覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第7回】


number.01 決-KESSEN- 西暦二〇一六年(1)

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 紅葉のような小さな手が、初野華の指先を握った。
「え? え? あやめちゃん、どうしたらいいの……?」

 右手の人差し指をつかまれたまま、華は戸惑ったように従姉を見る。

「好きにさせとけばいいよ。別に痛くないでしょ」
「う、うん……」

 あやめが言う通り、新生児の手で握られたところで痛くはない。むしろ、か弱い力を込められている感触は心地よかった。隣からのぞきこんだ天海護も楽しそうだ。

「うわっはぁ、なんだかよくできてるフィギュアみたい」
「だろ……こんなに小さいのにフル可動なんてすげーよな!」

 牛山次男の嬉しそうな様子をとがめる者はいない。ある意味で、彼は"フル可動フィギュア"の製作者のひとりなのだから。

 二〇一六年晩秋──
 夕暮れ時、Gアイランドシティの小さな一軒家に客人が集まった。家の主はGGG隊員・牛山次男。本来ならその家は宇宙開発公団の官舎なのだが、GGG隊員にも優先的に提供されている。
 二年前に彼と職場結婚した初野(旧姓)あやめは、その後もオービットベース勤務を続けていたのだが、妊娠八か月に至って休職した。そしてこの日、ついに産まれた長男とともに帰宅したあやめを、オービットベースから降りてきた次男と同僚たちが囲んでいたのだった。

「なあなあ、ウッシー。もう名前は決めたのか?」

 そう問いかけたのは、この場ではただひとりGGG隊員ではない、高校時代の同級生である蒼斧蛍汰だ。ちなみに彼がウッシーと呼ぶのは牛山次男であり、天海護がウッシーと呼ぶのは牛山末男の方である。

「ああ、はじめって言うんだ」
「次男兄ちゃん、それって……」
「もちろん、兄ちゃんの字を一字もらったのさ」

 牛山次男と末男がGGG隊員を志したのは、長兄である牛山一男の影響が大きい。九年前、宇宙収縮現象の謎を解くため、多くのGGG隊員が三重連太陽系に旅立ち、彼らの帰還はいまだ果たされていない。
 いつの日か、兄に甥っ子を抱っこしてもらいたい──そんな想いをこめて、次男がつけた名だった。ちなみに四兄弟でただひとり、三男だけはGGGに入隊しなかった。大学院生としてフィールドワークで世界中を飛び回っているらしく、この日も不在のままである。

「それにしてもウッシーもあやめちゃんも、こんな時によく決心したよなぁ」
「ケーちゃん!」

 咎めるような口調で割って入ったのは、蛍汰と未だ恋人関係にある彩火乃紀だ。

「いい歳して、生体医工学的にも症例のない、あんな都市伝説、真に受けてるわけ?」
「いやだって火乃紀、みんな言ってるぜ。電磁場の影響で──」

 さすがにそれ以上を口にするのは、普段から無神経と罵られている蛍汰も控えた。
 六年前の<インビジブル・バースト>以来、地球全体が強い電磁場にさらされている。それが人体に与える影響はいまだ研究途上で、明確な結論が出たわけではない。だが、幼児や胎児に良からぬ影響を与えるという、根拠のない噂話が広まっているのも事実だ。実際、日本ではここ数年の出生率が極端に低下している。
 そんな都市伝説を、GGG隊員であり、生体医工学者となった火乃紀が赦せないのも当然だ。そして、火乃紀を援護射撃するように牛山次男も口を挟む。

「よう蛍汰。国連やGGG研究部でも、その件に関しちゃ問題は認められず……って中間報告が出てるんだぜ」
「そ、そうか、そーだよなぁ、ウッシーもあやめちゃんもGGGだもんな。そういう情報には詳しいんだよな。変なこと言っちまって、わりぃわりぃ~~」
「ああ、俺たちゃGGG隊員だ。もちろん不安はある……あるけど、そんなもんに負けちゃいけないんだ」

 小さな赤ん坊を抱っこしたまま、あやめもうなずいた。

「旦那の言う通りっす! こんな時代だからこそ、あたしたちが率先して示さなくっちゃ!」

 愛息が伸ばした手に頬をつねられながらも、痛いどころか嬉しそう──いや、むしろ誇らしげな顔で告げる。

「怪しげな都市伝説とか怖がってちゃダメ! 命を授かるってのは素敵なことなんだから!」

 両腕が塞がってなければガッツポーズをとっていたであろう、鼻息荒い表情。あやめのそんな姿を見ながら、室内にいた全員がうなずいた。

 ──楽しいホームパーティーであったが、秋の夜は更けるのも早い。あやめに代わって、夕食の後片付けを終えた彩火乃紀が、一同に帰宅をうながした。

「さ、そろそろおいとましましょう」
「まだいいんじゃないのか、火乃紀」
「ダメよ、牛山くん。あなたは良くても、赤ちゃんは寝るのが仕事。新生児期はレム睡眠が総睡眠時間の半分を占めているの」
「えっと……それってどういうことだ?」
「レム睡眠は身体は休んでいても、大脳は活動してる状態なの。起きてる時に受け取った視覚、聴覚、味覚、嗅覚などのさまざまな情報を、整理する時間。一くんがこの世に生まれて出会ったすべての事象との、つきあい方を覚えていく時間。なるべく混乱させないであげてね──」

 満月に照らし出されたGアイランドシティの海辺の道、季節外れの蝉が鳴いている。

「相変わらずうるせえなぁ、もうじき十一月になるってのに」
「そうね……」

 蛍汰の言葉に、火乃紀はあいまいに答えた。蝉の生態周期がおかしくなっているのも、木星からの強電磁場の影響だという説がある。もちろん、証明されていない事象を、火乃紀が肯定するはずはない。だが、蛍汰のように疑問もなく受け入れてしまう一般人は、やはり多いのだ。
 一方、護たち年少組は新生児の話題を続けていた。

「赤ちゃん、可愛かったなぁ」
「あやめさん似だったからな。次男兄ちゃんに似なくて良かったぜ」
「そうかなぁ、耳とか次男さんそっくりだった気が……」

 護と末男と華、小学校からの同級生である三人は皆GGGに入隊、今年二十歳を迎えるに至った。夕食時にワインが提供されたのも、新鮮な経験である。華は香りを嗜むだけで遠慮してしまったが、護と末男は辛口を程よく口にした。ふたりとも美味しいとは感じなかったのだが、同級生の前で張り合う気持ちがあったのだろう。それぞれに知った知識で初ワインの感想を述べ、年長者たちの微笑を誘った。ほろ酔いでそれらの笑いに気づかなかったのは、幸いというべきだろう。
 軽くほてった頬に、夜風が気持ちよい。そんな事を考えながら、護は隣を歩く華の横顔を見た。相変わらず、末男とふたりで赤ちゃんのどこが両親に似ていたか、そんな話題で盛り上がっている。

(赤ちゃん……いつか、僕も父親になる日が来るのかな……)

 三重連太陽系に旅立つ前、星の見える丘で華との間に"結婚式"を挙げたのは、もう十年前のことになる。大人たちからはママゴトに見えたかもしれないが、自分たちにとっては紛れもなく、神聖な瞬間だった。口に出して訊ねたことはないが、華にとってもそうであろうと信じている。
 十年の間に、自分も華も成人となった。法律上の夫婦になるとしても、何の問題もない。世界が混乱しているいま、GGG隊員として個人的幸福を追求してもよいのか、という疑問はたしかに存在した。だが、そんな思いも今日の牛山夫妻を見て、ふっとんだ。困難な時代だからこそ、ひとりひとりが幸せを手に入れることに意味がある──そう思えた。
 だが、どうしても気になることがある。

 幼い頃は、自分たちの結婚や子供のことなど、想像するだけでも顔が真っ赤になってしまっていた。だが、もう二十歳なのだ。愛情の問題、経済的な問題、職務と育児の両立の問題──それらと同じか、それ以上に気になる問題がある。

(僕は三重連太陽系、緑の星の人間だ。地球の女の人との間に、子供ってできるんだろうか……)

 遺伝的形質の問題について、望めば調査してもらうことはできただろう。生物学的には地球人とほとんど変わらない。実際、GGG研究部に請われて、自分の細胞や血液を研究用に提供したこともある。
 だが、護はそこから導きだされたであろう結論を、知ろうとは思わなかった。必要がないと思っていたのか、単にその時期ではないと思っていたのか、自分でもよくわからない。

(凱兄ちゃんに会いたいな……)

 何千回、いや何万回思ったか数え切れない思いが、また頭のなかに浮かんだ。だが、いま感じた思いは、これまでのものとはちょっと違う。

(聞いてみたい……凱兄ちゃんも、こういうことで悩んだのかなって……)

 かつて、獅子王凱はサイボーグから転生して、エヴォリュダーと名づけられた超進化人類へと生まれ変わった。あの頃の凱の年齢は、いまの護とさほど変わらない。そして当時の凱にも将来を誓い合っていたであろう卯都木命という恋人がいた。
 ソール11遊星主に招かれ、護が三重連太陽系を目指す前のある日、エヴォリュダーという肉体で生きることの意義を、凱が護に語ってくれたことがあった。もう一言一言の細部まで思い出すことはできない。だが、子供相手だからといってごまかそうとすることのない、真摯な瞳は今でもよく覚えている。
 あのときの凱兄ちゃんの気持ち──少なくとも、そのひとつは今の自分と共通するものだったのではないだろうか。
 いまもう一度、凱兄ちゃんの心の内を聞いてみたい……一心にそう思った。ただ会いたいというだけの気持ちに、なにかほろ苦い味が混ざったような感じだった。

「………」
「は、華ちゃん!?」

 いつの間にか、立ち止まってしまっていたらしい。街灯の下にたたずむ護の顔を、至近距離から華がのぞきこんでいた。

「護くん、どうしたの? なにか悩み事?」
「いや、そういうわけじゃないよ。大丈夫!」
「そっか、ならよかったぁ」

 護が微笑みを作ってみせると、華はそれを上回るとびきりの笑顔を返してきた。やや鈍感とも思える素振りをするのは、彼女なりの気遣いかもしれない。護にとって華は、カンが鋭い、心の底まで読まれてしまう、というタイプの恋人ではない。
 むしろ、つらい時や悲しい時でも、穏やかな気持ちに引き戻してくれる錨のような存在だった。悩む必要も嘆く必要もない、ただ穏やかな日常に帰ってくれば良い、そんなポジティブな気持ちにさせてくれる人だった。
 そんな華の存在が、この数年間、幾多のつらい経験をしてきた護にとってどれほどの救いだったことか。だから、護も思うのだ。華ちゃんの前では、自分もいつも笑顔でいよう、と。

「いや~、だけどウッシーがあんな子煩悩パパになるとは想像つかなかったよなぁ」

 こちらはガッツリと酔っている蛍汰が空を見上げて、新婚家庭訪問の感想を並べ立てている。腐れ縁ともいえる恋人のそんな横顔を眺めながら、夜道を歩く火乃紀の脳裏には、ついさっき牛山次男と彼氏が交わしていた会話がよみがえる。

「蛍汰、お前らもはやく籍入れちまえよ」
「そうだなぁ、次に昇進したらできるかもなぁ」

 次男がノロケ話に交えた言葉に、蛍汰はそう応えたのだった。火乃紀が蛍汰と付き合いだしてから、すでに十年近い。そろそろ、結婚を考えてもおかしくはない年頃だ。
 火乃紀の周囲にはGGGに入隊した者が何人かいたが、蛍汰は難関な入隊試験には挑まなかった。現在は家電量販店の営業職にある。

(もしかして……ケーちゃんなりに、きちんと将来のこととか、考えてくれてるのかな)

 そう考えると、やはり悪い気はしない。火乃紀が衛星軌道上のオービットベース勤務になったため、会える機会は激減した。だが、心はつながっているのかも──そんな風にも思えた。

 そんな時、火乃紀の太股から軽やかなメロディが鳴った。昔から、そこに時計を留めておくのがお気に入りなのである。自分でセットしたアラームの意味に気づいた火乃紀は、同行者たちに告げた。

「みんなごめん、定期更新するからちょっと待って!」

 道ばたに設置されている、赤色の携帯情報ターミナルに駆け寄る。一昔前の公衆電話によく似ているが、それは情報ネットワークの端末である。インビジブル・バースト以来、強電磁場の影響で無線通信はほぼ不可能となった。通話もネットも有線に頼らざるを得ず、屋外では定期的にターミナルと接続する必要がある。
 異常現象の発生以前の人々からしたら、それはひどくアナログな光景に見えるかもしれない。だが実際は、高度な防磁機能を持たせた端末や回線を世界中に配置した、ミラクルテクノロジーと人々の努力の結晶である。様々な分野で、人類は目の前の災害に立ち向かい続けていた。
 火乃紀がそのターミナルにGGG端末のケーブルを接続すると、たちまち膨大な情報が更新され、即座に見知った顔が小さなモニターに現れた。

「ああよかった火乃紀さん思ったより早く捉まりました二十六秒で捉まりました今そちらに向かっているところです他の皆さんも一緒ですか一緒ですよね」

 わずかも息継ぎすることなく、一息で言い終えた女性はタマラ・ゴーゴリ、GGG研究部における火乃紀の同僚だ。

「ちょ、ちょっとタマラ! こっちに向かってるってどういうこと?」
「天海隊員初野隊員牛山末男隊員はそこにいますか」
「あ、うん、みんな揃ってるけど……」

 タマラとの会話を聞いて、非常事態が起きたことを察したのだろう。護たち三人も駆け寄ってきて、端末をのぞきこむ。
 全員の顔を目視して、ウクライナ系ロシア人のタマラはうなずいた。

「確認できました現在位置は牛山次男隊員宅から一キロと二十六メートルほどですねあと二十六秒ほどで到達します」

 伝えたいことを伝えるのみで、火乃紀の問いには答えようとしない。そんな言葉の語尾にかぶって、轟音が聞こえてきた。

「火乃紀さん、あれ!」

 華が上空を指さした。夜空はいつの間にか、暗い雲に月が隠されてしまっている。いや、それは暗雲ではない。全長数百メートルはあろうかという巨大物体が、一同の頭上に降下しつつあるのだ。

「あれは……ワダツミ!」

 護が口にしたのは、GGG再建計画で開発された新型ディビジョン艦の名である。ディビジョンⅩ・機動完遂要塞艦が、わずか四人の隊員を回収するために舞い降りてきたのだ。

 

 二〇一〇年の<インビジブル・バースト>によって、世界の様相は一変した。
 高度に発達した文明社会はコンピューターによって運営されていたのだが、そのシステムが強電磁場によって甚大な被害を受けた。
 無数の事故が発生し、社会インフラは崩壊した。救助や災害対策のシステムも、電子機器が停止してしまっては満足に機能しない。交通事故や火災といったトラブルに加えて、大地震が頻発した。そのどこまでが、木星からもたらされた災厄に起因するものなのか、正確に判断する術はない。
 数千万人にも及んだ被害の実態ですら、国連が全容を把握するまでに半年近くを要したのだ。

 この非常事態に、ガッツィ・ギャラクシー・ガードは奮闘したと言ってよいだろう。首脳部の判断でプロジェクトZ実行を停止した後、その全力を災害救助に傾けたのである。
 通常のコンピューターよりも遥かに頑強な防磁対策を施された超AIロボたちは、世界各地で活躍した。なかでもカーペンターズは、インビジブル・バースト直後に原子力関連施設を安全に稼働停止させ、その後の被災地域修復にも大活躍した。
 もともと地球外知性体からの防衛を目的として結成されたGGGだが、災害との戦いにおいても、彼らは奮闘した。

 二〇一二年、災害復興に尽力した国連事務総長ロゼ・アプロヴァールが二期十年の任期を終えて、退職する。この際、GGGを国連防衛勇者隊<ガッツィー・グローバル・ガード>として改称・再編成。その長官として、GGGマリンレフュージ基地所長であった阿嘉松滋を指名した。
 この大胆な人事には批判もあったのだが、楊龍里ヤン・ロンリー、八木沼範行、高之橋両輔といった面々の推薦もあって、加盟各国から承認されることになる。
 もともと技術者であった阿嘉松は、強電磁場のもとで活動可能な装備をGGGや国連関係組織に配備。就任前に囁かれていた不安を吹き飛ばす活躍で、救助隊的な役割を果たしていった。
 ──この夜、天海護たちの前に降下してきた巨大艦も、阿嘉松の指揮のもとで開発された新型ディビジョン艦のひとつである。

「遅くなりました!」

 ワダツミの艦橋を兼ねたブランチオーダールームに初野華、牛山末男、彩火乃紀がGGG隊員服に着替えて駆け込んできた。
 地上付近に滞空した巨艦に火乃紀たちが乗り込む際、蒼斧蛍汰は「おっととと……酔っぱらってる場合じゃねえ、俺、明日の会議の資料作らなきゃ! みんなも頑張れよ!」と去って行った。必要もなく、隊員ではない人間がディビジョン艦に乗り込めないのは確かだったが、それ以上に面倒ごとを避けようとする物腰にも見えた。
 頭を振って、その思いを振り払いつつ、火乃紀は研究部オペレーターシートに駆け寄った。

「ごめん、タマラ! あと引き受ける」
「よろしくよろしくですーー」

 研究部次席オペレーターである二十六歳のタマラが、たどたどしい日本語で火乃紀に席をゆずる。火乃紀が待機中、休暇中のとき、代理を勤めるのが彼女の任務のひとつである。手早く引き継ぎ処理を終えた火乃紀は、隣の諜報部オペレーターシートに、やはり次席の人間が座っているのを見た。

「あら、今日もカムイさんなの?」
「あはは、山先輩は相変わらず腰痛でね。上でお休み」

 鷺の宮・ポーヴル・カムイは、頭上を指さした。諜報部首席オペレーターである山じいは、ひどい腰痛持ちで、なにかといっては医務室に逃げ込んでいる。特に地上に降りる任務の前にひどくなることが多いと、半ば常習犯的なもっぱらの噂である。

「しょうがないわね。もう、カムイさんがメインオペレーターでいいんじゃないの?」

 カムイは原種大戦直後に入隊した古参の隊員で、三重連太陽系に旅立った時のGGGディビジョン艦隊を、オービットベースで見送った過去を持つ。生真面目な学者肌で三十代半ばの落ち着いた性格の彼は、火乃紀ともウマがあうらしい。

「初野華、引き継ぎました!」

 火乃紀から見て、カムイとは反対側のシートに座ったのは、機動部隊オペレーターである初野華だ。前任の牛山あやめが産休に入ったことで、急遽次席から首席に格上げされた。前任者には機動部隊隊長を少々からかうクセがあったせいもあり、歓迎された人事である。
 そして、残る整備部オペレーター席には牛山末男が座った。本来なら、首席は彼の兄である牛山次男だ。だが、自宅に問い合わせたところ、泥酔して寝込んでしまっているらしい。長期休暇の最中であるため、無理もないところであり、次席の弟が代役にたったというわけだ。

「ようし、みんなそろったな!」

 長官席から、獅子のような咆吼が響いた。阿嘉松滋は名字こそ異なるが、獅子王雷牙の実子であり、獅子王麗雄の甥、獅子王凱の従兄にあたる。年の功も重ね貫録が増した豪放な態度は、いかにも百獣の王の家名にふさわしいものだ。
 長官席の左右にはスーパーバイザー席に楊龍里、参謀席にアーチン・プリックルという中年男性が座している。いずれも阿嘉松本人に口説き落とされて、就任したふたりだ。オペレーター陣とあわせて、彼らこそが現在のGGG首脳部であり、人類にとって苦難の数年間を支え続けてきた栄えあるメンバーなのである。
 現在、地球圏は強電磁場にさらされており、通信機能が極めて低下している。そのため、普段はオービットベースの中枢であるメインオーダールームは、各ディビジョン艦の出撃時はその内部に移動して、ブランチオーダールームとして機能する。
 かつてのディビジョンⅦ・超翼射出司令艦<ツクヨミ>に火麻激と卯都木命が乗り込み、前線司令部を構成していたことがあったが、それをさらに進めた形である。

 オペレーター四人のうち、三人が急遽持ち場についたことになるが、彼らはそれぞれに現在の状況を確認して、把握していった。

「バイオネット……ポンティアナック市を襲ってきたのか!」

 牛山末男が腹立ちを隠せずに叫んだ。国際的犯罪結社が標的とした地を把握しただけで、彼らの意図が理解できたからだ。
 インドネシアのカリマンタン島にあるポンティアナック市には、国連の──いや、人類の総力を挙げた<グローバルウォール>計画の拠点・Gサーキュレーションベース、強電磁場対策用の新造施設のひとつが存在する。バイオネットに踏みにじらせるわけにはいかなかった。

「みんな、事態は把握できたようだな。現地にはヤマツミが先行している。俺たちも遅れるわけにゃあいかねえぞ!」

 <ヤマツミ>とはワダツミ同様に新型されたディビジョン艦である。

「機動完遂要塞艦ワダツミ、ウルテクエンジン、最大出力──ガッツィ・グローバル・ガード、現場へ急行発進ダァー!!」

 号令をかける阿嘉松の背後にはガッツィ・グローバル・ガードのマークが掲げられている。ガッツィ・ジオイド・ガードの金、ガッツィ・ギャラクシー・ガードの緑から変更された、青いシンボル。地球の青を掲げた国連防衛勇者隊、それが新たなるGGGだ。
 全世界がいまだ混迷と災厄にさらされている時代、地球の青アース・ブルーを背負った勇者たちを乗せ、ワダツミは太平洋上を南下していった。

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回11月16日(水)更新予定


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