覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第50回】

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《前回までのあらすじ》

 覇界の眷族によって、全世界にトリプルゼロが拡散された! ゼロロボが大量発生し、地球全土が制圧されるまでの猶予はあとわずか。この状況を打開するため、GGGブルーとグリーンは、決死の作戦に打って出る。
 竜四姉妹による奇跡のシンメトリカルドッキングで、竜四兄弟に打ち勝とうというのだ。ガオファイガーとガオガイゴーが決死の戦いで、覇界王キングジェイダーに立ち向かう。そのかたわらで、ついに輝竜神と新龍神が、幻竜神と強龍神を取り戻すことに成功した!
 その中でゼロ核となっていた大河幸太郎、獅子王雷牙、スワン・ホワイト──そして卯都木命を浄解することもでき、いよいよGGGブルーとGGGグリーンは、覇界の眷族との最後の戦いに挑もうとしていた。
 だが、そんな中、ガオガイゴーが覇界の眷族になったという凶報が、オービットベースにもたらされた!

number.08 禽-PHOENIX- 西暦二〇一七年/????年(3)


3(承前)

 ──セプルクルムの一角で、影が揺れた。

『また一体……新たな眷族が……誕生したよ』

 薄く揺らめく陽炎のような、人の形をした影。その額にあたる場所に、十字の光が瞬く。影の発した意志を受信して、羅漢は笑みを浮かべた。

『ンー…現状でもやっかいな状況が、さらに悪化したか』

 最近は横浜にあるラミアたちのセプルクルムに滞在することの多い羅漢が、このボリビアの不可知領域に戻ってきたのは、一人で研究したいことがあったからだ。いくつかの研究試料があるだけでなく、ここにはこの“影”が存在する。いずこかに肉体を置き忘れてきた意識だけの存在は、羅漢にとって興味深い話し相手でもあった。ヒトを対話相手として認めたことなどない、傲岸なソムニウムにとって、リミピッドチャンネルを交わせるこの“影”は特別な存在であるらしい。
 羅漢の周囲には影だけでなく、様々な動物たちがいる。いずれもセプルクルムの外では絶滅した種ばかりだ。それらは羅漢にとって、研究対象であって友愛の対象ではない。羅漢はそれらから向けられる畏怖と憎悪の視線を気にすることもなく、影と語り合う。

『ンー…新たな眷族とは何者だ? またぞろ機械人形の輩か?』
『それは……それは……』

 常に感情の起伏が乏しい影にしては珍しく、感情がさざめき立つ。ためらいを乗り越えるかのような逡巡の後、意識は告げた。

『……覇界ガオガイゴー』

 遠く離れたセプルクルムでのやりとりに先立つこと、数十分前。衛星軌道上のGGGオービットベースから降下した機動完遂要塞艦<ワダツミ>は、南アフリカ共和国ハワテン州の州都ヨハネスブルクの上空にあった。三時間ほど前、北部郊外の丘陵地帯にゼロロボの群れが出現、共和国政府からの要請を受け、発進してきたのである。

「うりゃあああっ、ダブルシナプス弾撃ぃっ!」

 ワダツミから出撃したガオガイゴーには、蒼斧蛍汰と彩火乃紀がダイブしている。本来、この二人が主な乗機としているのは、覚醒人V2だ。だが、この日はリンカージェル透析システムのパーツ交換中に出撃要請がくだったため、凱号にダイブすることになったのである。この数か月、天海護と戒道幾巳が超過任務ぎみであることによる、阿嘉松長官の配慮でもあった。
 蛍汰の気合一発、ガオガイゴーの両肩から展開したガイゴー両腕部から、TMシステムで合成された二種類の硬化液が射出される。青と赤、二色の液体は広範囲に散布され、ヨハネスブルク市街地を目指していたゼロロボ群の足下で混ざり合った。そして瞬時に硬化して、覇界の眷族の軍勢をその場に足止めした。

「お見事です、蒼斧蛍汰隊員!」
「なはは、店員と隊員、一字違いでエラい差だな」

 ガオガイゴーのセリブヘッドで苦笑する蛍汰。

「もう、店員って呼ばれたの、まだ気にしてるの?」

 ウームヘッドで、火乃紀が呆れたような声を出す。Gアイランドシティで、“蒼斧蛍汰店員”と呼ばれたことを、いまだに引きずっているらしい。蔑称というわけではないのに……と火乃紀は思うのだが、当人は気になるらしい。
 呼称の問題はともかく、作戦行動をともにしているビッグボルフォッグが賞賛するのも当然だ。硬化液ブルー&レッドをシナプス弾撃で射出するのは、戒道もやってのけたことがある。だが、蛍汰のそれは合成量も速度も桁違いだった。これほど多くのゼロロボを一気に足止めすることは、戒道と護のコンビでも不可能であっただろう。ことシナプス弾撃の扱いに関しては、蛍汰の才能は群を抜いている。モーディワープやGGGに所属したすべてのヘッドダイバーの中でも最強だ。
 覇界王キングジェイダーならいざ知らず、ゼロロボの群れが相手ならば、蛍汰たちにガオガイゴーを任せるのも有効な策である──阿嘉松がそう判断したのも無理はない。
 蛍汰にしてみれば、気分が上がることこの上なかった。少年時代、ニュース映像などで憧れていた勇者王──その流れを汲む機体に乗っているのだから。そのテンションMAXのまま、蛍汰はガオガイゴーに奇妙なかまえをとらせた。

「よっしゃ、ここから俺のオリジナル技──」
「ちょっとケーちゃん、なにするの!?」

 ガオガイゴーは胸の前で交差させた両腕を背部にまわし、そこにマウントしてあったパーツをもぎとった!

「行くぜ必殺! クレストカッターッ!」

 もぎとられたパーツが投擲され、足下を固められたゼロロボの群れに向かっていく。狙い過たずに、ブーメランのように回転するパーツは、ゼロロボ群を斬り裂いていった。

「ケーちゃん、ステルスガオーⅡ壊しちゃダメじゃない!」
「えええっ、ダメなのかこれ!?」

 もぎとられたのは、ガオガイガーにファイナルフュージョンする時、ギャレオン頭部に装着され、たてがみとなるパーツだった。ステルスガオーⅡに仕様変更が加えられていないため、ガオガイゴーでは使われることないまま、搭載されているパーツだ。蛍汰にしてみれば、有効活用したつもりだったのだが……

「当たり前じゃない! 重量バランスとか変わってくるんだから、後で整備部のみんなにお詫びに行くわよ」
「うへぇ、ごめんよぉ」

 ヘッドダイバー二人がそんな言葉を交わしている中、異変に気づいたのはビッグボルフォッグであった。

「! 回避してください、ガオガイゴー!」

 そう叫びながら、ビッグボルフォッグ自身も跳躍する。だが、遅い。ガオガイゴーの攻撃で空中に飛び散ったゼロロボのパーツが、意志ある存在であるかのように、襲いかかってきたのだ。離脱したはずの諜報ロボの右脚が、無数の欠片に包み込まれる。

「こ、これは……!」

 一方、反応の遅れたガオガイゴーは、頭頂からつま先まで全身を覆い尽くされることになった。

「どわあああっ、なんじゃこ──」

 悲鳴のような蛍汰からの通信は、途中で遮られた。どうやらゼロロボの欠片が、電波を遮断しているらしい。

「蛍汰さん、応答してください! 蛍汰さん!」

 GGGオービットベースのメインオーダールームで、機動部隊オペレーターである華が必死に呼びかける。だが、回線から伝わってくるのはノイズのみだ。

「ビッグボルフォッグ、状況を報告しろ!」

 続いて諜報部の猿頭寺が、鋭く叫んだ。全身を包まれたガオガイゴーと違い、ビッグボルフォッグとは通信回線が確保されている。

「猿頭寺オペレータ-、これは……」

 苦しそうな声が、メインオーダールームに響く。

「トリプルゼロによる浸食です……!」

 大地に転がりながら、ボルフォッグは報告した。この感覚は、たしかにメモリーに残っている。三重連太陽系での戦いの後、オレンジサイトで経験した忌まわしい記憶。宇宙の摂理を体現したエネルギーが、機体と超AIを蝕んでくるあの感覚だ。ビッグボルフォッグはおのが勇気を振り絞った。

(それだけが、トリプルゼロの浸食を遅らせる唯一の手段、そして……!)

 右手でシルバームーンを、逆手にかまえるボルフォッグ。

「はああっ!」

 銀色に輝くブーメランの切っ先が、ボルフォッグ自身の右脚の付け根にねじ込まれた。トリプルゼロが胴体にまで浸食してくるよりも一瞬早く、右脚が切除される。

「いいぞビッグボルフォッグ、早くガオガイゴーの救助を!」

 猿頭寺がほめたたえると同時に、的確な指示をくだす。原種大戦以来培われてきた諜報部の連携に、遅滞はない。

「超分身殺法!」

 片脚を失って大地に転がるビッグボルフォッグが、三つの影に分身した。ボルフォッグの意を受けて、忠実なガンマシンたちがドーベルガンとイーグルガンを放つ。二筋の火線は、小山のように積み上がったゼロロボの欠片を撃ち砕いていく。いや、それはゼロロボの欠片の堆積ではない。表面を覆い尽くされたガオガイゴーの成れの果てだ。

(いけません、GストーンやJジュエルを持たない二人では……!)

 ボルフォッグの超AIが、不吉な予感を覚える。だが、次の瞬間、撃ち砕かれた堆積物を撥ねのけるようにして、ガオガイゴーが立ち上がった。

「無事でしたか、ガオガイゴー!」

 喜びの声をあげるボルフォッグ。だが、センサーは冷徹に数値を検出していた。

「ゼ、Z0シミラーが規定値の十倍以上を観測……」

 絶望に震える声で、華がその事実を読み上げる。メインオーダールームに詰めている者たちにとって、その事実が示すところは明白だ。ガンマシンとの再合体を果たしたビッグボルフォッグから、悲痛な通信が入る。

「──こちらビッグボルフォッグ、緊急事態です。ガオガイゴーが……トリプルゼロの浸食を受けました。繰り返します、ガオガイゴーがトリプルゼロの浸食を受け、覇界の眷族と化しました──」

 衝撃に沈黙するメインオーダールームのスタッフたち。短いながらも、重く深い沈黙を破って、阿嘉松長官が苦渋の声を漏らした。

「俺の牙王凱号が……覇界の眷族に……」

 一同が見つめるメインスクリーンには、オレンジ色のオーラを放つ巨体の姿が映し出されていた……。

 

 ──数時間後。ビッグオーダールームは重い沈黙に満たされていた。GGGブルーとGGGグリーンの隊員たち、それに勇者ロボ軍団。つい先ほど完成したばかりの、新たな機体を得た竜兄弟姉妹も含めて、すべての者が言葉を失っていた。
 だが、どんな思いを抱えていようと、報告は続けなくてはならない。諜報部がまとめた資料をすべて伝えた山じいが、最後の情報を口にする。

「えー以上のように、南アフリカを離脱したガオガイゴーは、南大西洋のトリスタンダクーニャ諸島付近で、サテライトサーチによる追尾からも消えました。その後、ポルコートがガンマシン群とともに捜索にあたりましたが、手がかりはつかめず、現在は帰還中っすわ……」
「私もこの後、再度現地へ向かうつもりです……」

 沈痛な声で、ボルフォッグが報告を締めくくった。ガングルーとガンドーベルの指揮をポルコートに委ねた後、オービットベースに帰還。右脚を予備パーツに換装後、ただちに捜索に加わりたい気持ちを押し殺して、この場に臨んでいたのだ。ガオガイゴーを救えなかった自責の念があればこそ、その場に居合わせた者として、詳細な報告を行わなくてはならないと考えたからだ。

(ヴァルナー……君まで、覇界の眷族に……)

 そう内心でつぶやいたのは、GGGブルー機動部隊隊長である天海護だ。ガオガイゴーのコアとなっている覚醒人凱号には、生体ユニットとしてシャチの脳が組み込まれている。そのシャチの名がヴァルナー、かつてGパークシーという海洋遊園地で飼われていたアイドルだ。幼い日に出逢ったヴァルナーは、護にとって種族の垣根を越えた友人ともいえる存在だったのだ。
 もちろん、ヘッドダイバーである蛍汰と火乃紀のことも心配でたまらない。護の心は悔恨で揺れた。

「僕たちが休ませてもらったせいで……」
「護、そう考える気持ちはわかるが、それは思いあがりでもあるぞ」

 護の悔しそうなつぶやきを聞いて、すかさず凱が注意する。いや、注意以上に、護の気持ちを軽くしようという思いがあったのかもしれない。

「凱の言う通りだ。失敗したのは俺だ……」

 阿嘉松がこの場にいる誰よりも、苦渋の表情でつぶやいた。かたわらで山じいが痛ましげな目で上官を見る。

(無理もないっすわ。自分の子供のようにも思っていた蛍汰と火乃紀ちゃんが……)

 十代の頃の蛍汰と火乃紀に出逢って以来、常に彼らを生命の危地に引っ張ってきた張本人が、阿嘉松本人だと言っていい。もちろん自分だけ安全な場所にいたわけではなく、ともに死線をくぐり抜けてきたのだが、その分、我が子を愛おしむような思いも生まれている。しかも、一度は普通の人生を選んだはずの蛍汰を、ふたたび危険な世界に引き戻してしまったという負い目も、心のどこかにあった。
 阿嘉松のそんな心の動きを、誰よりもよく理解しているのが山じいだ。有限会社アカマツ工業を立ち上げた頃から、ずっと付き従っている唯一の人物なのだから。

「阿嘉松長官……厳しい言葉を言わせてもらおう。我々はいま、悲しみに沈むことは許されない。地球は現在も存亡の危機にあり、我々GGGはそれに立ち向かわなくてはならないからだ」

 両GGGを束ねる大河が、冷徹とも聞こえる口調で言い切った。だが、その冷たさこそが、いまの阿嘉松にとってはありがたい。

(生温かい言葉なんぞに、ひたらせてもらってる場合じゃねえからな……)

 ライバルと目した存在であり、目の前で追うべき背中を見せつけてくるGGG特務長官に向かって、GGGブルー長官は冷静に応えた。

「ああ、厳しくもなんともねえ正しい言葉だ。俺たちは嘆き悲しむ前に、ガオガイゴーを全力で捜索する。そして……見つからなかった時に備えなくちゃなんねぇ」
「対覇界王作戦の、か……」

 GGGグリーン長官たる凱がつぶやく。これまで三長官は、覇界王キングジェイダーに対抗する戦術を練ってきた。一応の結論が出たそれには、全GGGの戦力を投入しなければならない。そこからガオガイゴー、そして蛍汰と火乃紀が失われたとなれば、大きな修正が必要なのだ。
 一同は覇界の眷族に対抗しつつも、ガオガイゴーを捜索する体制の健闘に入った。アメリカGGGやロシアGGGの諜報部など、各国支部にも手伝ってもらう必要があるだろう。そんな打ち合わせのさなかだった──

「す、すみません、ちょっと体調が……少し失礼します……」

 真っ青な顔で、初野華が駆けだしていった。小走りに、ビッグオーダールームから退出していく。

「初野先輩……!」

 アルエットが心配そうな表情で立ち上がりかけて、思い直した。華がいなくなった分、自分が緊密に打ち合わせをしなくてはならない──そう思い直したのだ。
 一方、この突発事態に大きく取り乱したのは、天海護だ。後を追いたい……だけど、機動部隊隊長として個人的な感情を優先させるわけにはいかない。そんな気持ちで視線を泳がせた時、副隊長と目が合った。長いつきあいの相棒がうなずく。

(……行ってこい、護。ここはまかせろ)

 そんな意志がこめられた、うなずきだった。

「すみません、僕も少し……失礼します!」

 立ち上がって退出を求めた護に、阿嘉松がうなずいて許可する。その返事も待たず。護は駆けだしていた。華が走り出した方へ──

 

 GGGオービットベースにおいてビッグオーダールームは、隊員の居住区画から離れたところにある。メインオーダールームが移動するメインシャフトを経由すれば最短距離で移動できるのだが、作戦会議中にできるはずもない。そのため、体調を崩した華は、水平方向に区画を移動した、整備部の隊員たちが利用する休憩室で休ませてもらっていた。
 水を飲んでソファーに身を沈め、少し落ち着いた華は、自分の居場所をGGGスマホである人物に送信した。だがその時、居場所を報せていないはずの人物が、目の前に現れた。

「……やっぱりここだったね」
「護くん、なんで……?」

 驚きのあまり、華の大きな瞳がさらに大きく見開かれた。広いオービットベースの中で、自分がどこに向かったのか、護には教えていない。なのに何故、ここへ現れたのか……華の目に大粒の涙が浮かんでくる。

「さあ、なんでだろう……なんとなく、ここにいるような気がしたんだ」

 護の言う通りだった。ビッグオーダールームを飛び出した護は、華の気持ちを想像しながら歩いてきた……ただ、それだけだった。それだけで、護は辿りつくべき場所に辿りついたのだった。少しだけ誇らしげな思いを感じながら、護は問いかける。

「隣……空いてる?」

 数人がけのソファーに一人で座っているのだ。聞かれるまでもない質問だが、華はうなずいて、少し端の方へ寄った。護は恋人の隣に座って、壊れ物を扱うかのような慎重さでその肩を抱いた。
 二人とも、何も口にしなかった。ただ、わずかに体温が低かった華の身体が、護によって温められていく。数分して、二人の体温が同じくらいになった頃、華が口を開いた。

「ごめんね、護くん……」
「いいんだ。同じくらい大事なことだから」

 何と何が同じくらい大事なのか、護は言葉にしなかった。もちろんそれで伝わっている。

「GGGブルー機動部隊には、有能な副隊長がいるから、こういう時は任せて安心なんだ。こういうところはGGGグリーン機動隊長より恵まれてるよね」
「ほんとだ。後でお礼言わなきゃ……戒道くんのおかげで、こんな時間が持てたって」

 護の体に体重を預けながら、華がつぶやいた。考えてみれば、ここしばらく、二人でゆっくりする時間など持てなかった。連日の出撃に護の心身が休まるヒマはなく、戦いが終われば、泥のように眠るだけだったのだ。
 もっとも、そんな護たちの様子を見かねた阿嘉松の温情が、蛍汰と火乃紀に悲劇を招いたのかもしれない。そう考えると、護の心は痛む。だが、今しなければならないのは、別のことだ。

「……華ちゃん、最近体調崩すことが増えてない?」
「え? な、なんでそう思うの?」

 華の声が裏返った。自分の体調不良を、護にだけは気づかれないよう、気をつけていたはずだったのだ。

「あ、それはその……」

 護が途端にしどろもどろになった。その表情を見て、華は気づく。

「……アルエットちゃんね。もう、黙っててって言ったのに」

 機動部隊首席オペレーターが調子を悪くすれば、当然次席オペレーターにフォローしてもらうことになる。シフトを代わってもらったりすることがあるアルエットには、隠し事はできない。口止めしておいたはずなのに……華は唇をとがらせた。
 そんな横顔を見て、可愛いな……と護は思う。たとえ異星の生まれであろうと、護もまだ成人したばかりの青年だ。使命や義務感だけで戦い続けるのは難しい。こんな風に、護りたいと思える存在を確認する瞬間を持ててこそ、過酷な戦いに身を投じることができるのだ。

「華ちゃん……僕たち、籍入れようか?」

 凱と命の時のように「結婚しよう」という言葉にはならなかった。護と華は、もう子供の頃に結婚していたのだから。これまで、形式の方を実情にあわせずに来たのは、単に必要に迫られていなかったからにすぎない。二人が結婚できる戸籍上の年齢(天海夫妻の尽力によって、護にも日本人としての戸籍が存在する)に達した時には、すでにインビジブルバースト後の混乱期だった。お祝い事をするような気分ではなく、なにかしらの区切りがついたら……と思っているうちに、今に至ってしまったのだ。
 だが、覇界の眷族となってしまった人々を救う戦いも、もう終局に近づいている。最後の戦いを乗り切るための希望になれば……そんな思いで口にしたのだが、華の反応は護の予想とは違っていた。
 触れあっていた身体を離し、距離をとる。そして、大きな瞳に涙が浮かんできた。喜びのそれではない。悲しみの涙だ。護の言葉を聞いた瞬間に、ビクッと肩をふるわせ、以後は何かに耐えるような表情を浮かべている。
 そして、その表情を見られまいとするかのように、うつむいてしまう。言葉に出さなくても、それは拒絶の意思表示であるように、護には思えた。

「華ちゃん……?」

 うつむいた華の表情をのぞきこもうとした時、護を制止する声がかけられた。

「はーい、護くん。そこまでよ、阿嘉松長官が急いで相談したいことがあるんだって」
「え、僕に……?」

 現れたのは、GGGグリーン機動部隊オペレーターとして復帰した、卯都木命だった。彼女の言葉に驚きつつも、護は伸ばしかけていた手を引っ込める。
 そして深呼吸。息を整えると、立ち上がって頭を下げる。

「命姉ちゃん、華ちゃんをよろしくお願いします。じゃあ華ちゃん……僕、行くね」

 華がうつむいた顔をあげた時、視界に映るのは、駆け去っていく護の後ろ姿だった。

「護くん……」

 ついに耐えきれなくなった涙が、ぼろぼろとこぼれていく。それを優しく拭ったのは、命が差し出したハンカチだった。かつて、幾度も凱を想って流した涙を吸い取ってきたハンカチである。

「命さん……」
「よく呼んでくれたね、私のこと」

 命がこのタイミングで現れたのは、もちろん偶然ではない。護のように華の行動が読めたわけでもない。GGGスマホで華が助けを求めたのが、この卯都木命だったのだ。

「ごめんなさい、命さん……でも私、どうしても命さんに話したいことがあって……」
「そっか、嬉しいな」

 意外な言葉に、華はまばたきを繰り返した。

「あ、ごめん。深刻に悩んでる子の前で、無神経なこと言っちゃったよね」
「ううん、そんなことないです。でも嬉しいって……」

 狙ったわけではないのだが、軽い驚きには涙を引っ込める効果があったようだ。華が少し落ち着いたことを悟った命は、ベンチに並んで腰掛ける。

「私ね、羨ましかったんだ……凱と護くんの仲。あの二人、本当の兄弟みたいでしょ」
「ええ、すごく仲良くて……」
「私も凱も一人っ子だったのに、凱だけ兄弟できてズルーイって、そんな気分になることもあったの。あ、時々よ」

 命の言葉がわかるようで、わかりにくかったのも、無理はない。華もまた一人っ子だったのだが、幼い頃からいつも五歳年上の従姉が近くにいたからだ。ほとんど姉妹と言ってよいくらい、仲のいい相手だったから、護にとっての凱をうらやましく想わずにすんだのだろう。そんな華の気持ちに気づかず、命は続けた。

「だからね、華ちゃんが相談したいことがあるってメッセージくれた時、本当に嬉しかったんだよ」

 命はそう言って、満面の笑みを浮かべた。原種大戦の頃、命と華にももちろん面識はあった。だが、一般人の子供である華とはそれほど深く交流したわけではなく、凱と護のような関係だったわけではない。
 それでも、あの幼かった子が成長してGGGに入隊、自分がいない間の機動部隊オペレーターを勤め上げてくれていたという事実は、命の胸を熱い思いで満たしてくれていたのだ(これはアルエットに対しても同じだ)。
 そんな華が個人的に頼ってくれたことが、とても嬉しく思えていたのだ。

「ね、華ちゃん。なんでも相談して! 護くんに言えないような話でも、私にだったらどう? なんだったらアルエットも誘って女子会する?」

 誰にも言えない悩みを抱えていた華にとって、命の明るさと物怖じしない踏み込みは、心の障壁を取り払う効果があったようだ。これまで誰にも話せずにいた悩みが、するっと口をついて出る。

「命さん、あの私……命さんと同じなのかもしれないんです……」
「え、私と同じ? 仕事が同じって意味じゃないよね……もしかして、プロポーズされたばっかりってこと?」
「あの、そうじゃなくて……」

 華はさすがに口よどんだ。今から告げようとしていることが、命にとっては深刻なトラウマかもしれないからだ。かつて、機界新種の・・・・・・・・・種子を埋め込まれて・・・・・・・・・いたことなど・・・・・・──
 だが、その先を告げることはできなかった。オービットベース全施設に警報が響き渡ったのだ。

「命さん、これって!」
「うん、特S級非常警報!」

 それは単に覇界の眷族が現れたことを警告するものではない。地球に致命的な攻撃が行われる、もしくはオービットベースに直接攻撃が仕掛けられたことを意味している。この時、衛星軌道上のオービットベースよりも、さらに高軌道にESウインドウが発生。そこから艦隊が出現したことを報せる警報だった。

 

 艦隊の構成は、ジェイアーク級が一、ディビジョン艦が三。いずれもオレンジ色のオーラを放つ、覇界の艦隊である。
 全GGG隊員たちが怖れていた事態が、ついに訪れたのだ。覇界王キングジェイダーがオービットベースに向けて、覇界ゴルディオンクラッシャーを──いや、覇界シルバリオンクラッシャーを振るう刻が!

(つづく)


著・竹田裕一郎


次回5月29日更新予定


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