覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第9回】


number.01 決-KESSEN- 西暦二〇一六年(3)

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 神奈川県某市の家電量販店。店内にはテーマソングが響き、オーディオコーナーやテレビコーナーからも様々な音が流れてくるため、にぎやかな事この上ない。
 その一角、美容機器コーナーでは特設販売会場が設けられ、威勢のいい店員が実演販売を行っていた。

「はい、そこ行くおねーさん! これオススメ! いま大人気のハイパーソニック・マイナスイオン・バイオプログラミング・ドライヤー! これ使えばおねーさんのキレイな髪がさらにツヤッツヤのプルンプルンッ! しかも極低温モードならお部屋に出たゴキちゃんも一発凍結! そいつがなんと驚異の三割引でオマケに極上速乾タオルもつけちゃう! 買わないと損だよ、あと残り二〇〇個! あー売り切れ寸前だぁっ!」

 ──などと叫びながら、ドライヤーを振り回しているのは蒼斧蛍汰である。本来は営業部員なのだが、この日は展示販売要員が足りないということで、駆り出されていた。
 威勢がよければ売り上げに直結するかといえばそうでもなく、いま大人気で驚異の三割引であるにも関わらず、脚を止める客はいなかった。
 いや、ひとりいた。紫に染めた髪の女性が、ドライヤーを手に取る。

「店員さーん、これ一個くれる?」
「はいはーい、毎度どうも!……って、あれ、姉御?」

 姉御と呼ばれたのは、有限会社アカマツ工業社員・府中律子、通称りっちゃんである。一時期はGGGに出向してオペレーターを勤めていたこともあったが、両親の晩年を看取るため、故郷に戻った。その後、アカマツ工業で発明品の特許管理などを任されている。

「ふ~ん、蛍汰けっこうちゃんと仕事してんじゃん。営業の外回りって言って、ゲーセンに入り浸ってるとこしか知らなかったからさ」

 りっちゃんとは、蛍汰が高校時代にバイトで知り合って以来だから、すでに十年のつきあいになる。ところがいまだに彼女の顔に浮かぶのは、小僧を見る目だった。

「あわわ、ちょっと声低くしてくださいっす! たしかにハマの玉落とし名人と言われちゃあいますが──」

 慌てつつもニヤリと笑った蛍汰は、カウンターの下から紙袋を取り出した。

「ところで、例のブツ……確保しましたぜ」
「ほんとにーー!?」

 りっちゃんが紙袋を引ったくる。すると、そのはずみで中のブツのスイッチが入ったのか、間の抜けた声が響き渡った。

『チカちゃん感激ーーッ!!』

 真っ赤になったりっちゃんが、手持ちのトートバッグに紙袋を押し込む。

「ほら~~まだ電池もいきてるっしょ。見つけるの苦労したんすから!」

 蛍汰が手柄顔になるのも無理はない。紙袋の中身は音声ギミック付きぬいぐるみなのだが、それは十年前、オープン直前に崩落事故というケチがつき、その後も犠牲者の幽霊が出るという噂で客足が遠のき、わずか数年で閉鎖された地下遊園地のマスコット。都市伝説化して今頃になって人気急上昇中の、超レア物公式グッズである。

「あはは、親戚の子喜ぶわ。助かっちゃった~~あはは!」
「これからもなんかあったら、言ってくださいよ! 姉御のためなら一肌でも二肌でも脱ぎますから!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん。じゃあ、こっちもご褒美あげよっかなー」

 そう言うと、りっちゃんは蛍汰の耳元に口を寄せ、つぶやいた。

「国連の例の計画、もうじき発動するって」
「じゃ、じゃあ、電磁場へのシールドが──」

 その先を言いかけた蛍汰の口を、りっちゃんの人差し指が塞ぐ。

「はい、その先は口にしない──」

 だが、その制止の声は聞こえていなかった。すでにひとりの世界に突入した蛍汰はぶつぶつとつぶやき始めていた。

「電磁場へのシールドが完成したら、またスマホが使えるようになる……ってことは全国の支店から在庫を仕入れて──あ、BS放送や無線LANも復活するんだよな。こりゃエラいことになるぞ……」

 アカマツ工業で開発された、防磁機能も優秀なアイテム──クビドケイを電卓代わりに計算に集中している。その表情はバイトでいっぱいっぱいだった頃の高校生のものではなく、売り上げ倍増を目論む社会人のものだった。

「へへ、ボーナス出たらVRゴーグルも新品に買い換えて……いやいや、貯金しなくっちゃ!」

 サラリーマンカットの下の眉がキリリとつり上がる蛍汰を見て、見た目は若いが半世紀にも届こうとしている実年齢の姉御は、ちょっとした親心に近い気持ちになった。

(へえ、この子がこんな顔するなんてねぇ……結婚資金貯めたくて頑張ってるって話、ほんとだったのかもねぇ……)

 

 ポンティアナック市におけるGサーキュレーションベース防衛戦から三日後。ホログラフィックカモフラージュを展開したディビジョンXI・諜報鏡面遊撃艦<ヤマツミ>が、大気圏突入しつつあった。
 目的地はカリブ海・ヴェロケニア共和国領内イニョーラ島である。この地にバイオネット総帥ドクター・タナトスが、その司令部を置いているという情報がもたらされたからだ。

 国際的犯罪結社バイオネットは二十世紀から世界の闇黒面において暗躍を続けてきた。だが、この悪の組織は二〇〇五年に一度、壊滅したかに見えた。フェイクGSライドを入手した<フツヌシ事件>の直後、日本の防衛庁が送り込んだ特殊部隊の破壊工作によって地下秘密基地が爆発。総帥であるプロフェッサー・モズマが死亡したのだ。
 これ以後、総帥副官であったドクター・タナトスが総帥代行となって、しぶとく再活動を開始。フェイクGSライドや疑似ゾンダーメタルを用いた巨大ロボによるテロ活動を起こしてきた。
 だが、その活動の激化に比して、組織の全容は謎に包まれてきた。頭を潰さねば活動を停止させることはかなわないと思われてきたにも関わらず、ドクター・タナトスの潜伏先が杳としてしれなかったのである。
 その状況が一変したのは、ポンティアナック市に出現した七体の疑似ゾンダーロボ──浄解されたその素体たちに対する事情聴取においてである。

「素体の中に幹部がいただと!?」

 GGGオービットベースの会議室で、阿嘉松長官が吠えた。向かいの席に座っているアーチン・プリックル参謀は、幾度もうなずいた。

「そぉなんだよ、バイオネットにしてはうかつだよねぇ」

 もともとゾンダーメタルは、三重連太陽系の紫の星で開発された、マイナス思念昇華システムである。存亡の危機に陥った宇宙において、ストレスや怒りや憎しみをエネルギーに変換することで、人間をマイナス思念から解放しようというものだ。そのエネルギーで形成されたゾンダーロボによって、マイナス思念を発生させる知的生命体そのものを抹殺しようとしたのは、システムの暴走だったのか、当然の帰結であったのか、さだかではない。
 いずれにせよ、ゾンダーロボの素体とされた人間は浄解された後、マイナス思念から解放される。ストレスから自由になり、悪人であってもそうした衝動がなくなってしまうのだ。つまりバイオネットという犯罪組織の構成員であった場合、浄解後は前非を悔いて捜査に協力的になる。
 そのため、バイオネットも疑似ゾンダーロボの素体にするのは、誘拐してきた一般人、もしくは重要な情報を持たない下級エージェントに留めておくケースばかりだった。
 ところが、今回の指揮官ゾンダーの素体となっていたのは、バイオネットの最高幹部であったらしい。

「それでどんな情報がわかったんだ?」
「色々だよ! 根拠地の場所や構造、疑似ゾンダーの素体として集められた人々のこと……」
「そりゃ大事じゃねえか!」
「だからボクもあわてて、今こうやって長官さんに報告してるのよ。もっとも罠の可能性もあるけどねぇ、あっはっは!」

 軽薄な口調に似合わず、アーチン参謀は四十代半ばで外見は重々しい男性だ。阿嘉松長官にとって、十年前に仕事をともにしていた参謀の実弟を死なせてしまった過去などもあり、つきあいは長い。それ故に信頼を置く存在なのだが、調子がくるうことだけは否定できないのだった。

「んで、お前さんはどっちの可能性が高いと思ってるんだ?」
「さあ、フィフティ・フィフティかなぁ。でも、ボクたちGGGのやることは決まってるでしょ」
「もちろんだ。チョッパヤで作戦をたてて殴り込む!」

 阿嘉松は即断した。もし浄解された幹部がもたらした情報が真実だった場合、バイオネットはすぐに根拠地を移動してしまうだろう。その場合、囚われている人たちの救出は、極めて困難になる。
 真実でなかった場合──その時はその時、自分たちが罠を食い破ればよい! これが現在のGGG首脳部が出した結論であった。

 ──そして、最短期間チョッパヤで準備を終え、いま素体候補救出作戦が開始されたのである。本来の移動司令部たるワダツミではなく、諜報部のヤマツミが投入されたのはホログラフィックカモフラージュによる光学迷彩が搭載されているからだ。
 インビジブル・バースト以来、強電磁場によってレーダーによる索敵効率は著しく低下している。光学迷彩を展開したまま、軌道上のオービットベースから目的地に直接降下することで、ギリギリまで気づかれずに接近しようというのだ。
 本来なら、闇夜にまぎれて……といきたかったのだが、そこまでは望めなかった。天空に悪魔のようなオーラを放つ木星が輝いていたからだ。
 ヤマツミ艦内に組み込まれたブランチオーダールームで、阿嘉松が忌々しげにつぶやく。

「ちっ、覇界王め……今夜も嫌なツラで見下ろしてやがるぜ」

 この六年間ずっと、忌まわしいそのオーラの輝きは地球を見下ろしてきた。いまだ証明されてはいないものの、インビジブル・バーストとの関連を疑う者はいない。多くの人命を奪ったその災厄が、"覇界王"によってもたらされたと、全世界の人々が信じている。
 覇界王──その名はメディアなどに取り上げられることなく、人々の間で口々に伝えられていった。その出所は、他ならぬ阿嘉松の愛娘である紗孔羅の言葉である。リミピッドチャンネルという特殊能力で彼女はしばしば、本来は知り得ぬはずの情報を口にするのだ。
 その情報を紗孔羅にもたらしたのは、おそらくソムニウム=ベターマンのラミアである。天海護はラミア本人から"覇界王"という言葉を伝達され、またその姿がジェネシック・ガオガイガーに酷似していることを知っていたが、いまだに戒道幾巳と初野華以外には話していなかった……。
 ジェネシックに似た姿が、覇界王という忌まわしい単語とともに流布していくのは、護にとっては心穏やかでいられることではない。だが、身近なふたり以外に、それを話せる相手はいなかった。

「──<グローバルウォール>はもうすぐ実行される。そうなればすぐ<プロジェクトZ>も再開だ。嫌でも、覇界王とは顔をつきあわせることになるぞ」

 阿嘉松の前方の席で、スーパーバイザー楊博士がつぶやいた。一時期、GGG長官代理を勤めていたこの人物は、阿嘉松を新長官に推した際、自らスーパーバイザーとして補佐する立場を選んだ。同時にプロジェクトZ計画主幹として、この六年間、プロジェクト再開の準備を進めてきたのである。

「おう、望むところよ。いっそ覇界王にもプロジェクトを手伝わせてやる。勇者たちを迎えに行くためなら、悪魔の手だって借りてやらぁ!」

 軽口はオペレーターたちの報告によって遮られた。

「対地高度一万! 目的地を光学観測しました、こちらに対応する動きを認めず!」
「ガイゴー、並びに翔竜、発進準備できてます!」

 彩火乃紀と初野華の報告に、阿嘉松の表情が引き締まった。

「ようし、高度五〇〇〇で両機を発進させる。素体にされそうな連中を助け出して、これで終わりにするぞ!」

 

 ニューロメカノイド<ガイゴー>とグリアノイド<翔竜>はウルテクエンジンをカットして、翼の揚力のみで降下していった。
 目的地はヴェロケニア共和国領内イニョーラ島のバイオネット根拠地である。十一年前、ここから数キロほどの島にバイオネット地下秘密基地があったが、爆発事故でそれは失われた。その際、共和国政府は世界中からの非難の矢面にさらされ、バイオネットとの縁は絶たれたと思われていた。
 だが、ドクター・タナトス総帥が潜伏するのは、またもこの地であったのだ。しかも、その根拠地には、疑似ゾンダーの素体とされるべく集められた人々が多数、囚われているという。GGGの作戦の第一目標は、拉致された人々の救出だった。
 地表近くまで降りてきたところで、護は地上で瞬く光に気がついた。海から上陸したポルコートによる発光信号だ。この日、月龍と日龍はアフリカで発生した事故現場での救助活動に投入されていたが、彼は単独でこの現場に先行していたのである。ホログラフィックカモフラージュで敵に気づかれずに潜入、イオンセンサーで捕らわれている人々の位置を特定、諜報ロボとしての本領発揮だ。

「情報と同じ……左上のマーカーが収容所の場所だ」

 天海護はウームヘッドで、浄解された幹部からの情報とポルコートからのデータが一致していることを確認した。セリブヘッドのモニターにも同じ図面が表示されており、戒道幾巳がそれを見て応える。

「わかった……このまま着地して、屋上を破る」

 ガイゴーは滑空状態から右腕をかまえた。

「ジーセット!」

 戒道のボイスコマンドによって、胸部TMシステムが駆動する。

「──シナプス弾撃!」

 ガイゴーは収容所の屋上に着地する寸前、右の掌底を床面に叩きつけた。同時に手のひらの射出口からニードルが射出される。それは酸性溶液を凍結させたもので、屋上に打ち込まれるとともに溶解、コンクリートと鉄筋を瞬時に腐食させた。そして、着地したガイゴーの重量を支えきれずに崩壊する。もっとも、そのことによる所内への影響は微々たるものだ。コンクリートは微細な粉塵と化し、発生した水素ガスは空気より軽いため、屋外へ上昇拡散し爆発も起きない。
 ニューロノイドならではの特性を活かした隠密作戦だ。

「──頑張って、幾巳くん、護くん!」

 救出する人々を収容するためのコンテナを抱えた翔竜が、ウルテクエンジンで山陰上空に滞空する。後は時間との勝負だ。

「行くよ、幾巳!」
「ああ!」

 ガイゴーが一階の床面に着地すると同時に、護と幾巳は機外に躍り出た。バイオネットがふたりの潜入に気づく前に、救出作戦を終わらせなくてはならない。
 浄解された幹部から得られた情報は正しく、そこは八十メートル平方程度の空間になっている。
 疑似ゾンダーの素体として掠われてきた二十人ほどの人々は隅に集められており、改造獣人が歩哨として彼らを見張っていた。
 浄解モードで床面を蹴ったふたりは、翼ある弾丸のように獣人の群れに迫った。

「グオオオッ!」

 熊や猪と、人間を融合させたキメラ──それらをサイボーグ化した改造獣人たちが、護と戒道に気づいて身構える。だが、その爪や蹄は、ふたりの身体に触れることはできなかった。青年たちは念動力をバリアーとして攻撃を弾き返し、改造獣人の後頭部やみぞおちに打撃を加えていく。
 少年に見まがうばかりに小柄な護と、ほっそりした青年である戒道だが、ふたりとも普通の人間ではない。三重連太陽系に生まれた異星人と、それを模した生体兵器。しかも、ふたりともこの数年間、GGG隊員として訓練を受けてきた。

「はああっ!」

 護の打撃で、大柄な鰐人間が吹っ飛んだ。小柄な身体であっても、繰り出す拳に念動力を重ねれば、重い打撃となる。銃火器に頼るのではなく、自分の身体と能力を駆使した戦い方というものを、彼らは充分に学んでいたのだ。

 数分の格闘戦で、十体を超える改造獣人たちはすべて昏倒していた。だが生命を奪われた者はいない。殺さずに気絶させるだけの力量差があった。

「護くん、こっちは準備できたよ!」

 振り向くと、空間の中央に翔竜とコンテナが着地している。コンテナはハッチを開放して、受け入れ準備を終えていた。

「みなさん、僕たちはGGG機動部隊です! 救出に来ました!」

 護、戒道と獣人たちの戦いに怯えていた人々は、その言葉に安堵した。そして、我先にとコンテナに向かって走り出す。

「落ち着いてください。騒がずに、順番に」

 誘導に追われる戒道。残っている者がいないか、奥まで確認に向かう護。

「大丈夫、走らないで、静かに……」

 焦り逸る人々の中、ただひとり走らない者がいた。いや、走れないのだ。両手両足を縛られ、猿ぐつわまで噛まされて床に倒れている少女。

「ひどい……ちょっと待ってて」

 護はそのかたわらに跪き、縄を解き始めた。だが、少女は安堵するどころか、何かを訴えかけるように大きな目を見開いている。ようやく猿ぐつわを外された瞬間、少女は大声をあげた。

「危ないって言ってるのよ、うしろ!」

 少女は警告を発しようとしていたのだ。体色を変化させ、壁に擬態し息をひそめていた改造タコ人間が、八つの長い腕の先端に備えた鋼鉄製の鋭い爪を振るい襲ってくる。多方向から繰り出される攻撃を全てかわすのは至難の業だが、護なら可能だ。だが、状況はそれを許さなかった。

(いま避けたら、この子が……!)

 とっさの判断で、護は少女に覆い被さった。背中を斬り裂かれる痛みを予想して身構えた瞬間──
 タコ人間の八つの腕はその身体ごと、横合いから放たれてきた衝撃波によって、吹き飛ばされていた。

「ガハァァッ!」

 コンクリート壁に側頭部を叩きつけられ、口から墨汁を吐きながら、完全に獣人は気絶した。あるいは気絶だけですまなかったかもしれない。だが、相棒を傷つけようとする者に、戒道の攻撃は容赦がなかった。

「ケガはないか、護……?」
「うん、僕はね」

 そう応じた護は、自分の下に倒れていた少女を助け起こした。意外と背は高く、小柄とはいえ成人男性である護と、背丈はそう変わらない。容姿からすると、十代後半だろうか。クセのある金髪に青いリボンがよく似合った、美しい少女だった。

「……背中に気を配れないなんて、よくGGG機動部隊が務まるわね。でも助けてもらったことには、お礼を言わないと。ありがとう、感謝するわ、坊や」
「ぼ、坊や?」

 護は目を丸くした。どう見ても自分より年下の少女にそんな風に言われるなんて──

「坊やはないだろ! 僕はこれでも、もう二十歳ハタチなんだよ」
「あら、私より五歳も上なんだ。とてもそうは見えなかったわ」
「じゃあ、君、十五歳──」

 絶句した護の背後で、戒道が耐えかねたように口を開いた。

「積もる話があるみたいだけど、その辺にしてくれないか」
「ないよ、積もる話なんか!」
「ないならいいが、他の人はみんなコンテナに乗り込んだ。あとはその子だけだ」

 クールにつぶやいた戒道に見つめられ、少女は頬を染めた。

「ごめんなさい、あの……良かったらお名前聞かせていただけませんか?」
「僕はGGG機動部隊隊長、天海護──」

 そう自己紹介した護の姿は、少女の視界には入っていないようだ。

「……副隊長、戒道幾巳」
「カイドウ・イクミさん、かっこいい……あの私、アルエットといいます! フランスでバイオネットに捕まってこんなところまで連れてこられちゃって……心細かった。でも、戒道さんに出会えたんだから、結果的には良かったのかも。これって運命なの? うん、多分運命よね。むしろラッキー!?」

 早口でまくしたてる少女の前で、護と戒道は小声で語り合った。

「……なんでこの子だけ口を塞がれていたのか、わかった気がする」
「……そうだな、僕もだ」

 ふたりは知るよしもなかったが、そこにはたしかに運命的な何かが介在していたのかもしれない。アルエットという少女は十年ほど前、当時のGGGの協力者だったのだ。だが、それはちょうど護と戒道が地球を離れていた頃の出来事である。そのため、ふたりはそのことを知らなかった。

 その頃、ポルコートはガンシェパー、ガンホーク……二機のガンマシンとともに海辺で周辺警戒にあたっていた。

(おかしい……いくらこちらの隠密作戦が上手くいったとしても、ここまでバイオネットの反応が少ないというのは……)

 護と戒道による潜入作戦は、想定スケジュールより若干遅れている。なにか予想外の事情が起きているとしか、思えなかった。
 ──その時、ポルコートのイオンセンサーが"何か"を捉えた。正体のわからない何かが、前方を高速で駆け抜けていった。
 異常事態である。正体不明の物体が現れたことではない。ポルコートに正体を特定できなかったことが、異常なのだ。

(これはおそらく生命体の"臭い"だ。だが、バイオネットの獣人とも違う。似たような生物のデータが存在しない。僕が知らない生命体などというものが、この地球に存在するのか──?)

 だが、その"臭い"は一瞬のうちに、ポルコートが嗅ぎ分けられる範囲から、消失してしまっていた……。

(つづく)


著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ


次回11月30日(水)更新予定


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