【第08回】高橋良輔監督旅行記「飛行機雲に誘われて」

 ← 前一覧次 →


飛行機雲に誘われて……その8『キューバの2』

 キューバの続き、というよりかヘミングウエイの続きです。
 ヘミングウエイと言えばあるしゅ男性イメージの代表である。それが証拠に男性誌などは困ったときネタに窮したときよくヘミングウエイ特集を組む。知的で行動的であり、それらに裏付けられたファッション性もある。まあ言わば万能だ。

▲タイプライターで文章を打つというのに憧れた。だからポータブルのワープロができたときには飛びついたものだった。

 あたしらも惹かれるところはその知的で行動的、というよりはっきり言って暴力性だろうか。ボクシングやアメフトが異常に好きだったらしいし、結構腕自慢だったんだろうね。フィッシングやハンティングは玄人はだし、好んで戦争にも行ってるし、まあ芯から男の子であります。あたしらもその昔街なかではけっこうやる気満々派ではあったんですが、ちゃんとしたスポーツなどはかっらっきし、加えて虫一匹ヒネれない意気地なし、魚はおろかハンティングなどもってのほかである。でもわかるんですよ同じ男の子だから。
 男の子と言えば、女の子。こっち方面もヘミングウエイはうらやましいですな。ちゃんとした結婚が4回、あいまあいまに無数の美女、ある時など恋人が天下のマレーネ・デートリッヒですよ、ふんとにもう! しかし頭は当然悪くないのに結婚なんてものに(あたしら結婚否定派じゃありませんよ、人間の結構な知恵ですから)なんの理想を追ったんでしょうかね4回も。まあいろいろ事情はあったんでしょう。
 問題はやっぱり自殺ですね。自殺が悪いなんてあたしらもこれっぽちも思っていないのですが、知的マッチョの代表が61、2歳ではいサヨウナラですからやはりそこのところが気になります。まあお父上も孫娘も含めて近親者が4、5人自殺しておりますからそのような気質ではあったんでしょうが…ちらっと調べたところでもけっこう躁と鬱を繰り返すタイプだったようだし、若いころから戦争での負傷も含めて頻繁に肉体を痛めつけていて、晩年には飛行機事故にもあい肉体的衰弱に相当苦しめられていたのかもしれない。かてて加えて世界的ヒット作も生み出しピュリツアー賞もノーベル文学賞も貰ってしまいやることがなくなってしまったのかもしれないなあ。
 ところでこの小文は旅行記ということになっているので旅行で受けた、まあ心想うことを少しは書かないと、ということで、ヘミングウエイの自殺について珍説を強引に展開します。
 今回のキューバ旅行のテーマはヘミングウエイ観光ということで、ハバナのヘミングウエイにまつわる名所を回りました(この辺りは前回書きました)。その中でヘミングウエイが“誰がために鐘は鳴る”を執筆したのが“ホテル・アンボス・ムンドス”でその作品の印税で買ったのがハバナ郊外の豪邸“フィンカ・ビヒア”だということを知ったのですが、問題はここだ、とあたしらは睨んでいるのだ。フィンカ・ビヒアでの生活の一端は『海流の中の島々上・下』で何となく窺がうことができます。使用人に囲まれた何不自由ない優雅極まる生活が私には何とはなしに辛そうに思えた、いや辛いというか、彼の本来持っていた心の軽さを奪ったように思えたのだ。心が軽くないと体も重くなる。振り返ってホテル・アンボス・ムンドスでの時間はヘミングウエイの精神生活においてある種の安らぎを与えていたように思えるのである。ホテルの部屋は意外とも思える狭さだし、一台きりの小さなベッドからは簡素極まるわびしい一人暮らしが想像できるのだが、反面気軽く気安い自由が匂ってくるのである。このホテルはハバナ一番の繁華街オビスポ通りにあり、執筆に疲れたり無聊を覚えれば部屋を出てたったの5秒、あのクラシックなエレベーターでロビーに降りればよい。彼の歩幅なら十歩でオビスポ通りだ。さらに歩いて数分でフローズンダイキリの“フロリデータ”があり、おっつかっつの所にモヒートの“ラ・ボデギータ・デル・メディオ”が陽気な常連と一緒に待っているのだ。フィンカ・ビヒアとてハバナ中心街までそう遠くはない。ましてや忠実な運転手や車だってある。出る気になれば簡単なことなのだが、ここなのだ。その気になって支度して運転手に車の用意をさせて乗り込むまでのほんのちょっとしたことの心づかい気遣い、そんな間にアンボス・ムンドス暮らしならパパスペシャルをもうすでに一杯は飲み終えているだろう。さらに車を急がせても30分はかかる。
 乱暴限りない珍説を承知で言えば、ヘミングウエイの本来持つ気質から言ってアンボス・ムンドスを離れるべきではなかった。あそこを離れなければ心の問題のほとんどは解決はされなくても隠されたまま仕舞われたままで、あっという間に十年二十年…昔はエライ人だったんだよーなんて言われながらただの飲んだくれのマッチョジジイになりおおせていたように思われるのだが。いや今まさに飲んだくれのヘロヘロジジイの妄想です。

▲ホテル・アンボス・ムンドスの入り口、ピンクの外装が可愛い。

▲部屋番号501だから最上階の角部屋。窓からは海峡が見える。

▲大男だったヘミングウエイにしては小さいベッドだ。酔っぱらって落ちなかったんだろうか。

▲ラ・ボデギータ・デル・メディオのある通り。ヘミングウエイがモヒートはここだ! と絶賛したが自分はむろん砂糖抜き。

 


← 前 | 一覧 | 次 →


次回5月8日更新予定


関連トピックス


【第35回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲 ▶

◀ IPポリス つづきちゃん【第90回】


カテゴリ