【第04回】高橋良輔監督旅行記「飛行機雲に誘われて」

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飛行機雲に誘われて……その4『アラスカの2』

 いきなり、

「アラスカって言われたら何を思い浮かべる?」

 と質問されたらどうなります? 塩さん(塩山紀生)であればまず間違いなくジョン・ウエイン主演のハリウッド映画『アラスカ魂』と言うだろうなあ。あたしらだと満面の笑みで釣りあげたキングサーモンを抱く開高健である。一般的にはどうだろう、新田次郎原作で映画にもなった『アラスカ物語』のような気がする。小説冒頭のオーロラの描写は極北への憧れをそそるに十分だった。
 さてあたしらの友人でありガイドの河内牧栄はどうだったのだろう。アニメ時代にはアラスカの話などしなかったし、再会したらアラスカのど真ん中だったので改めてそんな話にはならなかったが…奴は、きっと星野道夫に違いない。星野道夫のアラスカをモチーフにした写真集は圧巻だからなあ、奴も写真をやるし、……運間違いない星野道夫だ。
 実はですねえ、あたしらも最初の一発は開高さんのキングサーモンなのですが、それはそれっきり、開高さんがアラスカをどう感じどう記述したかとんと思い出せない。オヒョウ釣りは北海だしイトウはモンゴルだしピラルクーに至ってはアマゾンだ。まああたしら釣りをやらないからなあ。それに比べて星野さんの写真集の数々著作の数々はあたしらのアラスカ感の全てと言っていい。
 星野道夫のアラスカの写真には極北の大地と動物、そしてそこに生きる人々の生活と神話の数々がかくあるだろうなあというイメージそのものに写し取られている。なんだか既視感があるのだ。いや既視感というのには語弊があるな。うーん、それは以前にこんな写真を見たことがあるというものではなく、見る者の記憶以前の深いところにある何かに重なってくるとでもいった感じだろうか。
 動物は何といってもカリブーの大群、そしてグリズリー、ムース、ドールシープ、シロフクロウ、ホッキョクギツネ、ザトウクジラ、ホッキョクジリス、ホッキョクグマ、ハクトウワシ、ジャコウウシ、オオカミ、ビーバー、アザラシ等々……どれも生命の純粋さを写して魅力的だ。私も7回のアラスカ旅行でそのほとんどを大自然の中に見ることができた。これは掛け値なしに幸せと言っていいだろう。

「アラスカっていうと冒険ってイメージだけど、危険はないの?」

 と聞かれるが、まあ、あるようなないような。最初のアラスカ旅行の時アンカレッジの宿で聞かされたのは、ほんの数日前早朝にジョギングに出た女性が狼に襲われた、という話だった。遺体は食い荒らされ身元を確定するにはDNA検査が必要だったとか。また現地の人が一番恐れるのは子連れのヘラジカでこれも怖い、怒らすと体がミンチになるほどに踏みつけられるとか、まあ体重700キロにもなる世界最大の鹿だからさもありなん。しかし我らが河内牧栄に言わせれば一番気を遣うのは何といっても『ダルトンハイウエイ』だという。彼曰く、

「世界最凶のハイウエイです!」

 フェアバンクスを出ておよそ140キロ、ライベングッドという所を起点にし、やがて北極圏(北緯66度33分)に入りブルックス山脈をこえて北極海にぶち当たるまでの全長660キロ7割未舗装の一本道がダルトンハイウエイである。すれ違う桁違いの大きさのトレーラートラックの爆走が迫力だが、そのトレーラーの巨大重輪が跳ね飛ばす大石小石がときに対向車のウインドウグラスを撃ち抜く。常時気をつけねばならないのが道路に穿たれた大小の穴だ、クレーターと呼んでいいような大きいのもある。これらにハマると頭をルーフに打ち付ける衝撃はむろん場合によってタイヤが裂ける。あと無数の落下物だ。中には得体のしれない金属片などがあり車腹のデフレンシャルをえぐり取ることさえある。また馬の背の道路はハンドル操作を誤てばそのまま十数メートルも落下してしまう。そんな車が所々これ見よがしに放置されている。効き目満点の警告標ということらしい。まあツーリスト全員の安全に責任を持つガイドの言葉としては分からぬではない。が……、

凶悪路ダルトンの入り口は意外にも乙女チック。でも騙されてはいけない。
あたしらが運命を共にするダルトンの箱舟はこんな感じのバン。キャメラを構えるのが好漢河内牧栄。
こんなトレーラーがビュンビュン行き交う。トラッカーはプロとしての誇りと高額所得を手にする。

 冒険というのが緊張感とのイチャツキということであれば、あたしらとしてはやはりアラスカはクマだ。グリズリーだ。アラスカの大地は別名『ベアーキングダム』という。次回はそこらあたりのことを。

 


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