覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第48回】
《前回までのあらすじ》
覇界の眷族によって、全世界にトリプルゼロが拡散された! ゼロロボが大量発生し、地球全土が制圧されるまでの猶予はあとわずか。この状況を打開するため、GGGブルーとグリーンは、決死の作戦に打って出る。
竜四姉妹による奇跡のシンメトリカルドッキングで、竜四兄弟に打ち勝とうというのだ。ガオファイガーとガオガイゴーが決死の戦いで、覇界王キングジェイダーに立ち向かう。そのかたわらで、ついに輝竜神と新龍神が、幻竜神と強龍神を取り戻すことに成功した!
その中でゼロ核となっていた大河幸太郎、獅子王雷牙、スワン・ホワイト──そして卯都木命を浄解することもでき、いよいよGGGブルーとGGGグリーンは、覇界の眷族との最後の戦いに挑む。
number.08 禽-PHOENIX- 西暦二〇一七年/????年(1)
1
「大河幸太郎、君をGGG特務長官に指名する」
「謹んで拝命します」
衛星軌道上のGGGオービットベース、ビッグオーダールームの特設会場で行われた式典のクライマックスは、ハート・クローバー国連事務総長による任命式だった。もはやほとんどの書類が電子でかわされる時代、わざわざ作られた書類が大河幸太郎に手渡される。もはや書類というものの存在意義は、このような儀式のためという意味合いがもっとも大きいのだろう。実際、この瞬間に会場は最大級に盛り上がり、盛大な拍手が巻き起こった。
大河はガッツィ・ギャラクシー・ガードの初代長官であるが、原種大戦後に日本の宇宙開発公団総裁として復職している。二代目長官の八木沼範行は、大河以下の隊員たちが三重連太陽系に向かった際、それを幇助したとして二〇〇七年に罷免された。その後、楊龍里長官代理時代を経て、八木沼が復職。二〇一七年に入ってから獅子王凱が長官代理となっていたが、ここにようやく新体制が発令されたのである。
「"代理"の文字がとれた気分はどう? 獅子王長官」
任命式が行われている壇上の一角で、卯都木命が小声で囁いた。
「実感がわかないな。大河特務長官がいるから、前とそんなに変わった気がしないし」
やはり小声で答えたのは、数分前に本人も長官として任命された獅子王凱だ。これにより、GGGブルーは阿嘉松長官、GGGグリーンは獅子王長官が指揮を執り、両組織を大河が特務長官として統括する新体制が始動したことになる。さらに命をはじめとする旧GGG隊員の多くも、ようやく現場復帰がかなった。
思えば長く、あまりにも様々な紆余曲折を経ていた。もちろん、ソルダートJやルネと若干名のGGG隊員が覇界の眷族の側に残っており、ゼロロボによる大地の黒化も進行中である以上、事態が完全に終息したとは言えない。それでも、かつてメインオーダールームに勤務していた首脳スタッフが全員帰還したという事実は、人々の心に希望の光をもたらした。
このオービットベースには、GGGグリーンとGGGブルー、二つの組織が同居することになり、メインオーダールームも大人数に対応した改修が行われた。いよいよ、両GGGの総力を結集した、覇界の眷族との最終決戦が始まるのだ。
式典が終わって、クローバー事務総長はただちに、地球に帰還するためのシャトルに乗り込んだ。この非常事態の下で事務総長には処理すべき案件が多く、多忙を極めていたのである。シャトルの座席についたクローバーは、そのスケジュールを管理する有能な秘書に向かって、ため息をついた。
「GGG特務長官、映像や写真を見たことはあったけど、実物はさらにカッコいいねぇ。ダンディだよねぇ。あれは男でも惚れ惚れするよ」
磯貝桜は微笑んで、答えない。もちろんクローバーは、かつて彼女が大河の秘書であったことを知っている。おずおずと、答えを聞くのを怖がってでもいるかのように問いかけてきた。
「君が望むのなら、GGGに出向の手配をしてもいいんだけど……」
その言葉に桜は、今度は口を開いた。
「いいえ、事務総長。その必要はありませんわ。私は現在の職務に満足しております」
先ほどの式典が終了したとき、桜は会場の隅で大河とすれ違う瞬間があった。ほぼ十年ぶりに見る大河の姿は、当たり前だが当時のままで、桜の胸のうちを熱くした。互いに微笑みながら、短い挨拶をかわしたものの、あの頃のようにぼろぼろと涙をこぼすことはない。それが自分の成長を意味しているのか、あの頃の想いに区切りをつけたということなのか──桜自身にもよくわからない。そして──
(……今の上司も、かつての上司に負けずにダンディですよ)
という言葉を口にしたくなったのだが、それは思うだけにした。自分の内心を表に出しすぎていたあの頃とは、もう違うのだから──
盛大な式典という非日常が終わり、GGGブルー&グリーン、メインスタッフは殺伐とした日常へ帰還した。今日もゼロロボによる黒化地域の拡大は続いており、GGGはそれを阻止するために戦い続けなくてはならないのだ。
「……さてと、んじゃ第一回<グローバルさんチーム青組とギャラクシーどんチーム緑組>合同ブリーフィングを開始するッ」
よくわからないネーミングセンスを強行する阿嘉松の悪癖に閉口する者は、GGGブルー内部に少なくない。それがよりによって、こんな時に発揮されるとは……。ポカーンとした空気に包まれているGGGグリーン隊員たちを見て、護をはじめとするGGGブルー隊員たちは、穴があったら入りたい気分にとらわれた。
「オウ、長官。そのネーミングは前に却下されたはずネ、こだわりすぎ良くないよ」
「お、そういえばそうだったな。がっはっは、悪かった悪かった」
アーチン・プリックル参謀のとりなしを阿嘉松が笑い飛ばすと、セカンドオーダールームの空気も和やかなものとなった。大河や凱と阿嘉松、長官たちの個性の違いは、GGGグリーンとGGGブルーの空気感によく反映されている。原種大戦時にも劣らない深刻な状況下にあって、阿嘉松の人柄はプラス方向に働いているようだ。
ブリーフィングの最初の話題は、ディスクXの増産体制についてである。前回、竜姉妹が高リスクの作戦に身を投じたのも、世界の黒化を防ぐため、それが急務と目されていたからである。状況を聞かれた獅子王雷牙は、事態の深刻さを感じさせない軽い口調で説明を始めた。
「いや~、僕ちゃんたちがいない間に、いろんな技術が開発されたからの。それを使わせてもらうことで、新しいディスクXの量産プランを思いついちゃったのよ。一か月もあれば、予定数そろうんじゃないかなぁ」
メインスクリーンに、黒化の進行具合とディスクXの量産体制、その後の状況予測などが可視化されて表示される。スタリオン・ホワイトが補足説明を加えた。
「ご覧のように、あと一か月の間は世界の黒化が進行しマス。とはいえ、以前ほどの速度ではアリマセン。幻竜神と強龍神を取り戻したことで、こちらが優位になったと言えるデショウ。そしてディスクXが大量生産されれば──」
メインスクリーンに表示されている状況が、一変した。一か月後を境に、黒化が一気に減少していく。一同から、感嘆の声がもれた。
「……というわけなんだな、これが。まあ、もっと量産速度を上げたければ、僕ちゃんに美人秘書をつけてくれるのが有効だぞ。タマラくんや火乃紀くんはどうかな?」
十年以上を経て、当たり前だがまったく変化していない実父の軽薄さに、阿嘉松がうんざりする。
「おい、クソ親父。息子が進行役やってるブリーフィングでみっともねえマネしないでくれよ」
「なんだ滋。お前、可愛い弟や妹の顔が見たくはないのか?」
「もう間に合ってるわ!」
雷牙には世界中に二十八人の息子や娘がいる。そのうち二十人以上は阿嘉松の弟や妹にあたるわけで、さすがにもう充分だ。そもそも、阿嘉松自身が孫がいてもおかしくはない年齢なのだ。
「そしていくつか、報告してもらいたい情報がある」
空気を読まずに話題を変えることには定評がある楊龍里が、この日も議題を進行させた。とかく議事内容を脱線させがちな阿嘉松にとって、楊が良き補佐役となっているのは、こういう部分もあるのだろう。
「……まず覇界の眷族が、大地を黒化している理由について、だ」
「何かわかったんですか!」
楊の言葉に、天海護が表情を輝かせた。敵の目的がわからないままに戦い続けるのは、やはり不安なものだ。
「それについては、私から語らせてもらおう」
そう口火を切ったのは大河である。他のGGG隊員たちと同じく彼もまた、浄解された直後は、自分が覇界の眷族として行ってきた行為の数々に罪の意識を感じていた。しかも大河は指揮官として覇界の眷族を率いていたため、現在の人類の苦境に対して、より責任を感じる部分が大きい。
それでも彼は、罪悪感に押しつぶされることはなかった。率先して、他の隊員たちの精神面でのケアに協力し、それぞれの断片的な記憶をつなぎあわせて、覇界の眷族に関する資料を作成した。もちろん、彼が何も感じていなかったわけではない。だが──
(私が罪をつぐなうのは、全力で今の事態を打開した……その後のことだ)
そう心に秘めて、事態への対処を優先し続けてきたのである。
「ここにいるGGG隊員の中には、二〇〇五年暮れの木星決戦──その終盤に起きた事態を記憶している者も多いだろう」
大河の言葉に、みながうなずいた。トリプルゼロの欠片たる<ザ・パワー>によって復元された機界31原種融合体・Zマスターは、遥か木星圏から地球に向けて、無数のゾンダー胞子を送り込んだのだ。あの時、木星にいあわせた者だけでなく、地球に残留していた者、GGGに加わっていなかった者も、全世界の半分近くがゾンダー化されかけたあの事件を忘れることはできない。
「あれは、地球人類の肉体を"苗床"として発生させたゾンダー胞子によって、全人類を一気にゾンダー化しようという目論見だった。今回、覇界の眷族がやろうとしているのも、基本的にあれと同じだ」
「そんな……!」
希望に輝いていた護の表情が、驚愕に変わる。
「じゃあ、目的は地球人類の殲滅だけではないってことか……」
長官代理となった時から着用しているロングジャケット姿の獅子王凱が、護の隣で苦々しい顔となる。
「凱長官の言う通りだ。トリプルゼロによって、宇宙の摂理のために行動するという倫理観を上書きされた者は、すべての知的生命体の活動を終息させたいと考えるようになる。大地がすべて黒化されれば、地球は"ゼロ胞子"の苗床と化すだろう」
大河は内心でどのような深い苦渋を抱えていようと、それを表に出すことはなかった。
「そして、地球と同じ滅びを全宇宙にばらまくってわけか。ううむ、胸くそ悪い話だ……」
阿嘉松が唸り声をもらすと、実父の方へ向き直る。
「ますますディスクXの重要性が高まってきたな。頼むぞ、クソ親父。うまくいったら、紗孔羅に会わせてやる」
「ほんとか滋! お前ずっと僕ちゃんには会わせたくないと言ってたのに、やっとその気になってくれたのか! ようし、僕ちゃん頑張っちゃうもんね~~!」
"不良老人"がガッツポーズで鼻息を荒くした。どんなに素行の悪い人物でも、孫のことは可愛くてたまらないのだろう。雷牙という"名馬"にとって、鼻先のニンジン以上の効果があるようだ。
実のところ、雷牙が空騒ぎに近いはしゃぎっぷりを露わにしているのには、理由がある。そうでなくては、耐えられないことがあったのだ。
世界十大頭脳の一人に数えられる獅子王雷牙は、覇界の眷族となっている間も、その知的好奇心からトリプルゼロについて観察し、いくつかの思考実験を繰り返していた。その結果、とある推論にたどりついていたのである。
かつて、原種大戦において地球を脅かしたZマスターは本来、三重連太陽系の紫の星で開発されたストレス解消システムであったという。それが暴走し、宇宙からマイナス思念を消去するには、知的生命体を抹殺せねばならないという結論に至った。知的生命体を幸福にするためのシステムが、なぜそのように変質したのか?
Zマスターは覇界の眷族と化していたのではないか?
雷牙はまだ、この考えを誰にも話していない。現時点では、当面の問題に直接関わり合いがない上、今となっては検証する手段もないからだ。いずれは楊やスタリオン、三博士たちに打ち明けてみようと考えてはいるのだが、彼はすでに科学者としての直感によって確信していた──自分の推論が真実である、と。
事が一段落したら木星を訪れてみよう……雷牙はそう考えている。
(麗雄の意見を聞きたい。あいつならきっと……)
獅子王麗雄が存命の頃は、常に最大のライバルであり、口うるさい説教をしてくる(主に女性関係の問題で)厄介な弟でしかなかった。だが、彼を亡くして以来、雷牙はずっと喪失感のただ中にいる。世界十大頭脳と呼ばれる立場になったのも、張り合う相手なり、議論を交わす相手なりがいてこそだったのだから。
雷牙のそんな物思いをよそに、ブリーフィングは進んでいく。覇界の眷族から浄解された旧GGG隊員たちの動向について、諜報部の猿頭寺耕助が情報を報告する。
「え~、現時点で未帰還の隊員は二十六名と推定されています。おそらく全員がクシナダにいると思われますが、大河長官がこちら側に戻ってきた現在、指揮をとる者はいるのか……統制された活動はできるのか、まったくのところ不明です」
メインスクリーンに、行方不明の隊員たちの名簿が表示される。この場にいる多くの者にとって、彼らは旧知の仲間であり、悲痛なため息があちこちで聞こえる。そんな中、彩火乃紀は名簿の中に、ある名前を探していて、見つけることができなかった。鷺の宮隆──アルジャーノンを発症して、このオービットベースの救護室で息を引き取った鷺の宮・ポーヴル・カムイの実兄である。
(お兄さんの名前がない……あの時、カムイさんが言っていた言葉は、アルジャーノン故の妄想だったということ……?)
あの時、カムイは言っていた──兄は覇界の眷族側にいる、と。だが、それが事実なら名簿に名が載っているはずだ。火乃紀は首を振って、その件について深く考えることをやめた……。
「──諸君、私は覇界の眷族側にて指揮をとっていた者として、もうひとつの恐るべき事実を伝えなくてはならない」
ブリーフィングの最後に発言を求めた大河が、重々しい口調で語り始める。
「先ほど、猿頭寺くんの報告にあったクシナダにいるという言葉は、間違ってはいない。だが、すべてを語っているとも言えない」
その言葉を聞いた猿頭寺が、静かに目を伏せる。彼はこの後に語られる内容を知っているのだろう。
「……三重連太陽系で、負傷した隊員や大破した勇者ロボは、トリプルゼロの再生力でみな復元された。だが、それは単なる治療・修復ではないのだ。AIブロックのみになったゴルディーマーグが、勇者ロボとしての機体を取り戻したことは、みなも知っているだろう」
「たしか、トリプルゼロの復元は、"あるべき姿を取り戻す"でしたな」
楊の指摘を、大河がうなずいて肯定する。
「その通り。つまり、クシナダにも同じ事が言える」
「要するに、最撃多元燃導艦タケハヤに戻るってことかぁ?」
火麻激の声に、まだ緊張感はない。覇界幻竜神と覇界強龍神を取り戻した今、脱出艇クシナダの母艦であるタケハヤが敵の手に渡ったとしても、怖れることはないと考えたのだろう。
「それは違うのだ、火麻くん。クシナダが取り戻した姿とは──ゴルディオンクラッシャーだ」
沈黙が、セカンドオーダールーム全体を支配した。参加者全員がその言葉の意味するところを理解するにつれて、動揺の波が押し寄せてくる。沈黙を最初に破ったのは、凱だった。
「大河長官……つまり、次の戦いでは覇界王キングジェイダーが、ゴルディオンクラッシャーを使ってくるということですか?」
「……おそらくそうなるだろう」
ゴルディオンクラッシャー、それは原種大戦の教訓をもとに開発された最強最大のハイパーツールである。全長一キロメートルを超えるツールから、二十キロにも渡るエネルギーフィールドを発生させ、惑星サイズの敵をも光に変換する。その力が、覇界王の手に渡ったというのだ。
「凱兄ちゃん……僕たち、勝てるの……?」
護のその言葉は、その場にいる全員の気持ちを代表したものだった。
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「……やっと二人きりになれたな」
「うん。これって何か月かぶり? それとも十年ぶり?」
獅子王凱の腕枕で、卯都木命が問いかけた。場所は凱の私室であり、いまは二人とも勤務時間外だ。どんな会話をかわしていても、誰にも聞かれる怖れはない。
大河や雷牙、スワンとともに命が帰還してから、すでに十日余りが経っている。もちろん、その間に言葉を交わしたりする機会は何度もあった。
だが、命たちもまずは入院して精密検査を受けなくてはならなかったし、その後もセレモニーや様々なイベントがあり、もちろん凱の方には出動もある。二人のオフタイムが一致して、休める時間がなかなかとれなかったのだ。
たっぷり言葉と、言葉に拠らない愛情を交わし合って、二人は横になっていた。いくらでも話したいことはある。どれだけ時間があっても、足りはしない。
いろいろ語っているうち、話題は護や華、戒道たちのことになった。
「ビックリだよね、あの子たちがGGG隊員になってるなんて」
「ああ、護があんな立派になってるなんてな」
ここ数か月の戦いで、凱は実感していた。かつて護ってやるだけの存在だった幼子はもういない。帰ってきた凱を出迎えてくれたのは、肩を並べて戦う頼もしい仲間だったのだ。
「それに戒道くん! あの子があんな美形になってるなんて、想像もしてなかった!」
「なんだよ、ああいうのがタイプなのか」
凱がわざと拗ねたような声を出す。命以外の人間には、決して見せたことのない表情だ。世界を救った勇者としての顔しか知らない人々には、想像すらできないだろう。
「妬かないの。私のタイプはこういう顔だよ」
そう言って、凱の横顔にそっと触れる。そんな何気ない行為が、凱にはとても嬉しかった。こんなささやかな時間すら、もう長いこと持てずにいたのだ。
「そういえば、さっきの戒道くん……なんの話だったの?」
数時間前、メインオーダールームへ続くエレベーターの前で話しかけられたのだ。命はその様子を見かけたものの、メインオーダールームに急がねばならないタイミングで、会話につきあうことはできなかったのだ。
「ああ、実は……」
別に隠し事をすることでもなく、凱は語りはじめた。人のいない談話室の一角で、戒道はこう切り出したのだ。
「凱さん……実はこないだの戦いの時、ベターマンと話したんだ。リミピッドチャンネルだから、話したと言っていいのか、よくわからないけど」
「ベターマン……あのラミアというヤツか」
戒道はうなずいた。以前、凱はオーストラリアでラミアに襲われたことがある。その時の真意を、戒道はラミアに問いただしたのだ。
「"元凶なりし者"とはどういう意味か、戦いが終わったら教えてくれって、意志を伝えたんだ。返事はなかったけど、了解してくれたような気がしたのに……」
実際、その後の戦いで、ラミアたちは戒道が乗り込んだ新龍神に力を貸してくれたのだ。阿嘉松や蛍汰、火乃紀、護の話を聞いてみても、基本的に彼らベターマンは人類の危機に共闘してくれることが多い。彼ら独自の行動理念があるにしても、それは人類と敵対するものではないと推測されている。
「あいつらは俺のことだけ、元凶なりし者と呼んで敵対してくる……」
「せめて、その理由だけでも知りたかったのに……」
「ありがとう、幾巳。その気持ちはすごくありがたいぜ」
戒道の肩に手を置いて、凱は感謝の意を伝えた。そして、じっと見るような目で、言葉をつむぐ。
「だけど多分、俺はその理由を知っている……」
そう告げる凱の目を、戒道はじっと見つめた。それは戒道ではなく、もっと遠くにいる誰かを見つめているような目だった。
「で……その理由って?」
凱の話を聞き終えた命、きょとんとした顔で問いかけてくる。凱はそれには答えず、強引に話題を変えた。
「それより、命にはもっと、話したいことがあるんだ」
「話したいこと……あー、そういえば言ってたよね! あの時、そんなこと!」
あの時──それは三重連太陽系のGクリスタルで、凱がジェネシック・ガイガーにフュージョンした直後のことだ。巨大なガイガーの姿で、凱は命に呼びかけたのである。
「あとでゆっくり話がしたい……待っててくれ!」
その後、ソール11遊星主との死闘を経て、オレンジサイトで散り散りになり、今日までゆっくり話をするどころではなかった。
だが、二人ともこの話ができる時を、ずっと心待ちにしていたのだ。凱はベッドから起き上がり、命の方に向き直った。命も無言で姿勢を正してしまう。
「……命」
それはこれまでに聞いた中でも、もっとも優しい口調での呼びかけだった。
「結婚しよう──」
(つづく)
著・竹田裕一郎
次回2020年4月更新予定
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