覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第59回】
《前回までのあらすじ》
覇界の眷族によって、全世界にトリプルゼロが拡散された! ゼロロボが大量発生し、地球全土が制圧されるまでの猶予はあとわずか。だが、GGGブルーは死力を尽くして戦い、覇界幻竜神、覇界強龍神、覇界王キングジェイダーという難敵を攻略、取り戻すことに成功する。いまここに、十年前、全宇宙を救うために旅立ったガッツィ・ギャラクシー・ガードの勇者と隊員たちが、すべて帰還したのだ!
さらにベターマン軍団が二〇〇五年の過去から運んできた、初代ガオガイガーも凱の新たな力として加わった。
いよいよ最終決戦に挑むGGGグリーンとGGGブルー。覇界王が選んだ決戦の地は南極。極点の空で、凱のガオガイガー、ルネのガオファイガー、戒道と護のガオガイゴーが、同時にファイナルフュージョンを敢行した!
number.09 輪-RING- 西暦二〇一七年(4)
6(承前)
ガイガー、ガオファー、ガイゴー、三体が発生させたEMトルネードやファントムチューブの中へ、ガオーマシン群が突入していく。
極寒の地に吹雪く氷雪の中、吹き荒れる人工の電磁嵐。その内部では、異星文明の結晶と地球文明の精華が融合を果たしていく。やがて、電磁嵐が吹き飛ばされ、その地に三体の勇者王が出現した。
「ガオガイガーッ!!」
「ガオファイガーッ!」
「ガオガイゴー!!」
屹立するくろがねの巨神たち。その中にあって、ガオファイガーがほんのわずかにふらついた。
「大丈夫か、ルネ!」
その様子を見てとった凱が声をかける。もともとガオファイガーは、エヴォリュダーがフュージョンすることを想定して、開発された機体だ。開発者である雷牙の手で、急ぎルネ用に改修されたものの、これがぶっつけ本番のファイナルフュージョンである。いわば突貫工事にも等しい。不具合を完全につぶすまでには至っていない。
「くっ、このくらい……!」
バランスを崩したガオファイガーを支えたのは、背後から差し出された巨大な腕だった。勇者王たちとともにメガフュージョンを終えた巨体──キングジェイダーである。
「わかっているだろうが、覇界王相手に戦力を減らすわけにはいかぬぞ」
「ああ、もちろんだ」
ジャイアントメカノイドにフュージョンしているソルダートJの声音も厳しい。思いやりや友愛が欠如しているというわけではない。叱咤こそが、互いが生き延びるために必要なものだとわきまえているのだ。
『ルネ……慣性モーメントのパラメータを再設定したわ。これで安定すると思う!』
アルエットからの通信と同時に、ガオファイガーの挙動が目に見えて軽快になった。雷牙がハードウェア面での開発者であるように、ソフトウェアを産み出したのはアルエットだ。わずかな間に、問題点を見抜き、対応を終えていた。
「メルシー、帰ったらケーキで礼するよ」
『ドゥリアン、楽しみにしてる』
フランス娘同士が言葉をかわす。かつては大人と子供のような年齢差だったが、いまでは歳の近い友人同士のようなものだ。ルネが帰還してまだ日は浅いが、すでに二人は気軽に口をきける関係になっていた。
しかし、軽口をたたき合えたのも一瞬──
『凱、気をつけて! 高エネルギー反応が急速に接──』
卯都木命が警告を言い終える間もなかった。勇者王たちの前に地響きをたてて、巨体が着地する。いや、決して巨体というわけではない。全高はガオガイガーとさほど変わらない。全身から放つ、燃えさかる炎のような、暁の色のオーラ。桁違いの出力を秘めたエネルギーの塊が、圧倒的な存在感を、その場に誇示したのである。
覇界王、降臨──!
おのが敵手がやってきたと認識したのだろうか。つい数瞬前まで、数キロは離れた南極基地を襲っていたはずの覇界王が、一瞬のうちにこの場へと飛来した。勇者王たちが立ち向かうべき災厄が、向こうからやってきたのである。
「来たか、ジェネシック……」
ガオガイガーにファイナルフュージョンしている凱が、苦渋の声をもらす。今の彼は、時間を越えて運ばれてきたギャレオンと、ひとつになっている。だが、覇界王が憑代としているのは、凱自身が幾多の苦闘をともに乗り越えてきたジェネシック・ギャレオンをコアとした“原初の勇者王”なのだ。
これまで、ソルダートJやルネをはじめとして、多くの仲間たちを覇界の眷族から取り戻してきた。その果てに凱が奪回すべき、最後の戦友に他ならない。
「行くぞ、必ずお前を取り戻す!」
ガオガイガーが右腕を振りかざす。その動作を見て、右と左に立つ勇者王も、輝くリングを右腕にまとわせた。
「ファントムリング・プラス!」
ルネと戒道の叫びに続いて、キングジェイダーと覚醒人V2もそれぞれの武装を展開させた。
「ブロウクンマグナムッ!」
「ブロウクンファントム!」
「ジェイクオースッ!」
「シナプス弾撃!」
五体がそれぞれの技を放った──たった一体の覇界王ジェネシックに向けて。
(ガオオオオオンッ!)
五つの攻撃が同時に直撃するかに見えた瞬間、ジェネシックが咆吼する。それは防御のかけ声ではない。獅子の雄叫びは、攻撃の兆し。南極の氷原に、数百メートルを隔てて対峙していたはずの覇界王ジェネシックが、一気に跳躍する。頭上へ、ではない。前方、勇者王たちの方へ爆発的に飛びかかってきたのだ。キングジェイダーの全高に数倍するはずの距離が、一瞬で消滅する。
途中、白き錨や鋼鉄の拳、強酸性の物質がその突進を阻もうとするが、あまりにも無力。いずれもトリプルゼロのオーラに阻まれ、覇界王ジェネシックの本体に触れることすら許されない。すべてを弾き飛ばした覇界王ジェネシックが、勇者王たちの眼前に肉薄する。
「くっ!」
ジェイクオースがはね除けられた瞬間、ソルダートJは行動に移っていた。キングジェイダーの巨体を一歩前に踏み出し、片膝立ちで身構える。頭部をかばうように両腕をかまえて、防御姿勢をとる。頑強な巨体で背後の勇者王たちの楯となったのだ。
その判断は正しかった。全機が一斉に蹂躙される瞬間は訪れず、覇界王の猛攻をかろうじて受け止めたのだから。だが、代償は大きい。
「ぐおおおおっ!」
覇界王ジェネシックは闇雲に突進してきたわけではない。その勢いに乗せ、右手の爪を繰り出してきたのだ。トリプルゼロをまといし、ゴルディオンネイル! すべてを光に変換する破壊神の爪が、猛禽型の胸部に深々と突き刺さっていた。
「J!」
凱とルネの声が、重なるように響く。だが、キングジェイダーにとってそれは致命傷とまではならなかった。防御姿勢をとっていた両手で、かろうじて覇界王ジェネシックの前腕部をつかみ、貫手を食い止めていたのである。その瞬時の判断がなければ、胸郭の奥にいる生体コンピューター<トモロ0117>は光と化していただろう。
「Jの判断を無駄にするな!」
戻ってきたブロウクンファントムを右腕に装着し、ガオガイゴーが跳躍する。ソルダートJの戦士としての戦い方を、常に間近で見てきた戒道ならではの行動だ。Jは仲間たちの楯となっただけではない。我が身を呈して、覇界王ジェネシックを拘束したのだ。反撃の機会を得るために!
(ガオオオオッ!)
右腕を引き抜こうともがく覇界王ジェネシック。だが、キングジェイダーの剛腕がそれを許さない。メーザー砲身でもある十本の指が、前腕を握りつぶさんばかりの勢いでつかみとめているからだ。手首だけを分離して離脱することも不可能だ。
「ドリルニーッ!」
キングジェイダーの頭上を跳び越えてきたガオガイゴーが、落下の勢いに乗って、右膝を繰り出す。
「はあああっ!」
一瞬遅れて続いてきたガオガイガーがかかと落としを、ガオファイガーが右拳を、それぞれに覇界王ジェネシックの上半身に叩き込む!
しかし、それらの猛攻にも、覇界王ジェネシックの牙城は揺るがない。連続攻撃を浴びせられながらも、微動だにせず、全身から濃密なトリプルゼロを噴出したのである。
「うわあああ!」
物理的な打撃に匹敵するほどの圧力が、ガオガイゴーを弾き飛ばす。ガオガイガーとガオファイガーも、そしてキングジェイダーまでもが吹き飛ばされ、極寒の氷原に叩きつけられた。
「違う……あの時とは!」
苦痛に耐えながら、護がつぶやいた。あの時──それは木星圏で戦った時のことだ。たしかにあの時も、覇界王ジェネシックは頑強だった。だが、ガオガイゴー、ガオファイガー、合体ベターマンの同時攻撃でその身を揺るがすことはできたのだ。
各機から送られてくる情報や映像を解析するメインオーダールームも、騒然となる。
「ノー! データにある覇界王ジェネシックの三倍以上のスペックデス!」
「なんらかの未知の要因が加わったとしか思えませんな!」
木星での戦闘を経験していない、スワンと猿頭寺の声も緊迫する。データ上での知識のみですら、脅威を感じるのだ。木星での戦闘に参加した者たちにとっては、恐怖を覚えるほどとすら言える。
オペレーターシートで華は、自分の体調不良と護たちに迫った危機、その双方に押しつぶされそうになっていた。
(護くん……お願い、無事に帰ってきて!)
それでもGGGのスタッフは、そうした感情に押しつぶされることはない。恐怖を乗り越えるもの──それこそが勇気なのだから。
「雷牙博士! 覇界王の額を見てください!」
楊がメインスクリーンを指さした。
「むう、額のGストーンが輝いている。高出力の源はあれか!」
雷牙もすぐに、その異変に気づいた。映像上、覇界王ジェネシックの全身はトリプルゼロに包まれて、オレンジ一色に見える。だが、揺らめくエネルギーの向こう、額にはたしかに緑色の輝きがあった。
その異変には、南極で戦う凱たちも気づいていた。
「Gストーンの輝き……誰かの勇気に反応しているんだ!」
「凱兄ちゃん、まさかギャレオンの!?」
「いや違う、あれは……」
かつてただ一人、ギャレオンにフュージョンしたことのある、凱ならではの直感だ。そして、続く言葉を発しようとした瞬間、凱の脳裏にある意思が響いた。
『逃・げ・て──』
「いまの声は──!」
たしかに聞き覚えのある声のような、意思。リミピッドチャンネルに乗せて伝わってきたそれを受信したのは、凱だけではなかった。
『はやく逃げ、て──』
「いったい、この少女の声は──」
メインオーダールームの大河特務長官が戸惑ったのも、無理はない。GGGブルーの隊員たちはベターマンとの交流で、リミピッドチャンネルを経験している者が多い。だが、覇界の眷族から帰還したばかりの者たちにとって、それは未知の現象だった。
「あ、あああ、阿嘉松長官! このリミピッドチャンネルはぁぁぁっ!」
悲鳴のような声をあげたのは、覚醒人V2にダイブしている蛍汰だ。彼には意思の主が誰なのか、即座にわかっていた。リミピッドチャンネルで交信した経験が多いから……というわけではない。その意思の持ち主を、よく知っていたからだ。
「阿嘉松長官……」
研究部オペレーターシートの火乃紀が、阿嘉松の方を振り返る。そして、息を吞んだ。強面の長官の両眼には、大粒の涙が浮かんでいた。
「紗孔羅……そこにいたのか……」
阿嘉松の言葉に、メインオーダールームが騒然となった。
「な、なんでオービットベースからいなくなった紗孔羅ちゃんが、ワームホールの彼方にいたはずの覇界王に!?」
裏返った声を挙げたのは、阿嘉松と紗孔羅という親子のことをよく知る山じいだ。だが、答えられる者はいない。
「トリプルゼロは意志を持たない、純粋なエネルギー。だからこそ、木星圏ではGストーンの力を発揮することがなかった。それが、今は彼女の心に反応して……」
楊が呆然としたかのような声をもらす。常に冷静沈着な彼としては、珍しい。
「おいおい、まずいんじゃねえのか! 覇界王にGストーンの力が乗っかってくるなんてよ!」
「うろたえるな、火麻くん! オペレーター各員はすべての情報を解析して、阿嘉松紗孔羅嬢の位置を特定するのだ!」
火麻を叱咤して、大河が指示を出す。スワンや火乃紀、猿頭寺や山じいたちが了解の声をあげて、ただちにデータ解析を開始した。GGG憲章に、囚われた者を見捨てるという条項は存在しない。何よりもまずは、紗孔羅の位置を特定するのが最優先だった。
「我々GGGは、誰一人として、見捨てたりはしない!」
『無理だよ……君たちにはね』
額に十字光を瞬かせながら、デウスの意思が囁いた。南極大陸にあって、これまで誰にも発見されることのなかった不可知領域──このセプルクルムこそが、歴史の黎明期からデウスが根城としてきた地だった。
ヒトを遥かに凌駕する生命体といえど、ソムニウムも物質という肉体を持つ以上、極限環境では多くの制約が生じてしまう。地球上におけるもっとも極寒の地である南極で暮らそうと考えるソムニウムは、デウスただひとりだった。
これまで、デウスは幾度もヒトという種の勃興と絶滅を目の当たりにしてきた。長い長い寿命を有しながら、変化が顕現することの少ないソムニウムにとって、ヒトはコマ落としで撮影された動画のような存在だ。わずかな間にどんどん発展して、奇妙な文化や生態を露わにしては、滅んでいく。いつの頃からか、デウスはそこに干渉して、思った通りに導くことを至上の楽しみと考えるようになっていた。
滅んでしまえば、そこでゲームは終わり。テンプスの実で時の大樹を遡り、また新たな枝を生じさせれば良いだけのことだ。
同じソムニウムでありながら、愚かな者たちの干渉によって、現在の時間枝は面白くない進化を遂げてしまった。
『第三の……最後の試練を前に愚かなこだわりを貫いて、派手に滅んでいけばいいのさ』
それが、阿嘉松紗孔羅という個体を、南極に出現した覇界王のうちに置き去りにした理由だった。
『……度しがたいな』
さらなる意識の波が、ゆらめく。デウスの意思ではない。歴史上、デウス一人しか滞在することのなかったセプルクルムに、複数の存在が訪れている。
『ラミア……』
デウスの意思が、憎しみの色を帯びた。この時間枝で最後の楽しみを味わっているところを、邪魔されたからだ。いや、それだけではない。十二年前──二〇〇五年でも、彼らはすべてを台無しにしてくれた。
羅漢、ユーヤ、ライ、ヒイラギ、ガジュマル、シャーラ、そしてラミア。自分の前に居並ぶ同族たちに、デウスは憎悪の視線を向ける。いや、それは同族への嫌悪ではない、デウスにとって、おのれ以外のすべての存在は、ひとつの時間枝に留まることしかできない、哀れな虫けらだ。時間枝そのものを剪定する自分と、同等の者など存在するはずがない。ないはずだった──自分以外の誰かが、テンプスの実を手にするまで。
『デウスよ……お前が数多の世界を好きに作り替えようと、私の関与するところではない。だが──』
ラミアの血の色の瞳が、デウスを射貫く。
『滅んでいった同胞たちが守り抜いたこの世界だけは、お前の好きにはさせぬ』
7
『私のことはいいの……覇界王を……滅して……』
紗孔羅の意思が、凱たちの脳裏に響く。だが、その想いとは裏腹に、覇界王ジェネシックが猛攻を途切れさせることはなかった。
トリプルゼロをまとった爪が振るわれ、ギャレオンヘッドの牙が、勇者王たちの喉笛に食らいつこうとする。ガオガイガーとガオファイガーとガオガイゴー、勇者王たちは互いをかばいあい、覇界王ジェネシックの致命的な一撃を回避することで精一杯だった。
その戦闘のかたわら、氷原に倒れているキングジェイダーは、ジェネレイティングアーマーによって、胸部の損傷を修復させているところだった。その腹の上に乗った覚醒人V2が、シナプス弾撃による化学物質で修復を支援する。
「もういい、お前は凱たちを援護してやれ」
「そ、そうすか? でも……」
キングジェイダーが震える指で、かたわらに転がる物を指さす。
「私はいい。それよりも、あれを……」
「メインオーダールーム、紗孔羅さんの位置はまだですか! もうこれ以上は──」
必死の回避行動を続ける戒道に代わって、ウームヘッドの護が通信機に呼びかける。
『ごめんね、護くん。いまみんなが一生懸命解析してるの! もう少しだけ──』
涙混じりの華の声を聴いて、護は後悔した。メインオーダールームのオペレーターたちは、人類最高峰のプロフェッショナルだ。その彼らが全力を振り絞っているのだから、叱咤したところで状況が改善されるわけではない。まして、出撃直前にあれほど心身の不調を見せていた華ですらも、必死に戦っているのだ。
(僕がこんなところで、みんなに負担をかけちゃいけない……!)
護は一瞬のうちに気分を切り替え、仲間たちに呼びかけた。
「戒道、ルネさん! 一か八か、僕たちで覇界王を足止めしよう!」
「護、そんな危険を冒したら──」
「凱兄ちゃんは、その隙にゴルディオンダブルハンマーを! 状況を打開するには、それしかない!」
覇界王ジェネシックに向けて、ブロウクンファントムを放ちながらも、戒道がつぶやく。
「ああ、副隊長として、隊長に同意する!」
ガオガイゴーの攻撃の隙を、プロテクトウォールでフォローしつつ、ルネも叫んだ。
「こっちも賛成! 老いたら若者に従うもんだよ、凱!」
「みんな……」
ガオガイガーを背にかばいつつ戦う二機の姿に、凱は即断する。
「わかった……ゴルディーダブルマーグッ!」
「おおう、待ちかねたぜ!」
上空を遊弋するワダツミから、オレンジ色のマルチロボが宙に飛び出す。似たような色合いでありながら、その機体色は暁の輝きを意味するわけではない。常に勇者王とともに激戦をくぐり抜けてきた、歴戦の装甲だ。
「システムチェーンジッ!」
「いくぞぉっ!」
空中で三つに分解され、マーグハンドと二振りのハンマーに変形するゴルディーダブルマーグ。そこに向かって、ガオガイガーが飛翔する。常ならば、ハンマーコネクトの瞬間には、どうしても隙が生じてしまう。だが、この時はガオファイガーとガオガイゴーが、両脇から覇界王ジェネシックに組み付き、全力を振り絞った。
「紗孔羅……聞こえてたら、あんたも戦いな!」
覇界王の内部にいるであろう姪に向かって、ルネが語りかける。
「こっちには、あんたがどうなってもいいとか考える奴は、一人もいないんだ! 誰も死なせたくないなら、あんたも戦え! 戦ってそこから出てこい!」
「そうだ! 僕たちはきっと、君を救ってみせる……あきらめるな!」
ルネの叱咤に、戒道が続く。少年時代の彼からは、もしかしたら出てこなかった言葉かもしれない。かつての彼は、戦士としての生き方しか知らなかった。だが、仲間たちを救いだすため、十年の時を勇者たちとともに戦い続けてきた。いまやその魂は、ソルダートJからも、勇者のそれだと言われるようになっていたのだ。
『で、でも……ダメ、なの……』
覇界王ジェネシックのうちから、絶望的な意思が響く。同時にその両腕が左右に突き出され、とりついていたガオファイガーとガオガイゴーが、弾き飛ばされた。
「うわあああっ!」
受け身をとる余裕もなく、氷原に転がる二体の勇者王。即座に覇界王ジェネシックが頭上を振り仰ぐ。この時まだ、ガオガイガーは、ハンマーコネクトを終えてはいない。
(ガオオオオオッ!)
覇界王ジェネシックが咆吼し、ギャレオンの顎門が大きく開かれる。次の瞬間、オレンジ色の炎が撃ち出された。ジェネシックボルトに暁のエネルギーをまとわせ、砲弾のように撃ち出したのだ。
苛烈な一撃は、コネクト直前の無防備なガオガイガーに直撃するかに見えた。だが──
「うおおおおおっ、こなくそぉぉっ!」
アクティブモードの覚醒人V2が、全身をしならせて、自分よりも巨大な物体を投擲する。ブーメランのように飛んだそれは、空中でオレンジの砲弾に激突! 右と左に弾け飛んだ。
覚醒人V2が投げたのは、キングジェイダーから託されたジェイクオースであった。ブーメランのように宙を舞ったジェイクオースは高度を落とすと、ガオファイガーの眼前の氷原に突き立った。
「ル、ルネさん! ソルJの旦那がそれを使えって!」
必死に叫ぶと、蛍汰はV2の腕を宙に伸ばした。恐竜型の爪が、不器用にVの字を形作る。
(助かったぜ、蛍汰!)
凱が心のうちで叫ぶ。仲間たちの支援を受けて、ついにガオガイガーは、一つに連結されたダブルハンマーの柄を握りしめた。同時に全身が、余剰エネルギーの放射で、黄金に輝く。
「ゴルディオンダブルハンマーッ!」
空中から急襲しながら、ガオガイガーはダブルハンマーのモードをシフトする。
(紗孔羅ちゃんがいるとしたら、ギャレオンの中枢か、ジェネシックマシンのコクピット……関節部にはいないはずだ!)
そう直感した凱は、重力衝撃波を偏向させる。
「ゴルディオンスライサーッ!」
ダブルハンマー表面のゴルディオンモーターが唸りをあげて、重力衝撃波の刃を発生させた。狙うはジェネシック・ガイガーと、ジェネシックマシンのドッキング部。頭上から放たれた見えない刃によって、覇界王ジェネシックの四肢と翼が、ガイガーから切り離される。
「よしっ!」
会心の叫びとともに、着地するガオガイガー。だが、その眼前で展開されているのは、信じられない光景だった。
極寒の地に立つ巨人と、宙を泳ぐ鯱と海豚。そして一対の土竜に、それらの頭上を舞う黒鳥。いずれもトリプルゼロをまとった、覇界の眷族であることがうかがえる。
「ジェネシック……分離することができるのか」
いまだ、キングジェイダーとガオファイガー、ガオガイゴーは氷原に伏して動けない。ダブルハンマーをかまえたガオガイガーと覚醒人V2──いまも立っている二機に向かって、覇界ガイガーの胸で獅子が吠える。それを合図とするかのように、覇界の獣の群れが、一斉に襲いかかった!
(つづく)
著・竹田裕一郎
次回10月15日更新予定
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