覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第5回】


number.00:B 序-HAZIMARI- 西暦二〇一〇年(4)

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「抜錨シーケンス第四まで終了、最終シーケンス開始まで三〇〇秒!」
「レプトントラベラー、定格出力で安定。アイドリングを維持!」
「アプロヴァール事務総長よりビデオメッセージを受信! 出発後に全艦にて放映されたしとのことです!」

 発進準備中のミズハ艦橋<ブランチオーダールーム>に、オペレーターたちの声が飛び交う。とはいえ、これは緊急発進ではない。数か月前から予定されていた旅立ちであり、そのためのシミュレーションも数え切れないほど繰り返されてきた。ディビジョンⅥ・無限連結輸槽艦<ミズハ>に乗艦しているGGG隊員たちにも、オービットベース側で発進管制を行っているスタッフにも、適度な緊張感こそあれ、怖れや不安はなかった。
 むしろ、高揚感に満ちていると言ってよい。三年の時を経て、未帰還のままでいる仲間たちを救出する計画が、本格的に始動するのだから。

 ミズハが向かう地は、太陽系第五惑星木星。ここで<ザ・パワー>を採取して、地球に帰還。その超エネルギーを解析して、百五十億年前の宇宙に通じる次元ゲートを開くのだ。
 この『プロジェクトZ』ファーストフェイズを指揮するのは、GGG長官に復職した八木沼範行。本来はメインオーダールームのオペレーターである山じい、府中律子、牛山次男、初野あやめ、各隊員はブリッジクルーとしてブランチオーダールームに配置された。
 オービットベースでは高之橋両輔、楊龍里、両博士が野崎通、犬吠崎実、平田昭子といったスタッフとともに後方支援に当たることになる。
 地上ではGGGマリンレフュージ基地にて阿嘉松滋所長が諜報用ビークルロボとともに不測の事態に対応すべく、待機している。その機体に搭載されているのは、かつて、フランスの対特殊犯罪組織シャッセールに所属していたポルコートの超AIだ。ポルコートは、国際的犯罪結社バイオネットによって機体を破壊された。だが近年、『GGG再建計画』によって、回収された超AIに新たな機体を与えられたのだ──その名はビッグポルコート。
 その『GGG再建計画』で同時期に開発された月龍、日龍、翔竜たち新型ビークルロボは、ミズハに乗り込むことになった。もちろん、起動試験からのフルメンテナンスを終えた覚醒人凱号にダイブするヘッドダイバー、天海護と戒道幾巳も同様だ。
 原種大戦で地球を護りぬいた勇者たちとGGG隊員たちが未帰還となって以来、平和を支えてきた者たちのほとんどが、木星に向かうことになる。わずか数週間の旅路とはいえ、何が起こるか、誰にとっても用心してしすぎることのない状況だった。

あんちゃん、待っててくれよ……」

 整備部オペレーターの牛山次男が虚空に向かって、つぶやく。隣席の初野あやめは、常ならば先輩である次男の態度にツッコミを入れまくるのだが、この時ばかりは神妙な表情で同意するようにうなずいた。

「いよいよだよ、凱兄ちゃん……」

 ヘッドダイバーの待機室で、ダイブスーツの再点検を行いながら、天海護も独り言を口にした。牛山や護だけではない。この任務につく誰もが、もう一度会いたい仲間のことを思って、あるいは心の中で、またあるいは口に出して、それぞれの気持ちを唱えていた。
 帰ってこない勇者たちを迎えに行く──その強い想いを。

「──最終シーケンス開始っすわ!」

 山じいの宣言で、いよいよ発進へのカウントダウンが始まる。だが、五〇〇からスタートするカウントを読み上げようとしたりっちゃんが、その声を呑み込んだ。
 聴覚では非常警報が、視覚ではアラート表示が、緊急事態を告げていた。

「うわっ! なになに──!?」
「あねご、テミストアイズから緊急警報!」

 かつて木星に存在する十六個の大型衛星は、機界31原種に融合されて、消滅した。だが、融合をまぬがれた十七個目の衛星テミストに、木星の状況を監視するシステムが常設されている。テミストアイズとは、そのシステムを管理するAIのコードネームだ。

「木星の軌道上で大規模な異常電磁場が発生っすわ! すげーや、こんな強い電磁場、有史以来観測されたことないっすよ!」

 日常の鷹揚とした声からは想像もつかない、緊迫した声を山じいがあげる。

「ちょっとー、こんだけスッゴイ磁束密度だと、ほとんど減衰しないで地球に到達するんじゃない!?」
「あのぉ、りっちゃんさん、もう少~しわかりやすく報告してくれませんかねぇ」
「いや、十分わかりやすいっしょ!」

 思わず八木沼長官を怒鳴りつけてから、りっちゃんは相手が上司であることを思い出した。八木沼という人物には、周囲に立場を理解してもらいがたい雰囲気がある。それがマイナスに働くこともあるのだが、この時はオペレーターたちに落ち着きを取り戻させる役割を果たした。

「あ、えっと、すンません。木星で測定不能なレベルの強い磁界が発生しました。地球圏へ到達して、精密機械などに甚大な影響を及ぼすと推定されます」
「ふむふむ……それは一大事ですね。山じいくん、オービットベースに急ぎプロテクトシェードを展開させてください。ミズハはその有効半径内に緊急退避。あと、全世界に緊急警報──え~、急いでくださいね」
「了解っすわ!」

 八木沼長官が言い終わるのを待たず、山じいとりっちゃんは猛烈な勢いで、オービットベース及び地球各所のGGG関連機関と連絡をとりはじめた。牛山次男もミズハの連結ユニット後方部に伝達して、レプトントラベラーの稼働を緊急停止、通常航法でオービットベースに最接近するよう手配をする。

「ねえ、先輩。非常事態なのはわかるけど、レプトントラベラーを緊急停止したらエンジンに負担かかるんじゃないの?」

 初野あやめの気の抜けた声に、次男は目眩を起こしそうになった。

「馬鹿っ、通常手順じゃ間に合わないんだよ!」
「ええ? でも、電磁場は木星からじゃ光速でも三十分以上かかるんだし……」

 そののんびりした口調は、長官の人徳が少々悪い方向に作用した例であったかもしれない。

「あのな、テミストアイズが送った警報だって三十分以上の前のものなんだよ!」

 あやめの顔色が真っ青になった。ようやく事態が飲み込めたのだ。警報も電磁場もともに光速で地球へ到達する。つまり、両者の到着にタイムラグなど存在しないのだ。

「そうだった! それが宇宙!」
「テミストアイズからの通信途絶! シールドが一瞬で破られた模様っすわ!」
「強電磁場、地球圏到達まで、あと五秒!」
「オービットベース、プロテクトシェード展開! ミズハ、シェード有効半径内に到達!」
「強電磁場、来ます!」

 その瞬間、ブリッジから見える宇宙空間の様子に異変が生じた。もちろん、電磁場が目に見えるわけではない。その影響で多くの人工衛星や宇宙施設にトラブルが発生したのだ。虚空にまたたく輝きはスラスターの異常稼働か、もしくは爆発か。
 やがて、その異変は眼下に見える地球上にも広がっていった。夜の面に煌めいていた街の灯が次々と消えていく。それは地球文明の象徴が、一時的に沈黙していく光景であるとも言えた。

 この緊急事態にあって、GGGオービットベースは健在だった。かつてガオガイガーに装備されていたプロテクトシェード、その出力と有効半径を拡大応用したバリアーシステムが基地には装備されているのだ。
 装甲や磁界で耐える通常の防御システムとは異なり、プロテクトシェードは有効半径外の空間そのものを湾曲させることで、内部への攻撃を防ぐことができる。いかなる物理的攻撃であろうと強磁界であろうと、オービットベースを傷つけることは不可能だ。
 異常電磁場の到達直前、ミズハから全世界に警告は送った。だが、わずかな時間でできた対策などほとんどなかったであろう。地球全土が未曾有の大災害に見舞われたことは疑いない。
 国連本部もGGG関連機関も、いずこも沈黙したまま、安否を問い合わせる通信への返信もなかった。

『いやぁ、危ないところでした。九十八パーセント、終わりかと思いましたよ。それでこれからどうします、長官』

 ミズハ艦橋のメインモニターには、メインオーダールームの高之橋博士が映っていた。強電磁場第一波の最大出力は乗り切ったようだが、いまだに高出力が観測され、ただちに低下する兆候は見受けられない。

「そうですね。ひとまず、プロジェクトZの進行は停止します。いまは各地の救援に、GGGの総力を向けねばならないでしょうねぇ」

 八木沼の判断は、士気高かったGGG隊員たちにとって、断腸の思いを抱かせるものだ。だが、ミズハとオービットベースでその会話を聞いている者に、不満の声をあげる者はいない。
 いま、地球全土が異常電磁場によって大きなダメージを受けているのだ。通信が途絶しているため、各地の状況すらも軌道上からはわからない。ある意味、地球外知性体の一斉攻撃にも匹敵する、甚大な被害が発生しているはずだ。

『では、私からの提案なんですが、まずカナヤゴに月龍、日龍、翔竜を乗せてから地球へ降下させたいと思います。そしてカーペンターズと協力して、原子力関連施設の保守に向かわせたいですなぁ』
「ああ~、それが最優先ですね。では承認シグナルを送ります……万能力作驚愕艦カナヤゴ、発進承認っと」

 博士と長官の対話を聞いて、牛山次男は戦慄した。たしかに地球上には核分裂炉が無数に存在する。緊急停止が間に合わなかった施設があっても、不思議ではない。それらへの対処が遅れては、どのくらいの被害が発生するのか、想像すらつかない。
 カーペンターズを緊急派遣することに決めた二人の判断は、称賛されるべきものだった。大河元長官や獅子王博士の異才がとかく注目を集めがちではあるが、八木沼や高之橋も原種大戦以後の地球を護り続けてきた、栄えあるGGG首脳部なのだ。
 カーペンターズを格納したカナヤゴが、月龍、日龍、翔竜を乗せて、オービットベースから分離。地表へと降下していく様子を見送ったGGG隊員たちは、ひとまず安堵した。
 だが、彼らの予測をも超える災厄が、いままさに発生しつつあった……。

「アイランド4が地上に──!?」

 天海護は絶句した。三重連太陽系のテクノロジーがもたらされる以前から、地球人類が建造していた宇宙ステーション、それがアイランドシリーズだ。そのうちのひとつ、アイランド2を改修することでオービットベースは完成した。
 以後も建造が続けられていたアイランドシリーズは六基を数えているが、それらのひとつが制御不能に陥り、地球に墜落しはじめたらしい。最新鋭の技術が投入されているとはいえ、さすがにプロテクトシェードまでは装備されていない。地球技術の粋を極めた軌道施設も、異常電磁場の前には無力な存在だったようだ。

「……そっか。異常な強電磁場で加熱された化学燃料槽が爆発、軌道速度が落ちたんだ」

 ミズハ艦内、待機室壁面のモニターに表示されたデータを読み取った護のつぶやきに、戒道が反応する。

「けど、宇宙ステーションは非常時には各部をパージして、バラバラに分解することができるんじゃないのか?」
「ダメなんだよ、戒道。制御コンピュータがダウンして、パージができなくなってるみたいだ」
「このままだと、燃え尽きずに地表に激突する……」

 呆れたように肩をすくめた戒道であったが、その表情が一瞬で引き締まった。情報が更新され、アイランド4の墜落予想地域が表示されたのだ。

「……いますぐ行こう。時間がない」

 ビークルロボたちが出払っている現状で、動けるのはニューロメカノイド以外にない。

『いやはや、危険な任務になりますが、君たちにそう言ってもらえると助かります』

 通信ウインドウのなかで、八木沼が汗を拭いている。相次ぐ非常事態のなか、気が休まる暇すらないのだろう。

『発進準備はできています。いつでもお願いします』

 戒道は無言でうなずくと、発進デッキの方へ歩き出した。一瞬遅れて、その後に続いた護にはわかっていた。何が戒道の表情を引き締めさせたのか。アイランド4はその原型をほぼ留めたまま、オーストラリア大陸に落ちると予想されていた。異常電磁場で混乱しているいま、住民の避難はとても間に合わないだろう。彼の地には、戒道が護りたいと強く思う人がいるはずだった。
 早足で追いついた護は、戒道の肩に右手を置いた。

「大丈夫。オーストラリアは、僕たちが護るんだ。絶対に!」

 戒道は黙って歩き続けていたが、その言葉に反応して、かすかにうなずいたようだった。言葉には出さずとも、その仕草には強い絆と信頼がこめられている。護にはそれがわかっていた。

「覚醒人凱号、発進します!」

 護の操縦で、ずんぐりした機体がミズハのカタパルトユニットから放出された。ミラーカタパルトによる高速発進ではない。現在の異常な状況下、通信ケーブルをミズハに接続しているため、加速をつけずに投下されたのだ。アイランド4のオーストラリア墜落という未曾有の惨事を防ぐために。

「行くよ、戒道──ユー・ハブ・コントロール!」
「ああ──アイ・ハブ・コントロール!」

 二人のボイスコマンドに、リンカージェルを基幹とするシステムが反応する。
 上も下も存在しない宇宙空間。そこにあって、凱号は上下を転回させつつあった。天海護がダイブする操縦席ウームヘッドで制御するアクセプトモードから、戒道幾巳の操縦席セリブヘッドが主導権を持つアクティブモードへ変形するのだ。
 ずんぐりした調査特化形態の<凱号>は、すらりとしたシルエットを持つ高機動形態の<ガイゴー>へと姿を変えていく。かつてのガイガーやガオファーを思わせる姿に。

「ミズハ、急いでくれ。ファイナルフュージョン承認を!」

 戒道の言葉は伸縮性長距離通信ケーブルでミズハ艦橋へ送られていた。強い電磁場のなか、無線では送信されるプログラムに欠落が出ると予想されたためだ。

(何年ぶりでしょうねえ、これ押すの……)

 八木沼は感慨を覚えながら、承認ハンコをインストーラーに押し当てた。

「ファイナルフュージョン、承認……っと」

 久しぶりのGGG長官によるファイナルフュージョン承認。全地球規模の災害のさなかでなければ、多くの隊員たちが同じく感慨を抱いていただろう。だが、GGG隊員ひとりひとりが、それぞれにできる災害対策作業に集中している。八木沼のささやかな承認の発声に、気づかぬ者すらいた。
 だが、ただひとり、全身が震えるほどの感動を覚えている者がいた。機動部隊オペレーターである初野あやめだ。彼女がGGG入隊するにあたっては、先輩の近くで働きたいという気持ちが最大の動機だった。しかし、実は卯都木命への憧れもあったのだ。獅子王凱の恋人にして、全人類を護るプログラムを発動させる右腕の持ち主。

(ついにあたしが……卯都木先輩の後を継いで、ファイナルフュージョンを!)

 スキャンされた<承認シグナル>は、オペレーションモニターの表示をFFバージョンへ切り替える。あやめの眼前には、FF要請シグナルの眩い明滅。

「了解ッ!」

 大きく深呼吸して、右腕を振り上げる。

「ファイナルフュージョン、プログラム! ドラァァイブッ!」

 ドライブキーの保護プラスティックを叩き割る、振り下ろされた右拳。言いようのない快感を覚えながら、あやめは目の前のコンソールモニターを見つめていた。ファイナルフュージョン・プログラムの進行が図示されている。FFモードに移行したガオーマシンが、次々とガイゴーの周囲に投下されていった。

 それぞれにファイナルフュージョン・プログラムを有線転送されたステルスガオーⅡ、ライナーガオーⅡ、ドリルガオーⅡが、ガイゴーの周囲に舞いはじめる。同じくプログラムをロードしたガイゴーとともに変形を開始した。切り離される通信ケーブル。これでもう四つの機体はミズハからのバックアップを受けられず、スタンドアローンで合体を続けるしかない。
 そして、それは阿嘉松滋が開発した機体に、父と叔父の機体が合体していく光景でもあった。覚醒人凱号をコアとして、新生スーパーメカノイドを誕生させる──その際に必要なのが、ガオーマシンだ。一時は新たな機体を開発しようとして、幾度も壁に行き当たった阿嘉松が思いついたのが、ガオガイガーやガオファイガーのガオーマシンを流用しようという発想である。
 偉大な父や叔父を越える必要はない。堂々と、その伝統を活用してやればよいのだ。あえて有限会社の社長という立場にこだわり続けてきた阿嘉松ならではの発想だった。
 四機のマシンが次々と合体し、ひとつになる。ガオガイガーの頭部と背部、ガオファイガーの四肢、覚醒人の胴体部を有する新たなる巨神。

「ガオッガイッゴーッ!」

 獅子王凱のそれに比べれば、幼いといってもよい少年ふたりの叫び。獅子王家の想いが結実したともいえる機体と同化しているうちの一方が、彼らと縁の薄い戒道少年であるという事実は、あまりにも数奇だった。しかし、地球を──人々を護りたいという気持ちに、変わりはない。
 いまここに、三重連太陽系で生まれ、地球で育ったふたりの少年による、純地球製の新たなるくろがねの守護神<ガオガイゴー>が誕生した!


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回11月2日(水)更新予定


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