【最終回】覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第69回】

覇界王,ガオガイガー,ベターマン,矢立文庫,勇者王

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 我々は終焉を迎えた――
 勇者王ファイナル・ガオガイガー!
 超生王ベターマン・カタフラクトテラ!
 その最終決戦のときを!

 そして、我々は最後の御伽噺ジュブナイルを目撃する!
 さらば、ガオガイガー!
 さらば、ベターマン!
 我々は、悠久なるその戦いを

 けっして忘れはしない――

FINAL of ALL 対-VERSUS- 西暦二〇一七年(5・完)


8(承前)

 凱の瞳からオレンジ色の光が広がり、黄金の勇者王の機体は暁色の発光へと導かれる。

「おいっ! この力がみなぎる感覚は……」

 巨大な掌底の中枢をになうゴルディーの超AIが叫んだ。覇界の眷族と化していた頃の記憶が、呼び覚まされているのだ。かつて同じ体験をしている命やルネも、同様の感覚に驚愕したが、声を発する間もなく、凱は猛進を開始していた。

「うおおおおっ!」
『はああああっ!』

 ラミアもまた受けて立つかのように、ベターマンを飛び立たせる。

 ガオガイガー対ベターマン──

 月面上空に飛び交う黄金と白金の流星。燃えさかる幻炎の尾を引くそれらは、互いを呑み込もうとする二頭の竜のようにも見える。
 だが、地球光アースブルーに照らされた静寂の月面で、その美しくも凄惨な闘いを見守る者はいない。
 月面アルプス基地に常駐していた観測員たちは、ソムニウムによってその命脈を絶たれ、アニムスの花の苗床と成り果てた。凱たちは、その様子を見せつけられたのだから。
 ガオガイガーとともに戦ってきた機動完遂要塞艦ワダツミ、キングジェイダー、勇者ロボ軍団は、ベターマン・カタフラクトの魔腕ソキウステラに呑み込まれ、消失した──

 今また、ベターマンが最後に残った存在を消し去ろうと鋭い意思を放ちつつ、巨大な右腕を振りかぶる。それこそが、超生王最大の攻撃──

「サイコフィナーレ!」

 消失する寸前に叫んだ紗孔羅のその声は、虚空へと響き渡った後、静寂の彼方に消えていった。

『彼方へ──去れ』

 右肩から続く腕部に接続されてはいるが、それは“腕”と呼ぶべきものなのだろうか。膨れあがった巨大な蕾にも見えるソキウステラは、先端に八枚の花弁を開き、大輪の禍々しい花を咲かせている。その花弁は指にも似て、かろうじて腕に見えないこともない。だが、花冠の中央に掌はなく、そこには光すらも吸い込むような暗黒のみが口を開けていた。もちろん、開いているのは口ではない。STバイパス──超空間径路と呼ばれる、亜空間への窓が、抗う者すべてを虚無の深淵へ導こうとしているのだ。
 いままさに、月面に接近したファイナル・ガオガイガーを背後から呑み込まんと、ソキウステラが振り下ろされる! だが、超生王の致命的な一撃を黙って受ける勇者王ではない。
 ゴルディオンアーマーが展開する金色の翼が重力偏向を発生させ、紙片が宙に舞うかのような軽やかさをもって、黄金の勇姿を急浮上させる。月の平原に叩きつけられる寸前のソキウステラは標的を見失い、月表面のレゴリスもろとも、数十億年踏み荒らされたことのない強固な岩盤を呑み込んでいく。虚無の深淵に消え去った平原は、空間ごと削り取られたかのような、歪なクレーターとなった。

「──捉えた!」

 無音の戦場に轟く、裂帛の叫び。瞬間移動にも近い高速機動でベターマンの背後に出現したガオガイガーが、マーグアームをかまえる──そして眼前の宿敵を握りつぶす!

「光に! なれぇぇっ!!」

 奇しくも、ベターマンのそれと相似形のように、ガオガイガーの右腕も黄金色と暁色の混ざった巨大な光の掌底を咲かせる。三重連太陽系でジェネシック・ガオガイガーの闘いを目撃した獅子王雷牙が、オービットベースに帰還後、新たに開発した最終ツールが、このマーグアームである。五指のすべてがグラビティショックウェーブ・ジェネレーティングツールであり、触れたものすべてを光子変換する、勇者王最後の技──ゴルディオンフィンガー!
 だが、五重に折り重ねられた重力衝撃波が浴びせかけられそうになった瞬間──ベターマンは巨大な右腕を背後に向けた。生命体ではあるが、融合している関節は、角度も関係なく自由自在に回る。超高密度のグラビティショックウェーブをも、暗黒の渦を展開し、丸ごと吸収するソキウステラ。
 最大の攻撃が相殺され、不発に終わったガオガイガーが月面に近づく。ベターマンも振り向き、向かい合う形になった。異星文明の遺産に、地球人類の叡知を注ぎ込んだ勇者王。そして、果てしない生命連鎖の果て、超絶の適応能力によって誕生した超生王。音を伝える空気のない静寂の平原で、地球光に照らされながら、二体の王が対峙する。それはあたかも、地球という奇蹟の惑星ほしの霊長類の王座を争う闘いであるかのようだった。

「答えろ、ラミア! 何故GGGのみんなを殺した!? 人類とソムニウム──知恵を出し合えば、アルジャーノンを克服した後でも共存できるかもしれなかった! なのに貴様らは──ッ!!」

 オレンジ色の炎を両眼に燃やしながらガオガイガーが──いや、獅子王凱が吼える。つい先刻、“覇界王”と呼ばれた意思は届いていないようだ。いや、眼前で仲間たちを消去されたことへの怒りが、彼の魂を燃え上がらせ、ソムニウムからの意思伝達を阻んでいる。そしてそれは、ともにフュージョンしている仲間たちも同様だ。暁色の光を発し始めた勇者王に不信を抱くより、巨大な悲しみや喪失感が、心をがんじがらめに閉ざしていた。

「なんでこんなことに……なんで、みんなが……」
「命姉ちゃん……!」

 失意の中にある命に話しかけてきたのは、護である。

「まだ、GGGのみんなやJたちが、死んだって決まったわけじゃない。だから……」

 護は懸命に、言葉を紡ぎ続ける。

「……僕らは勝利して、聞かなきゃならない。ベターマンに! みんなを取り戻すにはどうしたらいいのか!」
「護くん……!」

 我に返ったのは命だけではない。ルネも戒道も蛍汰も火乃紀も、悲しみや衝撃が消え失せたわけではないものの、目の前の事態を見つめ直すことができるようになっていた。

(ちっ、……Jやオヤジやポルコートに、無様な姿は見せられないからね!)
(悲しんでいる場合じゃない。油断すれば僕らも消される! それに護こそ……この七人のなかで、もっともつらい思いをしているはずなんだ……!)
(いけねえいけねえ、いま俺がしっかりしねえと、火乃紀まで巻きこんじまうってのに!)
(護くんの言う通り……確かめなくちゃならない、ラミアがこんなことをしたのは、私のせいなのか……!)

 いま、彼ら六人の心はひとつになっていた。怒りや悲しみではなく、なすべきことを見いだしたという思いのもとに。だが──

「うおおおおっ!」

 それは、かつてない急激な加速であった。凱の意志による爆発的な突進が、護たちの肉体を苛む。

「喰らえっ、ストレイトドリルッ!」

 ベターマンの眼前へと一気に接近したガオガイガーは、巨腕ではなく左の膝蹴りを勢いよく放った。虚を突かれてなどいないはずのベターマンだったが、構えた大輪の花よりも近い懐付近にまで入り込まれては、さすがに回避が間に合わない。頭部をかばった左腕が、猛烈な勢いで表面を削られていく。

『くっ──』
「まだまだぁっ!」

 最初からこの一撃で決まるとは思ってなどいない。そういう思いを込めたかのように、ガオガイガーは四肢を凶器と化して、連打を浴びせる。左腕の正拳突き! 右の回し蹴り! 左腕で引き寄せてからの頭突き! 右脚の爪による刺突!
 勇者王は、最大の黄金ツールによる攻撃を諦め、接近戦に転ずることで、超生王による白金の花弁への吸引を封じたのだ。防戦一方のベターマンは全身の構造体を抉られ、削られていく。それは彼らソムニウムの肉体そのものではなく、痛みをともなうわけではなかったが、不撓不屈の彼らの心にすら恐怖を刻みつけていった。

『これが覇界王の真力──』
『ラミアくん、このままでは拙者らが先に滅することになりますぞ!』

 切迫したラミアやライの意思に反応したガジュマルが、独自の判断でトゥルバの翼を振るう。

『ライの言う通りだ! 黙ってやられるつもりか!』

 ガオガイガーの首を狙う鋭い刃。酸素を噴出した真空刃の翼で斬首されるかに見えたが、ガオガイガーの下顎から延びた牙がそれを許さない。牙先が翼を弾き、ベターマンがバランスを崩す。しかし、ガジュマルの攻撃が防がれることを、ラミアは予知していたようだ。頭部のダブルファイアリングサーベルを、光を放ちながら、至近距離にいるガオガイガーの頭部に向けて発射した。トリプルゼロをまとい、物質構造どころか分子レベルの構成をも分解させる強烈な攻撃である。それを同時に二つも目の当たりにした勇者王は、成す術なく貫かれるしかなかった。いや、そう思えたが、黄金の翼は超速度で機体を後退させ、かろうじて直撃を免れていた。だが、一対のサーベルはどこまでも猛追してくる。

「命……!」

 名を呼ばれた命は、凱の怒りに圧倒されつつも、その狙いを的確に感じとっていた。

「わかった……プロテクトボルト!」

 左肩のプロテクトガオーから第三のボルトが射出される。

「ガジェットツール!」

 戒道がすかさず、尾部のパーツを分離。ボルティングドライバーとなって左腕部に装着される。

「ボルティングドライバーーーッ!!」

 ドライバー先端に装着されたネジ状の円柱ボルトが、正面の空間に撃ち込まれた。たちまち巻き起こる空間湾曲の渦が、ダブルサーベルを包み込み、そのままベターマンの足元に広がる月面に到達した。狙いを誤ったわけではない。月平原の地中で破裂した渦は、凝縮されていた空間湾曲エネルギーを一気に開放し、ベターマンを周囲の月面ごと風呂敷の中に仕舞い込むように、オーロラ状の膜で包み込んだ!

『ンー…どうやら遮蔽空間に捕らわれたようだな』
『ボクの重力結界よりも強力だよ……進んでも進んでも終わりが来ないくらいに圧縮された空間に閉じ込められて、脱出できない!』

 複雑に屈曲した空間の内部に封じられて、羅漢やヒイラギが絶望の意思を交わす。眼前では、ふたたび破壊神が掌底を黄金に輝かせていた。圧縮空間ごと、内部のベターマンを光に変えるために。

「ベターマン……みんなの仇だ!」
「待って、凱兄ちゃん! ここで彼らを倒したら──」

 護が必死に制止する。だが、今の凱には届かない。

「光に! なれぇぇぇっ!!」

 黄金の巨腕が、光り輝く五指で遮蔽空間ごと握りつぶす。脱出不能の空間の内側にもグラビティショックウェーブが放射され、そこに存在するすべてのものが、光子変換された。
 ──確実に。
 だが、次の瞬間、眩い光があふれる中、ガオガイガーの背部の空間が、裂けた。
 否、そうではない。STバイパスの出口が開いたのである。光にされる直前、ベターマンは、魔腕ソキウステラの能力を拡張させ、その内部へ自ら飛び込んでいた。そして、漆黒なる虚無を超えて、タイムラグすらなく、この宙域へ舞い戻ったのだ。ガオガイガーの死角へ!

『いまこそ、パトリアを迎えん──』

 ラミアの必滅の意思が奔り、ベターマンは頭部に再生したダブルファイアリングサーベルを再び構える。神速の翼をもってしても、今度こそ回避しようのない超至近距離からの一対撃! ソムニウムたちが勝利を確信した瞬間──
 二本のファイアリングサーベルに、二つの物体が激突する! それはGブロック01と06だった。ガオガイガーの後頭部エネルギーアキュメーターと、ガジェットツールを構成する尾部の先端に接続されていたGブロックが、高速で叩きつけられたのだ。高エネルギーを発生させるジェネレーターでもあるGブロックが、ダブルサーベルの威力を相殺するように激突し、その衝撃で木っ端微塵に爆散する。ガオガイガーとベターマンの中間で発生した爆発は、両者をともに強烈なエネルギー爆炎の中へと包み込んだ。

「待っていたぜ、この瞬間を!」

 炎の中で凱が叫んだ。同時に、残るGブロック四基が次々とベターマンに向かって突進する。それは、Gブロックをミサイルのように飛ばした自爆攻撃である。ルーメが流体装甲で防壁のように全身を包み込むが、連続する爆発をすべて受けきることはできない。
 猛烈な業火の中で、散り散りになっていくルーメの流体。そこに勇者王の巨腕が、黄金を超えた暁色の光を発しながら追い打ちをかける。同じ暁の霊気をまとったルーメとはいえ、再生が追いつくレベルではなかった。ラミアの脳裏には、かつて自分を守って滅していったセーメの姿が浮かんでいた。

『ユーヤ!』
『ラミア、そなたの楯として役立ち、私は──』

 思いのすべてを伝えることもなく、ユーヤの意思が途絶えていく。光子変換されながら、合体形態から外れてなお、最期まで壁としての役目を貫き、その姿は消滅していった。だが、茫然自失することはできない。眼前には爆炎をくぐり抜け、ガオガイガーが迫りつつある。

『ンー…これ以上、その腕を振るわせるわけにはいかぬな』

 ベターマンの左腕がオレンジの輝きを放ちながら、オウグのフライングサーベルをブーメランのように発射した! ガオガイガーの右腕が肩部で両断され、マーグアームもろとも月平原を光に変えながら墜落する。光の粒子と轟音を撒き散らしながら、自らもその渦中で光に包まれていく。

「ルネ! ゴルディー!」
「私らにかまうな!」
「とっとと決着をつけやがれッ!」

 消えゆくその声に背中を押されるように、ガオガイガーは躊躇することもなく、カタフラクトの懐に飛び込んだ。

「スパイラルドリルッ!」

 高速回転するドリルとともに、右膝蹴りが繰り出される。必殺のゴルディオンフィンガーは失われた。隻腕ではヘルアンドヘブンを放つこともできない。それでも、奴を斃さねばならない! その気迫とともにベターマンの腹部を狙った一撃だったが、その後方から躍り出た尻尾によって、瞬く間に巻き付かれた。

『拙者のアーリマンなら、この程度──』

 暁光を放つ長い尾は、ドリルを締め上げるが、オレンジ色の輝きで力が相殺され、スパイラルが逆にアーリマンを巻き上げていく! 

『見くびりました。これでは拙者も──』

 尾のどこに潜んでいたのかは明確ではないが、ライのリミピッドチャンネルはそこで途絶えた。だが、それだけでは終わらない。

「こなくそぉぉっ!」

 蛍汰の怒涛の気合とともに、そのまま右脚が蹴り上げられた。前爪でアーリマンの残骸をズタズタに引きちぎりつつ! さらに振り上げた踵を、ベターマンの頭部に向かって振り下ろす。後爪が炸裂するかに見えた瞬間──
 ベターマン背部の双翼が、頭部をかばった。ガオガイガー右脚の三本爪に引き裂かれつつも、トゥルバは至近距離から暁の霊気の威力を乗せた圧縮酸素弾を放った。

「ぐわあっ!」

 右脚内部の蛍汰が、衝撃に耐えかね、断末魔の叫び声をあげた。

「蛍ちゃん!!!」

 左脚内部の火乃紀も叫ぶ。

「……あれ? 俺、こんなとこで終わるんか? ……火乃紀…あの…さ……」

 そこで蛍汰の意識は静止した。

「あああああああああああああっ!!」

 悲痛極まりない火乃紀の絶叫がこだまする。スパイラルドリルは爆散しながら生み出した渦で、風使いの翼を巻き込み、誘爆へといざなっていた。その破壊衝撃波が合体本陣に影響を及ぼさぬよう、トゥルバは分離し、自らの身を防波堤のように捧げた。

『ラミア、シャーラを頼んだぞ!』

 スパイラルガオーとトゥルバが同時に砕け散った!

『ガジュマルッ!』

 シャーラもまた悲痛極まりない意思を響かせる。魔腕ソキウステラがガオガイガーの頭部へ向かって掴み砕かんとばかりに突き出された! ガジュマルの最期の意思に応えようというシャーラの思いを乗せて。だが、吸引直前の虚無への深淵にガオガイガーは左腕をねじ込んだ!

「プロテクトシェード!」

 叫んだのは凱ではない。左腕を制御する命が、STバイパスの入口に身を投じて封じたのである。閉鎖空間で展開されたプロテクトシェードは、屈曲した空間と互いに干渉し合い、それは結果としてガオガイガーの左腕とベターマンの右腕を、同時に自壊へと導いた!

「凱……わたし、新婚旅行は……」

 今、言わなきゃいけないと、感じたのか。思い描いていた未来の希望を伝えようとした命だったが、その先の声はどこにも届かなかった。

「命おおおおおおッ!!」
『シャーラ!』

 凱の声と、ラミアの意思が轟く。たった今、ガジュマルからラミアに託されたばかりのソキウステラの主は、散りゆく花弁の中にまみれ、その姿をもはや視認できない。とてつもない空間湾曲エネルギーの渦と、虚無の深淵なる漆黒の闇は混ざり合い、圧縮され、外に向かって両者ともに暁光を放ちながら、激しく一気に爆散した。だが、勇者王も超生王も止まらない。ラミアの背に覇界の霊気が後光の如く立ち昇る。同時に凱の髪が炎のように逆立ち、暁の輝きを放出する。

「はあああああああああああああああああっ!!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』

 両腕と右脚を失ったガオガイガーに、ベターマンは右の回し蹴りを放つ。単なる打撃ではない。ポンドゥスの超重力をまとった、重い一撃である。

『ごめんね……ボクはヒトが好きだった。けど──』
「悪いな……僕たちは家畜として好かれたいわけじゃない」

 ガオガイガーの無防備な胴に打ち込まれるはずだったポンドゥスを受け止めたのは、黒鳥の両肢であった。戒道の判断で分離したガジェットガオーが、細く、しかし鋭い両爪でポンドゥスを掴み潰そうとする。だが、あまりにも非力。華奢な機体は、超重力でみるみるうちに押しつぶされていく。

「幾巳っ、幾巳っ! 早く脱出を!」

 押しつぶされていく漆黒の機体を目の当たりにした護が、必死に叫ぶ。機体が圧壊していく音の向こうに、戒道は親友の涙まじりの声を聴いた。そして、場違いなことを考える。

(幾巳、か……母さん以外の人にそう呼ばれた時、正直戸惑った。……でも、嬉しかったんだ。護がそう呼びはじめてくれた…あの時から……僕たちは本当の…親友になれた気がしたから──)

 そんなことを考えながらも、戒道は的確にガジェットガオーを操る。稼働停止する前に、黒鳥の首をエメラルドグリーンに輝くウィルナイフに変形させ、アルマとして授かった胸のJジュエルをクリアなルビーレッドに輝かせ、勇者王から流れるオレンジサイトの光とともに──ポンドゥスを貫いた。

『───!』

 ヒイラギの意思が途絶える。覇界の再生力をまとっているとはいえ、ベターマンのその姿はもはや合体形態とは言い難いほど砕け始めていた。だが、満身創痍なのは超生王だけではない。同時に、超重力で圧壊に導かれたガジェットガオーも稼働限界を迎える。燃料系の誘爆により、黒鳥は姿を消し去った。

「うわああああああっ!」

 護が魂の底から振り絞るような絶叫をあげる。勇者王は、翼、右脚を失い、低重力下でなければ、立つことさえも不可能な状態である。そう、これは王と王、覇界王の力を宿した者同士のぶつかり合いであり、対消滅となる消耗戦なのだ。

「何故だ! 何故こうまでして戦う!」

 凱の言葉を、火乃紀が引き継ぐ。

「私が……人類がアルジャーノンを克服してはいけないの!? 答えてっ!ラミアッ!」

 最後に残った左脚で、ガオガイガーが跳び蹴りを放つ。的確にベターマンの頭部を狙ったはずであったが、受け止めたのは左肩であった。

『ンー…ヒトよ、君たちの適応能力、私には好ましく思えるぞ』

 直撃を受けた肩部が、対消滅していく。

『だが、君たちの中に潜む元凶なりし者は、滅さねばならぬのだよ──』

 それが羅漢の最期の意思となる。勇者王の背後からブーメランの如く舞い戻ったフライングサーベルが、ストレイトガオーをオウグの左腕ごとぶった斬ったのだ。直後、そのサーベルは対消滅に巻き込まれるように砕け散る。本体から分断された両者のパーツは眩い光とともに爆散していった。

『我らの希望……!』

 ラミアが、意図していなかった結末を迎えたような意思を発したが、それを受信する余裕のある者はこの場にいない。火乃紀は、消えゆく意識の中で、背を向けて佇む兄・真理緒まりおの幻影を見ていた。

「……おにい…ちゃん……?」

 ゆっくりと振り向いた兄の顔は、ラミアのようにも見えたが、火乃紀にはもはやそれを認識する術はない。人類を奇病アルジャーノンから解放するために戦い続けた生体医工学者・彩火乃紀が、最期に見た光景だった。

『ウィウェレよ……我らは滅する。勇者の王に潜む元凶──最後の覇界王を!』

 残る全身を震わせ、ベターマンは叫んだ。

「――――――――――――――――――!!!」

 意思ではない。大きく開かれた顎門から響く超音波〈サイコヴォイス〉だ。至近距離からの固有振動は、ガオガイガーの全身を脅かす。しかし間一髪、わずかな残骸パーツを外し、仮の身とすることで、本体を後方へ逃がすことに成功する。護と凱は、超音波の軌道からギリギリ退くことが叶った。だが、かつてジェネシックマシンであったパーツは、その全てが粉砕されていった。

「ああああああっ……!」

 護は散っていった仲間たちに思いを馳せ、泣き叫び続けた。

「俺が元凶……俺が覇界王だというのかっ!」

 オレンジ色の塊が一層激しく燃えさかる、四肢と翼を失ったガオガイガー。いや、そこに残されたのは、白き獣の化身──ジェネシックガイガーのはずだ。だがしかし、それは、全身から激しいオレンジの幻炎を噴き出す完全なる覇界王の姿であった。対して、全身の大部分が剥落したベターマンも、もはやカタフラクトと呼ばれることはない。そこにいるのは、取り込んだトリプルゼロの力を幻炎として放出する、覇界生体ベターマン・オルトス。
 覇界の眷族と、覇界と共生を果たした超生命の長く厳しい闘い。その覇界大戦の行き着く果ては、月面における覇界王ガイガーと覇界王オルトス、オレンジ色の幻炎をまとう者同士の激突だった。
 ガイガーとオルトスは、正面から激突する。護を中枢に置いた機体で戦うエヴォリュダー凱。対するは、孤高となった最後のソムニウム──ベターマン・ラミア。トリプルゼロの塊と化した両者は、それぞれの身体を武器として、互いを破壊しようとぶつかり合う。何度も、何度も、激しく、猛々しく。オルトスは徐々に頭部のファイアリングサーベルを再生させながら、勝機をうかがう。ガイガーは覇界のオーラとシンクロしたジェネシッククローで、それを阻止し続ける。

「嘘だ……こんな戦い…凱兄ちゃんが…凱兄ちゃんが覇界王だなんて……」

 既に戦意を失ったかのように、護の声には力がない。

『エヴォリュダーの肉体は、ヒトとは違う。暁の霊気による浸食も、異なる様相を見せる──』

 護のうちに、生々しいほど鮮烈なラミアの意識が流れ込む。それはリミピッドチャンネルによる、意思疎通を遥かに超えた意識共有。ラミアから護へ膨大な情報が流れていく。それはラミアが超感覚で知覚した真実。宇宙の卵──オレンジサイトでかつて起きた、残酷な真実である。
 あの時、GGGの隊員たちや勇者ロボ、赤の星の戦士たちは、濃密なトリプルゼロに浸食されて、覇界の眷族と化した。獅子王凱もまた、それをまぬがれることができようはずもない。彼の肉体にも、奥深くまでトリプルゼロは浸食していたのだ。

「じゃあ、あの時からずっと凱兄ちゃんは覇界王だったの!?」
『いや、そうではない。エヴォリュダーの全身の細胞は、あの時からずっと戦い続けているのだ──』

 ラミアの意思が、恐るべき真実を告げた。凱の全身の細胞はひとつひとつが、微少なGストーンと同化している。それが今日まで、トリプルゼロに抗い続けてきた。凱は浸食されなかったわけではない。
 今も浸食されている最中だったのだ・・・・・・・・・・・・・・・・


 護の問いに答えつつも、ラミアは凱との戦いを緩めてはいない。ガイガーとオルトスの攻防は熾烈に、苛烈に、激烈に、一進一退を続けている。その戦いに加わる気力を発揮できずにいるかのようだった護は、決定的な疑問を口にした。

「じゃあ……なぜ? なぜ凱兄ちゃんを、覇界王として目覚めさせる必要があったの?」

 あえて凱を破壊神とフュージョンさせたこと。目の前で仲間たちを消し去らねばならなかったこと。すべては、覇界王としての覚醒をうながすための行為であったことに、護は気づいていた。

『元凶なりし者のうちに潜む真なる敵──それは我らにとって必要不可欠でもある毒。すなわち、その矛盾から生じる戦いでもある。去りゆく我らの最期の使命……』
「去りゆく…? 最期の使命!?」
『覇界王を滅せねば、パトリアの刻は、迎えられぬ──』

 果てしなく続くかと思われた攻防は、次第にオルトスの防戦一方と化しつつあった。超生王の力が、相対する覇界王に劣っていたわけではない。以前、一度だけオルトスの能力を得たラミアは、その後、長い眠りに至り、目覚めるためのエネルギーを大量に要することとなった。彼を目覚めさせたのは、人々の勇気を変換した力。だが、ラミアは生命体である。トリプルゼロと共生した現在のオルトスとて、その活動時間は無限ではない。今まさにラミアの肉体が、限界を迎えつつあるのだ。一度はカンケルとの戦いで滅びを迎え、そこからようやくの再生を果たした身。本来なら、百年、二百年の眠りによって、リミピッドチャンネルを介した精気を充分に吸収する必要があった。しかし、覇界王降臨という事態は、ラミアにそれを許さなかったのだ。

「ラミア……じゃあ、ソムニウムの目的は──パトリアの刻って──」

 護が震える声で問いかける。だが、答えが戻ってくる前に、ガイガーのクローが、オルトスの胸部を貫いていた。必殺のダブルサーベルは放たれることなく、胸のペクトフォレースの象りが弾け散り、超生王の全身からは力が抜け、ゆっくりと繊維化していく。この先に何があろうと、ラミアは二度と再生不可能な状態まで、その肉体を酷使してきたのだ。ソール11遊星主のひとり、パルパレーパはそれを〈物質世界の掟〉と言った。今まさに、ラミアという一個体の完全なる終わりが来たのだ。

「これがお前たちの望んだ結末なのか! こんな終わり方が!」

 繊維化したオルトスを貫いたまま、凱が吼える。そこに勝利の喜びは感じられない。深い深い、悲しみだけがあった。

『──いいえ、まだ結末は迎えておりませんよ』

 その意思を発したのは、ラミアではない。ベターマン・ライが発したものだ。つい数分前、スパイラルガオーにズタズタにされたはずのアーリマンが、まったくの無傷の姿で死角から纏わりついてきた。そして、ガイガーの身動きが取れぬよう、背後から押さえつけた別の存在もいた。それは、過去に戻されたはずの、もう一体の白き獣だった。

「ギャレオン!!」

 驚愕する護の声が響く間もなく、無数の柱状のアーリマンが、覇界王ガイガーの四肢を羽交い絞めにしていく。

「なぜだ!?」

 凱の声に、おどけるライからの意思が届く。

『過去に行く前に、ちょっと寄り道させてもらいましたが、むしろ正解でした』

 この攻撃を予期することは不可能であった。テンプスの実でギャレオンとともに時間移動するはずだったライが、逆転の機のためだけに加勢してくることなど──

「うおおおおっ!」

 だが、ガイガーはすぐさま、渾身の覇界力でアーリマンを弾き飛ばす。

「こんなことで負けたりはしない! 俺は覇界王! 宇宙の摂理を司る者だ!」

 凱は驚愕した。自分が発するはずのない言葉に。おのれのうちに潜むものが言わせた言葉に。

『残念ですが、拙者のアーリマンはまだやるべきことがありますゆえ、過去に退避させてもらいます。過ぎ去った時間は変えるわけにはいきませんが、未来なら……』

 あやうく粉々にされそうだったギャレオンを抱えたアーリマンは、残り僅かなテンプスの実を入れた小袋を使うことで、時間移動を遂行し、一瞬のうちにその場から消え去った。

「……!」

 突然の事態と、自分自身の言葉に戸惑った凱だが、すぐに態勢を立て直す。だが、その一瞬の出来事が、最後の、そして唯一の隙となった。

 

 結晶化して、その場に崩れていくオルトス。能力が失われたことで、トリプルゼロとの共生関係も無くなり、ベターマンの覇界の力は消滅する。だが、その中から飛び出してきた、尖った長い一本角を前方に向けたマンタのような光が、あたかも水の流れのように、その場に存在する分子レベルの物質の中を全て通り抜け、ガイガーの胸部へ飛び込んだ!

『覇界王よ──いまこそ、すべての決着を成す!』

 ラミアの肉体と意思が宙を駆ける。それは、切り札として、最後の一撃のために温存していた、ベターマン・アクアの特殊能力である。

「ラミア! 俺は負けない! 最後に勝つのは、覇界王だ!」

 すぐさま身構える凱。水流とともにガイガーの内部へと侵入を果たしたラミアは、アクアの能力を解き、即座に実体化した右腕の爪をふりかざした。前方に座し、フュージョンした状態で避けることが叶わぬ凱に襲いかかる。凱は全身にGパワーをみなぎらせ、これを迎え撃つ。
 だが──その全身は、緑色には輝かない。オレンジ色の幻炎に包まれていた。その色合いは、凱にすべてを悟らせた。これまでに起きた現象の裏にあったものを。オーストラリアでのラミアの謎めいた言葉の裏にあった真実を。

(命を超えた元凶なりし者よ、この地に戻ってはならなかった……その先にあるものは──ヒトなる者、すべての希望なき滅び)

 凱は悟った、いま自分がなすべきことを。だが、覇界の力は、その身体を反撃へと導く。自らの意志とは異なり、抗おうと藻掻く。どうしようもなく、宇宙の摂理が自分を侵食してくる。止めたくても止められない。

「うわあああああああああああああああああああっ!」

 凱は自分自身との戦いで破裂しそうになった。

「凱兄ちゃん!」

 中枢部にフュージョンしている護も身動きできない。既に力尽きようとしている非力なラミア対覇界力がみなぎる凱の勝敗の行方は、明らかなはずだった。だが、その瞬間に、オレンジの炎の中でこそ実現した出逢いが起こる。

「凱……負けないで」

 凱の脳裏に最愛なる声が響いた。激戦のなかで散って逝ったはずの、もっとも愛しい、もっと大切な人の声。

「高校生の時に出逢ってから──ずっとあなたは私の勇者ヒーロー。だから……」
「……ミコ……ト……」

 すべてを焼き尽くす業火に支配されつつある心のうちで、その声はたしかに届いていた。その瞬間、最後の奇蹟が起きた。荒れ狂っていた凱の魂が、瞬時に静かな海原のような穏やかさを取り戻す。愛しい人の姿はもうそこにはない。だが、その一瞬のエールで充分だった。凱は、今の自分にできる、最善なる<勇気ある戦い>に、挑む決意を固めた。最後に勝つ者、それは――
 次の瞬間、ラミアの爪が、凱の胸を深々と貫いた。もはや限界を超え、本来なら深い眠りにつくはずだったラミアの力ない一撃が、易々と貫いた。なんの抵抗をすることもなく、両手を拡げた凱の胸を、貫いたのだ。
 中枢部の護も感じていた。安らかな凱の表情が、異形の花に覆われていく光景を。アニムスと呼ばれる、ヒトの魂魄を養分として咲く艶やかな大輪の花が、凱兄ちゃんの太陽のような笑顔を覆い尽くしていく光景を。 

 そして、異形の花は異形の実を実らせた。ラミアの震える指が、力なくその実をもぎとろうとする。だが、それはかなわない。すでに、彼の寿命は尽きていたのだろう。幾多の難敵を打ち破ってきたその腕は、アニムスの実をもぎとるという行為も果たせず、力尽きていた。

『……パトリアの実、私は…これを手に入れなければ──』

 ラミアの意思に、これまでになかった色が混ざる。それは“無念”という色彩。常ならば無色透明だった意思が、霧の中に消え去ろうとしていた。
 そして、その“無念”は、護に決意をさせた。

(わかったよ、ラミア……凱兄ちゃん……いま、僕がするべきこと……)

 滂沱のように流れる涙を拭おうともせず、護は中枢部からフュージョンアウトする。たちまち、ガイガーの全機能は停止し、暗がりの中に緑の輝きをまとう天使が舞った。
 静寂の中――
 護と同じような色の、エメラルドグリーンの輝きを放つアニムスの花を咲かせ、微動だにしない凱。その前で力尽き立ち上がれない、白妙色に変色したラミア。両者の間に立った護は、溢れ零れ続ける涙に濡れた顔でふたりを見つめ、そっと手を伸ばす。そして、生命の宝石が結晶化した、その果実を掴み、優しく、壊れ物を扱うように、ゆっくりともぎとった。

「最後に勝つのは、勇気ある者たちなんだ……」

 

 ──GGGオービットベースの二十六層B区画の通路を、一人の女性隊員が歩いて行く。彼女とすれ違った隊員たちは、みな一様に驚きの表情を浮かべた。
 それもそのはず、と言えるだろう。月面決戦の直後に彼女が意識を取り戻してから、まだ一週間しか経っていないのだ。普通なら、まだ療養生活していてもおかしくない。だが、彼女──タマラ・ゴーゴリが身を包んだ研究部隊員服は、すでに任務に復帰していることを示している。
 そうして目的の部屋に到着したタマラは、掌紋と光彩の二重認証でロックを解除して、室内に入っていった。入口の研究室には、<生体医工学研究室>と刻まれたプレートが掲げられている。
 室内には、来室者と面会中の彩火乃紀がいたが、タマラを見て驚いた。

「タマラ! もういいの?」
「はい火乃紀さん大丈夫です問題ありません改めてお礼を言わせてください私がアルジャーノンから回復できたのは火乃紀さんのおかげです感謝してます感激です」
「うん、うん、わかった、でも……当然のことをしたまでよ」

 そう言って、火乃紀は微笑んだ。その姿は、以前となんら変わりはない。ストレイトガオーが大破したにもかかわらず、彼女はなにひとつ怪我を負わなかったのだ。火乃紀だけではない。ルネも命も蛍汰も戒道も同様だ。偶然であろうはずがない。おそらく、それがベターマンの意図であったのだろう。獅子王凱を覇界王として覚醒させるのが目的であっても、そのために周りの人々を傷つけることは本意ではない。そう、あの戦いで凱の仲間たちは誰一人として、傷つかなかったのだ。魔腕ソキウステラによって、STバイパスの彼方へ消え失せた人々も──

 

 一週間前──
 半壊した、月面アルプス基地の一角。かろうじて与圧が保たれている区画で、寝かされている凱の横に立つ護が、パトリアの実を差し出した。貴重な果実を受け取ったラミアの周囲には、六体のベターマンがいる。羅漢、ユーヤ、ガジュマル、シャーラ、ヒイラギ、そして一人目のライ。激戦で砕けていった変身態は、彼らにとって仮初めの身体に過ぎない。物理的に破壊され、砕け散ろうと、内部の本体は傷一つ負ってはいないのだ。とはいえ、宇宙に投げ出されては、さすがに生き延びることは困難であるため、シャーラのソキウスの径に導かれ、亜空間へと退避させられていた。そして、今、再び室内の空間に開かれたシャーラの窓からは、戒道、ルネ、命、蛍汰、そして火乃紀がゆっくりと現れ、すでに状況を把握した様子で生還を果たした。

「ラミア……少し疑ってたけど…でも、信じてた」

 火乃紀が潤んだ瞳で話しかける。

「いや~、俺はもう終わりかなって思っちゃったけどなぁ~」

 へとへとに疲れ切った様子の蛍汰がおどける。

「で、どこなんだ? アニムスの苗床とやらにされた、この基地の観測員たちは」

 まだ納得しきれない口調のルネが問い詰めるが、戒道はすでに答えにたどり着いていた。

「おそらく、あれはリミピッドチャンネルで見せていた幻影、つまりイメージでしかない、そうだな?」

 頷く護の奥には、寝息を立てている観測員たちの姿が見渡せた。ラミアのペクトフォレース・フラウムによって眠らされているようだ。勿論、苗床にされた者など皆無だ。
 そして、彼らから少し離れたところに、一人で横たわっている者がいる。呼吸が止まったように、その胸は動いていない。

「凱……」

 動かない最愛の人の身体に、命はしがみついた。誰もが勇者は亡骸になどならない、と信じていたが、息を呑むばかりで声を発するには至らなかった。

『感謝する……光なる者よ』

 巨漢のヒイラギに身体を支えられたまま、ラミアが額に十字光を明滅させる。

「いいんだ、ソムニウムの目的……ちゃんとわかったから」

 死闘のさなか、護とラミアの間には意識共有が成立し、互いの想いが伝わっていた。
 そのため、正しいと思える選択をすることができたのだ。

(凱兄ちゃんに伝えていたら、きっと上手くいかなかったんだね……)

 同じギャレオンにフュージョンし、怒りの炎の中にいた凱には、その現象は起きていなかった。だが、その状態になければ、凱を覇界王として目覚めさせることはかなわなかった。三重連太陽系生まれである護ならではの超感覚。ラミアはそれを知覚していたからこそ、護を<光なる者>と称していたのかもしれない。護は、自分の中で消化しきれない様々な複雑な想いを抱えていたが、その頭上の強化ガラス越しに見える宇宙空間が揺らぐと、希望に心が躍った。
 何も存在しなかった宇宙空間に、円形の歪みが発生していく。

「……ESウインドウ!」

 その現象は、かつて幾度も目にしたものだった。超弩級戦艦ジェイアークがESミサイルによって発生させる、ES空間と実空間をつなぐ窓。そこから姿を現したのは、白い巨艦である。

「J……やっぱり無事だったんだな」

 護の隣で感極まった声を出したのは、戒道だ。

「戻ってくると思ってたよ」

 ルネも顔がほころぶ。ジェイアークに続いて、ESウインドウから勇者ロボたちを乗せたワダツミが現れるに至っては、一同が歓声をあげる。

「うわっはああーっ! 華ちゃん…みんな……」

 喜びの声をあげる仲間たちの中で、護も大粒の涙を浮かべていた。

「俺は、とんでもねえ目にあったがな」

 通信を通して聞こえてきたのはゴルディーの声だ。窓の外の月面に、ジェネシックマシンの中枢ブロックとともに、顔面だけの姿になって転がっている。彼らを復元するのはなかなか難しそうだが、GGGなら実現するであろう。

「生きてる……みんな、生きてるんだ!」

 嬉しそうな護の声。その声に導かれたかのように、ぴくりとも動かずにいた勇者の胸が、ゆっくりと上下に動いた──

 こうしてGGGの一同とジェイアークは、オービットベースへ帰還した。すべての戦いはようやく、ようやく終わったのだ。
 残る問題は、ただひとつ。タマラがやってきたタイミングは、奇しくもその問題に決着をつけようという瞬間だった。

「ああすみませんお取り込み中のようですね私にかまわず続けてください」
「じゃあ、そうさせてもらうわね」

 そう言って、火乃紀は二人の方へ向き直った。タマラより先に、この部屋へやってきていた、獅子王凱と卯都木命の方へ。

「各種生理検査の結果、結論から申し上げます。凱さん、あなたの肉体にはもう、トリプルゼロは残留していません。いたって健康体です」
「そうか、ホッとしたよ…ありがとう」

 精密検査に裏付けを求めてはみたが、結果を待つまでもなく、凱自身がそのことに気づいていた。

「ソムニウムとの意識共有で護くんが知った、彼らの目的──それが裏付けられたことになりますね」

 火乃紀は感慨深げに語った。ソムニウムの目的とは、パトリアと呼ばれる特殊なアニムスの実を得ることであった、ということを。一通りの説明を聞いて、いつものクリアカチューシャの位置を直しながら、命が尋ねる。

「でも、アニムスの実って、人間の魂を奪って実るものなんだよね? なんで凱は死なずにすんだのかな?」
「かつて、ラミアは語ったそうです。Gストーンは、命の宝石であると──」

 火乃紀が語るそれは比喩ではない。アニムスの実がそうであるようにGストーンもまた、人間の生命──すなわち三重連太陽系の人々の魂が、結晶化したものなのだ。

「まさかオレンジサイトで、俺自身よりも先に、全身のGストーンの方が浸食されていたとはな……」

 それが、ラミアが告げた真実。他の者たちが真っ先に、おのが魂を浸食されてしまったのに対して、凱の場合はGストーンがトリプルゼロの浸食に抗い続けている状態であったのだ。

(凱さんを放置しておけば、いつ覇界王が目覚めるかわからない不発弾のような存在になるところだった。だから、彼らはあえて……)

 人類を救うため、青の星の覇界王を目覚めさせ、決着をつける途を選んだのだ。ソムニウムにとって、人間は糧を摂取する対象であるのは、事実だ。だが、それでも彼らが、人類という隣人を共生する相手として尊重し、慈しんできたこともまた、偽らざる事実である。
 トリプルゼロに浸食され、変質したGストーン。それを結晶化させ、アニムスの実として実らせる行為は、結果として凱の肉体から、覇界王としての力を浄解させ、開花による摘出に至る行為となったのだ。

「ねえ、凱……もしかしてだけど、もういいんじゃないかな?」

 凱をじっと見つめた後、命が身を乗り出して、火乃紀に詰め寄る。何を言い出そうとしているか、予期した凱が遮ろうとするが、止まらない。

「私たち、子供を作っても大丈夫だよね!」

 あまりにも直截な言葉に、頬を染めながら、火乃紀は答える。

「そうですね……今の凱さんは、どちらかというと、命さんのようなセミエヴォリュダーに近い存在と言えます。優性形質もなくなり、お二人のお子さんが誕生したとしても、必ずエヴォリュダーになるということもなくなりました。ですから……私は断言できます。大丈夫です!と」
「やったぁ!」

 隣に座っている凱に、命が抱きつく。火乃紀やタマラの見ていることを気にして、命を押し戻そうとする凱。だが、人生最大の幸せを感じている命は、凱から離れようとはしなかった。

「やれやれ……」

 小さく囁いた凱も、もうムリヤリ引き離そうとはしない。命に抱きつかれるままに、幸せそうに目を閉じた。

(あの時……命の声が聞こえて来なかったら…俺は……俺たちは勝利できなかった……)

 命は無意識だったのかもしれないが、同じセミエヴォリュダーだからこそ起こりえた奇蹟として、凱は生涯忘れることはないと思い、彼女の肩をしっかりと抱きしめた。

「長い長い戦いの果て……今度は神様じゃなくて、ベターマンがご褒美を与えてくれるとはな……」

 凱のつぶやきを聞いた、火乃紀は思う。

(人類とソムニウムの共生……そして離別……それはきっと、私がアルジャーノンの治療法を確立した──そのせいだけじゃない……)

 まだ仮説に過ぎないのだが、火乃紀はそう考えるに至っていた。十年前の事件の時、大量のアルジャーノン発症者が現れたのは、免疫抗体としてのソムニウムを必要としたからだ。だが、今回の件では発症者がごくわずかだった。
 それは、もはや人類は免疫抗体に頼らずして、様々な敵に立ち向かっていけるほどに成長してきたということではないだろうか。

(人類が勇気の力にあふれ、自ら生き抜く力を得たからこそ、アルジャーノンの発症者が減少した……それはつまり、私たちがソムニウムという保護者を必要としなくなったということ。だから……)

 火乃紀は壁の一角を見つめた。いや、壁ではない。分厚い壁と隔壁の向こう、青い惑星の方を見つめたのだ。

「だから……あなたたちは旅立つのね」

 目元に涙を浮かべつつも、そうつぶやいた火乃紀の口元は、かすかに微笑んでいた。

 

10

 南米、中央アンデスにはアルティプラーノと呼ばれる標高の高い高原地帯が存在する。決して人類が知覚することはできないが、この地には世界最大の不可知領域──セプルクルムがあった。
 いま穏やかな陽光の下、ここには世界中に点在していたソムニウムのほぼ全員が集まっていた。月面から帰還して以来、ライや羅漢がリミピッドチャンネルで呼び集めたのだ。

『いやはや、ソムニウムのすべてが一堂に会するとは、実に二千年ぶりだそうですなぁ』
『ンー…ざっと見たところ、数は千といったところか』

 一千体ほどのソムニウムたちは、赤い眼球を除けばただの無秩序な群衆にしか見えないが、これがこの惑星の生物種の頂点に立つ霊長類なのだ。

『壮観だぞ、ラミア……』

 一同を見渡せる丘で、岩の上で座り込んでいるラミアに、ユーヤが語りかける。

『ああ、ユーヤの目を通して、私にも見える。ついに訪れたのだな──パトリアの刻が』

 覇界王との戦い以来、ラミアは立ち上がることも、自分の目で視ることも、かなわなくなっていた。身体に過酷な負担を強いるオルトスの実を喰らった上、トリプルゼロを制御、ネブラとアクアの実まで摂取し、肉体の限界を超えて戦い抜いたのだ。
 ラミアという個体、すでにその命数が尽きていることを、ユーヤは正確に理解していた。だから彼女は勤めていた。この場の光景、音、匂い、そういったものをすべて、自分の視覚と聴覚と嗅覚で捉えて、正確にリミピッドチャンネルで届けよう、と。

(ラミアがずっと望んでいたこの瞬間を、せめて私の感覚を通じて──)

 やがて、この地に集まってくるソムニウムはもういないと見てとった羅漢とライが、うなずきあう。近くにいたガジュマルとヒイラギ、そしてシャーラもその刻が来たことを悟った。

『──じゃあ、始めるね』

 一歩前に進み出たシャーラは、光を放つアニムスの実を手にした。それは、青の星の覇界王に実ったエメラルドグリーンに輝く果実。獅子王凱の全身に融合していた命の宝石が結晶化した、パトリアの実である。少女は細い牙でパトリアの実を噛み砕き、飲み下していく。
 するとシャーラの腹部が光り輝き、その輝きがみるみる広がり、足元から地面へ、やがてはアンデスの平原を丸く切り取り始めた。

『ンー…見事なパトリアのとびらだ……』

 キラキラとエメラルドのように煌めく大地、美しい湖のように開いた窓を見つめる羅漢の意思にも、常のような冷笑の響きはない。ようやく訪れた“次元渡り”の瞬間を迎えた、厳粛さをにじませている。

『さあ、おのおのがた、旅立つとしましょう。我らを待つ未開の次元へと──!』

 ライが先頭に立って、窓へと身を躍らせていく。ヒイラギはその剛力で、体の弱い者たちを肩に担いでいる。

『しっかりつかまって……次元の狭間で、落ちてしまわないように』

 羅漢が数百のソムニウムとともに、後に続く。そして、一度立ち止まり、ラミアのいる丘を見つめる。

『ンー…忘れることはない、古なるラミアよ』

 ラミアは、羅漢と初めて、フォルテ同士で戦ったあの日を思い出していた。フォルテの耐性を持った羅漢は、すなわちオルトスへの耐性も備えていることになる。

『ンー…いつかまた、必要とされたときは、この羅漢がオルトスを引き継ぎ、ソムニウムを守る。未来永劫、この身が滅するその日まで』

 そう告げて再び歩みを進める羅漢。その意思を受け取り、ラミアは少し笑んでいるようだった。ユーヤは、旅立っていく一族の光景を、決して見逃すまいと、じっと見つめていた。だが、ラミアの意思が囁く。

『ユーヤ……お前も行ってくれ』
『ラミア……』
『私はここで旅立つ同胞を見送る。パキラ老やボダイジュ、セーメとともに……』

 なおも何かを言いつのろうとして、ユーヤは息を吞んだ。ラミアの身体に生じている、ある変化に気づいたのだ。

『──わかった。セーメ姉様と仲睦まじくあれ』

 その意思を残して、ユーヤも窓の中へ身を投じていった。もう振り向くことはない。ラミアが残したものを内に秘め、彼女に与えられた次なる使命を果たすために──
 ほぼすべてのソムニウムが窓の中へ身を投じていき、ガジュマルはシャーラに手を差し出した。

『シャーラ……』

 はるか数千年の過去、ソムニウムは次元渡りによって、この惑星ほしへやってきた。そして、まだ脆弱だったヒトの守護者となり、その生命をわけてもらうことで生きてきた。だが、もうヒトは彼らの庇護を必要としていない。だから旅立つのだ。次元を超えて、新たな故郷となる地へと。
 希望に満ちた旅立ち──だが、シャーラはかぶりを振った。

『行って、ガジュマル……』
『宿命か……』
『最初からわかっていた。この窓は遥か彼方まで続いている。私はここで、窓を開いてなくちゃいけない。ソキウスとは違う。遠く、遠く……左右が入れ替わるほどの世界。だから私は力を使い切るまで動けない。窓の向こうに渡っていくことは……できない……』

 ガジュマルがうなだれる。シャーラの意思が告げているのは真実であり、どうしようもないことだと、理解したのだ。あきらめたかのように窓へ向かっていくガジュマルの背を、シャーラが微笑みつつ、見つめている。だが、少年が窓の向こうへ身を投じることはなかった。身を翻して、少女のもとへ駆け寄り、細い身体を抱きしめた。

『シャーラを一人にはさせない! 俺が……俺だけは、ずっと側にいる!』

 その言葉で、シャーラの瞳に涙があふれた。ソムニウムの身体構造には、視覚を司る器官を洗浄する必要はない。だが、あふれ出る感情が液体化することを止められなかった。

『うん……ありがとう………ガジュマル、ずっと一緒にいて』
『一緒にいるぞ! この身が朽ちるまで! 俺はシャーラとともに生きる!』

 固く抱き合う二人の姿を、丘の上の白い塊が見守っている。うずくまった人のようにも見えるその塊は、夢人ソムニウムの肉体が繊維化した残骸である。

『それでいい、ガジュマル……シャーラ…どこにいても、我らは光を見つけられる……。美しさで溢れる未来を……見届けてほしい……。この地と、我らの希望を──』

 アンデスの平原に、キラキラと輝く霞のような、さわやかな風が吹く。かすかに流れていた意思は、その風に吹きさらされたかのように、かき消えていった……。

 

「……!」

 同時刻、火乃紀がオービットベースの通路で立ち止まる。

「どした?」

 一緒にいた蛍汰が声をかけたが、すぐに何事もない様子で笑みを浮かべ、歩き出す。

「ううん……今、ちょっと、風を感じたような……気がしただけ」

 

 軌道上から窓の外の青き惑星を眺めていた紗孔羅は、ソムニウムたちの去り行く霞の煌めきを知覚し、ひとり、頬を濡らしていた。

「サヨヲナラ……ユメノカケラ」

 

EPILOGUE 翼-MIRAI- 西暦二〇一八年


 ──そして、一年が過ぎた。

 GGGオービットベースの近くに、白き方舟ジェイアークが遊弋している。繋留用ボラードに固定されてはいない。静かに唸りをあげるジュエルジェネレーターは、アイドル状態にあり、出港の時が目前に迫っていることを示している。

 その艦橋に立ち、窓外の宇宙を見つめている二人がいる。地球の方向ではない。艦首が向いているのは、太陽系外の深宇宙の方向だ。
 スペーススーツ姿の獅子王凱が、かたわらの獅子王命に語りかける。

「宇宙飛行士に戻れたら外宇宙探査に出たいとは思ってたけど、いきなり銀河の彼方まで行けるとは思わなかったなあ……」
「ねえ、凱……これって新婚旅行になるの?」

 乗組員二人のやりとりに、艦長が自席から反論する。

「旅行ではない! 超弩級戦艦ジェイアークは、調査に向かうだけだ。宇宙のどこかに木星のような次元のほころびがないか、確認するために!」
「メルシー、艦長、私まで同乗させてもらって感謝してるよ」

 ソルダートJの態度を面白そうに、ルネがおどけてみせる。

「ま、アンタは元々戦士だからね。新婚旅行の運転手なんてしたくない気持ちはわかるけど」
「……誰が運転手だ!」

 憤慨するJの姿に、さすがに申し訳ない気持ちになったのか、凱がとりなす。

「宇宙全体のための大事な任務だ。もう二度と、トリプルゼロが流出してくるような事態は避けたいからな。新婚旅行なんて、甘っちょろい気分は持っちゃいないぜ」
「ええ~~、違うんだぁ」

 命の言葉にルネが吹き出しそうになり、Jの頬がひきつる。

「トモロ! 出港準備はどうなっている!」
「完了している。後は、最後の乗組員の到着を待つだけだ」

 忠実なメインコンピューターがそう答えると、艦長としては後は黙って待っているしかなくなった。凱は視線をそらし、今度は地球の方を見る。

(さあ、いよいよ旅立ちだ。待ってるぜ……)

 

 凱の視線が見つめる先は、北海道の雪原。いま、最後の乗組員はこの地で、見送りを受けているのだ。
 そもそも二十一年前の冬の一夜、最後の乗組員がある目的で降り立ったのも、その地であった。

 雪原に下り立った巨大なメカライオン。その前に立っている若夫婦。二人の腕の中には、小さな赤子が抱きかかえられている。それは二十一年前の夜と、そっくりな光景であった。
 あの時と同じように、赤子は自分たちを見下ろす機械仕掛けの眼差しに怯えることもなく、機嫌良さそうに笑っている。

「寒くない? ちょっとだけ我慢してね」

 母親が赤子をあやしながら、優しく語りかける。

「ごめんね、翼。でもどうしても、旅立ちの前に、ここに連れてきたかったんだ」

 二十一年前との違い──かつての白いギャレオンとは少し違う、ややベージュがかったジェネシックギャレオン。そして、かつての赤子が成長して、いまや立派な父親として、この地に立っているということだ。
 愛妻・華と第一子・翼の隣で、天海護は最後の乗組員である白き獣に語りかける。

「行ってらっしゃい、ギャレオン。でもお別れは言わないよ。探査任務が終わったら、すぐ凱兄ちゃんと一緒に帰ってきてくれるんだからね」

 ギャレオンが、赤子を驚かせないように、優しく小さく吼えた。護の言葉に同意しているようだ。護たちの後ろには、当時は新婚だった、初老の夫婦もいる。

「ありがとう、北極ライオン……じゃなくて、ギャレオン。君は僕たちに子供だけじゃなく、義理の娘や孫も授けてくれた」
「本当に感謝しています」

 声をかけたのは天海勇と愛、かつてこの雪原でギャレオンと出逢った夫妻である。あの時の相似形のようでいて、いまこの場この時の光景には、大きく異なることがある。
 護とその家族の周囲には、たくさんの仲間が集まっているのだ。

「Jとうまくやってくれよ、ギャレオン」

 護の相棒でもあり親友の戒道幾巳、彼に寄り添うアルエット、それに子供の頃からの友人たちも大勢来ている。蒼斧蛍汰や彩火乃紀、大河特務長官に、阿嘉松長官、火麻参謀に復帰したプリックル、楊や雷牙、GGGの多くの隊員たち。そして勇者ロボ軍団。全員が、あえてこの場からギャレオンを見送りたいと望んで、集まったのだ。

「ギャレオン……凱兄ちゃんを、手伝ってあげてね」

 護の言葉にもう一声答えると、ギャレオンはGインパルスドライブを低出力噴射して、夜空に飛翔していった。

「見てごらん、翼──」

 あの夜と同じように、地上に降ってきた流れ星が、空へと駆け上がって行く。その光景を見送りながら、護は翼に語りかけた。

「いつか人類も銀河に飛び立つんだ。その時、みんなの翼になってほしい……そう願って、僕は君を“翼”と名づけたんだよ」

 人々の見守る前で、翼は嬉しそうに笑い声をあげた。その額に、紋章が浮かび上がることはない。地球人として生まれた赤子を抱えた若き夫婦は、夜空に昇りゆく一筋の流星を、いつまでも見つめ続けるのだった。

 

 我々は知っている――
 二十一年前のこの日、天海夫妻のもとに授けられた子供が、
 全人類存亡の重要な鍵を握っていた事を――
 紡がれたえにしと絆、そして勇気ある誓いが、
 希望に満ちた未来へと、全人類を導いたことを――

 我々は誰もが知っている――
 生きとし生ける者が、命を、力を、魂を、
 勇気によって、紡がれていくことを――

(完)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


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