覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第67回】

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《前回までのあらすじ》

 かつて全宇宙を救うために旅立ったガッツィ・ギャラクシー・ガードの勇者と隊員たちは遂に帰還を果たし、覇界王との長き戦いもようやく決着した。 
 ──だが、御伽噺はまだ終わりを迎えてはいない。
 青の星の覇界王──
 紗孔羅のその言葉に続いて、オレンジ色の幻炎に包まれたベターマン・カタフラクトが月面に出現! ガオファイガー、ガオガイゴー、覚醒人V2は出撃不能に陥り、ジェイアークと最強勇者ロボ軍団が先行する。ディビジョン艦ワダツミは、特殊仕様のジェネシックマシンを積み、運命の地へと向かうのだった。

FINAL of ALL 対-VERSUS- 西暦二〇一七年(3)


6(承前)

「……みんな、準備はいい?」

 五人の仲間たちに向かって、護が問いかける。ワダツミ内の主格納庫でうなずく戒道、命、ルネ、蛍汰、火乃紀。彼らはこれからジェネシックマシンにフュージョンして、月面アルプス基地の救援に赴くことになる。雷牙や楊から必要な情報はレクチャーされ、後は覚悟を定めるのみ。だが、誰の瞳にも迷いや怯えはない。護が一同に口を開こうとした時──

「護、発進前に大事なことを忘れてるぜ」

 そう言って遮った凱が示した方へ振り向く護。目に飛び込んできたのは、息を切らした愛妻の姿だった。

「はあぁ…、間に合ったぁ……」
「華ちゃん……オーダールームから走ってきたの?」
「ごめんね、護くん。転ばないように気をつけてきたから……どうしても、直接、一言だけ、言っておきたくて……」
「ああ…うん、聞かせて」
「必ず…必ず……帰ってきてね……私たちのところへ」

 “私たち”と複数形を使ったことの意味は明らかだ。護は二人を安心させるように、優しく微笑んだ。

「もちろんだよ、必ず帰ってくる。大丈夫! 行ってきます!」
「行って……らっしゃい」

 華もまた、最高の笑顔で微笑み返す。きっと、お腹の赤ちゃんも笑っているだろう。その様子を見て、凱と命、火乃紀と蛍汰、戒道とルネもやさしく微笑んだ。
 護は華のおでこに軽く口づけると、物言わぬジェネシック・ギャレオンの前に進み出た。

「さあ、行こう……ギャレオン。僕は今からギャレオンの心と一つになるよ」

 浄解モードに転身した護は、大きくジャンプした。

「フュージョンッ!」

 続くように、五人の仲間たちがそれぞれのジェネシックマシンの前へ駆け出し、叫ぶ。

「フュージョンッ!!」

 

 その頃、ワダツミが急加速で向かっている月面では、すでに戦端が開かれていた。

「メガ! フュージョンッ!」

 カタフラクトの初撃を耐え抜いた超弩級戦艦が、ジャイアントメカノイドへと変形する。

「キングジェイダーッ!!」

 一〇〇メートルを超える巨体が、六分の一Gの平地に着地する。その周囲には、勇者ロボたちもそろっている。翔超竜神、撃龍神、天竜神、星龍神、ビッグボルフォッグ、ビッグポルコート、そしてスタジオ7に乗ったブームロボ形態のマイク・サウンダース十三世。勇者王を除くGGGの全戦力が、先行してきたのだ。
 彼らに対峙するのは、ベターマン・カタフラクト。そして──

「やれやれ、ゼロロボまで従えているとは、理由はともかく、ベターマンが覇界王になってしまったのは間違いないようだね、ご同輩」

 冷静な諜報部コンビが状況を分析する。

「たしかに……観測範囲に二十六体。いずれも内部から生体反応は認められません」

 トリニティーカラーの機体も身構える。

「ゼロロボは我々が引き受ける。キングジェイダーは覇界王を頼む!」
「いいだろう。覇界王の相手、望むところ!」

 翔超竜神の言葉に即答するとともに、右腕の照準を合わせるキングジェイダー。覇界王の再臨という事態も、戦士の魂にとっては、渇望を満たす慶事なのかもしれなかった。だが、敵対するソムニウムたちには、別の思惑があるようだ。

『ンー…有象無象の機械人形ばかりのようだな』

 カタフラクトの両肩と背部フライングサーベルを構成するオウグの中の羅漢が、意思を走らせる。

『勇者王はいない! 狙い通りだ!』

 応えたのは、翼を司るガジュマルである。狙い通りと語ったのは、ほんの数時間前に彼らが行った工作を指している。
 GGGオービットベースでガオーマシンと覚醒人V2が稼働できなくなった非常事態──それは彼ら七体のソムニウムが引き起こしたものだった。シャーラがソキウスの実で開いたSTバイパスで宇宙基地に現れた七体は、ヒイラギの怪力で閉鎖隔壁をこじ開け、格納庫に侵入した。対人センサーはユーヤ、遭遇した目撃者はラミア、それぞれのペクトフォレースによる操作で、記録にも記憶にも彼らの存在は残っていない。さらに羅漢がサンクトゥスでガオーマシンのリキッドや、覚醒人V2のリンカージェルを強撚物質と融合させたことで、それらの機体は出撃不可能になった。一方でライとガジュマルがカナヤゴ内部で同様の工作を行い、現在の状況が訪れたのである……。

『──すべては、パトリアの刻を迎えるため』

 ラミアの意思は、七体に共通する宿願である。

『ンー…気分はどうだ? 古き者よ』
『心配ならいらぬ、羅漢。暁の霊気により、オルトスの耐性も充分に備わった。カタフラクトの核を担おうと、たやすく灰に帰すことはない』

 オルトス──それはかつて、元凶なりし者<カンケル>を滅した時、ラミアが一度だけ喰んだ実である。ラミアが耐性を持つ実の中で、もっとも強大な力を持つフォルテの実を三つ合成することで得られる特殊なアニムス。それがオルトスの実だ。羅漢の秘術でフォルテも入手が容易になり、希少な実が結実したのだ。変身の後には、自力で目覚めることが困難な長き眠りを必要とするほど、ソムニウム本体の消耗を著しく伴うオルトス。だが、オルトスとトリプルゼロを重ねて、今や限界なき最強のベターマンが完成したことは間違いない。訪れる宿戦に勝利するため、ラミアが選んだ、もっともベターとなる選択手段──その具現化である。

『ンー…その覚悟、見届けよう』

 羅漢の言葉の意味するところを悟った、ユーヤの意思が揺れる。

『ラミア……』

 リミピッドチャンネルは、言葉を交わすよりも大量の情報をやりとりする。ここまでの意思の交感も、瞬きするほどの間に行われたものだった。だが、そのわずかな時間に、カタフラクトの眼前に迫ってきたものがある。キングジェイダーが右腕から放ってきた必殺の一撃──ジェイクオース!
 ラミアも羅漢も、それ以上のやりとりを続けはしない。オルトス、オウグ、トゥルバ、アーリマン、ポンドゥス、ルーメの合成体であるカタフラクトは翼を躍動させ、真空の月面上空へ飛翔した。

「……はやい!」

 神速の戦士・ソルダートJをも愕然とさせるほどの速度で、カタフラクトはジェイクオースを回避した。この時すでに、勇者ロボたちは迫るゼロロボ群との交戦状態に突入していたのだが、彼らの目と耳──の機能を有するセンサーも釘付けになった。

「OH! なんてハイスピードだっぜ!」
「マイクくん、避けて!」

 天竜神が、カタフラクトの飛翔に見とれたマイクに警告する。キングジェイダーの一撃をギリギリでかわしたカタフラクトが、トゥルバの翼の開口部から、無数の超圧縮酸素弾を放った。先刻はジェイアークの分厚い艦底部装甲で受けきったものの、勇者たちの機体では、とても耐えきれるとは思えない強力な衝撃が迫る。

「ミラーシールドッ!」
「プロテクトプロテクター!」
「クリスタルシールド!」

 ある者は防御装備をかまえ、またある者は高機動で離脱する。だが──

「ぐおおおっ、ミラーシールドが!」
「そんなっ!」
「きゃあああ!」

 竜神たちの防御楯が砕かれ、ビッグボルフォッグとビッグポルコートは胴体に直撃を受けた。かろうじて無傷なのは、天竜神の警告を受けたマイクだけだったが、代りに俊敏なスタジオ7が一撃で爆散したため、次弾を回避できるとは思えない。一瞬のうちに、勇者ロボ軍団は満身創痍と成りはてていた。

「なんて威力だ! 間違いない、やはりあいつは……」

 撃龍神の言葉を受けて、翔超竜神がうなずく。

「ああ、トリプルゼロに強化されている……!」

 宇宙空間に漂う、オレンジ色の幻炎をまといしカタフラクト。勇者ロボの機体では、リミピッドチャンネルを受信不可能なように、ソムニウムもまた通信波を傍受することはできない。この場において、双方と意思疎通が可能なキングジェイダーは、超圧縮酸素弾の驟雨にもジェネレーティングアーマーで耐え抜いていた。

「私が言えたことではないが、残念だ……ソムニウム」

 ジャイアントメカノイドが見つめる先にあるカタフラクトの頭部──フォルテがオルトスにレベルアップしたとはいえ、合体状態では外見に差異は見受けられない──が、月面を見下ろしている。続きを言って見ろ、とでも言わんばかりの鋭い複眼で。右腕に戻ったジェイクオ―スを再装着した白き巨大ロボも、暗黒の上空で揺らめくオレンジ色の魔姿を睨み返す。

「貴様らは戦士として、肩を並べるに足る存在と思っていた。だが、この期に及んで、トリプルゼロの浸食を受け入れていたとはな!」

 言い放つと、キングジェイダーは全身のスラスターを噴かして、浮上した。

「だが……私にも覇界王と化した同じ過去がある。アルマや凱への借り、貴様を救うことで返すとしよう!」

 爆発的な大推力による突進に任せて、右の貫手をカタフラクトに放つキングジェイダー! 狙い過たず、その一撃は胸部中央にしっかりとねじ込まれた! 五連メーザー砲と反中間子砲をゼロ距離発射すれば、とどめを刺せる態勢だ。

『なにか思い違いをしているようだ……』

 あえて防御の姿勢に転じなかったともとれる、ラミアの冷静な意思が、ソルダートJのうちに流れ込む。そこに苦痛の響きはない。

『──我らの魂は、暁の霊気に蝕まれてなどいない』
「なんだと──!?」

 その意思の意味するところにソルダートJが驚愕した瞬間──カタフラクトが弾け飛んだ。いや、羅漢のペクトフォレース・サンクトゥスによる合体を解いたのだ。六体のソムニウム変身態が、全周方向からキングジェイダーに迫る。
 トリプルゼロを纏ったオウグのフライングサーベルが、アーリマンの刺突が、トゥルバの翼が、ポンドゥスの超重力波が、ルーメの超振動が、そしてオルトスの拳が、キングジェイダーの全身に叩き込まれる。

「ぐううっ!」

 ジェネレイティングアーマーで防御しているとはいえ、それらの攻撃を全身に浴びた衝撃は測り知れない。それでもジャイアントメカノイドは揺るがずに耐え抜いた。

『ほう、大したものですな。さすがは次元の彼方よりの来訪者!』
『無駄口を叩くな、ライ! 次を喰らわすぞ!』

 暴風のようなガジュマルの攻撃的で強い意思。それは彼ら六体の合意でもあるようだ。次なる致命の一撃を放たんと、ソムニウムたちは一旦キングジェイダーから離れ、再び勢いをつけて突進する。

「侮るなよ……ここで倒れるとしても、ただでは退かぬ!」

 頭上と左右と前後と下方──あらゆる方向に武装を身構えるキングジェイダー! だが、それらが放たれる直前、六つの影が真空空間を奔った!

「J……守ってみせる!」

 戒道の叫びがこだました。間髪なく、トゥルバに体当たりを敢行したのは、超高速で飛来したガジェットガオーである! 続いてオウグにブロウクンガオーが! ルーメにプロテクトガオーが! ポンドゥスにストレイトガオーが! アーリマンにスパイラルガオーが! そしてオルトスにジェネシック・ギャレオンが激しく激突した!

 

「……ジェネシックマシン!」

 月面に叩きつけられたままのビッグボルフォッグが、上空で展開された六対六の激突に感嘆の声を挙げる。
 六人がフュージョンしたジェネシックマシン全機がワダツミから進発、レプトントラベラーをも上回る急加速で、飛来したのだ。

「ひゃー、さすがはリンカージェル! こんな強いGでも耐えられちゃうんだからなぁ!」

 高Gにも耐えきった蛍汰が、スパイラルガオーの内部で快哉をあげる。楊たちが、機体と人体の神経伝達を円滑に導くため、各機内部に充填したリンカージェルが衝撃吸収剤としても十二分に機能していた。そうでもなければ、生身の蛍汰や火乃紀が、戦闘機動に耐えることは不可能だっただろう。

「これが異星文明とのニューラルネットワーク……膨大な知識が、どんどん流れ込んでくる……!」

 蛍汰とは異なる興奮を覚えているのは火乃紀だ。フュージョンしたことにより、ストレイトガオーの制御中枢と脳神経が接続され、未知の情報が洪水のように脳内を駆け巡る。生体医工学者としての直感が告げていた。いずれこれらを体系的に解明できれば、人類文明は飛躍的に進歩するに違いない!
 月面上空の宇宙空間に舞う六体の異形生物陣と、六機の異星マシン隊。それぞれが生命進化の最先端と、機械文明の到達点と言ってよい、比類なき力の結晶。スピードとスピード、パワーとパワー、五組のぶつかりあいは互角に見えたが、一組だけ圧倒的な差をつけられている戦いがあった。

『光なる者よ……オルトスの創世の力に、抗しえると思うな!』
「くうっ、これまでのラミアと全然違う……!」

 ジェネシック・ギャレオンの中枢部に一体となっている護は、防戦一方となっていた。トリプルゼロによって倍加されたオルトスの力は、これまで目撃したベターマン変身態とは次元が異なる高みに達している。

「護! 俺も一緒に戦うぞ!」
「わかった、凱兄ちゃん!」

 護がうなずいた瞬間、オルトスはすでにジェネシック・ギャレオンの背後にいた。物質どころか、エネルギーや生態遺伝情報をも分解消失に導く、必滅のダブルファイアリングサーベルを突き立てんと、頭部を振り下ろす。だが、獣にとっての死角──背後に回り込まれることは、予期していた。

「──やられるもんかっ!」

 護はおのが全身となった機械の四肢の姿勢制御スラスターを駆使して、虚空で跳ねる。必滅の一撃をかわされたオルトスがバランスを崩した瞬間、ジェネシック・ギャレオンの口蓋から飛び出す人影。

「ラミア! お前の天敵はここにいるぜ!」

 全身を緑色に輝かせたエヴォリュダー、GGGグリーン長官にして機動隊長、獅子王凱だ!

「フュージョンッ!」

 オルトスが身をひるがえすよりも速く、白き百獣王の機体へ超進化人類がその身を回転させながら一体となり、人型メカノイドへと変形していった。

「ガイガーッ!」

 いま、ジェネシック・ギャレオンは、二人の勇者、護と凱とダブルフュージョンしたことによりジェネシック・ガイガー、いやファイナル・ガイガーへと進化したのだ!

「すごい……これがダブルフュージョン! すごい力が、全身にみなぎってくるぜ!」
「……う、うん」

 凱の言葉にうなずきつつも、護は軽い違和感を感じていた。ともにフュージョンすることにより、いま凱と護はひとつのメカノイドとして、一体となっている。だからこそ、感じる、かすかな違和感。だが、その感覚を吹き飛ばすように、眼前のオルトスから刺すような意思が放たれてくる。

『元凶なりし者よ……まだ足りぬ。お前の真力を見せてみよ!』
「言われなくてもそうする! だがラミア……いや覇界王! 聞かせてもらおう、お前たちはなぜトリプルゼロに浸食されてしまったんだ!」
『──浸食など、されていない』

 凱の問いかけに、オレンジ色のオーラを放ちながら、ラミアの意思が答えた。

『我らの魂は、我らのものだ』
「覇界王ではないというのか! だが、その力は──」
「……Zマスターとの決戦を思い出せ、凱」

 そう告げたのは、全身に深手を負ったキングジェイダー。その内部にメガフュージョンしているソルダートJだ。

「あの時、私や勇者たちは、ザ・パワーの力を身にまとって戦った。だが、心まで浸食されはしなかった」
「つまり、ザ・パワーの……いや、トリプルゼロの力だけを使えるということか! だが、制御できる時間はそう長くはないはずだ!」
『ンー…それは違うのだな、勇者の王よ』

 Jと凱の対話に割り込んできたのは、羅漢である。ラミアたちとともに戦いつつも、彼の本質は研究者であり、探求者だ。そして、これまで覇界の眷族との戦いの中で重ねてきた実験の数々を、タイムラプスの記録映像のように意識の波に流し込んできた。

「これって……ベターマンの実験!?」

 プロテクトガオーにフュージョンしている命が反応する。

「ちっ、バイオネットの怪人どもを改造するより訳がわからないね」

 ブロウクンガオーのルネも嫌悪感を露わにする。

 

 ――映像の中、セプルクルムの奥で、羅漢が行っていたのは、様々な動物を用いた生体実験であった。覇界の眷族との戦闘中に採取したトリプルゼロに、あえて動物を浸してみることで、眷族と化すプロセスを確認する……その過程で、ペクトフォレースによる浄解の秘術も編み出したらしい――

 

「お、俺と火乃紀が…ガオガイゴーが元に戻れたのも、このベターマンのおかげなのか!?」

 蛍汰もリンカージェルを介し、リミピッドチャンネルによる鮮明な映像を受信していた。二〇〇五年に運ばれる以前、覇界の眷族となっていた彼らが、二〇一七年に帰還した際には痕跡も残さず、元に戻っていた……それは、羅漢の手によるものだった。

『ンー…そういうことだ。その能力の応用で、精神への浸食を阻み、力のみを利用する術を編み出したというわけだ』

 トリプルゼロは意志を持たない宇宙の摂理たる自然現象である。それは宇宙を誕生させ、終焉へと導く。無限創生と無限崩壊という両極端の能力を持つオルトスは、その相似形ともいえる存在であるが故に、共生が可能となったのだ。

「その力を手に入れて、何をしようとしている!?」

 凱は覇界王を問い詰めた。いや、眼前の存在はすでに、覇界王を超える存在なのかもしれない。言うなれば、覇界の帝王!

『──すべてはパトリアのときのためだ、エヴォリュダー』

 ラミアの脳裏に浮かんだ、ある光景。それらが凱たちにも伝達されてきた。

 

 ――美しく、しかし禍々しい景色。先刻まで国連アルプス基地であった場所が、花園と化している。それもヒトの遺体を苗床として咲く、アニムスの花園だ。基地に常駐していた観測員たちが全員、意識を失って倒れ、その顔面からアニムスの花を咲かせている――

「……ラシャード!」

 脳内に送り込まれてきた光景に、火乃紀が悲鳴をあげた。観測員ラシャード・シンは、火乃紀がGGGに入隊する研修を受けた際の同期である。笑顔が優しい、年長の友人だった。その朗らかだった顔が、アニムスの根にびっしりと覆われている。

「ラミア……あなたが、こんなことを……」
『ヒトは進化している。そのためにソムニウムは、ときとともに滅びに向かわざるを得ない。我らには必要なのだ。アニムスが育ち、花を咲かせ、実を収穫するための牧場が……』

 火乃紀は衝撃を受けた。タマラとプリックルに対する治療は効果を示しつつある。もし、人類がアルジャーノンを克服できることが予見されたとしたら、自分の研究が、ベターマンから食料を奪い、このような計画を招いてしまったのではないか、と。

「私のせい…で……」
「奴の意思に惑わされるな!」

 凱の力強い言葉にも、火乃紀の動揺は収まらない。いや、彼女だけではない。蛍汰はもちろん、護や戒道も、これまでの覇界王との戦いで、ソムニウムに対しては戦友めいた感情が芽生えつつあった。であるが故に、眼下の月面基地内部で行われている“惨状”は衝撃的な裏切りであり、戦意すら失うほどの、怒りや悲しみすら超えた驚愕であった。

「ソムニウムは…人間とはわかりあえないの……?」

 護が絶望を感じた瞬間、力強い声が頭上から降ってきた。

「──うろたえるな! 勇者諸君!」

 その空間に現れたのは、ワダツミである。ようやく月へ到着した機動完遂要塞艦から、大河特務長官が語りかけてきたのだ。

「これまで我々GGGは、常に人類存亡を脅かす相手と戦い続けてきた。それが地球外知性体であろうと、全宇宙規模の自然災害であろうと、変わることはない。たとえベターマンが、同じ地球という惑星ほしに生まれた隣人であろうと、生命を脅かすのであれば同じだ! 和解の術を失ったとしたら、戦わねばならない! 我々は戦う……

 生命いのちある限り!!」

 ブランチオーダールームのスタッフ一同がうなずく。阿嘉松、雷牙、楊、火麻、機動部隊を支える華やアルエット、オペレーターたち。加療中のタマラとプリックルを除くメインスタッフの全員が集まっている。全員が同じ気持ちで。彼らの視線を受けて、大河がこれまででも最大の、咆吼のような指令を絶叫した。

「最終ファイナルフュージョン……承認ッ」

 

 大河の指令を受けて、電磁煙幕を発生させ隔壁を築いたファイナル・ガイガーの周囲にジェネシックマシンが舞う。

「ファイナル・オブ!」

 仲間たちの存在を周囲に感じた、凱が叫んだ。そして護が、戒道が、ルネが、命が、蛍汰が、火乃紀が続く言葉を同時に叫ぶ。

「──ファイナルフュージョンッ!!」

 ファイナル・オブ・ファイナルフュージョン! 六機のマシンはひとつの破壊神へと合体していく。それはもはや起源機ジェネシックではなく、いくつもの生きた魂が融合し、進化を遂げた最終機獣ファイナル
 だが、それと合わせ鏡のような現象が、彼らの眼前で起きていた。

『ペクトフォレース・サンクトゥス』

 ベターマン・オウグの中央部にある胸門から、虹色の粒子が放たれる。それはおのれを含むソムニウム変身態たちに浴びせかけられ、パズルのように構造を組み替えていく。

『アワサレ!』

 そしてオルトスの中で、ラミアは両の手に、オレンジ色の輝きを纏ったネブラの実とアクアの実を掴んでいた。

『我らもソムニウム存亡をかけ、全力をもって、この最終決戦に挑ませてもらう……』

 ガリッガリッとラミアは二つの実を噛み砕き、おのが体内へと導いた。ただでさえ、三つのフォルテの実を合わせたオルトスを形成している状態で、トリプルゼロをもって更なる合成変身態へと、その姿は進化していった。

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』

 ラミアの深く強く猛々しい雄叫びとともに、オルトスの体表の黒に、力強い赤や、霧のような紫や、深海のような青のまだら模様が、美しく光り輝きながら走っていく。それは複雑なパズルを組み立てるように、他の五体の変身態と合わさり、ひとつの超巨体へと合体していった。そして神々しく、二体の巨神は完成に至った!

「ガオッガイッガーッ!!」

 それは、破壊神を超えた至高の存在。それは、勇気の究極を超えた姿。我々がたどりついた、最終最後の勝利の鍵。その名は──

勇者王ファイナル・ガオガイガー!!

 対峙するは、最強の生命体。適者生存の具現化された姿。生命進化の果てに到達した、夢のかけらが合わさりしうつつ。その名は──

超生王ベターマン・カタフラクト改!!

 いまこの瞬間も、月面上では勇者ロボ軍団が、群れなすゼロロボと戦い続けている。だが、彼らも瞬間的に戦いを忘れ、頭上に出現した二体の姿に目を奪われた。

「あれが……七つの生命と融合した最後のガオガイガー!」
「そして……覇界と共生を果たした最強合体ベターマン!」

 勇者たちの感慨が、開幕のゴングであったかのように、ガオガイガーとベターマンは互いに向かって突進していく。数百メートルは離れていた距離が一瞬で縮まり、両者が激突するかに見えた瞬間、ベターマンの右手がガオガイガーの左腕をつかみ、突き出されたガオガイガーの右拳はベターマンの左掌に受け止められていた!
 拮抗する超力と超力! 奇妙な膠着をメインスクリーンで目にした阿嘉松は、並んで席に着いている華とアルエットの方へ振り向く。

「始まったぞっ! Gアーマーの準備は!」
「あと七十秒でシステムインストールが完了!」
「ようし、そうなりゃこっちのもんだ!」

 阿嘉松は自分の右拳を、左の掌に叩きつけた。ガオファイガー用に準備していた最後のツールは、覇界王ジェネシックとの決戦には間に合わなかった。それでも阿嘉松や楊、そしてドクトル・アー、開発に関わった者たちの総意で、ジェネシック・ガオガイガー用に仕様変更して完成させることになった。そこに雷牙が当初の予定に無かった新機能を追加して、想定すらしていなかった形で実戦投入される日が訪れたのである。

「見てろよ、ベターマン……俺たち人間を苗床にした養殖場を作ろうったって、そうはいかねえぜ!」

 

 ガオガイガーとベターマンの決戦を見守っているのは、人間だけではない。月面アルプス基地の内部では、アニムスの花園にたたずむ七人目のベターマン、シャーラが同胞たちの戦いを見上げている。その手のひらには、すべての光を呑み込むような、漆黒の実が握られていた。

『やっと、これを使うときが来た……』

 その実の名は、ソキウステラ。あの南極決戦時、ラミアに貫かれ滅びたデウスに実っていたアニムスである。自らの身体に、テンプスの実を実らせ共生する特異体質のソムニウムは、その死に際しても、この上なく異形の実を残していたのである。シャーラの唇が、ソキウステラの実に触れようとした瞬間──
 ワダツミではアルエットが鋭く報告していた。

「Gアーマー、起動準備完了!」

 その報告を通信波越しに聞いたGGGグリーン長官が叫ぶ。

「ゴルディオンアーマーッ!」

 GGGブルー長官が続く言葉を怒鳴る。

「発動っっっ!!」

 そして、最終最後の言葉を、特務長官が吼えた。

 

「──承認ッ!!!!」

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回2月26日更新予定


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