覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第41回】

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《前回までのあらすじ》

 覇界の眷族によって、全世界にトリプルゼロが拡散された! これによりゼロロボが大量発生し、地球全土が制圧されるまでの猶予はあと一か月となった。
 だが、地球人類が手をこまねいて、滅亡を待つことはない。浄解によって復活した隊員たちがGGGグリーンに帰還、GGGブルーとの合同で反攻作戦<オペレーション・デイブレイク>が発動する。その中核となるのは、マイク・サウンダース13世! 果たして世界を夜明けに導くことはできるのであろうか……。

number.07 煉-RENGOKU- 西暦二〇一七年(2)

2(承前)

 マイク・サウンダース13世が放ったソリタリーウェーブは扇形に、前方の大地を抉り取っていった。いや、正確に語るならば、地面を覆い尽くした漆黒の異形のみをエネルギーソリトンで消失させているのだ。

「くっ、シビれるメロディだっぜ!」

 再生されたばかりの機体であっても、ソリタリーウェーブの高出力放射は、負荷が大きい。マイクはギラギラーンVVダブルブイをかき鳴らしながら、全身を震わせる。
 そんなマイクに左右から迫る大群がいる。各地から、このサンクトペテルブルク郊外へ殺到してきたゼロロボの群れだ。そのおびただしい群れによって視界は塞がれ、地平線すら見えない。
 だが、マイクはなんら不安を感じることなく、シャウトを続けた。

「マイフレンズ、頼んだっぜ!」
「まかせて、マイク!」
「ああ……ファントムリング・プラスッ!」

 信頼のこもったマイクの声に護が応え、戒道がガオガイゴーの右腕に光を発しながら回転するリングをまとわせた。

「ブロウクンファントムッ!」

 撃ち出された拳が、マイクの右前方から襲いかかろうとしていたゼロロボ群を、一気に駆逐していく。だが、反対側からもさらなる一群が接近してきた。

「こっちはまかせろ! プラズマホールドッ!!」

 集団の先頭にいたゼロロボを、ガオファイガーが電磁の網で捕縛する。

「はああああっ!」

 捕獲したゼロロボを、そのままハンマー投げのように振り回す。強大な膂力で叩きつけられ、ゼロロボは砕け散りながら、周りの同族を巻き添えにしていった。
 二体の勇者王だけではない。翔星龍神が、ビッグポルコートが、覚醒人V2が、そして世界各国から駆けつけたロボたちが、マイクを護って奮戦し続けた。

(これでハートに火がつかなきゃ、ロッカー失格だっぜ!)

 GSライドの出力を極限まで振り絞りながら、マイクはシャウトを──ソリタリーウェーブの放射を続けた。すでに前方の漆黒の大地は、視界の先までも消失している。

「効果確認サテライトサーチでソリタリーウェーブ有効範囲確認されました想定値二三〇パーセントの効果確認~~」

 GGGオービットベースのメインオーダールームでは、出撃中の火乃紀に代わって研究部オペレーターシートについているタマラが、息継ぎもせずに報告した。

「よっしゃあ、さすがはあんちくしょうの遺産だぜ!」
「自分の父親を、故人扱いするものではない」

 歓声をあげた阿嘉松に、楊が冷静なツッコミを入れる。もっとも、沈着な楊ですら高揚していることは、口の端が緩んでいることからも確かだ。当然だろう。これは久しぶりに人類が味わった、勝利の美酒だったのだから。
 だが、まだ勝利が確定したわけではない。

「高密度のZ0シミラー反応、作戦地域に接近っす! 数は二!」

 緊迫した声で山じいが報告する。二体で現れる覇界の眷族──その正体は明らかだ。

「来ます、幻竜神と強龍神!」

 覚醒人V2のウームヘッドで火乃紀が、僚機たちに警告する。蛍汰がゼロロボとの戦闘に集中している間にも、サブヘッドダイバーである火乃紀は周辺警戒を怠らずにいるのだ。

「うおっとっと! そんじゃさっそくズラかる準備をしねえと! 凱さん!」
「ああ! みんな……聞いての通りだ。足止めは俺とガオガイゴーが引き受ける。作戦中止、緊急撤退開始だ!」

 蛍汰の呼びかけに応えて、指令を出す凱。口々に了解の叫びを返し、勇者ロボたちが離脱していく。だが、それに従わない者がいた。

「ノー!ノー! マイクはまだまだ歌えるっぜ!」

 その言葉が強がりに過ぎないことは明らかだ。熱唱を続けた拡声システムは限界を超え、激しいピッキングでギラギラーンVVはスパークを放ち、ディスクXにも亀裂が走っている。それでもマイクはシャウトを止めようとはしない。
 果たしてそれは、一度は覇界の眷族となった贖罪か。それとも人類を救いたいという勇気か。そのどちらでもあり、それらを超えるロックンロール魂だ。

「マイク……無理しないで! 戦いはこのあとも続くんだ!」

 ガオガイゴーから呼びかける護の声に、マイクはついに演奏の手を止めた。

「オウ……アイムソーリー…護の言うとおり……後はネクストステージのお楽しみにとっておくっぜ」
「いいや……次の舞台はない」
「ああ、ここが最後になるからな」

 マイクの言葉に続くように、二体の眷族から言葉が降ってきた。そして、直後に言葉の主が猛スピードで突撃してきた。

「ぐっ、幻竜神──!」

 青と黄の機体が、オレンジ色のオーラをまとって、ガオファイガーの前に着地する。

「強龍神!」

 戒道に名を呼ばれた緑と赤の機体も、ガオガイゴーの眼前に。二体とも暴風のようなオーラをまき散らし、スタジオセブンで空中にいたマイクは、バランスを崩して地面に叩きつけられた。

「マイク……残念だ。また宇宙の摂理に反して、人類の味方に成り下がるとは」
「我々が終わらせてあげよう。静かなる宇宙の終焉のために!」

 覇界幻竜神がフリージングライフルと雷撃レイドゥーンを、覇界強龍神が風道弾フォンダオダンとメルティングライフルを同時に放った。トリプルゼロによって強化された四筋の攻撃が、立ち上がろうともがくマイクに襲いかかる。

「プロテクトウォールッ!」

 だが、その攻撃は二体の勇者王が同時に展開した防御バリアに防がれた。ガオファイガーとガオガイゴーがともにウォールリングを装備した、鉄壁の壁の二枚重ね。さしもの覇界の両将も、これを突破することはできなかった。

「さすがだな、ガオファイガー……」
「それにガオガイゴーか。だが、これを受けきることはできまい」

 覇界幻竜神と覇界強龍神が、並んで身構えた。

(くるのか……あの技が!)

 凱は戦慄を覚えた。氷竜と炎竜が目覚めた時から、彼は長い間ずっと、ともに戦いつけてきた。そんな日々のなかでも、たった一度しか見たことがない最強の技が存在する。ザ・パワーの力でイレギュラーな合体を果たした四竜が、同時に放つ幻の攻撃。

「吹けよ氷雪! 轟け雷光!」
「唸れ疾風! 燃えよ灼熱!」

 ガオファイガーが一歩前に出て、ガオガイゴーとマイクを背中にかばう。

「幾巳、マイクを連れて脱出を──!」

 凱もまた、この数十日の連戦のうちに、赤の星生まれの青年をそう呼ぶようになっていた。呼びかけられたのが護であったら、一瞬の躊躇が生まれたかもしれない。だが、戒道は迷わなかった。一瞬のうちにガオガイゴーのプラズマホールドで、マイクの機体を抱え上げる。

「マキシマムトウロンッ!!」

 響き渡る覇界の両将たちの声。四つの輝ける龍の姿となったエネルギーが宙を駆ける。十二年前、木星圏で一度だけ使われた技がいま初めて、地球上で解き放たれた!
 ガオファイガーがふたたびプロテクトウォールを展開しようとしたその時──
 足下の大地に傷口が現れた。そこから現れた六つのヒト影が、一斉に果実を口に運ぶ。いや、ヒトのように見えても、彼らはヒトではない。

「ベターマン!?」

 凱が呼んだのは、人類がつけた通称でしかない。彼らは自らをソムニウムと呼ぶ。ヒトを超えた霊長類──ソムニウムは、アニムスの実を喰らうことで、超常の存在へと変身する。
 ネブラ、オウグ、トゥルバ、ルーメ、アーリマン、ポンドゥス。いずれも生体の限界を超えた能力を有している。

『行くぞ──』

 先頭のネブラがリミピッドチャンネルで号令をかける。トゥルバ、ルーメ、アーリマンがそれに続き、四龍の直撃を受け止めた。

「止めた!? ベターマンがマキシマムトウロンを!」

 かばわれた形になった凱が叫んだのも、無理はない。ベターマン変身体はいずれも、全高十メートル前後。ガオファイガーの三分の一程度でしかない。にも関わらず、彼らは四龍の体当たりに耐えた。
 いや、耐えているのではない。トゥルバが放った圧縮酸素が透明な壁となって、彼らの前に分厚い鎧のような層として立ちはだかっている。

『ボダイジュから受け継いだオレの能力。簡単に貫けると思うなよ!』

 トゥルバの中のガジュマルにも力がこもる。四色の龍のエネルギー体はじりじりとその壁を貫通しようとしてくるが、無数の材木のような全身を蜘蛛の巣状に張り巡らせたアーリマンがそれを拒む。

『やわな姿の拙者ですが、アーリマンは他のソムニウムの能力を増強させる形にも可変できるのですよ』

 アーリマンの中のライがおどけるように語る。ネブラが口から放つ音波によって、アーリマンの蜘蛛の巣は四龍のエネルギーを相殺する振動を広範囲に保ち続け、更にルーメの電気粒子がその威力を倍化させ、マキシマムトウロンの突破を許さない。

『ルーメは、さざ波のように覇界の力を和らげる。そして、荒波のごとくネブラの力を押し上げる』

 水クラゲのようなルーメの中で、ユーヤの意志がこだまする。ベターマンたちによって、マキシマムトウロンは完全に行く手を阻まれた。
 だが、それも数秒。獰猛な龍たちのまとうオレンジの光は勢いを増し、頑強なる壁を貫通し、一気にベターマン変身体──トゥルバを、アーリマンを、ルーメを、そしてネブラを打ち砕いた。木端微塵に破壊される噴煙の中から、ラミアらが脱出する。しかし、この数秒を守り抜くことこそが、彼らの狙いだった。後続で、オブジェのような姿のポンドゥウスを掲げたオウグが目にもとまらぬ素早さで迫る。

『ンー、ヒイラギ、出番だぞ』

 俊敏なオウグの中で、羅漢がリミピッドチャンネルを発する。

『ボクには、こんなこともできるんだ──』

 すでに承知した声でポンドゥウスの中のヒイラギが応えた。その直後、数秒の間に発生させていたマイクロブラックホールを、四龍の中心に向けてポンドゥスが撃ち出す。
 超重力で一点に引き寄せられる、四つの龍。それぞれが高密度のエネルギー集積体である龍たちは炎と氷、風と雷がぶつかりあうことで、対消滅していった。激しい爆発をまき散らしながら──

『二度は使えぬ──勝機を見逃すな、光なるモノよ、』

 ラミアの意志が、リミピッドチャンネルで護の脳裏に響いた。一瞬で護は理解する。数秒を耐え抜いたベターマン変身体の壁がなければ、マイクロブラックホールを発生させるいとまもない。

「凱兄ちゃん、今しかない!」
「──ああ!」

 最後まで残っていたガオファイガーが飛翔する。後方ではマイクを抱えたガオガイゴーがすでに戦場から離脱しつつあった。しかし、覇界幻竜神と覇界強龍神は無尽蔵に近いトリプルゼロを蓄積している。爆風と閃光が吹き荒れる中、瞬時に第二撃を放った。

「マキシマムトウロンッ!!」

 その攻撃は、ソムニウムたちを狙ったものであった。直撃を受けたポンドゥスとオウグが無残に噛み砕かれていく。いや、それはすでに抜け殻でしかない。変身体を解除したヒイラギを引き連れた俊敏な羅漢は、ラミアたちとともに足下のSTバイパスに飛び込んでいった。

「周到な連中──」
「逃げられたか──!」

 覇界幻竜神と覇界強龍神の目の前で、みるみるうちに傷口のようなバイパスの出入り口が塞がっていく。覇界の両将の追撃を受けることなく、ソムニウムたちは逃亡に成功していた。もちろん、勇者たちの姿もない。
 放たれたマキシマムトウロンは、STバイパスが消えた後の大地を、虚しく穿った。対消滅の爆煙も晴れ、そこにはソリタリーウェーブやその後の攻防で地表を抉り取られた荒野のみが、ただ残されていた……。

 

 作戦の終盤、覇界王キングジェイダー、もしくは覇界幻竜神と覇界強龍神が出現することは予想されていた。その場合、即座に撤退する作戦要綱になっていたのだが、マイクが頑張りすぎたため、想定外の危機に陥ることになった。もっとも、こちらも予定外であるベターマンの加勢があったため、結果として作戦は成功したと言えよう。

 だが──
 セカンドオーダールームの一角で、独自に分析していたGGGグリーンの火麻たちは、愕然としていた。
「んだとぉっ、作戦は成功したんじゃねえのか!」
「無論、成功しました。ですが、結果は無力だとしか……」

 ゴジラモヒカンを揺らしつつの叫びに仲居亜紀子は身をすくませ、牛山一男がそれを支えたが、猿頭寺は動じることもなく説明を続けた。
 延々と数字の続く説明に、業を煮やした火麻が唸る。

「途中経過はいいから、結果を言え結果を!」
「……要するに、焼け石に水ということです」

 マイクのディスクXは、たしかに漆黒の大地を消滅させた。だが、それは日々拡大する面積の三日分程度に過ぎない。だが現状、ディスクXの生産には十日を必要とするのだ。

「じゃあ、すべて無駄だったってことかよ……」
「無駄とは言えません。地球全土が黒化するまで三十日だった猶予を、三十九日程度までは延ばせる計算かと……」
「だぁぁっ、それだけかぁっ!」

 絶望の叫びとともに、火麻が頭を抱える。

「なんだなんだ、デケェ声でうるせえなぁ……」

 あきれたような声が、天井から降ってくる。いや、声の主が降下してきたのだ。GGGオービットベースの移動司令室であるブランチオーダールームは、エレベーターシャフト内を移動することができる。この時はメインの位置から、セカンドの位置まで降りてきたのだ。
 GGGブルーのメインスタッフが、GGGグリーンの四人の前に現れた。同じくセカンドオーダールームでデータ解析にあたっていた三博士とスタリオンとともに、デブリーフィングを行うためである。

「デケェ声はお互い様だろ!」
「がっはっは、違いねぇ!」

 照れ隠し混じりの火麻の抗議を、阿嘉松が笑い飛ばす。

「不毛な競い合いはともかく……猿頭寺くんの分析は的確だな」

 楊の賞賛に、猿頭寺は複雑な表情を浮かべた。人類の命運をかけた一大反抗作戦──その成果を焼け石に水と評するしかなかった分析だ。褒められたところで、とても喜ぶ気にはなれない。

「的確だからこそ、GGGグリーンの諸君は、作戦の結果に徒労感を感じているのかもしれない。だが、あえて言おう──作戦は大成功だ」
「おお、そうだ。<オペレーション・デイブレイク>の目的は、ソリタリーウェーブがあの黒地面にも効くかどうか、たしかめることだったんだからなっ、がっはっは!」
「たしかに、それが確認できたのは喜ばしい事ですが……十日に一枚の生産体制では……」

 そこまでを言いかけて、猿頭寺は気づいた。

「まさか……生産効率をあげる方法があるのですか!?」
「今の時点では、ない」

 現状、GGG整備部も牛山三兄弟が交代で二十四時間フルに指揮をとり、活動している。物資や人手、設備が足りているわけでもない。一同の重々しい空気に、飄々とした声が割り込んでくる。

「ドクターヤン、十年経っても人が悪いデスね。ストレートに言ってあげましょう」

 GGGグリーンのスタッフではあるが、四人よりも先に作戦立案に参加していたスタリオンが説明する。

「たしかに、現時点では、生産効率を上げる方法はアリマセン。ですが、いまの地球にはそれを可能に導けるであろう人が、帰ってきているのデス」
「まさか……」

 火麻と猿頭寺、一男と亜紀子が一斉に息を呑む。スタリオンの操作で、メインスクリーンに一人の人物の写真が映し出された。

「そうデス、次の作戦目標はドクター・ライガの救出となりマス!」

 獅子王雷牙──阿嘉松GGGブルー長官の実父であり、世界十大頭脳のひとりに数えられる、天才科学者だ。GGGの装備のほとんど半分は、彼の発明だと言っても過言ではない(残りの大半も、亡き弟である獅子王麗雄博士の手によるものだ)。

「もともとディスクXは雷牙博士の発明品である。私よりも効率よく大量生産する方法も知っているはずだ」

 楊は獅子王兄弟に抱いていた嫉妬など、すでに超克した表情で淡々と告げた。

「そうか……」

 牛山一男の表情に、理解の色が浮かぶ。

「雷牙博士は我々のようにゼロ核にされているはず。それを取り戻して浄解すれば……!」

 さっきまでは絶望を感じるしかなかった彼の心に、ようやく希望の光が差し込んできたようだ。

「しかし、ゼロ核の回収は、とても困難だと予想されマス……」

 スタリオンは、メインスクリーンに先の戦闘の様子を表示させた。そこに映し出されているのは、マキシマムトウロンを放っている覇界幻竜神と覇界強龍神の姿である。

「おそらく、雷牙博士のゼロ核を内部に保持しているのは、幻竜神か強龍神、そのどちらかなのデスから……」

 ガオファイガーやガオガイゴーでも、遭遇したなら撤退してくるしかない、最強の覇界の眷族たち。その内部から、ゼロ核を回収する──その困難レベルを予想して、この場にいる全員の表情が引き締まった。
 だが、絶望している者はいない。たとえどんな困難であろうと、それしか選択肢がないのなら、彼らは選び取る。情報を分析し、装備を整え、作戦を立案し、勇気とともに実行する途を──
 青と緑のエンブレム、どちらを背負っていようと、彼らはGGG隊員なのだから。

 

 新たな作戦目標のもと、GGGブルーとGGGグリーンのスタッフは準備を進めていった。無論、準備だけに専念する余裕はない。世界各地でゼロロボと漆黒の大地による支配域拡大は続いており、それらへの対抗や避難支援を続けなければならないからだ。

 <オペレーション・デイブレイク>の二日後、勇者ロボたちが各地で奮闘する中、凱と護、戒道だけはオービットベースで待機を余儀なくされていた。サンクトペテルブルク郊外で、最後まで残り続けたガオファイガーとガオガイゴー、マイクは、マキシマムトウロンの対消滅に至近距離で直面した。そのため、強い電磁波や爆風を浴び、整備と修復を余儀なくされていたのだ。
 連戦が続くなか、凱は自室のベッドの上で横になっていた。休息は義務でもあるはずだったが、なかなか寝付けない。
 凱の脳裏によぎっていたのは、この数か月、片時も忘れたことない事柄。覇界の眷族となった仲間たちのことだ。
 大河幸太郎がたてたであろう計画では、覇界の眷族と化した勇者の内部には、必ずゼロ核があった。これは世界各地にゼロロボが出現するようになってからも、変わっていない。三重連太陽系に旅立ったディビジョン艦隊には、数百人の隊員が乗り組んでいた。彼らのゼロ核が、無数のゼロロボの中に混ざっているのだ。広域破壊兵器でゼロロボを一掃させないようにするための心理を読んだ作戦に間違いない。
 この状況に至っても、大河は狡猾ながらも極めて優秀な指揮官であると言わざるを得ない。今日までにそうしてゼロ核として確保、浄解できた隊員は三十名ほど。まだ大半の仲間が、覇界の眷族として活動し続けているのだ。

(多分、キングジェイダーの中にいるのは、ソルダートJとルネだろう……)

 Gアイランドシティで、一瞬にして叩きのめされた覇界王キングジェイダーの一撃。あそこには、ソルダートJの頑強な意志が感じられたように思える。そのかたわらにいるであろう、ルネの意志も。

(だとしたら、幻竜神と強龍神の方は多分──雷牙おじさん、大河長官、スワンさん、そして……)

 凱は室内にしつらえたデスクの上を見た。そこには彼にとって、もっとも大切な、かけがえのない人の写真が飾られている。写真でも映像でもない、その愛しい笑顔を最後に見たのはいつのことだっただろう。レプリジン地球でパレッス粒子に冒され、ピクニックの用意をしていた際のうつろな笑いか。それとも、Gクリスタルの内部で護とともに浄解してくれた時の涙に濡れた微笑みか。あの時の凱はケミカルボルトによって意識が混濁し、記憶が混乱している。

(まだ、大切な話もできていないままなのにな……)

 ジェネシック・ガイガーにフュージョンした後、Gクリスタルの破片の上にいる命に、凱は告げたのだ。

(あとでゆっくり話がしたい……)

 激闘と連戦のなかで、いまだにゆっくり話をする機会など作れていない。
 いや、顔を見ることもただ話をすることもかなわずにいるのだ。オービットベースの凱の自室のベッド。かつて、幾度も命が隣にいてくれた空間である。だが、もう残り香を感じることはできない。あれは十年前のことなのだから。
 凱の主観時間においては、数か月の別れなのだが、もう正確にどのくらいなのか、把握するのは難しい。あまりにも長い長い時間と、遠い遠い空間を、超えてきてしまった。
 かつて、みことのことを思うとき、いつも見つめていた写真入りのロケット。あれもいつしか、失われてしまった。三重連太陽系に旅立つ時は身につけていたはずなのに、いつの間にか──

(命、逢いたい……)

 もう何十度目か、何百度目かわからない言葉を、胸のうちでつぶやいた。人類存亡の危機のなかで、ましてや若き後輩たちの前で、気弱な部分を見せることはできない。だが、見せないことと、存在しないことは、イコールではない。
 たった一人だけ、凱が自分の弱い部分を見せることができた相手は、いまは目の前にいない。
 残り香の消えたベッドに突っ伏したまま、獅子王凱は疲労の沼のなかへ沈み込んでいった……。

 同じ夜──
 眠れずにいた天海護は、控えめなノックの音に気づいた。それは滅多に聞く機会のないものだ。宇宙基地であるオービットベースの私室の扉は、緊急時には気密扉ともなる頑強なものだ。来訪者は扉に設けられたコミュニケーションモニターから、コール音を鳴らすことで来意を告げる。
 だが、伝わらないかもしれないかすかなノックの音で、護はその主の正体に思い至った。モニターで確認することもなく、扉を開ける。
 予想したとおり、そこには初野華が立っていた。勤務時間外のはずだが、GGG隊員服を着た、おどおどとした姿。コール音を鳴らすことで、寝入っている護を起こしてしまうことを怖れたのだろう。ノック音に気づかなければ、そのまま立ち去ってしまったはずだ。
 だから「どうしたの?」とは聞かない。要件があるに違いないから。

「……入って」

 護が半身を開いて、室内に招き入れる。華は俯いたまま無言でうなずき、入室する。

「うわっは~」

 わざと明るい声を出しながら、護は飲み物のボトルをとろうとかがみこんだ。

「なんだか眠れなくってさぁ、パズルとか解いてたんだ。機動部隊失格だよね、休めるときに休んでおかなきゃいけないのに──」

 深夜の来訪を、気にする必要はない。そう告げるための心遣いだった言葉は、半ばで途切れた。華が背中から抱きついてきたからだ。

「華ちゃん……」

 返事はない。護の背中に華の怯えるような震えが伝わる。しかし、それはかつての、怖がり屋さんだった華の怯えとは異なる様子だった。
 ──いつもと違う……
 そう感じた護の視界に、二十六時を示す時計が映った。

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


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