覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第64回】

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《前回までのあらすじ》

 覇界の眷族によって、全世界にトリプルゼロが拡散された! ゼロロボが大量発生し、地球全土が制圧されるまでの猶予はあとわずか。だが、GGGブルーは死力を尽くして戦い、覇界幻竜神、覇界強龍神、覇界王キングジェイダーという難敵を攻略、取り戻すことに成功する。いまここに、十年前、全宇宙を救うために旅立ったガッツィ・ギャラクシー・ガードの勇者と隊員たちが、すべて帰還したのだ!
 さらにベターマン軍団が二〇〇五年の過去から運んできた、初代ガオガイガーも凱の新たな力として加わった。
 いよいよ最終決戦に挑むGGGグリーンとGGGブルー。決戦の地・南極にて、ヒトとソムニウムの双力を結集したヘル・アンド・ヘブンが覇界王を打ち砕く! だが、最後の力を振り絞った覇界王は、ギャレオリアロードで次元ゲートを開いた。トリプルゼロ本体が流れこんでくれば、地球はおろか、全宇宙が滅んでしまう。この窮地にガオガイガーは、人類すべての勇気ある誓いを結集したブロウクンファントムを放つ!

number.09 輪-RING- 西暦二〇一七年(9・完)


9(承前)

「トリプルゼロ可観測量、トラックナンバー003より655まで、準位が低下しつつあります!」
「ブロウクンエネルギーの損失分、マイナスを維持! このまま行けマス!」

 アルエットやスワンの報告が、メインオーダールームに響く。それらの意味するところは明白だった。南極上空に出現した次元ゲートからあふれ出ようとしている超エネルギー<トリプルゼロ>の流出が、止められようとしている。いや、次元の彼方へ押し戻されつつあるのだ。

「万能力作驚愕艦<カナヤゴ>より、カーペンターズを発進!」

 大河の指令を受けて、極点近くで滞空していたカナヤゴからツールロボ群が発進する。覇界王ジェネシックによって、壊滅させられた南極観測基地の救援活動に当たっていたのだが、ここに来て思いも寄らぬ任務が与えられたのだ。

「頼むぞ……みんな!」
「了解!」
「任せろ!」

 ガオガイゴーとガオファイガーが飛び立った。ブロウクンファントムを放った姿勢のガオガイガーの両脇から。

「ツールコネクトッ!」

 空中で両腕を掲げた二体の勇者王のもとに、カナヤゴから飛来したツールロボが三機ずつコネクトして、プライヤー型のハイパーツールを構成していく。そこに続いて、ジェイダーも飛ぶ。

「我らも行くぞ!」

 慌てて覚醒人V2も続く。

「お、俺もっすか!」

 それぞれが掲げた両腕には、バージョンアップされたDP-S4、T5、P6といった別機体がコネクトすることで規格の違いを調整、微妙に仕様の異なるハイパーツールを装備した。十得マルチ工具のように様々な組み合わせのコネクトは、いまこの瞬間も的確なオペレートを続けるメインオーダールームのオペレーター陣による熟練の業である。

「よっしゃ……俺も行くっ!」

 ついにトリプルゼロを完全に押し返したガオガイガーも右腕を回収、宙に飛んだ。

「またお前たちの力を借りるぜ……ツールコネクト!」

 宙を舞う無数のカーペンターズたちの中から、三機がガオガイガーにコネクトしていく。嬉しそうにカメラアイを明滅させているその三機は、どうやら獅子王雷牙が最初に開発したプライヤーズだったらしい。コネクトを終えたガオガイガー、ガオガイゴー、ガオファイガー、ジェイダー、覚醒人V2が揃った!

「ディメンジョン! プライヤーッ!」

 五機にフュージョン、もしくはダイブしている六人の声が一斉に重なる。

『全機、全周方向からゲートを閉塞するのだ!』
「了解!」

 楊龍里の指示に従い、全機がハイパーツールで空間を歪曲させていく。

「……くっ、すごい圧力だ」
「幾巳! 僕も半分引き受ける!」

 巨大なブロウクンファントムで押し戻されたとはいえ、次元ゲートからあふれ出ようとするトリプルゼロのエネルギー圧は極大である。ガオガイゴーのメインヘッドダイバーである戒道幾巳が猛烈な負荷に耐えかねていると悟って、護がその半分のコントロールを担う。

「助かる、護!」
「幾巳が戦う時も、いつも僕が一緒にいるからね!」

 ついさっき言われたばかりの台詞を、護が返した。戒道は笑みを浮かべて、ディメンジョンプライヤーの出力調整に専念する。

「どわあぁーっ! リンカージェルが沸騰しちまうー!」

 機体が分解しそうな圧力に耐える蛍汰。強化された透析システムを搭載したV2だが、高出力による稼働限界は近い。

「これが私ら命ある者の最後のあがきだっ!」

 背中にジェイクオ―スを担いだガオファイガーの中で、ルネが金色のハイパーモードに出力アップする。五機によるハイパーツールの同時使用! だが、それでもトリプルゼロの膨大な圧力を撥ねのけての次元ゲート閉塞は、困難を極めた。その時──

「来てくれたか……我が友よ!」
「待たせたな、J!」

 ジェイダーの頭上に、巨艦が姿を現した。覇界王ジェネシックの初手による破損から自己修復を終えたキングジェイダーの胴体部、その変形した姿であるジェイキャリアーだ。ディメンジョンプライヤーを振るったまま、ジェイダーが叫ぶ。

「メガフュージョンッ!」

 ソルダートJがフュージョンしているジェイダーはその場で頭部となり、彼の親友たる生体コンピューター<トモロ0117>が制御するジェイキャリアーが胴体となって、ジャイアントメカノイドが完成する。

「キング…ジェイッッダーーーッ!!!」

 頭部でハイパーツールを保持したまま、キングジェイダーが十本指をかまえる。すると、そこに三十機のカーペンターズが群がってきた。三機一組で形成された直列合体の十本のツールとなり、それぞれがジャイアントメカノイドの十本の指に装着されていく。

「ディメンジョン! テンタイムズ! プライヤーズ!」

 キングジェイダーはその巨体故の圧倒的パワーをもって、十本のツールを一気に次元ゲートに突き立てた。この強力な援軍のパワーにより、極点上空に発生した歪曲空間孔が、じりじりと締め上げられるように閉塞されていく。

「これですべてが終わる……すべてが……!」

 かつて、滅び行く太陽系で、人々が生き延びるために始めた計画プロジェクト──それは終焉を超えて、未来の宇宙を犠牲にしようというものだった。そこから始まった危機に、常に直面し、運命を翻弄されてきたのが、獅子王凱とその血族であった。

(いいぞ、凱……そのまま次元ゲートを閉塞させるんだ……)
(私たちも、こちら側から、ほころびを繕います……)

 凱の脳裏に、浮かんでくる“声”があった。リミピッドチャンネルとも、違う。精神生命体として、オレンジサイトと通常空間の狭間の次元に存在する者たちが、凱の知覚に干渉してきたのである。凱にとっては、もっとも近しく懐かしい声。その主を、間違えるはずはない。

「そうか、父さんも母さんも、ザ・パワーで生まれ変わった精神生命体……もうこちらで存在することはできないのか……」

 寂しげな凱の言葉に、二人の笑いあうような声が返ってくる。

(悲しむことはないのよ、凱……)
(僕たち夫婦は、これから誕生する宇宙の卵とひとつになるんだ。まあ、要するに生まれ来る宇宙のすべてが、僕と絆の子供ということになるかもしれんな!)

(忘れないで、凱……百五十億年前に誕生した、この宇宙のすべてが……あなたの兄弟なのですよ……)

 二人の言葉が、凱の胸のうちに染み入っていった。もう悲しむことも、寂しがることもない。なぜなら、勇気ある誓いのすべてが永遠にともにあると、理解できたのだから──

「ありがとう……父さん、母さん……」

 獅子王凱は少年期に、ザ・パワーをめぐる探査計画で母を失い、宇宙を目指すことになった。そして、機界31原種との木星決戦で父を失った。そんな彼の旅路はいまここに、ひとつの結末を迎えようとしていた──

「俺たち知的生命体は、これからもこの宇宙で生きていく……摂理によって宇宙が冷え切っていく、何十億年か先の未来まで……それが俺の、俺たちの、俺たちみんなの誓い……」

 凱はよりいっそう大きく声を張り上げた。

「これが“終焉を超えた誓い”だぁぁぁっ!!!!」

 ガオガイゴー、ガオファイガー、キングジェイダー、覚醒人V2、そしてガオガイガーが全出力を振り絞り、ハイパーツールを振るう。五機から放たれたエネルギーの奔流は五芒星のような光を描き、その輝きは全宇宙を押し流そうとするエネルギーの奔流を、封じ込めていった……。

 

10

「次元ゲートの閉塞を確認しマシタ!」
「トリプルゼロのエネルギー反応、観測されず!」
「各南極基地の生存者からの通信を確認、残る十四か所の基地は健在です!」
「よっしゃ、ヤマツミ・ワダツミを救助に向かわせろ! あったけえモンでも届けてやれっ!!」

 阿嘉松が大声で支持を出す。この時すでに、オービットベースは安定した衛星軌道に遷移を終えていた。勇者ロボ軍団のウルテクエンジンによる加速で、軌道維持に必要な対地速度を回復したのである。そのため、ヤマツミとワダツミを、救助活動に振り分けることも可能になった。

「……なんだなんだ、急いで戻ってきたのに、もうカタがついちまったのか!」

 メインシャフトの脇に、火麻が立っていた。中枢ウルテクエンジン制御室から戻ってきたところだ。見つめる一同を代表するかのように、大河が問いかける。

「彩くんは一緒ではないのかね?」
「医療ブロックだ。……アーチンとタマラについてやっている」

 沈痛な返答にうなだれたのは、GGGブルー長官として、彼らの上司であった阿嘉松だ。

「ちくしょう、俺が選んだスタッフはなんだっていつも……」

 いつもアルジャーノンに罹ってしまうのか──おそらくはそう言いたかったのだろう。実のところ、奇病に分類されるアルジャーノンを発症するにあたっては、人類の想像が及びがたい病因が存在する。しかし、ヒトは常にそのメカニズムがわからずとも、病理と対決し続けてきた。そして今も、その最前線に立つ者たちがいる。
 オービットベース医療ブロックに運ばれたアーチン・プリックルとタマラ・ゴーゴリ両名には、ただちに火乃紀の指示による治療が施されていた。

「……PPS、脳室内への持続投与を開始しました」
「ありがとうございます、ドレナージの継続をお願いします」

 二人分のモニターから目を離すことなく、火乃紀は医療スタッフに告げた。短くはないつきあいの同僚たちに、死期が迫っている。思うところが多々あるはずだが、火乃紀がそれを表に出すことはない。

『……もう何をしても、二人は助からないのだろう?』
(まだそうと決まったわけではありません。でも……)

 脳内に語りかけてくる意思に、つとめて冷静に火乃紀は答える。音声言語によるものではない。答えを意識的に言語野で形成することによる発信──リミピッドチャンネルに乗せたのだ。

(培養された脳組織に対しての治験では、明らかに異常型プリオン蛋白への変換を抑える効果がありました。今はこの治療法に賭けてみるしか………)

 培養された脳組織──という言葉を口にした時、火乃紀の胸の奥にちくりと刺すような痛みが走った。明確に意識したつもりはないのだが、相手には伝わったようだ。

『ありがとう、あいつのことを気に留めてくれて。けど……きっと喜んでいると思う。こういう形ででも、あなたや仲間たちの力になれるのなら……』

 リミピッドチャンネル越しでも、はっきりと伝わってくる。その意思の主が“あいつ”と読んだ存在への、深い愛情が。
 火乃紀が行った試験投与に使われた脳組織とは、鷺の宮・ポーヴル・カムイのものだった。これまで、アルジャーノンを発症した者は、大規模な事件の当事者となることが多く、その遺体の多くは、アニムスの花の実をつけるため、ソムニウムによって持ち去られていた。だが、幸いといっては語弊がありすぎるが、カムイの遺体はオービットベース内で保管され、本人の生前の意思もあって、献体として提供されていたのである。

(鷺の宮隊員……私、カムイさんの思いを無駄にはしません。必ず、この治療法で二人を……プリックル参謀と、タマラを救ってみせます)

 その決意に対して、数十メートル離れた治療室から応援の意思が返ってきた。

『成功を祈ってる……それこそが、あいつカムイにとっても、もっとも嬉しいことだと思うから……』

 鷺の宮隆と、鷺の宮・ポーヴル・カムイ……トリプルゼロとアルジャーノンによって、数奇な運命を強いられた兄弟だった。だが、人類は決して立ち止まらない。無数の犠牲を糧に、様々な敵と戦い続けていく。それが病魔という見えない敵であっても。火乃紀は十年以上も続けている、アルジャーノンとの死闘に終止符を打つことを、あらためて心のうちで誓うのだった。

 ディメンジョンプライヤー軍勢によって、空間修復された南極上空。全宇宙を吹き飛ばしかけた次元ゲートが存在していた痕跡は、すでに何も残っていない。
 カーペンターズは各南極観測基地の救援に散っていき、残された勇者王たちはその場に跪いた。ガオファイガーとキングジェイダーは互いを支え合い、覚醒人V2は大の字になってひっくり返っている。

「は、ははは……俺、まだ生きてるよ……生き延びちまったぜーい! はははは!」

 セリブヘッド内で蛍汰が大笑いする。その隣でガオガイゴーは、かたわらの初代勇者王を心配そうに見つめた。

「凱兄ちゃん……」

 護が心配そうな声を挙げたのも、無理はない。覇界王ジェネシックとの激戦で満身創痍となったガオガイガーは、その状態から超高出力ブロウクンファントムを放つことになったのだ。機体各部がスパークを放ちながら、軋むように悲鳴をあげている。凱は小さくつぶやくように、語りかけた。

「……無理をさせてすまなかったな、ギャレオン。この後、過去に戻って、また俺を助けてもらわなきゃならないのに……」

 これからギャレオンがたどる運命を知っているだけに、凱は気遣わずにはいられなかった。そして、氷原に横たわる、もう一体の相棒の方へ視線を向けた。

「……やっと帰ってきてくれたな、ギャレオン」

 そこに倒れているのは、覇界王ジェネシック──いや、トリプルゼロの浸食による暴走状態から解放されたそれは、もはや覇界王ではない。左脚と中枢のブラックボックスを失った、凱のかけがえのない戦友だ。

「凱兄ちゃん……ギャレオンは、元通りになるの?」

 ガオガイゴーのウームヘッドで、護が問いかける。

「多分な……あいつらには、なにか考えがあるんだろう……」

 凱にも、そう答えることしかできない。ジェネシックのかたわらには、ガオガイゴーがつかみ取ったブラックボックスが置かれている。巨漢のソムニウム・ヒイラギが、重力制御によって、切断された左脚部とともに移動させてきたものだ。

『これでいいんだね……羅漢』
『ンー…感謝するぞ、引力の使い手よ』

 ジェネシックの前に立つ羅漢に、ユーヤが鋭い視線を向ける。

『羅漢……そなた、我らが眠りから醒める前に、一人でなにやら小細工をしていたようだが……』

 ラミアたちが仮の眠りについている間、羅漢のみがいち早く眠りから目覚め、何かをしていたらしい。

『案ずるな……ユーヤ』

 ユーヤの追求を制止したのは、ラミアである。

『すべてはパトリアのときを迎えるため……』

 だから、先刻の行動にも意味がある……ラミアの意思には、羅漢の動きも予定通りであるように感じられた。

『そうか…いよいよ…なのだな……』

 ユーヤもそれ以上の意思は発しない。羅漢は傲岸な笑みを絶やさないまま、ジェネシックの方へ向き直った。

『ンー…それでは、はじめようか』

 その場にいる者たちに演説するように、リミピッドチャンネルで羅漢の意思が拡散される。ヒトたちとソムニウムたちが見守る前で、羅漢は胸門を前方に向けた。

『ペクトフォレース……クラルス!』

 無色透明の免疫粒子が放出される。それは柔らかいシャボン玉のように、ジェネシックの機体とパーツを包んでいった。

「すごい……ジェネシックから、Z0シミラーが消えていく……」

 護が呆然としたようにつぶやいた。ガオガイゴーのウームヘッドは、覚醒人凱号に搭載された調査機器をモニタリングしている。センサーやレセプターに観測された数値から、残留トリプルゼロが消去されていったことは明らかだ。

「驚きだな……天竜神や、このガオガイゴーの時点で、その効果は証明されていたが……」

 戒道も護の声を受けてつぶやいた。覇界天竜神や覇界ガオガイゴーを粉砕することなく、トリプルゼロを消去したことで、ソムニウムにそのような能力があることはすでに判明していた。だが、その力が使われる瞬間を実際に目の当たりにすると、それは驚異的という他ないものであった。
 たいしたことなどしていない……とでも言いたげな、涼しげな表情の羅漢が、その視線を覚醒人V2に向ける。

『ンー…ヒトよ、貢ぎ物には気づいたか?」

 羅漢の視線を感じて、狼狽する蛍汰。

「え、俺? 俺なんか喰いモンとかいただきましたっけ!?」

 V2のセリブヘッド内で間の抜けた声を出してしまった蛍汰であったが、真下に位置するウームヘッド内からその声に応じる返答があった。

「ミツギモノは……私……」
「え、さ……紗孔羅ちゃん!?」

 夢装ガオガイゴーが覇界王ジェネシックを撃破した時、連携プレイでソムニウムが救い出した紗孔羅の肉体は、ベターマン・アーリマンの繊細なアームアクションで運ばれていた──覚醒人V2のウームヘッド内へと。極寒の極点に放り出すわけにいかないという配慮だ。

「……いるべき場所へ…帰れ……って、言われたの……」

 紗孔羅の視線は、ジェネシックの前に立つ羅漢の姿を見つめていた。十年以上前、本来の肉体から離れ、さまよい続けていた紗孔羅のこころが、ここ数年は羅漢が住まう南米のセプルクルムに滞在していたことを、知る者はいない。だが──

(紗孔羅ちゃんに帰れって……あいつベターマンら……)

 蛍汰は不思議な感慨を覚えながら、オービットベースのメインオーダールームに通信回線をつなぎ、阿嘉松長官を呼び出した。そして、ウームヘッド内を映し出す。

『あ、あああ……』

 激戦を乗り越えたねぎらいの言葉でもかけようかとした阿嘉松は、そこに映し出された愛娘の姿に、言葉を失った。シートには座っているものの、リンクカプセルに両手を入れていないため、ウームヘッドのシステムは起動していない。激戦により各部の故障を知らせる警告表示も点灯し続けていた。そのため、紗孔羅の生体反応は、メインオーダールームに検出されていなかったのだ。
 十年間、ずっと閉じられたままだった紗孔羅の瞼が、開かれている。モニター越しに紗孔羅の瞳を見た阿嘉松は、号泣しながら絶叫した。

『うおおおおっ、紗孔羅……やっと目ぇ覚ましてくれたんだなッ!! 顔を、もっとちゃんと顔を見せてくれぇぇぇッ!』

 映りが悪く、よく見えなくなっている通信モニターに、GGGブルー長官の涙で歪んだ顔がかじりつく。いや、それは長官ではなく、我が子を慈しむ父親の顔だ。

「うん……ここにいるよ……もう遠くに行かないから……大丈夫」

 壊れかけたモニター内でブロックノイズまみれの微笑みが浮かぶと、阿嘉松はいつもの罵声を張り上げることもできなくなった。ただひたすら、喉の奥から嗚咽を絞り出す。声にならない声が、その通信を聞く蛍汰やメインオーダールームのスタッフたちの涙を誘った。

(ほんとに良かったっすねぇ、阿嘉松の社長……)

 蛍汰もまた、アカマツ工業でバイトしていた高校生時代に戻ったような気持ちで、胸を熱くする。思いもよらぬ偶然から、様々な事件に巻きこまれ、生死の危機に陥ったあの頃。幾人もの死を見つめ、悲劇と隣り合わせだったあの事件は、関係者たちの中ではいまだに終わってはいない。だが、紗孔羅の目覚めは、ようやくすべてを過去へと押し流すように、爽快な気分を蛍汰にもたらしてくれたのだった。

『シャーラ、動けるか?』

 ガジュマルが、ふらつくシャーラの冷たくなった肩を支え、額の十字光を輝かせた。

『ガジュマルはいつも、私の心配ばかり……』

 依存する気はない意思を伝えつつも、シャーラのリミピッドチャンネルには感謝の念も込められていた。

『刻がくる……だが……シャーラ…』
『大丈夫……私はそのために生まれたのだから……』

 運命を受け入れる様子のシャーラの肩を、ガジュマルはよりしっかりと抱きかかえた。これから起こるべき何かに、覚悟を決めているシャーラ……ガジュマルにできるのは、彼女の身体を支えることだけだった。

「ベターマン……ジェネシックと紗孔羅ちゃんのこと、感謝する。ありがとう……」

 ガオガイガーの中から、凱が声を発した。地上に立つラミアと、頭頂高三十メートルを超えるガオガイガーの視線が交錯する。放たれた言葉の内容はたしかに謝辞ではあったが、その口調は冷たく固く、獅子王凱という人物の人柄にはあまり似つかわしくない。黙して意思を発しないラミアに代わって、吟遊詩人風のいでたちのソムニウムが、ガオガイガーを見上げて、意思を音声言語化する。

「いえいえ、礼には及びませんよ。拙者らには拙者らなりの都合があってのことですから」
「都合……それは、ギャレオンを過去に戻す時がきたということも含めてか?」
「ほう、それも気づいておいででしたか!」

 ライが一際大仰に、驚いてみせる。かつてライ当人が説明したように、いまのガオガイガーのコアとなっているギャレオンは、過去から連れてきたものだ。すべてが終わった後、また過去へと戻すことになっている。そうでなければ歴史に矛盾が生じて、新たな分岐が発生してしまうだろう。それはヒトにとっても、ソムニウムにとっても、望むべきところではない。

「……ベターマン・ラミア、ひとつ訊きたい」
『………』
「パトリアの刻とは──なにを意味している?」

 見つめ合う──というよりも、互いを射貫くような視線をぶつけあう、ベターマンとガオガイガー。すなわち、ラミアと獅子王凱。無言を貫いていたラミアが、ようやくおのが意思を発信する。

『──エヴォリュダー・ガイ。それを知った時、我らには宿戦が訪れる』
「やはり……そうなるのか」

 ラミアが放った意思は、やや唐突なものであったかもしれない。だが、凱は驚くでも動じるでもなく、静かにそれを受け入れていた。

(え、なになに? ラミアと凱さんがやりあうっていうの、なんで!?)

 彼らの意思の交感を聞いて、度肝を抜かれたのは、蛍汰だ。ベターマンたちは、人間には理解しがたい行動原理があることは承知している。しかし、基本的に人間と敵対する存在ではなく、蛍汰などは少年時代から幾度もベターマンに助けられて来たのだ。目の前の成り行きが、にわかに信じられないのも当然である。

(人間とは共生する……しかし、ヒトではないエヴォリュダーとは……)

 これまでの過程で、独自に推測を重ねてきた戒道は、ベターマンの行動原理に目星をつけていた。そして、それが現実となった時、自分がどう行動するつもりかも……。

(凱兄ちゃん、ラミア……一緒に覇界王と戦った同士なのに……どうして……?)

 覇界王ジェネシックを打ち破る時、護たちはベターマンの力を借りた。あの時、たしかにベターマンはこの地球ほしに生きる生命体なかまとして、ともに戦ったのだ。だが、それでも来るべき戦いは決して避け得ぬものなのだと、護にも感じられていた。
 凱とラミアの間に、それ以上の意思の交感はなかった。やがてソムニウムたちは、吹雪に隠れるように忽然とその場から消えていた。

 リミピッドチャンネルで交わされた対話は、通信や放送で伝達されることがない。そのため、ライが発した音声以外、ソムニウムとのやりとりを知ることができたのは、その場にいる者たちだけだ。
 全世界で中継映像を見つめていた者たちは、すべての戦いが終わったという放送に沸き立ち、オービットベースのスタッフたちも帰還してくる勇者たちを大歓呼で出迎えた。
 そして――

「俺たちが知らない間に、そんなことが……」

 プリックルとタマラのアルジャーノン発症による、オービットベース墜落の危機。さらに、勇者ロボ軍団の命がけの行動。帰還してすぐ、それらを知らされた凱は、呆然とつぶやいた。生死を賭けた戦いが行われていたのは、南極だけではなかったのだ。

「でも、オービットベースは無事だよ。今は……それを喜ぼう!」

 命がそう言って、疲れをのぞかせながらも、まぶしいほどの笑みを浮かべる。無理もない。これまでのGGGの戦いは、ひとつの勝利を得てもすぐに次の戦いに備えなければならない、ひとときの勝利ばかりだったのだ。

「ああ、……いろいろ準備もあるしな!」

 凱はそう言って、命の肩を抱いた。覇界の眷族の側にいる仲間を助け出したら、できるだけ早く結婚しよう……数週間前に、そう話し合ったばかりである。準備をしなければならないことは、無数にあった。
 獅子王凱と卯都木命、あまりにも数奇な運命に翻弄されてきた二人が、こんなにも素直に笑い合っていられる瞬間は、いったい何年ぶりのことであっただろう。近くでそれを見つめている護にも、眩しく感じられる光景だった。だが、胸も痛む。つい先ほどの、凱とラミアの間で交わされた“約束”を、命はまだ知らないのだ。
 そして、もうひとつ……何よりも気がかりな問題があって、護はある人物の姿を、目で探し求めた。だが、最愛の人物の姿は、着艦デッキには見当たらない。代わって、視界の中に進み出てきたのは、彩火乃紀だった。

「火乃紀さん……」
「お帰りなさい、護くん。こっちへ来て……華ちゃんが……」

 ただならぬ様子に無言でうなずいた護は、火乃紀の後に続いた。通路を進み、エレベーターに乗り込んでも、火乃紀は神妙な面持ちで何も語らない。耐えきれなくなった護は、ついに問いかけた。

「あの……華ちゃんにいったい、何が起きてたんですか?」
「……華ちゃん本人に頼まれて、簡易検査をしたの」

 その発言が与えた衝撃は、あまりにも巨大すぎるものだった。生体医工学者である火乃紀が検査するとは、深刻な事態であることは間違いない。いや、出撃前のあの時、華はこう言ったのだ。

(私が人類の敵になったら、護くんの手で斃してほしい……)

 巨大な衝撃と、それに伴う恐怖に押しつぶされそうになる護に、火乃紀は語りかける。

「護くん、あとは華ちゃんと……」
「……」

 護が声も出せずにいるうちに、エレベーターは医療区画のあるフロアで止まった。迷わずに通路を進む火乃紀に続いて、護もおそるおそる病室にたどりつく。
 そこから先の記憶はあいまいだ。火乃紀になにか言われて、ドアをノックしたような気がする。中から返事が聞こえて、護は入室した。火乃紀は護に運命を委ねるように退室し、静寂が訪れた。室内にはベッドがあり、そこには隊員服から着替えた華が寝ていた。他には誰もいない。

「護…くん……」

 力のない、華の声。

「………」

 護の喉元からは声が出なかった。

「南極の戦いが終わった後、倒れちゃって……」

 薄く笑顔でそう語る華の様子は、力はないが普段とあまり変わらない。白く霞んでいくような気持ちのまま、護はベッド脇の椅子に腰掛けた。

「……華ちゃん……検査受けたんだって?」

 護はようやく声をひねり出した。

「……うん」
「それって、発進前に言ってたことと、関係……あるの?」

 華は無言でうなずいた。そして、小さくつぶやく。

「怖くない、怖くない……」

 護ははっとした。その言葉は、幼い頃、護自身が教えたおまじないだった。冬のかまくらで過ごした、小さい頃の大切な思い出。そのおまじないで、華は勇気を振り絞ろうとしている。続く言葉がどんなものであろうと、自分も勇気を強く持たなければならない……そう考えた護は、姿勢を正した。

「なんでも言ってよ、華ちゃん。どんな事だって、一緒に考えて、一緒に悩んで、一緒に解決しようよ」
「うん……護くん、ありがとう。そうだね、なんでも一緒に……だってこれから私はお母さんに、護くんはお父さんになるんだから」

 それは、まったく予想していない言葉だった。虚を突かれたような護の表情は、涙にまみれた満面の笑顔へと、ゆっくり変化していった。

「う…うわ…うわ……うわっはーーーーっ!!!」

(number.09・完 FINAL of ALLへつづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回1月15日更新予定


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