶解する威力である。しかし、瞬時にトリプルゼロの力で再生されていく。
 だが、次の瞬間──

「……!?」

 常に冷静沈着だった諜報ロボが、驚愕の声をあげる。シナプス弾撃で放たれた液体は、覇界の眷族に大ダメージを与えることはできなかったものの、彼らの足下のコンクリートを猛烈な勢いで浸食したのだ。
 人工島であるGアイランドの地面の多くはコンクリートで覆われているが、その下にすぐ超鋼スチールの骨組みの層が隠されている場所も多い。浸食された地面は、覇界の眷族たちの重量に耐えきれず、蟻地獄のように彼らを呑み込んだ。あるゼロロボは骨組みに叩きつけられて機体フレームがへし折れ、また別のゼロロボは海面下の水没部まで落下していく。覇界ビッグボルフォッグも雪崩に巻き込まれるように、なす術なく没していった。
 いまだ動けぬガオガイゴー内部の護と火乃紀も、モニター内に映し出されている光景に目を見張る。

「うわっはー! すごい……蛍汰さん!」
「ケーちゃん……」

 二人が感嘆の声をもらす。特に火乃紀の声には、惚れ惚れするような響きさえ感じられた。先ほどの"公開プロポーズ"が影響しているのかもしれない。

「よっしゃぁ、覚醒人乗りの熟練の技を見たか! ってかオービットベース! もう八十秒とっくに経ったんじゃないの?」

 蛍汰のその問いは、GGGオービットベースのセカンドオーダールームにも届いていた。犬吠崎実がキータイプの手を止めず、通信マイクに応える。

「ああ、君のおかげだ。ようやくウイルスの中枢ウェアを特定した。これで……削除完了だ!」

 犬吠崎がキー入力を終えた瞬間、彼の眼前のモニターが無数の警告表示を浮かび上がらせた。猿頭寺の仕込んだウイルスは駆除されたかに見えた瞬間、別の領域に隠されていた複製を同時に起動させたのである。

「"犬吠崎、お前は昔から肝心なことを忘れる"……俺にそう言いたいのか、猿頭寺」

 猛烈な勢いで反撃を開始したウイルスに荒らされていく表示を見て、犬吠崎はつぶやいた。だが、その表情には悔しさも敗北感もない。笑みさえ浮かべている。

「俺はかつて、同期のお前に勝てた試しがなかった。だがな、お前が宇宙の彼方に行っている間に、こっちでは十年も過ぎたんだ。今の俺はお前より十歳も年上……その分、経験を積んできた。そして手に入れたんだよ……忘れたことを補ってくれる仲間とその連携の技を!」

 三重連太陽系に旅立ってから、猿頭寺の身に流れた時間は数週間でしかない。しかし、その間、犬吠崎は十年余りをGGG隊員として過ごしてきたのだ。プロジェクトZ、新型レプトントラベラーの開発、グローバルウォール計画、携わった経験値と功績はあまりにも膨大である。そして、その十年は同僚である"三博士"の連携をより緻密なものに育てあげていた!

「よし、かかった! 複製体すべてのアドレスを捕捉!」

 野崎通博士が軽快にマウスをクリックする。

「一斉除去ウェア、走らせます!」

 間髪入れずに、平田昭子博士がエンターキーを叩く。
 犬吠崎が油断を装ったことで活動を開始した、ウイルスの複製。そのすべてが、野崎と平田が展開したプログラムによって除去されていく。囮役だった犬吠崎が、今度はバックアップにまわって、二人が取りこぼしたウイルスが存在しないかを確認した。

「オールグリーン……ウイルス駆除、完了したぞ!」

 犬吠崎が満足げな声をあげる。野崎と平田も同僚の会心の笑顔に向かって、力強く、そして頼もしくうなずいた。

 

「ありがとう、みなさん!」

 思わず感謝の声をあげた火乃紀は、リンクカプセルの内部でコントロールボールを握る掌に力を込めた。明滅していたエラー表示のすべてが消滅し、コンディション表示が正常に戻る。ガオガイゴーはふたたび、Gアイランドの大地に屹立した。かたわらで覚醒人V2が見上げる。

『お、もう動けるのか、勇者王?』
「ええ、ここからは私がケーちゃんを護ってあげるわ」
『ひゃー、火乃紀ぃ、たっのもし~~!』

 通信機越しの蛍汰と火乃紀の会話に、窮地を脱した安堵がにじむ。だが、機動隊長である護は二人に緊張を促す。

「火乃紀さんも蛍汰さんも気をつけて、ボルフォッグの反応は消えていない!」

 その言葉と同時に、ガオガイゴーと覚醒人V2の前方に、オレンジ色のオーラをまとった姿が現れた。覇界ビッグボルフォッグが、シナプス弾撃による陥没孔から這い上がってきたのだ。たった一機だけ……どうやら、ゼロロボたちはまだ地下、もしくは海中にいるようだ。

「お見事です……蒼斧蛍汰店員」

 そう呼ばれた蛍汰は、微妙な表情を浮かべた。いつものボルフォッグ特有の呼び方にすぎないのだが、小馬鹿にされたようにしか感じなかったのだ。

「そして、火乃紀隊員と護機動隊長。そろそろ決着をつけましょう」

 覇界ビッグボルフォッグは両手を左右に伸ばして、身構えた。その最大の技がくる……そう悟った護は、セリブヘッドに向かって叫んだ。

「火乃紀さん! ヘル・アンド・ヘブンを!」
「わかった……AIボックスとゼロ核を回収するのね」
「僕も半分手伝います! ボイスコマンドを!」

 護の呼びかけに意を決した火乃紀は、深呼吸すると叫んだ。

「ヘル・アンド・ヘブンッ!」

 ガオガイゴーが両手を広げ、攻撃と防御のエネルギーを展開する。火乃紀は、溢れる攻撃エネルギーの激しい衝撃に襲われる。だが、Gストーンの制御に長けた護が防御エネルギーを調整することで、戒道が陥ったような著しい体力の消耗はない。続いてガオガイゴーが両拳を組み合わせると、高密度のEMトルネードが前方の覇界ビッグボルフォッグに向かって放たれた。相手をロックオンしたはずのガオガイゴーだが、火乃紀が予想した以上に、膨大な圧力がその機体を揺るがす。

「コマンドを…ゆっくり……」

 導くように、護が促す。

「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ……」

 火乃紀が圧に耐えながらも唱える。地球の人々は、誰でも知っている勇者王の必殺技。もちろん、蛍汰も熟知している。

「やれっ、火乃紀! 俺も手ぇ貸すぜ!」

 覚醒人V2が衝撃に揺らぐガオガイゴーの肩を、かたわらでがっちり支える。ガイゴーとほぼ同サイズの小柄なV2だが、その高出力ウルテクエンジンはガオガイゴーの機体を安定させた。

「ケーちゃん……うん、一緒に行こう!」

 ガオガイゴーと覚醒人V2、二体は寄り添った状態のまま突進を開始した。その前方では、覇界ビッグボルフォッグがミラーコーティングを展開し、EMトルネードをものともせず猛烈な回転をはじめた。

「大回転大魔弾ッ!」

 銀色の独楽こまとなって、高速で突っ込んでくる覇界ビッグボルフォッグ。EMトルネードの中にあって、ミラーコーティングはその影響を遮断する。ましてやトリプルゼロのエネルギーを上乗せした回転力である。触れれば、ガオガイゴーも覚醒人V2もひとたまりもない。

「突っ込むぞっ、火乃紀ぃっ!」
「うん!」

 蛍汰の指示に一瞬も迷わず、火乃紀はガオガイゴーを突進させた。
 だが、その動きより速く、無数のミラー粒子が、弾丸となって放たれる。

「健闘は評価しますが、こちらのスピードには及びません」

 ヘル・アンド・ヘブンは両腕のパワーをフルに利用するため、プロテクトシェードを使えない。無残にもガオガイゴーの機体は蜂の巣にされるしかなかった。

「そうはいかねっての!」

 勇者王の全身が引き裂かれる直前、ミラー粒子の飛礫は弾き飛ばされた。蛍汰のとっさの判断で、V2は固有装備であるミラーシールドをかまえて、ガオガイゴー正面の防御壁としたのだ。

「お見事です……」

 回転する独楽状態ではあるが、覇界ビッグボルフォッグには感嘆する余裕があった。ミラーシールドが付け焼刃でしかないことも見抜き、大回転魔弾の連射を続ける。

「ですが!」

 案の定、V2のミラーシールドは、威力の勝るミラー粒子に吹き飛ばされ、その向こうにいるガオガイゴーがあらわになった――

「!?」

 ――はずだったが、覇界ビッグボルフォッグのセンサーは、自ら回転している事が災いしてガオガイゴーの位置を捉えるまでにわずかな遅れを生じた。

「……ここよ!」

 火乃紀の声は、覇界ビッグボルフォッグの頭上から響いた。シールドを破壊される寸前、ガオガイゴーは、V2と出力を同調させ、跳躍していたのである。火乃紀と蛍汰、長年のつきあい故の、阿吽の呼吸が成せる技だ。覇界ビッグボルフォッグが状況を把握した時には、すでに反撃も回避も不可能だった。

「ボルフォッグ、僕たちは負けない!」

 機体の全身にまとった攻撃と防御のエネルギーを、かたく握りあわせた両拳に集約させながら、護が叫ぶ。大回転大魔弾を上空から見た火乃紀は、護と蛍汰の意図を理解し、一瞬たりとも迷わなかった。

「はあああっ!」

 ガオガイゴーの両拳が、独楽の中心となる回転軸に打ち込まれた! どのような高速回転であろうと、頭上からならその中心を貫ける。覇界ビッグボルフォッグの頭部──その直下にあるAIボックスを!

「お見…事……」

 V2の装備や出力データを把握しきれずに敗れた、諜報部エキスパートの声は、断線し途切れた。勇者王の両腕が、探り当てたAIボックスを鋼鉄の指でつかみ取る。AIと機体の物理的接続が断たれ、覇界ビッグボルフォッグはその高速回転を止めた。

「いまよ、ケーちゃん!」
「おうっ!」

 ガオガイゴーから離れたV2が両脚の爪で覇界ビッグボルフォッグの機体を掴む。

「ブレイクシンセサイズ!」

 蛍汰のボイスコマンドを受け、瞬時にその機体を破壊するための化学物質を合成するTMシステム。

「往生せいやぁぁぁっ! シナプス弾撃っ!」

 覚醒人V2は、素早く確実に、両腕の掌底から強酸性物質の一撃を放とうとした。覇界ビッグボルフォッグの背部へ!
 だがそこは──

「ああっ!」

 護は一瞬で悟った。
 ビークル形体では運転席にあたる、そこにはおそらくゼロ核が収められている。

(そうか、蛍汰さんは知らない……GGGの誰かが内部にいることを!)

 同じ理解をした火乃紀も、必死に制止する。

「ケーちゃんダメ! そこはっ!」

 火乃紀の声も届かない。この時、逆ギレモードの延長時間にいた蛍汰は、眼前の敵を破壊し、消滅させることしか頭になかった。サラリーマン人生のほとんどを捧げた夢。それを打ち砕かれた恨みが、脳内を満たしていたため、制止の声に素早く反応する余裕がなかった。しかし今、蛍汰の脳内では抗う声が響いていた。

(やめて……殺さないで。あの子が愛した人を……!)

 ──かつて、パピヨン・ノワールという女性がいた。GGG隊員として、猿頭寺耕助の同僚であり、恋人であった女性。ソール11遊星主とパスキューマシンを巡る争いのなかで命を落としたのだが、レプリジンの肉体を得て、猿頭寺との別れをもう一度やり直すことができた女性。肉体が消滅しようと彼女の思いは、猿頭寺耕助のなかへ確実に注がれていった。
 そして、パピヨンにとってもっとも近しい人が、この場にいる。ロリエ・ノワール──彼女の実の母親である。いや、正確にはその姿はもう存在していない。"のぞみの袋"というアニムスの花の亜種に命を奪われたのだが、その脳硬膜が幼き日に事故で頭部を損傷した蒼斧蛍汰に移植され、それ以来、蛍汰の意識下に残留しているのだ。ロリエの脳組織は蛍汰と共存し、幾度となく視神経に様々な幻影を映してきた。いわば、もうひとつの人格を形成していたと言って過言ではない。それが故に、蛍汰は二人分のデュアルインパルスを発生させ、ニューロノイドを一人で起動させることができるのだ。
 不幸にも夭逝ようせいした母娘──ロリエとパピヨン。この場にいる蛍汰も火乃紀も護も、奇しくもその事情に深く関わっている。その因果に、いかなる意味があるのだろうか? 母も娘もきっと、こう答えたに違いない。

(あの人を救うために、神様が導いてくれた……)

 脳内でささやかに……だが力強く発せられた声に、蛍汰は我に返った。

「うおっととと!」

 ロリエの意思が上回ったか、蛍汰は無意識のうちにコントロールボールを操作して、TMシステムを緊急停止していた。強酸性物質の放出を、更なる抑制物質で分解し止めた覚醒人V2の掌底が、覇界ビッグボルフォッグの内部にあるゼロ核をつかみとる。力強く、そして優しく。
 この場にいる誰も知らない、誰も気づかない。それでも、母と娘の願いはかなったのだった……。

 

 ガオガイゴーと覚醒人V2が、AIボックスとゼロ核を確保したまま、大地に立つ。残骸と化した覇界ビッグボルフォッグの機体は、トリプルゼロのエネルギーが枯渇し、その場に崩れ落ちる。護は悲しそうな目で、その思い出深い姿を見て、つぶやいた。

「ボルフォッグ……きっと、元の姿に戻してあげるからね」

 

 ガオガイゴーとV2の勝利に、メインオーダールームは沸き立った。

「護くん、よかった……」

 涙を浮かべる華に、隣の席のアルエットがハンカチを差し出す。

「どうぞ、初野先輩」
「あ、ありがとう、アルエットちゃん……」

 フランス人形のような美しい少女は、無言で微笑みを浮かべた。その笑みは勝利を称える祝福ではない。華にとって最愛の人が、厳しい戦いを生き延びたことへの喜びを込めたものだ。

「ヤマツミまもなくGアイランドに到着します今さらですが」

 タマラが報告する。

「うしっ! ワダツミも、あと五分で到着予定!」
「オウ、じゃあそろそろ、彼らにも降りてもらおうカネ。GGGの勇者とディビジョン艦が勢揃いダヨ!」
「いや~、しっかし、アブラ汗かいたっすわ~」

 タマラに続いて報告の声をあげつつ、牛山次男も、プリックル参謀も、山じいも、みな笑みを浮かべている。だが、一人だけ、号泣している者がいた。

「うおおおおお、蛍汰よぉ、火乃紀よぉ、良かったなぁ! 仲人なら俺がやってやるからなぁ!」

 阿嘉松長官は、二人が高校生だった頃からのつきあいである。ほとんど親のような気分で、涙をあふれさせていた。
 そしてもう一人──他の者とは異なる表情を浮かべている者がいる。

(おかしい……あの男の策が、これで終わりとは思えない……)

 楊龍里は恐怖に近い表情で、冷や汗を浮かべた。

(ボルフォッグが言っていた"時間稼ぎ"とはどういう意味だ、大河幸太郎……!)

 

 楊にその名を呼ばれた人物は、本人にとって懐かしい場所にいた。
 宇宙開発公団タワーの最上階、総裁室。本来の主である現在の公団総裁は、職員とともにすでにタワーから離れた陸地の地下シェルターに避難してしまっていた。
 眺めのいい展望ガラスから、眼下の光景を見下ろしつつ、大河はつぶやいた。

「よくやった……若きGGGよ。それでこそ勇者だ。だが……我々の作戦は確実に実行された。もう"覇界王は目覚めた"のだよ」

 

 地に降りた蒼斧蛍汰は、ポケットのなかでぐしゃぐしゃに潰れた小箱を取り出した。箱に劣らず、涙でぐしゃぐしゃになった顔で、言葉を絞り出す。

「火乃紀よぉ、俺……火乃紀の帰る場所を作ってやりだくでさぁ……必死に金貯めたんだよぉ……なのに、なのにあいつらプチッと踏みつぶしていぎやがってよぉ……何年もががっで貯めて、ローンも三十年残っでるのにプチッとだぞぉ、ひどずぎるよなぁ……」

 同じく地に降りた火乃紀は、蛍汰の肩越しに見える廃墟を見つめた。かろうじて、隅の方の外壁は残されており、そこに瀟洒な一軒家の痕跡はうかがえる。だが、それだけだ。蛍汰のこれまで数年間と、これから三十年間の汗と涙の結晶は、ただの瓦礫の山となりはてていた。
 泣きじゃくる蛍汰の手から、小箱を受け取り、そっと開ける。そこには給料三か月分が光り輝いていた。火乃紀は、蛍汰の手にそっと婚約指輪に握らせ、そこに自分の左手の薬指をくぐらせた。

「ひ、火乃紀……」

 その行為の意味を悟って、蛍汰は火乃紀を見つめた。火乃紀にもまた、涙が自然とあふれてくる。

「ケーちゃん……家なんかなくたって、ケーちゃんがいる場所が、私の帰る場所だよ……」
「ひ、ひ、ひ、火乃紀ぃぃぃっ! うおおおおっ!」

 埃まみれのくたびれた作業着のまま、ダイブスーツの火乃紀を抱きしめる。二人は固く固く抱き合いながら、いつまでも声を上げて泣き続けた。
 そのため、たった今はじまった、自分たちのすぐ横で繰り広げられている壮大な光景に、なかなか気づかなかった。衛星軌道上のGGGオービットベースから発進、大気圏突入してきた万能力作驚愕艦<カナヤゴ>が頭上に滞空。そこから出動したカーペンターズが、Gアイランドシティ市街地の修復を開始し、同時に蛍汰が買った倉庫や蒼斧邸も、あっという間に復旧してくれた光景に──

 

 やがて、カナヤゴの隣に機動完遂要塞艦<ワダツミ>と、諜報鏡面遊撃艦<ヤマツミ>、そして、無限連結輸槽艦<ミズハ>が並んだ。ミズハはカーゴブロックごとに分解され、複数の箇所に降下していたのだが、それらがこの地に集結、再連結したのである。
 オーストラリアに降下したブロックには、いまだ完全に回復したわけではない戒道幾巳が、本人の強い希望で乗り込んできていた。

(おかしい……なんだ、この胸のざわめきは……なにかが、なにかが近くにいる……)

 折れた肋骨が完全に治ってはいない、その胸に手を当てて、戒道は思い悩んだ。嫌な予感とも言い切りにくい、複雑な感覚。なにかを感じて、青年は眼下のGアイランドを見つめた。幸い、入院中の母は無事が確認されている。この後、会っていこう……そう思いつつも、戒道は予感を覚えていた。

(そんな余裕は、なくなるかもしれない……)

 

 そして、その予感は的中する。

「Z0シミラー反応が消えないっす! しかもこれ、いままで観測したことない規模っすよ! ゼロロボの大軍団がGアイランドにいるとしか思えないっすわっ!」

 普段、緊迫した声をあげることなどほとんどない山じいが、血相を変えて報告した。メインオーダールームのメインスクリーンには、濃密なZ0シミラー反応が表示されている。だが、覇界の眷族の姿は見えない。
 インビジブル・バーストのように、不可視の脅威が迫っているのだろうか? その時、すべてを理解した楊が叫んだ。

「そうか……下だ! 海中だ! その下のサーチ不能な地下空間だ!」

 

 ガオガイゴーと覚醒人V2が勝利をおさめるほんの数分前、すぐ近くに出現する者たちがいた。ソキウスの路を通ってきた、ラミアと羅漢である。
 彼らが現れたのは、Gアイランドの直下。かつて、GGGベイタワー基地が存在した空間──そこには現在、地下高速移動システムの巨大ターミナルがある。
 かつて、インビジブル・バーストによる強電磁場が吹き荒れていた時代、情報やエネルギーの伝達には地中や海中が用いられた。その頃に整備された、世界中を結びつけるハブが、海水から分厚い壁で隔てられたこの広大な地下施設ターミナルである。
 ラミアの手にはフォルテ、羅漢の手にはオウグ。二体ともアニムスの実を持ち、臨戦態勢にある。火乃紀の危機にもかかわらず、ラミアが現れなかった理由は、この空間にある。彼らはその超感覚で知っていたのだ。

『ンー…やはり目覚めていたか、もう一体の……』
『ハカイオウ……』

 ラミアと羅漢は、人工の地底空間にうずくまる巨大な影を見た。海中からではなく、地底深くから入り込んだと思われるその姿は、照明がなくとも、はっきりと見える。炎にも似たオレンジ色のオーラをまとっている……いや、全身から噴きだしているからだ。
 片膝をついたその状態でさえ、ガオガイゴーの二倍を優に超える超巨大な姿。立ち上がれば、広大なこの空間でさえも、突き破ってしまうことは確実である。
 その存在を、ラミアはリミピッドチャンネルの膨大な濁流の中で感じとったのだ──<覇界王>と。そう、そこにいるのは、かつて木星圏で遭いまみえた覇界王ジェネシックではない、もう一体の覇界の王だった。

 すなわち、ジャイアントメカノイド──覇界王キングジェイダー!

「……最初にここへやってくるのは、エヴォリュダー凱だと思っていたが」

 覇界王キングジェイダーが、言葉を発した。それは、もう一体の覇界王のような唸り声ではない。強靱なる意志を持つ者の声だ。
 覇界の眷族随一の戦士が融合フュージョンしていることの、証左である。

『覇界の王が目覚めることは、デウスによって知らされていた……』
『ラミアよ…それが故に、あちらこちらに網を張っていたのに、ンー…どうやら先手を取られたようだな』

 傲岸不遜な羅漢の声に、苦渋がにじむ。かつて覇界王ジェネシックとまみえた経験から、羅漢もまた悟っているのだ。目の前にいるのは、自分とラミアだけで止められるような存在ではない、と。

『往くぞ、羅漢──』
『ンー、承知』

 リミピッドチャンネルで意志をかわしたラミアと羅漢は、同時にアニムスの実を貪り食う。そして、彼らソムニウムの身体は数倍に膨れあがり、変身体であるベターマン・フォルテ、そしてベターマン・オウグとなった!

『羅漢、左右に分かれ死角にまわる』
『わかっている、ンー、今ならまだ勝機はある』

 二体は眼前の脅威に向かって、一か八かの突進を開始する。だが、覇界王キングジェイダーは一瞥をくれようともしなかった。

「……貴様らの相手など、私がする必要もない」

 覇界王のその言葉と同時に、ターミナルの閉鎖空間に四体の光が躍り出た。

『小さき四つの暁……だがその輝きは強い』

 小さい、とはいえ、あくまでもキングジェイダーと比べれば、である。その四体は、一体でもフォルテの三倍ほどの大きさはある。フォルテの中のラミアが瞬時に解析するも、四体はたちまち二体となった。

『ンー、左右から合体して巨大化を図ったか』

 オウグの中の羅漢は、倍化したエネルギーの流れを感じた。フォルテとオウグはそれぞれに立ちはだかる敵の攻撃に備える。
 だが、新たに現れた覇界の眷族たちは、たった一撃のもとにソムニウム変身体を叩き伏せた。必殺技を使うまでもなく、拳と蹴りだけで。避ける隙すらも与えず、それぞれ無造作に繰り出しただけのその一撃で、ねじ伏せたのである。
 フォルテもオウグも一瞬で活動を停止させられ、その巨体は繊維化して崩れ去っていった。

『く、強すぎる暁の霊気…この者たち……』
『ンー、覇界の王以外にも、これほどの眷族がいたのか……』

 白く繊維化した残骸のなかに横たわる、ラミアと羅漢。二体とも、もはや戦う力は残されていない。変身とその後に受けたダメージで、戦うどころか、立ち上がる余力すら失われていた。

「……覇界王よ、いまこそ我らの力を解き放つときだ」

 もはやソムニウムたちに一片の関心すら持たず、覇界幻竜神が告げた。それは、ビークルロボである氷竜と雷龍がシンメトリカルドッキングした姿だが、全身がオレンジ色に強く輝いている。

「俺たちはもう、充分にトリプルゼロを充電してるぜ」

 そう言って、覇界強龍神がうながす。こちらは風龍と炎竜が左右合体した姿だが、やはり同じように強い輝きを放っている。

「よかろう……今こそ、宇宙の摂理に抗う者たちに、致命の一撃を!」

 不自由な体勢で、覇界王キングジェイダーが右腕を突き出してかまえる。その両脇に立った覇界幻竜神と覇界強龍神も、両腕をかまえた。次の瞬間、巨大な覇界王と覇界将二体が、全身からオレンジ色のオーラを噴き出す。分厚い大地を通してさえ、衛星軌道上からも観測された濃密なZ0シミラー反応は、まさにこの瞬間であった。

 そのオーラは、海中から大地を突き破り、オレンジ色のオーラとなって、Gアイランドの大地にひび割れを引き起こし、その隙間から噴出した。
 高所からその光景を見下ろしながら、大河幸太郎が目を細める。

「いよいよ始まる……いや、これで終わりだ」

 Gアイランド直下の海中で覇界王が目覚めれば、Z0シミラー反応を感知した、GGGグリーンやGGGブルーが駆けつけてくる。そうなれば、たちまち妨害されるであろうことを逆手にとったのだ。本命の場所の直上での、ZR-07による市街地制圧。そして、覇界ビッグボルフォッグによる時間稼ぎ。計算され尽くした陽動作戦で、誰にも気づかれずに覇界王たちは配置についた。
 さらに成功率を高めるため、作戦の前段階として、遠隔地に覇界の眷族を配置して、勇者ロボたちを分散させた。もちろん、単なる陽動ではなく、ガオファイガーやオービットベースの排除といった目的も盛り込んである。どれかひとつが成功すれば、宇宙の摂理が勝利するのだ。
 十重二十重とえはたえにも練り込まれた、大河幸太郎の作戦であった。そして、その最終段階──覇界王と覇界将らは、その身に数か月をかけて貯め込み続けたトリプルゼロを、今この時、おのが必殺技に集約した!

「ジェイクォースッ!!」
「マキシマムトウロンッ!!!!」

 濃密なトリプルゼロが閉鎖空間にあふれ──地下高速移動システムの海底トンネルに注ぎ込まれていく。そして、その余波はターミナルの天井を破って、地上にまで噴出した。

 

 大地を割って、溢れ出すトリプルゼロ。
 勇者たちもディビジョン艦も、暴風にも似たエネルギーの奔流に弄ばれる。そして、彼らは見た。オレンジ色のエネルギー嵐の中から出現する、三つの姿を。
 覇界王キングジェイダー、そして覇界幻竜神と覇界強龍神。
 ミズハ舷側の窓からその姿を見た戒道は、肋骨の痛みも忘れて、空中に飛び出した。

「J! そこにいるのか、Jッ!」

 カーペンターズによる修復を受けていたビッグポルコートも、なにかを感じて、覇界王の巨体を見上げる。

「ルネ……!?」

 ガオガイゴーから降りていた護は青と黄の、そして緑と赤の、二体の名を呼ぶ。

「幻竜神、強龍神……」

 そして、ガオファイガーがワダツミから飛び出した。ハワイからここまで、到着と同時の戦闘にも備えて、フュージョンアウトせずにやってきたのだ。

「ソルダートJ、貴様、何をしたっ!」

 ガオファイガーは、光を放つ覇界王キングジェイダーを見上げた。

「エヴォリュダー凱、そしてアルマよ……」

 覇界王は空中に浮かぶ浄解モードの人影と、眼下の大地に立つ凱の分身たる機体とを交互に見ながら告げる。

「我らの為すべきことは、ただひとつ……全宇宙を無に帰すこと。そのためにも、すべての知的生命体を殲滅する」
「俺はお前を止める! そしてトリプルゼロから解放する! みんなで協力すれば、お前も浄解できるんだ!」

 ガオファイガーは両翼のウルテクエンジンを展開し、宙に舞う。

「凱、貴様との決着は既についている。知っているはずだ。覇界王の力を」

 そう告げつつ、覇界王キングジェイダーは左腕を無造作に振るった。その一撃を食らったガオファイガーは、いとも簡単にGアイランドの大地に叩きつけられた。

「ぐわあああっ!」

 エネルギーを放出した直後であっても、覇界王の力は比類ないほどに絶大であった。だが、勇者王に追撃を加えようとはせず、ジャイアントメカノイドはそのまま浮上していく。そして、変形する──覇界の方舟ジェイアークへと。さらに甲板上には、地上から跳んだ覇界幻竜神と覇界強龍神が着艦する。

「待て、待ってくれ、Jッ!」

 浄解モードで飛翔する戒道は、必死に覇界の方舟に追いつこうとした。だが、その距離はどんどん開いていく。
 覇界王として増幅されたメインスラスターを噴かし、覇界の方舟は大気圏外へと加速していった。

 その驚異的な圧を放つ輝きを追撃する余裕は、連戦を重ねたGGGブルーとGGGグリーンの勇者たちに残されてはいなかった。
 衛星軌道上のGGGオービットベースも、ただ見守る以外になす術がなかった。先ほど、覇界王と覇界将らによって放出されたトリプルゼロが、地下高速移動システムを通じて、全世界にまき散らされたからだ。

「せ、せ、せ、世界中から救難信号! ゼロロボが全世界各地に大量発生しているっすわ!」
「ZR─08から26まで認定完了あと二十六種類の認定待ち申請いえでもさらに増え続けています~~!」
「各勇者ロボの修復、カーペンターズが全力で当たっていますが、あと七分を要します!」

 全世界から呼びかけられてくる、悲鳴のような救難信号。GGGブルーとGGGグリーンの全戦力をもってしても、それらすべてに応えることは不可能だ。
 長官席から立ち上がり、阿嘉松は呆然とつぶやく。

「お…お……おいっ、地球はどうなっちまうんだ……」

 阿嘉松の問いに答えるかのように、集中治療室で愛娘が声を発した。

「地球ガ……滅ビル……人ガ、全部……生キ物ガ、全部……殺サレル……宇宙ノ摂理ニ……オレンジ色ノ…光ノ中デ……アアアアアアッ!」

 そこまでを絶叫した紗孔羅が、唐突に静かな声で告げる。

「……コレデ、スベテガ、終ワリマシタ……」

 かつての言葉がすべて未来を予知するものだったとすれば、それは確定した現在を告げるものだった──

 

 ──全地球規模の阿鼻叫喚の図。それらを眺めている者たちがいる。Gアイランドを対岸に臨む東京湾の岸壁に立つ、四つの影。その中でただ一人、普通の人間である牛山三男は、スマホから流れてくる世界各地の緊急ニュースを見て青ざめていた。
 特殊能力者同士の遺児であり、普通とは言いがたいが、一応は人間の少年であるケイ。彼はなんの感情も示すこともなく、海の向こうで炎上するGアイランドシティの様子を眺めている。
 対照的に人造生命体であるチャンディーは、同じ光景を面白そうに楽しんでいた。
 そして、この場にいる第四の存在が、幼さの残る無邪気な声で、つぶやき続けている。

「そう、これが本来の歴史だ。地球に発生した知的生命体は、宇宙の摂理に従い、その終焉の時を迎えた……。でも、もったいないと思わないかい? 知性の誕生というのは、それはそれは奇跡的なことなんだよ」

 幼い声に相応しく、幼い容姿の持ち主は、かたわらのチャンディーとケイ、牛山三男に語りかける。

「だから、ボクは干渉すると決めたんだ……」

 ──そう言って、デウスは微笑んだ。

(number.06・完 number.??へつづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回10月更新予定


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