覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第61回】

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《前回までのあらすじ》

 覇界の眷族によって、全世界にトリプルゼロが拡散された! ゼロロボが大量発生し、地球全土が制圧されるまでの猶予はあとわずか。だが、GGGブルーは死力を尽くして戦い、覇界幻竜神、覇界強龍神、覇界王キングジェイダーという難敵を攻略、取り戻すことに成功する。いまここに、十年前、全宇宙を救うために旅立ったガッツィ・ギャラクシー・ガードの勇者と隊員たちが、すべて帰還したのだ!
 さらにベターマン軍団が二〇〇五年の過去から運んできた、初代ガオガイガーも凱の新たな力として加わった。
 いよいよ最終決戦に挑むGGGグリーンとGGGブルー。覇界王が選んだ決戦の地は南極。極寒の大地にガオガイガー、ガオファイガー、ガオガイゴー、三体の勇者王が並び立ち、ジェイダー、覚醒人V2、ベターマン・カタフラクトも戦列に加わる。だが、ソムニウム・デウスの奸計により、覇界王の内部には行方不明だった紗孔羅が封じられていた。そして一方、原因不明の緊急事態により、オービットベースが地球へ墜落する軌道に乗りつつあった……。

FINAL of ALL 対-VERSUS- 西暦二〇一七年(6)


8

 西暦二〇〇五年、機界31原種の襲来にともなって建造された宇宙基地<GGGオービットベース>は、極軌道を巡る低軌道衛星である。観測衛星ではないため、太陽非同期軌道が選択されており、対地高度が低いこともあって、常に世界中のアマチュア観測家にまで注視されている。
 そのため、軌道要素にズレが発生していることは、またたく間に明らかになった。摂動によるものではない。なんらかの理由で対地速度が低下しており、地上への墜落軌道に遷移している。精密な数字は専門機関でなければ算定できないが、概算でおよそ七十時間……三日後には、太平洋上に墜落すると思われた。
 日本のGアイランドシティに存在する宇宙開発公団は、対応に大わらわになっていた。太平洋上に大質量物体が墜落すれば、大災害の発生は間違いなく、対応すべき問題は無数にあるからだ。もちろん、地球全体の環境に深刻な影響を及ぼす大災害ともなれば、微々たる問題に対処している場合ではないのだが。
 オービットベースとの直通回線が不通になって、公団は国連に幾度も問い合わせたが、基地を管轄する国連最高評議会ですら、正確な情報は持ち合わせていない。そんな中、公団の往還艇離発着センター管制主任たる天海勇は、独自の人脈で国連上層部と連絡をとっていた。

「それじゃあ、オービットベースの墜落を防ぐことはできないんですか!?」
『あれだけの大質量物体です。地上からでは何も……』

 主任席のモニター内で、美しい顔に苦渋を浮かべたのは、国連事務総長首席秘書官である日本人、磯貝桜だ。かつて、桜は宇宙開発公団総裁秘書を勤めていたこともあり、勇はその頃からの知己である。公式なルートでは得られない情報を求めて連絡してみたのだが、手に入ったのは“絶望”でしかなかった。

「何も対処できないとしたら、絶滅した恐竜の二の舞ですよ!」

 それは六千五百万年前に起きた大事件。アステロイドベルトから頭脳原種に運ばれてきた巨大隕石が、ザ・パワーによる反発現象によって過去に運ばれ、その時代の地球に墜落したのだ。結果として、恐竜は滅び、地上の主役の座を人間に明け渡すことになった。オービットベース墜落が現実となれば、またも主役交代の機が訪れることになるだろう。

『わかっています。地上からでは何もできません。ですが……まだ彼らがいます』
「彼ら……!? では、GGGの組織はまだ機能しているんですね!」

 表情を明るくした勇に、桜は説明した。現在、GGGは大規模な作戦を展開しているため、地上各所からの問い合わせに応じている余裕はない。だが、国連との情報共有は維持されており、墜落への対処も始められているという。

「大規模な作戦……」

 血相を変えた勇を見て、桜は一瞬逡巡した。そして、すぐに決意すると、南極で行われている覇界王との決戦について、語った。大河幸太郎がGGG特務長官に就任した際、トリプルゼロと覇界の眷族の脅威については、全世界に発表されている。しかし、今まさにその最終決戦が行われているということは、一部の人間しか知り得ない情報だった。だが、南極で現在も戦っているであろうGGGブルー機動隊長・天海護は、血の繋がりはなくとも勇にとってかけがえのない息子なのだ。職務違反を自覚した上で、桜は正確な事態を伝えた。

『GGGは全スタッフで、双方の事態に対応しています。私は彼らを信じています。きっと地球は救われると──』

 桜の迷いのない言葉に、勇も思わず歓喜した。

「うわっはー! あ…いや、失礼……私も信じています。信じることこそが、彼らを支える戦いなのだと、我々も学びましたから……」

 そう、原種が来襲した時も、遊星主の脅威にさらされた時も、彼らにできることは、GGGを信じる……ただ、それだけだった。だが、その想いこそが“勇気”の力。それは、原種と激闘を続けたGGGに希望を与え、三重連太陽系で失いそうになった勇気を補い、遊星主に打ち勝つための力となったのだ。

「磯貝さん、提案があります。いま起きているすべてのことを、全世界に公表しましょう!」
「全世界に!?」

 勇の意外な提案に、桜は驚いた。人類が滅ぶかもしれない──そんな一大事を全世界に公表しようというのか。それにともなうパニックを考えたら、絶対に情報公開などできない。それが国連最高評議会の、現時点での判断だったのだ。

「オービットベースの墜落は、隠すことはできません。もう世界中の天文家に知られていますし、情報が錯綜しています。現実に起きることより深刻な予測……いや、流言飛語となってデマも出回ってるんです。これを沈静化するには、正確な情報を公開するしかありません! なによりも、GGGが全力で対処している……これ以上、安心できる情報はない! 私は確信しています!」

 勇の熱弁に、桜の心は激しく揺さぶられた。たしかにその通りだった。

『わかりました。事務総長閣下に提案してみます』

 桜はそう告げると、勇との通信を終えた。今日この日まで、上司との間に築いてきた信頼関係、それはすべてこの日のためだったのだ──桜にはそう思えた。国連本部ビルの通信室から出た桜は、通路の窓から空を見上げた。暗鬱な曇天の向こうに、存在するはずの宇宙基地の姿は見えない。だが、桜は声に出すことなく、呼びかけた。

(私たちは必ず成し遂げます。あなたたちを信じ抜くという戦いに勝利することを……それがどんなに困難な戦いでも……総裁……)

 その呼びかけは、本来ならふさわしくない。呼びかけられた相手が、その肩書きから離職して、もう長い時間が経っている。だが、桜の胸中では、その人物はいつまでも、敬愛する“総裁”なのだ。それは彼女の人格を形成するうえで、もっとも重要な存在として深く息衝いているのであった。

 

「うおりゃああああっ!」

 GGGグリーン参謀である火麻激が、サブマシンガンを連射しながら二十三層の中央通路を突き進む。
 磯貝桜や天海勇が信じたように、今この瞬間も、GGGは全力で事態に対応していた。手練れの射撃で、壁面や天井に設置された侵入者邀撃ようげきシステムを的確に破壊して、突き進む火麻。その後ろには、彩火乃紀が付き従っている。
 現在、人工衛星であるGGGオービットベースは対地速度の低下により、地上への落下軌道に遷移しつつある。それは自然現象によるものではない。本来、たとえ安定した軌道であろうと、地球そのものや月から受ける重力、また低軌道であるが故の大気摩擦による摂動は必ず発生する。オービットベースの場合、常ならば中枢ウルテクエンジンを主とした重力制御、及び慣性制御によって摂動を相殺している。だが、それはつまり、人工的に摂動を増大させ、軌道要素を乱すことも可能であるということだ。
 菊帆エイル、鷺の宮・ポーヴル・カムイといった隊員たちのアルジャーノン発症を受けて、一般隊員による中枢システムへのアクセスは、以前よりも厳しく制限されるようになった。破壊活動に対する防衛システムも増強されている。それでも、GGGが組織である以上、高位スタッフのアクセス権を完全に遮断することは難しい。

 

 ──少し前のオーダールームに遡る。

「間違いありません、中枢ウルテクエンジン制御室から、プリックル参謀とタマラのID反応が検出されています。二人のテレメーターからは……」

 オービットベース全体に衝撃が走り、軌道変更を始めた直後、オペレーターたちが状況把握に努めた。最初に中枢ウルテクエンジンの異状を突き止めたのは火乃紀であり、彼女は思わず報告の途中で言いよどんだ。途切れた言葉の後を引き継いだのは──

『アルジャーノンだー! 逃げるのだー! アルジャーノンだー! 逃げるのだー!』

 コンソールから聞こえてきたのは、テレメーターからの脳波形に反応した感知システムの音声。陽気な少女のような声音で告げられた警報音であった。阿嘉松長官による発明品<アルジャーノン見張番26号>でも使用されている合成音声だが、この時はGGG全隊員への死刑宣告であるかのような不吉さで鳴り響いていた。
 すかさず、大河が確認する。

「つまり、プリックルくんとタマラくんが、アルジャーノンを発症し、破壊活動を行っているということか!」
「はい、そう考えるのが妥当です……」

 悄然とした面持ちで火乃紀は答えた。全GGGスタッフの中で、もっともアルジャーノンに詳しい生体医工学者として、またタマラの友人として、痛恨を極める事実だった。

「特務長官、既に武装隊員たちが向かっているようだが、アルジャーノン発症者の行動を推測し、ウルテクエンジンの制御を奪回するためには、オーダールームからも要員を送るのが得策だろう……だが最小人数だ」

 GGGブルーのスーパーバイザーである楊博士が、そう進言した。「最小人数」と言った、その判断は正しい。オービットベースが地上に墜落するという事態を防がねばならないのは当然だが、南極でいまだ続いている覇界王と勇者たちの戦いの支援も続けなければならない。人材が足りているわけではない。どちらも、おろそかにするわけにはいかないのだ。
 大河は迷わず、旧知の仲間に視線を向けた。

「火麻くん、手段は問わない……向かってくれるか?」
「ああ、IDスーツはないが、火器の使用は許可されるってことだな」

 特務長官の指令に、GGGグリーン参謀である火麻が即答した。二人とも、沈痛な声音ではあるが、そこに迷いや怯えはない。すでにアルジャーノン発生時に採るべき選択は、幾度も確認してある。発症者の致死率は百パーセントであり、救う術はない。アーチン・プリックルとも長年の友人である火麻にとっては過酷な任務だが、事が白兵戦となる以上、彼以上の適任者がいないのも事実だ。

「特務長官、私も行かせてください」

 火乃紀が自席から立ち上がって、大河に申し出る。この緊急事態に、理由を問いただすような愚を、大河は犯さない。

「助かるよ、彩くん。アルジャーノンの専門家として、君の対処に期待する」

 

 そして、オーダールームのメインシャフトを利用することで、火麻と火乃紀は最短ルートをたどり、オービットベース二十三層の最深部にたどりついた。武装隊員たちは他のいくつかのルートから最深部へ向かっているが、制御権を奪われた侵入者邀撃システムに阻まれ、未だ辿り着いてはいない。だが、時間は限られている。武装隊員たちの到着を待ってはいられなかった。中枢ウルテクエンジン制御室の扉を強引に解錠して、火麻と火乃紀は室内に突入する。そこで見たものは、髪を振り乱して制御端末にとりついているタマラの姿だった。

「……二十六億人あと二十六億人は淘汰しないと地球は滅んでしまうのですそのためにはオービットベースを地上に墜落させねばならないのです私には崇高なる使命があるのです……」

 タマラの操作によって、ウルテクエンジンが異常動作を起こし、オービットベースが墜落への軌道に乗ってしまったことは明らかだった。やはり、タマラはアルジャーノンを発症していたのだ。解ってはいたことだが、救いようのない状況を目の当たりにして、二人は絶句した。
 その時、火乃紀の携帯端末から、スワンの声が響いた。

『……火乃紀、急いでクダサイ! あと二百六十秒以内に対地高度をあげないと、墜落は避けられなくナリマス!』

 スワンは、メインオーダールームで南極の戦いをバックアップしながら、軌道計算も続けているのだ。その声を聴いた火麻が、悲痛な表情でサブマシンガンをかまえる。

「……アーチンの奴ぁ、どこだ? くっそぉ、手段がひとつしかねえってんなら、うかうかしてる時間はねえ」

 銃身の前に立ちながら、火乃紀は首を振った。

「いえ……たぶん、ひとつではありません。タマラを私に任せてもらえますか」

 火乃紀の声は、落ち着いていた。友人を死なせたくない、その思いで冷静さを欠いているようには聞こえなかった。そう判断した火麻は、銃口を下ろした。その瞬間──大型コンピューターサーバーの間に身を隠していた人物が、火乃紀に飛びかかってきた。

「!!」

 声も出せずに凍りつく火乃紀を、火麻がすかさず身を挺して庇う。

「あぶねえ!」

 しかし、不利な体勢であったため、火麻の方が背中をとられることとなった。

「アハハハ! 引っかかったね。激、君とは決着をつけたいと思ってたんダヨ!」

 狂気にかられたアーチン・プリックルである。五十歳をとうに過ぎているにもかかわらず、身軽な両脚が火麻の両腕をサブマシンガンごと背後から固定し、屈強な剛腕が首を締め上げる。もともと同年代であったが、火麻は三重連太陽系から十年ぶりに帰還したという事情もあり、プリックルより十歳若い肉体の持ち主ということになった。だが、鍛え上げられたGGGブルー参謀の筋力は、GGGグリーン参謀をがっちりと羽交い締めに捉えていた。それだけではない、右腕に握られているコンバットナイフの刀身が、的確に喉元につきつけられている。

「アハハハ! 激、君とは26回の模擬戦でも決着つかなかったけど、これでオシマイだよ。ボクが26年のつきあいを勝利で終わらせるんだ。君の死というトロフィーでね!」

 彼の狙いは、最初から火乃紀ではなく、火麻の方だった。その首に躊躇のない刃が迫る。

「おい待て……やめろっ…アーチン・プリックル!」

 そこで声は途絶えた。
 その瞬間、火麻は過去の自分の様々な体験を走馬灯のように回想していた。大量の記憶の波が、瞬時に脳内を駆け巡った。

「火麻参謀っ!」

 なすすべもなく、火乃紀が悲鳴をあげる。その眼前で、プリックルはコンバットナイフを握る右腕に力を込めていた。

「うがあああああっ!」

 ミレニアムモヒカンが揺れるとともに、声にならない火麻の絶叫が響いた。

 

 オービットベースがアルジャーノンとの死闘を繰り広げていることを、南極で戦う勇者たちは知るよしもない。覇界王ジェネシックという未曾有の難敵を前にした彼らに、余計な情報を与えて集中力を削ぐ必要はない──それが、大河や阿嘉松の判断であった。
 実際、眼前の戦いに勝利する以外のことを考える余裕は、微塵も存在していなかった。

「ブロウクンファントム!」

 ファントムリングを装着した右腕を、ガオガイゴーが撃ち出す。それは覇界王ジェネシックを斃そうという意思を込めた攻撃ではない。眼前で今にも引き裂かれようとしていた、覚醒人V2を救うための一撃だ。狙い過たず、ブロウクンファントムは、V2の胴体に突き立てられようとしていた覇界王の右拳に命中した。その隙に蛍汰は、ゴルディオンネイルの致命的な刺突から、V2を必死に回避させる。

「ひいっ、助かったぁ!」
「今度は我らの番だ!」

 追撃はさせまいと、プラズマソードで斬りかかるジェイダー。そしてジェイクオースを振り下ろすガオファイガー。だが、その連撃も覇界王の牙城を揺るがすには至らない。オレンジ色のオーラに包まれた左腕が無造作に振るわれ、軽々と弾き返した。

「くっ、プロテクトシェードを使うまでもないってことかい!」

 ともに弾き飛ばされた小柄なジェイダーを受け止めつつ、ガオファイガーが氷原に膝をつく。

「あきらめるな、ルネ! 一撃で通じねば二撃、三撃を放つのみ!」
「わかってるよ、J! 勇気が折れなきゃ、最後にはこっちが勝つ!」

 息をつく間もなく、ジェイダーとガオファイガーが左右に散った。そこに間髪入れず、ジェネシックボルトが着弾。分厚い氷も、その下の永久凍土も粉砕して、巨大なクレーターが穿たれる。一瞬でも回避が遅れていたら、二機とも粉砕されていただろう。
 ガオガイガー、ガオファイガー、ガオガイゴー、三機の勇者王。そしてジェイダーと覚醒人V2。いずれもストレイトガオーのうちにいる紗孔羅の救出を最優先に考えている。 だが、同じ戦場にあって、ソムニウムたちには異なる思惑もあった。アルジャーノンの感知に長けた彼らは、オービットベースとの間に開いたソキウスの路を通じて、火乃紀の危機さえも感じとっていた。

『もうじきに…ソキウスの路は閉じる』

 シャーラの意思が弱々しく、リミピッドチャンネルを通じて伝わる。

『ラミア……我らの希望が失われる』

 ユーヤの意思が、ベターマン・カタフラクトの中でこだました。この場での戦いを続けるか、それともオービットベースに向かうべきか。常ならば決して露わになることのないラミアの感情が、その意思にもにじんでいる。

『わかっている……しかし、今ここで、覇界王を滅せねば、すべてが失われる……』

 苦渋をにじませたラミアの意思に、普段は無口なヒイラギが応える。

『うん…ボクも…感じる……残念だけど、希望はもう……』

 気性の荒いガジュマルの意思が吠える。

『シャーラも持たねえぞ! さっさと覇界王をぶっつぶせばいいだけだ! 急げ!』

 ライのおどけた意思も同意する。

『左様ですな。パトリアのときを迎えるためにも』

 やや冷静に、羅漢も意思を伝える。

『ンー…だが、あの中には……』

 ラミアの意思を感じた他のソムニウムたちに迷いはなかったが、仮に紗孔羅を救うことを優先しなくても、最後の覇界王を打倒することは、途方もない難事であることに間違いなかった。それでも彼らは希望をあきらめることなく、カタフラクトの剛腕を、覇界王ジェネシックに打ち込んだ。と同時にその両肩の鋭い突起で何かを測定した。

『ンー…一度だけだ。見誤るな』

 ジェネシックオーラの圧力に弾き飛ばされながらも、ベターマンは戦闘できる限界となる時間を迎えようとしていた。

 

(雷牙おじさんが言ってたな……Zマスターもまた、覇界王であったかもしれないと)

 激戦のさなか、凱の脳裏にそんな考えがよぎった。獅子王雷牙のその推測が正しければ、これまで彼らは、二体の覇界王に勝利してきたことになる。そして、目の前にいるのが最後の覇界王ということだ。

(紫の星と赤の星の覇界王に打ち勝った俺たちだ……緑の星の覇界王にも、負けるはずはない……!)

 強大な敵への恐怖──それすらも上回る闘志が、凱のうちに湧いてきた。これこそが勇気──命ある者のうちに生まれる無尽蔵のエネルギー。勇気はGストーンを活性化させ、勇者王ガオガイガーにさらなる力を与えた!
 ゴルディオンダブルハンマーをかまえたガオガイガーが、南極の氷原に屹立する覇界王ジェネシックの直上に翔ぶ。

「ゴルディ、まだいけるな!?」
「ああん? 誰に聞いてんだ? 俺様が今まで、しんどいとか、無理だとか、一度でもぬかしたことがあったか!?」

 凱の問いかけに、いつもと変わらぬ落ち着いた……と言うよりも、ふてぶてしい声が応じる。そう、この頑強な超AIはいつもこうだった。ギャレオンが凱にとって、唯一無二の戦友であるように、ゴルディもまた、歴戦をともに勝ち抜いてきた相棒なのだ。

「そうだったな、頼りにしてるぜ、ゴルディ!」

 ベターマン・カタフラクトの剛腕と打ち合う覇界王ジェネシック。その注意は地上の敵にのみ、向けられているように思えた。空中でガオガイガーは、ダブルハンマーからクラッカーを分離、ゴルディオンモーターによって重力衝撃波を偏向させる。

(狙いは覇界王の左膝!)

 薄く偏向された重力衝撃波は、超絶の切断力を有する刃となる。凱が目論んだのは、ゴルディオンスライサーによる覇界王ジェネシックの左膝を切断することだった。それがかなえば、ストレイトガオーのうちに囚われている紗孔羅の救出は容易なものとなる。
 今まさに必殺の一撃が放たれようとした瞬間──
 覇界王が頭上を見上げた。意思を持たぬはずの双眸が燃え上がる。そこに邪悪な笑みが浮かんだかのように、凱には思えた。

「グオオオオオオッ!」

 咆吼とともに、覇界王ジェネシックの尾の先端部、ガジェットガオーの頭頂部のパーツが分離する。そのパーツは右腕に装着され、ウィルナイフとなって──
 間髪入れずに激しい回転とともに撃ち出された!
 高速回転する拳の先で、オレンジに輝く刃もまた、必殺の牙となって旋回する。空中で攻撃前の姿勢にあったガオガイガーには、迫る牙撃に立ち向かうどころか、回避する術すらなかった。
 ベターマン・カタフラクトが、覚醒人V2が、ガオファイガーとジェイダーが、そしてガオガイゴーが頭上を見上げて、絶望に固まる。

「凱兄ちゃん!!」

 護の叫び声が響いた。だが、その声が届こうと、結果は変わらなかった。覇界王ジェネシックのブロウクン・ウィルナイフが、ガオガイガーを貫く! いや、そう見えた瞬間、自らの身を挺した者がいた!

「うがあああああっ!」

 声にならない大地を震わす絶叫。その主は、ガオガイガーの頑強なる右腕。いや、右腕だった存在は自ら分離して、マーグハンドからマルチロボへとシステムチェンジしていた。ガオガイガーの楯となったゴルディーダブルマーグ! その胴体腹部に、高速回転する刃が突き立てられた……そして、その直後、渦巻く刀身は背中の装甲まで貫いていた!

「ゴルディィィッ!」

 凱の絶叫が響く。あの時もそうだった。ピッツァが変貌したEI-26と交戦した際、ゴルディはおのが判断でガオガイガーから分離した──勝利のために。レプリ・ガオガイガーと激突した際も、ヘルアンドヘブンの直撃を受けて、ゴルディはガオファイガーの楯となって砕け散った──凱を生き残らせるために。勝利と生存を託して、おのが身を投げ出すことを厭わない、それがその超AIの生き様だった。その人格モデルになった火麻激と同じように、凶刃の前に身を投げ出したのである。
 奇しくも宇宙と地上とで、同じパーソナリティを持つ者たちの声なき絶叫が同時に響いたのは、偶然であったのか。それとも運命の悪戯だったのだろうか。
 相棒たるマルチロボが木っ端微塵に爆散する、その破片を全身に浴びて、ガオガイガーは制御を失う。至近距離から鋼鉄の散弾を浴びたようなものだ。そのまま受け身をとる余裕すらなく、ガオガイガーは氷原に叩きつけられた。
 邪悪な笑み──凱にはそう見えた双眸で、砕けた凍土に倒れ伏した勇者王を見下ろす覇界王。その右腕に、空中で旋回飛行を終えた拳が帰還する。無論、ウィルナイフは装着されたままだ。数瞬前にゴルディーダブルマーグを貫いた刃を、覇界王は頭上に掲げた。もはや立ち上がることすら叶わない、満身創痍のガオガイガーに、とどめを刺さんとばかりに。
 だが──
 覇界王の刃の前に、決然と立ちはだかる者がいた。

「……やらせないよ……凱兄ちゃんは」

 静かな……だが、断固たる声だった。倒れ伏したガオガイガーの前に立ったのは、スーパーニューロメカノイドたるガオガイゴーである。勇者王を継ぐ若き勇者王から発せられた、青年の声。かつての少年時代にはいつも獅子王凱に護られていた、成長した今の天海護の断固たる声。今、今まさに、今この時こそ……自分が護る側になってみせる、その意志の強さを感じさせる護の声。
 幾千幾万の日々を越えて、幼子から勇者へと成長した者の、真価が込められた声だった

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回11月16日更新予定


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