覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第6回】


number.00:B 序-HAZIMARI- 西暦二〇一〇年(5・完)

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 アイランド4の墜落軌道を追って、ガオガイゴーは低軌道へ遷移していった。その軌道計算は、護が一手に引き受けている。本来ならオービットベースやミズハの支援を受けられるはずだったが、異常電磁場のなかで通信が途絶、それはかなわない。

「戒道、三秒後に減速開始……ドライバーの制御に集中して!」
「わかった」

 きっかり三秒後、ウルテクエンジンが制動をかけた。たちまち軌道速度が下がり、地球の重力に引かれていた下方のアイランド4との相対距離が縮まっていく。同時に、ライナーガオーⅡに連結されていたガトリングドライバーが切り離され、ガオガイゴーの右腕に装着される。いずれも微妙な制御タイミングを必要とする操縦だ。元々宇宙飛行士であった獅子王凱にとっては、造作もないことであったが、少年たちにとってはそうではない。

(天海がいてくれて、助かったな……)

 戒道は心のなかで感謝していた。もっとも、本当なら思うだけでなく、口にすべきなのだろう。しかし最近、言葉にしていない気持ちが、何故か天海には伝わっていることが多い気がする。ラティオと呼んでいた頃には、なかった感覚だ。だったら、わざわざ口にしなくてもいいな……そう考えてしまうのだった。

「ガトリングドライバーッ!」

 ドライバー側面部に連なるフィラメントメーターがエネルギーの放出を示し、先端部が高速回転を始め、光の渦を生み出していく。
 ガオファイガー用の装備をそのまま流用したハイテクツールが、アイランド4を含む空間を一気に湾曲させた。いかに巨大な質量であろうと、存在する空間が湾曲されてしまえば、そこに留まるしかない。回転運動し続ける空間の内部で、アイランド4は永遠に着地することのない落下を続ける状態となった。
 巨大なアイランド4を含む空間を回転させ続けるには、膨大なエネルギーを必要とする。GSライドとリンカージェルを併せ持つガオガイゴーといえど、長時間にわたってそれだけの出力をガトリングドライバーに供給し続けることは不可能だ。

「くっ……あともう少し!」
「戒道、解放タイミングを設定したよ。あと五秒!」
「わかった!」

 護の指示に従い、戒道はガトリングフィールドを強制解除する。そのタイミングは、アイランド4の落下ベクトルが回転運動のうちに軌道上方へ向いた瞬間を狙ったものだった。湾曲空間に捉えられるまで、加速を続けていた落下運動がそのまま地上から遠ざかるベクトルになるのだ。燃料槽爆発のような非常事態がなければ、高高度軌道へ到達して安定するだろう。
 オービットベースのメインオーダールームとミズハ艦橋のブランチオーダールームで、歓声が起こった。GGG隊員たちはみなそれぞれの任務をこなしつつも、大災厄となりかねないアイランド4の墜落を意識せずにはいられなかったのだ。そして、危機は未然に防がれた。

「やったね、戒道!」
(ああ……君のおかげだ、天海)

 一時に大出力を発揮したため、透析ユニットを使用しているものの、リンカージェルの限界は近い。だが、メンテナンスが万全でなかったなら、限界を迎える前に動作不良を起こしてしまっただろう。阿嘉松とGGG整備班が短時間で行った改修が、功を奏していたと言って良い。

「戻ったら、社長やウッシー兄さんたちにも感謝しなきゃね!」
「……戻るのは、ちょっと先になりそうだな」

 緊張した戒道の声音を聞き、護も嫌な予感を覚えた。手元のコンソールを操作して、周辺の空間を走査する。
 ──嫌な予感は的中した。高高度軌道に乗ったアイランド4に、未識別物体が近づいている。

「……でかいな」

 軌道要素をもとに、護が物体の素性を検索する。それによると──

「無人のデブリ自動回収艇だ。たくさんのデブリをくっ付けたまま、制御不能になって……」
「自分自身がデブリになった……ってことか」

 ふたりの操縦席に、巨大デブリと化した回収艇の軌道が表示される。嫌な予感の通り、アイランド4の軌道と交錯していた。

「激突する……二十四秒後に」

 もう一度、軌道が変化すれば、アイランド4が地上に再突入しかねない。しかも、そうなった場合、もはやガトリングドライバーで対応することも不可能だ。

「ブロウクン・マグナムで粉砕する」
「待って。それじゃ、細かく砕かれたデブリが勢いを増して拡散する」

 いまの混乱した状況下で巨大デブリを粉砕すれば、“ケスラーシンドローム”が起こりかねない。デブリがさらなるデブリを発生させ、無数に増殖していく現象だ。

「だが、ガオガイゴーの稼働時間は限界だ。このまま放置しておくわけには……」
「なにかできることがあるはずだよ!」
「けど、あと十五秒だ! 君ならともかく、僕には破壊するくらいしか──」

 戒道のその言葉で、護のうちに閃くものがあった。

「戒道! 左腕のコントロールを僕に!」
「左を──?」
「急いで! はやくっ!」
「ユー・ハブ・レフトコントロール!」

 二度は聞き返さない。セリブヘッドの戒道は手早く制御系を調整しながら、ボイスコマンドを発声する。

「アイ・ハブ・レフトコントロール!」

 ウームヘッドの護が制御系の半分を受け取った。

「プラズマ・アナライズ!」

 ガオガイゴーの左下腕部は、ガオガイガーのユニットを引き継いでいる。ユニットに搭載されていたプラズマホールドというシステムが、ガイゴーと合体したことで新たな機能を発揮する。

「上手い……!」

 戒道が感嘆の声をもらす。左腕から放たれた捕縛フィールドが、的確にデブリを捕らえていた。巨大なベクトルを完全に打ち消すことはできないが、減速することはできる。そして、フィールドから送られてきた情報を、護がセリブヘッドに転送する。

「戒道、このデータで──」
「わかった!」

 護がガオガイゴーの左腕を操縦している間に、戒道が右腕を振りかぶらせる。それはブロウクン・マグナムと呼ばれる攻撃の予備動作だ。
 回転を開始しながら真っ赤に発熱する右腕。その動作が、さらにリンカージェルの劣化を早めることになる。稼働限界まであと三秒……二秒……

「ブロウクン・マグナム!」

 ゼロ!──リンカージェルが限界を迎えるとともに、ガオガイゴーの右腕が発射される。同時にエネルギーが尽きたことで、左腕から放たれていた捕縛フィールドが消失。解放されたデブリはふたたびアイランド4に向かってくる。
 だが、その後方から追いついてきたブロウクン・マグナムがデブリの表面を擦過していく。狙いがはずれたのか、その巨体を打ち砕きはしない。
 やがて、制御を失った右腕は虚空の彼方へと遠ざかっていった。
 リンカージェルの限界により、機能停止したウームヘッドで、護は固唾を吞んでその様子を見守っている。

「………」
「一ミリもズレはない」

 内部通信機から、戒道の落ち着いた声が聞こえてくる。その言葉の通り、プラズマ・アナライズによるわずかな減速と、ブロウクン・マグナムによるわずかな進路のブレとが、デブリの軌道をアイランド4との衝突からそらせていた。

「うん、こっちでも確認した。デブリはこの角度なら、大気圏で燃え尽きる」
「ああ、君のおかげだ、天海」

 今度は思い切って、口にしてみた。

「なに言ってんだよ、撃ったのは戒道だろ」
「そうだな……」
「けど、ブロウクン・マグナムもデブリになっちゃったね」
「問題ない。地球を二周ほどしたところで、オービットベースに到達する軌道だ。誰かが回収してくれるだろう」
「ええっ! 翔竜たちもカーペンターズも地球に降りてるのに!?」
「そういえばそうだったな……」
「まったく詰めが甘いなぁ!」

 天海護と戒道幾巳は、冗談に紛らわせようとした。だが、笑いを浮かべることはできなかった。あやうく大災厄を招きかねない事態を救ったにもかかわらず──

 衛星軌道上に漂うガオガイゴーの眼下、地球が浮かんでいる。

「戒道……あれを見て」
「ああ、静かで……暗い」

 普段ならやかましいほどに飛び交う通信波が沈黙している地球。夜の半球に浮かぶ街の灯りが消え失せた地球。
 その静けさと暗さが恐ろしかった。沈黙の裏には深刻な災害やパニックが存在する。どれほどの被害が出ているのか、想像もつかない。
 護は最後に自分を送り出してくれた少女のことを、戒道はたったいま守り抜いた眼下の大陸にいるであろう少女のことを、それぞれに思っていた。かなうことなら、今すぐにでも大気圏突入して会いに行きたい。
 だが、それは許されないだろう。おそらくこれから、長い長い戦いが始まる。全世界を襲った大災害との戦いが。
 その最前線で、少年たちは勇者としての役割を果たさねばならないのだ。いまはこの宇宙にいない、獅子王凱のように──

 時に二〇一〇年八月八日。その日は、地球人類にとって忘れられない日となった。
 木星から到達した不可視の異常電磁場──インビジブル・バーストが降り注ぎ、世界全土に深刻なダメージを与えた。そして、それは一時的なものではなく、その日以後も継続しているのだ。
 また、勇者たちを救出する計画<プロジェクトZ>が頓挫した。裏面に隠された超エネルギー<ザ・パワー>への渇望とともに。
 だが、同時に希望が舞い降りた日でもある。地球の守護神──勇者王の後継者が新生した日でもあるのだから。

 予兆とは、この日の災厄を指していたのだろうか──
 ベターマン・ラミアと遭遇したあの日から変わらず、木星は見かけ上巨大化した姿をさらし続けている。その表面にオーロラのように輝く、神話上の悪魔を思わせるかのような、不吉な姿──
 それはザ・パワーをまとったジェネシック・ガオガイガーであるかのように、天海護と戒道幾巳には見えた。護は思い出す──ラミアの言葉を。

(命ある全てのモノを光に変える存在──)

 人工の灯りがすべて途絶えた、闇の大地。
 星の輝きに加えて、事故や爆発の光が瞬く煌めきの空。
 その狭間で、木星の威容を見上げている者がいた。

『わかっていた、この時がくることを……』
 その者は、ラミアと名乗ったソムニウム。額には十字の光点が明滅する。

『我らソムニウム、生命の螺旋に最後の戦いを挑む時がくる……』

 その意思をリミピッドチャンネルで読み取るのは何者か──あるいは何者たちか。
 いずれにせよ、それは恐怖や怒り、悲しみや憎しみ、そして対決への決意が込められた意識であった。

『覇界王──降臨!』

(number.00・完 number.01へ続く)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回11月9日(水)更新予定


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