覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第58回】
《前回までのあらすじ》
覇界の眷族によって、全世界にトリプルゼロが拡散された! ゼロロボが大量発生し、地球全土が制圧されるまでの猶予はあとわずか。だが、GGGブルーは死力を尽くして戦い、覇界幻竜神、覇界強龍神、覇界王キングジェイダーという難敵を攻略、取り戻すことに成功する。いまここに、十年前、全宇宙を救うために旅立ったガッツィ・ギャラクシー・ガードの勇者と隊員たちが、すべて帰還したのだ!
さらにベターマン軍団が二〇〇五年の過去から運んできた、初代ガオガイガーも凱の新たな力として加わった。凱はいよいよ最後の戦いの到来を予感する。覇界王ジェネシックとの最終決戦を──
凱と護、戒道とアルエット、護と華、決戦を前にそれぞれの想いが交錯する。そしてついに。覇界王ジェネシックが降臨した……!
number.09 輪-RING- 西暦二〇一七年(3)
5(承前)
覇界王ジェネシック再臨──その報を最初に告げたのは、南極大陸にフランスが設置したコンコルディア基地だった。覇界王がいずこに現れても即応できる体制を敷いていたGGGであったが、これには意表をつかれた。
「ううむ、覇界王め……いったい何だってそんな場所に……」
「現在、南極大陸は真冬の厳寒期だ。我々人類の介入を阻む、自然の要害とでも考えたのかもしれんな」
GGGブルーの阿嘉松長官の疑問にそう答えた楊スーパーバイザーは、すぐに自嘲の笑みを浮かべた。
「もっとも……覇界の眷族をともなわない覇界王が、我々人類のことを、どこまで気にかけているのかは疑問だが」
第一報に続いて、メインスクリーンには南極大陸の地図が表示された。そこには各国の観測基地が赤と青で表示されている。
「赤い表示は、有人基地。青い表示は無人基地デス!」
的確に、いま必要とされている情報を表示したのは、GGGグリーンのスワン・ホワイトである。全隊員の中でも最古参にあたるベテランならではの業と言えるだろう。
南極基地には夏季しか稼働しないものも多いが、通年基地も存在する。戦闘の影響で施設に被害が出たら、過酷な環境下で深刻な被害が出ることは疑いない。いずこにどれだけの人がいるのか、非情に重要な情報である。
「GGGグリーン、及びGGGブルーはただちに覇界王ジェネシックの迎撃! 並びに南極基地隊員救出作戦を開始する!」
両GGGを統括する大河特務長官が、果断に指令を発した。
「よし、ワダツミは現在戦闘可能な戦力を乗せて、覇界王のもとへ降下! ヤマツミとミズハ、カナヤゴは救助作戦に当たらせよう」
獅子王凱GGGグリーン長官の指令に対して、通信モニターから呼びかける者がいた。
「……先導はジェイアークが務めるとしよう。貴様たちは……後に続くがよい!」
ソルダートJの言葉に、凱は笑みを返した。たとえ勇者でなくとも、戦士として今この時は地球のために戦おう……その意志を感じさせる言葉だったからだ。
「全GGG、出撃開始!」
大河の号令に、その場にいる者全員が「了解!」と応えた。
その頃、ダイビングチャンバー近くの通路では、初野華が弱々しい不安げな声を出していた。
「護くん、行って! 私ならなんでもないから──」
「なんでもないわけないだろ! 僕は大切なものを、自分の手で護る。地球もそうだし、いまは華ちゃんなんだ!」
華の目に涙が浮かんで、こぼれ落ちた。だが、それは恐怖や悲しみの涙ではない。嬉し泣きのそれだった。天海護にとって、初野華は地球そのものと同じくらいに大切だと、宣言されたようなものだったのだから。
「だから全部教えてよ、一緒に悩んで、一緒に解決しようよ!」
「………」
華は激しく葛藤した。これ以上、非常事態に護を引き止めておくわけにはいかない。でも、どうすれば──
華に代わって口を開いたのは、別の女性だった。
「護くん、その気持ち、素敵よ」
「火乃紀さん……」
たまたま通りかかって、二人の会話を聞いてしまった彩火乃紀である。
「立ち聞きしちゃって、ごめんね。でもね、女の子には話ができる心理状態ってのが必要な時があるの。ここは私に任せて。すべて話せるように、華ちゃんをカウンセリングで落ち着かせてあげる」
そう言って、火乃紀は華の背後から両肩に手を置いた。今にも倒れそうな身体を支えるように。
「………」
華が無言で目を伏せる。その仕草は、火乃紀の言葉にうなずいているようにも見えた。
「華ちゃんを護りたいなら、まず地球を護って。二人で話しあってるうちに、地球が覇界王の手に落ちたら、なんにもならないでしょ」
ここまで言われて、道理がわからないほどに、護は幼くはなかった。
「……わかりました。火乃紀さん、華ちゃんをよろしくお願いします」
深々と、頭を下げる。
「まかせといて。うちのダーリンは、一人で覚醒人V2動かせる甲斐性あるんだから」
甲斐性の問題ではなく、脳硬膜の問題なのだが、火乃紀はあえてこう言ってみせた。もう護に迷いはない。
「行ってくるね、華ちゃん。必ず帰ってくるから」
「うん。行ってらっしゃい……」
「行ってきます!」
そう言うと、護はダイビングチャンバーの方へ駆け出した。そこには相棒である戒道幾巳が待っている。
華と一緒に、護の後ろ姿を見送っていた火乃紀は、思わず……といった口調でつぶやく。
「うーんカッコいいなぁ、あれで七歳も年下じゃなかったらなぁ」
「ひ、火乃紀さん!?」
火乃紀に両肩を支えられたままの、華の声が裏返る。
「ごめん、冗談冗談。うちのケーちゃんだって、護くんほどじゃないけど、時々ちょっとだけカッコいいっぽい時もあるんだよ」
「それ、ほめてるんですか?」
「一応、ね」
火乃紀は微笑んだ。呆れたような華の口調に、少し元気が出てきた様子が感じられたからだ。
「……火乃紀さん、ありがとうございます。私、もう大丈夫です」
華は火乃紀の手から離れ、歩き出そうとした。彼女が向かおうとしているのは──
「華ちゃん、あなたメインオーダールームへ行くつもり?」
「ええ、護くんと戒道くんがファイナルフュージョンするなら、私がプログラムドライブしないと……誰にもゆずりたくないんです」
声は弱々しげだったが、そこには強い意志が込められていた。この大人しそうな女性に、こんな芯の強さがあったなんて……。
「わかったわ、華ちゃん。でも約束して……戦闘が終わったら、検査を受けるって」
「……はい」
「で……あなたの悩みってもしかして、以前から卯都木命隊員の医療データを調べていたことに関係ある?」
爆弾を投げ込むような言葉だった。華の顔色が、一気に蒼白になる。
「ひ、火乃紀さん……」
「ごめんね。職務上、わかっちゃうんだ。しかもあれは……覚醒直前の記録だったよね。命さんが……機界新種として、目覚める前の」
火乃紀のその言葉は、千々に乱れていた華の心を落ち着かせる効果があったのかもしれない。いや、腹が据わったと言うべきだろう。いまだに声は震えてはいる。だが、ついさっきまでとは比べものにならないほど、しっかりとした口調で、華は言葉をつむいだ。
「……火乃紀さん、私……埋め込まれてるみたいなんです。機界新種の種子を──」
6
横浜の一隅に存在する不可知領域。主にラミアが根拠地としてきたセプルクルムだが、最近は羅漢、ユーヤ、ライ、ヒイラギ、ガジュマル、シャーラもこの地に腰を据えている。孤独を愛する者が多いソムニウムが、七体も同居しているのは珍しい。数少ない例外のひとつは、戦闘後の深眠時、無防備な状態を守りあう関係だ。かつてラミアはセーメという個体と、そのような関係にあった。だが、そのセーメは十年以上前に、カンケルとの戦いで滅んでいる。いま、このセプルクルムにいる六体のうち、ラミアとそのような関係にあるのは、ユーヤだけと言っていいだろう。他のソムニウムはみな、覇界王──そして元凶なりし者を滅するために協力しあっているだけだ。いや、もうひとつ……その先にある、パトリアの刻のために。だが、そのことはラミア自身が承知していた。
『デウスが予言した宿戦……二度までは勝利した。残るはただ一度』
『ンー…だが、残すは最後の覇界王。一筋縄ではいかぬぞ』
ラミアに注意を喚起したのは羅漢である。もともと、ソムニウムのなかでも特に孤高を好む者だった。それがこのように警告を発するとは、数か月前には想像もしがたかった変化であろう。そして、それは羅漢だけではない。
『たとえ覇界王が難敵でも、俺たちの合力ならば斃せぬはずがない!』
『ボクたちだけでなくて……ヒトの力もあるし』
『左様、ラミアくん。あれでヒトというのはなかなかに興味深い生物。君ももっと交流してみると、面白い世界が見られますぞ』
ガジュマル、ヒイラギ、ライの意思も続く。幾度となく、カタフラクトとなってともに戦った経験が、彼らを変えたのだろうか。羅漢のペクトフォレース・サンクトゥスによる“合体”は、あくまでソムニウムたちの変身態を物理的に接続させるだけのものだ。ソムニウム一体ずつの意志を統合しているわけではない。それでも、幾度もの死地をともにくぐり抜けた経験が、彼らの心理に影響を与えたのだろう。
『しかしラミア……この時代にも存在するであろうデウスが、もはや我らに助力するとは思えない。どうやって覇界王の出現を察知するのだ』
もとより、滅するその日までラミアにつき従うつもりの、ユーヤの意思が問いかける。
『私たちだけでは困難、でも……』
その意思を放ったのはシャーラである。ラミアが先をうながすように見つめる。シャーラは怯えたようにガジュマルを見つめ、少年は心配いらないとでも告げるかのようにうなずいた。ガジュマルに支えられているかのように、シャーラは落ち着いた。
『……ソキウスの路を常に、宙の砦との間に開いておく』
『なぁるほど、あの砦は常に覇界王に備えている上、強い意志の持ち主が多い。そのつもりがなくても、覇界王再臨を知れば、意識が場に流れるというわけですな!』
ライが琵琶のような楽器を一節、かき鳴らした。どうやら賛同と賞賛の意思を込めているらしい。
『だがそれは……常に傷口を開いたままにしておくようなものだ』
よいのか……と、意思だけでなく、赤い瞳でもラミアが問いかける。
『ラミア、シャーラの好きにさせてやってくれ』
『ガジュマル……』
『これまでシャーラは、ソキウスの力を利用しようとする者に狙われてきた。だから俺が守ってやらねばならなかった。けど……今は違う』
『うん……私は私の意志でソキウスの力を使う。覇界王を斃すために──』
それはシャーラの強固なる意思。だが同時に、七体のソムニウム全員に共通する意思だった。
ソムニウムたちが目論んだようにGGGオービットベースは、南極に覇界王が出現したとの報を受けて、ただちに動き出していた。
華を火乃紀に任せて、ダイビングチャンバーにやってきた護は、手早くダイブスーツに着替える。その背中に、戒道と蛍汰が声をかけた。
「護、遅いぞ」
「どうせ華ちゃんとイチャイチャしてたんだろ」
「ええ、まあ」
「な、なにぃっ!?」
背を向けたままの護の答えに、蛍汰の声が裏返った。
「驚いたな。君がそんな冗談言えるとは」
「これでも既婚者長いからね」
戒道にも、そんな風に返す。普段の護なら、ずっと背を向け続けたまま会話することなど、ない。だが今日は、顔を見られたくはなかった。華のことで千々に乱れている心と、それが表れているであろう顔。誰にも見せたくなかった。しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。着替えを終えた護は二人の方を振り向いた。
「……すみません、蛍汰さん。火乃紀さんは出撃できません」
「うお? 何があったんだ!?」
「実は華ちゃんが急に倒れちゃって……火乃紀さんが容体を診てくれてるんです」
「そうか、それで遅れたのか……」
「そういうことなら、しゃーねえ。V2は俺一人でいくわ」
「すみません……」
「だーいじょうぶ。俺のノーミソはこういう時のための特別製なんだからよ」
明るく笑ってくれる蛍汰に感謝しながら、護は相棒とともに凱号のところへ向かった。
一方、凱とルネはギャレオン、ファントムガオーとともにワダツミの発進デッキにいた。メインオーダールームの卯都木命から、手早く情報を受け取る。
「じゃあ、コンコルディア基地はもう沈黙したのか……」
「ええ、それどころか各南極基地が次々と音信を絶っているわ」
「覇界王め……」
凱は悔しそうに拳を握りしめた。かつて彼は、宇宙飛行士だった。宇宙と南極──方向性は違えど、南極基地の研究者たちにはシンパシィを感じている。科学の力を信じてフロンティアに挑み続ける同志のようなものだからだ。その活動を阻んでいる覇界王には、怒りを禁じ得ない。
もちろん、トリプルゼロの活動は自然現象であり、何者かの意志によるものではないと承知はしている。もしかしたらその怒りは凱自身の、おのが無力感に由来するものかもしれなかった。
無力感といえば、ジェネシック・ギャレオンのこともある。いま凱は二〇〇五年からやってきたギャレオンとともに待機している。だが、覇界王に取り込まれているジェネシック・ギャレオンは、長い戦いをともにしてきた戦友といってもよい。代わりがきく存在ではないのだ。
(南極基地隊員たちを一人でも多く救い、ギャレオンを取り戻してみせる……)
凱が心密かにそう誓っていた時、通信モニターに獅子王雷牙が現れた。
「凱……すまん。ギリギリまで粘ったんだが、Gアーマーは間に合いそうにない」
「ジジイ、何やってんだよ。あれが完成すれば、ジェネシックとも互角以上にやりあえるんじゃなかったのか?」
凱に代わって答えたのは、ギャレオンの隣に駐機しているファントムガオーのルネだ。普段なら、口喧嘩が始まるところだが、この日はそうはならなかった。
「まったくその通りなんだが、僕ちゃんの力不足だ。面目ない……」
「ルネ、雷牙おじさんにはディスクXを増産して黒化を防ぐ作業もあったんだ。無理を言うな」
「そっちも優先だろうけど、覇界王を食い止められなかったら、すべてが意味なくなるんじゃないの?」
ルネの言葉はたしかに正しい、だが、凱には迷いはなかった。
「その通りだ。だから新ツールが間に合わなくても、覇界王を止める……そのために俺たちがいるんだ」
「……たしかにね」
それ以上、ルネは反論してこない。いま間に合わなかったツールに文句を言っても仕方がない。そのことは、よくわきまえていたからだろう。
「……ルネ、凱。その代わりというわけではないが、ひとつ勝利の鍵がある」
雷牙は二人のもとへあるデータを送ってきた。一瞥して、凱もルネも疑問に思う。特に機密事項でもなんでもない、一般公開されている情報だからだ。
「雷牙おじさん、これがいったい……」
「阿嘉松長官や楊博士が、こいつにちょっとした仕掛けを組み込んでいてくれたんでな。僕ちゃんも調整に協力させてもらったってわけだ!」
雷牙の操作で、データはシミュレーションに切り替わった。全人類にとって馴染み深い存在が、モードシフトしていく様が表示される。
「これは……こんな途方もない物を使いこなせっていうわけ!?」
「いや、これならきっと……ありがとう、雷牙おじさん。使わせてもらいます」
「礼なら阿嘉松長官や楊博士に……いや、こいつの建造に関わったすべての人に言ってほしいぞい。そのためにも帰ってこいよ……ルネ、凱」
その言葉には、肉親としての深い愛情が込められていた。実娘であるルネはもちろん、亡き弟・麗雄の忘れ形見に対しても、親代わりになろうとする気持ちがあったのかもしれない。凱が感謝の気持ちを抱いた時、別のサブモニターから命が伝えてきた。
「……凱、ルネ。護くんたちも発進準備ができたようよ。ワダツミ、分離発進まで三十秒!」
「無限連結輸槽艦<ミズハ>、分離!」
「続いて万能力作驚愕艦<カナヤゴ>、諜報鏡面遊撃艦<ヤマツミ>、発進!」
「機動完遂要塞艦<ワダツミ>、ジェイアークの降下軌道に続きます!」
整備部に所属する牛山家の三人──阿嘉松長官の言うところの1号、2号、4号のオペレートによって、ディビジョンフリートがGGGオービットベースから発進する。これまで、覇界の眷族との戦いにおいては、常に陽動や二正面作戦に備えて戦力を温存する必要があったが、今回は総力戦である。覇界の眷族とされてしまった旧GGG隊員は、みな浄解されて復帰。残るは覇界王ジェネシックのみであると推定されたからだ。
もっとも、先の覇界王キングジェイダーとの決戦で傷ついた勇者ロボたちは、実戦に復帰できる目処はたっていない。ワダツミに搭載されたのはギャレオンとファントムガオー、覚醒人凱号、及びそのガオーマシン群。修復を優先されたゴルディーダブルマーグ。そして覚醒人V2のみである。万全の布陣とはいえないものの、これが現在動員できるGGGグリーン、及びGGGブルーの全戦力だった。
作戦開始に備えたオペレーションが行われているメインオーダールームに、彩火乃紀にともなわれた初野華が駆け込んでくる。
「遅くなりました!」
「おう、これからすぐ作戦開始だ。配置についてくれ!」
「はい!」
阿嘉松長官にそう答えて、卯都木命、アルエット・ポミエと並ぶ機動部隊オペレーターシートにつく。
「華ちゃん……顔色悪いけど、大丈夫?」
命が小声で気遣うが、「はい、平気です」と微笑を返す。
「OH火乃紀、いいところに来てくれたデス! タマラが見当たらなくて人手不足なの、手伝ってお願いプリーズ!」
「わかりました!」
スワン・ホワイトと並ぶ研究部オペレーターシートに座る火乃紀。
「まったくタマラもプリックルもうちのスタッフは、何やってやがる……」
どうやら、タマラだけでなく、アーチン・プリックル参謀も姿を見せないらしい。ボヤくGGGブルー長官に向かって、GGG特務長官がウインクしてみせる。
「なに、両GGGスタッフが集まって、メインオーダールームも手狭になったからね。休める者は休んでくれてかまわない」
実際、臨時に設備拡張を施したため、ブランチオーダールームとして、ディビジョン艦に組み込まれる機能は喪失した。もっとも、インビジブルバーストによる電波障害がなくなった現在、オービットベースからの作戦指揮でも問題はない。
「そういうけどよぉ、これが最後の戦いなんじゃねえのか? いま休んでも、そのまま忙しくなる機会なんざこないかもしれねえぞ」
「たしかにその通りだな」
阿嘉松のツッコミに、笑みを浮かべる大河。だが、すぐに表情を引き締めると、通信マイクに向かって語りかける。
「……GGGブルー、並びにGGGグリーン全隊員諸君、すでに情報を把握していると思うが、南極に覇界王が出現した。いよいよこれが、最後の戦いになるはずだ。思い出してほしい……これまでの苦渋に満ちた日々を」
大河の言葉は、オービットベース全区画に放送されている。様々な部署で、隊員たちが手を止めることなく、耳を傾けた。
「そう……かつての仲間と戦わなければならなかった日々。心ならずも人類に害を及ぼそうとしてしまった日々。そして、地球外生命体や大災害に立ち向かわなければならなかった日々。それらすべてを、今日で終わりにするのだ。断言しよう、我々一人一人が知恵と勇気を失わぬ限り、最後に勝利するのは我々GGGであると! ──GGG最終作戦開始!」
その言葉とともに、ディビジョン・フリートは南極へ向けて、大気圏突入を開始した。さらに、それを先導する艦影がある。電離層に突入する直前の乱れたモニターに、その姿を見た戒道は、通信マイクに向かって語りかけた。
「……また一緒に戦える日が来ると信じてた、J、トモロ」
超弩級戦艦ジェイアークは、光子変換によって破損した艦体の修復を行う。爆散した破片の中から、トモロの指示によって修復機能を司る光子変換翼をGGGが回収。以後は変換効率をあげるべく、太陽の近くを遊弋していた。そのため、戒道も今日までゆっくり話す時間を持てなかったのだ。
「ここには、私たちのために戦ってくれた者たちがいる。戦士として、借りは返さねばな……」
そんな表現で、ソルダートJはおのが戦う理由を語った。戦士にとって必要なものは……敵、戦場、そして戦う理由。おのが意志でそれらを選び取れるのならば、もう迷うことはない。
「行こう、J、アルマ。我らの運命は最後までひとつだ」
トモロ0117の声も、いつになく嬉しそうだ。ジェイアークを加えて五艦となった艦隊は、やがて南極上空に到達した。ワダツミから、三つの影が飛び出す。
「フュージョンッ!」凱が叫んだ。
「フュージョン……」ルネが囁く。
「ユー・ハブ・コントロール!」「アイ・ハブ・コントロール!」護と戒道の叫びが続く。
南極上空を舞っていた獅子と高機動戦闘機とずんぐりしていた人型が、それぞれに変形して、よく似た三つのシルエットとなった。
「ガイガーッ!!」
「ガオファー!」
「ガイゴー!」
三機のメカノイドはワダツミから、九機のガオーマシンを呼び出す。十二の影が極点の空を舞い、衛星軌道上のオービットベースでは機動部隊オペレーターたちのコンソールで、シグナルが明滅した。
華とアルエットが無言でうなずき、それを見て取った命が、代表して報告する。
「ガイガー、ガオファー、ガイゴーからファイナルフュージョン要請シグナルです!」
その言葉を聞いた阿嘉松GGGブルー長官が吼える。他の長官たちに、声量で負けてなるものかと思っているかのように。
「ファイナルフュージョンッ! 承っ認んんんッ!!」
さらに南極上空を行くガイガーが──そこにフュージョンした獅子王凱GGGグリーン長官が叫ぶ。
「ファイナルフュージョン、承認!」
最後に大河GGG特務長官が、右手人差し指を前方に突きだし、本家の格を見せつけるかのように絶叫した。
「ファイナルフュージョン! 承認ッ!!」
ただちに三人の機動部隊オペレーターが、それぞれの言葉で了解する。そしてまず、華が両の拳を頭上で固く握りしめた。
「ファ、ファイナルフュージョン、プログラムドラーイブッ!」
振り下ろされた両拳が、保護プラスティックを叩き割り、その直下のドライブキーを押し込む。愛する青年と、その相棒たる地球人としてのトモダチのもとへ、FFプログラムを送信するために!
続いてアルエットが、バレリーナのような回転運動のエネルギーをそのまま拳に乗せて、ドライブキーに伝達した。
「ファイナルフュージョン、プログラムドラーイブッ!」
幼き日に行動をともにした女性に、自分も成長して、パートナーたりえるようになったのだと伝えるかのように!
最後に命が、長年慣れ親しんだ行為であるが故の自然さで、拳を叩きつける。
「ファイナルフュージョン! プログラムドライブッ!」
機動部隊オペレーターを目指す女性たちが、みな憧れたその動作で──未来をともに歩んでいくと誓った恋人のもとへ、ファイナルフュージョン・プログラムを送り込む!
極寒の地平に舞う三機のメカノイドと、九機のガオーマシン。そこに女性たちの想いを乗せたプログラムが届く。そして次の瞬間、四人の声が斉唱された。
「ファイナル……フュージョーーーンッ!!」
(つづく)
著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ
次回9月30日更新予定
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