覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第43回】

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《前回までのあらすじ》

 覇界の眷族によって、全世界にトリプルゼロが拡散された! ゼロロボが大量発生し、地球全土が制圧されるまでの猶予はあとわずか。
 だが、手をこまねいて滅亡の時を待つ地球人類ではない。浄解によって復活した隊員たちがGGGグリーンに帰還し、GGGブルーと共に新たな戦略を練る。獅子王雷牙を救出することでディスクXを増産し、逆転への望みを繋ぐ作戦が動き出したのだ。
 その鍵を握るのは竜四姉妹。いまだ光竜と闇竜の機体に残留したままのトリプルゼロを活用して、月龍、日龍との奇蹟のシンメトリカルドッキングを敢行。超大なる出力の覇界幻竜神と覇界強龍神に対抗する作戦である。しかしそれは、月龍と日龍がトリプルゼロに浸食されるまでのごくわずかな時間に完遂させねばならない過酷なものだ。わずかでも浸食を遅らせるため、月龍と日龍には護と戒道が乗り込むことになる。
 GGG史上にも例を見ないほどの厳しい決戦が、いま始まろうとしていた……。

number.07 煉-RENGOKU- 西暦二〇一七年(4)

5

 神奈川県横浜市の<セプルクルム>──ヒトに認識されることのない不可知領域には、アニムスの花が咲き乱れている。だが、その花は自生しているわけではない。丹精込めて育てた者たちがいるのだ。命尽きようとしているヒトを、苗床として密やかに集めてきたソムニウムたちが、このセプルクルムの大地に葬ったのである。
 命の灯火が消えるとき、ヒトの顔面に咲き誇る艶やかな大輪──アニムスの花。そこに生る実は、魂魄の結晶ともいえる。ソムニウムにとって、それはかけがえのないモノだ。生命を維持する糧であると同時に、超常の能力を発揮する媒介ともなる。単に生命の結晶というだけなら、あらゆる生物にその花が咲いても不思議ではない。だが、この地球でその苗床となりうるのは、ヒトなる人類のみ。遺伝子配列の九割以上が一致する類人猿のような近隣種でさえ、その条件を満たさぬのは、魂ゆえか、知性ゆえか、それとも別の何かか。いずれにせよ、ソムニウムがヒトという種族を護り続けてきたのは、アニムスの実を得るためと言ってよい。
 そして今、その貴重な花を踏み荒らす侵入者がいた。小柄な身体が、無造作にアニムスの花を散らしながら、歩んでいく。セプルクルムを知覚できる以上、その者はヒトではない。ソムニウムでありながら、ソムニウムの価値観とはそぐわぬ者、その名は──

『なにをしに来た──デウス』

 ラミアの額に十字光が瞬くとともに、その意志が放たれた。その表情には、警戒と敵意が浮かんでいる。人間的な感覚からは無表情に見えようと、ソムニウムに感情が存在しないわけではない。周りにいる者たちもおおむね同様だ。羅漢、ユーヤ、ヒイラギ、ガジュマル、シャーラ……警戒と敵意のいずれが勝るにしろ、そのどちらかの感情を浮かべている。唯一の例外は、つばの広い帽子を被り、変わった形の弦楽器を携えたライだけだ。彼だけはニヤニヤ薄笑いを浮かべて、おどけるように身体を揺らしている。そのたびに、腰から下げた、幾つもの小袋も揺れる。同族の仲間ですら、ライの内心は、その袋の中身と同様に、推し量ることさえできない。
 警戒と敵意の意志を乗せた多数のリピミッドチャンネルを受信しても、デウスは穏やかな物腰のままだった。見た目は十歳ぐらいの少年のよう。古代ギリシャの住人のような装束に、光り輝くような金色の頭髪には月桂冠がからみついている。縄で編み上げたような履き物の下には、アニムスの花が踏みにじられたままだ。おそらくそれがラミアたちの敵意をいや増しているであろうことを自覚しつつ、デウスは涼しげな顔で額に十字光を明滅させる。

ときを報せに来たんだよ』
『刻だと? なんの刻を報せにきやがった!?』

 ラミアに代わって問いかけたのは、見た目はデウスと同じくらいの少年に見えるガジュマルだ。もっとも涼やかな物腰のデウスに対して、ガジュマルの意志は烈火のごとく燃えさかっている。ガジュマルの背後では、シャーラが不安そうな面持ちで成り行きを見守っている。

『もちろん、決戦の刻さ。君たちも気づいていたんだろう──過日の戦では、ボクが干渉していたことを』

 それがGアイランドシティでの戦いを指していることは明白だった。あの時、覇界の眷族の目論見を看破したラミアと羅漢は、強く貴重なアニムスである<ウィウェレの実>の苗床となる血族<希望なる者>──<彩火乃紀>を守るよりも、優先すべき別の場に向ったのである。宇宙開発公団の地下において、完全には覚醒しきっていない覇界王キングジェイダーを急襲、死中に活を求めるために。だが、常に敵の能力に合わせた戦術を得意とする彼らでさえ、一切の光明もなく完膚なきまでに敗北したのだ。
 覇界王を討ち果たすことかなわず、希望なる者が救われたのも僥倖に近い。いや、それは僥倖ではなかった。

『ンー…最古なる者よ。あの時、ウィウェレの者が救われたのが、どうやら干渉の結果というわけか』

 デウスは穏やかな笑みを浮かべたまま、意志を発しない。だが、この場にいる者すべてが理解していた。あの時、彩火乃紀と深い縁を持つ蒼斧蛍汰に助力を与えたのがデウスだということを。
 そして、デウスの干渉はそれだけではない。覇界の眷族による波状攻撃の初期段階にて、その兆候をラミアたちに報せたのも彼なのだ。

『デウスよ──お前が最も古き伝説のソムニウムならば、なぜ我らやヒトに干渉するのだ』
『問いかける必要があるのかな。ボクもこの地に発生した知的生命体の一個体だ。ソムニウムの同族も、ヒトなる種族もみな愛しく思っている』
『では、この事態になぜ、己が全力を振るおうとはしない?』

 ラミアの問いかけに、デウスが答える。

『簡単なことさ。ボクは"視る者"、大きな力は持っていない。だから自分の視たものを伝えることでしか干渉できないのさ』

 その意志に、偽りや誤魔化しは感じられない。真実であろうと感じられた。

『ンー…この世の開闢から終焉までを見通す伝説のソムニウムが、たいした力は持っていないとは──私以上に、ンー…謙虚な性格のようだな』

 その瞬間、『誰が謙虚だ』という意志が泡のようにさざめいて、消えた。おそらく、その場の複数の意志が混ざり合ったものだろう。

『ンー…私は学究の徒として、古今東西のソムニウムの記録を調べた。その結果、ひとつの疑わしき…いや驚愕なる真実といえる伝説を知った。移りゆく長き時代において、デウスなるソムニウムが種の存亡に関わる事態に幾度となく干渉している、とな』

 常に他者を見下す傲岸な羅漢が、この時は驚嘆の眼差しでデウスを見つめている。もともとソムニウムはヒトに比べて、生殖能力が極めて低い代わりに長命である。ラミアや羅漢も若者のように見える面立ちだが、すでにヒト族の寿命の数倍を生きているのだ。だが、不老でもなければ不死でもない。数千年の時を生きれば、かつてのパキラ老のように老いと無縁ではいられなくなるし、やがては滅びの刻が来る。にも関わらず、デウスの伝説はソムニウムが"記録"という行為を編み出した時代から、連綿と続いているのだ。それも常に変わらず、涼やかな少年の姿で。ソムニウムという超常の種族の中にあって、なお特異な存在がこのデウスだった。そして、羅漢にとって、いやこの場にいるすべての者にとって、これが伝説の存在と相まみえる最初の機会だった。
 羅漢が向ける驚嘆の視線も、デウスにとっては特筆すべきものではないのだろう。永劫ともいえるその生涯が真実であるのならば、永い時の中ですでに幾度も繰り返された反応なのかもしれない。穏やかな表情のまま、デウスは額に十字光を明滅させる。

『かつて、この地の知的生命体は、幾度も存亡の危機に直面した。だが、ボクが干渉するまでもなく、君たちやヒトはそれを乗り越えた……』

 デウスの言う通りだった。ゾンダーや原種、遊星主といった外敵。そしてカンケルという生体の内に潜む脅威。それらすべてをヒトと、そして彼らと共棲するソムニウムは超克してきたのだ。

『だけど、暁の霊気による浸食は、これまでの危機とは違う。君たちソムニウムもあと三度、滅びの刻を乗り越えなきゃならないんだ。ボクはそれを伝えに来たんだよ』

 そんな意志を放つと、デウスは朗らかに微笑んだ。ほっそりした足の下では、踏み散らされたアニムスの花びらが、風に舞っていた。

 

「機動完遂要塞艦<ワダツミ>、分離発進!」

 ファントムガオーのコクピットに座した獅子王凱の号令で、ディビジョンⅩの巨影がGGGオービットベースから分離する。宇宙基地の一区画であった構造体から要塞艦に変形したワダツミは、そのまま大気圏への突入を開始した。
 凱の視界には、マルチモニターに映し出されたGGGグリーンとGGGブルー機動部隊の隊員たちが映っている。ワダツミが発進する直前まで、ビッグオーダールームでのブリーフィングを補足する内容を一同に指示していたのだ。
 なにしろ今回の作戦は、覇界幻竜神、覇界強龍神といつかまた接触した際に発動される、今より少し後の出来事を想定していた。それがブリーフィングすら終わらぬうちに、緊急発動されることになったのだ。準備を万全にして、次回接触時を待てば、作戦の成功率は高まるだろう。だが、地球全土の黒化が迫るなか、もはや猶予はない。想定されるいくつかの状況への対抗策を指示し終えると、勇者ロボたちが口々に了解を告げて、モニターから消えた。残った四人の顔を、凱は見渡した。

「頼むぞ、護、幾巳、蛍汰、火乃紀!」
「むぁーかせてくださいっす! 難易度高い任務を成功させるほど、ローンを繰り上げ返済できちゃうんだから、やる気も出るってもんすよ!」
「もう、そういう恥ずかしいこと言わないの!」

 火乃紀が婚約者の発言に、顔をしかめた。Gアイランドシティにある二人の愛の巣(予定地)はゼロロボに蹂躙されたものの、カーペンターズによって修復された。だが、すぐに蛍汰がGGG入隊を決めて、地球の窮地をともに救うため参戦したのだ。そこでの甘~い新生活(予定)はおあずけとなった。いきなり危険な世界に飛び込むことになった、そんな蛍汰を発憤させるため、阿嘉松長官が特別ボーナスを設定してくれたのだが、これで地球が救われるのなら、安いものだろう。
 特に今回は、戒道と護に代わって、蛍汰と火乃紀がガオガイゴーにダイブすることになる。Gアイランドシティの時は、Gストーンの申し子である護のフォローがあった。それなしで、肉体的には一般人と変わらない二人が、勇者王とならねばならないのだ。
 GGGグリーン機動部隊隊長兼長官代理の声にも、蛍汰と火乃紀に対する労いの色が見える。

「無理はするなよ、二人とも。何かあったら、俺を頼ってくれ」
「ひゃー、頼もしい! もう最初っから頼る気マンマンでいかせてもらいますよ、凱さん!」

 冗談に紛らわせたのか本心なのか、どちらともとれる表情で、蛍汰が宣言する。ちなみにこの二人の関係は、なかなかに微妙なものだ。戸籍上でいえば、凱の方が蛍汰より四年早く産まれている。だが、地球での十年近くを、数日間で一足飛びしてきた凱よりも、戸籍通りの歳になった今現在の蛍汰の方が年長であるのも確かだ。
 GGGに入隊した直後、ていねいに話しかけてきた凱に対して、蛍汰は両手を顔の前で振って、まくしたてた。

「いやいやいやいやいや! やめてくださいっすよ、あの獅子王凱さんが俺に敬語使うとか、マジあり得ないっすよ!」

 蛍汰にとって、獅子王凱とは最年少宇宙飛行士だった時代も、ゾンダーと戦っていた時代も、自分より年上のヒーロー的な存在だったのだ。数奇な運命の果てに若いままの姿を保っているとはいえ、敬語など使われては落ち着かないこと、この上ない。結局、もともと気さくな性格である凱は、蛍汰も火乃紀も戒道もファーストネームで呼ぶようになる。だが蛍汰の方は「凱さん」呼びが精一杯なのだった。

 蛍汰と火乃紀がダイブする覚醒人凱号との通信を終えた凱は、メインオーダールームの華が、ビークルモード日龍の運転席にいる護と通信で話している様子を、視界の端に捉えた。

『座席、耐Gシートに変えてもらったんだけど、急な作業だったから……きつくない?』

 本来、耐Gシートは使用者の体型にあわせて製造されるものの方が、より高性能だ。だが、今回は急な出撃だったこともあり、汎用のものが使われている。そのフィッティングを、華は心配しているのだ。

『ちょっときついかなぁ……こないだ華ちゃんが作ってくれた手料理が美味しくて、一キロ増えちゃってるから』
『えええっ、そんな……どうしよう……』

 本気で心配している華の声に、護があわてた。

『あ、ウソウソ、ごめん! ほんとはちょうどいいよ、うん。さすが華ちゃんが選んでくれたシートだ!』
『ああ…もうっ…びっくりしたぁ…それなら、よかったぁ……』

 そこで日龍のAIが反応した。

『温度以外でもあたたかいと感じるのですね。学習できましたわ』

 不安がる華を元気づけようとする護の冗談だったのだが、緊迫感の渦中にいるビークルロボの空気もついでに和ませたのは確かなようだ。護が恋人を気遣うのも無理はない。今回の作戦で、もっとも危険な役割を担当するのが護と戒道である以上、誰がもっとも心を痛めるのかは明らかだ。
 凱はその会話に微笑みながら、月龍の運転席にも回線をつないで呼びかけた。

「……幾巳、頼みがある。ちょっといいか?」
「はい、なんでしょう?」
「こっちのオペレーターが不安がっているんだが、励ましてやってくれないか」

 そう言って、凱は通信回線をつなぎ替えた。GGGブルー隊員でありながら、GGGグリーンの管制業務を委託されているオペレーターと、月龍の運転席を秘匿回線で直結させたのだ。エヴォリュダーとして、自分の手足のように通信網に介入できる凱にとって、先刻からアルエットが息を殺して一同の会話に聞き入っていた様子は、手に取るように把握できていたのだ。

「ちょ、ちょっと凱! 不安がってるなんて勝手に──」

 少女らしくない大人びた性格にしては、珍しく裏返り、取り乱した声。だが、すぐに回線が自分と戒道のみを結ぶ状態になっていることを察すると、アルエットは瞬時に押し黙った。

(やだ……こないだ、あんなこと言われたばっかなのに、これじゃまるで私……)

 アルエットは耳まで真っ赤に染めて、言い訳を考えた。普段は常人の数倍もの速度で回転する脳細胞が、熱暴走したかのように機能低下している。

(落ち着け……落ち着きなさい、私……!)

 必死に努力する少女の通信インカムから、"その声"が飛び込んできた。耳元で囁くように。

「心配してくれてありがとう……アルエット」

 息が止まるかと思った。これまで、戒道幾巳は"君"と呼ぶだけで、彼女の名を口にすることはなかったのだ。

「戒道さん……」

 隠そうとしても、声が震えてしまう。きっと隣の席の初野華にも見られている。それでもアルエットは、青い瞳からぼろぼろとこぼれる熱い液体を、押しとどめることはできなかった。

「不安にさせてしまうけど……僕はここで倒れるつもりも、覇界の眷族になるつもりもない。なすべきことをなすまで、絶対に──」

 それが、いまは覇界の眷族の側にいる者を取り戻そうとする強い決意であることは明白だ。アルエットにもまた、十年前に助けてくれた人たちを救い出したいという、同じ思いがあるのだから。

「うん、信じてる……一緒に、あの人たちを取り戻しましょう」

 その声にはもう震えはなく、瞳に涙はにじんでいなかった。
 華はどこか上の空で、アルエットの様子をうかがう余裕もないようだった。
 護は少し華を気にしていたが、目の前のことに集中すべく、仲間のAIロボたちにも声をかけ気遣っていく。
 天海護と初野華、戒道幾巳とアルエット、蒼斧蛍汰と彩火乃紀、それぞれがわずかな、そして貴重な時間を使って、言葉をかわしている。その気配が、回線を通じてささやかに伝わってくる。もちろん、凱は内容まで聞いているわけではない。エヴォリュダーの超感覚が、通信量の増減というだけの情報を、小鳥たちの若く透き通ったさえずりであるかのように捉えてしまっているだけだ。
 束の間、凱はささやかながらも幸せな気分を味わった。

(……ミコト、もう少しだけ待っていてくれよ)

 これから訪れるであろう覇界の眷族との想像を絶する死闘。その先に間違いなく約束されているはずの運命、<卯都木命との再会>に思いを馳せながら──

 

 ビッグオーダールームからメインオーダールームへ移行したGGG首脳部は、メインスクリーンに映し出される降下中のワダツミの映像に見入っていた。以前なら、電離層を通過する際には通信効率が落ちていたものだが、インビジブルバースト後にレーザー通信が整備されたこともあって、そうした不備も解消された。おかげでオペレーター席の華とアルエットが私的な会話をかわすこともできたわけだが、阿嘉松長官は見て見ぬふりでとがめようとはしなかった。GストーンやJジュエルで戦う者たちの力を高めるには、"怖いという気持ちを乗り越える勇気のエネルギー"や"もがきあがく生命の力"を強く持たねばならない。護たちにとって、この時間が大切であることを、GGGスタッフはみな理解しているからだ。
 阿嘉松はスーパーバイザー席の楊に向かって、語りかけた。

「なあ、楊の旦那。この有能長官様の戦術、どう見る?」
「正直なところ、あまり策を弄しているようには見えんな。Gアイランドの一件で、覇界の眷族は圧倒的な優位を確立した。後は"寄せ"に過ぎないのだろう」

 楊は囲碁や将棋で使われる用語を口にした。大勢が決した後、終局をより良い形にするための段階という意味だ。

「けっ、後は投了を待つだけってか? 悪ぃがこっちはあきらめの悪さじゃ、初代長官にも負けちゃいねえんだ」

 相変わらず、言葉の端々に大河幸太郎への対抗意識が透けて見えるな……と思ったものの、口にしないだけの配慮は、いまの楊には備わっている。口にしたのは、別の話だ。

「気になるのは、覇界の眷族が現れた土地の方だな」
「ああん? あの場所に何があるっていうんだ?」
「ノーノー長官、うっかり良くないネ。あそこは六千五百万年前、超竜神が落ちてきた場所ヨ」

 二人の会話に、プリックル参謀が加わってきた。彼の言う通り、そこはサテライトサーチで発見された覇界の両将、幻竜神と強龍神の半身ずつが深い因縁を有する地なのだ。
 かつてZX-06<頭脳原種>が、小惑星帯からESウインドウで転送した巨大隕石を地球に落とそうとしたことがある。超竜神はそれを防ぐため、その身とともにESウインドウの彼方へ巨大隕石を押し返したのだ。隕石は木星へ転送され、パウリの排他律による反発現象によって、この段階における時空連続体から弾き飛ばされた。その際、<トリプルゼロ>の副産物として木星に存在していた超エネルギー<ザ・パワー>が、超竜神を隕石もろとも時間と空間を超越させ、六千五百万年前の地球へ導いたのだ。現在では、ザ・パワーが時空の破れ目から漏れ出たトリプルゼロの一部であることが判明し、いかなるメカニズムによって、巨大隕石が時空を超えたのかも推定されている。この時にザ・パワー……すなわち微少のトリプルゼロをまとった超竜神は、巨大隕石とともに地上へ落下。現代に蘇るまで、地層のなかで眠り続けた……その隕石が落ちた地こそが、メキシコ・ユカタン半島のチクシュルーブ・クレーターなのだ。

「チクシュルーブ・クレーターにおいては、以前から地磁気異常や重力分布の偏差が観測されている。だが、それは微少なものであり、六千五百万年前の痕跡に過ぎない。いま現在、覇界の眷族がやろうとしている事に、どういう関連性があるのだ……」

 楊は珍しく苦悩の表情を浮かべた。Gアイランドシティでは、大河の作戦を読み切れず、後手に回ってしまった。再度そのようなことが起きれば、今度こそ人類滅亡に直結しかねない。楊は必死に、大河の思考を再現しようと脳内でシミュレーションを繰り返した。だが、結論は出ない。果てのない迷宮に閉じ込められてしまったかのようだ。
 そんな楊の懊悩が尽きぬまま、ワダツミは決戦の地へと降下していく……。

 

 遊牧を主産業とする風光明媚な土地。それがユカタン半島の景観だ──ほんの数時間前までは。
 それまで緑豊かだった土地がゼロロボの群れによって、光を一切反射しない漆黒の異形地帯に塗り替えられていく。放射状に拡大していく黒化の中心地点は、まさにチクシュルーブ・クレーターの中心地点でもあった。そこには二体の巨人が屹立している。覇界の眷族にあって、覇界王の両翼を固める両将──覇界幻竜神と覇界強龍神だ。
 さらにその足下には四人の男女の姿がある。

「……なに、すべては演出だよ」

 もっとも長身の黒いロングジャケットを着た男が答えた。一瞬前、ピンク色に染めた爆発ヘアスタイルの老人から、「ところで長官、なんでこのクレーターで彼らを待つことにしたんだね?」と問いかけられ、それに返答したのである。
 衛星軌道上にて、楊龍里が必死に答えを求めた謎──チクシュルーブ・クレーターを決戦の地に選んだ理由、それは"演出"だと答えているのだ。

「彼ら若きGGGも、柔軟で対応能力に優れた人材をそろえている。こちらが無駄に時間をかけてしまえば、必ずや対抗策を見つけてくるだろう」
「OH! ダカラこれが、逃げられない決戦だと思ってもらう必要があったのデスネ!」

 金髪碧眼の女性が、両手を叩いて得心の顔になる。彼らの名は大河幸太郎、獅子王雷牙、スワン・ホワイト──いずれもトリプルゼロに浸食され、覇界の眷族となってしまっている。それは倫理観を変質させ、知的生命体の活動の終息こそを至上の命題と考えるようになるカルトエネルギーともいえる。
 だが、それによって人格を上書きされたというわけではない。彼らのパーソナリティは浸食によって、ある程度の変化はしているものの、まったくの別物になっているわけではないのだ。大河は相変わらず、深い知性と洞察力を有しながら、ユーモアを忘れない伊達男のままだった。そして、それはこの場にいる数人と共にいる彼女にとっても、同様だ。

「凱……もうすぐだよ。もうすぐ、また一緒になれるからね」

 卯都木命は、涙に濡れた目で空を見上げて、そうつぶやいた。覇界の眷族と化す前から、そして今でも、かけがえのない存在である獅子王凱が降りてくるであろう空を。
 果たして命の思いが届いたのか──蒼穹の片隅にある雲間から、ワダツミの巨大な艦影が現れた。

 その頃、深き眠りの中で、紗孔羅は壊れた玩具のようにつぶやき続けていた。

「オワル……オワルヨ………オワ…リ…マ………ス………」

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


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