覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第56回】

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《前回までのあらすじ》

 覇界の眷族によって、全世界にトリプルゼロが拡散された! ゼロロボが大量発生し、地球全土が制圧されるまでの猶予はあとわずか。だが、GGGブルーは死力を尽くして戦い、覇界幻竜神、覇界強龍神、覇界王キングジェイダーという難敵を攻略、かつての仲間たちを取り戻すことに成功する。いまここに、十年前、全宇宙を救うために旅立ったガッツィ・ギャラクシー・ガードの勇者と隊員たちが、すべて帰還したのだ!
 さらにベターマン軍団が二〇〇五年の過去から運んできた、初代ガオガイガーも凱の新たな力として加わった。凱はいよいよ最後の戦いの到来を予感する。覇界王ジェネシックとの最終決戦を──

FINAL of ALL 対-VERSUS- 西暦二〇一七年(1)


1

「……久しぶりだね、滋」
「ア、アンジェリカ……」
「本名で呼ばれるのは、ずいぶん久しぶりだよ。普段はドクトル・アーで通してるからね」

 GGGオービットベースの長官室には、個人用通信端末が存在する。限られた通信量を全体でシェアしなければならない宇宙基地において、一部の者にしか与えられていない特権だ。もっとも、阿嘉松GGGブルー長官がそれを行使することは、滅多にない。肉親も親しい仲間も、ほとんどがオービットベースに勤務しているからだ。
 そんな彼が珍しく、個人用通信を受けた。アンジェリカ・アネモネ・阿嘉松──別居中の妻からの連絡である。もっとも、彼女はGGGドイツ科研に勤務する科学者であり、個人的通信の合間にも任務に関わる話題が多かった。だが、この日の会話は純然たる夫婦の──いや、父と母の対話だった。

「すまねぇッ! 紗孔羅のヤツ、まだ見つからねぇんだ! 必死で探してるんだが……俺は、俺は……」

 覇界王キングジェイダーとの決戦から、すでに三日が経過している。それはGGGブルーとGGGグリーンの総力を結集した一大作戦であり、薄氷を踏むようにして得た勝利だった。だから誰も気づかなかったのだ。離発着デッキの片隅に駐機している覚醒人V2のウームヘッドから、阿嘉松とアンジェリカの娘である紗孔羅の姿が、いつの間にか消えていたことに……。

「全隊員の個室も含めて、探せる場所はすべて探した。だが、どこにもいねえんだ……まるで神隠しみてえに、消えちまった……」

 阿嘉松が途方に暮れるのも無理もない。オービットベースは重力制御された宇宙基地である。人間一人分の質量を隠し通せるものではない。唯一あり得る可能性は、すでに基地の外に連れ出されたというものだ。もしも事故によって、宇宙空間に放り出されてしまったのだとしたら……阿嘉松の胸は狂おしいほどに痛んだ。

「俺が……俺が側にいてやったのに……なのに……」
「自分を責めないでほしい。私の分まであの子に寄り添っていてくれたのは、他でもない君なのだから」
「そっちこそ、自分を責めてないか? 紗孔羅の面倒を見てやれなかったのは、お前さんのせいじゃないのに……」

 ドクトル・アーは十数年前、事故で両手両脚を失った。彼女がGGGドイツ科研にこもるようになったのは、そのためだ。もともと彼女はロボットアームの優秀な開発者であり、その技術はかつての凱のサイボーグ・ボディや、勇者ロボたちの四肢に使われている。だが、それが彼女自身の義手義足ともなったのは、皮肉な運命であった。
 いずれにせよ、ドクトル・アーことアンジェリカは、自分と同じような境遇の人々を救うため、勇者ロボの性能を向上させるため、ドイツで研究に没頭するようになった。紗孔羅本人も母の想いを理解して、通信で時折話すだけの関係に納得していた──納得しているように見えた。

「人の気持ちがずいぶんわかるようになったんだね、滋。私も嬉しいよ」
「よせやい、あの頃のガキじゃねえんだ。もういい歳した中年オヤジだし、GGGの長官様なんだぜ」
「……私にとってはいつまでも、あの頃の可愛い少年のままだよ、君は」

 ドクトル。アーの瞳に映っているのは、二十歳の時に出逢った恩師の甥っ子である、十四歳の少年の姿であるようだった……。

 

「……ういーっす」

 そんな挨拶だか、唸り声だかわからない声をあげつつ、GGGブルー長官がメインオーダールームに入ってきた。当直のスタッフたちが目を丸くして、阿嘉松を見つめる。

「長官!」
「もう復帰するんすか!?」

 初野華と牛山末男が思わず……といった声をあげたのも無理はない。覇界王キングジェイダーとの決戦の事後処理を終えた後、紗孔羅の行方不明を知って、自ら休息を申請していたのだ。一週間程度は任務どころではないだろうとみな思っていたのに、わずか二十四時間でこの場に姿を現したのだから。

「その……もう大丈夫なのか? もう少し落ち着いてからでも……」
「何ふぬけたこと言ってやがる!」

 楊龍里らしからぬ気遣いに対して、阿嘉松は一喝した。

「俺たちの仕事はなぁ! 親を失う子や、子を失う親を出さねえためのものなんだ。いつまでも休んじゃいられねえよ!」

 この時、阿嘉松の目の端には、光るものが浮かんでいた。だが、それを指摘する者はさすがにいない。

「ふむ……立派になったもんだのう」
「ほんと、ジジイの息子とは思えないね」
「クソ親父! ルネ!」

 この場にいると思っていなかった実父と異母妹の言葉に、阿嘉松の声が裏返る。

「……態度は立派になっても、口の悪さは相変わらずだがなぁ」

 自分が感情的になっていたところを見られて、阿嘉松の顔がわずかに朱に染まった。もっとも、長年のつきあいである山じいでも気づかないであろう、微々たる変化でしかなかったのだが。

「いま、お二人から覇界の眷族であった間のことを、聞かせていただいていたのだ。幸いというには苦すぎるが、記憶の連続性は保たれているようなのでな」

 獅子王雷牙とルネ・カーディフ・獅子王が、このメインオーダールームにいた事情については、楊がそう説明した。
 普段ならどれだけ悪癖を指摘されても悪びれることなどない不良老人が、心底情けなさそうにため息をつく。

「まったく、僕ちゃんのこの手で人類を滅ぼそうとしてたなんて、情けなくて涙が出てくるわい」
「……けど、落ち込んでるくらいなら、やるべきことをやった方がマシだからね。後悔も罪滅ぼしもその後でいい」                                                       
「へっ、クソ親父の娘とは思えない、いい心がけだぜ」

 いまだ罪の意識に苛まれている雷牙と違って、ルネの方はすでに立ち直っているようだ。気っ風のいい妹の言葉に、阿嘉松が顔をほころばせる。ルネの方もまた、阿嘉松に向かってニッと笑みを見せる。

「こら! まったくお前たちは兄妹そろって、親をないがしろにしおって、ムキー!」

 一瞬前まで落ち込んでいたはずの父親が、息子と娘の前で地団駄を踏む。そんな光景を見て、アルエットがつぶやいた。

「性格は親子兄妹似たりよったりね。容姿は似てなくて幸いだけど」
「……アルエットちゃん、正直すぎだよぉ」

 つぶやきにしては声が大きすぎたかもしれない。隣席にいた華があわてる。もっとも、評されたうちの一人は、気にも留めていないようだ。

「別にいいさ。フランス娘はウソがつけないのが美点だからね」
「そうそう」

 ルネとアルエットが笑い合う。実のところ、この二人にも同国人であるという以上の縁がある。

「……にしても驚いたよ、あの時のチビがこんな大きくなって、私のオペレーターやってくれるとはね」
「お、そういえばアルエットは小さい頃、ルネと一緒に捜査したことがあったらしいな」

「ええ、バイオネットにさらわれたみことを取り戻すために」

 それはアルエットが、まだ五歳の天才児としてGGGに協力していた時の話だ。ガオファイガー用に開発された新型ガオーマシンがバイオネットに奪われ、命が掠われるという事件が起きたのだ。アルエットとルネはその捜査の過程で、一時期行動をともにしたのだった。

「それ以来のコンビ復活ってわけだ。……ん? オペレーションたあ、なんの話だ?」

 阿嘉松が疑問に思うのも無理はない。それは大河特務長官によってつい先刻、承認されたばかりの決定事項だったのだから。

「GGGグリーン長官が、ベターマンがもたらしたガオガイガーに乗ることになったので、ガオファイガーが余ることになる。そこでルネくんに任せることになったのだ」

 楊の説明に、阿嘉松が目を丸くする。

「な、なんだとぉ! お前さんもファイナルフュージョンできんのか?」
「できるできないじゃなくて、やらなきゃならないのさ」

 言い切るルネの言葉に、雷牙が捕捉を加える。

「まあ、僕ちゃんが作ったサイボーグ・ボディで、Gストーンの持ち主なんだから不思議ではないだろう」
「昔の凱に比べたら生身の部分が多いんだけどね。そこんとこはジジイとアルエットが調整してくれるそうだよ」

 ルネのこの言葉には、阿嘉松も納得する。

「むうう、ガオファイガーのハードとソフトの開発者がそろったんだから、そういうこともできるのか……」

 一瞬といえど、愛娘が行方不明になった悲しみを忘れられたのかもしれない。数日ぶりに阿嘉松は、いつもの豪放磊落な笑顔を浮かべた。

「するってーとあれか? GGGはガオガイゴー、ガオファイガー、ガオガイガー、三体の勇者王を運用できるってわけだ。こいつはすげえな!」

 阿嘉松は無邪気に喜んだものの、実のところ、ベターマンがもたらした初代ガオガイガーを扱うことについては、慎重論も存在した。
 凱を敵視するベターマンによる、なんらかの罠ではないかという声も、そのひとつだ。だが、それには凱当人が反論した。

「あの時、俺はベターマン・ラミアの意志を受け取った。覇界王に打ち勝つため、すべての力を結集する──あいつのその意志に、嘘偽りはない。俺にはわかる」

 そして、様々な解析データから、このギャレオンが二〇〇五年四月七日から運ばれてきたことが確定した。ガオガイガーが初出撃、EI-02と戦った、まさにその日である。原種大戦の間、ガオガイガーは見た目が変わらずとも幾度ものバージョンアップや改修を経ている。最初期型の機体で戦えるのかという疑問もあった。

「まったく問題はない! 改修されたのは主にガオーマシンで、そっちは二〇一七年バージョンの最新モデルを使うんだから、むしろ圧倒的に性能は向上しとるよ、うん」

 そう言って太鼓判を押したのは、獅子王雷牙である。ガオファイガーとは異なり、ガオガイガーを開発したのは、獅子王麗雄だ。亡き弟の手による初代ガオーマシンの先進的な開発思想や拡張性を、もっとも正確に評価しているのが、雷牙だった。
 もっとも、このギャレオンは三重連太陽系のGクリスタルで再調整される前の状態である。二〇〇三年のEI-01との交戦によって内部ブラックボックスが損傷し、機能を充分に発揮できる状態とは言いがたい。しかし、それを補って余りある凱のエヴォリュダー能力がある。フュージョンすると同時に、凱がおのれの神経系をブラックボックスに接続、補完することで二〇〇五年当時より遥かに、ギャレオンの能力を引き出すことが可能であろうと思われたのだ。
 しかし、初代ガオガイガーを運用する上で、最大の問題点──あるいは危険性は、別のところに存在した。

 ビッグオーダールームから続く整備ブロックで、一人の整備部員が同じ制服を着た、容姿のよく似た隊員に報告する。

「……あんちゃん、ギャレオンの整備終わったぜ」
「ああ、いまチェックしてる」

 報告した方は牛山末男、報告された方は牛山一男。四兄弟の長兄と末弟であり、似ているのも当然だ。本来なら十歳以上の年齢差があるのだが、一男が年齢そのままに十年後の太陽系に帰還したことによって、見た目は完全に同年代になっていた。

「……うん、完璧じゃないか。ずいぶん成長したんだな、末男」

 一男が細い目をさらに細めて、弟をほめる。

「へへ、今の一男あんちゃんと同い年になる頃には追い抜いてみせるからな!」
「どうやら口だけじゃなさそうだな」

 同じGGG整備部員となった牛山次男と末男にとって、一男は憧れの先輩でもあり、雲の上のような存在だった。しかし、今の末男には、背伸びすれば手が届きそうにも思える。

「そういやギャレオンのことなんだけどさ……」
「なにか気になるのか?」
「まあ、俺らからしたら、十年以上前の状態だからな。ブラックボックスの損傷箇所とか修復してみたらどうかと思うんだけどさ」
「……絶対ダメだ」

 いつも温厚な一男らしからぬ強い口調で、否定された。

「やっぱりか~~。うかつなことしたら、歴史が変わっちゃうもんな」

 誘惑を感じてはいるが、もちろん末男も理解してはいるのだ。このギャレオンを運用する上で最大の問題点、あるいは危険性は、歴史が変わってしまいかねないということだ。
 ベターマンたちは約束した。覇界王との戦いが終わった後、ギャレオンを元の時代に戻すと。うかつに手を加えてしまえば、歴史にどのような影響が出るのか、誰にもわからない。
 ギャレオンを決して傷つけない。たとえ不具合があろうと、手を加えない。それがGGGがくだした結論だった。そして、牛山一男には、さらにもうひとつ理由が存在した。

「このギャレオンはたしかに一部破損していて、問題もある。でもな、こいつと試行錯誤するのは、十年前のあんちゃんたちの特権なんだ。今の時代の人間が手を出しちゃいけない」

 一男は過ぎ去った日々を懐かしむようにつぶやいた。

「あんちゃんたち自身だってな……」

 

 ──いよいよ訪れるであろう覇界王ジェネシックとの最終決戦。それが明日のことであるのか、数か月後になるのか、ひょっとしたら後の時代の人々が遭遇する試練になるのか、それは誰にもわからない。
 そんな状況下で、GGGは戦いの準備に優先順位をつけざるを得なかった。すなわち、ガオガイゴー、ガオファイガー、ガオガイガーの三大勇者王が、全力を発揮できるよう整備することだ。覇界王キングジェイダーとの死闘で著しく傷ついた勇者たちの修復には、どうしても時間がかかる。後回しにせざるを得なかった。
 整備部や研究部が不眠不休の作業を続けている間、機動部隊にはまた別の義務が存在した。次なる戦いに備えて、心身を休ませることだ。

 その日、機動部隊オペレーターである卯都木命は短めの勤務時間を終えて、私室に戻ってきたのだが、そこに来訪者があった。

「……すみません、個室まで来ちゃって」

 事前の約束を経て、命の部屋を訪れたのは、同じ機動部隊オペレーターである初男華だった。新体制の機動部隊では、命がガオガイガー、華がガオガイゴー、この場にはいないアルエットがガオファイガーのオペレートを担当することになっている。

「気にしなくていいのよ。私も華ちゃんとはいろいろ話したかったから」
「あ、私も聞きたいことがあったんです! 機動部隊オペレーターの心得とか、プログラムドライブの拳の角度とか……私、すぐ手首痛くなっちゃうんですぅ」
「ああ、あれは気をつけないと腱鞘炎になっちゃうよね」
「アルエットちゃんと二人で、命さんの記録映像観て研究したんですよ」

 華は身を乗り出して熱く語った。

「どうしたら手首傷めないで、華麗に美しくプログラムドライブできるかって……」

 その結論が、華の両手ドライブであり、アルエットの回転ドライブだ。

「やだ、そんな映像残ってたの!?」

 命の勤務風景はかつて、テレビ番組で密着取材されたこともある。記録映像が残っていても不思議ではない。もっとも命本人にとっては、後輩たちがそれを参考にしていたなどと聞かされるのは、恥ずかしいような、くすぐったいような気分だった。とはいえ、不快なわけではない。

「でも嬉しいな……華ちゃんだけでなくて、アルエットも後輩になってくれるなんて……。いつかこういう日が来るかもとは思ってたけど、こんなあっという間に実現しちゃうなんて」
「私たちにとっては、あっという間じゃなかったんですよぉ」
「あ、そっか。そうだよね!」

 ナチュラルに気づかずにいた命は、自分の拳で自分の頭を小突いた。先輩ながら、そんな姿が愛らしくて、華は笑みを浮かべた。

「ようし、こうなったら今日はとっておきのプログラムドライブや、セーフティデバイスリリーブやイミッション教えてあげるからね!」
「はい、コーチ!」

 華は嬉しさのあまりに、ついそう答えてしまった。実のところ、心のなかには嬉しさだけではない、不安の塊が存在しているのだが……。

(ああ、聞けなかった……本当はあの話を聞きたかったのに……。命さんが、機界新種になってしまった時の話を……)

 

 彩火乃紀はとある連絡を受けて、医務室へやってきていた。シルバリオンクラッシャーの中から回収された、二十七個目のゼロ核。つまり、旧GGG最後の、そして謎の帰還者が浄解され、療養していたのだが、意識を回復したと連絡を受けたのである。

(すごく似てる……)

 ベッドの上で半身を起こしている男性の横顔を見て、火乃紀が抱いた感想である。その人物の名は、鷺の宮隆。数か月前、アルジャーノンを発症して、オービットベースに多大な被害をもたらした鷺の宮・ポーヴル・カムイの実兄である。日仏ハーフであったカムイの髪は栗色だったが、両親ともに日本人である隆の髪色は漆黒だ。二人の外見上の違いといえば、その程度であった。

「あの、鷺の宮隊員……ですよね」
『君は……彩火乃紀くん、だね』

 なぜ自分の名を知っているのか……そう訊ねようとして、火乃紀はもっと驚くべきことに気づいた。いま鷺の宮は、口を開いていなかった。その意志が、火乃紀の脳内に響いてきたのだ。

『驚かせてすまない……』

 そう意志を発した鷺の宮の額には、十字光が瞬いている。その意味するところは、明白だ。少なくとも火乃紀にとっては。

『そう、僕は木星決戦の時に言葉を失った。代わりに得たんだ……リミピッドチャンネル能力を──』

 自分の身に起きたこれまでの経緯を、鷺の宮は説明した。今から十二年前、二〇〇五年の十二月。当時のGGGは木星において、機界31原種との最終決戦に臨んでいた。その激戦のさなか、百式司令部多次元艦<スサノオ>が轟沈した。諜報部隊員としてスサノオに乗り込んでいた鷺の宮は、そのまま宇宙空間を漂流することになってしまったのだ。
 宇宙服を着用していたため、真空空間で即死することはなかった。だが、酸素残量には限りがある。激戦のさなかにあるGGGが、救助に来てくれる見込みは少ない。

(僕の生命も、あと数時間か……)

 鷺の宮は死を覚悟した。目を閉じて、静かに時を待つ。だが、奇跡が起きた。鷺の宮隆は、別のなにかに変貌して、生き延びたのである──

『その時の僕は、自分自身に何が起きたのかわからなかった。だけど、今ならわかる。僕は濃密なザ・パワーの滞留に呑み込まれたんだ』
「濃密なザ・パワーって、それはつまり……」
『そう、オウス・オーバー・オメガ……トリプルゼロだ。僕はあの時点で、覇界の眷族になってしまったんだ……』

 覇界の眷族になったといっても、倫理観が変質するだけで、肉体的には別物に変貌するわけではない。だが、ゼロ核という状態になることだけはできる。鷺の宮はこうしてゼロ核となり、仮死状態で宇宙を漂流した。
 彼にとって幸いだったのは、それから一年半後、ギャレオリア彗星の軌道とすぐ近くを交錯したことだ。折しも、そこへ叛乱者として三重連太陽系を目指すGGGのディビジョン艦隊がやってきた。そしてディビジョン艦隊は、ギャレオリア彗星という次元ゲートに突入する直前、GGGの識別信号を発しているゼロ核を回収したのだった。

「じゃあ、鷺の宮隊員はその時すでに……」
『そう、僕は意識のないゼロ核のまま、GGGの仲間たちと一緒に、レプリジン・地球に行くことになったんだ……』

 本来なら、GGGは回収したゼロ核を徹底的に調査しただろう。だが、この時の彼らの眼前にはレプリジン・地球という膨大な調査対象が存在した。しかも、その直後にGGG隊員たちはソール11遊星主による神経攻撃に冒されてしまった。鷺の宮のゼロ核は、最撃多元燃導艦<タケハヤ>の一角に放置されることになってしまったのである。

『その後、ソール11遊星主との決戦を経て、オレンジサイトで……僕は途方もない罪を犯してしまうことになる……GGGの仲間たちに対して。いや、全人類に対して……』

 数奇な、あまりにも数奇すぎる運命を強いられてしまった男の目に、大粒の涙が浮かんだ。

(つづく)


著・竹田裕一郎


次回8月31日更新予定


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