覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第40回】
《前回までのあらすじ》
覇界の眷族による波状攻撃を、GGGグリーンとGGGブルーの勇者たちは乗り切った。火乃紀と護のガオガイゴーと、蛍汰の覚醒人V2による連携で、猛威を振るうゼロロボの群れに打ち勝ち、覇界ビッグボルフォッグのAIボックスとゼロ核を保護することにも成功したのである。
だが、すべては陽動に過ぎなかった。世界各地で戦いが続く中、Gアイランド直下の地下深くでは、強力なる難敵が静かに真の目的を達成しようとしていたのだ。間一髪、それを察知したソムニウム・ラミアと羅漢は、フォルテとオウグで挑むも、強靭なる覇界王キングジェイダーと覇界幻竜神、覇界強龍神の前に敗れ去る。そして遂に、トリプルゼロが地下高速移動システムを伝わり、世界中に一斉拡散され、地球全土が無数のゼロロボに埋めつくされてしまう事態に陥った。このまま、人類は、いや地球の全ての生命は、宇宙の摂理に従い、滅びていくのだろうか……。
number.07 煉-RENGOKU- 西暦二〇一七年(1)
1
諜報鏡面遊撃艦<ヤマツミ>が減速を終え、GGGオービットベースにドッキングする。内部はともに常圧に保たれており、エアロックによる気圧調整の必要もなく、連絡通路が開放された。ヤマツミから移乗した四人の人物は、事前に聞かされていた一室へとよどみなく歩んでいく。彼らにとってオービットベースは、古巣に他ならない。
旧知の会議室で彼らを待っていたのは、獅子王凱とスタリオン・ホワイトだった。
「退院おめでとう、みんな!」
凱の祝福の言葉に、嬉しそうな表情を浮かべる者はいない。それもそのはずだった。彼ら──浄解された火麻激、猿頭寺耕助、牛山一男、仲居亜紀子はみな、覇界の眷族であった頃に自分が何をしていたか、すべて記憶に残っているのだ。
トリプルゼロの影響下にあったとはいえ、おのが意志で人類を滅ぼそうとした事実は変わらない。少しの間の後、絞り出すように火麻が口を開く。
「……こうして無事に再会できたのはいいことだけどよ。ちっとも喜ぶ気にはなれねえよ、凱」
沈痛な面持ちの火麻に向かって、スタリオンがあえて明るい声を出す。
「OH……参謀。いまの凱はGGGグリーン長官代理よ。我々の上官にそんな口の利き方、よくないね」
「おっと、そうだった。わりいな、長官代理」
苦虫を噛みつぶしたような火麻が、苦笑を浮かべた。苦々しいものであったとしても、それでも笑みには違いない。空気が軽くなった。凱も薄く笑みを返す。
「いいんですよ、参謀。今までどおりの呼び方で……って俺、誰かが帰ってくるたびにこう言わなけりゃならないのかな」
少し困っている凱の様子を見て、スタリオンが助け舟のつもりで補足する。
「そういうコト。長官代理であることは間違いないからネ。ハリアップ、急いで大河長官を取り戻さないと、ずっとそう呼ばれるね」
さすがに猿頭寺も牛山も仲居も気づいていた。自分たちの心理的負担を取り除こうと、凱とスタリオンが気をつかってくれていることに。
ゼロ核として回収された四人が、Gアイランドシティで凱と護に浄解されたのは、一月ほど前のことになる。身体機能の消耗が著しかったため、そのまま入院することになったのだが、体力の回復に従って、様々な情報も与えられてきた。当然、GGGの現在の状況も知っている。申し訳なさそうに頭を掻きながら、猿頭寺が切り出す。
「……現在のところ、この室内にいる我々六人が、ガッツィ・ギャラクシー・ガード……GGGグリーンの全隊員というわけですな」
「弟たちがGGGブルーで活躍してるとか……そう考えると、なんだか不思議な気分だな」
一男が感慨深げな言葉を口にすると、無口な仲居亜紀子もうなずいた。彼女はGGG整備部の先輩である一男と、原種大戦が終わった頃からの良き仲である。
かつて旧GGGには数百人の隊員が所属していたのだが、オービットベースに残った者たちの多くはガッツィ・グローバル・ガード──GGGブルーに転属となった。三重連太陽系に向かい生き延びた者たちは、いまだ覇界の眷族として暗躍中であり、この六人だけが現在、GGGグリーンを構成することになる。
「ちっくしょー、んじゃさっそく、GGGグリーンとしての行動開始だ! これから帰ってくる奴らを出迎える準備をしねえとな!」
わずかな時間の間に気分を切り替えることができたのか、火麻がいつものような豪放な声をあげた。そう、たとえどれほど巨大な罪悪感に苛まれていようと、打ちひしがれ落ち込んでいるわけにはいかない。いままさに人類は、存亡の窮地に立たされているのだから。彼らGGG隊員は決してあきらめることなく、その危難に立ち向かっていかねばならないのだ。
その時、会議室の扉が開いた。四人の到着を知らされて、彼らに会おうと望む者たちが駆けつけてきたのだ。先頭に立っていた二人が、同じ叫びをあげて、飛びついてくる。
「一男兄ちゃん!」
「次男! 末男!」
二人の弟に抱きつかれて、一男は細い目を見開いた。彼にとって流れた時間は、兄弟との別れから数か月でしかない。だが、弟たちには十年以上の日々が経過していたのだ。高校生だった次男は二十代後半になっても、それほど違いはない。だが、小学生だった末男が、兄たちのような巨漢になっている姿には驚きを隠せなかった。もちろん地上で入院している間に、映像通信での再会はすませていた。それでも十年分成長した姿を目の当たりにすると、感動という名の波が押し寄せた。
「二人とも……立派になったな……」
「一男兄ちゃん……俺と末男の隊員服、かっこいいだろ」
「俺も一男兄ちゃんや次男兄ちゃんと同じ整備部なんだ。ほら、十年前よりも繊維が改良されて丈夫になったんだぜ!」
次男と末男は、GGG隊員服姿を兄に見せつけた。子供の頃からの彼らの夢は、長兄である一男に追いつき、並び立つことだった。歳の差がある以上、並び立つのは難しいはずだが、ワームホールの時間差によって、現在の次男は一男よりも年長となり、すでに妻子を持つ身になっている。亜紀子とはまだまだ浅い仲の一男にとっては、追い抜かれたような気持ちでもあった。
「三男はどうしてるんだろうな……」
一男の言葉に、次男と末男は困ったように顔を見合わせる。Gアイランドシティで遭遇した蒼斧蛍汰の証言によって、この場にいない四兄弟のひとり──牛山三男が、覚醒人V2強奪犯と行動をともにしていることが確定的になった。実行犯というよりは巻きこまれただけのようだったが、自分の意志で付き従っていることは間違いない。元々、兄弟の中でも繊細な知識に長け、物静かな研究家タイプである三男のワイルドな行動は、理解に苦しむものだった……。
一方、猿頭寺と火麻のもとにも、旧知の人物がやってきていた。
「……苦労させてしまったな、犬吠崎」
「ふ……昔の俺ほどじゃないよ、猿頭寺」
そう言って、猿頭寺と犬吠崎は互いにニヤリとした笑いを浮かべる。彼らは同期のライバルとして競争相手ではあったが、親友と呼べるほどの関係ではない。だが、互いに救い、救われた今、ようやく対等な友情を獲得しえたのかもしれない。少なくとも犬吠崎の方には、心の負債を返し終えたかのような晴れ晴れとした表情が浮かんでいた。
「オウ、激! やっと会えたネ! 厄年なんてやっぱり迷信だったよ。最高の年だよ、今年は!」
「こ、こら、アーチン! 抱きつくな! 暑苦しい! 十歳も年上になりやがったのに、まだそんなに筋肉あんのか?」
火麻が他人の筋肉に文句を言うのも珍しい光景である。アーチン・プリックルは米軍時代の火麻の同僚であり、当時から彼らは決して倒れない"双子筋肉ダルマ"の異名をもっていた。組み合って訓練した当時を思い出しているような、筋肉男同士の再会である。
そして……駆けつけた隊員たちの中に、天海護と、怪我から復帰した戒道幾巳の姿もあった。二人とも、この一か月、過酷な戦いを強いられてきた。だが、帰還した四人に逢いたいとの想いから、なんとか時間を作って、やってきたのだ。
護と戒道は牛山末男の同級生であり、やはり成長したことによる変化が著しい。二人は旧GGGの全隊員にとって、息子であり、弟のような存在だった。彼らがGGG隊員服を身にまとった姿には、四人とも目頭が熱くなった。
「護くん……戒道くん……」
真っ先に亜紀子が耐えきれずに大粒の涙をこぼす。彼女も、護がGGGに初めて訪れた時からの顔見知りであり、戒道とともにESミサイルに乗せて送り出した一人でもある。母性にも似た温かい気持ちが、感動の声とともに込み上げたのだ。
護は火麻に向かって、語りかけた。
「火麻参謀……僕、忘れなかったよ。地球に帰って『ただいま』って言うのを」
それは十年前、火麻から護に与えられた任務の達成報告だった。これにはついに、火麻の涙腺も堤防決壊した。眼鏡の奥で、滝のような涙があふれ出す。
実のところ、彼ら四人の心のうちには、迷いがあった。自分はオービットベースへ帰ってきてよかったのだろうか──
心ならずも人類を裏切ってしまったことに、責任を果たすべきなのではないだろうか──
そんな迷いも怖れも、ついに流れ去った。自分たちは帰るべきところへ帰ってきたのだ。そんな想いで満たされた。
四人の姿を見守るスタリオンは、安堵の笑みを浮かべる。さっきまで火麻たちが抱えていた不安を、もっともよく理解しているのは彼だ。一足先に帰還して、同じように罪を犯したと自分を責め、一足先に立ち直ったのがスタリオンである。
自分より遅れて戻ってきた者たちの心を救わなければ……その気持ちで、凱とともに仲間たちを出迎えたのだ。
(マイシスター……キミが戻ってくる時も、僕が必ず支えてみせる……)
いまだ覇界の眷族のなかにいるであろう妹、スワン・ホワイトのことを思って、スタリオンはそう決意していた。
実のところ、彼らは誰かに許しを請う必要などなかった。人類のほとんどが、彼らの帰還を我が事のように喜んでいたからだ。
──ほぼ一月前のあの日、覇界王キングジェイダーの出現に思わず、凱はワダツミから飛び出した。その結果、Gアイランドシティの一般市民が目撃したのだ──帰還した勇者王ガオファイガーの姿を。
他の勇者ロボならばいざ知らず、幾度となく世界各地で人類を救ってきたガオファイガーが稼働している以上、エヴォリュダー凱がそこにいるということを意味している。国連評議会とGGGブルー上層部も、これ以上の情報を秘匿することは不可能だと判断するしかなかった。
そこで国連は、発表したのである。彼らが凱とスタリオンから聞いた真実を──
反逆者の汚名を着せられ、地球から旅立った旧GGGは、三重連太陽系でソール11遊星主と互いの宇宙の存亡をかけて戦った。そしてその戦いに勝利した後、ジェネシック・ガオガイガーが持つツール<ギャレオリアロード>の力によって、滅び行く宇宙から脱出した。だが、彼らが到達したのは滅び行く宇宙と、生まれくる宇宙の狭間──オレンジサイトだった。そこには宇宙を誕生させ、潮が引くように滅ぼしてしまうエネルギー<トリプルゼロ>が満ちていた。そしてそれはまさに、ソール11遊星主たちがこじ開けた次元ゲートから、トリプルゼロが太陽系に噴出しようとしている瞬間だった。
旧GGGの勇者たちは、トリプルゼロの噴出による滅びから太陽系を救い、その結果、覇界の眷族となってしまった……。
彩火乃紀の研究結果によると、トリプルゼロは喩えるなら電気信号を帯びたケミカル物質。覚醒剤で人が狂わされるように、メカをも変形させるほどの危険物なのである。悲運な事故によって中毒症状に陥り、性質や性格が変化してしまっても、それは病と同じで、浄解という治療によって元の状態に回復可能だ。彼らがたとえ覇界の眷族として地球に仇なすことになろうと、それは彼らの罪ではない。全世界の人々が窮地にあって、それを理解した。十年前、彼らに汚名を着せてしまった過ちを、二度と繰り返してはならない。それが人々の気持ちだった。
そんな声が世界中から寄せられるまでの間、凱のうちには秘めた想いがあった。
(もしGGGのみんなを責める人がいたら、俺が矢面に立って、その声を受けなくちゃならない……)
自分がすべての恨みや憎しみを引き受けてでも、仲間たちを守らなくてはならない。それが凱の決意だった。だが、それは杞憂に過ぎなかった。
人は窮地に陥ったとき、本性が現れる……とする説がある。それは、全人類というスケールに拡大しても、成立する説なのだろうか。
少なくともこの時、人類という種は存亡の危機にあって、憎しみや愚かさよりも、思いやりと優しさ──と、そして勇気を掲げたのだ。
そう、今まさに全人類の内なる勇気が試される時だった。
この一月ほどの間、人類が追い込まれた状況はまさに苛烈なものだった。新たなる覇界王が全世界に向けて放出した濃密なトリプルゼロは、各地にゼロロボの群れを出現させた。世界各国の軍はこれに対抗したが、通常戦力では有効な反撃を行うことすらできず、一方的な敗退が相次いだ。
なすすべもなく、人々はゼロロボに制圧された地域からの避難を余儀なくされた。Gアイランドシティで応急処置を終えたGGGブルーとGGGグリーンの勇者たちも各地に駆けつけたが、疲労やダメージも大きい。彼らの奮戦にも関わらず、最大の戦果は、他の地域よりは迅速に人々が避難できた……という程度だった。
そうして現在、地球全土の二十パーセント近くがゼロロボに占拠されてしまっていた。その過程でもちろん、両GGGは抵抗を試みた。だが、覇界王キングジェイダーや覇界幻竜神、覇界強龍神が現れると、抗うことは不可能だった。いまだ勇者ロボが一体も失われていないのは、勝利することよりも人々の避難を優先してきたからだろう。無理に抗えば、確実に撃破されていたはずである。
ゼロロボに制圧された区域からの避難を最優先にしたとはいえ、犠牲が出なかったわけでは、もちろんない。少なからぬ生命が、その過程で失われた。火麻たちが心を痛めているのは、それらの犠牲を悼むと同時に、いまだ覇界の眷族となっている仲間たちの心情を思いやったからだ。一日もはやく彼らを取り戻さねば、犠牲者は増える一方であり、それだけ背負わなければならない十字架の重みも増していくだろう。
もっとも、それは仲間を取り戻すことができれば、の話である。現状、ゼロロボによる支配地域は拡大していく一方であり、このままではあと四か月ほどで地球全土が制圧されてしまうという予測すらあった。
そうなった時、人類はどうなるのか? 地球外に脱出するのか──それとも──
だが、人類は宇宙の摂理たる滅びのさだめを、手をこまねいて受け入れるような無力な存在ではなかった。
2
少し前――
ソムニウムであるラミアは、透明な殻の中から目覚め這い出ていた。
『待たせた…やはり、暁の霊気は世界に広がったようだな……』
珍しい花が点々と咲いている薄暗い場所。所々に岩場があり、水の流れもある。そこは、地球上のどこかではあるが、他の生物が認識できない不可知領域なる<セプルクルム>のひとつである。ラミアの目の前には、六人のソムニウムがそれぞれに座り込んでいた。
『ンー、回復が遅いな、いにしえなる者よ』
ともに覇界王キングジェイダーに立ち向かい、瞬時に弾き返された羅漢であったが、再活動に至るまでの眠りの時間は、ラミアよりも短かったようだ。
『フン、俺が拾ってやらなかったら、羅漢もラミアも塵になっていただろうがな』
血気に満ちた子供のように、傍らのガジュマルが横槍を入れる。
『トゥルバごと、ルーメの光が包み込んだから救われたことも忘れるな』
クラゲのようなドレスをまとって立つユーヤも意識を飛ばしてきた。
『はっはっはっ、拙者がアーリマンで囮の擬態を用意したからこそ、みなさん逃げおおせた、と感謝してくれてもいいんですよ』
おどけた様子でトラベラーズハットのつばを上げて会話に加わったのは、ライである。
『う…う…ボク……』
声は発しないが、巨漢のヒイラギが言いたいことも、リミピッドチャンネルで全員に伝わった。翻訳するならば……ボクはポンドゥスの超重力で覇界王たちを足止めしたが、すべて最初からラミアが予測していた布陣だ、と主張しているようだ。
『そう、ラミアにはわかっていた。あの覇界王は以前のモノよりも強大かもしれない……』
頭巾を深く被り休んでいる少女シャーラも、淡々と意識を飛ばす。
『だから私は、みんなまとめて、あの地へ送った。ソキウスの路を開いて…』
もちろん、羅漢にもわかっていた。
『ンー、そうだな、ラミアよ。目覚めるのを待っていたぞ。時は迫る。次なる行動を……すぐに示してみろ』
ベターマンの異名を持つこの種族は、敵対する相手にもっともふさわしいベターな能力で挑む戦術を得意とする。だがその行動に至る前に、覇界王キングジェイダーの圧倒的な力によって、何もできずに負けたことが、羅漢の意識から悔しさとして感じられた。
『ラミア……』
他のソムニウムたちの意識もラミアに集中する。顔を上げ、赤い眼の中の白い瞳で、ラミアは一同を見渡した。
『……デウスを』
ラミアのその言葉に、羅漢がペットのように連れている薄く揺らめく陽炎のような存在も反応し、十字の光を浮かべた。
『……デ…ウ……ス…』
GGGの勤務に火麻たち四人が復帰した二日後、彼らはオービットベースのセカンドオーダールームで配置についていた。たった二日で……というより、この日、この場にいあわせるべく、目的意識を持って退院してきたのだ。
あと一時間ほど後、人類は覇界の眷族への一大反攻作戦<オペレーション・デイブレイク>を発動する。
作戦の中心になるのはもちろん、アメリカGGG、中国GGGの支援を受けたGGGブルーとGGGグリーンである。その作戦司令室となるのは、メインオーダールームだ。この日は阿嘉松長官とプリックル参謀、楊スーパーバイザーの首脳部をはじめ、オペレーターとして、山じい、タマラ、牛山次男、華、アルエットが配置についている。
通常、セカンドオーダールームはメインオーダールームのサポートを行うスタッフが配置される。野崎、犬吠崎、平田、スタリオンといった顔ぶれは、原種大戦時のそれを思わせる光景だ。そしてそこに、十年間のブランクを埋めるべく、火麻たち四人も詰めている。
作戦が行われるのは、サンクトペテルブルク郊外。北欧からロシア北西連邦管区にかけて、ゼロロボに制圧された区域を至近に臨む地だ。
ここに配備された戦力は、現時点で地球人類の最精鋭と言ってよい。凱のガオファイガー、護と戒道のガオガイゴー、蛍汰と火乃紀の覚醒人V2、そしてGGGブルーの勇者ロボ軍団。それに加えて、アメリカGGGやロシアGGGの諜報ロボ、その他各国で開発されたGSライド搭載機。それらが一同に介している。
だが、彼らは作戦の中核ではない。本命は別にいる。
「イエーイ! マイフレンズ、アーユーレディ?」
飛来したUFOのような飛行ステージ<スタジオ7>の上で、マイク・サウンダース13世がブームロボ形態でシャウトする。オーストラリアで覇界の眷族として、GGGと対決したマイク。彼がついに、アメリカGGGで機体を再生され、GGGグリーンに復帰したのだ。
そのマイクの手のうちには、銀色のディスクが輝いていた──すなわち、ディスクX。
メインオーダールームで、阿嘉松長官が楊博士に問いかける。
「おしっ! 楊の旦那、ディスクXの仕上がりはバッチリだな」
「さあ、保証はできんな」
「おいおい、今この時点でそんな自信のない発言しちまうのかよぉ?」
「断言できるのは、私にできる最善は尽くした……それだけだ」
往年の楊を知る者ならば、ずいぶん殊勝になったものだ、と驚くことだろう。たしかに、以前の楊とは態度も言動も変わっている。
本人にそう告げれば、「変わらざるを得んさ」と応えるだろう。なにしろ、GGGのスーパーバイザーという職について以来、彼は獅子王麗雄、雷牙、両博士の偉大さを痛感し続けているのだから。
これまでにも様々な場面でそうだったのだが、今回はディスクXの製造過程で思い知らされた。雷牙博士がその詳細な製造法をアメリカGGGに残していったにもかかわらず、あまりの難易度に楊が唸らされたからだ。
マイク・サウンダースシリーズによるエネルギーソリトン攻撃を制限する媒介──それがディスクXだ。本来、濃密なエネルギーの孤立波、つまりソリタリーウェーブの照射は、あらゆる物質を破壊することができる。地球上ではそんな無差別攻撃を行うことはできないが、宇宙空間では可能であり、原種大戦時にはESウインドウから原種が出現した瞬間を狙って、これが行われた。
このソリタリーウェーブ攻撃を地上でも行えるようにするための画期的な発明が、ディスクXだ。これには、破壊対象の固有振動数以外のソリタリーウェーブを遮断して、対象物以外へのダメージを消滅させる機能が存在する。このディスクXなしに地上でソリタリーウェーブ攻撃を行った場合、地表そのものが消失してしまうだろう。雷牙博士でも製造が困難なほど、高度な技術で産み出されたものなのだ。
この一か月、ゼロロボ群は制圧した地域の大地を、異質なものに作り替えていることが確認されている。一切の光を反射しない、漆黒。それがゼロロボが支配する地表の色だ。
GGGは人々の避難を支援するとともに、漆黒の地面を採取してきた。そうしてついに、ゼロロボとこの漆黒の地面のみを攻撃対象とする、それ専用のディスクXを製造することに成功したのだった。
「頼んだよ! 今日はマイクが要なんだからね!」
ガオガイゴーのウームヘッドから、護が呼びかけた。
「オッケイ! 今日は伝説として語り継がれる最高のステージを披露するっぜ!」
マイクが親指をたててサムズアップした。マイク自身も、自らが護たちと戦った記憶に深く傷ついている。だが、今日までの間に人間たちとの対話によって、それを乗り越えたのだ。
超AIが被造物である以上、選択的に悪い記憶を消去することは可能だ。だが、それでは"勇者の心"が育たない。トラウマを負ってもそれを消去するのではなく、乗り越えるべき……それが変わらぬGGGの方針だった。
「うっひょ~、火乃紀ぃ、GGGの勇者ロボが勢揃いしてっぞぉ! なんか俺たち、場違いじゃね?」
「なに言ってんのよ、ケーちゃんだってもうGGG隊員になったんでしょ」
「そりゃそうなんだけどさぁ……俺の場合、繰り上げ当選みたいな感じだからよぉ、なんか実感わかねっつーか」
アクティブモードの覚醒人V2、そのセリブヘッドで蛍汰は苦笑した。Gアイランドシティでゼロロボの襲撃に巻きこまれた彼は、新規家電量販店を経営する気でいたが、阿嘉松長官の求めに応じて、GGGブルーに転職したのである。
(火乃紀の居場所を作るためにガムシャラに働くのもいいけど……そんなの平和になってからいくらでもできる。今は一秒でも多く、火乃紀と一緒にいる時間を大事にしたいからなぁ)
そうして蛍汰はV2のヘッドダイバーとして、GGG機動部隊に所属することになったのである。その特殊能力を活かして、一人でV2にダイブすることもあれば、火乃紀とともに二人で乗り込むこともある。マシン構造上、デュアルカインドが二人搭乗した方が、よりパワフルに化学物質を精製できる。実のところ、世界中で人々の救援や避難支援に出動しなければならない今のGGGブルーにとって、蛍汰は貴重な人材だ。
この一月の連戦で疲労も溜まりつつあったが、火乃紀の前ではへばっていられない……その一心で蛍汰は平気そうな顔でいることを心掛けていた。
「みんな……疲れてるだろうが、ここが正念場だ」
GGGグリーン長官代理である凱が、仲間たちに呼びかける。
「ディスクXが有効だと確かめられれば、覇界の眷族との戦いももっと楽になる。頑張ってくれ!」
年若い勇者たちにとって、やはり凱の存在は、何者にも代えがたい精神的支柱だった。
「……来た、ゼロロボだ」
ガオガイゴーのセリブヘッドで、戒道がつぶやく。レーダーに捉えたのではなく、視認できる距離に無数のゼロロボが迫っていた。もはや認定ナンバーを定めていくのが困難なくらい、多種多様なゼロロボが世界中に出現し続けている。この一か月、GGGは無尽蔵の敵を相手に、果てのない撤退戦を続けていると言っても、過言ではなかった。
だが、それも今日が転機となるかもしれない。この反攻作戦が……デイブレイクが成功すれば。
「よし、作戦開始だ!」
「ギラギラーンVVッ!」
凱の言葉とともに、マイクがツインギター状のツールをかまえる。そして、胸のトレイを開いて、ディスクXを挿入した。
「カモン・ロックンロール! ディスクX、セットオンッ!!」
勇者ロボたちの、オーダールームのスタッフたちの、そして中継を見守る世界中の人々の、数多くの視線がマイクに集まる。
「ソリタリーウェーブ、ファイアッ!」
初期開発コードネーム"デスウェポン"として厳重な体制のもとで誕生したマイクが、今この時、人類すべての期待を担って、その真の力を発動した。
(つづく)
著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ
次回1月更新予定
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