覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第45回】

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《前回までのあらすじ》

 覇界の眷族によって、全世界にトリプルゼロが拡散された! ゼロロボが大量発生し、地球全土が制圧されるまでの猶予はあとわずか。この状況を打開するため、GGGブルーとグリーンは、決死の作戦に打って出る。
 いまだ光竜と闇竜の機体に残留したままのトリプルゼロを活用して、月龍、日龍との奇蹟のシンメトリカルドッキングを敢行。超大なる出力の覇界幻竜神と覇界強龍神に対抗する作戦である。しかしそれは、月龍と日龍がトリプルゼロに浸食されるまでのごくわずかな時間に完遂させねばならない過酷なものだ。わずかでも浸食を遅らせるため、月龍と日龍には護と戒道が乗り込むことになる。
 そして、チクシュルーブ・クレーターでついに始まる竜兄弟と龍姉妹の死闘。一方、その戦いに覇界王キングジェイダーを介入させまいと、凱、蛍汰、火乃紀が決死の戦いを挑む!

number.07 煉-RENGOKU- 西暦二〇一七年(6)

7(承前)

 燃えるような羽根を拡げ、オレンジ色のオーラを全身から噴き出させた巨体が、地響きを立ててガオファイガーとガオガイゴーの前に降り立った。全高は一〇〇メートルを超え、左右に拡げた幾枚もの燃えうる羽根に至っては、五〇〇メートル以上に及んでいる。巨人というよりは、後光を放つ超巨大な千手観音像にさえ見えるその姿が放つ威圧感は凄まじい。ガオガイゴーの両ヘッド内部で、蛍汰と火乃紀は声すらあげられずにいた。

「あ…あああ……」

 ガオガイゴーを背にかばうように、前に出るガオファイガー。その姿を見て、覇界王キングジェイダーのオーラが揺らめいた。顔貌に重なるオーラが笑みの形に見えるのは、錯覚だろうか。

「相変わらず、弱いヤツらのために体を張ってるんだね……凱」

 邪悪な笑みに見える覇界王から発せられたのは、女性の声だった。

「……ルネ」

 覚悟していた、といった口調で凱が従妹の名を口にする。
 ルネ・カーディフ・獅子王──覇界幻竜神か覇界強龍神の中にいると推測されている、今回の作戦における最重要保護対象、獅子王雷牙の娘だ。凱にとっては従妹であり、GGGブルー長官である阿嘉松にとっては異母妹にあたる。彼女はレプリジン・地球において巡り会ったソルダートJに戦士ゆえの通じるものを感じ、ソール11遊星主との決戦の間、キングジェイダーとして、ともにメガフュージョンしていた。
 オレンジ色のオーラで視認しがたいが、おそらくその下で巨体の全身は白銀に輝いているのだろう。ガオガイゴーが戒道のJジュエルと護のGストーンを共振させた時のように。
 凱は戦慄を覚えた。ただでさえ、ガオファイガーやガオガイゴーを上回るパワーの持ち主だったキングジェイダーが、GとJの共振によって出力を大幅に増大させ、さらにトリプルゼロによって強化されている。Gアイランドシティ以来、幾度かの交戦を経て、その恐ろしさは骨身に染みている。だが、今回は逃げるわけにはいかない。勝てないとしても、輝竜神と新龍神が覇界幻竜神と覇界強龍神に打ち勝ち、獅子王雷牙を取り戻す──その目的を果たすまでの間だけでも、覇界王キングジェイダーを引きつけておかなくてはならないのだ。

「不思議なものだ……予感がするぞ、凱」

 ルネに代わって聞こえてきたのは、男の声だ。時には敵であり、時には味方であった戦士の声。

「これまで、貴様と私の決着はつけられぬままだった。だが、今日この日こそ、決着のとき。ここが我らの決着をつける場所!」

 圧倒的な力を背景にした宣言。蛍汰や火乃紀のように、凱もまた恐怖した。そう、獅子王凱は恐れを知らぬ者ではない。彼が死の恐怖、大切なものを失う恐怖に直面したのは、一度や二度ではない。だが、彼はその度に乗り越えてきた──守るべき者たちと多くの仲間たちがいてこそ湧き上がる<勇気>の力で。だから、生物の本能として後ずさりしそうになる脚を、超越した魂によって一歩前に踏み出し、叫ぶ。

「ソルダートJ……お前はふたつ間違っている!」
「なにっ?」

 ソルダートJは虚をつかれた。それはかつて、彼自身が幾度も凱に投げかけた言葉だったからだ。

「ひとつ、お前の予感は外れる!」
「……ほう」
「そして、ふたつめ。俺が決着をつけるべき相手は、誇り高き戦士だ。お前のような、覇界の眷族などではない!」
「ふっ……借り物の言葉で説得できるとでも思ったか?」
「ああ、たしかにかつてのお前から借りた言葉だ。だが……だからこそ、お前の中の何かに響くはずだ、戦士だったあの頃の、誇り高きソルダートJにッ!」
「………」

 その言葉に、覇界の眷族随一の戦士は応えなかった。代わりに声を発したのはルネだ。

「あんたら、ティータイムはそのくらいにしときな。作戦なんだろ、凱。その挑発……時間稼ぎにいつまでもつきあってやる必要はないよ、J」

 その的確な指摘に、凱は歯がみした。

(さすがにあいつにはお見通しか……)

 直情径行に見えても、凱もルネも、世界十大頭脳と呼ばれる科学者を身内に持つ身だ。覇界王キングジェイダーに勝利することではなく、輝竜神と新龍神の戦いに介入させないことが目的であると、あっさり見抜かれた。二人の身体に流れる、同じ獅子王の血がなせる業かもしれない。

「ふっ、そうだな……戦士がすべきことは会話ではない! 戦うことこそ、我が存在意義!」

 Jの言葉とともに、覇界王キングジェイダーが両手を振り上げた。

「五連メーザー砲、反中間子砲、ESミサイル──」

 来る! その直感とともに、ガオファイガーは身構えた。

「全斉射ッ!!」

 覇界王の全身から眩い閃光が放たれた。いや、光と見えたのは、無数の武装だ。両腕の指先から、誘導放出による高出力マイクロウェーブが! 下腕部の外側から、物質の結合を破壊するアンチメゾトロンビームが! そして、両脚部からES空間を経由する回避困難な誘導弾が、一斉に放たれたのである!
 ガオファイガーは上空へ離脱しようとして、思いとどまった。すぐ背後で、ガオガイゴーが立ちすくんだままでいたのだ。

「蛍汰、火乃紀!」

 凱は二人の名を叫びつつ、ガオファイガーを後方へ跳躍させる。ガオガイゴーを抱え込むとそのまま、ともに大地を転がる。即座に半身を起こし、次々と飛来するメーザー砲や反中間子砲に向けて左腕をかざした。

「プロテクトウォールッ!」

 だが同時に、その背後に開いたESウインドウから、無数のESミサイルが出現し襲い掛かる。マイクロウェーブやビームをかろうじて弾き返したものの、背後至近距離からのミサイル直撃を避けきることもできず、物理攻撃をまともに喰らったガオファイガーとガオガイゴーは大地に叩きつけられた。

「くぅっ…蛍ちゃん!…しっかりコントロールしてっ!」

 ガオガイゴーの下部、ウームヘッドの火乃紀から、メインとなる上部セリブヘッドへ声援が送られる。

「うがぁ…すまねえ…火乃紀……が、凱さん…!……俺」

 ようやく我に返ったのか、蛍汰の悲痛な声が凱にも届く。

「体勢を立て直せ! 蛍汰!」
「は、はい、サーセン!」
「詫びはいい、次が来るぞ!」

 凱の警告の直後、勇者王たちの周囲に、次々と時間差でESウインドウが開く。そこから飛び出してくるミサイル爆撃をあるいは避け、あるいは防御するのに、凱も蛍汰も火乃紀も必死になった。

「ポルコートさん、ガオファイガーとガオガイゴーが!」

 ゼロロボの相手をしていた翔竜が、かたわらにいたビッグポルコートに必死に声をかけた。普段なら呼び間違いを指摘するビッグポルコートだが、この時ばかりはそんな余裕はない。

「自分の任務に集中したまえ、少年! いま僕たちが行っても、足手まといだ」
「……その通りです。我々は黒化を防ぐことに専念しましょう!」

 ビッグボルフォッグが、ビッグポルコートの言葉に同意する。翔竜もそれ以上、反論しようとはしない。超AIが諜報ロボたちの正しさを理解したからだ。
 だが、黙って引っ込んではいられない者が、ヤマツミの艦上から叫んだ。

「おい、ガオファイガー……でもガオガイゴーでも、どっちでもいいが、俺を使え!」
「ダメだ、ゴルディー!」

 ESミサイルの連続攻撃をウルテクエンジンの高機動で避けながら、凱が叫び返す。

「いま重要なのは俊敏な機動性だ、脚を止めたらやられる!」
「だ、だがよっ!」
「お前の出番は必ず来る! そこで待てッ!」

 ゴルディーダブルマーグは押し黙った。納得したからではない。凱の声に、鬼気迫るものを感じたからだ。ゾンダーとの戦いのさなかに起動して以来、幾度となくともに窮地を乗り越えてきた。そんなゴルディーですら、聞いたことのない裂帛れっぱくの気合いだった。

 

「オーロラ! イリュージョン!」

 輝竜神と新龍神を、無数の覇界幻竜神が取り囲む。本物は一体だけ、残りは氷の虚像だ。戸惑ったように周囲のサーチに全回路を駆使する妹たちに向かって、覇界強龍神も攻撃を放った。

「メルティング! ハリケーン!」

 超高熱の暴風が、二体に襲い掛かる。だが、これに反応したのは一体だけだった。

「その攻撃は予測済みでございます……闇夜と新月の霞──」

 新龍神は静かにつぶやくと、背部の武装を左右に展開した。右のプロテクト・プロテクターはプロテクトシェードの簡易型とも言える六基の防御用ユニットだ。だが、それらを一つにたばねれば、本家にも匹敵する防御力となる。ひとかたまりになったプロテクト・プロテクターは、熱風を正面から受け止め拡散させる! さらに左のマルチプル・アームド・コンテナからは十数発の榴弾が発射された。空中で炸裂した榴弾からは、無数の破片がまき散らされ、氷の虚像は次々と打ち砕かれ、黒煙に呑まれていった!

「やるじゃないか、妹よ……!」

 先を見通せない煙幕内を余裕のある様子でサーチする覇界強龍神。榴弾の破片と氷の欠片がキラキラと細かく舞い散るなか、光り輝く秀麗な姿が上方に躍り出る。

「YAAAAAAA! 頭上のサーチ、がら空きですわ、お兄様!」

 ハイテンションの叫びとともに、輝竜神も背部の武装を展開する。

「光輝と日輪の弓矢──」

 左背部のブロウクン・ブレイカー六基が一斉に、覇界幻竜神の頭部に浴びせかけられる。だが、攻撃用ユニットの乱打は直撃しない。覇界幻竜神が左腕の電磁荷台デンジャンホーを楯としてかまえたからだ。それでも六基のユニットによる果てしなく続く連打に、電磁荷台は防御一辺倒の釘づけ状態に陥る!
 その停滞の瞬間を狙いすましたかのように放たれるメーザー砲。輝竜神右背部から発せられた鋭い熱線が、覇界幻竜神の頭部を狙撃する!

「おっと!」

 かろうじて胸部ミラーシールドで狙撃を弾くも、薄くなった電磁荷台の防御の隙を突かれ、一基のブロウクンブレイカーを腹部に喰らう覇界幻竜神。後方へ吹き飛ばされるが、その機体を覇界強龍神が受け止めた。

「なかなか、やるな」

 覇界幻竜神の口調に、もはや油断の響きはない。強敵を前にした緊張感が込められている。もともと超竜神と撃龍神は、攻防に優れたバランス型の合体ビークルロボとして開発された。奇蹟のシンメトリカルドッキングを果たしても、それは基本的に変わらない。
 だが、妹たちの場合、攻撃重視の光竜と攻撃特化の日龍、防御特化の月龍と防御重視の闇竜が合体することにより、ただ一体で兄たちの攻撃を防ぎ、もう一体で痛打を浴びせることが可能になっていたのである。相撲でいえば両翼揃った雲竜型の兄たちに対して、片翼に全てをかけた不知火型の妹たち。電池に喩えれば、並列繋ぎの持久戦タイプといえる兄弟VS直列繋ぎの短期決戦タイプの姉妹というわけだ。トリプルゼロという要素を考慮の上で、彼女たちの仕様が決められたわけではない。だが、攻撃型の輝竜神に乗る護と、防御型の新龍神に乗る戒道は、その僥倖に感謝せずにはいられなかった。

「いけるよ……輝竜神、このままみんなを助け出すんだ!」
「だが長くはもたない……急いでくれ、新龍神」

 耐Gシートで戦闘の衝撃に耐えながら、護と戒道はトリプルゼロの浸食に抗い続けている。どんなに戦いを優位に進めようと、決着がつく前に浸食されてしまったら、すべてが無駄になる。この戦闘に負けるというだけではない。今日が人類最期の日になるかもしれないのだ──

「……ええ、わかっています」
「YEAH! さっさとパーティを終わらせましょうッ!」

 新龍神と輝竜神は、覇界幻竜神と覇界強龍神に悟られぬよう、外部発信を遮断して運転席の青年たちに語りかけた。姉妹でありながら、奇蹟のシンメトリカルドッキングによって、パーソナリティに大きな差が出たことも、開発時の想定から外れたことであったのだろう。

「なるほど……攻撃型のみと防御型のみの合体コンビネーションか」

 感心したような覇界幻竜神の声に、覇界強龍神も同意する。

「それぞれ自分が得意とする領域では、俺たちを上回れるってわけだ。やるじゃねえか」

 兄たちの賞賛に、妹たちが胸を張る。

「YAAA、その通りでしてよ!」
「……お兄様方、このまま私たちのもとへ帰ってきてはくれませんか?」

 新龍神のその言葉には駆け引きも裏の意味も含まれてはいない。ただ素直な、真実の気持ちだ。

「妹たちよ、その気持ちは我々も同じだ。お前たちこそ"こちら側"に来て、宇宙の摂理に従うのだ」
「わかってるぜ。その奇蹟のシンメトリカルドッキング……トリプルゼロを使ってるんだろう?」

 覇界幻竜神と覇界強龍神が言葉を重ねる。

「もう機体は我らの側に近づいているということだな」
「超AIもすぐに後に続く……楽になるぜ」

 輝竜神と新龍神のココロを強く揺さぶる誘惑だった。すでに超AIの一部に、トリプルゼロの浸食が始まっていてもおかしくはない。宇宙の摂理に従いたいという気持ちが、わずかながらも確かに存在する。そしてそれ以上に、敬愛する兄たちのもとへ行きたいという想いは、強烈だった。

(輝竜神……)
(新龍神、君は……)

 護と戒道は息を呑んで、二体の答えを待った。二人とも知っていたのだ。ここは自分たちが声をかけるべき瞬間ではない。輝竜神と新龍神の超AIが──ココロが、自分で考え、判断をくだすべき瞬間なのだと。
 護と戒道にとって、永遠とも思える数秒の沈黙の後、最初に言葉を発したのは新龍神だった。

「……そうできたら、どんなに楽でしょう。でもお兄様方、闇竜と光竜のココロは知っているのです。覇界の眷族であった頃、どんなに充足と安息を感じていたとしても、その時にやってしまったことが、その後、いかに自分を苦しめるのか……」
「HOOO、そして日龍と月龍のココロも知っているの! 覇界の眷族となったかつての仲間と戦うことが、どんなにつらいことか!」
「……だから私たちは覇界の眷族には戻りません……なりません」
「そして兄様たちを取り戻してみせる! すべてが終わった後、たっぷり甘えて、罪滅ぼしさせてあげますわ!」

 輝竜神と新龍神の声は、オービットベースのメインオーダールームにも届いていた。

「ちくしょう、あいつら泣かせること言いやがって……」

 鼻水をすすりながら、阿嘉松が目元に浮かんだ涙を袖口で拭う。その前方の席にいた楊は、眼前のモニターを見ながら鋭い声を発した。

「彼らを取り戻すタイミングを逃すな。時間がないぞ!」

 モニターには、輝竜神と新龍神の超AIが浸食されてしまうまでのカウントダウンが表示されている。もちろん推定でしかないのだが、その数字はすでに二〇〇を割り込んでいた。

「へっ、どうやらお互い力尽くでやりあうしかないようだな!」
「こっちにはこういう戦い方もできるんだぜ!」

 覇界幻竜神は左腕の電磁荷台デンジャンホーを頭上に掲げた。同時に覇界強龍神は右腕の攪転槽ジャオダンジィを足下に向けた。

「はあああっ!」

 二つの巨体が、宙へ舞い上がる。攪転槽と電磁荷台には、たしかに風龍と雷龍を飛翔させる機能がある。だが、それが合体状態での巨体を浮上させるとは──トリプルゼロによって強化された超常能力だ。
 このままでは、上空から一方的に攻撃される──そう予感した輝竜神と新龍神は、同時に同じ名を叫んだ。

「翔竜……来なさい!」
「はい、姉様方!」

 ビッグボルフォッグやビッグポルコート、マイクとともにゼロロボと戦っていた翔竜は、すぐさまビークル形態となって、姉たちの方へ向かう。高速アクロバット飛行を可能にする、翔竜だけが備えている特殊なウルテクユニットをフル稼働させて。

「あいつは……末っ子の翔竜か」
「知ってるぜ、もともとは俺たちのために開発された、飛行オプションだ」

 兄たちは視認サーチで、接近する翔竜を捉えた。

「なるほど、奥の手ということだな」
「ならば、先に仕留めるだけだ!」

 片腕の装備で飛行しながら、覇界幻竜神と覇界強龍神はそれぞれ残ったもう一方の腕で攻撃する。下腕部に組み込まれている、氷竜のフリージングガンと炎竜のメルティングガン。彼らとしては威力の低い攻撃だが、トリプルゼロで強化されたその銃撃の連射は、翔竜の周囲を取り囲み、退路を断ってから徐々に中心に照準を絞り込んでいった。アクロバット飛行を得意とする翔竜とて、逃げ場を失えば直撃を受けるのは必至。その軽量級の機体は一瞬にしてズタズタに引き裂かれてしまった。ように見えた──

「いや違う!」
「虚像か!?」

 覇界天竜神との戦いの際に使用した、プロジェクションビーム発射装置<ウツセミ>。引き裂かされたのは宙空に投映された虚像に過ぎなかったのだ。
 本物の翔竜は<ウツセミ>で映像を上空に投映しつつ、超低空飛行で姉のもとへ向かっていた──輝竜神のところへ。

「YEAH、行きますわよ……トリニティドッキングッ!」

 スレイブモードに移行した翔竜が、輝竜神の背部へドッキングする。

しょうりゅうじんッ!」

 三体合体で翔輝竜神となった合体ビークルロボは、空色の翼で天へ駆け上る。

「頼みます、翔輝竜神……」

 地上で見送る新龍神。戦闘開始前、ヤマツミ艦内でのブリーフィング時に彼女たちは決めていたのだ。翔竜と合体できるのは、輝竜神と新龍神のどちらか一方。ならば迷うことなく、翔輝竜神を誕生させよう、と──
 トリプルゼロに浸食されるまでのわずかな間に、目的を達成しなければならない過酷な戦い。ならば、防御を捨ててでも攻撃をとらねばならない。その判断故の選択だったのだが、地上に残らざるを得ない新龍神は身を切られるような想いだ。が、そこにニヒルな声が掛けられる。

「ヘイ、マイフレンズ、ノープロブレムだっぜ」

 振り向いた新龍神が見たのは、空中に浮遊するスタジオ7に乗ったブームロボ形態のマイク・サウンダース13世である。

「レディのためなら、スタジオ7もレンタルOKだっぜ!」
「ありがとう……マイク」

 低空に浮かぶスタジオ7からマイクが飛び降りると、交差する瞬間にハイタッチを交わし、新龍神が代わりに飛び乗った。だが──

「きゃあ!」

 合体ビークルロボの機体重量はマイクの十倍以上になる。両翼に一基ずつのウルテクエンジンを搭載しているとはいえ、揺らぎながら低速飛行するしかなかった。

「ワオ! やっぱり重かったようだっゼ!」
「……乙女に恥かかせないでほしいです」
「アイムソーリー……」

 ゆらゆら舞い上がるスタジオ7の上に座り込み、消え入りそうな声を出す新龍神に、マイクは地上から平謝りするのだった。

 チクシュルーブ・クレーターの上空を飛翔する三体の竜神。彼らは二対一に分かれて、激しく争っている。だが、覇界幻竜神と覇界強龍神の猛攻に対して、翔輝竜神が圧倒的不利というわけではなかった。
 覇界幻竜神は左腕の、覇界強龍神は右腕の装備を飛行に使っているため、最大威力の必殺技を使えない。これに対して、合体ビークル用の純正グリアノイドである翔竜の機能で飛行する翔輝竜神は高度な機動性で対抗していた。

「フリージングライフル!」
「メルティングライフル!」

 覇界の眷族二体の攻撃を、高い機動性で回避していく翔輝竜神。時折、翔竜に搭載された<ウツセミ>によるプロジェクション擬似映像投影で変幻自在に翻弄しながら。そして、自由な両腕で思う存分、反撃を加えて行く。

「プライムローズの月! ブロウクン・ブレイカー!」

 もちろん致命傷を与えることはできないが、攻撃は一方的にヒットしていく。それでも翔輝竜神の心中には焦りがあった。

(OH! 兄様方を止めるには、いったい何回攻撃を当てればいいのっ!? こちらは一発でも直撃されたらおしまいなのに!)

 防御力が極めて低い翔輝竜神には、余裕がない。しかもトリプルゼロによる浸食のタイムリミットも、刻一刻と迫り続けているのだ。そして、メーザーと攻撃ユニットによる連打を浴びても、覇界幻竜神と覇界強龍神の牙城は揺るがない。

「ふん、高機動からの攻撃……蝶のように舞い、蜂のように刺す、か」
「見事な攻撃だが、封じる手ならいくらでもあるんだぜ」

 兄弟は半身の武器を一斉に撃ち放った。

「フリージングガン! アンド・ライフル!」
「メルティングガン! アンド・ライフル!」

 冷却エネルギーと灼熱エネルギーの火線が、空中に十字砲火を描く。

「くっ、当たるわけには──ッ!」

 翔竜のウルテクエンジンを最大出力で稼働させ、すべて回避する翔輝竜神。だが、計算されつくした火線は、彼女の眼前で交錯した。いや、激突した!
 覇界幻竜神は機体内部の冷却液を凍結させて撃ち出した。それが覇界強龍神の攻撃に撃ちぬかれた結果、瞬間的におびただしい水蒸気が発生したのである。一瞬のうちに言葉をかわすことなく連係プレーを思いつき、放火を一点で激突させる──覇界幻竜神と覇界強龍神にしかなしえない業だろう。

「NEIN! 前が見えないッ!」

 水蒸気爆発で視界を塞がれ、空中での姿勢制御に支障をきたす翔輝竜神。プロジェクションビームで虚像を投影し回避しようとした、その瞬間、白い蒸気の中から二つの影が躍り出た!

「遅いな、ほら、捕まえたぜ!」
「逃げ回るのもここまでだ!」

 覇界幻竜神と覇界強龍神は、前後から翔輝竜神本体を挟み込み、締め上げた。

「兄様方、私を破壊するのですかッ!」
「いいや、可愛い妹にそんなことはしない」
「ああ、このままゆっくり覇界の眷族になってくれるのを待つさ」

 覇界幻竜神と覇界強龍神が、優しい……とも言える口調でささやいた。そう、妹たちと同じように、彼らもまた憎しみで戦っているわけではないのだ。じわじわとトリプルゼロにココロを浸食されながら、翔輝竜神は徐々に抗うことをやめ、兄たちのもとへ飛び込んでいきたいという想いにかられていた。それは背部ユニットとして同化している翔竜も感じていた。

(ああ…これが……トリプルゼロによる…浸食……)

 翔輝竜神がオレンジの光に包まれそうになったその時―。

「ダメだよ、翔輝竜神! ココロを強く持って!」

 左肩の運転席で、外部には聞こえない回線を使って護が叫ぶ。

「凱兄ちゃんが言ってた……トリプルゼロに対抗できるのは、ココロの強さだって! それさえあれば、絶対に僕たちは負けないんだッ!」

 翔輝竜神が手放しそうになる意識を、その声がつなぎとめた。

 地上でもマイクがシミュレーションを模索していた。

「ディスクPで翔輝竜神のハートを燃え上がらせれば……」

 言いかけて、マイクは気付いた。そう、ディスクPを使えば、たしかに翔輝竜神のGSライドを活性化させ、一時的に出力向上させることができる。だがそれは、覇界幻竜神と覇界強龍神にも効果を発揮するのだ。彼らもまた、Gストーンを持つ勇者なのだから。

 低速ゆえになかなか追いつけないスタジオ7上の新龍神にも、姉妹の危機は見てとれた。

「ココロが負けてはいけません、翔輝竜神……!」

 絶望的な想いで、その名を叫ぶ。だが、遥か頭上の翔輝竜神にも覇界の眷族たちにも、その声は届かない。

「どうすれば……」

 新龍神内の戒道も必死に考え続けていた。シェルブールの雨や、プロテクト・プロテクター等の装備が届く距離にはいない。周囲に加勢できる味方の存在もない。今すぐ自分が飛び出して行ったところで間に合わない。

「護っ!」

 思わず叫んだその声は、外部との連絡を遮断している現状では、護に届くはずもなかったが、翔輝竜神内でも護は同じことを考えていた。

「幾巳…どうすれば……どうすれば……」

 すぐさま飛び出して加勢したい想いがあるが、自分が内部で抗うのをやめれば、翔輝竜神は一瞬で覇界の眷族と化してしまうだろう。

「ああ…翔輝竜神が……もう……」

 地上の新龍神が絶望に挫けそうになったその時、遠いところで少女が叫んだ。

『クルヨ!!』

 その声は新龍神には届かない。しかし、宙空にはリミピッドチャンネルによる想いがこだましていた。
 次の瞬間、新龍神の眼前には<ソキウスの路>なる次元ゲートが開いた。

『あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あっ!!』

 虚空にシャーラの苦鳴が響く。続いて羅漢、ラミア、ユーヤ、ライ、ヒイラギ、ガジュマルが現れた。

『ンー…どうやら状況は切迫しているようだな』

 羅漢の意思に、間髪入れずにユーヤの意思も重なる。

『デウスの駒になるのは不本意だが……』

 すぐにガジュマルの意思が吼える。

『ここまで来たらやるだけだ!』

 それに続くヒイラギの意思。

『ボクも…やれる』

 おどける意思はライ。

『拙者も準備万端でございます』

 そして、瞬時に状況確認を終えたラミアが号令をかける。

『我らソムニウム……行くぞ』

 ラミアの意思とともに、ベターマンたちは取り出したアニムスの実を喰らいはじめた。次の瞬間、彼らの身体が膨れあがり、オウグ、ルーメ、トゥルバ、ポンドゥス、アーリマン、そしてネブラといった変身態へと姿を変えていく。

『ンー…愚鈍なる者どもよ、我に従え。ペクトフォレース・サンクトゥス!』

 羅漢の変身態であるオウグの胸門から、虹色の粒子が放たれ、その粒子を浴びたベターマンたちは、パズルのように全身の形状を組み替えていった。ここまでわずか数秒間の出来事に、覇界の眷族たる兄弟の超AIは情報整理が追いつかずにいた。

「なんだ?」
「なにをした?」

 新龍神の右肩でその光景を見た戒道も驚愕した。

「これは……木星の時と同じなものか!?」

 次の瞬間、その脳裏にラミアの意思が伝達されてくる。

『影なる者よ……我らはお前たちの歯車となる』
「なに!?」

 超AIは電波とは異なる意識の波<リミピッドチャンネル>を、瞬時に受信解読することはできない。時間節約のためもあってか、ラミアは新龍神に乗り込んでいる戒道に、その意志を伝えてきたのだ。ラミアの意思が意味するもの──それはすぐに判明する。
 六体のソムニウム変身態がまるで武装した鎧のように、新龍神の全身に覆い被さっていったからだ。状況に応じて、自らをベターな姿に変貌させる種族。そしてこれが、その新たな合体装備態たる姿であった。
 誰に伝達しているのかも不明な、少女のままの<紗孔羅>の想いは、よりいっそう大きなこだまとなって響き渡った。

『……ベターマン!!』

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回2020年1月更新予定


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