覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第62回】

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《前回までのあらすじ》

 覇界の眷族によって、全世界にトリプルゼロが拡散された! ゼロロボが大量発生し、地球全土が制圧されるまでの猶予はあとわずか。だが、GGGブルーは死力を尽くして戦い、覇界幻竜神、覇界強龍神、覇界王キングジェイダーという難敵を攻略、取り戻すことに成功する。いまここに、十年前、全宇宙を救うために旅立ったガッツィ・ギャラクシー・ガードの勇者と隊員たちが、すべて帰還したのだ!
 さらにベターマン軍団が二〇〇五年の過去から運んできた、初代ガオガイガーも凱の新たな力として加わった。
 いよいよ最終決戦に挑むGGGグリーンとGGGブルー。覇界王が選んだ決戦の地は南極。そして、覇界王の内部には行方不明だった紗孔羅が封じられていた。やがて覇界王の凶刃の前にガオガイガーが倒れた時、その前にガオガイゴーが立ちはだかる。今こそ、天海護が獅子王凱を護るために──

FINAL of ALL 対-VERSUS- 西暦二〇一七年(7)


8(承前)

「……やらせないよ……凱兄ちゃんは」

 氷原に倒れ伏したガオガイガー。その前に立つガオガイゴー、内部のウームヘッドでは護が様々なデータに目を走らせていた。メインオーダールームの華が転送してきた、ガオガイガーの機体コンディションである。その情報からは、獅子王凱は一時的に意識を失っているだけで、生命活動に別状はないことが読み取れた。

『命さんが、護くんも心配しないで、って』

 この時、華はつとめて冷静な口調を崩さないようにしていた。プリックル参謀とタマラがアルジャーノンを発症し、オービットベースが窮地に陥っているなどと、覇界王と戦っている最中の護たちに気づかれるわけにはいかないからだ。

『あと、ギャレオンも少し傷ついたけど、自己修復できる範囲内の損傷だって、雷牙博士が計算してくれた』
「よかった……凱兄ちゃんもギャレオンも無事なんだね……」

 いずれも護にとって、かけがえのない大切な存在である。一人と一体が深刻な状態でないことに、護は心の底から安堵した。華との通信を終えると、心中を確認するかのように、口にする。

「なら、後は覇界王を倒すだけだ……!」
「……護、気負いすぎるなよ」

 セリブヘッドの戒道が、落ち着いた声で語りかける。

「凱さんも地球も、みんなで護るんだ。忘れるな、君が戦う時は、いつも僕が一緒にいる」

 その通りだった。子供の頃から、様々な危機をともに乗り越えてきた相棒であり、トモダチ。自分が地球人ではないという悩みを抱えていた、幼き日の天海護にとって、同じ境遇の戒道がいてくれたことが、どれほど心強かったことか。

「ありがとう、幾巳。忘れたりしないよ……一緒に勝って、一緒に帰ろう、オービットベースやGアイランドのみんなのところへ」
「……ああ」

 そのわずかなやりとりで、護のうちから気負いも恐怖も吹き飛んでいた。自分でも驚くくらい冷静な頭で、目の前の覇界王ジェネシックの目を見る。倒れ伏したガオガイガーをにらみつけていた、頭部の双眸ではない。もっとその下──胸部のギャレオンヘッドの両眼だ。かつて、機械の眼差しでありながら、深く温かく優しい視線で護を見つめてくれていた、懐かしい目。

(ギャレオン……待っててね……必ず助けるから。一緒に帰るんだ。僕も、凱兄ちゃんも、みんな一緒に!)

 青年たちの決意を具現化したかのように、ガオガイゴーが身構える。これまでの戦いで、覇界王が途方もない強敵であることは、嫌というほどわかっている。だが、怯える心も臆する心も、存在しない。それらを蒸発させる熱いエネルギー──“勇気”が満ちているから。
 そんなガオガイゴーの姿を、上空から撮影している影があった。ヤマツミが発進させた情報収集用ドローンである。国連事務総長からの依頼によって、GGGグリーン諜報部が覇界王との戦闘の様子を撮影、全世界に中継配信することになったのである。

 日本時間で、週末の午後。カフェテラスに集まった三人の女子大生は、ひとつのスマホに映し出される中継映像に釘付けになっていた。

「天海くん、戒道くん、そんなヤツさっさとやっつけちゃいなさい!」

 小学生のような罵声を張り上げたのは、狐森レイコである。ティーセットが乗ったテーブルをひっくり返さないよう、両脇から旧友の鈴木わかばと手里たまよが抑えつける。もっとも、静かなカフェテラスでの怒鳴り声をたしなめるような者はいない。他の客も店員も、それぞれのスマホや店内モニターで、同じ映像を見つめていたからだ──GGGを応援する、同じ想いで。
 病室の小型モニターでは戒道の育ての母が、自宅の液晶テレビで牛山あやめとその息子・一が、自室のパソコンモニターで数納鷹泰が、やはり南極からの中継映像に見入っていた。ここまでの状況は、GGGが提供した文字情報で一般人にもわかるように解説されている。覇界の眷族とされてしまった仲間たちとの壮絶な戦いの日々、そのつらさも過酷さもみな、人々の知るところとなっていたのだ。

「護ちゃん……」

 自宅の居間で映像を見ながらつぶやいたのは、天海勇の妻である愛だ。独り言であるが故に、気づいてはいないが、“護ちゃん”と口に出したのはずいぶん久しぶりになる。数年前、護が高校生の時、自宅に華や戒道、牛山末男を連れてきたことがあった。その時、“護ちゃん”と呼んでしまったことで、護が苦笑いをするような困り顔になってしまったのだ。男の子の母親として、そのあたりのデリカシーは身につけなければならない……と、その日の愛は深く反省した。その気持ちを忘れたわけではないのだが、映像に映るガオガイゴーの姿に重なって浮かんだのは、成人した現在の護ではない。まだ小学生だった、ゾンダーと戦っていた頃の、幼い護の姿だった。愛自身にも、なぜだかわからない。だが、あの頃の護のいちばんの大好物で出迎えてやらなければ……そんな気持ちになった。

「護ちゃん……この戦いが終わったら、トロピカルハンバーグ作って、待ってるからね」

 激戦続く南極大陸。今まさにガオファイガー、ジェイダー、覚醒人V2の連続攻撃が覇界王ジェネシックに浴びせかけられていた。

「遅いぞ、青の! こちらの攻撃についてこい!」
「はいぃぃっ! ってか、“蒼斧”と“青の”をかけたギャグっすかそれ!」

 左右から繰り出されるプラズマソードの斬撃に呼吸をあわせるように、V2も両手のクローを爆裂射出する。腕部からチェーンでつながれたままのクローは、鎖鎌のように覇界王に斬りかかった。いずれも致命傷を与えるには至らないが、一瞬だけ覇界王を防御に専念させるだけ、押し込む効果はあった。

(よし、いまだ……!)

 ソルダートJと蛍汰が作りだした隙を見て、覇界王のふところにガオガイゴーを飛び込ませようと、戒道が考えた瞬間──

『光なるモノよ……』

 青年たちの脳裏に語りかけてくる意思があった。

「ベターマン・ラミア!」

 振り向いたガオガイゴーの背後に、ベターマン・カタフラクトが迫っている。護の驚きに応じる様子はなく、ラミアは常のように一方的に、おのが意思を発信し続ける。

『ヒトは正しき命の選択を望んでいるか?』

 その問いかけには、覚えがあった。七年前、護が初めてラミアに遭遇した時、同じ問いを投げかけられたのだ。

「ラミア……あの時は何も答えられなかったけど、今なら言える。望んでいるとも! ヒトは…人類は…命を間違ったことに使ったりしない! 正しい命の在り方を探し続ける! それを望み続ける! だから僕は……僕たちは止めてみせる。覇界王の革命を!」

 護はその意思を、リミピッドチャンネルではなく、声を上げて主張した。セリブヘッドにいるはずの戒道は、ラミアと護のやりとりに割って入ろうとはしない。その落ち着いた表情は、ソムニウムと対峙するヒトとしての代表を、護に委ねているようでもあった。同様に、カタフラクトを構成するソムニウムたちも、すべてをラミアに託したかのように、意思を沈黙させている。
 だが、その場にいる者全員が、護の答えに満足したようだ。相棒たる戒道幾巳はもちろん、名も知らぬソムニウムたちがうなずくかのような意思が伝わってくる。それをはっきり表したのは、ラミアだ。

『その答えを待っていた、光なるモノたちよ……』

 次の瞬間、カタフラクトが分解された。いや、羅漢のペクトフォレースによる融合を解いたのだ。それぞれの変身態へ戻ったソムニウムたち。そのうちの一体──羅漢のオウグが、胸門から虹色の粒子を放つ。

『ンー…ペクトフォレース・サンクトゥス!』

 粒子を浴びた六体の変身態は、それぞれがパズルのように変形して、ガオガイゴーの全身に装着されていった。背部にはトゥルバが、脚部にはポンドゥスが、右腕にはフォルテが、左腕にはオウグが重なり、アーリマンが尾のように後方にへばりつく。そしてルーメが薄物のように、ガオガイゴーの上半身を覆った。

『この星に生きとし生ける者すべての意思を合力ごうりきすべき時──!』

 ラミアのその意思は、いつになく歓喜の色を帯びているように、護には感じられた。やがて完成する、ベターマンと合体した姿、すなわち――

<夢装ガオガイゴー!!>

 もはや言葉はもちろん、意思の交感すら必要なかった。ヒトもソムニウムも、ただ生命の存続のため、覇界王に勝利するしかない。その共通する目的のために力を合わせる必要があり、その具現化こそが夢装ガオガイゴーに他ならない。戒道と護は同時に叫んだ。

「ヘル・アンド・ヘブン──ッ!」

 夢装ガオガイゴーが両掌を拡げるとともに、フォルテとオウグがその肘から先を覆い、両腕は元の倍以上のサイズとなって膨れあがった!
 グオオオオオッ!
 強敵の出現を感じとったのか、覇界王ジェネシックが地の底から響くような咆吼をあげる。同時にその全身から、高密度のトリプルゼロが放出された。鉄板か大岩を叩きつけられたかのような物理的圧力を浴びて、氷原から吹き飛ばされるルネのガオファイガー。

「うわあああっ!」

 覚醒人V2とジェイダーも同様だ。この直前まで繰り出されていた連続攻撃を意に介していない様子で、三機を一瞬にしてねじ伏せる。そして覇界王は次なる標的に振り向いた。オレンジ色に輝く虚無の双眸が、夢装ガオガイゴーを見据える。

『逃・げ・て……』

 それは覇界王の言葉ではない。そのうちに封じられた、紗孔羅の意思。次の瞬間に起こるであろう事象を予知した紗孔羅が、リミピッドチャンネルで警告したのだ。もしかしたら、何らかの方法で覇界王ジェネシックが全力を解き放つことに抵抗していたのかもしれない。だが、それも限界だった。尾部のガジェットツール、そのいくつかが手甲に変形して、覇界王ジェネシックの両掌を覆う。
 最強のヘル・アンド・ヘブンである。
 次に放たれる攻撃を予見した、紗孔羅の警告が響く。

『逃・げ・てッ!』

 だが、戒道も護も、そしてソムニウムたちも今さら逃げるつもりなどない。

「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ……」

 戒道と護の詠唱が重なり、夢装ガオガイゴーの右腕からJジュエルの力が、そして左腕からGストーンの力が放出される。それらは捩り合わさって、若き勇者王の全身を銀色に染め上げる。重ね合わされる、赤の星と緑の星、二つの力──いや、それだけではない。今重ね合わされているのは、ヒトとソムニウム──二つの種族の力でもある。
 この星に生きる、生きとし生ける者たちの力を合わせて、銀色の勇姿が突っ込んでいく。

「はああああっ!」

 それを待ち受けるのは、オレンジ色に燃ゆる魔姿。いや、待ち受けているわけではない。正面から迎え撃つ。極寒の氷原に激突する、ヘル・アンド・ヘブン対ヘル・アンド・ヘブン──!
 固く握り合わされた拳と拳がぶつかりあい、時が静止した。力の均衡は奇妙な膠着をもたらし、それは一瞬であったはずなのだが、永遠に続くかもしれぬと思わせる静寂を発生させる。否、その場にいる者が耳をすませたなら、かすかに聞こえたはずだ。夢装ガオガイゴーの両拳に走って行く微細な亀裂の音を。
 だが、戒道にも護にも怖れはない。このぶつかり合いによる膠着こそが、待ち望んだ瞬間だったのだから。レーザーG装甲に刻まれていくヒビ割れの彼方に、もう一つの異音が響く。凍てついた大気を斬り裂く風切り音。それはヘル・アンド・ヘブンの体勢に入る直前、ベターマン・アーリマンの尾が投擲した、ベターマン・オウグのフライングサーベルである。カタフラクトの全身は一体の固形物ではなく、ペクトフォレースによる化学分解で接続されただけにすぎない。羅漢はおのが変身態に宿る黒色の刃を、あえて夢装ガオガイゴーの腕に合体させず、投擲兵器として背面のライに委ねたのである。
 影のブーメランのように虚空をかけた黒色のフライングサーベルは、覇界王ジェネシックの左膝に、その背後から音もなく直撃した! 頑強なはずの覇界王の関節がやすやすと切断される。つい先ほど、カタフラクトが両肩の突起で測定していたのは、覇界王ジェネシックの物質構造であった。生態系や物質の特性を知り尽くした羅漢は、もっともベターな解離現象を引き起こす条件を、化学的に、構造的に、力学的に、自然科学のもとに、オウグの刃に籠めたのだ。その刃の前には、いかなる装甲も抵抗できず斬り裂かれるしかなかった。ジェネシック・ガイガーの片脚を内包したまま、左脚の膝下部が宙に舞う──それはまさに、紗孔羅をうちに収めたストレイトガオー部に他ならない!

『乾坤を賭し、一擲をなさん──』

 激突したままの夢装ガオガイゴーの右腕で、双眸が輝いた。それは融合したベターマン・フォルテの眼である。にらみつけるのは、切断されたストレイトガオー。ラミアもまた、クランブルポイントのサーチを怠ってはいなかった。双眸のすぐ至近にあるスライディングサーベルが、神速の勢いで刺突する。狙い過たず、その突端は物質崩壊点を見事に突き、頑強なるトリプルゼロの防御壁を破壊し中央部を貫いた。だが、紗孔羅の肉体を粉砕したりはしない。スライディングサーベルの尖端には、ベターマン・ルーメの薄物がまとわりついていて、柔らかく優しく、紗孔羅を包み込んだのである。
 ソムニウムたちの無言の連携プレイで紗孔羅が保護されたのを見届けた時、護の脳裏によぎる記憶があった。
 それは十年前、ソール11遊星主との戦いを終え、三重連太陽系から帰還した後に見た、京都における記録映像。その中では勇者王と勇者王が激突していた。複製されたもう一人の自分がファイナルフュージョンしたレプリジン・ガオガイガー。そして、エヴォリュダー獅子王凱のガオファイガー。それは、いまの覇界王ジェネシックと夢装ガオガイゴーのようにヘル・アンド・ヘブン同士の激突であり、まさに相似形ともいうべき同じ構図の再現だった。
 だが、すべてが同一というわけではない。片脚を失った覇界王ジェネシックは大地を踏みしめることができずに、バランスを崩した。しかし、すかさずベターマン・ポンドゥスの超重力波が至近距離から覇界王に圧力をかける。それでも無限の出力を誇るトリプルゼロは、圧倒的な力で押し返してくる。

「サイコカーム!」

 夢装ガオガイゴーの背面推進力を補っていたベターマン・トゥルバの翼から、ガジュマルの意思が響き渡る。真空の渦が覇界王の再生オーラを左右から削り取っていく。だが、まだまだ墜ちない。覇界の王はそれでもオレンジ色の劫火を噴出し続ける。
 護は思い出していた──

(忘れたのか、護。最後に勝利するのは──)

 記録映像の中で、凱はもう一人の護に呼びかけていた。その時の言葉が、護の脳裏に蘇る。

(忘れてないよ、凱兄ちゃん……)

 天海護は眼前の覇界王ジェネシックを見据えた。これが最後の戦い──おそらくはトリプルゼロの浸食によるものであろうZマスターの暴走に始まり、長い間続いてきた戦いの。これが最後の一撃──様々な悲劇をもたらし、人々を苦しめてきた運命の変転に終止符を打つための。

「最後に勝利するのは……勇気ある者だぁぁっ!!」

 記憶の中の凱に唱和するように、護が叫んだ。同時にすべての想いと、すべての勇気を乗せた両拳が、覇界王ジェネシックの両拳を粉砕した!
 ベターマン・アーリマンの細く長いパーツが伸びて、行く手に空いた径が塞がらぬよう内側をガードする。戒道は、すかさず夢装ガオガイゴーの凱号パーツたるアナライズアームを駆使して、その径を通りそのままギャレオンの中枢部をつかみ取った。

「よし、ブラックボックスを確保した!」
「はあああああっ!」

 戒道と護の連携にも、乱れはない。覇界王に再生する隙を与えず、夢装ガオガイゴーはギャレオンのブラックボックスを一気に引き抜いた──!

 

 少し前に遡る――
 南極でブロウクン・ウィルナイフの凶刃がゴルディーダブルマーグを貫いた瞬間──
 同時にGGGオービットベース二十三層において、もう一つの凶刃が火麻激の喉笛に向けて閃いていた。
 だが、こちらは間一髪、防がれた。火麻は持ち前の反射神経で、サブマシンガンの銃身を自分の首筋に差し入れたのだ。鋼鉄の銃身が、コンバットナイフの刀身を食い止める。異様な手応えにプリックルが戸惑った瞬間──

「うおりゃああああっ!」

 火麻は体を押さえ付けてくるプリックルの両脚を振りほどくと、右脚を後方に跳ね上げた。自分の腰を支点として、プリックルの全身を回転させる。柔道の払い腰の要領で体勢を入れ替えた火麻は、二人分の体重をかけるようにして、プリックルの体を床面に叩きつけた。

「グハアアッ!」
「相変わらずお前さんは、初手に対応されると弱いんだな!」

 死闘のさなかとは思えない笑みを浮かべてつぶやいた火麻は、すぐ近くで見つめている火乃紀に声をかけた。

「彩! 急げ、タマラを止めるんだ!」
「わ、わかりました!」

 一瞬で気を取り直した火乃紀は、ウルテクエンジンの制御端末に向かっているタマラに、背後から近づいた。そして、シナプス弾撃の要領で、素早くペン型の無針注射器を首筋に押し当てた。

「ああなにをするのですひのきさ……」

 反応したタマラだったが、すぐに皮膚の表面から浸透した麻酔で昏倒し、その体を床に横たえた。時間はない。火乃紀はタマラを放置して、すぐさま制御盤にとりついた。

(お願い……間に合って。オービットベースを墜落させたりは……!)

 火乃紀は的確な操作でオービットベースのウルテクエンジンをフル稼働させた。対地速度をあげれば、遠心力で軌道高度が上がり、墜落の危機はまぬがれる。
 ──はずだった。だが、時間をかけすぎたのかもしれない。すでに危険なほど高度を下げたことによる地球重力の影響は、あまりにも巨大だった。ウルテクエンジンの最大稼働でも、高度を上げることは難しい段階に至っていたのだった。

 その状況はもちろん、メインオーダールームでも把握していた。

「……スワンくん、では墜落は避けられないというのだな」
「ハイ……」

 大河の確認に、スワンが沈痛な表情でうなずく。だが、指揮官には呆然とする暇など許されない。大河は一瞬のうちに、決断をくだしていた。

「初野くん、大至急ワダツミとヤマツミを帰還させてくれ。阿嘉松長官は、オービットベースの全スタッフを両艦で脱出させる、その指揮をお願いします」
「お、おう、わかった!」
「牛山三兄弟は、オービットベースの各部を分解するシークエンスの準備を。海上に落ちる前に、少しでも小さなブロックに分けて、被害を最小化する!」
「了解です!」

 次男、末男とともに、牛山一男が了解の声をあげた。これより先、彼らの行動は一分一秒を争うことになる。わずかな作業の遅れが、地上の被害を数億人単位で拡大させることにもなりかねないのだ。三兄弟は息の合った分担で、それぞれの役割を無言で振り分け、作業を開始した。その瞬間である──

「特務長官! ジェネシックが再稼働しました! 覇界王はまだ斃れていません……ああっ、そんなっ!」

 アルエットのその声は、報告というよりも悲鳴に近かった。

 南極大陸の氷原──
 左脚を失い、ギャレオンのブラックボックスを摘出された覇界王ジェネシックは、もはや爆散するのみかと思われた。だが、胸の獅子は瞳の輝きを失ったものの、頭部の双眸からはオレンジの輝きが失われていない。
 トリプルゼロの化身は、いまだ息絶えていなかったのだ。

(グワアアアアアアッ!)

 異音のような咆吼ととともに、ガジェットガオーの頸部が分解する。そしてそれは、巨大なツールと化して、覇界王ジェネシックの両腕に装着されていった。

「あれは……まさか!」

 大地に倒れ伏したまま、動けずにいたジェイダーの中で、ソルダートJが驚愕する。そのツールはたしかに、彼の記憶に残っていたのだ。かたわらのガオファイガーにファイナルフュージョンしているルネにとっても、同様だ。

「……ギャレオリアロード!」

 覇界王ジェネシックは、かつてオレンジサイトで用いられたガジェットツールを、天に向けた。

「J、ヤツは何をする気なんだ!」

 戒道の問いに、Jは答える。

「あれは次元ゲートを開くツールだ…」

 その声に無力感をにじませながらJは続けた──

「おそらく覇界王は、この場とオレンジサイトを直結させ、トリプルゼロの母体たる本流を呼び込むつもりなのだ……」
「そんなことをしたら……地球は一瞬で!」

 直ちに事態を理解した戒道が、慄然とする。ともに夢装ガオガイゴーにダイブしている護も同様だ。今までギャレオリアロードを使わなかったのは、本流の膨大なエネルギーの流出により、宇宙全体がどういう状態に陥るのか、トリプルゼロ自体もシミュレーションできない最終手段であるためだ。滅びを超えた滅び。無を超えた無に至る、恐るべき現象が起きようとしているのである。
 ようやくここまで辿りついたのに──
 その絶望が彼らを包みかけた瞬間、“その声”が南極に響き渡った。

「まだだっ! まだあきらめるな、絶望する必要はない! 俺たちには……勝利の鍵が残っているッ!」

 覇界王ジェネシックに敗北したかに見えた初代勇者王が、ふたたび氷原に屹立している。そして、そこから轟く獅子王凱の叫びは、すべての者の魂を揺るがした。
 極点でともに戦う若き勇者たちの魂を。オービットベースで奮闘するGGGスタッフたちの魂を。そして、中継映像を見守る全世界の人々の魂を――。

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回11月30日更新予定


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