覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第8回】


number.01 決-KESSEN- 西暦二〇一六年(2)

3

「──遅いぞ、護」
 華たちがブランチオーダールームに駆け込んだのとほぼ同時刻。天海護も機動部隊ヘッドダイバーの待機室であるダイビングチャンバーに到着していた。
 機動部隊といってもGGG創設以来、その隊員のほとんどは勇者ロボだ。いまだ未帰還の獅子王凱を除けば、人間は現在の隊長である天海護と、副隊長の戒道幾巳のみ。ダイビングチャンバーはふたりのための専用待機室だった。

「ごめん、幾巳」

 相棒に向かって片手を挙げると、護は室内の情報端末に向かった。華や末男、火乃紀と同じように現状を把握しようとしているのだ。
 強電磁場で無線通信の効率が低下している現在、移動中のディビジョン艦は地上からの高圧縮レーザー通信で情報を受け取っている。
 ブランチオーダールームの一同と同じように状況を把握した護は、悲しそうに目を伏せた。

「バイオネット! なんで<グローバルウォール>計画を邪魔するんだ……」

 インビジブル・バースト以来、世界はたくさんのものを喪失した。直後の事故や災害によって失われた多くの人命。以後の数年間に停滞した、技術発達や文化活動。そして、凍結された<プロジェクトZ>。
 犠牲者を蘇らせることはできない。だが、かつての平穏を取り戻し、ふたたび勇者たちを迎えに行く計画を始動させることは可能なはずだ。バイオネットはそれらの努力を踏みにじろうというのか。

「奴らの思惑など知ったことじゃない。どうせ、経済的利益とかに決まってる」

 悲しむ護と対照的に、戒道の言葉には静かな怒気が込められていた。じっと窓の外を見ながら、拳を強く握りしめている。血の気が引いた、その肌の色は白い。
 一日でもはやく地球圏の状況を安定させて、プロジェクトZを再開させたい──その思いで頑張ってきたのだから、戒道の怒りも当然だった。

「幾巳……」

 相棒を気づかうように、護はその名をつぶやいた。そういえば、いつ頃からだろう。ふたりは互いをファーストネームで──それぞれの育ての親が深い愛情を込めてつけてくれた名で、呼び合うようになっていた。
 六年前に覚醒人凱号のヘッドダイバーとして、正式にGGGに入隊。以後、機動部隊の隊長と副隊長として、オービットベースに常駐。この数年間は、家族よりも長い時間をともに過ごしてきた。少年から青年へと成長した者たちの関係にも変化があって当然だろう。
 変化といえば、肉体的なそれも大きい。戒道幾巳は長身で低い声の成人男性となった。一方で、天海護は相棒より頭半分小さく、童顔で幼少時の面影をより強く残している。

「なんで幾巳ばっかり、大きくなるんだよ。あんまり食べないくせに!」
「そういえば、低重力下だと身長が伸びるという説があったな。そんなに気になるなら、月にでも住んでみたらどうだ?」

 などと真面目くさった会話をかわしたこともあり、護はオービットベースの自室で人工重力をオフにできないものか、真剣に悩んだりしたらしい。

 いずれにせよ、天海護と戒道幾巳は悲しみも怒りも、多くのものを共有するようになっていた。一日でもはやく、懐かしい人々を迎えに行くために。そのために<グローバルウォール>を成功させなくてはならない。それを邪魔するバイオネットを阻止してみせる。
 互いの意思を確認するかのように、青年たちは視線をかわし、うなずきあった。

「大回転魔輪!」

 宙を舞ったビッグポルコートが光り輝く独楽のように回転する。その全身にコーティングされていたミラー粒子がリング状に剥離して、周囲に弾け飛ぶ。
 かつて、GGG諜報部に所属していたビッグボルフォッグの必殺技と同系統の攻撃だ。もっとも、紫の勇者は現在、この宇宙にはいない。ブラウンの勇者が同じ諜報ロボとして、内蔵ミラーコーティング装備とともに引き継いだのである。
 ──インドネシア、カリマンタン島のポンティアナック市。市街地の外れ、海岸付近に設置されたGサーキュレーションベースに迫っていた疑似ゾンダーロボ群の進行方向に、白銀の円輪が次々と着弾する。
 足元のアスファルトを打ち砕かれ、たたらを踏む異形の巨人たち。だが、歩みを止めない疑似ゾンダーロボが一体いる。

「まかせてください!」

 幼い少年のような声が、上空から響いた。ワダツミよりも先行して現地に到着したディビジョンⅪ・諜報鏡面遊撃艦<ヤマツミ>に乗艦していた勇者ロボたち。そのなかで唯一、単独飛行を可能とする翔竜である。
 軽快な飛行能力を活かして、疑似ゾンダーロボの頭上に躍り出た翔竜は磁力波を放った。戦闘能力が低く、レスキュー用に開発された勇者だが、障害物排除用の磁力波はアスファルトを絨毯のように軽々とめくり上げた。
 足元をひっくり返された疑似ゾンダーロボが、たまらずに転倒する。その様子を見て、翔竜は誇らしげな声をあげた。

「やったぁ! 見てくれましたか、ポルコートさん!」
「いまはビッグポルコートだよ、少年!」
「あ、そうでした!」

 翔竜は設計された時期は古いものの、実際に開発されるまでに数年の間隔が空いた。ロールアウトから七年ほどを経たとはいえ、超AIの人格は少年の情緒であり、経験も浅い。

「油断するな、上方警戒!」

 原種大戦時からの歴戦の勇者であるビッグポルコートが、後輩に警告する。だが、少しばかり遅かったようだ。太陽に紛れて接近していた、飛行型の疑似ゾンダーロボが翔竜の背後から体当たりしてきた。

「うわあああっ!」

 疑似ゾンダーロボの自重が重しとなって、翔竜の小柄な機体が大地に叩きつけられる。

「いけない!」

 ビッグポルコートが後輩を助けようと駆け寄る。だが、それが隙となった。大回転魔輪で足止めされていた疑似ゾンダーロボたちが体勢を立て直し、ビームを放ってきたのである。
 ビッグポルコートはミラーコーティングを展開して、翔竜の楯となる。だが、かつてのボルフォッグから受け継いだ装備とはいえ、五体ほどの敵から放たれた集中攻撃を防げるのか。
 直撃に備えて身構えた瞬間、ビッグポルコートは怜悧な叫びを聞いた。

「──プロテクト・プロテクター!」

 駆けつけた銀色の女性勇者ロボが、背部のマント状装甲に隠されていたユニットパーツを展開したのである。有線コントロールされた六基のユニットが、疑似ゾンダーロボが放ったビーム光条の射線上に躍り出た。
 ビームの直撃で、ユニット群は破壊されるかに見えた。だが、目に見えぬ力で弄ばれたかのように、ビーム軌道がねじ曲げられる。そして、それぞれを放った疑似ゾンダーロボの方へ反射されていった。

「ゾォォォンダァァッ!」

 疑似ゾンダーロボたちのうなり声が、悲鳴のように響いた。彼らに損壊をもたらした防御システムを見た者は、それがガオガイガーの左腕に装備されていたプロテクトシェードと同様のシステムであることに気づいただろう。豪快なガオガイガーに比べればコンパクトで出力も劣るが、六基による多角度からの一斉反射はエレガントな優美さをたたえていた。

「ブロウクン・ブレイカー!」

 着地失敗という伝統のクセで若干到着が遅れた金色の女性勇者ロボも、六基のユニットパーツを放った。だが、それは双子の姉が展開したような防御システムではない。操り糸のようなケーブルで日龍にコントロールされた攻撃用のユニットが、ビームの直撃で弱っていた疑似ゾンダーロボ群に突撃する。元々は岩盤等の破砕作業用として開発されたその攻撃力は、さほど高くない。だが、高速回転するユニットの激突は、六基が束になることで威力を増し、重い打撃のようにゾンダーロボ群の上半身を粉砕した。かつてのブロウクンマグナムのように──

「月龍、日龍、助かった!」

 翔竜の上にのしかかっていた疑似ゾンダーロボを打ち倒しつつ、ビッグポルコートが叫んだ。救われた翔竜は、危地にかけつけた姉妹に向かって、すまなさそうに語りかける。

「すみません、姉さまたち……脚を引っ張っちゃって……」
「反省なら戦闘後にしなさい。彼らはまだ再生します」

 月龍の言う通りだった。六体を数える疑似ゾンダーロボ群はふたたび立ち上がり、破損箇所を再生させつつあった。だが、日龍の攻撃力が低かったわけではない。
 ゾンダリアンが操ったゾンダーロボを、バイオネットがコピーしたのが疑似ゾンダーロボである。そのコアには生きた人間が使われており、人命尊重を最優先に考える勇者ロボたちは致命的攻撃を加えることができなかったのだ。敵を殲滅せずに、Gサーキュレーションベースを守る──それは困難な任務だった。

「いくら再生しようとも、足止めを続けるだけですわ!」
その通りヤー!」

 日龍と月龍はそう叫ぶと、ゾンダーロボ群のただ中に躍り出た。いまはこの星にいない先輩たちのように、双子勇者の息はぴったりとあっている。互いの死角をかばいあう連携で、疑似ゾンダーロボたちに格闘攻撃を繰り出す。戦闘能力で劣るビッグポルコートと翔竜も牽制攻撃を加えて、なんとか防衛線を維持していった。

「ゾォォォンダァァッ!」

 だが、転機は飛行型の疑似ゾンダーロボの叫びとともに訪れた。先ほど翔竜に襲いかかったその機体は、指揮官機だったのだろうか。空中から降下してきたその一体を中心として、すべての疑似ゾンダーロボが融合したのである。

「ああっ、合体した!」
「こんな能力までコピーしていたのか……」

 翔竜とビッグポルコートが愕然とする。かつて原種大戦時に、複数のゾンダーロボが融合する現象は確認されていた。だが、バイオネットが生み出した複製がその能力を発揮したことは、これまでになかったのだ。
 その戸惑いが仇となったのだろうか。合体ゾンダーの右腕が放った強烈な打撃が、月龍と日龍をまとめて吹き飛ばした。

「ああっ!」

 銀と金の姉妹が大地に倒れ伏す。しかし、合体ゾンダーは追撃を加えようとはしなかった。左腕を巨大な砲身にメタモルフォーゼさせ、海岸の方に向ける。その射線の先に存在するのは、Gサーキュレーションベースだ。

「翔竜!たのむ!」
「はい!ポルコートさん!」
「ビッグポルコートだよ、少年!」
「そうでした!」

 高速曲芸飛行を得意とする翔竜が、ビッグポルコートを背中からがっちりと掴んだ。直後、素早く飛び立ち、勇敢にも射線軸上に飛び込んでいく。小柄な二体ではミラーコーティングを駆使したとしても、大口径の砲撃に耐えられるはずもない。それでも彼らは怯まなかった。守るべきものは、全人類を救う<グローバルウォール>の要衝なのだから。
 オービットベースに備えられたプロテクトシェードを中心として、六基の衛星がプロテクトウォールを維持し強電磁場を阻止せんとする、この計画。それを実現するためには、軌道上の衛星にGリキッドという高エネルギー流体を供給する必要がある。しかも、恒久的にGリキッドを循環させる地上基地が必要なのだ。それが赤道上の島に六カ所建設されたGサーキュレーションベースである。いずれか一か所が失われただけでも、計画は頓挫する。ビッグポルコートと翔竜の決意も無理からぬところだ。
 しかし、合体ゾンダーの攻撃が放たれようとしたとき、勇者ロボたちが待ち続けていた者の声が響いた。

「──シナプス弾撃!」

 合体ゾンダーの左腕砲が大出力ビームを放とうとした瞬間、目に見えぬ何かがその砲口を包んだ。そして次の瞬間、巨体の上半身は青く燃えさかる炎に包まれたのである。

「ゾォォォンダァァアアアッ!」

 苦痛の声をあげる合体ゾンダーの眼前に、白い機体が降り立つ。仲間の勇者ロボたちをその背に守るように。

「ガイゴー!」
「護くん、幾巳くん、来てくれたんだね!」

 ビッグポルコートが現れた機体の名を、翔竜が搭乗するヘッドダイバーたちの名を叫ぶ。

「……遅くなってすまなかった、みんな」

 ニューロメカノイド<ガイゴー>のメインヘッドダイバーを担当する戒道幾巳が、セリブヘッドでつぶやく。ウームヘッドの天海護は、モニターに映る周囲の様子を素早くチェックした。

「Gサーキュレーションベースは無傷だ、みんなのおかげだね」
「ああ、ここからは僕たちの役目だ……ガオーマシンッ!」

 戒道は頭上を見上げつつ、叫んだ。その声に応えるかのように、ワダツミから飛び出した三機のマシンがガイゴーを取り囲む。
 同時に戒道は、機動部隊オペレーターの名を呼んでいた。

「初野……!」

 その声はFF要請シグナルとともに、光学通信にコーディングされ、近距離レーザーに乗せて放たれた。受信するのは上空三〇〇メートルに滞空しているディビジョン艦<ワダツミ>だ。強電磁場で長距離通信が阻害されているなか、通信やプログラム転送を確実に行うためには、近距離でのレーザー通信に頼るしかない。そのために、ディビジョン艦への組みこみを可能とするブランチオーダールームだった。

「ガイゴーから、ファイナルフュージョン要請シグナルです!」

 点滅するシグナルを確認した初野華が、後方を振り返りつつ報告する。

「よっしゃああっ、ファイナルフュージョン承認っ!」

 躊躇することなく、阿嘉松長官が承認をくだす。初代長官である大河幸太郎と、どちらの声量がより大きいか、意見が分かれるところである。

「了解です……」

 華は両手を堅く握り合わせて、振りかぶり──

「プ、プログラムドラァァイブ!」

 眼前のコンソールに振り下ろした。両拳が保護プラスティックを叩き割り、その下部にあったドライブキーを始動させる。牛山あやめから任務を引き継いだ後、最初のドライブ時に、華の非力な右拳では保護プラスティックを割ることができなかった。それが故に編み出したのが、この<両手ドライブ>である。
 宙へ舞うガイゴーの眼下で、合体ゾンダーはいまだに悶え苦しんでいた。ワダツミから発進したガイゴーがシナプス弾撃で放ったのは、胞膜に包まれた可燃性ガスである。ビーム発射直前の砲身は加熱されており、胞膜越しにガスを発火させた。つまり、合体ゾンダーは自らの攻撃でおのが上半身を焼き尽くしたことになる。
 しかし、強烈な再生能力はその超高温の炎のなかでも失われてはいなかった。ゾンダーロボ特有の構造再生が、上半身を復元していく。
 もっとも再生に要する数十秒こそが、戒道幾巳が求めていたものだった。

「ファイナルフュージョンッ!」

 ガイゴーの腰部から、EMトルネードが放たれる。発生した電磁竜巻のなかで、ガイゴーは三体のガオーマシンと合体していった。

「ゾォォンダァッ!」

 ようやく再生を果たした合体ゾンダーが、目の前の電磁竜巻に向かって突進する。EMトルネードの防壁を力任せに突破しようとした瞬間──
 合体ゾンダーのゾンダーは黒き豪腕に粉砕されていた。吹き飛ばされた電磁竜巻のあった場所で、右腕を突き出した姿勢の巨神が咆吼する。

「ガオッガイッゴーッ!!」

 インビジブル・バースト以来の六年間、地球を守り続けてきた新たな勇者王<ガオガイゴー>がそこにいた。

 ブランチオーダールームのメインスクリーンに映し出される漆黒の勇姿。長官席で阿嘉松滋はその光景に見とれていた。

(何度見ても見飽きることがねえな、俺の牙王凱号ガオガイゴーは……)

 最新鋭の有人調査ポッドを<覚醒人>と名づけた阿嘉松のセンスは、新生勇者王にも<牙王凱号>という漢字表記名を与えていた。もっとも口に出したところで、読みが同じであるため、その密やかな趣味が他人に気づかれることはない。それを承知の上で、彼は思う存分、自分のネーミングセンスを貫き通しているのだった。

「ユー・ハブ・レフトコントロール!」
「アイ・ハブ・レフトコントロール!」

 戒道はガオガイゴーの左半身の制御権を護に譲り渡した。これにより、戒道は右半身による攻撃に、護は左半身による防御に専念することができる。

「あいつのコアはどこだ、護」
「待って、幾巳……今、見つける!」

 一度は砕かれた頭部を即座に再生する合体ゾンダー。その全身を、護は左腕のセンサーで分析していた。

「隊長、急いでください! あいつは七体の融合体です」
「ゾンダーコアも七つあるはずですわ!」

 月龍と日龍の指摘に、護の顔にも緊張が走る。

「そうだね、すべて確保しないと……!」

 ひとつでもコアを残せば、疑似ゾンダーロボは再生する。背後に守るべきGサーキュレーションベースを背負ったいま、戦いを長引かせるわけにはいかない。
 だが、ガッツィ・グローバル・ガードには、ガッツィ・ジオイド・ガード、そしてガッツィ・ギャラクシー・ガードから受け継いだ豊富な戦闘データがあった。

「ここは<ケースEI-08>が適用できるはずだ……!」

 スーパーバイザーである楊龍里ヤン・ロンリー博士は、電磁波で内部探査を不可能にしたゾンダーロボの例を指摘した。あの時の戦術を応用すれば、体内のいずこにあるか特定しがたい疑似ゾンダーコアを捉えられる。

「DDキット、いつでも射出可能!」

 楊に応えて、整備部オペレーターである牛山末男が報告する。

『火乃紀さん、分析結果が出た!』

 護からレーザー通信でデータを受け取った彩火乃紀の視界に、合体ゾンダーの内部構造が表示された。オペレーションワークの際に彼女が装着している眼鏡は、情報端末になっており、目の前のコンソールモニターとは別に、世界中の細かな情報を瞬時に表示する特殊レンズを備えている。その名もレオグラス7+セブンプラス。アカマツ工業製のスグレモノである。

「──解析完了、左胸部にマーカーを設定。マーカーより半径七六八センチでフィールドを展開すれば、全コアを露出させられます!」
「ディバイディングドライバー、キットナンバーゼロナイン! 射出しちゃおう!」

 火乃紀の状況報告から最適なハイパーツールを選び出し、即座に指令したのは、アーチン・プリックル参謀である。もともと米軍では火麻激参謀と肩を並べた過去もあり、実弟がアカマツ工業で仕事をしていた縁もあって、この立場についた。無論、コネだけで採用された無能な人間などではない。

「了解!」

 応答した初野華が、射出パッドを起動させる。

「ディバイディングドライバー! キットナンバー! ゼ、ゼロナイン! イミッッッショオオォォン!」

 たどたどしくもホームランバッターのように身体をひねり、コンソール横に備えた射出パッドを銅鑼でも鳴らすかの如く、勢いよく両手で叩いた。

「ふううううっ!」

 深刻な状況下ではあるが、華の悲鳴のような声に火乃紀や末男にも少しだけ笑みがこぼれる。
 ワダツミからカタパルト射出されたふたつのDDキットは、宙空でドッキングしてドライバー形態となり、ガオガイゴーの左腕に装着された。

「ディバイディングドライバーッ!」

 ハイパーツールを使用したのは、ガオガイゴーの左半身を操る天海護である。その狙いあやまらず、ドライバーの先端は火乃紀が設定したマーカー位置にねじ込まれていく。
 解放されたディバイディングコアが、合体ゾンダーの胴体部に大穴を空ける。かつて、電磁波をまき散らした新幹線ゾンダーのコアを露出させるべく、ガオガイガーがとった戦法だ。いまのGGGには、かつてのGGGやガオガイガー、ガオファイガーが残した戦闘データが豊富に残されている。それらは危機に際して、若き勇者たちを勝利へと導く道標となっているのだった。
 胴体部の断面からは、複数の疑似ゾンダーコアが露出していた。目視できるその数は──七!

「上出来だ、護!」

 護が最小の展開半径でディバイディング・フィールドを固定している間、戒道はガオガイゴーの右半身を身構えさせた。

「ファントムリング・プラス! ブロウクンファントムッ!」

 黄金のリングをまとった右拳が、合体ゾンダーの内部に突入した。

「ゾォオォオォンダァアッ!」

 激しい擦過音と合体ゾンダーの苦痛の声が響く。異形の巨人の内部で行われた数十秒の攻防の後、ブロウクンファントムのリングは片翼へ、拳はガオガイゴーの右腕に帰還した。その掌の上に、七つの疑似ゾンダーコアを乗せて──

「ふ……」
「さすがだね、幾巳」
「みんなのおかげだ……浄解はまかせていいか?」
「うん……!」

 ガオガイゴーのウームヘッドから飛び出した護が、右の掌の上に降り立つ。

「クーラティオー!」

 原種大戦時から、幾度も唱えてきた呪文。心のうちに浮かんだ言葉を口にしただけだが、ゾンダーコアをもとの人間に戻す"浄解"という能力を発動するものだ。それは疑似ゾンダーのコアにも有効であり、戦闘終了後は常に護が果たす役割となっていた。
 戒道にも同じ能力が備わっており、おそらく疑似ゾンダーコアを浄解することができると思われたが、実際に試したことはない。

「ストレスに負けてしまうような輩のために力を使うのはごめんだ」

 数年前、一度だけ訊ねてみた護に返ってきた言葉がそれだ。たしかに原種大戦時も、戒道の浄解能力は原種核だけに向けられ、ゾンダーコアに使われたことはなかった。

(疑似ゾンダーのコアにされた人たちが悪いわけじゃないのに……)

 護はそう思いながら、浄解を続けていく。たしかに、疑似ゾンダーロボによる破壊行為で<グローバルウォール>計画は遅延している。それは<プロジェクトZ>の再開が遅れ、勇者たちを迎えに行く日が遠のくということだ。
 だが、すべてはバイオネットの目論見によるもので、コアにされた素体の人々に責があるわけではない。戒道もそのことはわかっているはずだ。わかっているはずではあったが、どこか割り切れないものを感じているのかもしれない。
 護自身も、自分たちの力を地球人類による破壊活動に対抗するために使うのは、気が重かった。だが、それでもやらなければならない。インビジブル・バーストの災厄から人々を救うために。勇者たちを迎えに行く日のために。

「……コクトゥーラ!」

 呪文の最後の一節が唱えられ、穏やかな波紋が広がっていく。いつものように、ガオガイゴーの手の上で素体とされた人々が涙を流しながら、普通の人間の姿に戻っていった。そのなかに、妙に周囲の人間と異なる物腰の男がいる。

「あれ……?」

 このとき、護はまだ気づいていなかった。その人物の存在こそが長く続いてきたバイオネットとの不毛な抗争を終わらせる、最終章への道標であることに──

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回11月23日(水)更新予定


← 第7回    第9回 →

〈作品ページ〉

カテゴリ