覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第63回】

覇界王,ガオガイガー,ベターマン,矢立文庫,勇者王

← 前作品ページ次 →


《前回までのあらすじ》

 覇界の眷族によって、全世界にトリプルゼロが拡散された! ゼロロボが大量発生し、地球全土が制圧されるまでの猶予はあとわずか。だが、GGGブルーは死力を尽くして戦い、覇界幻竜神、覇界強龍神、覇界王キングジェイダーという難敵を攻略、取り戻すことに成功する。いまここに、十年前、全宇宙を救うために旅立ったガッツィ・ギャラクシー・ガードの勇者と隊員たちが、すべて帰還したのだ!
 さらにベターマン軍団が二〇〇五年の過去から運んできた、初代ガオガイガーも凱の新たな力として加わった。
 いよいよ最終決戦に挑むGGGグリーンとGGGブルー。覇界王ジェネシックガオガイガーが選んだ決戦の地は南極。そして、覇界王の内部には行方不明だった紗孔羅が封じられていた。凶刃の前に初代ガオガイガーが倒された時、代わりに立ち塞がったのは、ベターマンカタフラクトと合体し、夢装ガオガイゴーとなった新生勇者王だった。今ここに、ヒトとソムニウムの双力を結集したヘル・アンド・ヘブンが覇界王を打ち砕く!

number.09 輪-RING- 西暦二〇一七年(8)


9(承前)

ゴルディーダブルマーグの機体が木っ端微塵に爆散する衝撃波を至近距離から浴びて、軽微ながらも損傷し、倒れた凱のガオガイガー。衝撃により意識を失っていた獅子王凱が、目を醒まして見たものは、夢装ガオガイゴーのヘル・アンド・ヘブンが、覇界王ジェネシックを打ち砕く光景であった。

(護……)

 凱の胸が、熱いもので満たされた。かつて一緒に戦ってきた少年たち──天海護と戒道幾巳が、いまや成人した立派な勇者となって、凱の不在を乗り越え、最大の強敵に打ち勝ってくれたのだ。
 だが、それですべてが終わったわけではなかった。左脚とギャレオンの中枢ブラックボックスを失い、満身創痍となった覇界王ジェネシックが、最後の力でガジェットツールを装備したのである。

「あれは……ギャレオリアロード!」

 次元ゲートを形成する、最後のガジェットツール──かつてそのツールを使った凱の目には、次に起こるであろう事象は明らかだった。

「ソ、ソルJの旦那! なんすかあれ!」

 覚醒人V2がティラノサウルスの爪を模したクローで、上空に出現した空間の歪みを指す。旦那などという、これまで呼ばれたことのない呼称を向けられたソルダートJは、ジェイダーのうちでつぶやいた。

「時間と空間を穿つゲートだ。おそらく覇界王の最後の悪あがきだろう……」
「悪あがきって、そんなもんじゃすまないのではぁっ!?」

 宇宙開闢を司る純粋なエネルギー<トリプルゼロ>。その構成成分の一部が木星に発生した時空のほころびから漏れ出てきたものが<ザ・パワー>であり、その流出によってインビジブルバーストが発生したことは、蛍汰も知っている。頭上に次元ゲートが開くという現象が何を意味するのか、恐怖と絶望を感じずにはいられなかった。だが──

「まだだっ! まだあきらめるな、絶望する必要はない! 俺たちには……勝利の鍵が残っているッ!」

 氷原に立ち上がった初代勇者王ガオガイガーから、凱が叫ぶ。

「メインオーダールーム、いますぐフォーメーションFをッ!」

 常ならば、獅子王凱の要請にメインオーダールームが躊躇することなど、あり得なかっただろう。しかしこの時、卯都木命は即答することができなかった。

(凱……!)

 現在、オービットベースは非常事態のただ中にある。対地速度の低下による地上への墜落軌道にあり、全スタッフの脱出と各ブロックの分解が進められているのだ。当然、それらの作業と“フォーメーションF”の発動を同時に進めることは、困難を極める。

「……現状で、私を含めて十名程度の人員が残れば、フォーメーションF発動は可能だ。ただちに残留スタッフの人選を始めよう」

 冷静な声で、楊龍里が大河特務長官に提案する。南極に次元ゲートが開かれれば、膨大なトリプルゼロの奔流により、人類の全滅どころか、この宇宙全体がビッグバン級の爆発によって消滅する可能性すらある。それを避けるためには、十名程度の犠牲と、オービットベースがそのまま墜落することによる被害は、甘受すべきだ……そう言外に主張している。もちろん、自分がその犠牲の一人となることに、躊躇はない。GGG上層部にあって、そのような決断を即座にできるのは、この楊という人物だけだったかもしれない。だが、提案を受けた大河もまた、選ばねばならぬ瞬間に、躊躇や感傷に判断をくるわされるような人物ではなかった。一瞬のうちに決断をくだし、指令を発しようとした、その瞬間──

「! オービットベースの軌道に変化が起きマシタ!」

 スワンが軌道模式図をメインスクリーンに投映する。わずかながら対地速度が上がり、墜落軌道にズレが生じていることが見て取れる。

「いったい何が起きたのだ……」

 大河のつぶやきに応じたのは、オービットベース分解作業を一時停止した牛山次男である。

「特務長官、これを! 勇者ロボたちが、オービットベースを押しています!」

 サブスクリーンに映し出されたのは、翔超竜神、撃龍神、天竜神、星龍神、ビッグボルフォッグ、ビッグポルコート、バリバリーンに乗ったマイクサウンダース13世が、オービットベースの後方に取り付いている光景だった。いずれも前回の戦いにおける損傷を修理しきれていないため、破損や装甲の脱落箇所があちこちに残っている満身創痍の状態だ。それでも彼らはウルテクエンジン全開で、オービットベースを加速上昇させようとしていた。

『……特務長官、無断発進をお詫びします』

 音声モニターから、翔超竜神の声が響いてくる。

『ですが、オービットベースの……いえ、人類の、地球の、この宇宙の危機に、黙って寝ていることなどできません!』

 その機体はかろうじてトリニティドッキングの形体を保っているが、衝撃によりいつ分解してもおかしくはない。

『翔超竜神のデータベースからは、安全とか慎重とか、色々削除されちまってるようだ』

 すぐかたわらで、装甲すらまともに装備されていない撃龍神が、機体を軋ませながらもおどけてみせた。

『お兄さまたちに付いていきます! どこまでも!!』

 天竜神と星龍神が声を揃えて、機体背部のスラスターを噴射させる。

『マイクだって頑張ってるんだもんねー!』

 マイクサウンダース13世が、CRロボのパーツを流用して応急修理されたバリバリーンで、最大出力をもってオービットベースの外壁を押し上げる。

『こっちも負けてないよ』

 ビッグポルコートは、高出力のクライマー1を抱え衝撃に耐えている。ビッグワッパーでその機体を繋ぎとめているのは、ビッグボルフォッグである。

『我々は諦めません! 絶対に!』

 サブスクリーンに映る勇者たちの姿に、メインオーダールームのスタッフたちは胸を打たれた。

「……感謝する、勇者諸君」

 万感の思いを押し殺して、大河はそう答えた。低軌道上でこれほどの無理をすれば、オービットベースを救えたとしても、力尽きた者は超AIごと砕け散り、地上に落下するかもしれない。そんな危険は承知の上で、勇者たちは出撃したのだ。大河はメインオーダールームに響き渡る声で、万感の思いに、さらに万感を上乗せして叫んだ。

「フォーメーションF!!……発令ッ!!!!!」

 

「Gサーキュレーションベース第一から第六、フォーメーションF発動準備に入りました!」
「高圧Gリキッド、循環速度を最大ゲインに増幅完了!」

 フォーメーションFのオペレーションを引き受けた卯都木命とアルエットが、手早く報告を続ける。かつて、グローバルウォール計画において、人類を救ったプロテクトウォール──その原理は、六基のウォール衛星に地上のGサーキュレーションベースからGリキッドを供給、非実体型ウォールリングを形成するというものだ。衛星軌道サイズのウォールリングは、オービットベースに装備されているプロテクトシェードを巨大なプロテクトウォールへと強化することで、地球全体を覆う防御壁を展開するのだ。

「このウォールリングをモードシフトすることで、ファントムリングとして運用する仕組みを、楊博士や滋が準備してくれていたのでな!」

 そう胸を張ったのは、獅子王雷牙である。付け加えるのであれば、楊や阿嘉松が準備した機能に、更なる強化改修を雷牙自身が施している。

「衛星軌道サイズのファントムリング……どれほどの出力を発揮するか、僕ちゃんに見せてくれ! いそげ、凱……この力でトリプルゼロに対抗せーい!」

 

「ああ、まかせてくれ……ウォールリング・モードシフトッ!」

 南極大陸で、ガオガイガーが右腕を天に突き上げる。その時、全周囲の地平線が眩く輝いた。赤道上空の衛星軌道上に展開するウォールリングが、ファントムリングへとモードシフトを開始したのである。

(グオオオオオ……ッ)

 この時すでに、ギャレオリアロードで次元ゲートを開放した覇界王ジェネシックにも余力はない。その現し身に残されたすべての力を振り絞ったのか、超再生力を失った機体は自壊して、氷原に崩れ落ちていった。
 だが、その置き土産ともいうべき次元の門はついに、極点上空に開放された──

 

 次元ゲート、開く!

「どうするつもりだ、凱!」
「ゲートからあふれ出すエネルギーを、この手で押し戻す!」
「なにっ! 相手はトリプルゼロだぞ……そのようなことが!」

 ソルダートJは、その後に続く「可能なのか?」という言葉を呑み込んだ。これまでどのように絶望的な状況下でも、彼らGGGはあきらめることはなかった。あらゆる対策を想定し、準備を積み重ね、実行してきた。その結果を、ソルダートJは常に目撃してきた。ある時は敵として、またある時は味方として。

『この放送をご覧になっている、全人類同胞諸君に申し上げます……』

 南極からの中継映像にあわせて、メインオーダールームからの大河幸太郎の演説が流れていく。

『ただいま、南極では覇界王と呼ばれる、宇宙の摂理を全うしようとする存在が次元ゲートを開放しました』

 その言葉とともに、極点上空に開かれたゲートの様子が大写しになる。国連はそれらの情報を隠し通すつもりはなかった。ハート・クローバー事務総長の決断のもと、すべてを包み隠さず、中継している。
 オーロラの彼方に見える次元ゲートから、あふれ出すオレンジ色の輝き。それが宇宙の卵とも言うべき膨大なエネルギー<トリプルゼロ>であり、そのかけらがかつて木星で観測された<ザ・パワー>であることも、全人類に公開されている。

『このゲートからあふれ出るであろうエネルギーは、一瞬で地球を吹き飛ばし、太陽系をも消滅させるであろう膨大なものです。しかし、怖れる必要はありません!』

 ここにオービットベースから撮影された、宇宙空間の映像が挿入された。それは、黄金色のリングに包まれた地球の姿だ。

『我々人類はこれまでの日々──様々な試練に、ただ手をこまねいていたわけではありません。常に死力を尽くし、知力と勇気を振り絞り、抗い続けてきました。しかし今、これまでで最大の危機が訪れようとしています。ですから、この放送を聞く、全人類同胞すべてに申し上げたい。人類存亡の窮地を迎えたいまこの時、あなたの勇気を振り絞っていただきたい!』

 

 この時、ガオガイゴーから分離したソムニウムたちは、それぞれの変身態が限界を超えて繊維化したため、生身で極点の大地に立っていた。中継映像とともに流れる大河の声を、受信する手段はない。だが、その声を聴く人々の想いは、リミピッドチャンネルに乗って、彼らのもとへも届いていた。

『いやはや、これだからヒトというものは興味深い』

 手に持った琵琶のような楽器をかき鳴らし、ライが微笑みながら続ける。

『我らはこの地に来て、興味深い隣人とともに愉しい日々を過ごしてきた。いやぁ、それが終わるかもしれないとは、残念なことですな』

 ライの視線の先では、ラミアがガオガイガーを見つめている。

『……我らは、パトリアの刻を迎えねばならぬ』

 頭上に右腕を掲げた勇者王を見つめる、ラミアの血の色の眼光。そこには様々な意思が込められている。それを分析するならば、敵意と敬意の混合となるのかもしれない。

 

『──あなたたち一人一人の生き抜く意志を、胸のうちに強く抱いていただきたい!』

 大河の呼びかけは、単なる感傷への訴えかけではない。赤道上に存在するGサーキュレーションベースには、オービットベースのウルテクエンジンをも上回るハイパーGSライドが設置されている。それは世界中の人々の生き抜こうとする意志、その誓いを結集させた魂の力──すなわち“勇気”をエネルギーへと変換し、衛星軌道上のファントムリングに供給する。それこそが、トリプルゼロに対抗する唯一の手段となるのだ。
 そしてこの瞬間も、オービットベースの下部では、勇者ロボたちがウルテクエンジンをフル稼働させ、希望を支え続けている。

「翔超竜神! 君の損傷は他の者よりも重大だ……ここは仲間にまかせて、下がりたまえ!」

 そんな大河の指示に、翔超竜神が異議を唱える。

『機体や超AIがバラバラに砕け散ろうとも、絶対に下がりません!』

 人間の危機を救うためなら、人間の命令にも抗う。それは彼らのAIに課せられた三原則のひとつである。いや、与えられた原則以上に、彼らが学び育まれた勇者の魂が、この場から退くことを拒んでいた。

「ビッグボルフォッグ! このままじゃ三百秒で稼働限界に到達するぞ!」
『猿頭寺オペレーター! フォーメーションFが完遂するまで、我々はここを離れません!』

 通信回線を通じて、ビッグボルフォッグの固い意志が伝わってくるようだった。自分の冷徹さを自覚しながら、猿頭寺はできうる限りのサポートを試みる。あと数百秒──トリプルゼロを押し返すまで、ウルテクエンジンが持つように──

(一緒に戦うぞ、ビッグボルフォッグ。最高のオペレーションで補佐してやるからな!)

 人と勇者たちが、すべての思いを振り絞っている。最大の危機を乗り越えるために!

 

『ンー…無限なる暁の霊気に、ヒトと機械人形どもの心が対抗しうるのか……このときを利用し、我らは眠りにつくべきであろう』

 活動限界を超えた羅漢は、冷静に氷原に立つ他のソムニウムたちに、そう意思を伝えた。

『呑気に寝てなどいられるか! 俺たちまで暁の霊気に吹き飛ばされちまうかもしれないんだぞ!』

 焦りを隠せないガジュマルの意思だったが、他のソムニウムたちは同調しない。

『今のボクたちには眠りが必要だよ』

 ヒイラギが意思を発しながらも、毛皮のようなものに包まり、その場に座り込んだまま眠りについた。

『完睡ではない。ガジュマルは慣れていないかもしれぬが、いわゆる仮眠というものだ』

 そう意思を伝えたユーヤも、既に水クラゲのような袋の中で静かに揺蕩っている。

『………』

 いつも口数の多いライですら、竹林のような藪を形成し、隠れるように眠っている。

『ガジュマル、まだ終わらない……だから……』

 ただ一人変身態にはならずにいたシャーラも、フードを深く被り座り込んだ。

『シャーラ……お前が眠りについている間、俺が見張っている』

 息まくガジュマルを見つめるラミアも、繭のような殻を形成し始めた。

『ガジュマル……目的を見失うな。元凶なりし者との決着に備えるのだ』

 ラミアはガジュマルを制すると、そのまま額の十字光を瞬かせ、眠りに向かいながらも特別な意思を伝達しはじめた。情動を抑えきれないガジュマルだったが、最後に羅漢が合成被膜の中で眠りにつくのを確認すると、仕方なさそうに胸門を輝かせた。

『ペクトフォレース……カレウム…』

 ガジュマルから発せられた青白く光る免疫粒子は、ソムニウム全員を取り囲み、その身体を周囲の過酷な環境から守っているようだった。やがて、ガジュマル自身も粒子に抱かれるように静かな眠りを迎えた。しかし、ラミアの特別な意思に呼応するように、七体全員の鼓動が特定の同じリズムを刻みはじめた。そして、ライが眠りながらも動き始める。

『…♪…♪…♪』

 手に持った楽器をかき鳴らし始めると、太古の吟遊詩人を思わせる所作で、七体のリズムに合わせ、おのが意思を発信しはじめた。
 それは未来への希望を歌いあげた意思。隣人たちと手をつなぎ、輪を作ることを尊ぶ意思。それこそが、押し寄せる宇宙の摂理に抵抗する唯一の手段なのだと、この惑星ほしに生きとし生ける生命すべてに語りかける意思だった。
 かつて勇者たちとソール11遊星主が戦った際、地球に住む人々の意思を、眠りについたままのラミアが束ね、三重連太陽系に送り届けたことがあった。いまもまた、ラミアを中心とした七体のソムニウムが、あたかもそれぞれの楽器を奏でるように呼応し、ライの歌にのせて、全人類の心の奥底に語りかけ、あの時以上の結束力を持って、人々の意思をひとつの輪につないでいった。

 

「各Gサーキュレーションベースよりフィードバック! 想定値の三万五千八百パーセント以上の出力で、GSライドが活性化しています!」
「現在、ファントムリングの直径は八四四〇〇キロメートル!」

 命とアルエットの報告は、全人類が示した“勇気”がGGGの想定した値を遥かに上回っていることを意味するものだった。それを理解した楊が指示を出す。

「よし、この直径を維持したまま、南極上空二〇〇〇まで移動する……急げ!」
「ウイ!」

 アルエットの的確なオペレーションで、赤道上空に滞空していた非実体型ファントムリングは極点方向へ移動を開始した。エネルギーの塊といえど、直径八万キロを超える被造物の移動など、人類の歴史上、神々の業に匹敵するであろう空前絶後の行為である。しかも、そこには数十億もの全人類の勇気ある誓いが込められている。

「アルエットちゃん、南極の方はまかせて! ガオファイガーも引き受ける!」
「メルシー、初野先輩!」

 後輩の大きな負担を見てとった華が、バックアップを引き受ける。メインオーダールームのスタッフたちの、今にも地上に墜落するかもしれないという恐怖を乗り越える勢いの懸命なオペレーションで、フォーメーションFはいよいよ最大のクライマックスを迎えようとしていた。
 中継映像を見ていた人々は、あるいは白天に、またあるいは夜空に浮かぶ黄金の輪の一部を視認し、それが自分たちの知恵と勇気が成し遂げたものであると知り、胸を熱くした。

 

 南アフリカ大陸──アンゴラ共和国のナミブ砂漠で、暗夜に浮かぶ光の輪の光景に感動した牛山三男も、そんな人類の一人である。

「すごい……一男兄ちゃんや次男兄ちゃん、末男があれに関わってるなんて……」

 国連防衛勇者隊でも有名な整備部の牛山ブラザーズ。彼らの兄弟でありながら、ただ一人だけGGGに加わらなかった三男が、誇りを胸に天を仰ぐ。荒廃する地球環境の研究に一生を捧げると誓った、自分の決断に後悔したことはこれまで一度もない。だが、仲が良かった兄弟たちと違う道を歩むことに、寂しさを感じる瞬間は幾度もあった。しかし──

(僕たちは、別々の道を進んでるわけじゃない。どこにいても一人じゃない。みんな地球の仲間……僕たちはひとつなんだ……)

 そんな三男のかたわらで、関心なさそうにしている少年・ケイ。その肩に手を置いて、三男は語りかけた。

「ケイ……きっと、君のご両親も、お空の上からあのリングに力を貸してくれているはずだよ」

 三男のこの言葉には、それほど深い意味が込められていたわけではない。ケイの無感動な横顔を見ていたら、ついこぼれてしまったというだけの、三男本人すら信じてなどいない言葉だ。だが、ケイという少年の父と母が、最後の日々をともに過ごした仲間たちの想いも、あの輪には込められている。誰が知ることがなくとも、想いはこうして受け継がれていくものなのだ。

 

『うおおおおおおおおっ!』

 勇者ロボたちの勇気ある決死の行動が、オービットベースを衛星軌道に押し上げた。

「うおおおおおおおおっ!」

 それを知ったGGGクルーも一斉に歓喜に沸く。

 

 そして、激戦の果て──南極大陸。
 上空に開いた次元ゲートからは、眩いばかりのオレンジ色の輝きが見えてきた。歪曲された空間を通じて、あの門は<宇宙の卵>に直結しているのである。そこからあふれ出ようとしているのは、ひとつの宇宙を構成するすべてのエネルギー。数ピコ秒後にはビッグバンを引き起こすであろう膨大な圧力が、そこにある。
 それを正面から迎え撃とうと、はじまりの勇者王は右腕を頭上に掲げている。それに応えるべく、地球上の生命たちすべての知恵と勇気ある誓いを結集した、直径八四四〇〇キロメートルのリングが、いま極点に到達した。

「ファントムリング、定位置につきました!」
「エネルギー圧縮を開始せよッ!」
「ウイ! 緊急圧縮シーケンスをスタートします!」

 命や大河、アルエットの声がメインオーダールームに響く。またたく間に数千分の一以下にまで圧縮された光の輪が、ガオガイガーの右腕の周囲に滞空する。

「行くぜ、父さん……ファントムリング・プラスッ!」

 自覚も無しに、凱は亡き父・麗雄を呼んでいた。メインオーダールームで、通信波に乗ったその叫び声を聞いて、獅子王雷牙は想わず目頭を熱くした。
 雷牙にとって、獅子王麗雄は口うるさい弟であると同時に、研究者として生涯最大の好敵手だった。だが雷牙自身は、自分の業績など、麗雄の足下にも及ばないと感じている。二〇〇三年にギャレオンが地球にやってきてから、わずかな期間でそのブラックボックスを解析し、ゾンダーの襲来に備えるという偉業をなしとげたのだから。
 ディバイディングドライバー、ヘル・アンド・ヘブン、ブロウクンマグナム、ゴルディオンハンマー、プロテクトシェード……みな、三重連太陽系からもたらされた脅威の技術だ。だが、それらを解析して勇者王に装備させたこと以上に、雷牙が驚嘆していることがある。それが──ファントムリングだ。
 元々は、ブロウクンマグナムの出力を強化させるための技術である。それが今、Gストーンの導きにより、人々の勇気を輪に変換し、力となす──この技術は、人類である麗雄の天才性があってこそ、実現したものなのだ。いま、その力を麗雄の息子である獅子王凱が自らの力となして、宇宙の摂理に立ち向かう。

(麗雄。この瞬間を見逃すんじゃないぞ!)

 愛妻である獅子王絆とともに精神生命体となった弟が、いまも近くにいることを確信しつつ、雷牙は語りかけた。

 

「うおおおおおっ、ブロウクン……ファントーーーームッ!!!」

 全地球を、全太陽系を、全人類を吹き飛ばさんとするトリプルゼロを放つ次元ゲート。その最大最強の脅威に向けて……直径約三キロの光の輪をまとった高速回転する右腕がいま、勇者王ガオガイガーから放たれた。

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回12月15日更新予定


← 前作品ページ次 →


関連作品


【第59回】MIKA AKITAKA'S MS少女NOTE ▶

◀ 【第101話】ベルコ☆トラベル

カテゴリ